ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
話は動き出しますゆえ、どうかよろしくお願いします。
まあ、1年半空いてしまったので、書き方などなど変わってしまっているかもしれませんが、ご容赦ください。
では、久々に続きを、どうぞ!
興奮するイリナに髪を洗ってもらい、やはりと言うべきか、身体にも手を伸ばしてきた彼女をなんとか思いとどまらせたお風呂タイムも終わった頃。
イリナの携帯に、一通のメールが届いた。
「なんて?」
私が尋ねると、内容を確認しながら、彼女がこちらを見る。
「京都での一件で呼び出しがかかったみたい。イッセーくんたちもアザゼル先生と合流したって」
襲われたことは、すでに関係者全員に話してある。だから、京都での一件といえば、指し示すものはひとつしかない。
「どこに?」
「行き先は近くの料亭みたい。相手は――ウソ!? 魔王さま!?」
驚きを隠せなかったらしく、寝転がりながらメールを見ていたイリナが飛び起きる。
うん、行儀悪かったしちょうどいいかな。なんて、思ってしまった。
「それで、どの魔王さま? サーゼクスさまが介入でもしてくれるの?」
個人的な意見になってしまうが、それが一番いい。
もっとも多く会う魔王だし、なにより話しやすいのだ。
だが。
「……セラフォルー・レヴィアタンさま、です」
答えは、わりと残酷だった。
「うん、そっか……私会わなくていいかな? ここで待ってるから、イリナいってきなよ」
「カイトさん!? どうしたの、元気がないけれど!」
急にへこむ私を見て、心配そうに隣に駆け寄ってくるイリナ。
でも、仕方ないじゃない。
いまの自分は完全無欠に女の子だ。元のカイトを知っているあの人が、この状況を放っておくわけがない。しかし、相手は魔王だ。逆らうわけにもいかないとなると――。
「絡む前から面倒なことになるのが目に見えてるのに……」
かといって、九重がどうなっているのか、気にならないわけがない。八坂は私にとっても大事な人だ。力になれることがあれば、喜んで請け負おう。
もう、目の前でなにもできないなんて嫌だ。手を伸ばせるのに、それだけの力があるのに、差し出さないなんて有りえない。
その代償がこれだとしたら、迷うのは馬鹿らしいじゃない。
「ごめん、どうかしてた。早く行こっか」
「は、はい! でも、平気?」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。弄られるのと仲間の危機なら、優先するのは選ぶまでもないから」
部屋のドアを開け、廊下に出る。
続くイリナが、さすが聖女さま、とか言ってるけど無視しておこう。
こういうときに取り合うと妄言めいたことも言っちゃうから、ある程度放っておいてあげるのも優しさだよね。
ってことで、とりあえずは下のロビーに向かおっか。
どうせイリナは後ろに付いてくるし。
ロビーで合流したグレモリー眷属と私たちは、アザゼル先導のもとホテルを抜け出し、街の一角にある料亭の前に立っていた。
「はあ、憂鬱……」
決心はしたものの、漏れるため息は止められない。
だって相手は、あの魔王少女さまだ。油断すればどうなるか……。
「カイトさん、やっぱり帰る? お話は聞いておくから」
「ありがと。でもダメなの」
ここまで付いてきた時点で、帰るなんて選択肢は考えていない。
それに、なかに通された以上は手遅れに等しい。和の雰囲気漂う通路を抜け、個室が現れる。
イッセーが戸を開けると、中には着物姿のセラフォルーさまが座っていた。
「ハーロー! 赤龍帝ちゃん、リアスちゃんの眷属のみんな、この間以来だね」
語尾に星マークがついていた気がしたのは気のせいかな。いや、魔王少女だし本当についていたのかも。
