ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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6話

「紫藤イリナ! 性欲は力だ! 正義なんだよぉぉぉぉ!」

 部員のみんなが集まっている旧校舎裏に戻る途中、飛び込んできたのはそんな叫びだった。

 ……見なくても誰かわかるぞ。こんなこという奴は、一人しかいないんだ。なぁ、イッセー……。 それから程なくして旧校舎裏に戻ると、すでにイッセーが地面に崩れおちていた。

「イッセーは負けたか。さっきの叫びはなんだったんだよ」

「あらカイトくん。もう、いいんですか……?」

 朱乃さんが心配そうに聞いてくる。そんなに、さっきの俺は危うく見えたのだろうか?

「大丈夫ですよ。もう、整理はつきましたから。それよりも、小猫とアーシアが見当たらないんですけど」

 結界の外にいるメンバーを見渡しても、二人の姿がどこにもない。

「それなら大丈夫ですわ。ちょっと着替えにいっているだけですから」

 着替えって、なんで? いや、深く考えたらダメなのかもしれない。

 俺は意識を目の前のことに集中しなおす。

 イッセーはイリナになにかを言われているが、起き上がる気配はない。いや、よく見ると腹部から煙が上がっている。聖剣のダメージを食らったってことか……。

 それより少し離れたところでは、まだ祐斗が戦っている。

「その聖剣の破壊力と僕の魔剣の破壊力! どちらが上か勝負だ!」

 祐斗の手に現れたのは、巨大な一本の剣。禍々しいオーラを放つその剣を、祐斗は両手で構える。

 それを勢いよく振り始める。

「……バカか。おまえの強みはそこじゃないだろ」

 俺がついこぼした言葉と、ゼノヴィアが落胆する姿が重なる。

「残念だ。選択を間違えたな」

 ガギィィィィン!

 激しい金属音。巨大な刀身が宙を舞う。

 やっぱり、ダメだよな。

 折れたのは、祐斗の魔剣だった。

「キミの武器は多彩な魔剣とその俊足だ。巨大な剣を持つには筋力不足であり、自慢の動きを封じることにもなる。破壊力を求める? キミの特性上、それは不要なものだろう? そんなことっもわからないか」

 言い終えた直後、祐斗の腹部に聖剣の柄頭が深く抉りこむ。

「ガハッ」

 その衝撃波を受け、その場に崩れおちた。

「はあ、これで俺の出番か……。出ないで終わるとは思ってなかったけど、ここまで祐斗がダメになってるとは予想外だ」

 俺は結界の中に足を踏み入れ、ゼノヴィア、イリナの正面に立つ。

「次はキミがやるのかい? いまなら逃げても文句は言わないよ?」

 ゼノヴィアがそう言う。一応、俺が人間ということで忠告してくれたのかな?

 でもそんなこと、

「余計なお世話なんだよ。おまえらに負けることはないから、始めよう」

 右手に<魔王殺しの聖剣>が現れ、それを握る。

「人が親切に言ってやっているというのに。ただの神器じゃないか。さっきも見ただろう? 私の聖剣なら、そんな剣折るのは簡単だよ」

 エストを折る、か。書物とかに名前は残ってないけど、折れたエクスカリバーなんかには折れないと思うよ。

「折れると思うなら、やってみればいいだろ」

「……言っても無駄みたいね、ゼノヴィア」

「そうみたいだ。私が折って終わらせるさ」

 イリナが一歩下がり、ゼノヴィアが前に出て聖剣を構える。

 それを見て、俺から仕掛けようとした直後、ゼノヴィアが突進を始めた。

「悪いが、一撃で終わらせてもらうよ」

 直後、俺の目の前にまで迫ったゼノヴィアが破壊の聖剣を振り下ろす。

「それ、当たったら俺死んでるぜ?」

 突然のことで一瞬反応が遅れたが、そんなことじゃ一撃たりともかすりはしない。

 俺は当然のように<魔王殺しの聖剣>で受け止める。

「なっ……!?」

 驚きを見せたのはゼノヴィアの方だ。

 初撃を受け止められたゼノヴィアは大きく退き、後退する。

「キミの剣は、リアス・グレモリーの眷族の『魔剣創造』よりも劣るものじゃないのか?」

「勝手な想像で俺の相棒をバカにするなよ。一応教えとくけど、俺のこの<魔王殺しの聖剣>は、神器ではあるけど、エクスカリバーにも引けをとらない聖剣なんだよ」

 この一言に、二人の表情が驚きに包まれる。

「聖剣創造、か?」

「違うさ。それなら、エクスカリバーには届かないだろう」

 祐斗の神器、魔剣創造とは対の神器。一応聖剣を作り出すことはできるものだが、強度の威力も本来の聖剣に比べれば弱い。エストはその点、下手したら本来の聖剣より数倍の威力を誇るぞ。

「なぜ、そんな神器が存在する? そもそも、キミがそれを宿しているのが不思議だ」

 そこに疑問がいくのか……。やっぱり、納得してもらうにはいう必要があるんだよね? 仕方ない……いうか。

「俺が未熟な所為か、本気でやっても本来の力の一割しか出せないんだけど……名前の通り聖剣なんだ。まあ、俺も詳しく全部知ってるわけじゃないんだけどな。神器だから、聖剣と言っても実在していた聖剣じゃないし情報が残ってなくてね。なんで存在しているのかなんてわからないさ。ただ一つ言えるのは、この神器は元々聖女が扱う――いや、聖女のみが扱える剣なんだ。つまり、俺の中には聖女の因子があるんだよ」

 二人は頭の上にハテナマークを浮かべる。当然か、こんな話をしてもなぁ。

「理解できそうもないか?」

「……いや、キミの聖剣のことはわかった。ただ、キミが聖女というのがな」

 ゼノヴィアは笑うのを堪えているように見て取れる。後ろにいるイリナからも、それが伝わってくる。ああ、そういうことかよ!

