ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
ゴリ押しによるゴリ押しです。そしてわけのわからない文に……
「ギャスパー、出てきてちょうだい。無理してイッセーに連れて行かせた私が悪かったわ」
ギャスパーの部屋の前で部長が謝っていた。
アザゼルの訪問があった次の日、順調に進むと思っていた俺にとっては予想外の出来事だった。
なんでも、イッセーの仕事についていった際に問題が起きたらしく、元の状態に戻ってしまったらしい。
部屋の中からはさっきから泣き声と、自分の力を嫌う想いだけが聞こえてくる。
「僕は……こんな神器いらないっ! だ、だって、皆停まっちゃうし、怖がる! 僕だって嫌だ! と、友達を、仲間を停めたくないよ……」
……ギャスパーは、小さい頃の俺みたいだ。
因子の制御ができなくて、周囲を滅茶苦茶に破壊して、両親も失ったときの俺みたいで……。自分の所為だって、塞ぎこんで、周りの奴らと関係を持たないようにしていた頃の俺と、よく似てる。
「どうすればいいのかしら……。自分の眷族が大変なときになにもしてあげられないなんて、『王』失格ね、私」
落ち込む部長。今回の一件、部長もギャスパーも悪くない。イッセーだって、してやれることをしようとした結果だ。悪いはずがない。だからこそ、
「部長。そうやって、大事にしてくれていることはちゃんと届いてますから。仲間の存在ってのはとても大きいものなんです。ただ、ギャスパーはまだ信じきれていないだけなんですよ、自分を」
ギャスパーはなんとかしてやらないといけない。
「カイト……。でも、私にはなにもしてあげれない」
「だからこそ、俺たちがいるんじゃないですか。俺には、なんとなくギャスパーのことがわかります。同じなんですよ、多分。だからこそ、俺に任せてください」
部長は嬉しそうに微笑み、俺に任せてくれた。
「ありがとう、カイト。ごめんなさい。それから、お願いね」
「はい、部長」
部長は名残惜しそうに心配そうにギャスパーの部屋を一瞥し、この場をあとにした。部長は部長で、今度行われる会談の準備で忙しいのだ。
さて、部長もいっちまったし、始めないとな。
とりあえずは話し合い――は無理だろうから、勝手に話すか。
俺はギャスパーの部屋の壁に体重を預け座り込む。
「なあ、少し話さないか? といっても、返事はしなくていい。俺が勝手に話すだけだ」
予想通り、部屋の中から返事はない。
「俺の中にはさ、バカみたいに強い力が宿ってるんだ。神器とは別にな。いまでこそしっかり制御できてるけど、小さい頃は大変だったんだぜ」
この話は、最近朱乃さんにもした気がする。
ギャスパーにも、届くだろうか?
「全く制御できなくて、勝手に力が集まってきて、発散して。それで周囲に被害が出て――両親も、そのとき俺が殺した……。俺もさ、そんときは流石に思ったよ。こんな力、いらないってさ。自分の力が嫌いで、憎くてしょうがなかった」
「じゃあ、なんでですか……? なんでいまは、そんな姿を見せないで、普通でいられるんですか?」
返事があったか。予想だともう少し話してからだと思ってたんだけど。
「俺の場合は、仲間の存在が大きかったんだと思う。いまはオカルト研究部のみんなといるけど、それまでは他に仲間がいたんだ。中学にあがる前に集まりだした集団なんだけどさ、同じような境遇にあった奴らばかりだったよ。そいつらと一緒に過ごして、喧嘩して、本気で殺しあって、仲直りして。俺はそうやって、本気で力を使っても気にしない奴らと過ごして、扱い方を覚えて、制御してきた。そんでもって、次第にそいつらの存在が大きなものになって、俺からいろんなものを奪った力であっても、仲間のために使えるなら、嬉しいことじゃないか、って思えるようになったんだよ」
「月夜野先輩は、強いですね」
「……。……強くなんか、ねぇよ」
そう、強くない。俺は……俺は強いわけじゃないんだよ。
「いま話した俺の仲間、いますぐには会えないし、生きてるかだって不明だ」
「え……?」
部屋の中から動揺したような声が聞こえてくる。
「守れなかったんだ。俺を狙ってきた敵がいてさ、あいつら揃いも揃って俺を逆に守りやがった……。圧倒的なまでに差があった敵を目の前にして、俺を守るために盾になったり、挑んでいったり……。あれ、辛いんだ。目の前で一人、また一人と倒れていって、でもその間際、俺を笑顔で見てくるんだ。最後の最後、俺を逃がしてくれた奴なんか「守れてよかった」って笑顔で言って来るんだぜ?」
そのとき見せた笑顔が浮かんでくる。
満足げに微笑む姿だ。そのあとすぐ、俺は逃がされ、そいつは闇に沈んでいった。
「よくねえんだよ……ッ! 俺は守りたかった。助けたかった。力を制御できて、強い力だって扱えたのに、なにひとつ守れなかった……。いまだに、そのときの夢をよく見る。襲撃されて、俺だけが逃がされて、何もできない俺を守るために次々血を流して消えてく仲間たち……。――もう二度と、そんな思いはしたくない。だから、逃げることをやめた。向き合って、力を高めて、そんで、取り返すために。なあギャスパー。おまえはいまの仲間――眷族のみんなのことは好きか?」
ギィ……。
ゆっくりと、扉が少しだけ開かれる。
「……はい」
遠慮がちに放たれた答え。
「でも、僕が一緒にいても迷惑がかかるだけです……。人見知りだし、引きこもりだし……神器は制御できないし……逆に時間を停めて怖がられるだけです」
「俺はそうは思ってないよ。第一、俺には効果なかったしな。だから、制御できるまでは俺がしっかり面倒見てやるって」
俺なら適任だろうよ。おまえが嫌う「停める」って行為ができないんだから。
誤って神器を使っても、気をつかうこともない。
それでも、ギャスパーが部屋から顔以外を出すことはない。まだ、ダメか?
