ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
久々の更新になりますが、今日からまたゆっくりと話を進めていきたいと思いますですよ。
え? もうどんな話か忘れたって? ならまた一話から読み返してくださいな。
さて、大見得切ったところでロキと一戦交えてみるか。
「怖い怖い。そうそう睨まれては何もできないな」
嘯くように語り掛けてくるロキ。
「そうか。だったらそこで無抵抗に消されろよ」
「断る。そこまでしてやる価値、貴殿にはない。闘争の中でのみ、その価値を示すといい」
本性はどいつもこいつも戦闘狂だな。ったく、俺たちの前に出てくるのは強者であり、狂者でもあるらしい。
まずはロキに接近してみるのもアリだな。
朱乃さんに近づけなければいいだけの話し出し、俺に注意を惹きつけるのも手だろ。
「あんたを殴るのが楽しみだよ」
両足に力が入る。
「殴る? ここに来るまでに叩き落してやろう」
「言ってろっ!」
一瞬の跳躍。
この一手でロキへの距離の半分を詰めた。
「空中に飛び出したのは悪手だったな。貴殿には悪いが、早々にご退場願おうか」
ミドガルズオルムの量産型と思われる奴らが俺へと殺到する。最初からそのつもりだったか。元より俺と競う気はないのな。
「なめんな! 絶剣技、三ノ型――影月演舞!」
量産型の頭部を斬っては瞬転、次の量産型の頭部を、腹部を斬り捨てていく。
ダメージを負うことはないけど、このままだといずれ着地しちまう。跳んだ分が無駄になるじゃねえか。
「クソッ、やること全部いやらしいなあんた!」
仕方なく、斬った量産型を足場に点々と駆け上がる。
「ほう、人の身でここまで来るか」
「当たり前だ。俺の仲間の相手をしてもらったからには、返すのが常識さ」
最後の一匹の首を撥ねる。
残った胴体を蹴飛ばし、落下させ、俺自身の体を空中へ押し出す。
「さあ、届いたぜ? しっかり相手してもらおうか!」
「ふん、ほざくな!」
ロキが膨大な魔術の波動を放ってくる。
多すぎる! いや、落とせるか?
「双剣技――大蛇!」
縦横無尽の剣技が魔術の一発一発を叩き落していく。
その間も体はどんどん上へ押し出されていき、あとわずかでロキに届くところまできた。
「残念だったな。その頑張りだけは認めてやろう」
「あんたに認めてもらう必要はないね! これで――っ!?」
背後へと一閃、剣を振りぬく気でいたのだが、途中で何かに阻まれる。
「反応は上々。まさか防ぐとは」
ロキは楽しそうに言うが、冗談じゃない。裕斗たちの相手をしていたはずの子フェンリルが、背後に迫っていたんだ。
あのままロキに向かってたら四肢を噛み千切られてたかもな。
「この、駄犬がぁっ!」
力任せに子フェンリルを弾く。
「その間があれば十分だ。落ちろ」
もう一度量産型を足場に駆け上がろうとするが、それより速くロキが魔術を放った。
「光輝……はダメか。もう限界が近い。使うなら、あっちの二人にじゃないとな」
面倒だ、本当に……。
避けれる間合いじゃないだけに、迎撃する暇もなく、衝撃が襲った。
「あークソッ! 子フェンリルの邪魔さえなければどうとでもなったのによ! あの駄犬絶対調教してやる。一匹は残しといてくれよ!」
子フェンリルと戦うみんなに大声で呼びかける。
「ダメージがない、だと?」
ロキは俺の様子を確認しながら呟いた。
大方、魔術が効いてないことが不思議なのだろう。
「多少はあるさ、多少はな。さっきまで格上相手に粘ってたせいか、あんたの魔術はあんまりだわ。やっぱダワーエには遠く及ばないな」
とは言っても弱いって言ってるわけじゃないけれど。
それより落とされた以上はもう一度登りたいわけだが、もう量産型を差し向けてはこないだろう。飛べればいいんだが、残念ながらそれは無理。
なら、俺は二人の方へ行くしかないな。
「イッセー、悪いけどロキの相手は頼んでいいか? 少しの間だけでいいから!」
「なに言ってんだよ、カイト。あいつはもともと俺の相手だぜ? 任せとけって!」
「んじゃあ任せるわ!」
「おう!」
無茶しないか心配だし、早めになんとかして戻ってこよう。
向かう視線の先では、いまも不器用な二人が立ち止まり、一歩を踏み出せずにたたずんでいた。
「ったく、どうしてこう世の中の父親はこんなにダメダメなのかねえ。いや、俺父親がいる生活とか知らないけどさ」
けれど、やっぱ歩み寄れるなら、それに超したことはないはずだ。
ちょっと無理するけど、最後の光輝は二人のために。
「これで、貰った力は完全に消えるな。惜しい気もするけど、残りカスくらい、誰かのためにってか」
無言でいる二人のもとへと歩いていき、そして。
「朱乃さん、バラキエル。あんたらそろそろ向き合えっての。言えないってなら、導いてやるからさ。優しさだけでできた光ってのも、たまにはいいと思うよ」
俺たち三人を、光の柱が呑み込んだ。
希望の光が、俺だけのために使われることは決してない。迷ってる家族のために、素直になれる程度の奇跡は、いくらでも起こしてみせる! 俺の、俺たちの大事な仲間のためになら!
