ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
目を開けると、そこにはいつもの部室の風景があった。
でも、そこには誰も居ない……。
祐斗、朱乃さん、小猫、アーシア、部長。そしてイッセー。みんなの笑顔がここには足りない。
俺は、俺たちはレーティングゲームに負け、唯一自分で動けた俺は一人、転移され帰ってきた。
最後は酷い決着だった――いや、戦略としては妥当なのかもしれない……。
これから先、みんなが怪我を治し帰ってきても、同じ笑顔が見れるだろうか?
イッセーは、納得するだろうか? みんなは、どうなんだろう?
あの時ライザーを倒せたのは俺だけだった。
そして、倒せなかったのも同時に俺だ……。
ふと窓の外を見ると、俺の代わりだろうか。大粒の雨が、夜空に涙を浮かべていた。
俺が泣いている暇は無い。そう言うように一瞬のうちに大きな音を立て降りしきった雨は、ものの数分で止んだ。
――夜空には、星が瞬いていた。
「そう、か。まだ終わってないんだよな……。まずは準備からするか。あとは、イッセー次第ってところか」
俺は暗くなる気持ちを押さえ、部室を後にした。
そうだ、レーティングゲームには負けたけど、まだ終わりじゃない。
ライザー、人間と龍は怒らせると怖いんだぜ?
俺は急いで、家に向かって走りだした。
「ティアマット、いるか!」
家に着くなり大声で叫ぶ。
「あ、おかえりにゃん。ティーちんがどうかしたの?」
「ティー? 誰だよ」
出迎えてくれた黒歌は内に存在しない名前を挙げた。
「ティアマットだから、ティーちん。あ、龍王ちんの方がよかったかにゃー?」
「いや、それもうどの龍王指してるのかわかんねぇし……。それで、ティアマットはいるのか?」
「もちろんいるにゃー」
黒歌はそれだけ言い、リビングに戻っていく。
「あ、そういえば」
再び扉の向こうから顔だけ出し、俺に問うてくる。
「レーティングゲーム、どうだったの?」
「…………負けたよ」
俺はいくつもの感情を飲み込み、それだけ口にした。
「ありゃー、負けかぁ……。カイトが居ても負けるなんて不死鳥ってそこまでの相手かにゃ?」
「最後は、不意打ちみたいなもので『王』を討たれたよ……」
「ふーん……。なんかつまらない結末にゃー」
関心を無くしたのか、黒歌はそれ以上のことを聞いてくることは無かった。出ていた顔も扉の向こうに戻っていき、声が聞こえなくなった。
「なんだ、あいつは。向こうから聞いておいて」
「黒歌、興味なくした。ライザーとカイトの戦闘の興味、失せた」
声がした方へ視線を向けると、暗闇の向こうからオーフィスがやってくるのが見えた。
「カイトとの戦闘から逃げたライザーとの勝負に、興味、無い」
「そうだな。でも、俺はまだライザーに用事がある。あいつをこのまま、勝ち逃げさせる理由が無い」
「カイト、力望むなら、我、力授ける」
オーフィスはそのまま俺の側に寄ってきて、唇を近づける。
でも、
「いいよ、オーフィス。いまは、要らない。あいつは、俺の力だけで潰せる。それに、今回はもう、俺の出番は微々たるものだよ」
「…………そう。なら、我、控える。カイト、なにか企んでるのわかった。それ終わったら、起こして」
再び闇の中に消え、姿をくらますオーフィス。というか、家の中に擬似空間を造り上げたな、あいつ……。普通に寝るならベッドで寝てくれ……。
二人の妨害(事情聴取?)から解放された俺は、やっと用件を伝えるべき相手のもとへ来ることができた。
「よおティアマット。いまいいか?」
「ああ。カイトか。どうした?」
青銀の髪を腰まで伸ばした女性――ティアマットが振り返り俺を見る。
肌は病的な程白く、すぐにでも壊れてしまいそうだが、吊りあがった目に宿る悪戯を企むような、闘志に燃えるような感情が、その儚さとは対象的な印象を与えてくる。
「ちょっと頼まれて欲しいことがあってさ。できれば、派手にいきたいじゃん?」
「ほお、派手にか。いいだろう、話を続けろ」
俺はティアマットに、ある一つの役割を告げた。
この提案は、案外簡単に承諾された。
俺はそのまま家で休み、少し経ってから兵藤家に向かった。
ちなみに、寝ている間に黒歌が膝枕をしていたり、オーフィスが側で眠っていたり、火猫のスカーレットが腹の上で寝ていたりしたのは思い出したくない。
ああ、たったいま思い出しちまった……。あいつら、あの後俺だけティアマットに何故か怒られたんだぞ。「なんで私を混ぜない!」「私も一緒に、その……あーもう! このバカ!」ってなんか八つ当たり気味に怒られたんだぞ……。黒歌、許さない!
