ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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12話

 激戦を乗り越えて数日が経った。

 俺の身体も異常なく、通常通りの生活が送れている。

「なにもかも元通り、か……」

 実のところ、多少の後遺症は覚悟していたんだが、なにもない。

 健康であることで悪いことはないからいいけど。

「問題は山積みなのが痛いな」

 ダワーエから有力な情報は得られなかったし、ロキも悪神つながりでなにか知ってるかと期待もしていたのだが、まあ成果なし!

 神さま使えない。なにが神だよ。

 ちなみに、ヴァーリがロキと戦う場面を見てなかったので訊いたところ、フェンリルを一匹捕らえてどこかに消えたとのことだ。イッセーたちに共闘を持ちかけたのはそのためだろう。調度いい、まさか駄犬が残ってるなんて思ってもなかったぜ。

 今度ヴァーリから奪おうかな。

 

「あー、もうすぐ修学旅行だ」

 オカ研の部室でだらけるイッセーが、もうすぐ行く予定の修学旅行に夢中になっていた。

「イッセーさん、ここのところ忙しかったですから、次こそは旅行のお買い物に行かなくてはダメですね」

 アーシアも夢中か。修学旅行のしおりを見ながらだし。

 無理もないか。こんなイベント初めてだろうしな。俺も人のこと言えない立場だけど……。小学校は言わずもがな、中学だって行けなかったし。

 いや、どうでもいいけどさ。

 教会トリオ――アーシア、ゼノヴィア、イリナはなんか修学旅行に着てく服やら下着の話で盛り上がってきてるぞ。

 平和……すぎるな。死にかけてたのが嘘みたいだ。

 この輪の中にあいつらもいればいいのに。

 いや、過程に意味はない。実現させない限りは虚しいだけだ。

 実現って言えば、宣言通りダワーエも倒して家に帰ってみれば、全員から殴られましたよ私。

 やれ心配させるな、やれバカだ。罵りを受けながら殴られたけど、みんな笑顔だったからいいよな。え? 余計怖い? うん、間違ってないかも。笑顔で殴ってくるとか怖い……。

 それでも、信じてくれていたんだろう。帰ってきてよかったと言ってくれた。

「今度なにかしてやるか」

 俺が検討していると、

「もう、終わりだわ!」

 悲鳴をあげる女性の声があった。部室の中央からだ。

 見れば、銀髪の女性――ロスヴァイセさんが号泣していた。 

「うぅぅぅぅぅっ! 酷い! オーディンさまったら、酷い! 私を置いていくなんて!」

 はい。オーディンに普通に置いていかれたそうです。あの人も今頃お付きのヴァルキリーがいないことに気づいているんじゃないかな。

 けど、特に連絡がないってことは、つまり……。

「リストラ! これ、リストラよね! 私、あんなにオーディンさまのためにがんばったのに日本に置いていかれるなんて! どうせ、私は仕事がデキない女よ! 処女よ! 彼氏いない歴=年齢ですよ!」

