ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
どうやら最近、部長の様子がおかしい。
どうおかしいのか上手く言えないが、らしくない感じだろうか。
俺はそのことが気になってイッセーにも話してみたが、あいつも気づいてはいるけど、理由は知らないらしい。
ただ、昨夜部長に夜這いされたらしい。
なんの冗談だろうか? イッセーも疲れているみたいだ。
今度いい精神科の医師を紹介してやろう。
「って待てカイト!! 最後おかしいだろ最後!」
「うるさいぞイッセー。人の心の声を勝手に聞きとるなよ……」
「声に出してたぞ!?」
「ああ、つい本音が……」
「おまえは俺をからかいたいのか本気でそう思ってるのか!?」
「さあ?」
イッセーを弄っていると、祐斗がクラスに入ってきたので、俺たちは話すのを止め、祐斗も加えて部室に向かった。
家が騒がしくなってきたぶん、もう部室くらいしか休める場所が最近ないなぁ……。
今日も一眠りしないと。
と、俺が寝る気満々で部室の扉を開けると、中には部活の女性陣全員に加えてもう一人。
銀髪のメイド服を着た女性がいた。
「イッセー、あの人誰か知ってるか?」
俺は隣にいたイッセーへと尋ねる。
「あ、ああ。確か昨日会ったよ。グレイフィアさんって言って、グレモリー家に仕えている人らしい」
「そうか。キラキラ光る銀髪は綺麗でいいよな。お姉さんってのもいいかもしれない」
「ああ、そうだよなー。大人の女性にも惹かれるものはあるよなぁ」
っと、危ない危ない。イッセー側に行くところだった……。
確かに綺麗だけど変なことは考えないようにしないと。
「全員揃ったわね。では、部活を開始する前に少し話しがあるの」
部長が俺たち一人一人を確認してから言った。
「お嬢様、私がお話しましょうか?」
部長はグレイフィアさんの申し出を手を振って断る。
「実はね――」
部長が口を開いた瞬間、部室の魔方陣が光りだす。
しかし、いつもと違う。グレモリーの紋章の魔方陣が変化し、知らない紋章へと変わる。
これは、なんだ?
「――フェニックス」
近くにいた祐斗がそう漏らした。
フェニックス――不死鳥……?
そう思った矢先、魔方陣から炎が巻き起こる。
っていやいや、室内でなんてことしやがる! 熱いだろ!
俺は炎の中に佇む人影があるのに気づき、そう毒づいた。次第に炎は弱くなっていき、中から赤いスーツを着た一人の男性が姿を現した。
男は部屋を見渡し、部長を捉えると口元をにやけさせた。
「愛しのリアス。会いに来たぜ。さっそくだが、式の会場を見に行こう。日取りも決まっているんだ、早め早めがいい」
男は部長の腕をつかむ。すぐにでも連れ出したいようだ。
もちろん、それに応ずる部長ではなかったが。というか、隣のイッセーはその間ずっと男を睨んでいた。気に食わないのだろうか?
まあ、俺としてもあまりいい印象は持てなかったけど。
「部長、その人誰ですか?」
「……おや? リアス、俺のこと下僕に話してないのか? ん? いや待て。なんでここに人間がいるんだ?」
「私の部活の部員だからよ。それに、あなたのことなんて話す必要ないわ」
「そうかいそうかい。まあ人間がいるのは別にいいさ」
男との話がイマイチ成立していないせいか、先に進まない。そこにグレイフィアさんがフォローに入る。
「この方はライザー・フェニックスさま。純血の上級悪魔であり、古い家柄を持つフェニックス家のご三男であらせられます。そして、グレモリー家時期当主の婿殿でもあるのです」
ん? 婿、殿……? 部長の?
