ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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5話

 次の日の放課後。

 俺たちは旧校舎一階の「開かずの教室」とされる教室の前にきていた。

 なんでも、ここにはグレモリー眷族の一人である『僧侶』がいるらしい。ライザーとのレーティングゲームのときに話しがあったかな。

 教室の扉は、『KEEP OUT!』のテープが幾重にも張られていて、呪術的な刻印も刻まれている。

 いまは部長がそれらを解除している最中だ。

「そこまで厳重にするほど、危険なんですか?」

「確かに能力は危険なのかもしれないけど、本人自体は危険とは程遠い人格よ。ただ、外に出るのを極端に嫌うのよ……」

 引き篭もり眷族か。

 扱いが大変そうだな、それは……。

「――さて、開けましょうか」

 話している間に刻印も消え去り、部長が扉を開く。

「イヤァァァァァァァァアアアアアアアアッ!」

 それと同時に、教室の中から悲鳴が聞こえてくる! 

 だが、部長も朱乃さんも、特に驚いた感じはなく、平然と中に入っていく。まさか、開けるといつもこうだとでもいうのか?

「ごきげんよう。元気そうで良かったわ」

「な、な、何事ですかぁぁぁぁ?」

「あらあら。封印がとけて、もうお外に出られるのです。さあ、私たちと一緒に出ましょう?」

 朱乃さんがいつも以上に優しい声音で話しかける。

 しかし、それは効果がなかったようで、

「いやですぅぅぅぅぅぅ! ここがいいですぅぅぅぅぅぅ! 外に行きたくない! 人に会いたくないぃぃぃぃっ!」

 ……これは重症だ。能力以前の前に、性格から改善していかないとどうにもならないんじゃないか。

「……カイト、入らないのか?」

 イッセーが入りたそうな、でも嫌そうな曖昧な表情で俺に聞いてくる。

「俺が入るより、まずは同じ眷族悪魔であるイッセーたちが入る方がいいかと思ってな。それで落ち着いてきたら俺も入るよ」

「そうか。わかったよ」

 イッセーは部屋の中に入っていった。

 そして、

「おおっ! 女の子! しかも外国の!」

 開口一番にそう叫んだ。

「素晴らしい! 『僧侶』は金髪尽くしってことですね!」

 おい、そんなに叫んだら中にいる引き篭もりはだいじょうぶなのか?

「落ち着きなさい、イッセー。この子は見た目女の子だけど、紛れもない男の子よ」

 ん? なんか話がおかしな方向へいってないかな。

「女装趣味があるのですよ」

 部長に続き、朱乃さんがそう補足する。どんな子なんだろう。

「えええええええええええええええっ!?」

 相当困惑したのだろう。イッセーがあまりの衝撃的な事実に悲鳴にも似た叫びを上げた。

「イッセー、あまりうるさくするなよ。怯えるだけだろ」

 このままでは落ち着く気配がないことがわかった俺は、仕方なく部屋に入りイッセーを止める。

 静かになり落ち着いてきたのか、引き篭もりの少女――少年が部長に訊く。

「と、と、ところで、この方たちは誰ですか?」

「あなたがここにいる間に増えた眷族よ。『兵士』のイッセー、『騎士』のゼノヴィア、あなたと同じ『僧侶』のアーシアに、悪魔側の協力者であるカイトよ」

「「「よろしく」」」

 俺たちは揃ってあいさつするが、引き篭もりくんは怖がるだけだった。やっぱり能力以前の問題だ。

「お願いだから、外に出ましょう?」

「嫌ですぅぅぅぅ! 僕が外に出たって迷惑をかけるだけだよぉぉぉぉっ!」

「そんなこといわずに、外出ようぜ。部長が出ろっていって――」

 イッセーが引き篭もりくんの手を掴んだときだった。

「ヒィィィィ!」

 引き篭もりくんの叫びと共に、イッセーの動きが完全に停止した。

「どういうことだ、これ?」

 イッセー以外にも、ゼノヴィアやアーシアも全く動かない。

「カイトはこの状況下でも動けるのね」

「部長! これ、どういうことですか?」

「えぇ!? な、なんで動けるんですかぁ! この人怖いですぅぅぅぅっ!」

 そういいつつ、イッセーから大分距離をとった引き篭もりくんが俺を見ながら怯えている。

 発言からして元凶は引き篭もりくんかな。

 そしてこの状況で動けるのは俺と部長と引き篭もりくんだけと見ていいわけだ。

 神器の中に、時間を止めるものもあったが、この子もその類か? 

