ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
「聖剣計画?」
祐斗が一人帰った後、俺たちは部室で祐斗が聖剣エクスカリバーを恨む理由を話してもらっていた。
「そう、祐斗はその計画の生き残りなのよ」
「どういうものですか?」
「数年前にあった人工的に聖剣を使えるようにする計画よ」
「人工的にっていうのは?」
聖剣を扱うのに「人工的」にというのがひっかかった。
「聖剣は使う者を選ぶの。使いこなせる人間は数十年に一人でるかどうかだと聞くわ。祐斗は聖剣――特にエクスカリバーと適応するため、人為的に養成を受けた者の一人なのよ」
「じゃあ、木場は聖剣を使えるんですか?」
イッセーの問いに部長は首を振る。
「祐斗は聖剣に適応できなかった。それどころか、祐斗と同時期に養成された者たちも全員適応できなかったようだけれど……」
そうか……。聖剣を扱うのはそんなに大変なことなのか。俺自身はどうなのだろうか? エストも聖剣だとは思うが。
(カイトは聖女でもありますから、聖剣を扱うのになんの問題もありません)
そうですか……。聖女は勘弁してください……。俺、男なのに!
俺たちの会話はさておき、部長の話はまだ終わっていなかった。
「適応できなかったと知った教会関係者は、祐斗たち被験者を『不良品』と決めつけ、処分に至った……祐斗を含む被験者の多くは殺されたそうよ、ただ『聖剣に適応できなかった』という理由だけで――」
「そ、そんな、主に仕える者がそのようなことをしていいはずがありません」
アーシアにとっては、ショックな情報だろう。純粋な信仰心が強いからな……こういった黒い部分は聞かせるべきじゃなかったかもな。
それにしても酷い理由だ。本当に、俺と近い位置にいるんだな、祐斗……。
「私が祐斗を悪魔に転生させたとき、あの子は瀕死のなかでも強烈な復讐を誓っていたわ。生まれたときから聖剣に狂わさた才能だったからこそ、悪魔としての生で有意義に使ってもらいたかった。祐斗の持つ剣の才能は、聖剣にこだわるにはもったいないものね」
部長は悪魔だ。なのに、悪魔なのに、優しい。
人間の身だった祐斗にそこまでの思いを込めて眷族にしたのか。でも、それでも――
「あいつは忘れられないんですね」
「ええ、忘れられないの。聖剣を、聖剣に関わった者たちを、教会の者たちを――」
「……俺と同じか。どんなに楽しい日々であっても、引きずり続けることだってある。恨みや憎しみは、過ごした分だけ、解消されなければ溜まる一方だからな」
「え?」
俺の言葉に、部長が反応する。小声で呟いたことを、聞かれていたようだ。
「部長、そういうことですから、いまなにか言って祐斗をこれ以上迷わせるより、一度様子を見た方がいいですよ」
「え、ええ。って、そうじゃないわ! 私があなたに聞きたいことは――」
「答える気はありませんよ。それは俺の問題だ。いまはまだ、話せない」
それだけでも効果はあったのか、部長が続きを口にすることはなかった。祐斗のことを考えることで、俺のいまの気持ちわかってくれたのだろうか?
「とにかく、しばらくは見守るわ。いまはぶり返した聖剣への想いで頭がいっぱいでしょうから。普段のあの子に戻ってくれるといいのだけれど」
部長は最後にそう言い、今日の活動を終えた。
部員のみんなは、誰一人口を開くことはなかった。みんな、なんとなく気づいているのかもしれない。このままだと、普段の祐斗は戻ってこないことを。
暗い空気に包まれた部室を出ても、俺の気分は晴れなかった。
俺も、祐斗と同じようにあの日のことを思い出したからだろうか? かつて仲間だった者たちの顔が浮かんでは消えていく。ここ数日、ずっとこの状態だ。
「俺も、祐斗のことは強く言えないな……」
そんなことを感じながら家への帰り道を歩いていると、妙な二人組が座り込んでいるのが見えた。
俺と歳が近そうな女性たちだ。栗毛の女性と、緑色のメッシュを髪に入れている青髪の女性。後者は十字架を胸に下げているし、二人ともローブのようなものを着込んでいる。
――教会の関係者か……?
