ハイスクールD×D 精霊と龍神と   作:きよい

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100話目です。とうとうこの物語も話数的には三桁まで来ました! 
この先もがんばって更新してきたいところです!
と言ったところで、最新話をどうぞ。


4話

 とりあえずわかったことは、カイトを抱えてきた紅い女の子が、スカーレットだということだ。

 これはティアマットが説明してくれた。

 一目見て気づいたらしい。説明するさい、すごい嫌そうな眼で俺――兵藤一誠を見ていた。

 誰かあの怖いドラゴンさんをどうにかしてください! 

「それで、カイトはだいじょうぶなの?」

 部長が先生に訊く。

「アーシアのおかげで胸と腕にあった傷は治った。ただ、体内になにかあるな。それを消さないとダメだ。となると――」

 先生の目が小猫ちゃんに向けられる。

「わかっています。後は私がなんとかしてみます」

「俺もカイトにできることはするつもりだが、どうにも光を侵食するなにかがあるみたいでな……堕天使の光程度じゃ送るだけ無駄みたいだ」

 闇……。多分、カイトの体内にあるなにかはそれだろう。先生も気づいているはずだ。だから対抗手段として光を用いた。でも、結果ダメだったってことか。

「あとは小猫だけが頼りね。お願いね」

「はい部長」

 カイト……。なんで今回に限ってこんなことになるんだ! 

 カイトの家に住むみんなの表情は暗い。当然か。でも、同じように俺たちグレモリー眷属の表情も暗い。

 スカーレットの話では、カイトの神器は砕かれ、『光輝』の光も呑まれてしまったということ。俺たちの知るカイトの戦闘方法は通じなかったということだ。

 勝てるわけがない……。カイトでそのザマなら、俺たちが勝てる見込みがあるだろうか? 諦めたくはないが、希望は見えない。どうすればいいんだよ。

「だいじょうぶ。カイトは必ず目を覚ます。カイトの光は、消えてないから」

 静かに。この場にいる全員に聞こえるように言ったのは、イヅナだった。

 あの子だけは、信じてるんだな。カイトを。

「ああ、そうだな。こんなんでカイトが負けるわけがない! すぐに目を覚ますさ!」

 なら俺たちが凹んでいる場合じゃないだろ! 

 まずは明るく振舞うことからだな! 

「ええ、そうね。私たちまで落ち込んでても意味なんてないわ! カイトが目を覚ましたとき無理をさせないようにがんばりましょう!」

『はい部長!』

 みんなが応える。

 そうだ、カイトと暮らすみんなのためにも、俺たちが支えられるようにしないと。

「マスターを家まで運びます。ゆっくりできるところでないと治療も行えないでしょうから」

 スカーレットが再びカイトを抱える。

「そうだな。私たちは一度カイトの家に戻る。すまないが後のことは任せる」

 ティアマットが部長に告げ、一足先に飛び立つ。

「なら私たちも行かないとね」

「う、うん……」

 クロエちゃんとイリヤちゃんがそれに続き。

「部長、私も先輩と行きます」

「ええ。小猫」

 小猫ちゃんも部長に伝えていく。

「朱乃」

「はい部長。私も行きますわ」

「仕方ないわね。ロキの件は私たちで作戦を立てておくから、行ってきなさい」

 ひとつ頷き飛んでいく朱乃さん。

「さあ、カイトのことは託して、私たちは私たちのやるべきことをするわよ」

「はい!」

 カイトは必ずもう一度戦おうとするはずだ。だからせめて、次に立ち上がるまで、俺たちだけでも対抗できるようにしないと。ロキは俺たちで倒す! 

 

<イッセーSide out>

 

 

 目が覚めたとき、そこには見慣れた天井があった。

「うっ……」

 まだ体が痛む。

 ダワーエを退けたスカーレットに連れられて……。それからどうしたんだっけ? 

 なんで家に居るんだ? 

「んみゅ……」

 ん? この声は。

 視線を腹の方に向ける。

「やっぱりか」

 そこには小猫の姿。ただ、その格好がなかなかに過激だ。

 薄い布地の白装束なのだ。なんでもその格好の方が仙術を扱うのにいいらしいと朱乃さんから聞いたことはあった気はするが。あ、尻尾が出てる。下着はけよな。にしても困るな。その格好だと女体の肉感はほぼダイレクトに伝わってくるわけで。

 うん、ありがとうございます! ……じゃねえよ!!

