ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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どうもみなさん、五ヶ月ぶりです!
久々の更新になりますが、今日からまたゆっくりと話を進めていきたいと思いますですよ。
え? もうどんな話か忘れたって? ならまた一話から読み返してくださいな。


10話

 さて、大見得切ったところでロキと一戦交えてみるか。

「怖い怖い。そうそう睨まれては何もできないな」

 嘯くように語り掛けてくるロキ。

「そうか。だったらそこで無抵抗に消されろよ」

「断る。そこまでしてやる価値、貴殿にはない。闘争の中でのみ、その価値を示すといい」

 本性はどいつもこいつも戦闘狂だな。ったく、俺たちの前に出てくるのは強者であり、狂者でもあるらしい。

 まずはロキに接近してみるのもアリだな。

 朱乃さんに近づけなければいいだけの話し出し、俺に注意を惹きつけるのも手だろ。

「あんたを殴るのが楽しみだよ」

 両足に力が入る。

「殴る? ここに来るまでに叩き落してやろう」

「言ってろっ!」

 一瞬の跳躍。

 この一手でロキへの距離の半分を詰めた。

「空中に飛び出したのは悪手だったな。貴殿には悪いが、早々にご退場願おうか」

 ミドガルズオルムの量産型と思われる奴らが俺へと殺到する。最初からそのつもりだったか。元より俺と競う気はないのな。

「なめんな! 絶剣技、三ノ型――影月演舞!」

 量産型の頭部を斬っては瞬転、次の量産型の頭部を、腹部を斬り捨てていく。

 ダメージを負うことはないけど、このままだといずれ着地しちまう。跳んだ分が無駄になるじゃねえか。

「クソッ、やること全部いやらしいなあんた!」

 仕方なく、斬った量産型を足場に点々と駆け上がる。

「ほう、人の身でここまで来るか」

「当たり前だ。俺の仲間の相手をしてもらったからには、返すのが常識さ」

 最後の一匹の首を撥ねる。

 残った胴体を蹴飛ばし、落下させ、俺自身の体を空中へ押し出す。

「さあ、届いたぜ? しっかり相手してもらおうか!」

「ふん、ほざくな!」

 ロキが膨大な魔術の波動を放ってくる。

 多すぎる! いや、落とせるか?

