ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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10話

<イッセーSide>

 カイトと緋夥多が向き合っている。コカビエルが上空からこの状況を眺めているのも忘れ、俺たちは全員、目の前の二人に視線を向けていた。

「おまえを倒したら、アンラ・マンユの情報が手に入りそうだな」

「キミを倒したら、アンラ・マンユさまへの手土産にしよう。ああでも、間違って殺してしまうかもしれないね」

「舐めすぎだ……」

 二人のピリピリした空気が俺の方まで届いてくるようだ。

 カイト、大丈夫だろうか? なんかやばそうな相手だったぞ、そいつ……。

 俺が心配する中、とうとう状況が動き出す。

「さあ、お互い剣技で競うとしようか」

 敵意を惜しげなくカイトに向ける緋夥多。

「いいぜ。剣で勝負した事、あの世で後悔しろよ」

 カイトが二本の刀で構えを取る。

「刀身が少し長いけど、多分あれも使えるだろ」

 カイトは不敵に笑い、なにかを呟いた。

「君を血まみれにして、綺麗に赤く染まったところで冥府行きのチケットを贈呈してあげるよ。アンラ・マンユさま行きのね」

「趣味が悪いな」

「ははは、よく言われるよ。――言った相手はもう全員生きてないけどね!」

 言い終わらないうちから、炎を纏った斬撃が飛び交い始める。

 緋夥多の持つ剣は、炎剣なのか!?

「我が炎よ。交わり穿つ弾と成れ!」

 斬撃は幾つもの火炎球へと形を変え、カイトへと襲いかかった。

「もう剣技っていうより魔術だろそれ!」

 非難を口にするも、カイトは避けようとはしなかった。

「でも、これくらいなら多分いける」

 カイトは走り出し、加速をかける。

 そして自ら炎の中に飛び込むと――

「双剣技――<大蛇>!」

 縦横無尽に動き回る漆黒と白銀の剣閃が、火炎球を次々と叩き落とした。

「素晴らしいじゃないか、カイトくん。始めから全開というところかな」

「うるせえよ。それより、次はお前を叩っ斬る番だ。覚悟しろ」

「今のをどうにかできただけで、大きく出たものだね。いいとも。私を斬れるのなら、斬ってみるといい」

 緋夥多は静かに、赤い剣を前に突き出した。

「ほら、かかってきたまえよ」

 挑発するように、剣を振るう。

「安い挑発だな。でもまあ、乗ってやるよ!」

 足に力を入れ、地面を蹴る。

「そうだ、そうでなくては! これが闘争というものだよ!」

 この感じ。緋夥多という男は相当の戦闘狂のようだ。

 緋夥多の持つ剣の刀身が、クリムゾンの光を迸らせる。それは、照り光った血のように見えた。

「う、おおおッ!」

 カイトは恐怖に負けず、鼓舞するように叫ぶ。

「炎刑技――」

「絶剣技、破ノ型――」

 緋夥多とカイト。二人の剣技が重なる。

「十指連花!」

「烈華螺旋剣舞!」

 緋夥多は花の花弁を一枚一枚咲かせていくように、クリムゾンの光を纏った刀身が軌跡を描いてはカイトを狙う。

 対してカイトの、閃く無数の剣閃が、緋夥多の咲かせた花を散らしていく。

 お互い、いくつもの攻撃が互いの剣閃に防がれるのを無視して、幾度となく剣を交えた。

 決して攻撃が通らないわけではない。

 二人とも浅い切り傷をいくつも作りながら、決定打が入らないのだ。

 決して劣勢ではないカイトだけど、俺にはどうしてもあいつが寂しそうな、泣きそうな表情をしている気がする。動くスピードもあるけど、表情が隠れて読み取れない。でも、それでも、なにかに耐えながら戦っている……そんな気がしてならないんだ。

 

 

 カイトの表情は、一点――緋夥多のみに注がれている。

 時折、自分を冥府に誘う死神の一撃が頬を掠めていく。

 しかし、そんなことは気にならないとばかりに攻撃の手を緩めない。

「……ぁぁぁあああああああ!!」

「楽しい、楽しいねぇ!! もっと、もっとだぁぁぁぁぁぁ!!!」

 カイトの叫びに応えるように、緋夥多も叫びを上げる。

 幾度となく打ち合う中、二人の剣技が相手を捕らえる。

 二人の剣技がもたらす威力が爆風を生み、二人を空中へ投げ飛ばす。

「クソッ、仕切り直しだぁ!」

「いいだろうッ!」

 空中で体勢を立て直し、緋夥多が先に仕掛ける。

「紅炎戯曲三番・千華狼!」

 幾重にも分かれた炎の一つ一つが狼の形になり、空中である事などお構い無しにカイトに殺到する。

「お前の剣技が、手数で勝負するものばかりで助かるよ! 絶剣技――三ノ型、影月演舞!」

 水に映る影月の如く、揺らめき舞うような斬撃。

 斬っては瞬転、さらに瞬転して斬り払う。

 数十体の狼に囲まれながら、嵐の如き斬撃を放ち全ての狼を炎に戻し消し去っていく。

「っと、流石に疲れる……」

 地面に到達すると、カイトの体が揺れるのがわかった。

 連続して大技を使った反動だろうか。

「いやいや。君の剣技は自身の身体を大いに動かすからね。負担も大きそうだね」

「お前のは見てるだけで楽そうだな」

「そうでもないさ。結構制御するのに精神を磨り減らすんだ」

 まるで疲労した様子が窺えない緋夥多が言っても、カイトは渋い顔をするだけだった。

 っていうか、それだとカイトが不利なんじゃないのか!?

