ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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6話

 光が俺を包んでいくような錯覚を覚える。

 いや、もしかしたら、俺自身が光になっているのかもしれない。

 だが、そんなことはどうでもいいように思えた。なんせ、俺の周りにはいま、幾千という光が飛び回っているのだから。

「なぜ、おまえたちが……」

 ダワーエが光に向かい問いかける。

 当然のように、光は声を発しない。ただダワーエを避け、俺のもとへと集まってくるだけだ。

「いまになってなぜ出てくる! 滅ぼしたはずの貴様らがなぜ! 光はなぜいつも俺の邪魔をするんだ!」

「絶望を、人は望まないからだ。おまえが強くなるだけ、人もまた希望の光を束ねる。一人のエゴの方が強いって前に言ってたな。そんなことはない。みんなの希望を束ねた力は、おまえのそれに届く!」

「ふざけるな……。思い上がるな小僧ォォォォッ! たかがその程度の光、今一度消してくれる!」

 ダワーエが全身を闇色に染める。

 その両手には、おなじように闇で創られた剣が握られていた。

「剣で競おうってわけか。いいぜ、それでいこう!」

 エスト、レスティア。今度は折らせない! 

 右手に<魔王殺しの聖剣>、左手に<真実を貫く剣>を握る。

「その程度の剣、また折るだけだ!」

 ダワーエが突っ込んでくる。

 両手に持つ剣を交差させて俺に狙いを定める。

 だから、

「折らせないっつってんだろ!」

 同じように二本の剣を交差させ、ダワーエを迎え撃つ。

「そのような愚物、折れて当然!」

 二人の距離が迫る。

「俺の相棒たちを、バカにするなっ!」

 四本の剣が交じり合う。

「所詮前回となにも変わるまい!」

「いいや、前回のようにはいかない!」

「なに……」

 変化は唐突に起きる。

 周りに漂う光が二本の剣へと集まっていく。レスティアは不満かもしれないが、いまだけはこの光を受け入れてくれ!

「今回は光が満ち溢れているからな。俺の剣も『光輝』の影響下に置いてやる!」

「その程度で――」

「ここで勝つんだ!」

 闇色の剣を光が斬りこみを入れる。

「おおおおおおおおおおおッッ!!」

 光は剣の内部から溢れ出し始め、やがて――

 パリィィィィンッ!

「……おのれ」

 ダワーエの二本の剣を砕いた!

 けど、まだだ。まだ終わらない! 次はダワーエ自身を消す!

「調子に乗るな! 人間ごときに、愚物ごときに負けはせん!」

「うお……っ!?」

 突如として吹いた強風に体が浮き、数メートルと飛ばされる。

 なにが起きた? 

「貴様が幾千の光を束ね戦うというならば、俺は一人闇を従え、いまここに再び闇となり貴様の前に顕現してみせよう!」

 見ればダワーエの周囲に風が吹き荒れ始めている。

 これは一体……。

「フハハハハッ、まさかこんな展開になるとは思っていなかった。しかし、貴様が悪いのだ。ここに眠る奴らの希望なんぞを背負うから」

 なにを言っている? 

「昔もそうだった。無駄に希望などと、光などと戯言を!」

「くっ!」

 先ほどと同じ闇色の剣が放たれる。

 二撃三撃と続き、その全てを両手に握る相棒たちで弾いていく。

「その光を再び葬ることこそ俺の存在意義だ! 主と同じように、私も邪神へと戻り、再びこの世界を闇に包んでくれる!」

 計十八連撃にも及ぶ剣を弾き終えたころ、ダワーエの身体は空中へと浮かび上がっていた。

「なにをする気だ!」

「言ったであろう? いまこの場で貴様を滅ぼすために、再び昔の姿を取り戻すだけのこと! 周囲に光が溢れるように、この場はまた、闇も眠る場所なのだ!」

 溢れ出ていた光に対抗するように、闇が地面を侵食していく。

 煙のように実体を持たない存在として、いかなる抵抗もすり抜けダワーエの下に集う。

「簡単に消すのもつまらないが、まあいいだろう。かつて世界を闇で包んだ姿、その目に焼き付けるがいい!」

 すべての闇が加速を始め、一点――ダワーエの下で形を成していく。

 やがて闇は空を覆い、実体を持ち始める。

 空を覆う闇の一部が盛り上がり、蛇の頭部を思わせる形をつくる。

 デカイ……。空を覆うほどだから、大きいのは当然だが、その頭部だけでも校庭程度はあるぞ。

「フハハハハッ! この姿こそ本来の俺だ! この闇の化身こそが大魔ダワーエの正体。いや、すでにダワーエではないな。あれはこの身を分けたただの一部に過ぎぬ。邪神へとなった俺はすでに名などない!」

