ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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2話

 そこにいたのは、制服を着込んだリアス先輩。

 乾かさずに出てきたのだろう。濡れたままの紅の髪がなんとも艶っぽく、今朝の黒歌と重なる。

 流石悪魔! 幻惑の術の類か。

 どうりで。黒歌がよく着崩して着物を着ていたのはそういう意味があったのか……。なんと迷惑な話だ。

(いや、ただあなたが思い出しただけでしょ?)

(マスターはいやらしいです)

 ハハハ、頭の中で少女二人が俺に語りかけてくる。

 そんなに黒歌の事を思い出すのっていけないことなの!?

(カイトは私だけ見てればいいじゃない)

(いえ、カイトが見るべきは私です)

 ……すまん、今からちょっと話し合う事があるからその後にしてくれ。お願いだから人の頭の中で言い争いを始めないで!

 脱力した俺は、頭の中で二人にそう告げ、意識を目の前の先輩へと戻す。

「さて、シャワーも浴びてすっきりしたし、あなたの事を聞かせてもらおうかしら?」

 あー、もう疲れたから帰るってのは無しかな?

 うん、無しだよね。ボク知ってたよ。

 ふと、視線がリアス先輩の後方へ向く。

 もう一人、リアス先輩の後ろに黒髪ポニーテールの女性がいるわけなんだが。

「あらあら。はじめまして。私、姫島朱乃と申します。どうぞ、以後、お見知りおきを」

 ニコニコと笑顔を絶やさずにあいさつをくれる。

 朱乃先輩か。この人もよく話に出てくる人だな。直接会うのはこれが初めてだが、なるほど。確かに人気の出そうな人だ。

 うちの高校のアイドルの一人だったっけ?

 半端な知識でごめんなさいね!

「どうも。先日そちらのリアス先輩に偶然にも出くわした月夜野カイトです」

 俺は一応『偶然』というワードを、あえて強調してあいさつを交わす。

 いや、本当に偶然だったし。などと誰に知られることもなく無駄な抵抗を重ねる。

 自分で無駄とわかってしまうのがつらいな。

 それを確認したリアス先輩は手をひとつ叩くと、こちらに視線を向けた。

「さあ、それじゃあ説明してもらいましょうか。月夜野カイトくん」

「……なにからですか?」

「そうね。じゃあ一番聞きたかった事を。あなたは何者かしら。ただの人間には見えないわ」

 そこからか。……仕方ない。

「ただの高校生で

「そう、普通の人ではないのね」

 あれー? なんか扱い雑……。せめて言い訳は最後まで聞きましょうよ……。

「なんでわかるんですか?」

「あの日の出来事は使い魔が映像を撮っていて、あなたの事もばっちり映っていたわ」

 使い魔かよ。悪魔って基本なんでもありだよね。

 無断で家に入ってきてたり漁ってたり、人に懐いたりただ飯食ってたり。

 なんかイライラして来た。帰って黒歌がいたらいじり倒してやろう。

「あなた、あの堕天使と戦ったみたいだけど?」

 あれが戦い、か。ただ視線を交えただけにすぎない。

「あんなのは戦いに入りませんよ」

 俺はとぼけるのを諦め、真実を口にした。

「……そう。それで、あなたは神器を宿しているの?」

「はい。確かに神器なら宿ってます。最高の奴らがね」

(私のことね)

(いえ。あなたではなく私だと思います)

 ごめん、本当にもう少しだけ待って。

 いまお話中なの。大事なの。

「すでに使いこなせているのかしら?」

 頭の中とリアス先輩。両方の相手をしながらも、質問は続く。

「ある程度なら。まあ、負担が大きいんであまり使わずに終えたいですけどね」

 驚きと、なんだ? なんで嬉しそうな顔をする? 

 目の前のリアス先輩は、なんだか不思議な表情をしていた。

 少しの間、何事かを考える素振りを見せていた彼女は、決まったとばかりに瞳を光らせる。

「あなた、悪魔って知ってる?」

 

 

 その後、リアス先輩による悪魔講座が始まった。基本的な事は知っていたので、大方復習みたいなものだ。

「それで、私の眷属にならないかしら? あなたなら祐斗と二人で騎士を張れると思うわ」

「すいませんが、それはできません。俺にはすでに共に行動するべき存在がいるので」

 そう、俺の家にいるあいつを放っておく事はできないし、目標だって別にある。

 眷属になって縛られるわけにはいかない。いまは、まだ。

「どうしてもかしら?」

「はい。やらないといけないこともありますし、俺は本来ならここにいるべきではないので」

 危ない危ない。ついドラゴンと黒猫の世話とか言いそうになったよ。

 それに、ここにいるべきでないのは本当だ。いつまた、あいつが襲ってくるかわからない。あの日と同じような光景は二度と見たくない。だから、そうなる前に終わらせなければ。