 そんなに男が聖女っていうのがおかしいか! このためにリラックスしてきたのに、効果ないな……。心の整理、無駄になったかもな。

「ま、まあこれも主の導きかもしれないね。本物の聖女を切るのは気が引けるし、今日はこの辺りで本当においとまするよ」

 そう言うがはやいか、荷物をまとめ始める。

「おい、待てよ。俺との勝負はどうする気だ?」

「いっただろう? 本物の聖女を切るのは気が引けると」

「悪魔と一緒にいる聖女だとしてもか?」

 この問いには答えるまで時間がかかった。

「……そうだな、そうかもしれないね。次会ったとき、そのときはキミを断罪しよう」

 言い残し、立ち去っていくゼノヴィア。その後を追いかけるようにイリナが駆けていく。

 なんだったんだ、あいつら……。

 二人が去り、戦う理由もなくなった俺の右手から、剣の感触が消える。

「俺、意味なかったな」

 結界の外へ目を向けると、居なくなっていた小猫とアーシアの姿も見える。

 それと同時に、祐斗と部長がもめている様子も見てとれた。

 いまにも祐斗はここを離れ、聖剣を追ってしまいそうだ。

「私のもとを離れるなんてことは許さないわ! あなたはグレモリー眷族の『騎士』なのよ。『はぐれ』になってもらっては困るの。留まりなさい!」

「……僕は、同志たちのおかげであそこから逃げ出せた。だからこそ、彼らの恨みを魔剣に込めないといけないんだ……」

 そう言い残し、部長から離れ俺の横を通っていこうとする。

「本当に、そうなのか?」

「え?」

 怒り狂って、他のことは何も考えずに復讐だけを成し遂げようとしていた頃の俺の記憶が蘇ってくる。

「俺も、復讐にのみ意識を向けていた頃があったよ。……いや、いまでも、そんなときがある。でもな、俺の仲間がそれを望んでいるかといわれれば、多分望んでないんだよな。ただの、俺の自己満足に近い感情なのかもしれないって、そう思うんだよ」

「……カイトくん、キミは、キミはもしかして僕と同じような――」

「だから、俺はおまえの復讐を否定できないし、肯定もしない。成し遂げても、いいことが待ってるわけじゃないからな。ただ、いまのおまえを想ってくれる人たちもいるってことを忘れるなよ。まだおまえには、帰れる場所が、仲間がいるんだ……。俺にはもう、無いものだからな」

「キミも、キミもそうだっていうのか? なら、なら僕の気持ちだって」

「ああ、よくわかるさ。だから、いわなきゃいけないことをいったんだ。もう、言い残した事は無いから、行けよ」

「…………わかった」

 なにかを言いたそうにしていた祐斗だが、俺がこれ以上話す気はないと悟ったのだろう。

 俺たちに背を向け、その場から消えていった。

「カイト、なんで、なんで行かせたの……」

 部長からは、俺たちの会話は聞こえていなかったのか。

「すいません、部長。俺には、止められなかった……」

「祐斗……どうして……」

 部長は悲しそうな顔をして、祐斗が消えた場所を見ていた。

 あいつにはまだ、こんなにも大切に想っている仲間がいるのに……。俺の仲間と違って、生きているのに……。いや、あいつにとっては、昔の連中もそうなのかもしれない。

 だとしたら、いまのあいつをここに連れ戻すには――俺の中で、一つの考えがまとまりつつあった。

 

 

 

 

 

 

「ちょっとゼノヴィア、どういうつもり!? なんであそこで帰らないといけないのよ!」

「……一度、たった一度剣を交えただけだが、よくわかったんだよ。彼がもつ神器は、兵藤一誠の『赤龍帝の籠手』と同じように『神滅具』に指定されていてもおかしくないものだと」

「どういうこと?」

 駒王学園の帰り、私はイリナと先程の模擬戦の話をしていた。

 イリナから見たら、カイトとの一戦は不満があったみたいだね。でも、私はそうは思っていない。

 隣を歩くイリナに、破壊の聖剣を見せる。

「これって……」

 それだけで、イリナも理解できたようだ。

「そうだ。たった一度の接触でこれだ。だから、ああいう形で模擬戦を中止にしたまでだ。他の聖剣奪還前に使い物にならなくなっては困るからね」

「そういう、ことだったのね」

 私とイリナはもう一度、破壊の聖剣を、カイトの神器とせり合った部分を見返す。

 その箇所には、大きな亀裂が入っていた。

 




小猫とロスヴァイセさんはヒロイン入りさせないとかな、と思い始めたこの頃。そして何気にセラフォルーとルフェイが人気あるのかな?
今回の原作3巻目で、この話も大きく? 動くところがあります。そこまでさっさと書いてしまいたいので頑張りたいですね。

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