ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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停止教室のヴァンパイア
1話


「冗談じゃないわ」

 部室に入るなり、部長がお怒りになっていた。

 なんでも、堕天使の総督であるアザゼルが、もうすぐ行われる会談前にイッセーに接触してきたらしい。

「私のかわいいイッセーに手を出そうだなんて、万死に値するわ! アザゼルは神器に強い興味があると聞くし、きっとブーステッド・ギアが目当てね……。でもだいじょうぶよ、イッセー。私が絶対に守ってあげるわ」

 部長はイッセーのこととなるとなんだか過保護というか、空回りしそうというか……。自分の眷族を大切にしたいんだろうけど、王の役目的にはそれでいいんだろうか?

「……やっぱ、俺の神器を狙っているのかな」

「確かにアザゼルは神器に造詣が深いと聞くね。そして有能な神器所有者を集めているとも聞く。そういう点では、カイトくんも危ないかもしれないね」

 祐斗がイッセーへ答え、俺にも忠告してくる。

「俺の神器……いや、存在自体あまり各勢力に知られていないけどな。ほら、みんな俺のことを始めはただの人間としてしか見ないだろ?」

「……そういえばそうだね。かなり強力な神器だと思うんだけど」

「だから、多分俺の方は安心さ」

 祐斗はひとつ頷くと、イッセーへと視線を向ける。

「だいじょうぶだよ、イッセーくん。僕がキミを守るからね」

「いや、あの、う、うれしいけどさ……。なんていうか、真顔でそんなこと男に言われると反応に困るぞ……」

「真顔で言うに決まってるじゃないか。キミは僕を助けてくれた。僕の大事な仲間だ。それに、問題ないよ。『禁手』となった僕の神器とイッセーくんのブーステッド・ギアが合わさればどんな危機でも乗り越えられるような気がするんだ。……ふふ、少し前まではこんなこと言うタイプではなかったんだけどね。けど、この感じは嫌じゃないんだ……。なぜか、胸のあたりが熱いんだ」

「……キ、キモいぞ、おまえ……。ち、近寄るな! ふ、触れるな! カイト! た、助けてくれ!」

 おう、俺もいまの祐斗はちょっとキモいと思うよイッセー。でもな――

「おまえも近寄ってくるな! いまの祐斗が一緒に来るのは御免だ! 一人で対処しろ!」

 俺だって、関わりたくないんだ……。

「イッセーくん……。そんなことを言われると、僕……」

「イッセェェェェッ!! いますぐ祐斗を捨ててこぉぉぉぉい!!」

「無理だ! あんな木場に近寄れるわけないだろうがァァァァッ!!」

 俺たちは(なんで俺も?)背筋が冷え込むような恐怖を覚え、絶叫した。

 あんな祐斗を見せられてはたまったものじゃないぞ……。禁手になった祐斗、確かに世界を崩壊させてるな……本人の。

「しかし、どうしたものかしら……。あちらの動きがわからない以上、下手に接することもできないわね」

「アザゼルは昔から、ああいう男だよ、リアス」

 突然、部員以外の声が聞こえる。

 そこには、紅髪の男性がにこやかに微笑んでいた。

 この人なら俺も知ってるぞ。って、あれ? なんか俺とイッセー、アーシア、ゼノヴィア以外のみんなはその場で跪いている。 

「おや、そこにいるのはカイトくんかな。久しぶりだね」

「やあ、魔王さま。いや、サーゼクスさんでいいのかな? 俺は悪魔側の協力者だからね」

「それでかまわないよ。ああ、みんなもくつろいでくれ。今日はプライベートで来ている」

 手をあげ、朱乃さんたちにかしこまらなくていいと促す。

「お兄さま、ど、どうして、ここへ?」

 怪訝そうに部長が訊く。そりゃそうだよな。魔王が来てるんだ、不思議に思って当然か。

 そこで、サーゼクスさんは一枚のプリント用紙を見せてくる。

 あれは確か、数日前に配られた――

「授業参観が近いのだろう? 私も参加しようと思ってね。ぜひとも妹が勉学に励む姿を間近で見たいものだ」

 ――そう、授業参観のお知らせプリントだ。

 というか、魔王なのにそういう行事に興味あるんだ? 