「リアスお嬢さまとご婚約されておられるのです」
「ええええええええええええええええええええええええええええええッッ!!」
その最後の一言がトドメになったのか、確信に至ったのか、イッセーが絶叫した。
どうやら、このライザーという男は上級悪魔で、部長の婚約者だそうだ。
その後、部長に必要以上に触れるライザーと部長が結婚しないだの悪魔の純血だの言い合っていた。その話を聞いてわかったことは、部長がライザーと結婚する気がまるでない、ということだ。いまだって、
「あなたとは結婚しないわ、ライザー。私は私が良いと思った者と結婚する。古い家柄の悪魔にだって、それぐらいの権利はあるわ」
この言いようだ。
ただ、それを耳にしたライザーは途端に機嫌が悪くなった。目元が細まり、舌打ちまでした。
「……俺もな、リアス。フェニックス家の看板背負った悪魔なんだよ。この名前に泥をかけられるわけにもいかないんだ。こんな狭くてボロい人間界なんかに来たくなかったしな。というか、俺は人間界があまり好きじゃない。この世界の炎と風は汚い。炎と風を司る悪魔としては、耐え難いんだよ!」
直後、ライザーの周囲を炎が駆け巡る。
「俺は君の下僕を全部燃やし尽くしてでもキミを冥界に連れ帰るぞ」
殺意と敵意が室内全体に広がる。
イッセーやアーシアは震えているが、他の部員のみんなはいつ臨戦態勢に入ってもおかしくないし、部長だって紅い魔力のオーラを全身から発し始めている。
マズイな。いまあの炎を食らったら対処できない……。
炎をどうにかするには、まだ経験が浅いってことだ。
できれば、今日のところはライザーと闘うのは避けてほしいところだ。眷族でない俺は関係ないかもしれないが、人間界が嫌いと言っていたライザーならば俺も殺しにくるかもしれない。だからこそ、闘うのは避けたい。
だが、そうもいかなそうだ。
ライザーの炎が背中に集まり、翼のような形になる。見た目だけは確かに火の鳥だ。
張り詰めた室内の空気。やるしかないのか? 始まったら生き残るために全力で挑む必要があるんだけど。
しかし、そのなかで冷静に介入する者がいた。――グレイフィアさんだ。
「お嬢さま、ライザーさま、落ち着いてください。これ以上やるのでしたら、私も黙って見ているわけにもいかなくなります。私はサーゼクスさまの名誉のためにも遠慮などしないつもりです」
静かだが迫力のある言葉。その言葉に、部長もライザーも表情を強張らせる。
どういうことだ? グレイフィアさんはそこまでの悪魔だというのか?
ライザーは炎を落ち着かせると、深く息を吐きながら頭を振った。
「……最強の『女王』と称されるあなたにそんなこと言われたら、俺も流石に怖いよ。サーゼクスさまの眷族はバケモノ揃いと評判だから、俺も相手にしたくない」
最強の『女王』か……。全然そんな風には見えないけどな。さっきも殺気とかまったく感じなかったし。でもおかげで、最悪の状況にはならなくて済んだ。
「こうなることは、旦那さまもサーゼクスさまもフェニックス家の方々も重々承知でした。正直申し上げますと、これが最後の話合いの場だったのです。これで決着がつかない場合のことを皆様方は予測し、最終手段を取り入れることとしました。お嬢さま、ご自分の意志を押し通すのでしたら、ライザーさまと『レーティングゲーム』にて決着をつけるのはいかがでしょうか?」
その後、部長とライザーが『レーティングゲーム』で決着をつけることが決まった。
しかしライザーは、部室から帰ろうとしなかった。
イッセーへと視線を向け、嘲笑を浮かべた。
「なあ、リアス。まさか、ここにいる面子がキミの下僕なのか?」
「だとしたらどうなの?」
部長の答えにライザーはクスクスとおかしそうに笑う。
「これじゃ、話にならないんじゃないか? キミの『女王』である『雷の巫女』ぐらいしか俺のかわいい下僕に対抗できそうにないな」
そう言いながらライザーが指を鳴らすと、部室の魔方陣が光りだす。
魔方陣から続々と人影が出現していく。
「と、まあ、これが俺のかわいい下僕たちだ」
ライザーの側には、15人の少女、女性たちが佇んでいた。フルメンバー、ってことか。
対してグレモリー眷族は6人。そしてアーシアは戦闘に参加できないから――戦力だけでいったら五対十五か。まあ、数だけの話ならだけど。
「お、おい、リアス……。この下僕くん、俺を見て大号泣しているんだが」
隣を見ると、確かにイッセーが泣いていた。ライザーはそれを見て本気で引いているようだ。
「その子の夢がハーレムなの。きっと、ライザーの下僕悪魔たちを見て感動したんだと思うわ」
部長が困ったように言う。
「きもーい」
「ライザーさまー、このヒト、気持ち悪ーい」
ライザーの眷族の女の子たちが心底気持ち悪そうにしていた。うん、確かに気持ち悪いよね、ゴメンナサイ。
「そう言うな、俺のかわいいおまえたち。上流階級の者を羨望の眼差しで見てくるのは下賤な輩の常さ。あいつらに俺とおまえたちが熱々なところを見せつけてやろう」
そういい、ライザーは女の子の一人と濃厚なディープキスをしだした!
