Bazett in ClockTower (時計塔のバゼット)   作:kanpan

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第6話

暴走しているゴーレムの魔力と破壊音らしきものを頼りに、バゼットとウェイバーは時計塔の地下へと降りていった。

「君たち!そっちに行ってはいけない。戻りなさい!」

すれ違った時計塔の警備魔術師たちの制止の声を素通りして騒動の現場に近づいていく。

 

階段を3階層ほど降りた所で目の前に瓦礫の塊が飛んできた。

「うわっと!」

とっさにかわし、埃をよけるために顔を覆う。粉塵がおさまり視界が晴れて来ると、その先に探していたモノがいた。

 

天上ギリギリの背丈のゴーレムは、ずしゃりがしゃりと足下の物を踏みつぶしながらこちらに向かってくる。

こちらを見つめるゴーレムの両目に紅い光が灯った。

「ウォォォォォォォォ…」

ゴーレムは雄叫びをあげ、腕を振り回す。周囲の壁が破壊されて瓦礫となり、バゼットとウェイバーの目の前に飛来した。

バゼットはウェイバーの手を引いて脇へ跳躍し瓦礫をかわす。

 

「ここで戦闘を行うのは場所が悪すぎます。ウェイバー、もっと広い空間はありませんか?」

「ええと、…ああ、ここの2階層下に今は使われていない工房用の空間がある。そこならゴーレムが暴れても被害の拡大がその部屋内でおさまるかもしれない」

「なるほど。ではそこにゴーレムを誘い込みましょう」

バゼットは足下の瓦礫を広い上がるとゴーレムに向かって投げつけた。ゴーレムはそれを振り回した腕で薙ぎ払う。

「ウァァァァァァ…」

雄叫びを上げてゴーレムはバゼットとウェイバーに向けて走り出した。よし、ゴーレムの気を引きつけることに成功したようだ。すぐさま踵を返し、階下へむけて階段を駆け下る。

 

「左に曲がって、その廊下の突き当たりの部屋だ!」

目的の階にたどり着くや、ウェイバーの指示通りに廊下を走る。廊下の突き当たりに現れたドアをバゼットは勢い良く蹴破った。

 

そこはかなり広い空間だった。

その工房跡の部屋は天井が2階分の高さがあり、吹き抜けになっていた。上の階はテラス状にになっていて下の階が渡せる。

ここならあのゴーレムとの戦闘が可能だろう。

 

バゼットとウェイバーに遅れる事ほんの数十秒で狭い入り口の壁を破壊しながらゴーレムが部屋の中に突進してきた。

「ウェイバー、貴方はテラスへ避難してください」

バゼットは肩にかけた荷物を足下に投げ、服のポケットから革手袋をとりだして手にはめ、すばやく戦闘態勢に入っている。

「わかった。僕はあのゴーレムの弱点を探ってみるよ」

ウェイバーは備え付けの階段をつかってテラスに登る。自分は戦闘向きの魔術師ではないのだ。できることでバゼットの支援をしよう。ウェイバーはテラスから使い魔たちに指示を出し、心当たりのある場所に探索に向かわせた。

その間にテラスには騒ぎを聞きつけた野次馬(ギャラリー)がぞくぞく集まってきていた。

 

「はッ———」

バゼットはゴーレムに飛びかかり、右足を蹴り砕いた。

バランスを失ってゴーレムが傾き、倒れる———かと見えた刹那、破壊されたゴーレムの右足が再生した。倒れるよりも早く右足が完成し、ゴーレムは体勢を維持する。

一方バゼットはそれを待つまでもなく左足を、更に左腕を次々に破壊していった。だがそれらも瞬時に再生していく。

バゼットがゴーレムから離れて着地したとき、ゴーレムはほぼ元の姿に回復していた。

「ここまでの自己回復能力を持つゴーレムとは…。

 回復能力が枯渇するまで延々と破壊し続けなくてはいけないのか」

 

ゴーレムを見上げるバゼットの耳元に小振りな蝙蝠が飛来した。ウェイバーの使い魔だ。

「バゼット。聞こえるか?」

「ウェイバー?」

「あれは最新の護衛用ゴーレムの実験機だ。体内に魔術炉心が含まれていて、ほぼ無限に回復することができる」

「キリがないということですか」

「体内のどこかにある炉心を破壊しないとダメだ」

なるほど。では炉心を抉り出そう。まだ破壊していない箇所は———。

バゼットはゴーレムに向かって駆け、ゴーレムの膝に跳びうつった。ゴーレムの腕、肩を踏み台にして頭部まで駆け上がる。

そして両拳を頭の上に振り上げ、ゴーレムの頭部に叩き付ける。ゴーレムの頭部が木っ端微塵に砕けた。同時に頭部の再生が始まる。

 

