ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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3話

 頭が痛い。

 なんでこんなところで人の姿になるのだろうか、俺の神器達は……。

 頼むから今すぐ戻ってきてくれないだろうか? くれないだろうな、うん。

「か、カイト? 彼女達は何者かしら?」

「……すいません。俺の神器達です」

 リアス先輩たちは首を傾げ、頭の上に『?』と形を作る。

 ですよね、そりゃ意味不明だよ!

 仕方なく説明に入るが、これがまたややこしい。

「えっと、俺の神器は少し異質なんですよ。中に精霊が封印――というか、彼女らが神器というか。ああ、神器が擬人化したと思ってくれれば結構です」

 本当は擬人化とかでは無いのだが。

 いや、案外合っているような気もしなくはない。

「久しぶりにこうして会えたわね、カイト」

 闇色の髪の少女は、俺の左腕に自分の左腕を絡めるようにして抱きついてくる。

「か、カイトに変な事をしないでください」

 それに対抗するかのように、右腕には銀髪の少女が抱きついてきては、反対側の少女を睨む。

 俺を挟んで睨みあうとか、ここは修羅場か……。

 いや、そうじゃない。いま優先するべき事は、この二人の説明だよな。

 リアス先輩たちは全員こっち見てるし。

「二人とも、言いたいことがあるなら後で言い合ってくれ。まずは紹介からだろ」

 睨み合う二人が、こうして勝手な行動を取ったのも、元々はそれが目的だったはずだ。

「えっと、左側に居る闇色の髪の娘が、レスティアです。で、右側の娘がエストです」

「二人とも、どうやって出てきたの?」

 木場が質問してくるのだが、肝心の少女たちは彼の話など聞いておらず、互いに視線をぶつけあっては何事かを小声で呟きあっていた。

 ここも残念ながら、俺が受け持った。

「俺の力を一時的に喰らって、人型を保ってるんだ。おかげさまで二人が人型になるときはこっちの消耗が一気に増える」

 両手を軽く挙げ、二人に降参というポーズを取る。そう、これ以上の消耗を避けるためだ。

 結果は、完全に無視されたけど。

「というわけで、私は隣の精霊さんとは存在が違うわ」

「私も、隣の人とは全く違った存在です。そもそも存在の在り方が真逆です」

 俺と木場が話しこんでいる内に、いつの間にか二人の目的は達成したようで。

 リアス先輩たち女性陣は二人の違いを把握したみたいだ。

「二人とも、目的達成したんなら戻ってきてくれないか? 消耗の具合が……」

「もう少しだけ、少しだけだから」

 レスティアは嬉しそうに俺の近くで立っている。

 もちろん、俺の腕を抱いているのだが。

「エストはどうだ? 戻ったりとか――」

「まだしたくありません。せめて、そちらの闇精霊が戻ってからにしてください」

 え? これっていつまで続くの? 俺、無駄に体力消費したくない……。

「可愛い神器ですわね。見ていて微笑ましいです」

「朱乃先輩、本当にそう見えますか? 俺としては、人前でなるべくこっちの姿を見せて欲しくないんですけどね」

「あらあら。独占欲が強いんですわね」

「なっ――!? そういう理由じゃありませんよ!」

 否定するも、フフフ、と笑われてあしらわれる。

「……朱乃先輩、嬉しそうですね」

「そう見えましたか? それと、私の事は朱乃でいいですよ」

 なんだろう。この距離感を詰められてく感じは。

 流石悪魔。やり手だ……。

「――じゃあ、朱乃さんって呼ばせてもらいます」

 完全には抗えないとは情けない!

 でも黒髪ポニーテールなんですよ! 可愛いんです!

 今度うちのにもやってもらおう!

 小さいけどきっと似合うだろうなぁ。

 とりあえず、頭の中に黒髪ポニーテールと記憶した。さて、いまやるべき事というと?

「あなたより私の方が」

「いいえ、私です」

 この二人の対処ですね。知ってた。

「二人とも大事な相棒なんだから、喧嘩しないうちに帰ってくれ。頼むから」

 二人の頭を軽く撫で、リラックスさせる。

 このままヒートアップしてくと、この部室ごと壊しかねない。そうしたら、今後リアス先輩に頭が上がらなくなる。

 できれば、それは避けたい。

「カイトの神器のこと、異質だってことはよくわかったわ」

「でしょうね。俺も最初は困惑したもんです」

「いまじゃ慣れてるものね」

 俺の様子を眺めながら苦笑するリアス先輩。だが――。

「リアス先輩もすぐに慣れますよ。この状況、よくあるものですから」

 5、6年前からよく見てきたものだ。

「そう……。あまり慣れたいとは思わないのだけれど。それと、部活中は私の事は部長と呼びなさい」

「わかりました、部長」

 ん? 両手から、さらさらとした髪の感触が薄くなっていく。

 見ると、二人の精霊はいつしか姿を消していた。

「帰ってきたか」

(ええ。撫でられすぎたわ……)