うわっ、あいつも気持ち悪い!! 正直できるものなら斬りたいところだ。
と、そこへレスティアが姿を見せる。
「ああいうの、カイトとやるのも悪くないと思うのだけれど?」
俺の後ろから、小さな声でそう囁いてくる。
あの焼き鳥! うちのレスティアになんてことを見せてくれるんだ!!
「やらないからな、やらないぞ!」
「もう、そんなこと言わないで――」
「おまえじゃ、こんなこと一生できまい。下級悪魔くん」
レスティアの声は途中で途切れた。
ライザーがイッセーに向かって口を開いたからだ。
「俺が思っていること、そのまんま言うな! ちくしょう! ブーステッド・ギア!」
馬鹿にされたことでか、それとも嫉妬心からか。イッセーは左手を高く挙げ、叫んだ。
イッセーの左手に赤い篭手――『赤龍帝の篭手』が姿を現す。
「おまえみたいな女ったらしと部長は不釣合いだ! 焼き鳥野郎! ゲームなんざ必要ねぇさ! 俺がこの場で全員倒してやらぁ!」
気合が入ったのはいいんだけど、ライザーは嘆息してるだけか。
まあ、いくら強力な神器だとしても、使い手がまだまだ未熟だからなぁ……。
レスティア――はいま出てきてるから、エストか。
俺はライザーに突っ込むイッセーへと向かって床を蹴り出す。
「ミラ、やれ」
「はい、ライザーさま」
ライザーと、下僕悪魔の声が耳に入る。ライザー自身が手を出す気は無いらしい。
ミラと呼ばれた少女が長い紺を取り出し、イッセーへと構えた。
イッセーへとその紺が迫る一瞬を狙い、俺は<魔王殺しの聖剣>を振り抜いた。
「なっ……!?」
いきなり横から妨害された少女は、体勢を崩して尻餅をついてしまう。
「ストップだ、イッセー。いまのおまえより、そこの子の方が戦い慣れてる。あのまま行けば、おまえ吹っ飛ばされてたぞ。無謀にも突っ走る奴は嫌いじゃないけど、いまは堪えろ。レーティングゲームで倒せばいいんだ。だろ?」
「……。……そう、だな。悪い」
「気にすんなよ。それより、勝手なことしたことは部長に謝っとけ」
「ああ、そうだな」
俺はもう必要ないだろうと判断し、<魔王殺しの聖剣>を戻した。すると今度はエストまでもが姿を現した。
レスティアも俺の方へ寄ってきて、何故自分を使わないのかと抗議しだした。エストはエストで先程のレスティアの発言に異論を唱えていた。
「弱いな、リアスの『兵士』くん。人間に止められるなんて。これではキミの凶悪な神器もあまり力は出ないんだろうなぁ!」
イッセーへとそう言ったあと、ライザーは俺の方へと視線を移す。
「しかし、そこの人間は何者だ? ただの人間ではなさそうだが」
「神器持ちの人間だ」
「そうか。それにしても――」
ライザーの視線が俺の隣にいるエストとレスティアに移る。
「人間が側に置くにはもったいない美しさだとは思わないか? そこの女の子たちは素晴らしいじゃあないか! 是非とも俺の側に置きたいところだ」
二人の側に寄り、髪を触ろうと手を伸ばし――
「おいクソヤロウ。俺の相棒たちに汚い手で触れるんじゃねぇよ!」
俺はライザーを力の限り殴り飛ばした。
「おまえみたいな女好きの変態で、気持ち悪い奴が俺の相棒たちを側に置きたい? ハッ、ふざけんじゃねえ!!」
ライザーはデスクへ上から落ちていき、デスクを半壊させた。迷惑な奴だ。殴られるだけに留まらず備品を壊すとは!
