ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
仲間と過ごした記憶。それが奪われる記憶。辛かった過去の記憶を通り過ぎ、俺は剣技を習得してきた記憶を見ていた。
「この記憶から俺は、なにをすればいいんだ?」
「仲間のことを、剣技のことを見て、扱い方を覚えればいい。前に話してくれた、カイトの剣技の師匠の記憶を探って、扱えるようになって。忘れたこと、もう一度見て覚えなおして」
いつものオーフィスとは違い、言葉がスラスラと出てきている。
なにかがいつもと違う。
でも、目の前にいるのは間違いなくオーフィスだ。それは確実なんだ。なら、この違和感はなんなんだ?
「カイト」
「なんだ?」
「いまカイトにしたこと。我、カイトの記憶を呼び覚ました。カイトが、蓋をした記憶も、呼び覚ましたかもしれない」
「そう、みたいだな……」
「辛い記憶、多いかもしれない。我、わからない。だけど、必ずカイトのためになる」
真っ直ぐに見つめられ、何も言えない。
「我、用事済んだ。帰る」
再び暗闇に潜み始める。
でも、
「……はやく帰ってくること、我、望む」
そう言ってくれた。
「ああ、すぐに帰ってくる」
俺の言葉を聞き安心でもしたのか、小さく微笑みを漏らし今度こそ暗闇に姿を消していった。
「さって、俺も急いで向かうか」
多くの記憶が流れては消えていく中、走りながらも懸命に剣技の記憶だけはしっかり見ていく。いつだったか忘れてしまったが、一度だけ見ることのできたあの剣技を再現するために!
<イッセーSide>
コカビエルの待つ駒王学園で、木場と合流できた俺たちグレモリー眷族は、コカビエルのペットであるケルベロスをすべて消滅させたところまでは良かった。
だけど、四本のエクスカリバーは一本に統合されちまうし、もう少しでこの町も崩壊するような状況に立たされている。
「フリード! そのエクスカリバーを使え。最後の余興だ。四本の力を得たエクスカリバーで戦ってみせろ」
「ヘイヘイ。このチョー素敵仕様になったエクスカリバーちゃんで悪魔なんて塵にしてやりますよぉ!」
「バルパー・ガリレイ。僕は『聖剣計画』の生き残りだ。いや、正確にはあなたに殺されて転生した悪魔だ」
だが、木場は戦闘より先に話始める。
「なるほど、キミが生きているかもと噂された子か。いやいや、キミたちのおかげで私の研究は完成したよ」
「完成? 僕たちを失敗作として処分したじゃないか」
眉を吊り上げ、怪訝そうな様子の木場。俺も、部長からそう聞いている。
だが、木場の思いとは裏腹に、バルパーは首を横に振った。
「聖剣を使うためには因子が必要だと、あるとき私は気づいた。キミたち被験者はみな、因子を持っていたよ。ただ、どれもエクスカリバーを扱えるまでには届かなかった。そこで私はひとつの結論に至った。ならば『因子だけ抽出し、集めればいい』とな」
「――同志たちを殺して、聖剣適性の因子を抜いたのか?」
木場が殺気のこもった口ぶりでバルパーに訊く。
「そうだ。この球体もその一つだ。三つほどフリードたちに使ってしまったがね。これは最後の一つ」
「バルパー・ガリレイ。自分の研究、自分の欲望のために、どれだけの命をもてあそんだんだ……」
木場の手が震える。恐怖からなんかじゃない。これは正真正銘、怒りからだ。俺だって、こいつは許せなねぇ!
「ふん。それだけいうなら、この因子の結晶は貴様にくれてやる」
手に持っていた結晶を投げてよこす。
それは木場の足元に転がっていく。
木場は屈みこみ、手に取った。
哀しそうに、愛しそうに、懐かしそうに、その結晶を撫でていた。
「……皆……」
そのとき、木場の持つ結晶が淡い光を発し始める。
光はやがて人の形を成し、木場を囲むように青白く光る少年少女の姿を形成した。
「皆! 僕は……僕は!」
俺でも理解できる。彼らは木場と同じ聖剣計画に身を投じられた者たちだ。
「……ずっと……ずっと、思っていたんだ。僕が、僕だけが生きていていいのかって……。僕よりも夢を持った子がいた。僕よりも生きたかった子がいた。僕だけが平和な暮らしを過ごしていいのかって……」
木場を囲む少年の一人が、何かを伝えている。
それが伝わったのか、木場の双眸から涙が溢れる。
「――聖歌」
アーシアがそう呟く。
少年少女たちと共に、木場も口ずさみだした。
『僕らは、一人ではダメだった』
『私たちは聖剣を扱える因子が足りなかった。けど――』
『皆が集まれば、きっとだいじょうぶ』
『聖剣を受け入れるんだ』
『怖くなんてない』
『たとえ、神がいなくても――』
『神が見ていなくても――』
『僕たちの心はいつだって――』
「――ひとつだ」
彼らの魂が大きなひとつの光となって、木場のもとへ降りてくる。
やさしく神々しい光が木場を包む。
『相棒』
そのとき、ドライグが俺に語りかけてくる。なんだよ、こんな感動してるときに。
『あの「騎士」は至った。神器は到る』
なんの話だ?
