ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
「ふう、今日も収穫なしか」
「そうそう結果がでるわけじゃないんだな……」
エクスカリバー破壊の協力を得ることができた俺たちは、ここ数日間、祐斗が出会ったと言っていた神父、フリード・セルゼンを探していた。
イッセーと堕天使の一件で遭った神父だ。なんでもそいつが聖剣を持っていたらしい。
フリードは神父を殺して回っているとのことなので、俺たちも神父やシスターの格好で歩き回っている。
だが、一向に遭遇する気配がないまま、今日も日が暮れてしまう。
「仕方ないか……。みんな、今日もそろそろ解散し――」
イッセーがそう言いいかけたとき、俺は気づいた。
「いや、今日は解散しなくてよさそうだ」
「え?」
「上を見ろ!」
気配に気づいていないイッセーのために、声を上げる。
上空を見上げると、長剣をかまえた白髪の神父が降ってきた。
「神父の一団にご加護あれってね!」
そのままイッセーを狙い剣を振るうが、それは祐斗が創りだした魔剣によって阻まれる。
「さて、じゃあ祐斗。あとはおまえがやれよ。やばくなったら話は別だけど、それまではその神父が逃げないように見張っててやる」
俺は祐斗から距離を取り、神父の動きに目を配る。
「あらら、囲まれちゃってる感じですか? あら俺さま、おいとまさせていただきたいねぇ」
フリードは俺たちから逃げようと動こうとするが、
「伸びろ、ラインよ!」
それよりも速く、匙の手元から放たれた黒い触手らしきものがフリードの右足に巻きつく。
「うぜぇっス!」
煩わしそうにそれをなぎ払おうと聖剣を振るうが、実体がないのかすり抜ける。
見ると、匙の手の甲にはトカゲの顔と思われるものが装着されている。その口から伸びているものがフリードを捉えている。舌ってことか。
でもあれって確か、龍王の一角の――。
「そいつは簡単には斬れないぜ。木場! これで逃げられねぇ! 存分にやっちまえ!」
「ありがたい!」
――っと、考えるのは後にするべきか? いまはこの場で聖剣の破壊を見届けないと。
俺は左手に<真実を貫く剣>を出現させる。
「だったらそこの悪魔くんから死んじゃえよッ!」
斬れないなら本人を、ってか? フリードは祐斗を無視し匙へと剣を振るう。
させるか!
ギィィィィンッ。
匙に向けられた聖剣を<真実を貫く剣>で受け止める。
「おや、あのときの人間くんではありませんかぁ? まだ悪魔なんかといたのね、俺さま驚き! てかキミ強いねぇ。聖剣を簡単に受け止めるなんて」
「そりゃどうも。でも俺はおまえの相手じゃないんで、本来の相手に代わるぜ? 匙に手出してる暇があったらそっちに集中しな!」
左腕に力を込め剣を振るい、フリードを押し返す。
「そこだ!」
その直後、祐斗が二刀の魔剣を手に攻め立てる。
「おおっとぉ!? いきなりですか? 流石悪魔! やること汚い! だが、俺さまの持ってるエクスカリバーちゃんはそんじょそこらの魔剣くんでは――」
エクスカリバーが一振りされる。
ガギィィン!
破砕音を立て、祐斗の魔剣が二刀とも砕ける。
「相手になりはしませんぜ」
「くっ!」
再び魔剣を創りだす祐斗。だが、このままでは状況は変わらない。
「イッセー譲渡しろ! 祐斗に力を与えろ!」
「まだやれる! まだ、僕の力でやれる!」
俺の提案は祐斗自身に拒否される。
あいつ、こんなときにこそ俺らを頼れよなぁ……。自分の力だけで、とか考えてるうちはまだまだなんだよ。
「小猫、イッセーを飛ばせぇッ!」
「はい。イッセー先輩、頼みます」
ブゥゥゥゥンッ!
即座にイッセーを祐斗めがけ投げ飛ばす小猫。
「カイト、小猫ちゃん! 俺は便利アイテムじゃないんだよぉぉぉッ!」
イッセーがなにか言ってるが聞こえなかったことにした。使えるものは使う、常識だろ?
