ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
信じられない。
本当に信じられない! 家を出てわずか十二秒で男に声をかけられた。
イリナがじゃない。私がである。
「潰せばよかった……」
「お、落ち着いて落ち着いて」
隣に座るイリナになだめられるが、二百メートル歩いただけで三人に声をかけられているのだ。できることなら片っ端から道に埋めて行きたい。
と、新幹線が東京駅を出発してから、私たちはナンパの話をしていた。
「だが、この調子でいくと修学旅行中も男が寄ってくるんじゃないか?」
前に座るゼノヴィアからだ。
「なにそれ嫌すぎる。なにかナンパされない方法ってないの?」
どうせ数日の辛抱なのだが、力が安定するまでどれだけの時間がかかるかわかったものじゃない。またこの姿になったときのためにも、知っておいて損はないはず。
「変な格好をしたらどうかしら?」
なるほど。
イリナの意見はもっともかもしれない。
「例えば、なにがいいのかな」
「そうだな。下半身キャタピラで――」
ゼノヴィアに続いて、イリナが、
「――上半身ガンタンクね!」
「全身くまなくガンタンクだよ!? ガンタンクって言ってくれればいいからね!?」
いや、問題はそこじゃない。
「その格好はすでにどっかのゾンビさんがやって失敗したじゃない! 給油しなーい? って誘われるのがオチよ!」
二人はいい案なんだけどなーと不満そうにこちらを見てきた。
けどダメ。
ガンタンクの格好して外に出て行って失敗した相川さんがいるからね。
「仕方ないね。ナンパされないようみんなで囲っていくしかないんじゃないかな」
なんだか護送されてる気分になりそう……。文句言えないけど……。
いまだってクラスの男子がチラチラ見てきてるし。
通路を挟んだあちら側にはイッセーがいるけど、どうにもその前にいる変態二人から特に邪な視線を感じる。
横にロスヴァイセさんでもいてくれればなぁ。
朝も早くに出ちゃって教師としてがんばってるけど、こんなとき教師と生徒の壁を感じる。
「あっ、そうだ」
私にくる視線を、他の人に向けるのはアリだよね!
空いてるイッセーの隣の席に座り、
「ねえ、イッセー。こっちの席、三人席でさ。私の隣一人ぶん空いてるんだけど、来ない?」
前にゼノヴィアとアーシア、桐生。横にイリナしかいなかったので、まだ一席空いてるのだ。
「なに!? イッセーを誘うなら我々が!」
「そうだそうだ! 是非とも隣に――」
「イッセー、来て?」
「「無視られたーーーー!!」」
うるさい。きもい。
なるほど、これが女子の目線か。
「わかった。俺も周りは可愛い女の子が多い方がいいしな」
了承を得て、席に戻る。
「あら、イッセーくん」
「来たのか。向こうの二人はいいのかい?」
ゼノヴィアが問いかける。
「ま、まあな。殺されないうちに戻るよ」
イッセーを連れてきたおかげで、男子の怨嗟の視線がイッセーに集中している。ああ、やっと休める。
アーシアもイッセーと談笑し始めて楽しそうだし、いいことしたなー。あとでイッセーがどうなるかなんて知らない。
クラスで唯一女子に囲まれた席に座ったのだ。大方の予想通りになる、かな……。
新幹線内でアーシア特製の昆布おにぎりを食べ終えたころ、
『間もなく京都駅に到着致します』
アナウンスが流れた。
もう到着なんだ。また久々に九重と遊びに行こうかな。八坂も誘って三人で周れれば一番いいかも。
「カイト、置いてかれるぞ」
「待ってって!」
京都にいる二人のことを考えていたら、すでにみんな外に出始めていた。
「京都だぜ!」
「おおっ! 広いなー!」
うんうん、京都の駅って大きいよね。でも人が多く行き交ってるからいまの私にとってはちょっと避けたいんだけど。
「天界にもこんな駅が欲しいわ!」
「ミカエルさんに打診したら通りそうで怖いな」
なんだかどこもトップ陣はノリと酔狂でさ、造っちゃいそうじゃん?
「イリナ、見てたいのもわかるけど、まずは集合場所のホテルまで行くよ。早く集まらないと午後の自由時間なくなっちゃうから」
「そうだったわね!」
班員全員で騒ぎながらホテルに向かった。
数分で発見したけどね。同じ制服着た人たちについていけばそれは簡単に見つかるもんです。
ちなみにホテルでの部屋割りは、イリナと同室だったりした。
他はアーシアとゼノヴィアが。
イッセーは……。うん、なんだか一人部屋だって。それも生徒はみんな余すことなく洋室に割り振られたのに、和室に一人。
さすがだよ。なんだかちょっとかわいそうかも……。夜は遊びに行ってあげるとするか。
部屋で荷物を整理していると、午後の予定を確認に行っていたイリナが戻ってきた。
「カイトさん、午後は予定になかったけど伏見稲荷に行こうって。行くわよね? 行きましょう!」
とっても楽しそうに部屋のドアを開けて入ってきた。
「わかったよ、わかったから。行く、行くからね、だからちょっと……待って、近いって!」
ベッドに押し倒さんばかりの勢いで近寄ってくるので制止したのだが、すでに遅かったりした。
興奮が冷めないイリナの相手をするのは大変なのだと、このとき初めて知ったよ。
後退しきれずに、ベッドに二人して倒れこむ。
「ふかふかでよかったぁ……」
「……っ! あ、えっと、その……」
やっとのことでテンションが通常状態に戻ってきたイリナは、顔が赤かった。
「イリナ? だいじょうぶ? どこか打ったりしたのかな」
「だ、だいりょうふ!」
だいじょうぶじゃない。明らかにだいじょうぶじゃない。
「そ、そんなことより準備済ませて行きましょう! 待たせると悪いわ!」
荷物を持って部屋を出て行ってしまった。
「変なの」
あれ? いつも変だから普通なのかな。
にしても、伏見か。
絶対に人、多いんだろうなぁ……。
でも、楽しまないとね。
「仕方ない、行くとしますか。イリナが言ってたように待たせてると悪いし」
けど、イリナのあの反応はなんだったんだろう。
わからないことは考えたくなるものだが、いまじゃなくてもいいことかな。
結局、遅いとのことで迎えにきたイリナに連れられて部屋を出た。
この作品も、原作9巻の内容まで入ってきました。が、少なくとも12巻まではいく予定なのでまだまだ更新していかなければ。
果たして12巻まで保つだろうか……。大抵の作品がそこまで行くことなく消えていっている気がするし。