オーフィス? いや、怒れないし……。あの寝顔を見れただけでもむしろ良かった。スカーレットは火猫だし、怒る理由が無い。つまり、黒歌許さない。
なんて考えてる間に兵藤家に到着した。
ライザーとのゲームから二日経ったいま、祐斗たちや部長はどうしただろうか?
ドアチャイムを鳴らす事なく勝手に上がり込み、イッセーの部屋へと行く。
部屋の前に立つと、中から話し声が聞こえた。
「……納得されていませんか?」
声からして、グレイフィアさんだろうか。
「ええ。勝負が着いたとしても、俺は納得できません」
もう一人は当然、イッセーだ。
「リアスお嬢さまは、御家の決定に従ったのですよ?」
「わかってます! わかってはいるんです! それでも俺は――」
イッセーとグレイフィアさんの話から、俺はイッセーがゲームの結果を知ったことを悟った。
悔しそうにする声が、俺にまで聞こえてくる。
そして、その後も話は続く。
俺はその中で、今日、部長とライザーの婚約パーティーが開かれること。祐斗たちは回復していて、既にその会場に向かっていることを知った。
そして、イッセーの意志も。
グレイフィアさんはイッセーに、魔王さまからの言葉も伝えていた。
「『妹を助けたいなら、会場に殴りこんできなさい』、だそうです。一誠さまが寝ておられる間、あなたの中から強大な力を感じ取りました。ドラゴンは、神、悪魔、堕天使、そのどれとも手を結ぼうとしなかった唯一の存在です。忌々しきあの力ならば、あるいは……」
それを最後に、扉の向こうに居るグレイフィアさんの気配は無くなった。
俺はそれを見計らって、部屋へと入る。
「イッセー、具合どうだ?」
「カイト! どうしてここに?」
イッセーは驚いた表情を見せる。
「お迎えだよ、お迎え。いまからライザーの邪魔をしにいく。婚約はいつかと思っててさ、そのパーティーが今夜行われるなら、もうそこが最後のチャンスだろ?」
イッセーが握る魔法陣が描かれた紙を見る。確か、婚約パーティー会場に行けるんだよな。
よし、ティアマットはそこで待機させよう。
「カイト、おまえなに言って――」
「部長を連れ戻す、ライザーを叩きのめす。それが今日やるべきことだ。俺は行くけど、どうする?」
「どうするって、なにをだ?」
イッセーを正面から見据え、ハッキリと口にする。
「イッセー、ライザーを倒す気、あるか?」
俺がやるのでは意味が無い。あくまでも、イッセーがやらなければならない。
ライザーを倒し、部長を救うのはイッセーの役目。あくまでも、ライザーに喧嘩を売ったのはイッセーだ。俺じゃない。
「当たり前だ。ライザーは俺が倒す。部長を、取り戻すために!」
決意を宿した目だ。迷いも無い。
「わかった。なら、行こう。少し時間やるから、準備しとけ」
それから三十分後、俺とイッセーは魔方陣により転移を開始した。
転移先は広い廊下で、奥には巨大な扉が見える。
「あっちか!」
イッセーはガヤガヤと騒がしい方へ足を向けるが、俺はイッセーの襟元を摑み反対側に歩き始める。
「ちょ、おいカイト! そっち反対だろ!? なにやってんだ離せよ!」
「うるさいぞ、静かにしてろ。それに、いいんだよ。俺はこのパーティーを邪魔しに来たんじゃない――潰しに来たんだ」
俺はイッセーを連れ、出口を目指した。
さあ、派手に壊しに行くぞ、ライザー!
