ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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11話

 ロキと俺の視線が交差する中、頭上に影が落ちた。

「またか……。不意打ちってのは、一度っきりの奇策だからこそ意味があるんだよ」

 牙をむいた子フェンリルを蹴り上げる。

 角度がよかったのか、威力が強すぎたのか。理由は多々あるが、とりあえず牙は折れただろ。

「駄犬の相手をしてる暇はねえよ。飼い主を叩くまで大人しくしてろっての」

 イッセー一人だと、やっぱ厳しかったか。止めきるまでには至らない。

「無事か?」

「神さま相手はやっぱきついな……。俺ももっと強くならないと」

 声をかけた相手――イッセーはわりとピンピンしていた。強がりかどうかは知らん。

「なあカイト。このままだとフェニックスの涙も、アーシアのオーラも保たないぞ。どうにかしないと!」

「回復役がつぶれると一気に押されるからな。確かにまずいにはまずいんだが――」

 現状、早急にロキを倒す意外の選択肢がない。

 けどあいつって何気にオールラウンダーなタイプっぽいんだよなぁ。相手にしづらい。

「仕方ねえ、前みたいに俺たち二人で突貫しかないか。イッセー、いいよな?」

「ああ。仲間のために、やってやるぜ!」

 と、距離を詰めようとした瞬間、視界に黒が映りこんだ。

 ブオオオオオオオオオオオオンッ!

 黒い炎らしきものが地面から巻き起こり、うねりとなって、ロキと子フェンリル二匹、量産型ミドガルズオルムを包みこんだ。

「これは……」

「――ッ! この漆黒のオーラは!? 黒邪の龍王ヴリトラか!?」

 タンニーンが叫ぶ。

 ヴリトラ? もしかして!

「「匙か!?」」

 俺とイッセーの叫びが重なる。って、待て待て! あいつ炎なんて使えたか?

 じっと眺めていると、やがて地面に巨大な魔方陣が現れた。その中心から、黒い炎がドラゴンの形となって生み出される。

 ほぼ同時に、イッセーが誰かと会話を始めた。どうやら、緊急用に耳にイヤホンをつけているらしい。

 相手の声までは聞き取れないが、アザゼルの同僚であるシェムハザが、こちらに匙らしき黒いドラゴンを送ったっぽいな。

「……ええ、なんとかやってみます。いざとなったら、力尽くで匙を止めます」

 通話を切ったイッセーに事情を聞いてみると、

「匙にヴリトラの神器を全部くっつけたってさ。ただ、先生の計算ミスで、敵味方の区別はついてるものの、暴走状態にあるんだと。ヴリトラの意識は蘇ってるけど、蘇ったばかりで暴走。幸い匙の意識は残ってるって言ってたから、俺が語りかけてくる」

 ヴリトラの神器っていうと、「黒い龍脈」、「邪龍の黒炎」、「漆黒の領域」、「龍の牢獄」の四つだったはず。それらすべてを埋め込まれたってことか。大胆っていうのか、無茶苦茶だと言うべきか。

「まあいいや。いまの匙じゃ長続きしないだろうし、さっさと倒しに行った方がよさそうだな」

 敵は全員動きを封殺されているが、そのうち拘束を逃れるはずだ。

 特に、ロキもいまでこそ狼狽しているものの、冷静になればすぐにでも拘束を破る可能性だってある。ゆっくりはしていられないな。

「イッセー、匙への呼びかけは任せる。俺はロキを潰しに行くから」

 もうね、さっきから怒り狂いそうなんだよ! あいつの発言だけは許さねえ! 

「待てよカイト! おまえもうけっこう限界が近いんじゃないのか? 絶対に決められるような大技でもあるのかよ!」

「あるわけないだろ! それでも、それでも潰さないと気がすまねえ!」

 なにより、朱乃さんたちのことまでバカにしたこと。

 許せるはずがない。

「ったく、だったら決着つけてこい! 俺たちが可能な限りサポートするから!」

 イッセーがなにかを投げ渡してくる。

 おい、ちょっと? なんかすげー重そうなモノ持ってるようですけど? え? 投げるの? 両腕で振り上げるのが限界って感じなんですけど!?

「受け、とれぇ……!」

 重量感のある槌を、恐怖と期待の入り混じった感情のまま受け取ると、

「あれ? 軽い……っていうか、重さがない?」

 なにこれ。さっきのイッセーなりのジョークかなにかだったの?

