ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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10話

 そのまま会場へ行きかけたイッセーを止め、出口に向かった俺たちは、いま、会場から離れた森に来ていた。

「おいカイト、速く行かないといけないんじゃないのか?」

「落ち着けイッセー。もうすぐ着く。そしたら、すぐに会場に戻るさ」

 何度も後ろを振り返り会場の方へ目を向けては前へと向き直る。おまえは恋したばかりの乙女か……。

 森の中を進んでいくと、開けた場所に出た。

「お、着いたかな。ティアマット、遅くなったが、予定通り頼むよ」

「ああ。それで……」

 待機してくれていたティアマットがイッセーを見る。そして、

「その赤龍帝も乗っけないとダメか?」

 とても嫌そうに言った。

「いや、だから何度も言ったじゃないか。頼むよ、な?」

「私はドライグとは色々あったんだぞ……。そんな相手を宿した人間を乗せないといけないのか……途中で振り落としても恨むなよ」

「それで構わないんじゃないかな。じゃ、行こうか」

「……全く。終わったら、頭くらい撫でろよ……」

 顔を真っ赤にしてそう言い残し、ティアマットは俺たちから少し距離を取った。

 そして人間の姿から龍の姿へと変わる。

「イッセー、行くぞ。ティアマットの背に乗れ」

「ま、待てって! いまあの龍王俺のこと凄い嫌そうな目で見てたし! それに最後! 振り落とすってなんだよ!!」

 うるさいな……。

「イッセー、速く行かないといけないんだろ? とっとと乗れよ」

 俺はイッセーをティアマットの背に無理やり乗せる。すると、すぐさまティアマットは翼を羽ばたかせ、宙に浮き始める。

「さあ、急いでライザーの婚約パーティーを潰しにいくか」

「だったらあのまま会場に行けばよかったじゃないかァァァァァァッ!!」

 夜空を駆けるティアマットの背で、イッセーは叫んだ。

 この後、本気で何度かイッセーの身に危険が迫ったのは、今は置いておこう。

 

 

 

 その後会場に降り立った俺は、隣で着地に失敗したイッセーが痛そうに足を震えさせているのを確認した。

 会場内は俺たちの突然の来訪に唖然としている。誰一人、声を上げようとしない。

「おいカイト! さっきティアマットに開けさせた穴はなんだったんだよ!」

「ん? 特に意味は無いよ。言っただろ、潰すって。だから会場から破壊しようかと」

「待て待て待て!? そしたら俺の方のやるべき事が実行できないだろ!」

 会場内に響き渡るのは、俺とイッセーの会話だけだ。

「わかったって。とにかくイッセー、言う事、あるんじゃないのか? 俺と話してても状況は変わんないし、目的だけでも言っておけ」

 イッセーの背を押し、俺の前に立たせる。

 ライザーの横に居る部長が、小さく「イッセー」と口を動かしたのが見えた。

「ここにいる上級悪魔の皆さん! それに部長のお兄さんの魔王さま! 俺は駒王学園オカルト研究部の兵藤一誠です! 部長のリアス・グレモリーさまを取り戻しに来ました!」