 俺のところはどうだったかな……悪乗りして黒歌が来ないことを祈るばかりだ。そういえば、最近来る回数が減ったな。なにやってるんだか。

「グレイフィアね? お兄さまに伝えたのは」

 横では、部長がサーゼクスさんに付き添っていた銀髪の女性に詰め寄っていた。

「はい。学園からの報告は私のもとへ届きますから。むろん、サーゼクスさまの『女王』として主への報告も致しました」

「お兄さまは魔王なのですから、いち悪魔を特別視されてはいけません!」

 部長はやけに否定的だな。授業参観ってそんなに嫌なものなのか? 

「いやいや、これは仕事でもあるんだよ」

 部長の指摘に、サーゼクスさんは全く動じずそう告げた。

「実は三すくみの会談をこの学園で執り行おうと思っていてね。会場の下見に来たんだよ」

「――っ! ここで? 本当に?」

 部長も驚いてるな。

 俺としては、ここであまり面倒なことは起こさないで欲しいんだが。コカビエルから町を救ったってのに、三組織が会談でやり始めたりなんかしたら簡単に消し飛ぶからな……。

「ああ。この学園とはどうやら縁があるようだ。私の妹であるおまえ、伝説の赤龍帝、聖魔剣使い、聖剣デュランダル使い、セラフォルーの妹、それに魔王と聖女の因子を持つカイトくん。多くの力が入り混じり、うねりとなっているのだろう」

 その後、少しの間世間話が続いた。

 ちなみに、魔王さまは今日はイッセーの家に泊まるようだ。

 部長は歓迎していないどころか、俺の家を勧めようとしていたので、丁重にお断りした。魔王を呼んだら大問題となる事実がいくつか発覚するからね、絶対。

 

 

 

 

 

 翌日、俺は二度寝を返上して学校に足を運んでいた。

 なんでも、オカルト研究部は生徒会からプールの掃除を頼まれていたらしい。

 掃除が終わったら一番最初に使っていいという条件らしく、みんなで一生懸命頑張った。

 俺はそんなことより家でゆっくり寝ていたかったというのが本音だけどさ。

 

「それにしても、思ったよりはやく終わってよかったよな」

「そうだな。これで部長たちの水着姿が長く堪能できる!」

「いや、そういう意味で言ったんじゃないけどさ……」

 俺たちは着替えを終え、さっそく洗い終わり水を張ったプールへと来ていた。

 目も覚めたし、プールに入るのもいいと思えてきている。

 お、部長たちもきたかな。

「ほら、イッセー。私の水着、どうかしら?」

 ブッ!

 勢いよく鼻血を飛び散らせながら荒い息を漏らすイッセー。いや、落ち着けよ。

「あらあら。部長ったら、張り切ってますわ。ところでカイトくん、私のほうはどうですか?」

「よく似合ってますよ。まあ、少しばかり肌色成分多めですけどね」

 黒歌に比べれば全然マシですけど。

「うふふ、それは仕方ないですわ」

「イッセーさん、わ、私も着替えてきました」

 振り向くと、そこにはアーシアと小猫も着替えを終えていた。

「アーシア、かわいいぞ! お兄さんは感動だ!」

 イッセーは涙を流し感動に浸っていた。保護者は大変ですね。

 小猫はイッセーを警戒しているみたいだけど。

 と、部長はそんな小猫の肩に手を置き、ニッコリ微笑みイッセーに言った。

「それでね、イッセー。悪いのだけれど」

「はい?」

 

 

 

 

 

「いやーそれにしても小猫が泳げないとは。やっぱ猫って水は苦手なんですかね」

「どうでしょうね。ああ、でもアーシアちゃんが泳げないというのは似合っていますね」

「それはよくわかります。雰囲気とピッタリですし」

 などと俺と朱乃さんは水に浸かりながらイッセーたちを眺めていた。

 部長からの話の後、泳げない小猫、アーシアのために、イッセーが泳ぎを教えているというわけだ。

「こうしてると、平和ですね」

「そうですわね。ああ、そういえば」

 朱乃さんがなにかを思い出したように手を叩いた。何事ですか?

