ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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旧校舎のディアボロス
1話


 目が覚めた俺は、うんざりした気分になった。

 結局、日が昇ってから眠りについたので、睡眠時間に対してはどうこう言うつもりは無い。

 悪いのは自分なので、そこの区切りはしっかりとつけれている。

 では、何が問題なのかと言われれば、もちろん目の前で寝転んでいる黒歌だ。

 家で寝ていくのはいい。これはよくある事だ。

 なんなら飯をたかっていくのも大目に見よう。食費は入れてくれてるしな。あと、ルフェイが料理していくことがあるからそれでプラスになっている。

 だけどこればっかりは許されないな……。

 黒歌は浴衣に似た服装を好む。それが原因でこういう事態になるのだが、この光景はできれば同居人には見せたくない。

 そもそも、なぜこいつは人の家に上がりこんでこうも無防備でいられるのか疑問だ。

 いやいや視線を黒歌に向けると、浴衣は綺麗にはだけ、艶細やかな肌が一望できた。できたが、なんだろう。全然嬉しくない。

 なんでこいつはここまで警戒心が無いのだろうか。いまのうちに簀巻きにして川にでも……なんて思っても殺気を出せば起きるんだろうな。こいつらが暮らす世界はそういう場所だ。

 俺も、例外ではいられない。

 せめて、そんな時間がやってくるまでは平穏でありたいものだ。

「おい黒歌、起きろ。起きないと見つかった時に俺が彼女に殺されるだろ。ただでさえ頭の中で二人が騒いでるんだ!」

 俺が何度読んでも黒歌が起きる事は無かった。

 揺さぶろうが耳元で声を上げようが、効果なし。

「おい、ふざけんな! ここであいつまで起きて来てお前の真似しだしたら殺すぞ!」

「にゃー……」

「……この駄猫……ッ!」

 普通の起こし方では起きないと判断した俺は、洗面所からバケツいっぱいの水を汲んできて、

「さっさと起きろこの駄猫ヤロー!!」

 躊躇なく黒歌の顔にかけた。

「にゃ、にゃー!? ちょっと、なにするのよ!」

「やっと起きたか。普通に起きなかった自分を恨めよ?」

 眠そうに目をこすった黒歌は、まだ不満そうに俺を睨んでいた。

「俺も最初は優しく起こしていたんだぞ」

 睨んでこないでほしい。でないと、ついつい神器出しちゃうかもしれないだろ。俺の意思に関係なく。

「カイトはもっと私にも優しくする事を覚えるといいにゃ」

 おやおや、なにをおっしゃいますやら。困ったものですねぇ。

「十分優しくしていますですよ」

「嘘にゃっ!?」

「うん」

「即答された!」

 うるさいので無視という選択を選んでもいいかな。

 さっさと朝食作らないと。

 

 実行したはいいけど、その後黒歌が痺れを切らし、後ろから抱きついてくる。

「危なっ!」

 おかげで調理中の包丁で自分の指を切り落とすところだったぞ……。

「おい、人の指をなんだと思ってる?」

「見えなかったにゃー」

 当然のように言われてしまった。

 振り返って確認してみるが、確かに黒歌の居た位置だと若干見づらいのかもしれない。って、流されるなよ。人にいきなりひっついてくる奴が悪いに決まってるだろ。

「ただ、せめてひっつくなら濡れたままは勘弁してほしかったな」

 黒歌はいまだ身体中を濡らしたままだった。どうして拭いてこないかな。

 悪魔だから普通の風邪にはかからないだろうけど、寒くないのかこいつは。

 というか、

「お前はさっさと身体拭いて服着て来い! 肌色成分100%は目に悪いんだよ!!」

 照れ隠し? そんなわけ……ないだろ。

 決して押しつけられた身体の弾みとか、見えてたモノに照れたわけじゃない。

 自分が死なないためにも、必要な事なのだ。

 今朝も、頭の中では二人の少女が互いにあーだこーだと言ってくる。中には、女の子が言っていい範疇を超えた単語が混ざって聞こえてくる。

 頭が痛い。

 物理的、精神的に。

 黒歌をなんとか引き離せた(投げ飛ばした)俺は、手早く調理を済ませ、黒歌が寝ていた場所まで移動する。

「さて、事後処理すっか」

 雑巾で床の清掃を開始した。

 水浸しになったら拭かないとね。

 朝からこんなんだと、今日の授業は最近流行りの睡眠学習になりそうだな。

 既に眠い。黒歌には人に眠気を移す術があるのかもしれない。

 実際、着替えてきた黒歌はピンピンしていて、さっきまでの眠そうな気配は感じられなかった。

 というか、大胆に着崩すんじゃねー……。それだと服着ていても変わらないだろ。

「痴女め」

「なんか言ったかにゃー?」

「……痴女」

「そこ、普通は『なにも言ってないよ』って誤魔化すところだと思うんだけど」

 バカめ。俺がおまえの対応に対して普通の対応をすると思うか?