「でも、僕がいてもみんなは――」
「手遅れになったとしてもか? この先、眷族のみんなは強い敵と戦うことだってあるだろ。そんな中、気づいたときには全員いなくなってました、じゃ嫌だろ?」
「それは……」
「みんなのこと、大事なんだろ? だったら、みんなと一緒に歩いてこうぜ? 俺は部長の眷族悪魔じゃないけど、おまえの面倒だって見るし、おまえが怖いと思ってるもの全部取り除いてやりたいと思ってる。だいじょうぶ。おまえが思ってるほど、仲間ってのは脆くない。部長に、みんなにおまえの力を貸してやってくれ。守られるだけじゃなく、守ってやれ、支えてやれ。――それは、あのとき俺ができなかったことだけど、おまえほど仲間を大事に思ってる奴ならきっと、できることだから」
仲間のために神器を、自分の力を嫌う程だ。そんな仲間想いのやつが、できないわけないさ。
部屋の中で迷っているギャスパーの様子がわかる。さっきから落ち着き無く動いている。
「本当に、そう思いますか? 僕なんかの力が、みんなのためになると……」
「思ってるさ」
即答してやった。こういうとき、間を空けるのはよくないことだろうしな。
「……僕がいて、迷惑じゃないですか……。時間を停めて、怖くないですかね……」
「ああ、そんなわけないだろ。みんな、おまえをことを考えてくれてたぞ。心配してくれてたぞ。だから、もういいだろう。怖がるな、信じろよ、自分自身を」
部屋の中で迷っていた様子が止む。
次第に開けられる扉の間隔は大きくなり、いま、完全に開いた。
「おはよう、ギャスパー。引きこもり生活からは起きたか?」
「……正直、まだ怖いです。でも、でも――カイト先輩と、みんなとなら何とか出来そうな気がしてきました! でも、カイト先輩……先輩の仲間はみんな……」
「気にすんな。まだ全部諦めたわけじゃないんだ。取り戻せる可能性だって、残ってる。仲間を守るために、助けるために向き合った力なんだからな。おまえだって、そのために出てきたんだろ?」
「はい。ぼ、僕にもできることがあるならと思って……」
まだ自信はなさそうだし、ビクビクしてるけど、これでやっと一歩踏み出せそうだな。
「じゃあ、お互いに仲間のために力を振るう訓練、頑張ってこうぜ!」
俺はギャスパーに笑顔を向ける。
「は、はい! ぼ、僕も頑張りますぅぅぅぅッ!」
いい感じじゃねぇか。
仲間の大切さを知って、少しでも自分も力になりたいと思ってくれたなら、俺の話も意味はあったのかな……。
部員のみんなは、あのときのように傷つけさせたりはしない。守ってみせる。
そうじゃないと、俺が壊れそうだ。今度はきっと、後悔しないように――。
その後、無事部屋から出てこれたギャスパーは、俺とイッセー、祐斗と共に談笑を続けた。
そのとき、落ち着くという理由から、ダンボール箱に入っていたギャスパーだったが、まあよく似合ってることで。ダンボールヴァンパイア。うん、なんかこのタイトルでアニメ作れそうだな。
まったく。ギャスパーはまだまだ手がかかりそうだ。
余談ですが、カイトの元々の仲間が一人か二人出てくる話がこの先(近々)あるかもしれません。