 この発言に、周りの悪魔たちが騒ぎ始める。だが、イッセーはまだ止まらなかった。

「部長――リアス・グレモリーさまの処女は俺のもんだ!!」

 そう、自信満々に宣言した。 

 瞬間、悪魔の皆さまの表情が困惑に包まれた。

 周りの連中と何事かと言い合ったり、なんのバカ騒ぎだと目元を引きつらせたり。

 中でも、一番困惑していたのはライザー、グレモリー家の関係者たちだ。

 部長とライザーにどういうことか話を聞いている。

 その困惑を解消しにかかったのは、紅髪の男性だった。

「私が用意した余興ですよ」

 一番奥にいた男性がこちらに歩いてきて、周りの悪魔を静かにさせる。

「お兄さま」

 部長がその男性をそう呼び、近くに寄っていく。

「お、お兄さまぁぁぁぁぁっ!? か、カイト! あの人がま、ま、ま、魔王サーゼクス・ルシファーさまだってよ!?」

 隣のイッセーが小声で俺に驚きの程を伝えてくる。

 こら、俺を揺さぶらないでくれ。わかった、わかったから……。

「ドラゴンの力が見たくて、ついグレイフィアに頼んでしまいましてね」

「サーゼクスさま! そのような勝手は!」

 いままで黙っていた悪魔の方々が慌てて口を挟んでくる。

「いいではないですか。まずは少しくらい話をしても」

 しかし、相手をする気はないのか横を通り過ぎ、俺たちの前にまで歩いてくる。

「きみは、人間らしいね。この間のレーティングゲーム、人間とは思えない圧倒ぶりだったのをよく覚えているよ」

 魔王さまは、多少なりとも俺に興味があるらしい。瞳の奥に、強い探究心を感じる。

「俺のことでなにか問題がありますか? 俺はここに、イッセーと共に部長を取り戻しにきただけなんですが。俺のことなど、関係ないでしょう?」

 婚約パーティーを潰しに来たと言ってたら、どう反応したかな。

「つまり、きみはライザーくんと戦いたいということかな?」

「いえ、俺にその気はありません。決めるのはイッセーの役割なので」

「ふむ……。つまり、ドラゴン使いくんとライザーの一騎打ちをさせたいということかな」

 本当は、俺も潰してやりたいところだけど。

 レーティングゲームでのイッセーの姿を見せられると、やらせないわけにはいかないんだよな!

「その通りです」

「いいだろう。だが、それなら私も見返りが欲しい。きみの要求を叶えるために、対等な取引といこう」

 取引か……。できれば、なにもなく事が進んで欲しかったな。でも、今更退けないし。

「わかった。それで、魔王さまが俺に望むものはなんだ?」

「い、いけません、サーゼクスさま! 人間などと――」

「私も一人の悪魔です。なんの問題があると言うのですか?」

 その一言で片付け、再度、俺に視線を向ける。

「私が望むことは、きみの存在とはなにか。これを聞きたいだけだよ。妹もきみの存在を不思議がっていてね。私も興味をもったというわけさ」

 ……正直、どんな無理難題を押し付けられるかと悩んでいた。それが、俺の正体を明かすことで承諾されるだと? 

「正直、まだ部活のみんなには明かしたくなかったんだけど……。まあ、それでイッセーが思う存分戦えるなら、いい取引かな」

 俺は呼吸を落ち着け、身体から緊張を抜く。

「俺の中には、二つの神器がある。その一つ。<真実を貫く剣>が、俺の存在を証明するモノだ。<真実を貫く剣>は元々、魔王の分身みたいなものなんだよ。そしてこの神器を宿す者は例外なく、魔王の因子が身体に含まれていて、その因子を活性化させて魔王にさせたいんだと。俺自身も、ある程度は魔王の因子についての知識は得ている。俺の身体機能は常人のそれを遥かに凌ぐし、寿命も少なくても数千年はあるはずだよ。翼は無いけどさ……これ以上は詳しく言わないよ」

「……それは興味深い話だね。きみ自身が魔王としての素質もあり、神器がその手助けをしているのかな。なるほど、人間らしくないとリアスが思うわけだね」

「思われてないんだな、やっぱ……。それともう一つの神器、<魔王殺しの聖剣>。俺が未熟な所為か、本気でやっても本来の力の一割しか出せないんだけど……こっちは名前の通り聖剣なんだが、俺も詳しく全部知ってるわけじゃないんだ。神器だから、聖剣と言っても実在していた聖剣じゃないからなにも情報が残ってなくてね。ただ一つ言えるのは、この神器は元々聖女が扱う――いや、聖女のみが扱える剣なんだ。つまり、俺は魔王であると共に、聖女の因子も持ってるってこと」