「さあ、名残惜しいが決着を着けよう、カイトくん」

「言われなくても」

 二人は互いを睨みあい、視界に捉え続ける。

「さあ、決着の時だぁ!!」

 二人は再び、剣を打ち合う。

「う、おおおおおお!!」

 カイトは跳躍し、

「絶剣技、初ノ型――紫電!」

 緋夥多の肩を斬り裂く。

 俺でもわかってきた。剣技において、一歩前にいたのはカイトだった。

 肩を斬られ、ほんの少し。隙とも言えない間を見せた緋夥多に、カイトは追撃する。

「まだだ! 双剣技――<大蛇>!」

 軌道の読めない斬撃が、緋夥多を縦横無尽に斬り裂く。

「ぐ、ああああああ!!」

 全身から夥しい量の血を流しながらも、緋夥多が倒れる事はない。

「ぐ、そうだ! これだ! このいつ死ぬかわからない張り詰められた緊張感こそ唯一私が求めるものだぁ! だがカイトくぅぅぅぅぅぅぅん!! 貴様は少しばかり私に対してやり過ぎたぁ!!」

「本性見せたな、緋夥多!」

 俺は内心、酷く怖いものを見た気分だ。最初から普通に人を殺すような奴だったけど、いまの表情は異質だ……。歪んだ笑顔ってのは、ここまで恐怖を与えてくるんだな……。

 これが緋夥多の本性だっていうのかよ。

 これはただの人殺しの域を遥かに超えている。正直、関わりたくない。絶対に。

 だけど、こいつは今のうちに倒さないと、必ず後悔する事が起きる気がする。

 カイトも同じ気持ちを抱いたのか、恐怖する自分を鼓舞するように、二刀の剣を握りなおし、額に当ててから構え直す。多分、神器の二人と会話でもしたんだろう。

「準備はいいかいカイトくん。楽しい楽しい最後のお楽しみぃぃぃぃぃ! 君の惨殺ショーで閉幕だぁぁぁ!! アハハ、アハハハハハハハハハハ!!」

「ったく、アンラ・マンユのこと忘れてんじゃないか、コイツ……。何が楽しいのか知らないけどな、今日ここで消えるのはお前一人だけどよ、緋夥多ぁ!」

 カイトは最後でなるであろうダッシュを開始した。

 今までで一番速く、駆け抜ける!

「この時を、待っていたよ!」

 緋夥多の眼前まで迫ったカイトの足元から、闇が現れる。

「夜天黒奏儀――奏でろ黒炎! 我運ぶは死への路なりて、闇を持ってこれを征さん!」

 カイトの全身が、闇に包まれる。

「夜天黒奏儀。闇の中へ対象を連れ込み、死へと誘う必殺の暗技。闇へと連れ込まれたカイトくんも、既に息絶えただろう」

 なんだって!? なんだよあの技は! それにカイトが息絶えた? おい、なんの冗談だ!

「ああ、ああ! とうとう死んでしまったか! だがそれも仕方のないことだったんだよ。これで君も仲間のところへ行けただろう!」

 緋夥多はこれまで以上の笑い声を上げ、純粋に笑顔を浮かべた。

 仲間と同じところ? どういう意味なんだ……。よく考えたら、俺はカイトのことをそこまで知らない。過去のことを、全く知らない。なにがあったんだよッ! けど、それを訊く相手も既にいない……。

「この上なく楽しい事だった。一体彼は最後、どんな気持ちで逝ってしまったのか。アンラ・マンユさまの情報を聞けずに終わって悔しかったか、無力さを嘆いたか、死への恐怖に押しつぶされたのか。考えるだけでも笑みが止まらない!」

「この、よくもカイトくんを!」

 木場が聖魔剣を構える。

「私の部員を! なんてことを!」

「許しませんわ!」

 部長、朱乃さんも怒りを露わにする。

 俺も、怒りがふつふつと湧き上がってくる。いますぐに、あいつを殴り飛ばしたい!

 だが、

 バキィィィィィン!

 突如として、闇は消えうせた。

「最後の最後に、俺の仲間が助けてくれたよ。おかげで、お前を討つ最高のチャンスが手に入った!!」

「なっ!?」

 突如として闇より生還したカイトに、緋夥多は驚きながらも一撃を見舞おうとする。

「炎刑技――煉獄華閃!!」

 そして――

「絶剣技、終ノ型――<天双絶閃衝>!」

 カイトの放った、初めて見る双剣奥義が、緋夥多を貫いた。

 

 




次回はカイト目線でこの時の話を書きます。カイトに映っていたのはどんなことだったのか。なんで終ノ型を使えるようになったのかも掘り下げてこうかと。
……書けるか心配…………。

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