 邪神……。空から光が消えた。

 暗闇に近いこの視界の中、赤く光る目が二つ、俺を見据えている。

 光はいまだ周囲にあるものの、闇の影響が強すぎる。

 この世界はいま、どの程度闇に包まれているのだろう……。

「どうした? 恐怖したか? 逃げ出したくなったか? そうだろうなぁ、なんせこの姿を見たら、普通はそう思う」

 空を覆うほど巨大になったダワーエが言う。

 勝手な言い分だ。根拠もなくよく言ってくれる。

「悪いが一回たりとも恐怖を抱いた覚えは無いな。その姿を見てからずっと、おまえを倒す方法なら考えていたよ」

「ほお……。よく言った。それでこそ、この姿を取り戻してまで戦う意味がある!」

 <魔王殺しの聖剣>も、<真実を貫く剣>も、いまは光となり輝きを発している。あいつに対抗するには十分だろう。  

 でも、まだ弱い。俺自身の光はまだ、闇に届かないかもしれない。

 一人なら、前回と同じように、結局はここで負けていただろう。絶望していたかもしれない。この場に、闇に立ち向かう人たちがたくさんいてくれてよかった。

 俺の思いに呼応するように、残っていた光が俺の中へと入ってくる。

 その数はどんどん増していき、やがて幾万という光が集まった。こんなにも多くの光が、俺を支えてくれる。

 闇に呑まれないように、負けないように。

「あんたたちの思い、全部を背負う。今度こそ、闇を完全に消滅させる」

「思い上がるなと言ったはずだ。例えひとつに集まろうと、その輝きは闇を照らせない。今度こそ、その光全てを消し去ってくれる!」

 蛇の頭部に見えるその額に、ダワーエの上半身が浮かび上がる。声はそこから発せられていたらしい。

「今回ばかりは、本気で負けられない。約束を守る! この光のためにも、絶望を打ち砕く! そして、俺の意地のためにも、二度も負けられない!」

「ならば押し通して見せろ! 貴様の意地を! 約束を! その背負ったものすべてを!」

 邪神の頭部が裂ける。口を開いたのか! 

 そう気づくころには、敵は攻撃に移っていた。

 青色の光を帯びた闇色の剣を無数に放ってくる。青色の光が空一面を照らす。

「全てを弾くことはできまい!」

 弾く……。ああ、確かに弾ききることは無理かもな。弾いた瞬間に違う箇所を貫かれるだろう。それほどまでに、密になった一撃だ。

「だったら、一度に全部弾けば問題ないだろ!」

 相手の放った剣の到達点を予測。

 視界に映る限りの全ての本数を把握。

 多分、今後は一度として成功しないだろう。幾万の光が支えてくれるいまだからこそ可能な一手。

「全剣捕捉。光よ、剣となりて敵を撃て!」

 背後から光を帯びた剣が飛んでいく。

 一瞬のうちに何百という剣が横を、頭上を通り抜ける。それらは全て、俺に向かって飛んでくる闇色の剣と衝突しては互いに消えていく。

 幾度となく響く剣同士の砕け散る音を聞きながら、いま。最後の一本同士が多大に砕けた。

「防いだか……」

 邪神は愉快そうに笑う。

「だが、無駄だったな。この程度防いだところで、おまえの死は覆ることは無い」

 決まってないことをぬけぬけと。

「おまえの選択は間違いだった。邪神と競おうということこそ、全ての間違いなのだ! 貴様が背負った光も、希望も、全てが俺を倒そうというものだとしたら、その思いこそが間違いだァッ!」

 邪神の口から光線が放たれる。

「――なんかじゃない!」

 右手に握る<魔王殺しの聖剣>で光線を真っ二つに裂く。

「なに!?」

 今度は鋭く開いた眼が赤い輝きを強める。

 体が軽い。いまなら、飛べる!

 正面から邪神へと突っ込む。

「獄炎――」

 再度開かれた邪神の口から発せられたのは、黒い炎だった。

 止まることはない。

 俺に光を託した彼らの希望も、俺の光も、思いも――。

「――間違いなんかじゃないんだァァァァァァッッ!!」

 左手に握る<真実を貫く剣>を構える。

「絶剣技、四ノ型――焔切り!」

 黒い炎二分に別ち、その炎を纏わせる。

「おのれ、おのれおのれおのれおのれ!」

「さあ、届いたぜ、俺たちの希望! 絶剣技、破ノ型――烈華螺旋剣舞・二十五連!」

 額に浮かんでいたダワーエへと、闇を切り裂く縦横無尽の剣技が炸裂した――。

 




「部長、俺たちもロキ戦やってるのに、超空気ですね……」
「やめなさいイッセー。私だって出番が無くて悲しいのに!」
「ぶ、部長……ッ!」
「あらあら部長もイッセーくんも」
「余裕ね、朱乃は」
「それはもちろんですわ。だって、活躍してるカイトくんの姿を見れるんですから」
「「…………」」

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