「ミョルニル、託したからな」

 なるほどね。

「託された。任せてくれ」

 役目を奪っちまった気もしなくはないが、ありがたい! これならロキも倒せるってもんだ。

 イッセーは精神を集中させ、匙の意識との接触に専念し出したし、ここからは俺の戦いか。

 俺はミョルニルを巨大なハンマーに変える。

 握り締めると、バチバチと雷が宿った。剣じゃないのが残念でならないが、文句を言ってられない。

 ただ、全力でぶち込んでやる!

 一度屈み、あらん限りの力で地面を蹴り抜く。

 生み出されるのは、最高速度での跳躍! 突貫!

 さあ、目標はただ一人! ――ロキ!

「舐めるな! この程度のことで!」

 ロキの手から魔術の一撃が撃ち出される。避けようものなら、再び落とされるか……。

「でも、おまえも舐めんなよ!」

 目の前で爆発が起きる。

 後ろを確認すると、イッセーは手を突き出した状態だった。

 そう、イッセーの一撃がロキの魔術を相殺してくれたんだ!

 これで、決められる。

「くっ……。ふざけている! こんな、こんなちんけな炎でこのロキを捕らえ続けるなど!」

 そう思った矢先、とうとうロキが匙の炎の結界を打ち破った。ダワーエほどじゃないと気を緩めていた部分もあるが、やっぱ神は神か!

「でもなぁ、このまま引き下がるってのは選択肢にないんだ」

 加速を続ける俺は、もうじきロキまで届く。

「悪いが、無駄だ。高度を上げれば、貴殿の一撃が届くことはない。我は一時退却する。ふはははは! しかし、三度ここに訪れて混沌を――」

 ビガガガガガガガアアガガガガガッ!

 ロキが空中高く浮かび上がったときを狙ったかのように、雷光が煌き、特大の一撃がロキを呑み込む。

 朱乃さん――と、バラキエルの、二人での一撃か。見れば、互いに手を取り合っていた。朱乃さんも、堕天使の翼を出しながら。

「な……なにをした!」

 煙をあげ、こちらへと落下してくるロキ。ダメージは大したことなさそうだが、動きを止めることはできている。

 そこに追撃のように、黒い炎が再びロキを包む。匙、最高だな! 

「バカなっ! 一度は解いた炎の結果のはずだ!」

「生憎、匙も根性が俺並みに凄まじいんでね! そうそう簡単に諦めたりしないんだよ!」

 ロキよりさらに上空にまで移動してきていたイッセーが、ロキへと一撃を入れる。

 加速度を増してこちらに向かってくるロキは、驚いた表情をしていて。

「どっちが滑稽だよ」

「頼むぞ、カイト!」

 もちろんだよ、イッセー。

 飛んでくるロキへ向け、一気にハンマーを振り抜く!

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああっっ!!」

 ドン!

 巨大なハンマーの頭が、ロキの全身へ完璧に打ち込まれた!

「てめえに、てめえに家族を、仲間をバカにする資格なんかないんだよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 刹那――。ハンマーからとんでもない量の雷が発生する。

 特大の一撃はロキを呑み込み、大きな煙を上げながら、ロキを地面に墜落させた。もうボロボロで、立ち上がる力も残ってないだろ。

 同じ頃、二匹のフェンリルと、量産型のミドガルズオルムも倒されていた。

 俺のぶんのフェンリルが残ってないじゃないか……。

「駄犬を手なずけるのは無理だったけど、みんな無事ならいいか。どうせ、もうフェンリルと戦うだけの体力もないし、な……」

 半端じゃない疲労が襲ってくる。

 

 

 

 

 

 ダワーエのときの無茶が響いてきているのかもな。

 もう、これっきりだ。あんな希望の塊みたいな力を使うのは、これで最後。

 あんなの、自分の私闘に持ち込むべきじゃねえわ。

(笑顔で言っても、反省してるなんて思えないわよ)

(マスターはバカです。きっと、また自分のためになにかを裏切ります)

 レスティアとエストが、やや辛口な評定をしてくる。

 俺たちが。いや、俺とダワーエの最後のとき。あのとき交わした言葉は、まだ他のみんなは知らない。

 闇の中、すべてを光へと誘ったあのとき。

 

 

 何度か口を開くものの、やはり言葉には出せない。

 だって、あれはまだ、誰も知らなくていいことのはずなのだから。

 

 

 記憶に蓋をするよに頭の隅に追いやり、笑顔を向けるみんなのもとへと下りていく。むしろ落下してく。

 上空から、破壊されつくした地上を確認し、修復活動もあるんだろうな、なんて他愛ないことに意識を向ける。いまだけは、これでいいはずだ。いまだけは、きっと。

 

 


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