ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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3話

 授業参観日当日。授業が始まり、親御さんたちがうしろの扉から入ってくる。

 内容は英語。いつも以上に気合の入った男性教諭が袋に包まれた長方形の物体を前列の生徒に配っていく。

「なあイッセー。いつもあんなもん配ってたか?」

「いや、こういうのはなかったよな。で、中身は――紙粘土?」

 席の近いイッセーと小声で話している最中、回されてきた包みを開いたイッセーがそう呟いた。

 見れば、俺に配られた物体も、イッセーと同じものだった。

 なにさせる気だよ。

「いいですかー、いま渡した紙粘土で好きなものを作ってみてください。動物でもいい。人でもいい。架空の存在でもいい。いま自分が脳に描いたありのままの表現を形作ってください。そういう英会話もある」

「「ねぇよッ!」」

 俺とイッセーが同時に否定する。意味がわからないから、先生! 普通に英会話をしろよ!

「レッツトライ!」

 そこだけ英語にするな! 紙粘土ってもう美術だろ!? 意味ないよ!

 と、謎の英会話が始まったとき。遅れてきた親御さんがいたらしく、話声が外から漏れてくる。

「母上、母上! 急がないともう始まってます! 早くしてくだされ」

「そう急かすな。少し前に会ったばかりなのだから。それに、あいつは逃げたりせんから」

 幼い声と、大人びた声。親子で来てる人も中にはいるのかな?

「ほら、この教室だろうて。入って見てくるといい」

「母上も一緒に入らないのですか?」

「……わかったのじゃ」

 クラスに入ってくる影が二つ。

 俺は紙粘土に集中しているので、姿を見る気はないが、クラスメイトは遅れてきた親御さんに意識が集中しているようだ。

「あの子かわいー」

「金髪の親子だぁ。お母さんも綺麗!」

「ハアハア、ロリっ子! 金髪ロリ!」

「誰の親御さんかな? あんな妹もいるなんて」

「金髪ならアーシアさんだろ!」

「顔つきが全然違うだろ! っていうか、金髪でアーシアさんじゃないっていったらうちのクラスにはいないんじゃないか!」

 みんなして興奮してんな。それより英会話の授業をしようよ。英会話……の。

「おいカイト! 凄い美人とかわいい子が来てるぞ! 金髪親子! 誰の母さんかな?」

 イッセー、おまえもか……ああ、いや、そうだよね。女好きのイッセーはクラスの連中がかわいいやら綺麗やら言ってたら反応しちゃうよね。

「カイト!? なんだよその生暖かい目は!」

「悪い、ついな。イッセーはイッセーだと思ったらつい」

「わかんねぇけどバカにされたのはわかった」

「気のせいだ」

「それよりも見ろって! ほら!」

 俺は半ば強引に後ろを向かせられる。

 俺の視界に飛び込んできたのは―― 

「母上、母上! カイトが九重を見てくれました!」

「そうじゃの。やっと振り返りおって」

 八坂と九重だった。起用に狐耳と尻尾は隠しているが、見間違えではない。

 ライザーとの一件以来の再会だ。

「え? カイトの母さんか?」

「……俺の両親はもういないさ。あれは知り合いだ」

「そ、そうか……。でもあんな知り合いいたんだな。後で紹介を――」

「断る。九重が汚染されたら八坂も困るしな」

「汚染ってなんだよ汚染って!」

 そんなの決まってるだろ、イッセーはそんなことくらい自分が一番よくわかってるはずだ。

「まさかカイトくんの!」

「クソッ! なんなんだよ月夜野の野郎! 俺だってあんな妹が欲しいってのに!」

 いや、妹じゃねぇよ……みたいではあるけどさ。

「カイトくんの妹なら納得だわ。凄くかわいいもの!」

「そうよね、お母様も綺麗だし。納得した!」

 なんかクラス中で俺の家族だといことが決定されている模様。母さんでも妹でもないんだが。

 ああ、もう否定しても無理そうだ……。

「月夜野くん……」

 先生が俺の横までくる。

「すいません、うるさくして」

「いや、そうじゃないんだ。なんだかあの子が凄くキミのところにきたそうだから、こさせてあげてもいいかなって思うんだよ」

 なにを言ってるんだい先生。いまは英語の時間だよ。

 英語でオッケーだよ。

「ほら、そこのキミ。えっと――」

「九重じゃ!」

「そうかそうか。じゃあ九重ちゃんはお兄ちゃんの隣で授業を受けるといい」

 勝手に話は進んでいく。誰かこの英語教師を止めてくれ!

 これだと俺がロリから始まってコンで終わる奴みたいだと判断されるかもしれないだろ!

「というわけじゃカイト。膝に座ってても邪魔ではないか?」

「……ああ、邪魔じゃないから大人しくしててくれよ」

「うむ!」

 否定なんかできなかったよ。したら泣きそうだし、それは俺の望むところじゃない。

 俺はこの一時間、満足げな笑顔を浮かべる九重と、それを見守る八坂が居る中で過ごすしかないんだな……。

「それで、カイトはなにを作っておるのじゃ?」

「龍だよ」

「……少女に見えるのじゃが」

「……。……気にするなよ、九重」

 その後も授業は続き、俺は九重と始終話しながら作業を続けた。途中、イッセーが作った部長の像が凄い反響を呼び、クラスでオークションが始まるくらいには賑やかで楽しい一時間になった。

 でも、ここから始まる英会話はやはり存在しなかったのは、言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み。教室から場所を移し、人気のない旧校舎裏まで俺は来ていた。

 横には八坂と九重がいる。

「で、なんで今日授業参観だって知ってたんだよ」

 俺は八坂に、一番聞きたかったことを尋ねた。

「いやな、『黒い猫』という差出人から文が届いたのじゃ。そこに今日のことが書かれていてな。『私たちは行ってあげられないから、是非ともよろしくにゃ』とのことだから来たわけだ。まあ、来た価値はあったというものじゃな」

「価値?」

 八坂に釣られるように視線を動かす。

 ああ、そういうことか。

 眼前では、楽しそうな九重の笑顔。確かに、親としてはこの顔を見れて満足なんだろうな。

「九重も楽しそうでよかったが、カイトの顔も見れてよかった。いまの仲間もいるみたいじゃしの」

「気づいてたのか?」

「悪魔が多いから、直ぐに気づくのじゃ。ここにカイトの仲間がいるということくらいは」

「そうか。まあ、なら俺からいうこともないか」

 八坂は九重と手を握る。

「そうじゃな。カイトもこの調子なら心配いるまい? そろそろ帰るとしよう」

「カイト! 夏は来る約束じゃぞ! 忘れたら怒るからの!」

 名残惜しそうに手を振りながら、二人が離れていく。

「わかってる! また近いうちにそっちに行くからな!」

「うむ!」

 それからすぐ、二人の姿は見えなくなった。

 全く……。もともと授業参観なんて誰も来る予定なかったんだぞ。

 それなのに……ありがとな、八坂、九重。

 

 

 

 それにしても、『私たちは行ってあげられないから』って、あいつ今日来る気だったのか? 「ら」? ……いや、まさかな。だってあいつが家から出るのなんて蛇を――

「おい! 向こうで魔女っ子の撮影会をしてるらしいぞ!」

「なに!? それならば急ごうではないか! いざ突撃!!」

 近くでそんな大声が聞こえる。

 魔女っ子? なんで参観日にそんな撮影会があるんだよ。

 まさか、親御さんじゃないだろうな? いや、まさかな……。

 ……いってみるか。

 

 


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