 なんで小猫が俺の体に乗ってるかと言えば、仙術によるなんらかの作用をもたらすためだろう。現に、意識があったころに感じていた闇が消えている。けれど――。

「『光輝』」

 ……。…………やっぱり。

 右腕には一箇所たりとも光が燈っていない。

 俺の光も、同時に消え去ったらしい。闇に負けたか。俺の身体は闇から解放されても、光は消えうせて。どうしたものか。

「先輩……?」

「小猫か。ありがとな。おまえのおかげだろ? 俺がこうして無事なのは」

「いえ、みんなのおかげです。先輩を大事に思っているみんなが、交代でずっと看病してくれたんですよ。先輩、一週間も起きないから……」

 一週間もかよ。

「悪いな。そりゃ心配かけたよな。ごめん。そんでもって、ありがとな」

 小猫の頭を何度も撫でてやりながら、俺は感謝していた。しかし、あれから一週間経ったとなると、ダワーエとロキはどうなったんだ? 

「小猫、悪いがいまはどんな――」

 状況だ、と訊く前に部屋の扉が開かれる。

「「カイト!」」

「マスター!」

「お兄ちゃん!」

「カイトさん!」

「「カイトくん!」」

 ティアマット、イヅナ、スカーレット、クロ、イリヤ、朱乃さん、イリナが同時に声をあげる。

 うち人多いなぁ。

「おう、みんな。なんかいろいろ心配かけたみたいで悪かったな。無事復活したぜ」

 そう言ってやると、一部涙を浮かべながら抱きついてきた。

「お、おい!?」

「よかったよ、お兄ちゃん」

「マスター、無事でなによりです」

「カイトくん、もう心配かけないで」

 誰がなにを言ってるのかわからん! とにかく心配かけっぱなしだったのは理解できたけどな。

「悪かったって。それより、いまどうなってるのか教えてくれ」

「……明日、オーディンさまの会談が行われます。私と小猫ちゃんはオーディンさまの護衛につきますから、カイトくんはどうか休んでいてください」

 朱乃さんからの説明だ。

 そうか、明日か。

「休んでてだいじょうぶなんですか?」

「協力者がいますから」

「ヴァーリチームが協力してくれる話になっています」

 小猫が補足して説明をくれる。

 ヴァーリたちが? 珍しいな。なにが狙いなんだか。

「まあ、だいじょうぶならいいけど。どっちにしろ俺はいったん出掛けるよ。心配かけた直後で悪いけど、少し行ってくる」

 全員に謝ってから、部屋を出る。

 『光輝』の光が消えた問題は、もう仕方が無いかもしれない。いまは助かっただけ良かったと考えるべきなんだろう。

 それでも、失った力はあまりにも大きい――。

 

 

 

 

 

「なにか用か?」

 俺が出向いたのはバラキエルのもとだ。

「朱乃さんと、もう一度仲良く話したいかどうか確認をしにな」

「仲良く、か。すでにそれも不可能だろう。だが叶うのなら、そうだな。もう一度昔のように話たいものだ」

 それが答えか。

「はいよ。なにがあったか俺は聞かない。それに、俺は手を出す気もないんだ。だから、あんたの言葉で、あんたの気持ちを伝えてやれよ。なに、それを話せる場くらいはつくってやるさ。用はすんだ。もう帰るよ。いまの状況であんまり外に出てると同居人に殺されちゃうからな」

 さてさて、場をつくると言っても簡単じゃない。

 でも、朱乃さんが仲直りできる機会があるのなら。俺はそのためにがんばるしかないじゃないか。

 

 

 