「部長、この子は――」

「ええ。この後、イッセーたちにも説明するから、そのときにしましょう」

 

 

「あれ? いま……」

「……なにかされたのは確かだね」

 イッセーやゼノヴィアは驚いていたが、祐斗たちは当然知っているのだろう。ため息はついたものの、特に反応はなかった。

「怒らないで! 怒らないで! ぶたないでくださぁぁぁぁいッ!」

 ……かなり過剰に反応するんだな。

 これは、トラウマ持ちか? それとも、自分の力に怯えてるタイプなのか。

「その子は興奮すると、視界に映したすべての物体の時間を一定の間停止することができる神器を持っているのです」

 やっぱりそうか。朱乃さんの説明で確信した。

「ただ、彼は神器を制御できないために、ここに封じられていたのです」

「この子はギャスパー・ヴラディ。私の眷族『僧侶』。いちおう、駒王学園の一年生なの。――そして、転生前は人間と吸血鬼のハーフよ」

 この子の神器は、『停止世界の邪眼』だ――。

 

 

 

 その後、引き篭もりくん――ギャスパーの話を聞いていたが、神器の制御の方は結構問題になっているらしい。

 だが、本人が極度の引き篭もりの所為か精神的な問題もあり、制御なんてとてもではないが無理だろう。

 まあ、その教育を頼まれたのが俺とイッセーなわけだが。

 部長……。俺はそういった問題をなんでも解消できるわけじゃないんですよ? イッセーなら根性とかでどうにかしそうですけどね。

「ほら走れ。デイウォーカーなら日中でも走れるだろう」

「ヒィィィィッ! デュランダル振り回しながら追いかけてこないでくださいぃぃぃぃぃッ!」

「……ギャーくん、ならニンニクを食べればだいじょうぶ。追いかけられても捕まらないくらい元気になる」

「いやぁぁぁぁん! 小猫ちゃんが僕をいじめるぅぅぅ!」

 いまはゼノヴィアや小猫にも協力してもらっているが、なぜだろう。

 いじめられているようにしか見えない!

 ゼノヴィアも本気ではないだろうが、一応振り回しているのは聖剣だ。ギャスパーにもしものことがないよう、すぐに介入できるだけの準備はしつつ見守る。

 後ろでは、少し離れた位置でギャスパーを見にきた匙とイッセーが楽しそうに話している。

 ってあれ? なんか匙がガックリしてるぞ。あの顔は……。真実を知った目をしてるな。

 そうか、おまえもイッセーと同じ夢を見たんだな。ギャスパーは男だ。

 

 

 俺たちが訓練を続ける中、近づいてくる気配がひとつ。

「へぇ。こんなところで悪魔さんたちはお遊戯してんのかい」

 声のした方へ視線を向けると、浴衣を着た男性が立っていた。おいおい、大物がこんなさらっと来ていいのかよ。

「アザゼル……ッ!」

「よー、赤龍帝。あの夜以来だな」

 イッセーが逸早く反応する。

 そう。いま俺たちの前にいるのは堕天使側のトップ、アザゼルだ。

 話は何度か聞いたことがあるが、見るのは初めてだな。

 そいつの登場に、この場の全員が構えをとる。イッセーと匙も神器を出現させる。

「やる気はねぇよ。ほら、構えを解きな。そこの人間の方がよくわかってるぜ。おまえたち下級悪魔くんたちが束になっても俺に勝てないのはなんとなくわかるだろう? まあ、コカビエルを倒したっていう人間ならどうか知らねぇけどな。それより、聖魔剣使いはいるか? ちょっと興味があったんだが」