(ふぁ……。まだ感覚が残っています)

 そうかよ。

「さて、今日はそろそろ終わりにしましょうか」

 部長がそう言う。

「俺も、明日からここに顔を見せればいいんですか?」

「ええ。少しの間は、裕斗と一緒に来ればいいんじゃないかしら」

 部長に言われた木場は、女子生徒が見たら黄色い歓声をあげそうな笑顔を見せ、

「わかりました。それじゃあよろしく、月夜野くん」

 快く承諾してくれた。

 割りといい奴なんだな。一誠から言わせれば、男の敵だとか言いそうではあるけれど。いや、実際言ってたかもな。

 でも、案外話してみると、印象変わる相手っているよな。

 そう思うと、意識するより早く、口は動いていた。

「名前、呼び辛いだろ。カイトでいい」

「……! うん、わかったよ。じゃあ改めて。よろしく、カイトくん」

「ああ。よろしく頼むよ――裕斗」

 だからかな。俺も、木場の事は裕斗と呼ぶ事にした。

(珍しいわね。あなたが他人を名前で呼ぶなんて)

 いいだろ。なんとなくだよ、なんとなく。

(それにしては笑ってるわね。嬉しそう)

 そうか? 自分からは確認できないからなぁ。

 笑ってたのか、俺。

「じゃあ、今日は俺失礼しますね。また明日来させて貰います」

「ええ。また明日、待ってるわ」

 部長に続き、他のみんなも各々声をかけてくれた。

 俺も二年生にして部活動に入ったか。

 まあ、大分変わった集団に属する事にはなったけど……楽しそうだからいいか。

 

 

「ただいまぁ……」

 家につくと、一気に眠気が襲ってきた。

 忘れていたが、俺は今日眠くて仕方の無い一日を送っていたんだった。

「おかえりにゃん」

 そこに疲れる元凶である黒歌が顔を出した。

 疲れてなければ弄り倒してやりたい。

「あいつはどうしてた?」

「部屋で寝てるにゃー」

「そうか……。じゃあ寝顔だけでも見てくるか」

 待てよ? もう寝てる? 確かにオカ研のせいで帰るのは大分遅くなったけど。

「黒歌、夕飯は誰が作っていったんだ?」

「ルフェイが作っていったにゃん」

「あいつも来てたのか。有難いけど、家の主人が居ないのに勝手に入るなよ。しかも、もう居ないとか……」

 セキュリティ強化しても簡単に入って来るし。

 今後きたときはどうしてくれよう。

 入った瞬間に爆発するようにでも改築するか? いや、そんな事したら一時間後くらいには家が無くなるだけか……。

 諦めよう。人間、諦めが肝心だ。

 もっとも、半分人間の俺は諦めも半ばまでだが。

「カイトもよく私達犯罪組織を家に入れる気になるわね」

 そうだな。確かにコイツは犯罪組織の一員だ。

 でも、俺にとっては――。

「関係ないよ。お前らがどこの組織に属していようとな。俺は組織の一員を家に入れてるわけじゃない。ただの知り合いを入れてるだけだから」

「カイトはこういう時、本当に不器用」

「なにが?」

 俺が不器用とか何を言ってるんだ。

 舌で絵を描くことくらいなら簡単にできるぞ。

「気にしなくていいにゃ。いまのはカイトなりの優しさだってわかってるから」

 最後の方は、よく聞こえなかった。小声でなにか言っていた気がするんだが。

 いや、いいか。聞き直すのは面倒だ。

 それよりも早く行かないと。

「ん? カイト、どこ行くにゃ? ご飯食べながらお話しないのかにゃー」

「俺の事待ってたのかよ。悪かったな、すぐ来るよ」

 俺は家の奥の部屋へと向かう。

「ああ、まずは寝顔を堪能するのが先ってこと?」

「もちろん。帰ってきたらあいさつもしてやらないと」

「大変にゃー」

「そうでもないさ。あいつのこと、大事だからさ。なあ――オーフィス」

 俺は、家の同居人の少女――オーフィスへとあいさつに向かった。

 暗く、明かりのない廊下。闇よりなお深い暗がりへと。

 今夜も、こうして更けていく。


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