いつもながらのテンション高めなあいさつをしてすぐ、イッセーたちの後ろにいた私に気づく。
「あれー? その子は誰かな?」
訊かれた祐斗が、微妙な表情をこちらに向けてくる。
その目には、話してもいいかな? という感情が現れていた。
まあ、いずれはバレることだよね。仕方なしに、首を縦に振る。
やがてくるだろう、衝撃に構える。
「彼女は、月夜野カイトくんです、セラフォルーさま。いまはちょっと、訳ありで女の子になってますが、身元は僕たちが保証します」
さすが祐斗。細かな気遣いも忘れない。
「――へ…………?」
すぐさま飛んでくるかと身構えていた私は、前方から聞こえてきた間抜けな声に、つい力を抜いてしまった。
直後。
「魔王聖女ちゃん! やった女の子の魔王聖女ちゃんゲットだよ!」
ものすごい勢いで飛んできた魔王少女に押し倒されていた。
「時間差はずるい!」
こちらを見下ろすおバカさまに文句が出るも、気にした様子はない。
さっさと爛々と輝く目をやめて、ぜひとも乗っけてくる身体を退けてもらいたいところです。
「ねえねえ、魔王聖女ちゃん!」
「そうだった、そうでした。その名前をつけてくれたのもあなたでしたね」
「ああ、いい声! やっぱり一緒に魔法少女やりましょう! ね? ね?」
肩を掴まれ、顔を吐息のかかる距離にまで近づけてくる。
相変わらずの押しの強さに呆れるが、本心から言われていることはわかる。
今日は着物姿に合わせたのか、髪も結ってるし、雰囲気が違う。
ううん、訂正しよう。
普段より色っぽい雰囲気を醸し出しながら、迫られていると。
「あの、ちょっと離れてもらえると嬉しいんですけど」
「うん、眷属になってくれるなら喜んで!」
「お断りします」
「またバッサリ断られたぁ! なんで!?」
なんでじゃないんですけど。
前にも断ってるし、なにより。
「まだやるべきことの途中ですから。終わってみないと、考える域にもいけませんよ」
「そっかぁ、残念。なら、かわいい魔王聖女ちゃんとのツーショットで我慢してあげる」
などといったのち、名残惜しそうに私の上から退いてくれた。
代償はツーショット。つまり、この姿を保管されるわけであって……ロクなことがない。
「はい、魔王聖女ちゃん、ポーズ、ポーズ!」
強要されるままに手を挙げ、足を広げる。
無心、無心。
もうなんでもいいんだ。これで話が進むなら喜んで請け負おう。
「オッケー! ありがとね」
満足気な笑みを浮かべて席に戻る魔王少女。
何枚も写真を撮られたが、気にしたら負けだ。一枚だけとも言われていないので、反論もできない。
会長の苦労もよくわかる……。
「おう、お疲れさま……来て早々、災難だったな」
こっちまで歩いてきた匙が、小さな声で話しかけてくる。
「ん、ありがと」
先に来ていたシトリー眷属の二年生たちが、こちらに理解のある目で眺めていた。
会長の苦労を知る人たちの対応は、温かいものだ。
とりあえずは私たちも席につく。
「ここのお料理、とてもおいしいの。特に鶏料理は絶品なのよ。魔王聖女たんも、赤龍帝ちゃんたちも匙くんたちもたくさん食べてね」
気のせいでなければ、一人だけたん呼びだったのでは?
あと、実は私たちはすでに夕食を取ってきている。
だのに、次々に料理は追加され、テーブルいっぱいに置かれていく。
隣に座るイリナも遠慮していたが、イッセーたちが手を伸ばすのを見ると、ひとつ口に運ぶ。
「あ、おいしい」
確かに、みんな口に運ぶとおいしそうに頰を緩ませていく。
「ほらほら、カイトさん。おいしいわよ」
そう言い、箸でひとつ摘んでこちらに向けてくるイリナ。
「ねえ、イリナ。これはもしかしなくても」
「ええ、あーん」
笑顔で向けられたものを、誰が断れるだろう。幸いにも、いまは女の子なのだ。傍目から見ているぶんには、仲のいい女の子どうしの戯れにしか見えない……はず!
