ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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12話

「おまえの負けだ、緋夥多」

 俺の眼前には、全身から夥しい量の血を流す緋夥多の姿がある。だが一向に倒れる気配は無い。

「ハハハ……。まさか、こんな結果になるとは。でもねカイトくん、私はこの程度で死にはしない。またマンラ・マンユさまのもとに戻り、闇を授けて貰えば……」

「させると思ってるのか? おまえはここで潰すに決まってるだろ?」

「……それはすまない。もう、遅い」

「なっ……!?」

 緋夥多の姿が霞んでいく。

「このッ!」

 右手に握る<魔王殺しの聖剣>を振るうが、その直前、完全に姿が消える。

「今回ばかりは私の負けを認めよう。でも次は――」

 声だけが、辺りに響く。

「この<レーヴァテイン>で叩斬ってあげるよ」

 その言葉を最後に、緋夥多の気配が完全に消失する。

「……。……逃がしたか……」

(仕方ないわね。また次の機会もありそうだから、そのときを待ちましょう)

 ……そうだな。

 取り逃がしたことを残念に思う俺とは裏腹に、イッセーが嬉しそうに近寄ってくる。

「カイト、やったじゃねぇか! これであとはコカビエルだけだぜ!」

 そういえば、いまはコカビエルを止めるために戦ってたんだっけな……。

 いまの仲間まで失うわけにはいかないか。

 悪いな、みんな……。俺は、いまの仲間を守るよ。だから、そっちに集中する!

 緋夥多のことは一度頭の隅に追いやり、コカビエルを睨む。

「……緋夥多が倒される、か。逃げた者などどうでもいい。それよりもおもしろい、おもしろいぞ人間! 貴様も俺の闘争のいい余興になる!」

 協力者が倒されたくらいじゃ、揺るがないのな。そうだろうとは思ってたけどさ。

「イッセー。いまの俺は、正直体が限界でな……。いつもみたいに力を出すのはちょっとキツい。おまえらグレモリー眷族の力、当てにしてるぜ」

 二度の烈華螺旋剣舞、そして天双絶閃衝。万全に力を振るえれば、コカビエルならどうにかなると思ってたんだが……緋夥多のおかげで大分参っちまってるな。

「おう、任せとけ! 俺たちだって、あの野郎を倒すためにここまで来たんだぜ?」

「じゃあ、頼むわ」

 この状況がどれだけ危ういか知っているのかいないのか。それでもイッセーは笑顔でそう言ってくれた。

 まあ、俺も無茶してでもコカビエル倒そうとするけどさ。

 どっかに都合よく体力回復アイテムでも落ちてればいいのに。

(そんなところで奇跡を当てにしないでください)

 エストに叱られてしまう。

 ああ、わかってるさ。奇跡だけに頼ってたら、なんにもできなくなっちまう。

「さあ、降りて来いよコカビエル! おまえのいう余興に付き合ってやる!」

「ハハハハ! いいだろう」

 コカビエルは哄笑を上げ、地に足をつける。

 全身にオーラをまとい、ついに俺たちの前に立った。

「普通に相手をしてもつまらん。――限界まで赤龍帝の力を上げて、誰かに譲渡しろ」

 自信に満ちた一言に、部長が激昂する。

「私たちにチャンスを与えるとでもいうの!? ふざけないで!」

「ふざけないで? ハハッ、ふざけているのはおまえたちのほうだ。例え緋夥多を倒せたとしても、俺を倒せると思っているのか?」

「……イッセー。神器は?」

「大丈夫です。譲渡、できます」

 待つまでもなく、イッセーの力は溜まっていた。俺の戦闘中も溜めてたか?

「ほう、すでにいけるのか。で、誰に譲渡する?」

 興味津々にコカビエルが訊いてくる。

 俺が一撃で沈められるなら、俺が欲しいところだ。でも、いまの体じゃもう烈華螺旋剣舞を使うのも厳しい。俺じゃ無い方がいいだろう。

 そう分析していると、部長がコカビエルに手を向ける。

「イッセー!」

「はい!」

 部長の呼びかけに応えたイッセーが譲渡を始める。

 互いに手を握り合う。

 どんどん部長の魔力が上がっていく。向けられた手の先には強大な力が生まれていく。

「フハハハハハ! いいぞ! もう少しで魔王クラスの魔力だぞ、リアス・グレモリー! その魔力の塊、受けるのが楽しみだ!」

 心底嬉しそうに笑っていた。狂喜を感じるよ。あいつ、俺たちとの戦いを本当に余興としてしか見てないな。

「なら、その身で受けなさい! 消し飛べェェェェェェッッ!」

 部長の手から、最大級の魔力の塊が滅びの力を帯びて撃ちだされる!

「おもしろい! おもしろいぞ、魔王の妹! サーゼクスの妹!」

 コカビエルは両手を突き出し、その一撃を受け止める。

「ぬぅぅぅううううううううんッッ!」

 両手から血が噴きだしているが、それ以外目だったダメージが見られない……。そのまま、魔力は縮小していく。もうじき、消えるな……。

 あの一撃でこの程度のダメージ。――これは激戦になるな。

「雷よ!」

 朱乃さんが部長に続くようにコカビエルに天雷を向ける。

 しかし、雷はコカビエルの黒き翼の羽ばたきで儚く消失する。

「俺の邪魔をするか、バラキエルの娘!」

「私をあの者と一緒にするなッ!」

 朱乃さんは雷を連発するが、すべて翼に薙ぎ払われる。

 バラキエル――堕天使の幹部の一人だ。朱乃さんはその堕天使の――。

 思考が過ぎったとき、とうとうそのときがやってきた。部長の一撃が、完全に消滅した。

 だが、そこで連携が終わるわけじゃない!

