ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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13話

「今代の赤龍帝はハーレムがお望みか。なら俺と来るか? 行く先々で女を見繕ってやる。好きなだけ抱けばいい。ハーレム王なんざすぐになれるぞ」

 俺とイッセーが構えをとったところに、コカビエルがそんな甘言を放つ。なにをバカなことを。仲間を守ろうとする意志が強いイッセーがおまえの提案するハーレムに興味など示すものか!

「イッセー。いくぞ! ふざけたことぬかしたあいつを潰すぞ!」

「……お、おう! コカビエル! 俺がそんな甘い言葉で騙される……ものかよ!」

 おい! いま二回不可解な間があったよな!? っていうか涎! 

「イッセー! もう! 涎を拭きなさい! あなたどうしてこんなときまで!」

 部長が激怒していた。当然だ。俺もつい破ノ型をイッセーに使うところだった……。

「す、すいません。どうにもハーレムって言葉に弱くて……」

「そんなに女の子がいいなら、この場から生きて帰ったら私がいろいろしてあげるわよ!」

「マジですか!? じゃ、じゃあ、おっぱいを吸ったり!」

「ええ! それで勝てるなら安いものだわ!」

 瞬間、ブーステッド・ギアの宝玉がかつてないほど強力な輝きを放った!

「ふふふ、吸う。吸える。吸えるんだ! よっしゃぁぁぁぁぁぁああああ! 部長の乳首を吸うため、やられてもらうぜコカビエルゥゥゥゥ!」

 ドライグ……こんなんで力が増していっておまえは満足なのか……。後方では小猫や祐斗が溜息をつくのが聞こえた気がした。

 俺、イッセーが禁手するときもこんな感じになるんじゃないかと思えてきたよ…………。

「イッセー、もういいか? 始めようぜ……」

「おう! いまの俺なら神でも殴り飛ばせるぜ!」

 もうその神もいねぇよ……。

「どうしたカイト。疲れきった顔してるぜ?」

「おまえのおかげでな」

「…………ごめんなさい」

 自分の言動を思いだしてか、謝罪された。

「ふふふ、そんなことで力が格段に増すならカイトくんも生きて帰れたら私のを吸いますか?」

「やめて! 俺まで巻き込まないで朱乃さん!」

 朱乃さんはこんなときまで笑顔をつくり、俺に言ってくる。

 誰かあの人を止めてくれ!