「否定しないからおまえ痴女決定な」

「……カイトッ!」

 珍しく黒歌が怒ったふりをした。ああ、心から否定してこないのな。

 その後、同居人が起きてから学校へ向かった。

 黒歌はその頃には家から出ていて、姿が見えなくなっていた。

 気がつくと居たり居なかったりなので、その辺は気にしていない。気にしだすと疲れるだけだ。

 けど、猫って自由でいいよな。

 ちなみに、今日一日の授業は睡眠学習したようだ。なにも覚えてないけどな!

 あれ? 俺学習してたんじゃなかったのか?

 すでに放課後だし、どこで時間が飛んだんだか。謎だ。

「俺寝すぎだろ……。っと、早く帰るとするか」

「いや、少し待ってくれないかな」

 席を立つと、横から声をかけられた。

 目線を横にやると、そこにいたのは学校一のイケメン王子こと、木場祐斗だ。

 確か同学年だったが、クラスは違ったはず。

 そいつの登場とともに、廊下、教室の各所から黄色い声援が沸く。

 やだ、今すぐ帰って同居人でも黒歌でもいいから癒されたい。男の登場にはなにも癒しを感じれない。

 でも、そうはいかないのだろう。

「俺に用?」

 少々嫌そうに返す俺だが、気にした風もなく、こいつは笑顔を向けてくる。

「リアス・グレモリー先輩の使いできたんだ」

 なるほど。俺はこの一言で全てを理解した。行動力のある人だ。

「昨日の今日で話がしたいって事かな。こっちの予定も考えて行動してほしいね」

 木場は困ったような笑顔をした。

 彼に八つ当たりしても無駄か。

「まあいい。で、俺はどうしたらいいんだ?」

「僕についてきてほしい」

 これは、今日も家に帰るのは遅れそうだな。誰かが世話をしておいてくれると助かるんだけど。

 ほとんどの来るのが使えない奴って決まってるからなぁ。

 わずかな望みにかけて、一人の男性に連絡をしておく。

「さて。待たせたな。行こうか」

「うん。じゃあ、ついてきて」

「了解」

 木場のあとに続きながら向かった先は、校舎の裏手だ。木々に囲まれた場所には、旧校舎と呼ばれる現在使用されていない建物がある。

 外見は木造で古いけど、窓が割れたりはしていないし、壊れた部分も一目ではわかり辛い。手入れが行き届いている。

「ここに部長がいるんだよ」

 木場はそう告げた。

 部長ね。

 リアス先輩は何か部活に入っていたかな?

 学校の先輩なんてどうでもよかったし、情報なんてさして持っていない。人間らしくないってことだけは雰囲気から感じていたが……。

 知っていたなら黒歌か彼女でもいいから教えてもらっとくんだったかな。

 木場に続いて旧校舎を進み、階段を上る。さらに二階の奥まで歩を進めた。

 そうこうしているうちに目的の場所に着いたのか、木場の足がとある教室の前で止まる。

 視線を上げた先。戸にかけられたプレートにはこう書かれていた。

『オカルト研究部』

「すまん、今すぐ帰っていいか? なんか入る気無くしたわ」

「そ、そう言わずに。もうここまで来たんだから」

 流石悪魔。高校生でもこんな部活を作りたいのか!

 ええい、離せ! 俺は帰るんだ!

「部長、連れてきました」

 引き戸の前から木場が中に確認を取ると、「ええ、入ってちょうだい」と先輩の声が聞こえる。

 チッ、遅かったか……。

 木場が戸を開け、仕方なしに、あとに続いて教室に入る。

 と、帰りたい度は更に数段跳ね上がった。

 室内、至るところに文字が書き込まれていた。中央には巨大な魔方陣。

 これらさえ無ければいいのに……。ああ、普通に生きたい。

 あとは、ソファーとデスクが何台かあるな。

 魔方陣から目を背けた俺は、ソファーに座る一人の少女に気づく。

 随分小柄だな……。いや、家にいるあいつも相当小柄か。

 というか、あの子知ってる子だ。

 確か一年生。

 それに黒歌がたまに話す妹と外見が似ているような……?

 あいつの話を思い出していくと、何度か聞いたことのある名前が浮かび上がってきた。

 白音だったか。あの子も苦労したんだろうな。

 でも確か学校だと搭城小猫って呼ばれてたっけ。

 うん、そっちで呼ぼう。どこから素性がばれるかわかったものじゃない。

 黙々と羊羹を食べている。いつ見ても眠たそうな表情だな。

 そういえば、誰かが言ってたっけ。超がつくほど無表情な女の子だって。

 いかんいかん、ついついあいつと重なるな。

 と、こちらに気づいたのか、視線が合う。

「こんにちは。キミらの部長に連れてこられた一般人です」

「こちら、月夜野カイトくん」

 木場が紹介してくれる。ペコリと頭を下げてくる小猫。

 やっぱり全くしゃべらないな。

「隣、座ってていいか?」

「…………どうぞ」

「悪いな」

 それから少しの間待っていると、シャワーを浴び終え、着替えたリアス先輩がカーテンの奥から出てきた。


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