 そうして一日はすぎ、すぐに次の日になる。

 決戦の日、とでも言うのだろうか。

 すでに朱乃さんと小猫は家に居ない。オーディンのじいさんと日本の神々の会談場所を護衛しているだろう。

「さて、時間もあまりない。行くか」

「行くって?」

 隣にいるクロが聞いてくる。

「もちろん、ロキ戦にだよ」

「昨日止められたばかりじゃないの?」

「ああ、それがどうした? いまの朱乃さんの状態から言えば、なにするかわからん。精神が不安定なんだよなぁ。多分、悲しんでる……だと思う」

 昨日見た表情は忘れてない。朱乃さんは、悲しみを我慢しているようだった。

 俺を看病しようとして、誤魔化しているように見えた。

「だから行くの?」

「仲間のためにできることはする。それが俺だからね」

 よくわからない、という顔をするクロ。

 しかし、俺が立ち上がっても止めることはなかった。

「マスターの力である『光輝』は消えてしまったはずです。それでもいくのですか?」

 スカーレットの問い。

 そういえばこいつは俺が負ける光景を見てたっけな。『光輝』のことは知ってて当然だ。

「当然だ。エストとレスティアの方はもう治ったしな」

(当然よ。いつまでも休んでられないもの)

(もう万全の状態でいけます、カイト)

 よし。

「光が消えた状態で、いいんですか?」

「問題ない」

 スカーレットに止める気はない。あるのはその後ろにいる奴だろう。

「ティアマット、悪いが俺は行くぞ?」

「もし。もしまた大魔ダワーエが仕掛けてきたらどうするつもりだ?」

 そこが心配だったか。

「ロキ戦に出てこられたら、赤龍帝たちの力は借りれないぞ。あいつらとて、全員ロキを相手にできるかどうかというところ。話を聞けば、対策は練っているようだが……」

 戦う準備はしてるのか。乱入されたら確かにたまったものじゃないな。

「ダワーエもこんな短期間に仕掛けてきたりしないだろ。それにもし仕掛けてきても」

「今度は死ぬぞ」

 おうド直球! 確かにいまの状況で次遭うことがあれば死ぬ可能性の方が高いよな。

 でもそんなことは俺が行かない理由にはならないわけで。

 もしもの話はいらないんだよ! 

「とりあえず俺は行くからな。ダワーエが出てきたら今後こそぶっ潰すだけだ!」

「一週間前にやられたばかりだろ。短期間で勝てるようにはならないぞ」

 ティアマット……。

「ぐちぐちうるさいぞ。負けたら次は勝つしかないだろ」

「あのだなぁ……」

「光は消えない。だいじょうぶだ」

「説得力が皆無だ!」

 余計に怒ったか。

 このままだとつまらないことで時間を浪費する一方だ。

「ティアマット。よく聞け」

「……なんだ」

「勝って帰ってくる。約束してやるから、それで文句ないだろ?」

 ダワーエが乱入してくる可能性は低い。だいじょうぶなはずだ。

「約束は守れよ……。必ず勝って」

「ああ」

「そして帰って来い」

「了解だ」

 しぶしぶ、といった感じだがこれでいいだろ。帰ってくる約束もした以上、ロキ相手に負けることも許されない。

「さて、行くか」

「マスター、向かう場所はわかっているのですか?」

「もちろんだスカーレット。小猫からある程度の情報は貰ってる」

 小猫ならこんなときでも話してくれるからな。

「というわけで、誰か転移頼める?」

 結構時間経ったからもう会談始まる時間なんだよね。ロキが攻めてくるなら、会談が始まる直前だと踏んでるんだが。

 急がないと間に合わん! 

「転移なら私がしてあげる」

 クロだ。

「よし頼んだ!」

「任せて!」

「じゃあ二人とも。帰ってくるまでイヅナとイリヤを頼むぞ」

 言い終えると同時に景色が一転する。

 いきなり過ぎるだろ!

 けど、おかげで間に合った。

 転移先は高層高級ホテルの屋上だ。視界の端ではいままさに転移しようとしているイッセーたちとロキの姿。丁度いいタイミングで来れたな!

「サンキュークロ! じゃあいってくるな」

「がんばって。それと、私からも。帰ってきてね?」

「はいよ」

 クロを転移用魔方陣の外へ行かせ、俺は魔方陣の中へ。

 ロキに集中しすぎで誰も俺たちの登場に気づかない。あ、ヴァーリが気づいたらしい。手をふってくる。

 その瞬間、俺たちは光につつまれた。

 