 もうやけっぱちだ。

「そんなに泣くなって。ほら、まえも言ったけど、あんた俺らと年齢変わらないだろうし、ゆっくり探してけばいいんだよ」

 夏休みが思い起こされる。

 あんときもこうして撫でてやったっけ? ゆっくり、ゆっくりとサラサラの髪を堪能しながら頭を撫でていく。

「どうせ上司の後で帰るなんてことできないだろうし、このまま家にでも来ればいいんじゃないの。うちなら女性陣ばっかで、話相手もいるしなんとか生活してけるだろ」

「本当に……?」

「ああ。でも、たしか部長も動いてくれてるだろうから」

「ええ、その通りよ。ロスヴァイセには、この学園で働けるように取り付けておいたわ」

 うわさをすればなんとやら。

 部長が部室に来ていた。

 ふむ、部長はロスヴァイセって呼ぶのか。まあ年も近いしいいのかな。だったら俺も同じように呼ぼう。

「希望通り、女性教諭でいいのね? 女子生徒ではなくて」

「もちろんです……。私、これでも飛び級で祖国の学び舎を卒業しているもの。歳は若いけれど、教員として教えられます」

 へえ。教師側か。

 てっきり生徒になって好みの男子でも探すのかと思ってたよ。

「でも、教師になったとしても、この国でやっていけるかしら……? かといって国に戻っても怒られるだろうし、あげくの果てに左遷されそうだし……っ!」

 相当落ち込んでるよこれ。

「うふふ、そこでこのプラン」

 俺がへたりこんでるロスヴァイセの頭を撫でている間も、部長の話は続く。

 なにやらいくつかの書類を見せているようだが――保険? え? サービス? なんだろう、勧誘かな。

 戦乙女を買収する気でいらっしゃいますか。

 あれやこれやと魅力的な提案を重ねていき、部長がポケットから、紅い駒を取り出した。

 部長にとって最後の駒――『戦車』。

 勧誘は勧誘でも、眷属へのってことか。

「あの、ひとついですか? 私はどこで暮らしていけば……」

「そうね」

 イッセーと俺を交互に見る部長。

「現状女性陣が暮らしているところは二箇所ね。イッセーかカイトの家のどちらかにみんな暮らしているわ。イッセーたちが承諾してくれるのなら、好きな方でいいと思う」

 部長、ちゃっかり俺の家も拠点のひとつにしてますね? いや、いいんですよ別に。家に人が増えるぶんには問題ないですから。

「俺は問題ないですよ。朱乃さん、小猫、イリナといますし、他にもガブリエルさんだっていますから一人増えたところで変わりませんし」

「俺だって歓迎しますよ!」

 イッセーが横から手を挙げてくる。

「ということだけど、どう? ロスヴァイセ。もちろん、嫌なら他の場所を――」

「私、カイトさんの家にいってもいいですか!」

 部長に抱きつくようにして答える。

「え、ええ。わかったわ。カイト、よろしく頼むわ」

「了解です」

 また賑やかになりそうだ。

 でも、これでグレモリー眷属も揃ったことだし、最後の仲間も頼もしそう……ちょっとドジっぽそうではあるけど。

「……どこか運命感じます。私の勝手な空想ですけど、それでも冥界の病院であなたたちに出会ったときから、こうなるのが決まっていたのかもしれませんね」

 どうして俺を見ながら言うのかな? どうして俺を見ながらいうのかな? 

 ロスヴァイセは紅い『悪魔の駒』を受け取った。その瞬間、まばゆい紅い閃光が室内を覆い――ロスヴァイセの背中に悪魔の翼が生えていた。

 俺たちに一礼し、

「皆さん、悪魔に転生しました、元ヴァルキリーのロスヴァイセです。なにやら、冥界の年金や健康保険が祖国のよりもとても魅力的で、グレモリーさんの財政面も含め、将来の安心度も高いので、悪魔になってみました。どうぞ、これからもよろしくお願いします」

 洗脳、されてないよね? 部長さっきまで目が完全に保険会社のお姉さんだったから心配だ。

「というわけで、皆、私――リアス・グレモリーの最後の『戦車』は彼女、ロスヴァイセとなりました」

 部長が笑顔で改めて紹介した。

「ま、いいんじゃないか。私も破れかぶれだったしな」

 ゼノヴィアはお茶を飲みながら平然としていた。

「「「「「「「よろしくお願いします!」」」」」」」

 皆も快く迎え入れてるようだ。俺には拒否する権利はないけど、あったとしても歓迎するさ。

 先に進んでるんだな、全員。

 俺ももっと、もっと強くならないと。この先、誰かに頼って邪神に勝つだけじゃダメなんだ。一人でも、勝てるくらいでなければ、本来あの力を授かるべきじゃないのだから。

 そんな風に考えていると、朱乃さんが横にやってきて、弁当箱を差し出してきた。

「カイトくん。これ、余り物ですけど、よかったらどうぞ」

 肉じゃが? なんで肉じゃが? いえ、いただきますけど。

 指でつかみ口の中に入れる。

「うまい! おいしいですよ、朱乃さん。安心できる味です。あいつらといたころとは違いますけ

 

ど、いまいる朱乃さんや、皆といることが実感できる」

 ああクソ、ちょっと涙出そう! 

 箸を受け取り、そのまま口に入れていく。別に本当に泣くわけではないが、照れくさいのはあったのかもしれない。

 俺が食べるのを、朱乃さんがうれしそうに微笑んでるんだもん。

「よかった、カイトくんに喜んでもらえて。――っと、口に」

 ん? どっかについてた? 

 手で取ろうとするよりも、先に朱乃さんの顔が近づいてきて――。

 一瞬、口元に軽く朱乃さんの唇が触れた。

 い、いまのって……。

「うふふ。いちおう、ファーストキスになるのかしら」

 頬を赤く染めながら、朱乃さんが笑う。

 まいったね。自覚させないでほしかったですよ、朱乃さん。言われなければ俺の中で処理することもできたってのに。

 しかも、いまのを皆見ていたんだからなお悪い……。

「カイト先輩……」

「カイトくん、まさか」

「チクショウ、カイト! なんでおまえだけぇ……」

「……」

 小猫、イリナが頬を膨らませ、イッセーは泣きながら怒ってくる。なぜかロスヴァイセは口を開けたまま固まっていた。

 騒々しい毎日だな、ここは。

 四人を避けるように部屋の隅へと移動しようとすると、背後から朱乃さんが抱きしめてくる。って、楽しげだなおい! 

「カイト、大好きですわ。うふふ」

 しかし、笑顔は崩さないものの、俺だけに聞こえるように囁かれた。

 バラキエル。あんた、ロキとの戦闘が終わってから「朱乃のことをよろしく頼む」って言ってたけど、こういうことじゃないだろうな。

 

 

 

 

 

 ちなみに、朱乃さんがくれた弁当は、バラキエルへ作ったものの余りものらしい。なんだかんだ、朱乃さんは一歩を踏み出したのだろう。

 本当に踏み出せていないのは、もしかしたら、俺の方なのかもしれない。

 

 

 

 ダワーエ――邪神が最後に残していった言葉が、頭の中で再生される。

『おまえは勝たされただけだ。まだ誰も、おまえの誕生した過程を知らない。おまえが何者であるのかを、知らないんだよ。教えてやろうか? おまえは――』

 

「ふざけるな。それなら、確かに説明はつくかもしれない。けど、もしそうなのだとしたら、俺は……」

 その先は、言葉にできなかった。声に出すことで、肯定してしまうのではないかと思えたから。

「ふざけやがって……」

 例えようのない怒りが、俺の中からこぼれた。

 

 




なにやらちょっとしっくりこないままですが、次回から修学旅行編に入ります。
修学旅行編では、またあの黒髪美少女が登場する……かも?

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