ハイスクールD×D 精霊と龍神と 作:きよい
戻ってきたか。
極大の光を携えた右腕を見ながら、確信した。
そうだ。どんな絶望の中でも、光は消えない。灯した希望は絶えない!
「これで前と同じ状態にまで戦力差は戻った。あとはここからどうするかだけだ」
「……意味がわからないな。たとえ光が戻ろうと、前回となにも変わるまい。それでなぜ挑む気になれる?」
自分から誘っておいて、また俺が戦うことを否定しようっていうのか? ふざけた話だ。
「挑む気なんかねえよ」
「なに? ならばなぜ――」
「おまえを消す。そのためにただ勝つだけだ」
挑むなんてしない。勝つことが前提条件。じゃないと約束は守れない!
「勝つだけ? そうかそうか! そいつはいいじゃないか! 面白いぞ小僧ォッ!」
ダワーエが現れたときのように、ふたたび空間が歪み、大きな穴が開く。
にしてもまさか小僧と呼ばれるとはな。あいつ、テンション上がってきてる。
「ならば来るがいい。この先で決着をつけようではないか。前回のように半端な形では終わらせん。生きるか死ぬか。互いに削りあおう」
一足早く空間に開いた穴へと入っていく。
見逃さなかったぞ。空間に開いた穴に消える直前のあの表情は。
あれは絶対に負けないって目よりも、圧勝だと言わんばかりの傲慢さと自信に溢れていた。なんか見ててイラついた……。
「さて、行くか。イッセー、ヴァーリ。おまえらが最前線だろうけど、気張れよ。俺が帰ってきて誰か一人でも欠けてたら勝っても許さねえからな!」
「やっぱり、一人で行くのかい?」
祐斗か。
「まあな。おまえたちはロキに精一杯だろ? おまえたちのためにも、誰かを連れてくわけにはいかない」
「でも……。それで勝てるのかい?」
「約束したんだ。勝って必ず家に帰るって。だから、勝つ以外には道が無いんだよ。だいじょうぶ、おまえたちより早くに決着つけてやるさ」
「ハハッ、じゃあ僕たちとも約束だね。勝って。勝って帰ってきてくれ、カイトくん」
「任せな」
拳を打ちつけ合う。
あとはなにも言うことはあるまい。
「カイトくん……」
今度は朱乃さんかよ。
「心配しないでください。それよりも、お父さんとしっかり協力してくださいよ? あの人、思ったよりも貴女を大事にしていますから。朱乃さんは前も一歩を踏み出せたじゃないですか。今日だって、きっと踏み出せます。辛いときは俺が側にいますから。ね? だから、これからも側に居れるように勝ってきますよ」
返事はない。いや、別にいらない。返事をもらうための会話じゃないんだ。
多分、伝わってるはずだから。
「それじゃあ部長、あなたたちの仲間として、この作戦の邪魔になるであろう相手を排除してきます」
「勝って、帰ってくるのね?」
「もちろんです」
「……わかったわ。行ってきなさい、カイト! そのかわり、負けたら許さないわ!」
「了解です、部長!」
仲間たち全員に見守られながら、俺は一歩一歩前に進んでいく。
そして、穴の前まで来る。
「さあ、勝ちに行こうか!」
片腕を掲げながら、中へと入っていく。
視界が呑まれる寸前、みんなが同じように腕を上げているのが見えた。
「そうか。そうだな。みんな、勝とうぜ」
この一言は、向こう側に届いただろうか――。
視界が戻ったとき、正面にはダワーエの姿があった。
「なんだ、ここは……」
「驚いたか? 貴様が『光輝』を扱うからてっきりこの場を知っていると思って此度の戦場に選んでやったのだがな」
「悪いね、せっかくの配慮を無駄にしたってことはわかったよ」
「気にするな。知らぬならいい。ここはかつて貴様の持つ輝きが生まれた場所だ。そして、闇が栄えた場所でもある。そうした闘争の果て、ここには幾万もの人間が眠る土地になった」
なるほど。わかってきたぞ。
「おまえは、その闇が造りだした存在の一部分なんだな、だから、あんな力を持ってるってことか」
「そこに気づくか。まあ、そうだな。私は闇の一部分だ。かつてこの世界を滅ぼした闇のな。さて、無駄話はここまでにしよう。はじめようか」
右腕に前回と同じように闇を纏う。
「そうだな。俺もさっさと勝って帰りたいところだし」
同じように纏っていた『光輝』の光が輝きを増す。
「それはいいが、本当に理解していないようだな。光を取り戻して粋がっているところ悪いが現実を教えてやろう。いくら蘇ろうと、私と貴様の間にある戦力差は一切埋まっていないぞ」
あれー? やっぱりそうなの?