「あらあら、つれませんわ……。なら今度別のことをしましょうか」

「いいですから! するならもっと平和的なことでお願いします!」

「考えておきますね」

 ハア、ハア……。なんで戦ってないのにこんなに疲れるんだ。

「……おい、そろそろいいか?」

 コカビエルも戸惑いの表情を隠せていない。

「ああ、もういいぜ。その、悪いな……」

「……気にするな。今代の赤龍帝がどんな奴かよくわかった」

「あんな奴で悪い」

「おまえら敵同士なのになんで俺の話で意気投合しかけてるんだよ!!」

 俺とコカビエルのイッセー話が続こうとしたところ、当の本人に邪魔される。

「さあ、じゃあ真面目に始めるぜ」

 俺は改めて構えをとる。

「ハハハハハッ! いくぞ人間! そして赤龍帝!」

 コカビエルは何本もの光の槍を創りだし、一斉に俺たちに向けて放ってくる。

「なっ!? いきなりかよ!」

 あれ全部防ぐ余裕も技量も、イッセーにはないよな。

「イッセー、俺の後ろにいろ! 前には立つな!」

 白銀の剣を地面に突き刺し、<真実を貫く剣>のみを握る。

「――死を呼ぶ閃光(ヴォーパル・ブラスト)!」

 闇色の魔剣から放たれる無数の黒い雷撃。

 それらがすべての光の剣にぶつかり、校庭を幾重もの光が飛び交っては消滅する。

「なるほど、この程度は防ぐか。なら、これはどう――」

「魂すらも焼き尽くす黒き雷よ――闇魔閃雷(ヘル・ブラスト)!」

 その間にコカビエルに接近していた俺は、正面から剣技を放つ。

「リアス・グレモリーの一撃を忘れたか? その程度、手を出すまでもない!」

 俺は魔剣の切っ先から漆黒の雷球を放つ。

 コカビエルは俺の一撃を黒い翼で防ごうとするが――

「ガアァァァァッ!?」

 その翼がいとも簡単に消滅する。

「く、くそッ!」

 コカビエルに雷球が当たる間際、それを残りの翼を羽ばたかせ回避する。

「お、おお俺の翼をよくも! よくも人間ごときがァッ!」

 相手の力量を測れないわけでもないだろうに。舐めきってるからそうなるんだ。闇魔閃雷は中級程度の堕天使なら触れた瞬間に消滅させるぞ。

「羽一対で済んでよかったな。でも――」

 すぐさまコカビエルの背後に回り込む。

「――これで終わりじゃねえぞ?」

「はっ――」

 背後にいる俺の気配を悟り、振り向きざまに光の剣を振るってくる。

 俺は飛べないからな。ここで避けたら落ちるだろ? その剣、有効活用させてもらうぜ。

「絶剣技、三ノ型――影月演舞!」

 振られた剣の上に片足を乗せ、そこを軸に回転斬りを放つ。

「ぐっ……」

 全身から血が滲み始めるコカビエル。

「まだだ! 絶剣技、初ノ型――紫電!」

 この一撃は、翼に阻まれるが関係ない! 

「おまえを地に落とすには十分だ!」

 威力までは相殺できず、コカビエルを校庭に叩きつける。

「ガハッ、アア、くそガァァァァッ! 人間如きにここまでのダメージを与えられるとは思っていなかったぞ!」

「コカビエル、そこ、危ないぞ?」

「俺のこと、忘れてもらっちゃ困るんだよぉ!」

 イッセーの左手がコカビエルの顔面を捉える。

「オラァ!」

 そのまま数メートル殴り飛ばす。

 結構時間経ったからな。それにふざけたパワーアップもあったことだし、いい感じに倍増されてるみたいだな。

「グフッ、サーゼクスの前に摘み食いする程度のつもりだったが、ここまでとは……。面白い! 実に面白いぞ!」

「なんにも、面白くなんかないよ、コカビエル。イッセー、終わりにしようぜ」

 俺は刺してあった<魔王殺しの聖剣>も右手に握る。

「わかった。でも、どうするんだ?」

「あいつがかわせないように隙を作ってやるから、その間に魔力の一撃をぶつけてやれ」

「まかせろ!」

 イッセーが左手に魔力の小さな塊を作り出す。

「俺はもう一度、戦争を始めるんだよ! だからこそ、おまえらの首を――」

「もう、それは実現されねぇよ。魔雷の剣嵐(アーク・ブラスト)!」

 闇色の魔剣を天に掲げる。

 同時に、無数の稲妻が天から降り注ぎコカビエルへと襲いかかる。

「くっ! だがこの程度、防げないことはない!」

 残った全ての翼を駆使し、その場で稲妻をいなし続ける。

「イッセー、いまだ!」

「おう! いっけぇぇぇぇ!」

 籠手によって高められた膨大な魔力の一撃が前方に放たれる。

 ドォォォォンッ!

 大きな衝撃がコカビエルを巻き込み周囲に広がる。

「お、おいカイト!? 突っ込むのかよ!」

 イッセーが制止しようとするが、俺はかまわず駆ける。

 その先には――

「まだだァァァァッ! あの程度で俺を倒せるか! 俺は、俺は堕天使が最強だと示すんだ! 俺の野望を」

 血を撒き散らしながら立ち上がる堕天使の姿があった。

「おまえの野望はここで終わりだ。俺の仲間に手出すからこうなるんだぜ?」

 一日に三回目の使用。もうさっきから体が悲鳴を上げっぱなしで思い通りに動いてくれない。

 でも、これで終わりだから。あと少しだけ、付き合ってくれ!