「くそっ、こうなったらしょうがねぇ! 木場ぁぁぁぁぁ! 譲渡すっからなぁぁぁ!」
「うわっ! イッセーくん!?」
イッセーが祐斗に飛びつき、神器を発動させる。
『Transfer!!』
音声が発せられ、祐斗に力が流れ込んでいく。
ライザーとのレーティングゲームのときに発現した能力か。あのゲームも、いい経験になったってことか。
「……もらった以上は使うしかない! 『魔剣創造』ッッ!」
周囲一帯に刃が咲き乱れ、あらゆるところから魔刃が出現する。
「チィィィ!」
舌打ちをしながらもフリードは自身に向かってくる魔剣を横薙ぎに破壊していく。
だが、その魔剣を囮に祐斗は自身が突っ込む。
聖剣と何度も打ち合い、砕かれながらも、周囲の魔剣を投擲したり斬りこんだり。四方八方からフリードを狙う。
「うっは、これは面白いサーカス芸だね! でもでも、俺さまスピード勝負なら負けないんだよぉぉぉッ!」
フリードの持つ聖剣の切っ先がブレだし、高速で振られ始める。周囲の魔剣全てを破壊して周り、最後に残った祐斗へと襲い掛かる。
「ダメか!」
防御に回した両手の魔剣も砕かれ、散っていく。
「あひゃひゃひゃひゃ! 死ねぇぇぇぇッ!」
「やらせるかよ!」
祐斗に迫った聖剣は軌道を変え、空を斬る。
匙か! トカゲの舌を引っ張り、フリードの体勢を崩したか。それと同時にトカゲの舌が淡い光が発せられる。
「これは! クッソ! 俺っちの力を吸収するのかよ!」
「どうだ! これが俺の神器! 『黒い龍脈』だ! これに繋がれたからには、おまえがぶっ倒れるまで力を吸わせてもらうぜ!」
匙も駒四つ消費してるだけはあるな。ドラゴン系神器。それも宿してるのは竜王。あいつも成長したらいい感じになるんだろうな。
「祐斗。不本意かもしれないが、いまは聖剣より先にフリード自身を倒すことに集中しろ!」
「俺もその方がいいと思うぜ! このままこいつを放置したら絶対やべぇって!」
俺と匙の案に祐斗は決心を決める。
「不本意だけど、そうさせてもらおう!」
祐斗が新しく魔剣を創りだす。
「ほう、『魔剣創造』か? 使い手の技量によって無類の強さを発揮する神器だ」
それと同時に、第三者からの声が届く。
見れば、神父の格好をしたじいさんだ。
「……バルパーのじいさんか」
なに? あいつが、そうなのか? やっぱり、今回の一件と繋がってたのか……。
「フリード。何をしている」
「いやねぇ、このトカゲのベロが邪魔で逃げられねぇんスよ!」
「ふん。聖剣の使い方がまだ不十分ではないか。おまえに渡した『因子』をもっと有効活用してくれたまえ。体に流れる聖なる因子を聖剣に込めろ。そうすれば斬れ味は増す」
「へいへい!」
今度はいともあっさり切断される。
「逃げさせてもらうぜ! 次はもっと楽しい殺し合いだ!」
まずい! このままだと振り出しに戻る!
「逃がさん!」
フリードを繋ぎ止める術を無くした俺たちの横を、一つの影が通り過ぎる。
そのままフリードの聖剣と剣を交え、火花を散らす。
ゼノヴィアか。いいタイミングで来てくれた!
「やっほ。イッセーくん」
「イリナ!」
ゼノヴィアの後に続き、イリナも登場する。
「こりゃ不利だわ。バルパーのじいさん! 撤退だ! コカビエルの旦那に報告といこうぜ!」
「致し方あるまい」
「あばよ、教会と悪魔の連合どもが!」
カッ!
フリードが投げつけたのは閃光弾か!? クソッ、こんな手で逃がすのかよ!
視力が戻ったときには、すでにフリードとバルパーの姿は無かった。
「追うぞ、イリナ」
「うん!」
「僕も追わせてもらおうか!」
教会組二人に続き、祐斗までもが二人を追って駆け抜けていく。
「お、おい! 木場! 勝手に行くんじゃねぇよ!」
イッセーの制止も聞かず、姿が見えなくなる。
「これは、まいったな。けど逆に考えればこれで何か動きを見せるかもしれない。イッセー、何かあったらすぐに連絡してくれ」
「ああ、そうかもしれないな。何かあればすぐに連絡入れる」
「頼むぞ。俺は一旦帰るよ」
「……わかった」
会話を終え、この場を即行で後にする。それは、決して後ろに部長たちの姿が見えたからなんかじゃない……。
その日の夜、携帯が鳴った。
さっきの今で何か動きがあると思ってなかった俺は、この連絡には驚かされた。コカビエルにイリナは倒され、祐斗とゼノヴィアは逃げ延びたが行方不明。
「そんでもって、戦争を起こすためにこの町で暴れ回る、か。しかも駒王学園で聖剣をめぐる戦いだと? ふざけるなよ!」
呼び出され俺は、イッセー宅まで足を運んだ。
「カイト! 来てくれたのね」
そこには、すでに準備を終えた部長、イッセー、アーシアの姿があった。
「カイト、学園が、町がやばい!」
「わかってる。速く行こう」
「毎度、巻き込んでしまってごめんなさい、カイト……」
部長は申し訳なさそうにそう言うが、それはないだろう。
「俺だって、オカ研の仲間でしょう? 俺だけなにもしないなんて選択、ありませんよ」
「……! ええ、そうね! みんな、学園に向かうわよ!」
「は――」
「はい」といおうとしたとき、俺を見る視線に気づいた。これは――
「部長、イッセー、アーシア。すいません、俺も後から急いで追いかけますんで、先に行ってください」
「お、おいカイト! なにいってるんだこんなときに!」
「悪いイッセー……。俺とどうしても話したい奴がいるみたいでな」
よくわかるぞ、この感じ。でもなんでいまなんだ?
「……カイト、必ず、必ず来て。私たちは先に行くわ」
部長は二人を連れ、学園へと向かう。
イッセーも納得してくれたようで、「来るまでに終わらせてやる!」と言ってくれた。
「もういいぞ。来てるんだろ、オーフィス」
俺は暗闇に向かい呼びかける。
「我、カイトのためにいまここにいる」
姿を現したオーフィスは、そう宣言した。
「もう、あまり時間がない。だから、カイトがまだ扱いきれない剣技の力、我、補う」
それだけ言い、オーフィスの額が俺の額に重ねられた。
――瞬間、いくつもの記憶が頭の中を過ぎった。