ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
光が俺を包んでいくような錯覚を覚える。
いや、もしかしたら、俺自身が光になっているのかもしれない。
だが、そんなことはどうでもいいように思えた。なんせ、俺の周りにはいま、幾千という光が飛び回っているのだから。
「なぜ、おまえたちが……」
ダワーエが光に向かい問いかける。
当然のように、光は声を発しない。ただダワーエを避け、俺のもとへと集まってくるだけだ。
「いまになってなぜ出てくる! 滅ぼしたはずの貴様らがなぜ! 光はなぜいつも俺の邪魔をするんだ!」
「絶望を、人は望まないからだ。おまえが強くなるだけ、人もまた希望の光を束ねる。一人のエゴの方が強いって前に言ってたな。そんなことはない。みんなの希望を束ねた力は、おまえのそれに届く!」
「ふざけるな……。思い上がるな小僧ォォォォッ! たかがその程度の光、今一度消してくれる!」
ダワーエが全身を闇色に染める。
その両手には、おなじように闇で創られた剣が握られていた。
「剣で競おうってわけか。いいぜ、それでいこう!」
エスト、レスティア。今度は折らせない!
右手に<魔王殺しの聖剣>、左手に<真実を貫く剣>を握る。
「その程度の剣、また折るだけだ!」
ダワーエが突っ込んでくる。
両手に持つ剣を交差させて俺に狙いを定める。
だから、
「折らせないっつってんだろ!」
同じように二本の剣を交差させ、ダワーエを迎え撃つ。
「そのような愚物、折れて当然!」
二人の距離が迫る。
「俺の相棒たちを、バカにするなっ!」
四本の剣が交じり合う。
「所詮前回となにも変わるまい!」
「いいや、前回のようにはいかない!」
「なに……」
変化は唐突に起きる。
周りに漂う光が二本の剣へと集まっていく。レスティアは不満かもしれないが、いまだけはこの光を受け入れてくれ!
「今回は光が満ち溢れているからな。俺の剣も『光輝』の影響下に置いてやる!」
「その程度で――」
「ここで勝つんだ!」
闇色の剣を光が斬りこみを入れる。
「おおおおおおおおおおおッッ!!」
光は剣の内部から溢れ出し始め、やがて――
パリィィィィンッ!
「……おのれ」
ダワーエの二本の剣を砕いた!
けど、まだだ。まだ終わらない! 次はダワーエ自身を消す!
「調子に乗るな! 人間ごときに、愚物ごときに負けはせん!」
「うお……っ!?」
突如として吹いた強風に体が浮き、数メートルと飛ばされる。
なにが起きた?
「貴様が幾千の光を束ね戦うというならば、俺は一人闇を従え、いまここに再び闇となり貴様の前に顕現してみせよう!」
見ればダワーエの周囲に風が吹き荒れ始めている。
これは一体……。
「フハハハハッ、まさかこんな展開になるとは思っていなかった。しかし、貴様が悪いのだ。ここに眠る奴らの希望なんぞを背負うから」
なにを言っている?
「昔もそうだった。無駄に希望などと、光などと戯言を!」
「くっ!」
先ほどと同じ闇色の剣が放たれる。
二撃三撃と続き、その全てを両手に握る相棒たちで弾いていく。
「その光を再び葬ることこそ俺の存在意義だ! 主と同じように、私も邪神へと戻り、再びこの世界を闇に包んでくれる!」
計十八連撃にも及ぶ剣を弾き終えたころ、ダワーエの身体は空中へと浮かび上がっていた。
「なにをする気だ!」
「言ったであろう? いまこの場で貴様を滅ぼすために、再び昔の姿を取り戻すだけのこと! 周囲に光が溢れるように、この場はまた、闇も眠る場所なのだ!」
溢れ出ていた光に対抗するように、闇が地面を侵食していく。
煙のように実体を持たない存在として、いかなる抵抗もすり抜けダワーエの下に集う。
「簡単に消すのもつまらないが、まあいいだろう。かつて世界を闇で包んだ姿、その目に焼き付けるがいい!」
すべての闇が加速を始め、一点――ダワーエの下で形を成していく。
やがて闇は空を覆い、実体を持ち始める。
空を覆う闇の一部が盛り上がり、蛇の頭部を思わせる形をつくる。
デカイ……。空を覆うほどだから、大きいのは当然だが、その頭部だけでも校庭程度はあるぞ。
「フハハハハッ! この姿こそ本来の俺だ! この闇の化身こそが大魔ダワーエの正体。いや、すでにダワーエではないな。あれはこの身を分けたただの一部に過ぎぬ。邪神へとなった俺はすでに名などない!」
邪神……。空から光が消えた。