<祐斗Side>
僕、木場祐斗は部長とライザーさまの婚約パーティーに出席していた。
スーツを着込み、朱乃さんと小猫ちゃんと、会場の一角にいる。
朱乃さんも小猫ちゃんも、パーティーということもあり、和服、ドレスを着込んでいる。
ついさっきソーナ会長とも話しをした。
会長は僕らのゲームを素晴らしいものだったと評価した。同時に、負けは負けだとも言っていたね。それは部長が一番わかっていることだろう。
会場を見渡すと、他の上級悪魔の方々も多く来ている。中にはフェニックス家、グレモリー家の親方も見える。
その中でも少し高いトーンで話しているのが、レイヴェル・フェニックスさま。ライザーさまの妹だ。なんでも、「お兄さまったら、ゲームでお嫁さんを手にいれましたの」だそうだ。
好きに言ってくれるじゃないか。
最後の一撃。あの部長を襲った一撃は、カイトくんとの勝負を投げ出し辛うじて拾った勝ちだ。もちろん、戦術的には正しい行動だった。王を取れば勝ちなのだから、それでいいのかもしれない。でも、あの方は逃げたんだ、カイトくんから。人間でありながらあの強さを誇る彼は、一体どうやってああも強くなったのだろう。あの強さは、どこから出ている力なんだ……。
彼は一体――
僕の考えが続くよりも先に、会場に炎が吹き荒れた。
その中心から出てきたのは、ライザーさま。
「冥界に連なる貴族の皆さま! この度、名門グレモリー家の次期当主、リアス・グレモリーと私、ライザー・フェニックスの婚約という素晴らしき瞬間を共有していただきたく、招待させていただきました。それでは、紹介いたしましょう。我が妃、リアス・グレモリー!」
グレモリー家の魔方陣がライザーさまの横に浮かび上がり、徐々に部長の姿が現れる。
そして、部長の姿が完全に見えるようになったのと同時に、
ドゴォォォォォォンッ!
会場を大きな衝撃が襲った。
その衝撃は会場の天井の一角を綺麗に消し飛ばした。
「よっし、やったぞイッセー! まだ部長が出てきただけみたいだ」
「お、おお! それはいいんだけどこれやり過ぎじゃないか!? 俺この後ちゃんと話聞いてもらえるんだろうなぁ!!」
「……ああ、ちゃんと聞いてもらわないと困るよ」
「おい赤龍帝、あまり私の上で騒ぐな。落とすぞ」
「あ、すいませんッ! って、カイトはいいのか!」
「俺はほら、ティアマットの仲間だから」
「俺は!?」
姿は見えないが、僕のよく知る声が聞こえてくる。
ハハッ、やっぱり来たんだね。
「あらあら、派手な登場ですわ。困ったものですね」
「……。これ、どうするつもりなんですか」
朱乃さんは笑顔で、小猫ちゃんは無表情に、上を見上げている。でも、二人の声音はどこか嬉しそうだ。
「おい、ティアマットだ! 龍王がなんでこの会場を!?」
「いや待て。確か最近人間が使い魔にしたという噂が!」
「なんだと! ふざけるな! そんなことがあるはずがない! いいからはやくアイツをここから遠ざけろ!!」
会場の上級悪魔の方々が慌てた様子で大声を上げ始める。
だけど、もう遅い。ここまで来られた時点で、彼らの侵入は確実だろう。
「おい、なにをやっている! せっかくの婚約パーティーに邪魔者を入れるな!」
ライザーさまが苛立ち始める。
「俺の大事な時間を――」
「ふざけるなよこの焼き鳥がァッ! 俺たちはこのパーティーを潰しに来たんだよ! こんなふざけたパーティー、いますぐ終わりにしてやる!」
「お、おいカイト? もしかしてここからか!? ここからなのか!? ま、待っ――」
次の瞬間、消滅した天井とは反対側の天井を突き破り、二つの影が会場に振ってきた。
ここでティアマット人型が出てきましたね。
髪の色は銀色に青を重ねた感じです。なので日の光を浴びるとキラキラ輝きます。
さあ、ここで一つ問題が。なんでカイトくんは消し飛ばした天井スルーしてまだ壊れてない天井壊して入ってくるし!