「おい、貴様……。たかが人間ごときゴミがこの俺を殴るとはァァァァッ!! 殺す、殺すぞォ!!」
何事もなかったかのように立ち上がったライザーは、憎悪に染まった目で俺を睨む。
だが、
「ライザーさま、おやめください。この場でお嬢さまの部活の部員を殺すことは控えていただきます」
「クッ……」
悔しそうにするライザー。
「……いや、そうだ。ならばそこの人間! おまえもレーティングゲームに出ろ。そこで必ず殺してやる! 必ず……ッ!」
名案とばかりに俺に提示してくる。
自ら死地へ、ということか。普通なら断ってしまえば終わりなんだが――俺は部員のみんなを見渡す。
「いいぜ。乗ってやるよ」
「ダ、ダメよ! ライザー、カイトは関係ないわ! 巻き込まないで!」
部長が途中で口を挟む。全く、なんでこの人は周りを利用しようとか考えないんだろうか?
悪魔ならそれくらいの狡猾さはあって当然だろうに。まあ、だからこそここのみんなはいい人たちなんだろうけど。
「部長。俺は、自分のわからないところで勝手に物語が進んでいくことは好きじゃありません。それが部活の仲間であるなら尚更です。レイナーレの時だって、俺はイッセーたちの側で戦いました。今回だって、それは変わらない。俺は自分の力を、仲間のために振るうと決めています。それが俺が剣を握る理由なんです。だから、お願いします」
そう、俺は仲間を守りたい。昔、守れなかった奴らとの約束のためにも、ここで降りるなんてことはできない。せっかくの相手側からの誘いだ。ここであの焼き鳥は消すッ!
「止められない、のね。わかったわ。なら、私たちと共にライザーを倒しましょう!」
「はい、部長!」
「グレイフィアも、それでいいわね?」
「わかりました。ご両家のみなさまにはそう伝えましょう」
よし、グレイフィアさんの許可も取れたなら確実に参加だな。となると、あの炎の対策か……。炎ならあそこに行けば多少の対策は持てるかな?
「リアス、ゲームは十日後でどうだ? いますぐやってもいいが、それではおもしろくなさそうだ。そこの人間も、キミの『兵士』も、少しでも鍛える時間があった方が楽しめそうだ」
部長はそれに黙って頷いた。
ライザーはそれを見届けると、手のひらを下に向け、魔方陣を展開した。
奴が俺とイッセーへと視線を向ける。
「リアスに恥をかかせるなよ、リアスの『兵士』。おまえの一撃がリアスの一撃なんだよ。そして人間の方。おまえは必ず俺と相手をしろよ? 待ってるぜぇ」
イッセーが悔しそうに顔を歪めていた。
イッセーに対しての言葉は、部長を思ってのことだろう。王としては、もしかしたらいい部類に入るのかもしれない。まあ、好きにはなれないけど。二人に手出しかけたし。
「リアス、次はゲームで会おう」
そう言い残し、ライザーと眷族の悪魔たちは魔方陣の光の中に消えていった。
さて、俺も自分の準備をしないと。
「部長。この十日間、修行しますよね?」
「ええ、当然。カイトも参加してもらうわ」
「それはいいんですけど、俺の参加は後半からでいいですか? ちょっと俺は俺で新しい試みがあるんで」
「……それはいいけど、何処かに行くの?」
「はい。炎の特訓にちょっと」
俺はある二人のことを頭に思い浮かべる。最後に会ったのは二年前だろうか? まだ俺が、ここのみんなとは違う仲間と居た頃だ。
「それで、何処かしら?」
「そうですね。ちょっと――京都まで」
はい、カイトが行く場所を言ってしまいました。皆さん、もう次に出てくるのが誰かはわかっていますよね?