暗闇に近いこの視界の中、赤く光る目が二つ、俺を見据えている。
光はいまだ周囲にあるものの、闇の影響が強すぎる。
この世界はいま、どの程度闇に包まれているのだろう……。
「どうした? 恐怖したか? 逃げ出したくなったか? そうだろうなぁ、なんせこの姿を見たら、普通はそう思う」
空を覆うほど巨大になったダワーエが言う。
勝手な言い分だ。根拠もなくよく言ってくれる。
「悪いが一回たりとも恐怖を抱いた覚えは無いな。その姿を見てからずっと、おまえを倒す方法なら考えていたよ」
「ほお……。よく言った。それでこそ、この姿を取り戻してまで戦う意味がある!」
<魔王殺しの聖剣>も、<真実を貫く剣>も、いまは光となり輝きを発している。あいつに対抗するには十分だろう。
でも、まだ弱い。俺自身の光はまだ、闇に届かないかもしれない。
一人なら、前回と同じように、結局はここで負けていただろう。絶望していたかもしれない。この場に、闇に立ち向かう人たちがたくさんいてくれてよかった。
俺の思いに呼応するように、残っていた光が俺の中へと入ってくる。
その数はどんどん増していき、やがて幾万という光が集まった。こんなにも多くの光が、俺を支えてくれる。
闇に呑まれないように、負けないように。
「あんたたちの思い、全部を背負う。今度こそ、闇を完全に消滅させる」
「思い上がるなと言ったはずだ。例えひとつに集まろうと、その輝きは闇を照らせない。今度こそ、その光全てを消し去ってくれる!」
蛇の頭部に見えるその額に、ダワーエの上半身が浮かび上がる。声はそこから発せられていたらしい。
「今回ばかりは、本気で負けられない。約束を守る! この光のためにも、絶望を打ち砕く! そして、俺の意地のためにも、二度も負けられない!」
「ならば押し通して見せろ! 貴様の意地を! 約束を! その背負ったものすべてを!」
邪神の頭部が裂ける。口を開いたのか!
そう気づくころには、敵は攻撃に移っていた。
青色の光を帯びた闇色の剣を無数に放ってくる。青色の光が空一面を照らす。
「全てを弾くことはできまい!」
弾く……。ああ、確かに弾ききることは無理かもな。弾いた瞬間に違う箇所を貫かれるだろう。それほどまでに、密になった一撃だ。
「だったら、一度に全部弾けば問題ないだろ!」
相手の放った剣の到達点を予測。
視界に映る限りの全ての本数を把握。
多分、今後は一度として成功しないだろう。幾万の光が支えてくれるいまだからこそ可能な一手。
「全剣捕捉。光よ、剣となりて敵を撃て!」
背後から光を帯びた剣が飛んでいく。
一瞬のうちに何百という剣が横を、頭上を通り抜ける。それらは全て、俺に向かって飛んでくる闇色の剣と衝突しては互いに消えていく。
幾度となく響く剣同士の砕け散る音を聞きながら、いま。最後の一本同士が多大に砕けた。
「防いだか……」
邪神は愉快そうに笑う。
「だが、無駄だったな。この程度防いだところで、おまえの死は覆ることは無い」
決まってないことをぬけぬけと。
「おまえの選択は間違いだった。邪神と競おうということこそ、全ての間違いなのだ! 貴様が背負った光も、希望も、全てが俺を倒そうというものだとしたら、その思いこそが間違いだァッ!」
邪神の口から光線が放たれる。
「――なんかじゃない!」
右手に握る<魔王殺しの聖剣>で光線を真っ二つに裂く。
「なに!?」
今度は鋭く開いた眼が赤い輝きを強める。
体が軽い。いまなら、飛べる!
正面から邪神へと突っ込む。
「獄炎――」
再度開かれた邪神の口から発せられたのは、黒い炎だった。
止まることはない。
俺に光を託した彼らの希望も、俺の光も、思いも――。
「――間違いなんかじゃないんだァァァァァァッッ!!」
左手に握る<真実を貫く剣>を構える。
「絶剣技、四ノ型――焔切り!」
黒い炎二分に別ち、その炎を纏わせる。
「おのれ、おのれおのれおのれおのれ!」
「さあ、届いたぜ、俺たちの希望! 絶剣技、破ノ型――烈華螺旋剣舞・二十五連!」
額に浮かんでいたダワーエへと、闇を切り裂く縦横無尽の剣技が炸裂した――。
「部長、俺たちもロキ戦やってるのに、超空気ですね……」
「やめなさいイッセー。私だって出番が無くて悲しいのに!」
「ぶ、部長……ッ!」
「あらあら部長もイッセーくんも」
「余裕ね、朱乃は」
「それはもちろんですわ。だって、活躍してるカイトくんの姿を見れるんですから」
「「…………」」