 俺の左右を駆け抜けていく二人がいた。

 祐斗とゼノヴィアだ。

「デュランダルと聖魔剣か! 折れた聖剣よりよさそうだ! だがしかぁぁぁしッ!」

 先に突っ込んだゼノヴィアの一太刀は、コカビエルが創りだした光の剣で防がれる。

 その隙をつき、祐斗も聖魔剣で斬りかかるが、もう片方の手にも光の剣が創りだされ、二人の剣をさばいていく。

「そこ!」

 コカビエルの後方から、小猫が拳を打ち込もうとする。

「甘い!」

 黒い翼が刃物と化し、小猫の体を斬り刻む。

「やべぇ! イッセー、アーシア! 小猫を頼むぞ!」

 小猫がやられたことに一瞬意識が向いた祐斗に、コカビエルの光の剣が振り下ろされる。

「させるかよ! 絶剣技、初ノ型――<紫電>!」

 稲妻のごとき高速の突きをコカビエルに向けて放つ。

「なに!?」

 とっさに祐斗に向けられた剣で初の型を防ぐ。

 バキィィィンッ!

 防いだ光の剣が砕け散る。

 その間に祐斗は一度コカビエルと距離を取る。

「俺のこと、忘れんなよ」

「……そうだったな。緋夥多を倒した人間、貴様もいたな。いいぞ、もっとこい!」

 コカビエルが俺の存在を再認識する。

「祐斗、行くぞ!」

「ああ! ――聖魔剣よ」

 コカビエルの周囲に聖魔剣を出現し包囲する。

「これで囲ったつもりか?」

 黒い翼が振られ、全ての聖魔剣が砕かれる。

「こんなものか」

「いや、まだ私がいるだろう?」

 その隙に回りこんでいたゼノヴィアがデュランダルで斬りかかる。

 だが、それは簡単に受け止められた。

「まだ力が足りんなぁ。弱い! 弱すぎる!」

 そのまま振り回され、投げ飛ばされる。

「ぐっ……ああッ!」

 地面に叩きつけられ苦悶の表情を見せるゼノヴィア。

「しかし、仕えるべき主を亡くしてまで、おまえたちはよく戦うものだな」

「……なに? なんの話だ?」

 ゼノヴィアは怪訝そうに訊く。

「フハハ、ハハハハハハハハハ! そうだったな! おまえたちが知らないのも当然か。教えてやるよ。先の戦争で四大魔王だけじゃなく、神も死んだのさ」

「神が死んだ? ウソだ……」

「本当だ。悪魔は魔王と上級悪魔の大半を。天使は神を。堕天使は幹部以外のほとんどを、それぞれ失った。だからな、もう大きな戦争は故意にでも起こさない限り、再び起きない。それだけ、どこの勢力も衰退してるってわけさ。でもな、俺は耐え難いんだよ! あのまま戦争が続けば俺たち堕天使が勝てたかもしれないんだぞ! それをアザゼルの野郎、『二度目の戦争はない』と宣言しやがった!」

 この戦闘狂が……ッ! 

 いまの発言でゼノヴィアは項垂れ、アーシアはその場で崩れ落ちた。

 部長も朱乃さんも、小猫も戦えるだけの体力は残ってそうにないな。祐斗も、大分動きが落ちてるように見える。俺がやるか……。

「だから俺が戦争を始める! おまえたちの首を土産に! 俺だけでもあの続きをしてやる! 我ら堕天使が最強だとサーゼクスにも、ミカエルにも見せ付けてやる!」

 俺の仲間を殺そうってか? また、俺の目の前で仲間を奪うつもりか?

 感情が、怒りで支配されるのがわかる。でも、思考は冷静にコカビエルの対処を練っている。

「ふざけるなよ。おまえなんかに、俺の仲間は殺させない」

「ハハハ、人間ごときが一人で俺に勝てると思っているのか?」

「一人なわけねぇだろ!」

 後ろから、声が聞こえる。

「ふざけんなよ! おまえの勝手な言い分で俺の町を、俺の仲間を、部長を、アーシアを消されてたまるかッッ!」

 イッセーが俺の横まで歩いてくる。

「ほお、緋夥多を倒すほどの人間と赤龍帝が相手か。いいだろう!」

 コカビエルの表情が愉快だと言わんばかりに歪む。

「ってみたいだ、イッセー。足引っ張るんじゃねぇぞ」

「当たり前だ! 俺はハーレム王になるんだぜ? あいつに俺の計画の邪魔はさせない!」

「……」

 イッセーの動機は不純だったが、仲間を守る気があれば十分だ。

「さあ、コカビエル。こっからが勝負だぜ!」

 




次かその次くらいにTSヴァーリの登場予定です。戦闘狂なのは変わらないとして性格をどうするかが悩みどころですかね。

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