「コカビエルとの一件で、生きて帰ったらという約束があったでしょう? いま、どうですか?」

 記憶を漁ると、確かにそんなことを言われた気がする。

「いや、でもあれは確か特にどうするとか決めてなかったですよね?」

「考えておくと言いましたわ。ですから、私の体でも堪能しますか?」

「……いえ、それはちょっと……」

「カイトくんも、こういうことだと弄りがいがありますわ」

 ……!? ここでそんな発言がくるか!

 俺、弄られて遊ばれてたのか……。まあ、朱乃さん楽しそうだしいいか。

 でも、俺は俺で話したいことがあるんだよ。

「朱乃さん。少し、昔の話をしていいですか?」

「はい?」

「俺、いまは普通に暮らしてますけど、昔――小学生の頃は、周りに誰もいなかったんですよ。神器のこともあったんですけど、宿ってる因子の制御ができなくて、周辺一帯を滅茶苦茶にしたことがあったんです。そのときに、両親も亡くなりました。それに、友達って呼べる存在も居なかったんですよね。ただ、持ってしまった力なら仕方ないと思って、向き合うことを覚えてからは、変わりましたよ。いままで大嫌いだった力も大事に思えてきて――レスティアとエストにも会えて。中学に上がる少し前には、似た境遇の奴らと仲間にもなって、一緒に過ごして。その存在がとても大きなものになって、そのころには、仲間がいれば自分の力のことは気にならなくなったんです。俺からいろんなものを奪った力であっても、仲間のために使えるなら、嬉しいことじゃないですか」

 大分長い話になってしまった。でも、その間朱乃さんは静かに聞いてくれていた。

 先日のコカビエルの一件で、朱乃さんは激昂したときがあったからな。原因も、なんとなくわかっている。俺の言葉は、弱っちいかもしれないけど、少しでも力になるのだとしたら。

「カイトくんは、優しいんですね。でも、私はまだ、決心がつきませんわ」

 朱乃さんの心は、揺れている、のか? 

「はい。急がなくて、いいんだと思います。俺も、何年もかけて、答えを出したわけですから」

「ふふ、なんだか見抜かれちゃってるみたいですね」

「すいません、部外者が口出して」

「いえ、おかげで少し、救われた気分ですわ。カイトくんが自分のことを話してくれたの、初めてな気もしますし」

 そういい、水中で俺に密着してくる。

「ちょ、なんですか!? さっきのは俺を弄るためであって――」

「私も……自分の力にはもうじき、決着をつけようと思ってるの。でも、一人では怖い。だから、そのときは一緒にいてくれますか?」

 俺の耳元で囁かれる声には、不安が入り混じっている。

 そうだ、俺もそうだった。本当に力を使うときは、例外なく恐怖が、嫌悪感が、怒りが。いろんな負の感情に押しつぶされそうだった。

「――一緒にいますよ。仲間っていうのは、支えるために、寄り添うために。だいじょうぶです。そのときは必ず、俺が側にいます」

 朱乃さんの声に、いつもの明るさが戻った。

 彼女の一言には、数瞬前の不安が感じられなかったから。

 もう満足したのか、朱乃さんは部長の方へ向かっていってしまった。

 にしても、

「ありがとう、か……」

 まさか朱乃さんから言われることになるとはな。

 




次回はTSヴァーリさん登場予定? 
予定は未定。

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