「あ、見てゼノヴィア! あれって駒王学園の生徒じゃない?」
俺を指差す栗毛の女性。
「本当だな。よし、彼に話を聞くとしよう」
続いて俺の方をみたメッシュの女性――ゼノヴィアと呼ばれていた子が俺へと近寄ってくる。
「あの、少し話しを聞きたいんだけどキミは駒王学園の生徒だよね?」
栗毛の子がそう聞いてくる。うちの学校になにか用でもあるのか? 少し話しを聞いておく必要があるかな。
「そうだけど、あんたたちはなに?」
「えっと……」
「すまないが、それは言えないな。一般の人を巻き込むわけにもいかない」
栗毛の子が返答に詰まり、代わりにゼノヴィアと呼ばれている子が答えた。
「はあ……それで、なにを聞きたいわけ?」
悪魔側についている俺としてはあまり教会関係者に関わりたくないのだが、当然そんな事情を彼女たちが知っているはずもない。
「実は私たち、駒王学園に明日行きたいんだけど、道がわからなくなっちゃって……」
「それで、案内を頼みたいんだが」
俺を引き止めたのはそのためか。
というか、教会の関係者がうちの学校に来るってことは狙いは生徒会とオカ研だよな……。でも明日行くって明確な日取りがあるってことは生徒会にでも話しが通っているのか? なら会わせるべきだよな。
「明日行くんだろ? なら明日この場所に来てくれ。放課後、学校まで連れてってやるから」
俺の返事を聞き、目の前の二人は視線を絡め嬉しそうにしていた。
「やったわゼノヴィア! 50人目にしてやっと話の通じる人が現れたのね!」
「ああ、長かったな。なぜか全員私たちを避けていくもんだからまともに話を聞いてくれる人で助かった!」
50人……。そんなに話しかけて相手にされなかったのか。ああ、こいつらも大変なんだな。でも多分、理由はその格好なんだろうな。
「ああ、主よ! この善良な方にどうか加護があらんことを!」
聖女の因子を持ってる時点で加護もクソもないよ! 加護があるんなら聖君だっていいだろうに。なんで聖女の因子なんだ……。
俺は栗毛の子の言葉で正直ダメージを受けた。精神的に。本当に、加護が欲しい。
にしても、この場にイッセーがいたら冷や汗が止まらなかっただろうな。悪魔にとっての天敵。それにイッセーはまだ悪魔になったばかりだから余計にプレッシャーを感じただろう。
俺はいくら魔王の因子があるといっても造りは人間だからな。教会の関係者だろうと悪魔だろうと堕天使だろうと、俺を一人の人間としか見ることはない。
俺自身、聖女の因子のせいで十字架や聖水といった悪魔の弱点も平気だしな。
「それじゃあ、また明日頼むよ」
「ああ、わかった。ところで、うちの学校のどこに用があるんだ?」
悟られぬよう、さり気なく質問をする。
「それぐらいならいいだろう。私たちが用があるのは、リアス・グレモリー。キミたちが通う駒王学園の生徒だ」
やはりそうか。よく考えればここは部長の縄張りだったっけ。
ってことは俺も明日はこいつらの話を聞けるってことか? あ、その後俺完全に敵役に変わるよね、こいつらの中で。
明日はなんだか日常に波紋が生まれそうだな……。
「相手が誰かわかったよ。じゃあ明日、またここで」
それだけ言い残し、俺はこの場を去った。
一つ、気づいたことがある。身にエストを、聖剣を宿しているせいだろうか。なんとなく、わかってしまう。あの二人は、聖剣を所持している……。
どうやら、今回は聖剣に縁があるみたいだ。できることなら、何事もなく終わってほしいところだが――