 次に目を開いたとき、そこは大きく開けた土地だった。

 グレモリー眷属、イリナ、バラキエル、ロスヴァイセさんも確認。少し離れたところにヴァーリたちの姿もある。

 あとはロキか。これで転移されたのは全員かな。

 さて、作戦はあまり知らないが、俺も戦うとしますか。

「ほう。なにやら最後の最後に外野が混ざったようだな」

 ロキの指摘。

 その指差す先は俺だ。どうやら俺を外野と言いたいらしい。

「……!?」

 ヴァーリチームを除く全員が驚きを表す。

「カイト!? なんでここに来たのよ!」

 部長が叫ぶ。

「みんなと一緒に戦うためだが? 体も闇が消えれば動く動く」

「平気なのね?」

「もちろんです」

「戦えるのね? 私たちと一緒に」

「当然です。そのために来たんですからね」

 ハア……。とため息をついてから、他のみんなに呼びかける。

「みんな。カイトも参戦するから、しっかり彼をサポートしなさい! 危なくなったら助けること! いいわね!」

『はい部長!』

 みんな……。不安そうな顔をする人もいるけど、どうやら参戦の許可はもらえた感じだ。

「逃げないのね」

 部長が皮肉げに言うと、ロキは笑う。

「逃げる必要はない。どうせ抵抗してくるのだろうから、ここで始末してその上であのホテルに戻ればいいだけだ。遅いか早いかの違いでしかない。会談をしてもしなくてもオーディンには退場していただく」

「貴殿は危険な考えに捕らわれているな」

 バラキエルがそう言う。

「危険な考えを持ったのはそちらが先だ。各神話の協力などと……。元はと言えば、聖書に記された三大勢力が手を取り合ったことから、すべてが歪み出したのだ」

「話し合いは不毛か」

 バラキエルが雷光を纏う。

 戦闘開始まで秒読み状態ってとこか。

 イッセーも禁手の準備に入ってる。

 なら俺も――。

「面白いことになっているようで。そろそろ私も混ぜてもらおうか!」

 高らかに響く声。

 バチッ! バチッ! 

 上空の空間が歪み、大きな穴が開く。そこから姿を現したのは、

「ダワーエ……ッ!」

「しっかり覚えていたか。結構! 前回は逃がしてしまったが、いやなに心配ない。今度はきっちりと仕留めてみせよう。さあ、私の相手をしたまえ!」

 突然の乱入に全員追いつけてないな。

「みんな、あれが大魔ダワーエだ。俺を負かした奴!」

「あれが……」

 祐斗はそれしか声を発せずにいた。

「人の邪魔をしにきて、何用かな? 邪魔をするのであれば誰か知らんが貴様から退場してもらうが」

「怖い怖い。そこの人間を連れて行くだけだ。貴殿の邪魔はしないと誓おうではないか。無論、戦闘場所も他へ移す。不満かな?」

「……連れて行け。もとより何人殺すかなぞ決めていない。一人減っても構わん」

「それはそれは。では早めに移動するとしよう」

 俺に軽い調子で話しかけてくる。

 なんでこういうときに乱入してくるのだろうか……。

「カイト……」

「俺たちも協力するぞ、カイト。だいじょうぶだ、この人数なら悪神が二人いたって相手にできるさ」

 イッセー、それは無理だろ。聞いてるかもしれないが、ダワーエはロキとは違う。明らかに差があるんだよ。

「それはできない。ダワーエが乱入してきた以上、あれは俺が相手をする。おまえらはロキを。元々の相手を確実に倒せ。それまでは俺がダワーエを引き付けとくから」

「でも!」

「いいから。任せとけって」

 正直、強がりだがな。

「いいのか? 光を失った貴様に勝ち目なぞない。誘っておいてなんだが、いまの貴様は絶望し、すでに負けている状態なんだ」

 負けている状態。絶望。

「光なぞとうに消えた! 貴様の勝ち目と共にな!」

 光が、消えた……。ずっと思っていたことがある。光が消える。それは、違うだろと。

 闇が纏わりつくのは、なんでだ? 光があるからだ。光あるところに闇あり。よく悪役が言う台詞だ。それは正しい。光があれば闇がある。闇があれば光がある。

 絶望の闇が広がれば、それを倒すために光が生まれる。

 確かに、いまのこの状況は絶望的だ。前回ボロ負けした相手に、またも単身挑むのだから。おまけに力をひとつ失った状態で。前回みたいに逃げる手段も無い。

 それでも。

 

「どんな絶望の中でも、人の心から、光が消え去ることはない!」

 

 瞬間、俺の体をかつてないほどの光の奔流が呑み込んだ――。

 

 

 


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