「双剣技――大蛇!」

 縦横無尽の剣技が魔術の一発一発を叩き落していく。

 その間も体はどんどん上へ押し出されていき、あとわずかでロキに届くところまできた。

「残念だったな。その頑張りだけは認めてやろう」

「あんたに認めてもらう必要はないね! これで――っ!?」

 背後へと一閃、剣を振りぬく気でいたのだが、途中で何かに阻まれる。

「反応は上々。まさか防ぐとは」

 ロキは楽しそうに言うが、冗談じゃない。裕斗たちの相手をしていたはずの子フェンリルが、背後に迫っていたんだ。

 あのままロキに向かってたら四肢を噛み千切られてたかもな。

「この、駄犬がぁっ!」

 力任せに子フェンリルを弾く。

「その間があれば十分だ。落ちろ」

 もう一度量産型を足場に駆け上がろうとするが、それより速くロキが魔術を放った。

「光輝……はダメか。もう限界が近い。使うなら、あっちの二人にじゃないとな」

 面倒だ、本当に……。

 避けれる間合いじゃないだけに、迎撃する暇もなく、衝撃が襲った。

「あークソッ! 子フェンリルの邪魔さえなければどうとでもなったのによ! あの駄犬絶対調教してやる。一匹は残しといてくれよ!」

 子フェンリルと戦うみんなに大声で呼びかける。

「ダメージがない、だと?」

 ロキは俺の様子を確認しながら呟いた。

 大方、魔術が効いてないことが不思議なのだろう。

「多少はあるさ、多少はな。さっきまで格上相手に粘ってたせいか、あんたの魔術はあんまりだわ。やっぱダワーエには遠く及ばないな」

 とは言っても弱いって言ってるわけじゃないけれど。

 それより落とされた以上はもう一度登りたいわけだが、もう量産型を差し向けてはこないだろう。飛べればいいんだが、残念ながらそれは無理。

 なら、俺は二人の方へ行くしかないな。

「イッセー、悪いけどロキの相手は頼んでいいか? 少しの間だけでいいから!」

「なに言ってんだよ、カイト。あいつはもともと俺の相手だぜ? 任せとけって!」

「んじゃあ任せるわ!」

「おう!」

 無茶しないか心配だし、早めになんとかして戻ってこよう。

 向かう視線の先では、いまも不器用な二人が立ち止まり、一歩を踏み出せずにたたずんでいた。

「ったく、どうしてこう世の中の父親はこんなにダメダメなのかねえ。いや、俺父親がいる生活とか知らないけどさ」

 けれど、やっぱ歩み寄れるなら、それに超したことはないはずだ。

 ちょっと無理するけど、最後の光輝は二人のために。

「これで、貰った力は完全に消えるな。惜しい気もするけど、残りカスくらい、誰かのためにってか」

 無言でいる二人のもとへと歩いていき、そして。

「朱乃さん、バラキエル。あんたらそろそろ向き合えっての。言えないってなら、導いてやるからさ。優しさだけでできた光ってのも、たまにはいいと思うよ」

 俺たち三人を、光の柱が呑み込んだ。

 希望の光が、俺だけのために使われることは決してない。迷ってる家族のために、素直になれる程度の奇跡は、いくらでも起こしてみせる! 俺の、俺たちの大事な仲間のためになら!

 小さな、邪神と戦ったときとはあまりにも小さな願いは、それでも。

 光輝によって、叶えられる。

 外部と切り離された光の空間の中で、朱乃さんとバラキエルにも見えるよう、ひとつの風景が浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 小さいころの朱乃さんの記憶? 

 母親と話しているのか。

『母さま、父さまは今日いつごろ帰ってくるの?』

『あら、朱乃。父さまとどこに行くの?』

 母親の問いに、満面の笑みを浮かべて答える小さな朱乃さん。

『早く帰ってきたら、一緒にバスに乗って町へ買い物に行くの!』

 

 <寂しかった>

 

 朱乃さんの、声……なのか。けれど声音はいまの朱乃さんのもので――。

 

 <いつも父さまがいてくれたら、よかったのに>

 

 俺が知っている、バラキエルに向けられていた声とは、全然違う。

 

 <たまにしか父さまに会えなかったから>

 

 家族との記憶が、どんどん移り変わっては、光の中へと消えていく。

 中には、見たくなかったであろう、当時の朱乃さんの母親の最後の瞬間もあった。

 駆けつけるのが遅れたバラキエルに、小さな朱乃さんが怒りをぶつける場面だって。

 

 <父さまが悪くないことぐらいわかってた。けど――。そう思わなければ、私の精神は保たなかった……。私は……弱いから……。寂しくて……ただ、三人で暮らしたくて……>

 

 光の中から、一人の女性の声が聞こえてきた。

『朱乃』

 それはとても優しい声で。

『なにがあっても、父さまを信じてあげて。父さまはこれまで他者をたくさん傷つけてきたかもしれない――でもね』

 幻なのかもしれない。それでも、俺は信じたい。

 朱乃さんとバラキエルを包む光の中に、朱乃さんの大好きな人がいることを。

『あの人が私と朱乃を愛してくれているのは本当なのだから。だから、朱乃もあの人を愛してあげてね』

 光が、こちらを向いた気がした。二人と違って、俺には誰かがいるのだろうということしかわからない。でも、微笑んでいる――気がしたんだ。

 光輝の光は、ここまでが限界だった。

 輝きは収束し、再び戦場へと景色が戻る。

 横へ向くと、朱乃さんはとめどなく涙を流していた。

「母さま……ッ! 私は……ッ! 父さまともっと会いたかった! 父さまにもっと頭をなでてもらいたかった! 父さまともっと遊びたかった! 父さまと……父さまと母さまと……三人でもっと暮らしたかった……ッ!」

 内に秘めていた想いがあふれていく。

 朱乃さんの告白を聞いていたバラキエルは、一歩踏み出し、一言だけ、小さな声でつぶやいた。

「朱璃のことを……おまえのことを……一日たりとも、忘れたことなどないよ」

 涙を流しながら、朱乃さんへと手を伸ばす。

 朱乃さんは、何も言わずに、その手を取った。

「……父さま」

「滑稽だな。なにやら力強い光が発生したかと思えば、ただの家族愛のためなぞに使いきるなど。貴殿は勝つための策を捨てたと見える。あの光があれば、ダメージのひとつも負わせることができただろうにな」

 やっとのことで和解した直後、空中から声がかかった。

「家族の絆も、愛も、どうでもいい! そんなものなど必要ないというのに! 貴殿はなぜそんなことのために力を使ってやったのだ? まったく、本当にこっけ――っ……」

 ロキに振り向いた瞬間、彼は声を発することをやめ、それだけには留まらず、わずかに後退するのを、俺は見逃さなかった。

「……ふざけるなよ、ロキ。あんた、余計なこと言ったぜ、完全に」

 ふつふつと、彼に向け怒りが湧き上がってくるのを、俺は自分でも理解していた。

 ああ、この怒りは振りかざさなければ収まらない――。

 


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