小さな、邪神と戦ったときとはあまりにも小さな願いは、それでも。
光輝によって、叶えられる。
外部と切り離された光の空間の中で、朱乃さんとバラキエルにも見えるよう、ひとつの風景が浮かび上がった。
小さいころの朱乃さんの記憶?
母親と話しているのか。
『母さま、父さまは今日いつごろ帰ってくるの?』
『あら、朱乃。父さまとどこに行くの?』
母親の問いに、満面の笑みを浮かべて答える小さな朱乃さん。
『早く帰ってきたら、一緒にバスに乗って町へ買い物に行くの!』
<寂しかった>
朱乃さんの、声……なのか。けれど声音はいまの朱乃さんのもので――。
<いつも父さまがいてくれたら、よかったのに>
俺が知っている、バラキエルに向けられていた声とは、全然違う。
<たまにしか父さまに会えなかったから>
家族との記憶が、どんどん移り変わっては、光の中へと消えていく。
中には、見たくなかったであろう、当時の朱乃さんの母親の最後の瞬間もあった。
駆けつけるのが遅れたバラキエルに、小さな朱乃さんが怒りをぶつける場面だって。
<父さまが悪くないことぐらいわかってた。けど――。そう思わなければ、私の精神は保たなかった……。私は……弱いから……。寂しくて……ただ、三人で暮らしたくて……>
光の中から、一人の女性の声が聞こえてきた。
『朱乃』
それはとても優しい声で。
『なにがあっても、父さまを信じてあげて。父さまはこれまで他者をたくさん傷つけてきたかもしれない――でもね』
幻なのかもしれない。それでも、俺は信じたい。
朱乃さんとバラキエルを包む光の中に、朱乃さんの大好きな人がいることを。
『あの人が私と朱乃を愛してくれているのは本当なのだから。だから、朱乃もあの人を愛してあげてね』
光が、こちらを向いた気がした。二人と違って、俺には誰かがいるのだろうということしかわからない。でも、微笑んでいる――気がしたんだ。
光輝の光は、ここまでが限界だった。
輝きは収束し、再び戦場へと景色が戻る。
横へ向くと、朱乃さんはとめどなく涙を流していた。
「母さま……ッ! 私は……ッ! 父さまともっと会いたかった! 父さまにもっと頭をなでてもらいたかった! 父さまともっと遊びたかった! 父さまと……父さまと母さまと……三人でもっと暮らしたかった……ッ!」
内に秘めていた想いがあふれていく。
朱乃さんの告白を聞いていたバラキエルは、一歩踏み出し、一言だけ、小さな声でつぶやいた。
「朱璃のことを……おまえのことを……一日たりとも、忘れたことなどないよ」
涙を流しながら、朱乃さんへと手を伸ばす。
朱乃さんは、何も言わずに、その手を取った。
「……父さま」
「滑稽だな。なにやら力強い光が発生したかと思えば、ただの家族愛のためなぞに使いきるなど。貴殿は勝つための策を捨てたと見える。あの光があれば、ダメージのひとつも負わせることができただろうにな」
やっとのことで和解した直後、空中から声がかかった。
「家族の絆も、愛も、どうでもいい! そんなものなど必要ないというのに! 貴殿はなぜそんなことのために力を使ってやったのだ? まったく、本当にこっけ――っ……」
ロキに振り向いた瞬間、彼は声を発することをやめ、それだけには留まらず、わずかに後退するのを、俺は見逃さなかった。
「……ふざけるなよ、ロキ。あんた、余計なこと言ったぜ、完全に」
ふつふつと、彼に向け怒りが湧き上がってくるのを、俺は自分でも理解していた。
ああ、この怒りは振りかざさなければ収まらない――。