ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
俺と祐斗は運動場の隅にある体育用具を入れる小屋の裏で待機していた。
先程アナウンスが流れ、小猫のリタイアを知った。
「祐斗、どうする? イッセーを迎えに行った方がいいのか?」
祐斗は先程のアナウンスに動揺した様子は見せなかったが、イッセーの堕天使騒動の時もついて行ったくらいだ。仲間がやられて、怒ってないはずはないだろう。
と、俺が祐斗の表情を確認しようとした時、見慣れた人影が横を通りかけた。
俺はそいつの腕を掴み、こちらに強引に引き込む。
「うおっ!?」
情けなく倒れこんできたのは、我らが『兵士』――イッセーだ。
「よお、イッセー」
「なんだ、おまえらかよ」
「うん」
イッセーの方は目立った怪我もなくここまで来れたみたいだ。
がだ、そのイッセーの表情は情けなかった。
「すまん、木場、カイト。小猫ちゃんは……」
「アナウンスを聞いていたから僕たちも知っているよ。無念だっただろうね。いつも何を考えているかわからない子だったけど、今回は張り切っていたよ。森にトラップを作るときも一生懸命にしていた」
「そうだったな。確かにいつもよりもやる気に満ちていた気がするよ」
俺もトラップを仕掛けていたときの小猫のことを思い出しながらそう付け加えた。
「イッセー、気にするなとは言わない。目の前でやられたんだろうからな。見てるだけの方は辛いんだ、あれ。でも、いつまでも情けない表情してんな。勝たせるんだろ、おまえの主さま」
「……ああ、勝とうぜ」
イッセーの表情は引き締められ、情けなさは消えた。まだ、内心悩んだり後悔だらけだろうが、不利な状況で空回りされるよりはその方がマシだ。
そのイッセーの言葉に、祐斗が続く。
「もちろんだよ、イッセーくん」
俺たちは互いに拳を当てあう。
さて、厳しいのはここからだろうな。
向こうは多少駒を失っても痛くもないだろう。そりゃそうだ。『王』であるライザーが不死身なうえに、人数の多さもある。
それに対して俺たちは一人欠けた穴はとても大きい。
部長の報告によれば朱乃さんは相手の『女王』と戦闘中。こっちに加勢は来ない。、
ここの戦力は――
「ここを仕切っているのは『騎士』、『戦車』、『僧侶』が一名ずつ。合計三名だよ」
「そうなんだよなぁ。ただでさえ体育館壊しちゃったし……もう片方の侵入ルートは嫌でも厳重になるか。これなら体育館と平行してこっちも抑えとけばよかったかな?」
イッセーたちは俺たちと別れたあと、体育館を破壊して、敵の駒を撃破している。戦略上上手くいったのだが、それが逆にこの場所を激戦区に変えてしまったということだ。
「祐斗は、こういうときでも冷静だよな」
「それを君が言うかい? 僕だって、冷静なわけじゃないよ。これは部長の眷族悪魔としてのすべてをぶつけ合う勝負なんだ。今後の全てにも繋がる大事なね。僕は歓喜と共に恐怖しているこの手の感覚を忘れたくない。この緊張も、この張り詰めた空気も、すべて感じとって自分の糧にする」
祐斗は自分の手を俺たちに見せる。その手は、震えている。
「そうか、俺だけじゃないんだな。俺なんか、戦闘経験なくて雑魚に等しいし、それでいきなり本番ってだけで震えてるのによ」
イッセーも祐斗も、緊張しているらしいな。
「お互いに強くなろう、イッセーくん、カイトくん」
「おう」
「んじゃ、女子が見て興奮するようなコンビネーションでも展開すっか」
「ハハハ! 僕が『攻め』でいいのかな?」
「バカ! 『攻め』なら俺だ! って、違ーう! 死ねイケメン!」
「だそうだよ、カイトくん」
「……祐斗、おまえって意外といい性格してるよな、死ね!」
さらっとスマイル浮かべて俺に回しやがって!
