ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
修学旅行の話に入っていきます。
みなさん忘れてるかもしれませんが、今回はあの娘の登場ですよ。
1話
修学旅行当日。
まだ五時だというのに、布団にくるまる事件が発生していた。
なぜかって? こんな早くから少女二人に起こされかけているからだ。
「ほらお兄ちゃん、修学旅行に行くならそろそろ起きないと!」
「先輩、二度寝したら絶対に遅刻します」
クロ、小猫。お願いだからあと五分……。
一言でも発したら余計にうるさくなることが確実なので、黙って布団の中で防御体制をとるのが得策。
「なんでこんなときばかり必死になって抵抗するんですか!」
小猫、人は安眠を得るためならなんだってできるんだよ。だいたい二人とも起こしにくるの早すぎるんだって。あと一時間は寝てられるくらいの余裕あるよね?
人の想いなど知るはずもなく、布団が引っ張られる。
ここで退いてなどいられない俺は、当然抵抗した。
「小猫ちゃんもクロエちゃんも、ダメですよ。そんなふうにしてもカイトくんは起きてくれませんから」
朱乃さんが部屋に入ってきたみたいだが、どうやら二人を止めてくれたらしい。
さすが朱乃さん! よくわかってる!
「こういうときは、もっと刺激的なことをするんですよ」
……あれー? ブルータス、おまえもか! もうやだちょっとは寝かしてよ!
「刺激的って、なにするの?」
クロの声が聞こえてくる。誰か俺を安眠の地に誘って。
まえも言ったかもしれないが、俺は寝ることが好きなのだ。いや、早起きが嫌いなのかもしれないけどさ。
とにかく妨害されるのはちょっとなぁ……。
今日からみんなを置いて修学旅行に行くのだから、家から出るまえに相手をするべきなのかもしれないけど、もう昨日までたくさん相手したじゃん。
遊んだし、要望に応えましたよね? ね!?
だから俺は寝る。
「刺激的って言うのはですね、こうするんですよ」
――っ!?
突如として、上からの圧力が増した。
「わぁお! 今度からそうしよっと」
「私もです」
二人が、朱乃さんを見てだろうか? なにやら興奮したような声がする。
どうなってるかなんてもうわかってますけどね。
乗られてますよ。ええ、もう完全に上とられてます。
「あら?」
しかし、朱乃さんはなにやら疑問を持ったようで。
「カイトくん、なんだかやけに腰周りが細い気が……。布団もカイトくんの身長から見て、余り過ぎてませんか?」
はい? よく意味がわからないんですけど。
「これは――大変なことになりました。カイトくん、少し外しますね」
朱乃さんは部屋から出て行ったようで、廊下から「リアス? ちょっと大変なことが起きて。ええ、それで生徒全員に――」
なんだか忙しそうだな。邪魔しないように寝てるか。
「そろそろ起きてください、先輩。いま絶対寝ようと思ってましたよね」
小猫が強引に布団を剥がしにかかってきた!
って、負けるか!
「小猫ちゃん、そのまま布団を引っ張っててね」
朱乃さん、あなた連絡とってましたよね! なんでちゃっかり参戦してくるんですか!
え? 連絡もう終わったの? 最悪だ!
「こっちのカイトくんを起こすのは、くすぐるのがいいんですよ」
音符マークがつきそうなほどノリノリな声がする……。
「観念してくださいね」
スッっと朱乃さんの手が俺の脇に触れ、わさわさと動き出す。
「ひゃっ! ま、やめて朱乃さん! やめ、てぇぇぇぇぇぇぇ!」
力が抜け布団が剥がれると同時に、なにかとてもかわいい声が聞こえた。
「「え?」」
小猫とクロが間抜けな声をあげ、一拍。
「先輩、またですか……?」
「ふーん。二度目だけどやっぱりこっちの方がいいわ!」
それぞれが反応を示す。
にこにこした朱乃さんと、状況を理解できていなそうな小猫。あと俺。
そんな俺に、クロが現実を突きつけた。
「おはよう、お姉ちゃん!」
――おねえちゃん? オネエチャン? ああ、お姉ちゃん!