「……そう。なら無理強いはしないわ。でも、変わりにこのオカルト研究部には入ってもらえないかしら?」

「俺がですか? でも俺は」

「あなたの事情は訊かないわ。でもね、ここは私たちが守る地でもあるの。多少の助けにはなると思うのだけど」

「……」

 そうまで言われて断るのは不自然か? だったら一度おとなしく入って、時期をうかがったほうが得策か。なにより、断るのも面倒だしね。

 女性の相手は本気を出した男が負けると相場が決まっている。

「わかりました。じゃあお言葉に甘えて入部させてもらいます」

「そう。良かったわ。ここは私が魔王様から任された土地だったから。部活の件まで拒否されたらどうなってたか」

 冗談なのか本気なのか。

 リアス先輩も朱乃先輩も含みのある笑みを浮かべた。

 ……断らなくてよかった。危うく平穏が脅かされるところだったよ。

 これ以上敵が増えたら、本格的に危険だ。とは言っても、この人たちはまだ発展途上もいいところ。逃げるのも潰すのも、そう手間はかからないだろうな。

 冷静に分析する中、明るい声音が響く。

「さて、それじゃあ新しい部員の歓迎会を近々行うとしましょう。ごめんなさいね、カイト。今日はもう一つ聞きたい事があるの」

「もう一つ、ですか。それで、内容は?」

「あなたの神器の事よ」

 神器か。よかった、そっちで。俺の力じゃない後からの付属品の事だったら誤魔化す必要があるし、俺の出自に関わると言われたあの力はまだ秘密にしておきたい。

 いつか使うときが訪れるそのときまでは。

「俺の神器は<真実を貫く剣>に、<魔王殺しの剣>ですよ」

 俺はこの際、これらがいわゆる魔剣と聖剣であることを隠した。

「二つ、ですか?」

 リアス先輩の後ろに佇んでいた朱乃先輩が口を開く。

「二つですけど?」

「普通、神器は一人の人間に二つも宿るのかしら?」

「宿ったんですから仕方ないですよ。まあ、イレギュラーな類かもしれませんけどね」

 なにせ、相反する存在が共に一つの器に存在しているのだから。

「面白い事もあるのね……」

 こればかりは驚いたような顔をするオカルト研究部一同を見て、俺はなんだか楽しかった。

「ますますあなたが欲しくなってきたわ」

「いや、だからそれはダメですって」

「むぅ……。わかっているわ」

 いや、わかっているならそんな不満そうな顔をしないでくださいよ。

「それで、見せてはもらえるのかしら?」

「…………それくらいでしたら」

 だ、大丈夫だよね。力をまったく込めなければなにもないだろうと結論付ける。

 俺は両手に、漆黒の闇をたたえた<真実を貫く剣>と、白銀に輝く<魔王殺しの聖剣>を出現させた。

 ちなみに、この剣たちが神器なのではなく、使用する際に両手に浮かぶ紋章こそが神器なのだが、その説明は省いた。面倒であるのと同時に、教えるのに抵抗があったからだ。

「これがカイトの神器なのね。綺麗な剣だわ」

「僕の作る剣よりもいいものかもしれないね」

 木場も横から見ており、そんな言葉を漏らした。

 そうか、あいつも剣を扱うのか。今度相手してもらおうかな。 

「やっぱり二つ宿ってるのが不思議ね。これ、本当は一対でひとつの神器だったりしないのかしら」

「しませんよ」

(カイト。今のは侮辱だと思うの。この聖剣さんと同じに扱われるなんて)

(私も今のは頂けません。ここは私達が違う存在であることの証明のために――)

((私達の実体化を希望します!))

 嫌です。

 二人がこの場に出てくると、とっても面倒な事が起こりそうなんで諦めてもらえませんかね。

(拒否します)

(私もよ。ここは譲れないわ)

 いや、こんなどうでもいいこと譲ってくれよ!

 そんなことを話していると、両手にあった剣が輝き始めた。

 強硬手段!? 使い手の考えを無視して出てくるなよ……。

 ああ、頭が痛くなってきた。

「な、なに? カイト! あなたまさかここで神器の力を使う気!?」

 誤解だ!

 確かになんか光ってるけど、

「使ってるのは神器自身ですッ!!」

 光が辺りを包み込み、視界が真っ白に染まる。

「だ、誰?」

 部員の誰が発したのかはわからなかったが、現状は簡単に理解できた。

 目の前には、銀髪の少女と、闇色の髪の少女が立っていた。

 それはちょうど、俺が持っていた剣と近い位置に居て、俺の手を二人して握っている。

 ああ、面倒事はどうやら、向こうから俺にやってくるみたいだ。


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