ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
もう全部読んじまったよって方、遅れてすいません。
この話、最初から最後までクライマックスだぜ! 仕様なので毎回毎回見せ場をつくったりつくってなかったりしてます。え? 結局どっちかって?
……それはほら、ご想像にお任せします!
では、どうぞ!
イッセーと朱乃さんが危険な状況にあったので、つい手を出してしまった。
そのせいでロキに気づかれたらしい。
本来なら、ここぞという場面で奇襲しようと考えていたのだが、どうやらそれは無理そうだ。ロキは完全に俺がいる空間を睨んでいる。
邪神との戦闘で放った最後の一撃は、邪神と一体化していたと思われる空間ごと破壊してしまった。あの一撃は、纏っていた光をほとんど全て放出してしまったので、もう纏えることは無い。
救いがあったとすれば、僅かに残っていた光が俺をここまで転移させてくれたことと、イッセーと朱乃さん、一度に二箇所への干渉をし、ロキとフェンリルを退けたことだろう。
「ま、いまのでガス欠か……。もう光は残ってないな。邪神を倒すときに協力してくれた光たちには感謝してるけど、叶うことならもう少しだけ一緒に戦ってほしかったな」
すでにゼラデスはおろか、ゼペリオンも使えない。
イッセーたちを救った反射も無理だ。
剣も二本に戻り、常の姿を取り戻している。当然、光も纏ってない。
裂け目からあちらの様子は確認できるので、そっと辺りを見回す。
「ロキは俺に気づいてる。いや、誰かがいることまでは感しているはずだ。ヴァーリの姿が見えないのは気になるが、まあアイツなら多分大丈夫だろうし。ただ、フェンリルがいるのは誤算だな。サイズ的に子供なんだろうが、強敵に変わりないわけで」
状況をまとめてみるが、結論は最初からわかっていた。ロキもフェンリルも、どいつも無視することはできない。
以上だ。
一日に悪神二連続とか勘弁してくださいよっと。
放っておけばイッセーたちも危ないか。
毎度毎度疲れきってるけど、
「そろそろ行くか」
裂け目を広げ、と思ったところでロキが先手を打った。いや、思えばこれは苛立ちだったのかもしれん。
裂け目めがけ、魔術を放ってきたんだ。
「この、クソ野郎!」
直撃するより速く裂け目から抜け出て、ロキへとお返しとばかりに黒い魔弾を撃っておく。
「チッ」
それを腕で払うと、俺を見据える。っていうか、あれ払っちゃうのか。俺てきには結構いい感じの威力だったんだけど。
「外野がなんの用だ?」
ロキだ。
というかまた外野扱い!? 確かこのフィールドに来たときも外野呼ばわりだったよな!
「あんたを倒しに……と言いたいところだけど、ただ単に仲間を助けに、かな。まあやることは変わらないんだけどさ」
「そうか。つまり貴殿はかの悪神を倒してきたわけか」
貴殿……。認められたってことでいいのかな?
「それで、どうする? ダワーエを倒した人間と競ってみたくはないか?」
「フッ……。いいだろう。好きにしろ」
お、なんか話が通じるぞ。
「じゃあお構いなく」
登場シーンは邪魔されたが、まあいい。
二回目は格好がつかなかいことが証明されたんだからな。
「カイト!」
「カイトくん!」
イッセーと祐斗が駆け寄ってくる。
辛い状況だろうに、笑顔を見せながら。
「おう、二人とも。約束した通り、勝ってきたぜ。あとは帰るだけだ」
――ロキを倒してな。
「よく勝てたね」
「まあ、いろいろ外部からの助力を受けてね」
「助力?」
「気にするなよ、祐斗。それより、中々によくない戦況じゃないの」
多分最前線にいたであろうイッセーに視線を向ける。
「まあ、確かに良くはないな」
「でも、たったいま流れは変わったのよ」
イッセーに続いて、部長がそう言う。
「どういうことですか、部長」
イッセーが不思議そうに訊く。
「カイトの登場、ダワーエに勝ったという事実が、私たちの士気を一気に上げてくれたわ。さあ、ここからよ」
部長はまだまだ、と言いたげにロキを見る。
祐斗はそれを聞き、笑みを浮かべ聖魔剣を構える。
イッセーは自身を包む赤い魔力を増大させる。
「んじゃもういっちょ、勝負といきますか!」
そして俺は、開幕だとでも言わんばかりの特大の魔弾をロキへと放つ。
「ふんっ!」
だがしかし。
ロキから放たれる極太の魔術の放射により呆気なく相殺される。
もちろん、ダメージが通ることを期待していた。けどいいさ。通らなくても、目くらましくらいにはなるだろ。
相殺したことによる余波で土煙が盛大に舞っている。
そこを一直線に突貫していくイッセーの姿が見えた。うまくやるだろ。
「祐斗、小猫と子フェンリルを頼む。俺は少し朱乃さんの様子を見てくる」
「わかった!」
ヴァーリチームのやつらも、タンニーンもいるし祐斗たちはなんとかするだろ。
朱乃さんはどうだ? この戦闘が始まる前、家にいるときは不安定な感じがしてたが……。
「朱乃さん、だいじょうぶですか?」
バラキエルさんと共に、その顔を覗く。
「カイ、トくん……?」
まるでいま始めて俺の存在に気づいたような感じだった。
その理由は、すぐに知ることになる。
「私が危ないとき、誰よりもはやく、その人は私を護ろうとしてくれたんです。憎いはずの、あの人が」
自分を庇うように立っていたバラキエルを見ているのだろう。
ありえないものを見たかのようだ。
そうか、バラキエルを見てて、ずっと考えていたから――。
「そりゃ護ろうとしますよ。家族ですもん。過去になにがあったとしても。例えば、いまはどれだけ憎まれて、嫌われていようとも。それでも、いや。たかがそれだけのことで、家族を真に思う気持ちってのは変わりません。本音を言えば、朱乃さんだってまた違うことを言うかもしれませんよ? 憎むだけじゃないでしょう?」
夏休み。イヅナとの一件を思い出す。
そのもっと前。みんなと出会ったことを思い返す。
もっともっと前。アンラ・マンユに襲撃されるずっと前のことを思い出す。
仲間と過ごしてきた思い出、家族として過ごしてきた日々。
思い返される中に、俺の親族は一人としていない。母親も、父親も知らない。それでも、俺に向けられてきた仲間たちの思いはきっと、家族そのものだったから。
その思いがあったから、俺は孤独にも、憎しみを抱くこともなかったんだ。
「それに、家族は大事にしないと。たかが一瞬で、全てを失った奴だっているんですよ? 顔を知らない奴だっているんですよ? そんな中で、自分を投げ打ってまで護ろうとする父親がいるのは、幸福なことなんですから。信じてあげてください。自分の父親を。わかってあげてください、あの人が、どれだけあなたを愛しているかを。そして、返してあげてください。愛されてることがわかったら、その分だけ父親を愛してあげてください。いまこの場で、それを話す時間くらいは稼いできますから。いま、話をしてください」
返事は聞かず、一人前に出る。
「そういうことで、あんたもしっかり話してやれ。いままで話せなかったぶん、少しでも本当の気持ちで」
「……。……ああ」
バラキエルが頷くのを確認し、俺はロキへと向かう。