ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
1話
さて、ライザーとの一件も片付き、平穏無事な日常を送っている俺たちだが、いま何処に居るのかと言うと、
「で、こっちが小学生のイッセーなのよ!」
「あらあら、全裸で海に」
「ちょっと朱乃さん! って、母さんも見せんなよ!」
「……イッセー先輩の赤裸々な過去」
「小猫ちゃんも見ないでぇぇぇぇぇぇ!」
イッセーの家でオカ研の会議を行って――いない……。部室を使い魔に掃除させるからということでイッセーの家で会議をする予定だったのだが、イッセーのお母さんが持ってきたアルバムによって会議どころではなくなった。
我が部の頼れる部長なんか、
「……小さいイッセー……幼い頃のイッセー幼い頃のイッセー幼い頃のイッセー幼い頃のイッセー……」
などと頬を真っ赤に染めている。というか満足そうだが崩壊してないか?
「私もなんとなく、部長さんの気持ちがわかります!」
部長の手をとるアーシア。その瞳はランランと輝いている。
「ふふふ、二人とも楽しそうですわね」
朱乃さんはもう観賞は終わったのか、俺の側に寄ってくる。
「そうですね。みんな見入ってますね。朱乃さんはなにか面白い写真見つけましたか?」
「イッセーくんが綺麗に右半身だけ田んぼに埋まっているのは見ましたわ」
「それは傑作ですね」
「でも、私はカイトくんの幼いころの方が興味ありますわ」
なんともないようにさらりとそんなことを言い放ってくる朱乃さん。
俺の幼少期の写真をご所望されても用意できないぞ……。
「それはまた、次の機会があればということで……」
「あらあら、それは残念です」
軽い調子で、残念などという気配はまるで感じなかったので、冗談だったのだろう。
目が冗談じゃなかったのが気懸かりだけどね、ハハハ……。
視線の先では、祐斗が楽しむようにアルバムを眺め、それをイッセーが止めようと必死になっていた。ただ、実力の差か、イッセーが何度飛びかかってもあっさりとかわされてしまう。
イッセーをかわしてまで見るってことは、少しは面白い内容なのか?
俺は祐斗に追いつき覗き見ようとするが、それより前に祐斗の動きが止まる。
あるページをまじまじと見つめていたんだ。その視線は、何か予想外のものを見つけた感じだ。
気になった俺とイッセーはそのページへと視線を落とす。そこにはイッセーの幼稚園時代の写真がある。
写真にはイッセーだけじゃなく、同い年に見える園児とそのお父さんらしき人が写りこんでいた。
祐斗が写真に写る親御さんの持っている物を指差す。
剣――いや、これって……。
「これ、見覚えは?」
俺と共に見ていたイッセーに祐斗が問う。その声のトーンがいつもと違う。
「うーん、いや、何分ガキの頃すぎて覚えてないけどな……」
「こんなことがあるんだね。思いもかけない場所で見かけるなんて……」
これって、エストとは違う歴史に残るような――
「これは聖剣だよ」
聖剣じゃないか。
俺の心中での思いと、祐斗の言葉が重なる。
いつもと違う、あきらかに。祐斗の声には、微かな憎悪が宿っている気がしてならなかった。
カキーン。
「オーライオーライ」
飛んでいった野球ボールをイッセーがキャッチした。
笑顔で親指を立てる部長。
「来週は駒王学園球技大会よ。部活対抗戦、負けるわけにはいかないわ」
活き活きしながら力強く言う。
そう、もうすぐ学校行事の季節なわけで、俺たちオカ研も旧校舎の裏手で練習しているわけだ。
当然俺も部員として含まれているので、この練習には絶対参加だ。
「次はノックよ! さあ皆! グローブをはめたらグラウンドにばらけなさい!」
「部長はこの手のイベントが大好きですからね」
うふふと笑いながら言う朱乃さんだが、はたしてそうなのか? 大好きっていうより闘志に燃えてるだけに見えるけど……。
「部長って、わりと子供っぽいところ多いですよね」
「まあ、今回に限ってはきっと、ライザーさまとのゲームの結果が悔しくて、拘ってしまうんでしょう」
ここ数日、部長は練習中「負けるわけにはいかない」といい続けている。そうか、ライザーに負けたことが悔しかったわけだ。
俺たちが話ている中でも練習は続く。
「次、祐斗! 行くわ!」
カーン!
祐斗の方へボールが飛ぶ。
「……」
コン。
うつむいていた祐斗の頭部にボールが落ちた。
あれぐらい、祐斗なら簡単に取れたはずなのに……?
「祐斗、どうかしたのか? 最近ちょっとボーっとしすぎだろ。疲れてるなら休めよ」
朱乃さんとの会話を中断し祐斗の元へ行き話しかける。
「……うん、ごめん。大丈夫だから」
少し間が空いてそれだけ返ってきた。
「祐斗、最近ボケっとしててあなたらしくないわよ?」
「すみません」
部長からの言葉に素直に謝る祐斗。
言葉ではそう言っているが、ここ最近の祐斗は少しらしくない。部活中でもどこか遠いところを見ていて、自分の世界に入って俺たちと話そうとしない。イッセーの話だとクラスでもそんな状態らしい。
こうなったのは間違いなくイッセーの家に行ってからだ。つまり、今回の祐斗の異変。これに「聖剣」が関わってるのは間違いない。
あの日から、すでに環境は変わりつつあった。
「部長の次は祐斗か? 部長の眷族みんな訳ありとかじゃないだろうな……」
家に帰って来た俺はベッドで横になりながらそんなことを考えていた。
まあ、小猫が訳ありなのはもう決定事項なんだけど。姉さんがこの家によく来る黒猫だからな。
「カイト、いま私のこと考えたにゃー」
「……」
「おーい? カイト?」
どこからともなく現れた黒歌が、俺を見下ろしている。
勝手に人の部屋に入ってくるなよ……。見ると、窓が開けられている。あそこから入ってきたのか。
「で、今日はなんの用だ」
「さっきの発言は無視するわけ?」
「なんの用だ?」
「ちょっと! ホントに無視する気かにゃ!?」
頬を膨らませ、そっぽを向く黒歌。面倒な!
「考えてたよ、考えてた」
「……始めっからそう言えばいいのに」
なにかブツブツ言っていたが、よく聞き取れなかった。大方、悪戯が失敗したとか言っているんだろう。いつも来るたびに俺にちょっかい出してくからな。
「そう言えばカイト、聞いたかにゃ?」
黒歌が普段通りの憎らしい笑顔を振りまく。
「なにをだ?」
「この町に、聖剣の使い手がやって来るらしいにゃー」
「……なに? なんでこの時期にそんな面倒な事が重ねて……」
「あ、あれ? なにかまずいこと言った!?」
黒歌が慌てるが、黒歌の情報事態はそこまでまずいことじゃない。ただ、時期が悪い。いま来られたら祐斗は間違いなく動くぞ……。
「黒歌が悪いわけじゃない。ただ、ちょっと面倒なことは起きそうだ」
イッセーの家での一件。俺はすぐに収まることだと勝手に思い込んでいた。でも、ここからさらに悪化していくことを、俺は無意識に感じていた。