ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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いままで11話で一章を終えてきたけど、今回は終わりませんでした。まだコカビエルさん残ってるってのに!


11話

 緋夥多の眼前まで迫っていた俺の視界は、一面闇に染まった。

 突然の事だったが、緋夥多が「夜天黒奏儀」と言っていたから、彼の剣技なのだろう。

「まさか闇の中に閉じ込められるなんてな……。にしてもここは居心地悪いな。なんか居るだけで死に近づいていっているような……」

 そういえば、前に師匠の剣舞の中になかったか、この剣技……。オーフィスによって明確に過去のことを思い出せるようになっていた俺は、細部にまで気を配る。

 もう何年も前のことだ。師匠が一度だけ使ったことのある剣技……。闇へと誘うもの、黒炎、確かあれは――。そして俺は、欲しかった一部分を見つける。

 夜天黒奏儀。闇の中へ対象を連れ込み、死へと誘う暗技。

 いま思い出せるのはここまでか。細部まで思い出せれば、見たことのあるものなら理解できそうだな。

 にしても、長く留まれば、当然待っているのは死だよな。

「まずはここを出て、緋夥多を潰さないと」

 握る<魔王殺しの聖剣>は闇にこそ最大の効果を発揮する。

「よし、いくか」

 狙うは闇。この空間の破壊。

「絶剣技、破ノ型――烈華螺旋剣舞・十三連!」

 俺の放った怒涛の斬撃は、凄まじい威力を誇った。

 しかし、

「う、おおおおおッ!!」

 最後の一撃――十三撃目が空間へと消えていく。

「……クソッ、どうなってるんだ?」

 ただでさえ一度目の使用で身体へ負担がかかっていたのに、ここに来ての二度目の使用。

 身体はすでに悲鳴を上げている。

 おまけに、闇の空間にいるせいか、息も荒い。

 明確に、死への距離が縮まって来ている。

「斬撃が、呑まれたってことか……。ハッ、ここに来てこの展開は流石にどうしようもないな。空間を砕けないとなると……」

 自分の身体はすでに限界。

 残り僅かな生かされている時間。

 状況を打破するためには、ピースが足りていない。

「一個人にだけ都合のいい奇跡は起きない。もうずっと、そんなことはわかってるんだよな」

 もしそんなものがあるのなら、あの日、俺の仲間は誰一人として殺されなかっただろう。あの日から、奇跡なんてものは起きていない。いや、起きる奇跡などありはしない……。

「あら、私はあると思ってるわよ? 奇跡っていうのは、都合のいいものだもの」

 一人だった空間に、俺以外の声が響く。

 ――レスティアだ。

「出てきたのか? まあ、これが最後かもしれないし、いいか」

「もう諦めムードなの。私も、聖剣さんも諦めてないわよ?」

 レスティアは鋭い視線を放ってくる。その目が「私たちが諦めてないのになんであなたは死ぬ気でいるの」と語っている。

 それは心強いことだが、この空間は俺の破の型でも破ることはできない。

「ここを突破できないのなら、終わったようなものだ」

「それではダメです、カイト」

 さらにもう一人、俺に話しかける少女がいた。それはもちろん、エストだ。

「ここで終わってはダメです。そうしたら、二度と彼らの笑顔を取り戻すことは不可能になります」

「それに、アンラ・マンユへの手掛かりである相手に倒されていいの? このまま殺されずにかの邪神さまに届けられるかもしれないのよ?」

 二人は揃って、いまの俺を否定する。

 ……俺だって、わかっていないわけじゃない。アンラ・マンユと繋がっている緋夥多から情報を掴みたいし、このままあいつに負けるのも癪だ。

「でも、本当にまだあいつらは生きているのか? あの日闇に呑まれた俺の仲間は――」

「大丈夫です。彼らはあの日、絶望した顔をして呑まれていきましたか?」

 エストの言葉に、俺の記憶が再生される。

 アンラ・マンユに襲撃されたとき、俺の仲間は全員、揃いも揃って笑顔を向けてきたっけ……。オーフィスのおかげで、あの日以来蓋をしていた記憶が、どんどん呼び覚まされていく。

 闇に呑まれても、死んだわけじゃない。あいつらは本当に、いまも生きているだろうか?

「カイト、一つ教えてあげる。緋夥多が持っていたあの剣。あれ、闇の所為で大分形が変わっていたけど、<レーヴァテイン>だったわ」

 そして、レスティアの一言で俺は諦められなくなった。

 <レーヴァテイン>は、俺の仲間が持っていたはずの剣――神器だ。常軌を逸脱した精霊が宿っていて、俺たちも扱っている奴が暴走しないかヒヤヒヤしたものだ。

 その剣が、目の前にあったってことだろう?

「それって、奪ったってことだよな」

「神器だけ抜き取られたんでしょうね。でも緋夥多って、ところどころアンラ・マンユに従いきれてない言動があったでしょう? あれ、<レーヴァテイン>に侵されてるんだと思うわ」