 最後の一言に、会場全体がざわめき出す。

 当然か。魔王の因子を持つ人間など聞いたことが無いだろうし、それに加えて聖女だもんな。それもエストを扱えるのは最高位の聖女のみ……俺、男なのに……。辛いよ。

「なるほど。ありがとう、いい話が聞けたよ。それで、君はこれからもリアスたちの仲間でいてくれるのかい?」

「それはもちろん。ですが、なんでそんなことを聞くんですか?」

 俺は疑問に思った。なんで俺に仲間でいるかなんて聞くのかを。

 それに対しサーゼクスさまは、ほんの少し茶目っ気を出しこう言った。

「いやなに、魔王聖女くんが悪魔陣営に入ってくれるかどうか知りたくてね。いい返事が聞けたことだし、きみの提案を呑むとしようか」

 魔王、聖女……。なんか酷い名前つけられたよ、俺。今回の一件が終わったらイッセーを殴ることを決めた。

 と、イッセーを見ると、周りには部員のみんなも集まってきていて俺を不思議な生き物を見るような目をしていた。珍獣扱いか……。

「カイト、俺もドラゴン宿ってておかしな存在だけど、おまえも相当変わった存在なんだな」

 イッセーは「俺にも仲間がいたんだなー」となんだか嬉しそうにしている。

「イッセー、そんな話は後できっちり忘れさせてやるからいまは用件済ませて来いよ」

「おう、わかってるって! って待て! 忘れさせるってなにする気だおまえは!」

 こんなときまで騒ぐなよ。

「いいからさっさと行けって」

 イッセーの後ろに回り、強引に背中を押し、サーゼクスさまの前に連れて行く。

「じゃ、あとはこいつの話を聞いてやってください」

 サーゼクスさまにはそれだけ言い残し、数歩下がる。

「ドラゴン使いくん、私はこれからある余興を行おうと思う。可愛い妹の婚約パーティーは派手にやりたいと思うのだよ。ドラゴン対フェニックス。最高の催しだとは思わないか? さあ、ドラゴン使いくん、ライザーと戦う気はあるかな」

「当然です。俺は、そのためにここに来たんですから」

 もう誰も、サーゼクスさまを止めようとしなかった。無駄だと悟ったのだろう。先程からサーゼクスさまは正論染みたことを言って他の悪魔を黙らせているが、違うんだ。初めから、聞く気が無いんだ。

 あの人、本当は部長をライザーと婚約させる気ないんじゃないか?……だったら、俺も自分のこと話さなくても上手くことは運んだんじゃ……。ハア、とっとと帰って寝るか。

「ドラゴン使いくん、お許しは出たよ。ライザー、いいかな」

「いいでしょう。このライザー、身を固める前の最後の炎をお見せしましょう!」

 凄いやる気だな。でもこれで、イッセーの戦いの舞台は整った。

「ドラゴン使いくん、キミが勝った場合の代価は何がいい?」

「サーゼクスさま!?」

「なんということを!?」

 これには流石に非難の声が身内の方々から上がる。だが――

「悪魔なのですから、何かをさせる以上こちらも相応のものを払わねばならないでしょう。先程の魔王聖女くんもそうだったじゃないですか。さあ、キミ。なんでもあげるよ。爵位かい? それとも絶世の美女かな?」

 魔王さまは身内の声にすらお構いなしだ。というか、この状態で反感を抑えるために俺との取引をしたな、あの人。頭が回るって言えばいいのか、見掛けによらず人が悪いと言えばいいのか。

「リアス・グレモリーさまを返してください」

 迷いのないイッセーの一言に満足したようにサーゼクスさまは笑みを浮かべる。

 ああ、やっぱりこの人、始めっから部長の味方だったのか。

「わかった。キミが勝ったら、リアスを連れていけばいい」

 俺との取引、イッセーとのやり取りから、ライザーとの決闘がこの場で執り行われることになった。

「ありがとうございます!」

 イッセーは頭を深く下げて、会場の奥へ消えていくサーゼクスさまを見送った。

 

 

「イッセー、ここから先はおまえの戦いだな」

 決闘に備えるイッセーに声をかける。

「ああ、ここで必ず部長は救ってみせるさ」

「そうか。なあイッセー、おまえその左腕、信じていいんだよな?」

「どういう意味だ?」

「勝って来いよ、イッセー。勝って、ちゃんと連れ戻して来い。部長を。笑顔を」

「ああ!」

 俺たちは拳を重ねる。

「じゃあ、俺行くよ」

 そのままイッセーは転移していった。

 俺は誰にも気づかれぬまま、会場を後にした。大丈夫、もういいんだ。もう、あそこに俺が残る必要はない。俺の交渉は終わったんだ。

「結果、見届けなくていいのか?」

 律儀にも待ってくれていたティアマットがそう言ってくる。

「いいさ。イッセーなら、やってくれる」

 転移する前のあいつの表情を思い出す。

「大丈夫。結果はきっと、俺たちが思い描いたものになるはずだから」

 




カイトくんのことがイマイチよくわからんことになってるので、これ以降の話でまた細かく掘り下げていこうと思います。

ティアマットが素直にデレた姿を見たい。

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