バゼットはゴーレムの体から飛び降りて体勢を整えた。炉心は頭部ではないようだ。

では次に狙うべきは———。再びゴーレムに跳びかかる。狙うのは胸部だ。

「はああああッ!」

右拳に硬化と強化のルーンを付与して、バゼットは渾身の右拳をゴーレムの胸部に打ちこんだ。胸部の外装が砕け散り、胸に開いた穴の中から鈍く光る物体が覗く。

あれがゴーレムの炉心なのか。

 

着地したバゼットがゴーレムの胸部に目をやると、穴は回復していなかった。替わりに炉心の光が増してきている。さらに光が増すのとあわせて強力な魔力が炉心に満ちてきている。ゴーレムからの怪しげな発光で、テラスに集まっている野次馬たちがざわつきはじめる。

———これは危険だ。

 

「逃げろバゼット!」

ウェイバーがテラス上からバゼットに叫んだ。あの光は危険だ。この部屋もろとも巻込む兵器かもしれない。今逃げないと間に合わない———!

 

バゼットはウェイバーに一瞥をくれるとそのままゴーレムに向き直った。ゴーレムを睨み据えたまま、呪文を詠唱する。

後より出でて先に断つもの(アンサラー)

呪文に応えて彼女が足下に転がしていた筒状の入れ物から鉛色の球体が飛び出した。

バゼットは顔の後ろに右拳を引いて構える。そこに球体が浮遊する。

 

炉心の光の密度が強くなるのに合わせて、バゼットの背後に浮かぶ球体が稲妻のような光を帯びた。

球体は変形し、球体の中から鋭い刃が現れる。

短剣のような姿に変形した球体を右拳に構え、バゼットは炉心の光を見つめている。

 

 

炉心の光の増加が止まった。

「ウォォォォォォォォ……ァァァァァァ!」

ゴーレムが苦しげに吠える。次の瞬間、炉心の光は光線(ビーム)となってバゼットに向けて放たれた。その威力はおそらくバゼットどころかこの部屋全体を消し飛ばすに十分だ。

テラスにいた見物人たちは我先に出口に殺到し、怒号と悲鳴が部屋に響き渡る。

 

———さあ、舞台は整った———

 

光がバゼットを飲み込もうとする刹那、バゼットの右拳に構えた短剣が爆ぜた。

そう、いままでの攻撃は全てこの一瞬の為に。

斬り抉る戦神の剣(フラガラック)!」

短剣から一筋の光がゴーレムの炉心に向かって飛ぶ。それはゴーレムの光線にぶつかり、飲み込まれた。

そして、そのまま突き抜ける———。

 

ウェイバーの眼前でゴーレムが放った光線が消え失せていた。それは確かにゴーレムの胸部からバゼットめがけて放たれたはずだ。

今、ゴーレムは部屋の中央で仁王立ちになったまま微動だにしない。そしてゴーレムは炉心がある胸部から徐々に灰燼となり、崩れさって消滅した。

 

ウェイバーがバゼットの方を見ると、バゼットもいつの間にか振り返ってウェイバーの方を向いていた。その表情は「どうだ見たか」と不敵に微笑んでいる。

「…………」

ウェイバーは黙って苦笑いを返した。

 

 

逆光剣フラガラック。

これこそフラガの一族が神代から伝え続けた太陽神ルーの短剣。現代においても再現され続ける英霊の武具、宝具の現物。

『後より出でて先に断つもの』の名の通り、相手の攻撃よりも後に発動しながら時間を遡って前後関係を逆転させ、相手の攻撃を打ち消して自らの攻撃を成功させる迎撃礼装(カウンター)

バゼットが幼い頃から鍛錬を詰み身につけた卓越した格闘術も、ルーン魔術も、全てはこの

斬り抉る戦神の剣(フラガラック)を使いこなすための手段にすぎない。

 

 

部屋の中は一転して静寂に包まれていた。テラスに大勢陣取っていた野次馬たちもすでに逃げ去っている。

バゼットはがらんとした部屋の中を見渡した。

今日の戦闘で、ある程度は時計塔の人々に自分の能力を示す事ができただろうか。

だがまだ自分の価値は理解されていない。時計塔で居場所を得る為に、ここで自分のできる事をみつけるために、もっと自分の力を示せる場所を見つけなければ。

 

所変わって、時計塔の一角のとある部屋。

———封印指定執行部。

 

この部屋で、数人の魔術師が使い魔から送られた映像を眺めていた。

「地下の工房で暴走したゴーレムですが、さきほど消滅したようです。

 手の空いている執行者を向かわせようとしている間に片付いてしまいました。

 仕留めたのは先日時計塔に来たバゼット・フラガ・マクレミッツ」

「アイルランドのルーンの名門。その腕前、名ばかりでは無いようだな。

 その娘の動向を監視しておけ。興味深い人物だ」


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