 全員構えを解くことない中、イッセーが答える。

「木場ならいないさ! 木場を狙っているならそうはさせない!」

「まったく……。おまえじゃまだ相手にならねぇっての。まあいないならいい。替わりに――」

 アザゼルはイッセーを脅威に感じている風もなく、俺へと視線を向ける。

「コカビエルを倒した人間と少し話しをしていこうか」

 どうやら、標的を俺に変えたらしい。

「……少しくらいなら、付き合ってやるよ」

「カイト!?」

「だいじょうぶだ、イッセー。全部話すってわけでもないんだ。それで、なんの話だ?」

「おまえさん、神器持ちだろ? 人間がコカビエルを倒すってことは、神滅具保持者か?」

 なにを楽しそうに笑ってるんだ、総督さまは。

「そんな物騒なものは隣のイッセー以外持ってねぇよ。俺のは普通に神器として認識――認識すらされてないな……」

「なに!? 認識されていない神器か! そいつはいい! ちょっと見せてくれ!」

「嫌に決まってるだろ? なんで悪魔側にいる俺が堕天使側の総督さまに情報提供しないといけないんだ?」

「おいおい、そういうことをいうもんじゃねえぞ? それに俺は神器に対して研究したいだけなんだよ」

 研究かよ……。そんな奴にエストとレスティアをとか冗談じゃねぇ。

「今度の会談でいい結果が出たら考えてやるよ。考えてやるだけだけど」

「本当か! よし、期待してろよ」

 いい顔して俺に親指を立ててくる総督さま。

 なんだ、こいつは……。思ってたよりフレンドリーに感じる!

「ああ、それとな。そこで隠れてるヴァンパイア、『停止世界の邪眼』の持ち主なんだろ? 使いこなせないなら、てっとり早いのは赤龍帝の血を飲むことだ。それが神器の上達には一番だ」

 赤龍帝の血か。そんなんで上手くいくのか……。無茶苦茶な奴だな、赤龍帝。というか便利アイテムか。

「それでもダメそうなら、そこの悪魔くんの『黒い龍脈』をヴァンパイアに接続して神器の余分なパワーを吸い取ってやれよ。それで発動すれば暴走も減るだろう」

「……お、俺の神器はそんなこともできたのか?」

 それを聞き、アザゼルは呆れた様子。

「ったく、これだから最近の神器所持者は。自分の力をろくに知りもしないで振りかざす。そいつは五大龍王の一匹、『黒邪の龍王』ヴリトラの力を宿してる。まあ、これは最近の研究でわかったことなんだが。まあそれよりも、俺ははやくそこの人間の神器を拝みたいけどな」

 俺に執着するなよ。

 あんまり関わりたいとは思えないが、いろいろ情報提供はあったしな……。

「名前だけ教えといてやるよ。俺が持つ神器はふたつ……だと思う。ひとつは『真実を貫く剣』。もうひとつは『魔王殺しの聖剣』だ」

「聞いたことねぇな。まだまだ知らない神器があるってわけだ! おい、おまえさん名前はなんていうんだ?」

「カイトだ」

「そうか、カイト。近々ある会談のときは、今度はその神器を見せてもらうぜ!」

「結果次第で考えるっていったろ?」

「ハハハッ、そうだったな。ならやっぱり任せておけ。新しい神器のためだ。少しくらいは頑張ってやるさ」

 そう言い残し、アザゼルはこの場から立ち去っていった。

 結局、多少の情報は流しちまったな。そのぶんあいつからいい情報は貰ったけど。

 始終悪意は感じなかったし、ただ神器への興味が異常なだけで、敵ではないのかもしれないな。

 

「さって、とりあえず訓練再会しようか。突然の邪魔は入ったけど、情報も手に入ったことだ。試してみようぜ」

 アザゼルが消え、緊張のとけたみんなに指示を出しながら、匙にも協力してもらい訓練を再開する。

 イッセーの血は飲まなかったが、匙に力を吸収されながら訓練は続き、夜になるまで続いた。

 これなら、また極度の引き篭もりに戻らなければ上手くいくだろ。

 思ったより順調に進むかもな。

 

  




さて、今回から出てきた引きこもりヴァンパイアをカイトはどう扱っていくんだろうか。
そして原作も新刊が発売されましたね。
私は速攻で買いにいきましたよ(学校終わり次第)。皆さんはどうだったんでしょうか。

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