「おのれぇぇぇぇッ!! 人間如きに俺が――」

「絶剣技、破ノ型――烈華螺旋剣舞・十八連!」

 縦横無尽に奔る斬閃が、夜の校庭にひらめいた。

 

 

 

 俺の全力の一撃をもって、コカビエルを沈めた。

 イッセーとの共闘だったが、わりとうまくいったんじゃないか? 俺の攻撃が多すぎる気もしなくもないが。そんなことを思っていると、

「――ふふ、あなた面白いね。人間なのに、まるで悪魔みたいな力だし、それに聖なる力も感じる」

 空から突然響いた声。俺の知ってる奴の声じゃない。

 見上げると、白い全身鎧に身を包んだ奴がいた。

 まさか、白い龍……。

「あたしの宿敵くんと戦うのも楽しみにしてるけど、あなたとも一度戦いたいなぁ。でも――」

 一度俺とイッセーに視線を向けるが、すぐに外し、姿を眩ませる。

「いまはこっちの回収が先。あーあ、あたしが倒すつもりでいたのに、コカビエル倒れちゃってる……ざんねんー」

 再び声が聞こえたときには、コカビエルとフリードを腕に抱えていた。声から察するに女だな。

 にしてもはやいな。

「おまえ、その鎧……」

「あれ、わかる? あたし、白龍皇だよ」

 途端、イッセーに緊張が走るのがわかった。

 ここにいる全員が認識したことだろう、彼女がアルビオン、白い龍を宿した神器『白龍皇の光翼』の使い手だと。しかも、すでに禁手状態か……。

 いまイッセーと戦わせるわけにはいかないが、俺ももう戦う体力は残ってないぞ……。

「アハハ、宿敵くん、大丈夫だよ? 今日はあたし戦う気はないから。回収が目的だからね。それに、キミたちとは戦いたいけど、宿敵くんはまだ全然弱いし、キミはもうボロボロで疲れきってるし。やるなら今度万全な状態で相手してほしいかな」

 そう言い、光の翼を展開して空へ飛び立とうとする。

『無視か、白いの』

 だが、それを止める声が辺りに響く。発生源はイッセーの籠手か。埋め込まれた宝玉が光っている。

『起きていたのか、赤いの』

 それに呼応するように、白龍皇の鎧の宝玉も光りだす。

 これはニ天龍の会話ってことか。

『せっかく出会ったのにこの状況ではな』

『いいさ、いずれ戦う運命だ。こういうこともある』

『しかし白いの。以前のような敵意が伝わってこないが?』

『赤いの、そちらこそ敵意が段違いに低いじゃないか』

『互いに、戦い以外の興味ができたということだろう』

『そういうことだ。こちらは独自に楽しむとするさ。たまには悪くないと思えてくるからな。また会おう、ドライグ』

『それもまた一興か。じゃあな、アルビオン』

 別れを告げた両者だが、イッセーだけが納得できなそうに前へ出る。

「おい! おまえ何者なんだよ! てか、おまえのせいで俺は部長のお乳が吸えないんだぞ!」

「うわぁ……戦ってた動機最低だー。あ、でもでも、それで多少でも力上がるならアリかな?」

 若干引き気味ではあるが、理解を示そうとしてくれる白龍皇。あれ、こいついい奴なんじゃないのか? イッセーを理解しようとするなんて! 

「おい、話を聞けっての!」

「あーごめんごめん。でも、全部を知りたいならもっと強くなってね、宿敵くん。それと、キミの名前、教えてくれる?」

 俺に視線を向けてくる。

「……月夜野カイトだ」

「そっか、カイトね。覚えたよ、カイト。あなたもいずれ、楽しい楽しい戦いをしましょう」

 そして白龍皇は白い閃光になって飛び去っていった。


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