「あ、あーん……」
口に入れると、うん。
「おいひい」
悪くない、ではない。おいしいのだ。
隣のイリナも嬉しそうだから、羞恥に耐えた意味はある。
「それで、レヴィアタンさまはどうしてここにいらっしゃったんですか?」
イッセーの問いに、魔王少女さまは横チョキで答えた。
「京都の妖怪さんたちと協力態勢を得るために来ました」
まただ。また、彼女の語尾に星マークがついた感じがした。なんだろう、この感じ。これが魔法少女力だとでも? ああ、この人に限り魔王少女力かな。
でも、さすがは外交担当。仕事はしているらしい。
妖怪となると、この地なら間違いなく相手は八坂のはず。
「けれどね……どうにも、大変なことになっているみたいなのよ」
「大変なこと?」
「京都に住む妖怪の報告では、この地の妖怪を束ねている九尾の御大将が先日から行方不明なの」
やっぱり……。
九重も独自に動いているみたいだけど、早く誤解を解いて、かつ、行動をやめさせないと。あの子にはまだ相手をさせられない。
「あの、それって」
「ええ。アザゼルちゃんから、あなたたちの報告を耳にしたのよ。おそらくそういうことよね」
イッセーの言葉に、反応を示す大人が二人。
「ここのドンである妖怪がさらわれたってことだ。関与したのは――」
「十中八九『禍の団』よね」
アザゼルと魔王少女さまは当然の反応。
けれど、表情は真剣そのもの。
予想はできていた。
「お、おまえたち、また厄介なことに首突っ込んでるのか?」
目元をひくつかせている匙。
でも。
「厄介ごととか、どうでもいい」
私の口から出た言葉には、怒りが込められていた。
おかげで、全員の視線がこちらに集中する。
「八坂も九重も、私の家族同然の付き合いだから。だから、救わないと……早く、早く!」
「――そう、だよな。カイトの家族だっていうなら、もう誰も、失っちゃいけないよな」
イッセーが、静かに立ち上がる。
それにつられ、ほかのみんなも。
「まあ、カイトにはシトリーも世話になってるし? 第一、家族だっていうなら、ほっとけない。厄介ごととか言って悪かった」
匙まで。
なんで、意味がわからない。
「どうして……」
「僕たちの仲間が苦しんでる姿を黙って見てられるほど、冷酷じゃないからね」
祐斗が笑みを浮かべつつ、教えてくれる。
頼っていい、仲間たち。
「ったく。まだ公にはできねえってのに。こうもされちゃ、動かないわけにはいかねえな」
アザゼルが立ち上がり、私たちを見渡す。
「こっちでも、独自に調べて回る。情報はおまえたちにももちろん回す。回すが、旅行も楽しめよ?」
「え、でも……」
「そんな時間は……」
私とイッセーの言葉が重なるが、アザゼルは私たちの頭を手でわしゃわしゃと撫でる。
「な、なに?」
「何かあればすぐに呼ぶ。でも、おまえたちにとっちゃ貴重な修学旅行だろ? 俺たち大人ができるだけなんとかするから、いまは京都を楽しめ。特に、カイトはな」
「なんで?」
「そう怖い顔をするな。なにもしちゃダメ、とは言ってないだろ? おまえは特に平和を知らない。いや、ここ最近は知らずに育っちまってる。こういう機会に、少しでも満喫しろ」
バカタレ、と追加で言われ、軽く小突かれる。
「でも、八坂たちが……」
「おまえに大人を信用しろ、というのは酷かもしれないが、俺たち仲間を信じるくらいはしてくれ」
「そうよ! 魔王聖女ちゃんは、この中でも、一番京都を楽しまないといけないんだから!」
みんなして、なんで……。
「優しいのは、ずるいよ」
そこまで言われたら、嫌とは言えない。
任せられるところは任せたい、と信じたくなる。
でも、有事の際は必ず――たとえ、なにを犠牲にしようとも、救わないと。
思えば、まだこのあたりの話だったな。なんて思った人も多いのでしょうか?
久々の更新なので、私も混乱している部分はあります。
ですが、この先もまた書いていくので、よろしくです。
では、また次回。