てっきりこの流れからしてパワーアップのご都合展開であっさり勝てるかと思ってたわ。
まあ無理だよねー……。
「それはあれだ。戦いながら埋めていく。前回みたいな結果にはならないさ。なんせ、俺とおまえとじゃ戦いに臨む覚悟も、理由も、なにもかもが違うからな。おまえと違って、いろいろ背負ってるんだよ。だから、戦力差なんてつまらないものは覆してやるさ!」
「いいだろう。前回とは違うところ、見せてもらおう!」
会話は終わったとばかりに殴りにかかるダワーエ。
「この一撃で沈めてやろうではないかァァァァッ!!」
「そんな一撃で、誰がやられるかよォォォォッ!!」
初撃。
互いの全力を乗せた一撃が揮われる。
それはごく自然で。変化のない状態ならばこそ必然だった。
「くっ……」
「フハハハハッ、見るがいい! これが差と言うものだ!」
前回の光景を再現しているかのように。
俺の光は闇に呑みこまれていく……。
これじゃ前回と結末は変わらないじゃないか! ダメだ! 約束があるんだ。仲間と、みんなと交わしてきた約束があるんだ!
「――られない」
「なに?」
「――負けられない! 今度は、絶対にッ!!」
「いくら吠えようとなにも変わらないぞ! ここが貴様の死に場所だぁ!」
正論だ。けど、いまこの場でだけは、その正論を認めるわけにはいかないんだよ!
「おおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
光が闇を押し返し始める!
「その、まま……押し切れェェェェェェェェェェッッ!!」
僅かに希望が生まれ始める。
だが、俺の叫びの瞬間、ダワーエの口元が凶暴に歪む。
「気は済んだか? 絶望――闇の世界の、始まりだ」
そう発した。
その言葉が合図であったかのように闇は再び勢力を増し、俺の光をいとも簡単に押し返した。
「さあ、終焉だ」
終末は呆気なくやってくる。
闇は光を呑み込みやがて、俺の眼前へと迫った。
「負けない……。負けない……。負けないっ!」
「諦めろ」
その一撃は、たやすく俺を貫いた。
崩れ落ちる中、俺は敗北を悟った。
俺の想いを知っていて、それでなお、希望を見せてからの絶望だった。
「これまでだな。二度闇に貫かれれば、もう復活劇はない。今度こそ本当に終わりだ。前回は確か、あとは消え去る時間の中、絶望しながら朽ちてゆけ。そう言ったな。だが今回は違うぞ。ここまで足掻いた褒美だ。私直々に消してやろう。さあ、言い残すことはあるか? 光枯れた絶望者よ」
光が枯れた、か……。クソッ、もう動こうとすらしないのか、この体は。
初撃で決着をつけられたのは最悪だ。この一撃に出力を回しすぎた。確かに、俺が纏っていた光は枯れた。もう簡単には出せないだろう。
実力差。これひとつとっても、俺は負けていたのか。
「約束、守らないとな。約束、破るわけにはいかないんだよ……」
敗北してなお、約束のことがひっかかる。
「ふむ、わからないことは聞いてもつまらないものだ」
守らないといけないことは、なんだ? 約束だ。なら、俺はどうする? 敗北したままでは、約束なんて守れない……。
「実力がなんだよ。絶望がなんだよ。光が枯れたからどうした!」
「なに?」
ダワーエは訝しげな表情を浮かべる。
「俺がおまえを倒さないといけない事実は、なにも変わってない!」
「それがなんだと言うのだ! 貴様はもう光を扱えないではないか! それとも神器で対抗してみるか? また折られるだけだ! それにもう立てないはずだ! 私の闇で絶望したはずだからなぁ!」
うるさい。うるさいうるさいうるさい!
「俺の光は、枯れてない!」
無理してでも、立ち上がってやるよ……。二度目の闇の侵食、つらいなんてもんじゃねぇ。
体がばらばらに引き裂かれそうだ……。それでも、血反吐吐きながらでも立ってみせる!
次第に体が地面とおさらばしていく。
「なぜ、立ち上がる? 貴様の光は、私との一撃で枯れたはずだ! もう貴様に私に対抗するだけの力はないはずだ!」
「そんなわけがない。人の光は、簡単に枯れたりしない」
周りから光が溢れてくる。ああ、そうだ。
ここにはかつての人が眠っているとダワーエは言った。そして、自分がこの世界を滅ぼした闇の一部だとダワーエは言った。
だけど、それは間違いだ。この世界の人たちは、まだ滅んでいない! まだ、まだおまえを倒そうとする意志は残っている!
一緒に行こう。あいつを――倒しに!
「人間は……人間は自分自身の力で、光になれるんだ!」
幾千幾万もの光が、地上へと溢れた。
わかるぞ。この光ひとつひとつが、かつての人々が自身を光にしたんだって。
そして、俺自身も、光へと――。
「おまえが滅ぼしたはずの人たちの希望を、光を背負って、俺はおまえを倒す! この光は、俺たちの希望だ。さあ、決着をつけよう、大魔ダワーエ!」