ブラック・ブレット 〜Nocturnal Hawk〜 作:神武音ミィタ
「ふぅむ……」
勾田公立大学付属病院の地下……室戸 菫先生を訪れていたのは、明崎民間警備会社の社長の明崎 信也と私………イニシエーターの川野 実緒だった。部屋の中央のスペースに乗っているのは……私たちが倒した、ガストレア変異体の死骸だった。爆撃を受けたため、至る所が黒く焦げている。
「どうだい、ドクター。」
「……この変異は…ガストレアウイルスによる物ではないね。」
「何!?」
「ど、どういうことですか、先生?」
「……普通ガストレアウイルスに感染すると生物そのものの遺伝子が書き換えられるんだが、これは……ガストレアの再生能力と凶暴性だけを上手く取り込んでいる。」
「で、でも!ガストレアは成長するごとに色んな動物を取り込むんですよね!?それなら……」
「残念ながら、これの体自体はガストレアウイルスによる物ではない……ウイルスに感染する前から、この体は完成している。いや……」
先生は頭に手をやり、言った。
「『改造』された。とでも言うべきかな。」
「ということは……このガストレアの元の動物は……」
「人工的に作り出された……と考えるべきだろうね。」
人工的に改造された動物をガストレアにする……。
「一体、誰が?」
信也さんの問いに先生は……首を横に振った。
「………探すしかないか。」
「何か森に証拠があると思うよ。探してみるといい。」
「そうだな。じゃあ失礼するよ、ドクター。」
信也さんが立ち去ろうとする。
「あ、信也さん。私、汚染度チェックした後、少し外出してもいいですか?」
「おお、分かった。夕方の6時までには帰ってこいよ。」
「分かりました。」
「じゃ、これで。」
信也さんは部屋を出た。
「じゃあ、先生。」
「あぁ、分かった。測定を始めようか……」
「よっこいしょ……」
明崎民間警備会社オフィス……の、キッチンで作業しているのは私、徳崎 心音。何をしているかというと……生クリームをかき混ぜていた。電子レンジの中では丸い円盤のようなものがクルクルと回り、リコちゃんがその中を覗き込んでいる。
………………チンッ。
「出来た!」
「どれどれ……」
生クリームの入ったボウルを置いて、レンジを開ける。スポンジケーキが出来上がっていた。
「わぁ〜!」
リコちゃんの瞳が輝く。
「よし、クリームも丁度出来たし……」
そこへ……
「ちっすー。」
社長が帰ってきた。
「あ、お帰りなさい。」
「おう……うん?心音、何してんだ?」
「何って……ケーキ作りですけど?」
「な、何故に……あぁ、そうか。」
私は微笑んだ。
「実緒の誕生日でしょ?忘れてました?」
「……汚染率、26.7%。特に問題はない。」
診断書を渡された。私は一礼する。
「ありがとうございました。」
「……実緒くん、君は……今日誕生日なのかな?」
「あ、はい。そうですけど……」
今日は7月26日。私の11歳の誕生日だ。
「丁度良かった。プレゼントだ。」
小さな箱が差し出される。私は受け取った。
「こ、これは?」
「開けてみるといい。」
私は箱を開けた。その中に入っていたのは……懐中時計だった。
「わぁ……いいんですか?」
「あぁ、君に何かしらの時にあげようと思って、私がネットで買った物だからね。」
あ、買いにいったんじゃないんだ、やっぱり。
「ありがとうございます。大事に使います。」
「おめでとう。用事があるんだろう?早く行きたまえ。」
「あ、はい。失礼します。」
私はその場を後にした。
「はぁっ!!」
引き金をひき、ガストレアを狙い撃つ。弾丸はステージ2、モデル・モスの身体を貫通し、飛散させた。
「今日は少ないな……」
森でガストレアを狩る俺、小鳥遊 真はバッグにライフルを収めた。森を出る。
あの変異体の出現以来、森のガストレアは減少しているように思える。いや、それ以前にガストレア化する可能性がある因子……動物も減っている……。
「調べてみるべきなんだろうが……」
今日はもうやめておこう。本音を言うと、疲れた。
俺は森を出て、麓の墓地の方を向いた。
「ん?」
そこの墓地に……一人の少女がいた。黒髪のツインテール。
「実緒ちゃん?」
俺は墓地に脚を踏み入れ、実緒ちゃんに歩み寄った。彼女は墓前の前で目を閉じていた。
しばらくして、彼女は目を開いた。
「……あ、真さん。」
「よう。」
「今日もガストレアを?」
「少しな……実緒ちゃんは?墓参り?」
「はい……私がいた孤児院の、呪われた子供達の……」
俺は墓を見た。英語で書かれてあったが、その下に和訳が。
『幼き呪われた子供達、ここに眠る。 川野孤児院』
「川野……って…!」
「……私が名乗ってる名字です。川野孤児院出身なんです、私。」
「そう、なのか。」
「……この孤児院は、呪われた子供達を……奪われた世代も、無垢の世代も関係なく、預かっていたんです。」
そんな孤児院はよくあるからな。俺もそうだった。
「ただ、ある日の事でした。いきなり、過激派の集団が孤児院を襲撃したんです。子供も大人も、皆、撃ち殺されたんです。」
「君は……生き残った訳か。」
「私は孤児院の地下室に、シスターのおばさんと一緒に逃げ込んだんです。他の皆は逃げ込む前に……。」
「その、シスターさんは?」
「分かりません……その後、孤児院から逃げた時にはぐれてしまって……孤児院があった所に戻っても、孤児院は燃やされてしまっていた。居場所も無くて、ふらふらしていたそんな時に…」
「社長に拾われた訳か。」
実緒ちゃんは頷いた。
「……ホントに、残酷ですよね。この世界。」
「………いつか、報われる日が来るといいな。」
俺は彼女の頭に手を置いた。
「……はい。」
「……じゃ、俺はこれで。」
立ち去ろうとした時。
「あ、真さん!この間の変異体のガストレア、先生が調査したんですけど……」
「菫先生が?」
俺は脚を止める。
「はい、実は……」
実緒ちゃんは俺に話した。
「……人工的に作られた生物をガストレアに…か。分かった。明日少し調べてみるか。ありがとうな。」
「いえいえ、こちらこそです。」
「じゃあ、これで。」
俺は帰路に着いた。
「……人工的に………か。」
一体、誰が?
疑問を胸に、俺は脚を進めた。
「ただいま戻りましたぁ!」
オフィスに入った途端。
パーン!!パパーン!!
クラッカーが鳴り響く。
「おかえり、実緒!ハッピーバースデー!!」
心音さん達が笑顔で出迎えていた。
「……え?」
私は、呆然としていた。
「ほら、早く上がる!今日はお祝いよ!!ケーキも作ったんだからね!!」
「料理は俺も作ったぞ!グラタンだけな!!」
「実緒お姉ちゃん、食べよっ。」
私は……とても嬉しくなった。
「はいっ!!」
孤児院の皆。
今、私は皆の分まで、生きてます。
これからも生き続けます。
私の、いや。
皆の望んでいた世界を夢見て。
私、川野 実緒は今日も笑顔です。
ここまで書くと挿絵が欲しいですねwww どなたか、どなたか書いてくださるお方はおりませぬか……っ!?
ちなみに筆者は、絵の才能0ですwww