『――禁手だ』
闇夜の天を裂く光が木場を祝福しているように見えた。
「――僕は剣になる。部長、仲間たちの剣となる! 今こそ僕の想いに応えてくれッ! 魔剣創造ッッ!」
木場の魔剣に、聖なる力が混ざっていく!?
「――禁手、『双覇の聖魔剣』。聖と魔を有する剣の力、その身で受けるがいい!」
木場がフリード目掛け走り出す。俺は目を凝らし動きを追おうとするが、一瞬で視界から姿を失う。
ギィィィン!
は、速すぎる!
なんどもぶつかりあう木場とフリード。
透明になった聖剣すら受け止める木場に、フリードは目元を引きつらせ、驚愕の表情になる。
「そうだ、そのままにしておけ」
横殴りにゼノヴィアが介入する。
左手に聖剣を持ち、右手を宙に広げた。
「ペトラ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ。この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する。――デュランダル!」
デュランダル!? それってエクスカリバーに並ぶほど有名な伝説の聖剣だろ!
言霊と共に出現した空間の狭間に手を入れ、一気に引き出す。
一本の、聖なるオーラを放つ剣が姿を現す。
あれが、デュランダルか……。
「そんなのアリですかぁぁぁ!? ここにきてのチョー展開! お呼びじゃねぇんだよォォォォッ!」
フリードが叫び、聖剣をゼノヴィアに向ける。
目には見えないが、また透明になって襲い掛かっているのだろう。
ガギィィィィン!
だが、たったの一振りでエクスカリバーが砕かれる。
そこに一気に木場が詰め寄る。動揺したフリードは対応できてない!
決めろ、木場ァァァァッッ!
木場の一撃をエクスカリバーで受け止めようとするが――。
バギィィィィン。
聖魔剣によって砕け散る。
「――見ていてくれたかい? 僕らの力は、エクスカリバーを超えたよ」
その勢いを殺さず、木場はフリードを斬り伏せた。
「せ、聖魔剣だと……? あり得ない……。反発しあう要素がまじり合うなんてことはあるわけがないのだ……いや、そうか! わかったぞ! 聖と魔、それらをつかさどる存在のバランスが崩れているのなら説明がつく! つまり、魔王だけでなく、神も――」
ザシュッ。
何かに思い至ったように見えたバルパーの首が飛んだ。
近くにズン、という音が聞こえる。そちらに視線を向けると、驚愕に表情を染めたままのバルパーの表情が飛び込んできた……。
「バルパー、あんたの役目はここで終わりなんですよ。聖剣も壊れてしまったのですか。では、あとは私一人でコカビエルにお供しましょう」
赤い剣を握った、腰まで届く髪を無造作に伸ばした男がそこにはいた。
あいつが、バルパーをやったのか?
「そうだな、それでいいだろ。バルパー、おまえは優秀だった。そこに思考が到ったのも優れていたからだろう。だがな、戦争を起こそうってときに弱い人材はいらないんだよ。俺には、こいつが居れば十分だ」
コカビエルが上空から嘲笑っていた。
「さあ、緋夥多。そいつらを始末しろ」
「了解しました」
緋夥多と呼ばれた先程の男は、剣に黒い紐みたいなものを纏わせていく。なんだ、あれ。
っていうか、あいつやばいんじゃないか!? 凄いプレッシャーを感じる。こいつと戦うなって、本能が訴えてくる! 体の震えが、止まらない!
やばい、やばいやばいやばいやばい――
「そんなに震えるなよ、イッセー。大丈夫。あいつの相手は、俺がする」
――肩に置かれた手の力強さが、俺の震えを止めた。
「……カイト」
「遅くなったな、悪い。祐斗は――戻ってきたんだな」
「カイトくん。ああ、エクスカリバーも破壊した。僕はもう、恨まなくていいこともわかったんだ」
「そうか」
カイトは短くそう返事を返すと、俺たちの前に立つ。
「あんた、その剣に纏ってるのは『闇』だな?」
そう緋夥多に呼びかける。闇? カイトはあの正体を知ってるのか?
「ほお。アンラ・マンユさまのことを知っている者がいるとは。なるほど、キミはカイトくんか。あの方がご執着なのはキミのことだったか」
コカビエルには聞こえるか聞こえないかの声でそう漏らす緋夥多。アンラ・マンユ? 誰? 正直、俺はまったく会話の内容が理解できない。
「アンラ。マンユですって!?」
部長が驚きの声を上げる。見れば、ゼノヴィアも同じような表情をしていた。
「部長、誰なんですか?」
「……邪神よ。絶対悪とされる、世界を破壊するような、闇の存在……」
か細い声で部長が答えてくれる。
邪神って……そんな奴の仲間がここに居るってことか? どうなってるんだ。
「大方、潜伏してたんだろう? おまえたちはどこの組織にもいるもんな」
カイトが話を再開する。
「ええ、私はこの堕天使側にずっと潜伏していましてね。でないと、表舞台の情報が入ってこなくなりますから」
「緋夥多! なにをしている。とっととやれ」
話の途中でコカビエルが苛立ったような声を上げる。
「仕方ないか。話はここまでということで。始めようか」
緋夥多が殺気を全開にする。
「全員、下がってくれ。あいつの狙いはもう、俺がここに居る時点で俺にしか向いてない。――俺が、倒す」
カイトは俺たちに忠告をして、前へと歩いていく。
両手には、いつものように二刀の剣が握られている。その背中が、とても寂しそうに見えたのは、俺だけなんだろうか――。