ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
イッセーはそろそろケリをつけたかな。
俺は部室で、みんなの顔を思い浮かべる。イッセーが負けるなんてことは考えていない。
あいつなら、連れて帰ってくるだろ。
「この場所に、いつもの笑顔が帰ってくればいいんだけど……」
「ここに残っているくらいなら、会場に残って見ていればよかったんだ。今頃、おまえが居ないのを心配しているんじゃないか?」
横から声が聞こえてくる。
月光に照らされ輝く青銀の髪持つ女性、ティアマットだ。
俺と一緒に帰ってきてから、同じように部室でゆっくりしている。なんで部室に居るのかと言ったら、多分、あいつらが帰ってくるのを待っているんだろう。
俺も、いまの感情がよくわからない。帰ってくると言ったわけじゃない。だけど、なんとなく帰ってくる気がしてるんだ。
みんなが、笑顔で――。
「大丈夫だよ、ティアマット。俺のことは心配はされないと思う。みんなわかってくれてるさ。それになんだか、ここで待ってるのが楽しいんだ」
「……そうか。なら私も待っていてやる」
「別に先に帰ってもいいんだぞ?」
「先に帰る気はない……。おまえが帰らないなら私も帰らないからな!」
立ち上がり、こちらを指差すティアマットだが、どこか顔が赤い。肌が白いから赤く染まると綺麗なもんだ。でもなんで赤いんだ?
「ティアマット、おまえ顔赤いけど平気か? 風邪引いたり――しないか。ああ、でもドラゴンだけにかかる風邪もあるってオーフィスが言ってたっけ?」
「……風邪なんか引いてないし、赤くない!」
「そうは言ってもなぁ……」
俺は俺で心配なんだが、この分だと冷静に話すのは無理か。
「あのな――」
「そんなに心配なら、熱、測ってみればいいだろ?」
前髪をすくい額を見せる。
「なんだ、唐突に」
「おまえが心配そうにしているから、確かめさせてやろうと思っただけだ。はやくしろ」
「わかったって。わかったから」
俺は額に手を当てようとするが、ティアマットはそれをかわす。
「……。……おい、なんの真似だ?」
「し、しかたないだろ……。その、私たち龍は額同士を当てて測るものなんだ! だから額じゃなきゃ避けちゃうんだよ……」
俺が呆れて問いただすと、そんな答えが返ってきた。
だけど、言った本人は先程より頬を赤く染めながらの回答だった。なんなんだこの龍王さまは……。
「まあ、龍同士がそうしてるなら仕方ないよな。熱はないかもしれないけど、やっぱ心配だし」
俺は顔を近づけるが、やはりこれはかなり緊張する。
ティアマットは龍ではあるが人の姿になれるし、その姿はとても美しい。近くで見ているのが恥ずかしくなってくる。
「なあ、ティアマット。その、近づくたびに離れるの、やめてくれないか」
しかも、顔を真っ赤にさせたティアマットが、俺が近づくとどんどん後ろに下がっていくのだ。
「はっ!? あ、いや、すまない……。わかった、止まっているから、止まってるから!」
今度は目まできつく閉じ、その場で止まる。
ああ、うちの龍王は最近疲れているのかもな。もしかしたら本当に熱なのかもしれない。
「それじゃあ、少しだけ」
俺はティアマットと額を重ねる。
って、顔近い近い近い!! ほんの数ミリ先には目を閉じきった白に赤みがさした綺麗な顔がある。いまにも他の部分が触れ合ってしまうような距離。
だが、この時間は長くは続かなかった。
バサリ、とはためくような音が外から聞こえたからだ。
その音でティアマットが目を開け、俺との近さに悲鳴を上げ凄い速さで後退していく。
その後も、
「わ、私はなにをしているんだ? 勢いに任せてなんて行動を……。いや、でもあの場合はああでもしないと……ううーッ!」
よくわからないことを口走っては悶えている。
「ティアマット、いつまでそうしてる気だ? 俺ちょっと外行くぞ?」
話しかけても反応がないので、諦め一人で外に向かった。
出た先には、俺が待っていた奴がいた。
話し合っておいたわけではないのに、やっぱりここに来たのだ。
「イッセー、勝ったみたいだな」