「なるほど……。やっぱ、あの暴れん坊を扱うあいつじゃないとな……」

 赤く長髪の少女の姿が浮かんでは消えていった。本当の、<レーヴァテイン>の使い手――。

「まずは、取り戻すところから始めないと……」

「カイト、だんだん表情がよくなってきましたね。これなら大丈夫そうです」

 エストは嬉しそうに右手を握ってくる。

「抜け駆け禁止よ、聖剣さん」

「されるそちらの魔剣さんが悪いんです」

 レスティアもなにを張り合っているのか、俺の左手を握る。

 なにしたいんだ、おまえら……。

「それで、俺も諦められなくなったところで、どうやってここを抜け出すかなんだが……」

「なら、もう一つ。この空間は空間であって空間じゃない。これはあくまで剣技。これがここを抜け出すヒント。いまのカイトなら、記憶を探ればわかるはずよ」

「空間であって剣技、か。――そういうことか!」

 いつだ? いつの記憶なんだ? 頭の中を多くの笑顔が、光景が過ぎる。多くの時間を共にした仲間たちの顔が次々に浮かぶ。なのに、目的の記憶が見つからない。

「カイト……」

「カイト、必ずあるはずよ。あなたはずっと、絶剣技を見てきたはずなのだから。一度の経験であっても、呼び起こせれば、きっと――」

 二人の握る手に、力が籠もる。

 わかってる。必ず、見つける。

 

 その途中、奇妙なことが起きた。俺の記憶の中に、仲間全員で撮ったであろう写真が飛び込んでくる。

 いつ撮ったのか、細部まで思い出してみてもなんの情報も得られない。オーフィスの力で探してるんだぞ!? それなのにか……。なんなんだよ、これ……

 記憶に集中していた俺の視界は、突如として暗闇に戻される。

「カイト、あったの――って、これはなに?」

「写真でしょうか?」

 二人が嬉しそうに表情を変えたのも束の間。すぐさま困惑した表情になる。

 俺も、困惑している。

 さっきまで記憶にあった写真が実体を持って目の前に存在している。

「これ、あの頃のみんなの集合写真じゃない。でも、こんなの撮ってた?」

「……いや、撮ってない。それに、おかしいんだよ。この写真、記憶でも見たんだけど、なんの情報もないんだ。まるで、突然そこに割り込んできたみたいな」

 俺の言葉が終わらないうちに、写真は光を放ち形を変えていく。

 それはやがて球体に変わり、青白い輝きを放つ。

「これ、神器です」

 エストがそう漏らす。

「もしかして、カイトの三つ目の神器?」

 レスティアの言葉のすぐ後、俺は見つけたかった記憶が直ぐに浮かんでくるのが感覚的にわかった。

「わかったぞ、終の型! レスティア、エスト! いくぞ!」

「――わかったわ。いきましょう、聖剣さん」

「……はい。私はカイトの剣。あなたの望むままに」

 二人の姿が消え始め、代わりに俺の両手には柄の感触が生まれる。

「おまえは、どうするんだ?」

 俺の記憶に割り込んできたと思われる神器に声をかける。意識があると思えない球体は一周辺りを回り、やがて俺の前で止まったかと思うと、そのまま俺の中に入ってしまう。

「って、ええ!? 出たと思ったらなんなんだ、この神器……どんな存在なのかもわからないまままた消えちまった……」

(大丈夫、カイトの中に居るみたいだから、また必ず出てくるはずよ)

(そのときにゆっくり確認しましょう。それよりいまは――)

「ああ、ここを抜け出す!」

 気づくと、闇はだんだん圧縮されていき、この空間を押し潰そうとしている。

 急がないとな。 

 二振りの刀を手に、記憶の中から一つの剣技を呼び覚ます。

 記憶を探っても中々見つからなかったこの記憶は、一度だけ俺自身に剣技を食らわせ覚えさせようとした失敗の記憶だ。俺は取得できなかったし、使い手はこのとき以来、会えてない。

 だから、このときのことを鮮明に思い出せない限り、習得できなかった剣技なんだ。

 オーフィスはこのために、俺の記憶を細部まで蘇らせたのか? でも、あいつがそこまで気を回したりするだろうか? この話は、今回の一件が終わったらゆっくり訊けばいいか。時間は、たくさんあるんだし。

 いまは、ここを抜けよう。

 

 この空間は言わば、攻撃力を持った空間だ。

 そしてこれは剣技による、技なのだ。

 記憶から何度も光景を再生し、剣技を自分のものにしていく。

 そう、この感じだ。このまま、このまま――ッ!

「絶剣技、終ノ型――<天絶閃衝>!」

 攻撃の威力を相殺し、カウンターとして叩き込む絶剣の奥義。

 閃光のような剣尖が、闇を消し去った。

 バキィィィィィン!

 消し去った闇の先には、狂ったように笑っていた緋夥多が目に入った。

 突然の事に、よほど驚いているようだ。

 それでもなんとか剣を構えたのは、流石と言うところか。

 今回ばかりは、レスティアとエスト、オーフィス。そして俺の仲間たち。こいつらがいなかったら。記憶がなかったら。本当に諦めていたと思う。でも、みんなは居てくれた。俺の側で、支えてくれた!

「最後の最後に、俺の仲間が助けてくれたよ。おかげで、お前を討つ最高のチャンスが手に入った!!」

 敵はすぐ目の前。いける!

「炎刑技――煉獄華閃!!」

 緋夥多はありったけの力を込める。

 最大級の炎を纏った一撃。体は限界。

 しくじれば、命はない。でも――

 最後の力をふり絞り、二振りの剣へと託す。

 躊躇せず、炎に飛び込む。

 そして――

「絶剣技、終の型――<天双絶閃衝>!」

 俺の放った双剣奥義が、緋夥多を貫いた。

 




今回はいまいち話がわからないです。ええ、わからないです。現状、さっぱりなんだかわからない人も多いと思ってます。
このままのペースでいけばこれまで出てきたカイトの過去の仲間などの話が本格的に始まるのは随分と先のことになるでしょう……。
今回はあっさり流そうね! 流しても大丈夫な回だから。この章の中では。

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