俺たちが現状を忘れて騒ぎ出したころ、勇んだ女性の大声が聞こえてくる。
「私はライザーさまに仕える『騎士』カーラマイン! こそこそと腹の探り合いをするのも飽きた! リアス・グレモリーの『騎士』よ、いざ尋常に剣を交えようではないか!」
「名乗られてしまったら、『騎士』として、剣士として、隠れているわけにもいかないか」
祐斗は呟くと、そのまま正面からグラウンドへ出て行く。
「イッセー、とりあえず俺たちも行こう。あいつがここから出て行ったなら、俺たちがここに居るのも気づかれるかもしれない。不意の一撃をもらうくらいなら、正面から叩き崩してやろうぜ?」
俺は自分でも気づかないうちに、笑みを浮かべていた。
俺は俺で楽しいのだ、しょうがないくらいに、戦いたいのだ。
「おうよ! んじゃいっちょ女の子の裸を拝みにいきますか!」
おい、そんな理由で戦わないでくれ!
かくして、俺たち三人は揃ってグラウンドに出る。
「僕はリアス・グレモリーさまの眷族、『騎士』木場祐斗」
「俺は『兵士』の兵藤一誠だ!」
「俺はオカルト研究部の部員ってことで頼む」
女騎士は嬉しそうに口の端を吊り上げたが、俺の視線はそこへは向いていない。少し後ろに、複数人の影が見える。これは、あまり良くないか?
このまま三人で戦いだせば、あいつらも参戦してきそうだな……。
俺がどう動くか悩み始めたとき、フィールド全体が震えた。
まさかと思い屋上を見上げると、部長とライザーがすでにやり合っていた。
だがぶつかり合うのが早すぎる! このままだと部長が先に取られるかもしれない!
どうする? やれるか? いや、やらないと……。そうだ、そうすれば、二人分の戦力が増える!
「……イッセー、祐斗、悪いな。せっかく名乗り出て来たけど、おまえらは今すぐ部長のとこへ行け。いま部長とライザーがやり合ってるのが見えるな? ライザーを倒すのに、部長一人じゃ攻撃威力が圧倒的に足りない。だから、おまえら向こうに行け」
「なっ……!? おまえなに言ってるかわかってるのか? 俺たちが部長のところに行ったら、ここにいないライザーの眷族悪魔が俺たちの方へ来るだけだろ? だったら部長とライザーが」
「他の眷族は来ない。いまこの場に全員いる。だから、俺がここに残ると言ってるんだ」
俺は静かに言葉を紡いでいく。
「イッセー、部長の力になりたいんだろ? 救いたいだろ? なら、行け。ここは俺に任せて、部長を助けに行け。なにも心配するなよ? おまえはなにをするべきか考えるべきだ。ここで負けたいか? 嫌だろ。だから、祐斗と一緒に、部長を救って来いよ」
俺は祐斗に視線を向ける。
祐斗は俺と目線を絡め、一つ頷く。
そうだ、頼むよ、祐斗。
「イッセーくん、行こう。僕らは部長を勝たせるために居るんだ。ときには、非情にならなくてはならないときもある」
祐斗はそのまま、校舎に向かって走り出す。
「イッセー、おまえも早く行け! まだわからないのか! おまえを必要としてるのはここじゃないって言ってるんだ!」
「わかったよチクショウ! そのかわり、カイト! おまえ絶対に勝ってから俺たちに追いついてこいよ! 偉そうに残るだなんて言いやがって! いいな、絶対だかんな!!」
ぎゃーぎゃー文句だか応援だかわかんない叫び声を発しながら祐斗に続いて走っていった。
まったく、騒がしい奴だな。
あの二人が救援に行くことで、少しでも状況が変わればいいんだけど。
あとは俺がここで時間を稼げばいいかな? 相手の人数多いからなぁ。残ってる『女王』以外の眷族全員居るし……。
両手に闇色と白銀の剣を出現させ、相手に向け構える。
烈華螺旋剣舞を使うつもりはない。あれはいまの俺が扱える最高の絶剣技……。こんなところでまだ使うわけにはいかない。
俺は相手の人数を見ながら戦略を組み立て始める。
さあ、俺は俺のなすべきことをしようか!