笑顔でイッセーの隣にいる部長を見て、俺は安堵する。
どうやら、俺たちの思い描いていた結果は出たみたいだ。これでまた、この場所に笑顔が戻ってきそうだ。
「おう、当たり前だろ! まあ、本当はかなり危ないところだったんだけどな」
「それでも勝ってきたんだし、いいんだよ」
「そうか……そうだな! それよりカイト、いつからいなくなってたんだ? 会場探しても居なくて」
「悪いな、先に帰ってたんだ。今日で俺のこと、いろいろ知られちまったからなぁ……。だから、あの場所にいるのは心地悪くてさ。みんな好奇の目で見てくるんだ、いいわけがないさ」
そう、大体俺のことを知った奴はいい顔はしない。
「そうか? でも部長は」
イッセーが部長の方へ視線を向ける。
「私は、あなたのことがわかって良かったと思ってるわ。途中で純粋な人間じゃないことに気づいてはいたの。朱乃に調べさせたりもしたのだけれど……なにもわからなかったわ。でも、今日それがわかった。なにより、私たち悪魔の仲間なんですもの。私の眷族と同じように大切な仲間だわ」
部長は曇りのない笑顔でそう言ってくれる。
俺、純粋な悪魔ってわけでもないのにな……。むしろ、悪魔とは認識されない程だ。バカみたいに優秀な因子があるだけなのに。それでも、仲間と言ってくれた。
「カイト。ライザーとのレーティングゲームのとき、ありがとう。ゲームには負けちゃったけど、あなたが居てくれてよかったと思ってる」
「そうですか。それはなによりです」
「だから、あなたはこれからも私たちの部員よ? 正体なんか関係なくね」
……全く、こっちの思ってることは全部お見通しなんですか?
「はい、これからも、よろしくお願いします!」
だから俺は、それを受け入れた。
それと同時に、四つの影が浮かんでくる。
「あらあら、カイトくんの件も無事済みましたね、部長」
「これからもよろしく、カイトくん」
「……よろしくお願いします、カイト先輩」
「私からもお願いしますね、カイトさん」
朱乃さん、祐斗、小猫、アーシアが口々に言って来る。この中にも誰一人、俺のことを深く追求して来たり、恐怖や奇異の目を向けてくることはなかった。
久しぶりかもしれない。家に居る連中以外で、こう思うのは。
「俺の方こそ、改めてよろしく」
いまこの場に居ることが、本当の意味で楽しく思えるのは――。
俺の正体がわかった上で普通に接してくれる仲間が、家以外で出来たのは本当に久々のことだ。
「さて、それじゃあいまから朝までパーティーの続きといきましょう、部長!」
「こんどは私たちだけで楽しくですわね」
「ならカイトくん、イッセーくんの今日の活躍を台詞付きで教えてあげるよ」
「おい待てこのイケメンヤロウ! って待て! こんなところで『騎士』の力使うんじゃねえよ!」
「……イッセー先輩、うるさいです。あ、カイト先輩。変わりに私が話しますから向こうでお話しましょう」
「小猫ちゃん!?」
「あらあら、私もお話したいですわ」
「こ、こら朱乃! 私のイッセーの話は私の中だけにあればいいの!」
「会場に残らなかったカイトくんに教えるだけですのに?」
いつしかティアマットも加わり、イッセーをからかっていた。
あ、イッセーが祐斗を追いかけて転んだ……。
「い、イッセーさん大丈夫ですか!? 転んで打ったところを見せてください! すぐに治療しますから」
全員が全員、思い思いに話しては忙しなく動き回っている。俺の周りを、みんなが駆けて行く。
笑顔だったり、焦ったり、怒ったり。
次々変わる表情に、俺は戻ってきたことを確信した。
二日前に無くしかけたこの場所の暖かさは、もうとっくに戻ってきていたんだ。
今回で原作二巻が終了です。
今回は半分くらいティアマットの話だったりして、内容的にもなんだこれは! って感じになりましたが(いつものことである)次は番外編か原作三巻に入っていきます。
祐斗くんがカイトのエストを破壊しないのは聖剣であっても普通に存在するべき聖剣ではないので、認識に違いがあるんですね、きっと。
この世界では伝説に残るモノではありませんから、憎悪がカイトに向くことはありません。