「え? お姉ちゃん?」
あきらかに俺に向けられた言葉なのだが、どうにもおかしい。
「どういう……」
先程も聞いたやけにかわいい声が俺から出た。
「……」
そういう、ことなのか……。
ペタペタと自身の身体を触っていく。なんか妙に張りがあるしきめ細かいし柔らかい。
胸には二つの山。
ふう、しかも今回は幸か不幸か、口調の変化が一切ない。
髪に手を当てると、長い長い。
腰を超えるほどの黒髪は、左右でふたつにわかれながら垂れていた。オーフィスにそっくりだ。
「今回もまた、イベントのときに限って、女になっちまったってことか……」
神さまは残酷だ。ハハッ、神さまいないんだっけ……。
とりあえず、言っとくか。
「おはよう、みんな。それで、とりあえずどうしましょう?」
今日は修学旅行当日。どうやら問題は山積みらしい。
しかし世界はわりとうまく回っているものである。
俺に馬乗りになった朱乃さんは、俺の変化に早々に気づき、駒王学園の方には対応させてくれたらしい。
なんでも、体育祭のときと同じように駒王学園に通う全員の記憶を一部変えたらしい。ごめん、クラスのみんな。いや、ほんとごめんなさい。
「まあいいじゃない! 私はカイトくんの本来の姿である聖女さまの姿が見れて嬉しいわ!」
「本来の姿ってこっちじゃないけどね……。喜んでもらえてなによりだよ……」
イリナはご機嫌だ。俺の姿を見てからずっときゃーきゃー騒いでいる。
聖女、ね。
いまは女同士かもしれないけど、抱きつくのはどうかと思うよ。って、もう興奮状態で聞こえませんよね。そうですよね。
イリヤとクロは、なぜか少しまえから自室にこもって出てくる気配がない。なんだか最初は暴れている気がしたが、静かになって随分経ってるんだがな。
「さて、あんまり家にいて遅刻するのもよくないし、学校行っても問題ないなら、行くか」
「カイトくん」
「はい、なんですか、朱乃さん」
「イッセーくんたちには連絡しておきましたから、なにか困ったことがあったらイッセーくんたちを頼ってくださいね。あと、女の子らしく振舞うことを忘れずに」
ばれちゃいますよ? と付け足される。
確かに女子として振舞う必要はあるか……。もう三回目だ。なんとかなるだろ。
「わかりました。気をつけますね」
「ふふっ、楽しんできてね。イズナちゃんには起きたら行ったことを行っておくから」
「ありがとうございます。小猫、お土産たくさん買ってくるからね」
「期待してます」
目が輝いてるよ。これはたくさん甘いもの買ってこなきゃ。
「じゃあ、いってきます」
「いってきまーす!」
おれ――私とイリナはあいさつを済ませ、家を出る。
朱乃さんも、今日は静かだったな。よかった。
昨日は寂しいだのなんだのと言って離れてくれなかったし。小猫の方がそのあたりは強いとこかな。
「イリナはなんだか楽しそうだね」
「それはもちろん! アーシアさんとゼノヴィアと一緒なのもあるけど、聖女さまであるカイトくんと一緒に回れるんだから! ……カイトくん?」
呼び方がしっくりこなく、もう一度言う。
「カイトくん……。おかしいわね。えっと、カイトさんにしましょう!」
「もうなんでもいいよ。好きにして……」
これもオーフィスから貰った力が安定しないせいだろう。ダワーエとの一戦もあったし、もしかしたら力の制御が甘くなっていたのかも。
けど、人間慣れって怖いな。
もう女子の制服着るのも慣れっ子か。
「今年の修学旅行、大変な目に遭いそう……」
呟いた言葉は、はしゃいでるイリナに聞こえるはずもなく。
人知れず、ため息が漏れた。
たまにはいいか。
月夜野カイトを見つめなおすいい機会かもしれない。
とりあえずは修学旅行なのだから、楽しもう。ダワーエとの戦闘以来ずっとくすぶってる感情と向き合うことだって、息が詰まってたらできやしないのだから。
でもさ、男子からの視線ってどうにかならないのかな? 正直どこ見てるのか丸わかりだし、不愉快。
集合場所に向かうだけでも、もう疲れた……。