ブラック・ブレット 〜Nocturnal Hawk〜 作:神武音ミィタ
「蓮……覚悟しなさい。私の相棒の身も心も傷つけておいて、タダで済むとは思わないで‼︎」
俺は目の前の現実に嬉しさを覚えた。帰らないとも思いかけたその時に、女神は微笑んだのだ……俺たちに。
「心音……ッ‼︎」
「ごめんね真……心配かけちゃったね」
「心音ぇッ‼︎」
俺は心音の胸に飛び込み抱きついた。腕は硬く冷たいものの、身体は……胸は暖かい。
「バカ……心配させんなよ……このぉ……っ‼︎」
「真……」
心音は俺の頭を撫でた。
「心音……!」
雫は身を起こし、ガッツポーズを作る。
それを見た桐生 荘司は驚きの表情を見せていた。
「いやはや驚いた……まさかこんな奇跡みたいなことが起きるとは……」
桐生は口元を緩めた。
「やるねぇ……」
「それが、あいつらなんだ」
桐生に肩を貸す雫。
「あいつらは……お互いのためならどんなことでも出来る」
「愛ってやつかい……へへっ、嫌いじゃねぇな」
桐生は……砕かれた右拳を取り外し、投げ捨てた。
「気が変わった。お前らに手を貸してやる。坊主、名前は?」
「……雫だ。東 雫」
「俺は桐生 荘司だ。雫、機械いじれるか?」
「くっ……カッテェな、コイツッ‼︎」
蓮太郎と延珠はメカガストレアとの交戦を繰り広げていた。致命的なダメージが与えられず、弱点であろうところもカバーで覆われている。
「蓮太郎‼︎ このままではキリがないぞ‼︎」
「あぁ……だが、ここで止まるわけにもいかないだろ‼︎」
蓮太郎目掛けて、メカガストレアはアームを伸ばす。
「……雲嶺毘湖鯉鮒ッ‼︎」
鋭いアッパーカットでアームを起動不能に。
「このままやるぞ、延珠‼︎」
「うむ‼︎」
「っ‼︎」
ティナは避けつつライフルを撃ち込む。
「天童式抜刀術、滴水成氷‼︎」
ライフルで動きが止まったところに、木更の斬撃が走り、メカガストレアの脚を切断する。
「ティナちゃん、大丈夫?」
「問題ありません。真さんだって頑張っているんです……私も、やります」
「そうね……その通りね‼︎」
「フシッ‼︎」
火乃がメカガストレアの攻撃をかわす。隙のできたところに飛鳥のチェーンソーが飛び込む。
メカガストレアの動きが鈍くなる。
「ハッ、ハッ、ハッ……アオオオン‼︎」
「火乃‼︎」
「大丈夫よ‼︎ 自重はしてる‼︎」
「奥義……閃光斬ッ‼︎」
知也の居合斬りが炸裂する。メカガストレアの関節部に傷がはいる。
「そこっ‼︎」
そこを目掛け、リコは新装備のウォーターキャノンを放ち機能を鈍らせる。
「負けられないんだ……心音お姉ちゃんと真お兄ちゃんのためにも‼︎」
「拙者たちは……勝たねばならぬ‼︎」
「はっ‼︎」
ハンドガンを放ち牽制、ランスで応戦する実緒。
シグマも実緒に合わせ、鎌でメカガストレアの体に傷を付ける。
「実緒様、大丈夫ですか?」
「全然平気‼︎ 大丈夫だよ‼︎」
「安心しました。それでは……」
「うん‼︎ ドンドンいくよ‼︎」
心音は俺の懐にあった逆手刀を構える。蓮はそれに対して銃を構える。
「心音……もう一度……私のものにっ‼︎」
蓮が発砲する。心音は逆手刀を斜め上に振るう。刃は……弾丸を真っ二つに斬り裂いた。
「くっ……このっ‼︎」
次々と放たれる弾丸。心音は逆手刀で弾丸を弾き、高速で距離を詰めた。
「な……っ⁉︎」
「‼︎」
蓮が銃のグリップで殴り付けようとするも遅く、心音は彼女の背後に回り、逆手刀の峰打ちを叩き込んだ。
蓮はその場に倒れた。
「すげぇ……」
これが機械化兵士の力……。
心音と蓮が戦っている間に倉庫に忍び込む雫と荘司。
2人はコンピュータを操作していた。
「見つけた」
「よし、電波止めろ‼︎」
雫はエンターキーを叩いた。
モニターに映っていたメカガストレアのカメラの映像がノイズに変わる。
「っ⁉︎」
突然、メカガストレアの動きが止まった。
「これは……」
シグマが停止したメカガストレアをアナライズ。
「……機能を停止しています。恐らく、メインコンピュータから受信していた電波が遮断されたためでしょう……私たちの勝利です」
「終わったか……」
動かなくなったメカガストレアを目視し、俺は地面に座る。くそ、結構深手負ったな。傷口を抑える。
「ありがとな心音。助かっ……」
振り返るその先に……心音の姿はなかった。
「……心音……?」
俺は傷の痛みを堪えながら立ち上がり、叫ぶ。
「心音⁉︎ どこだ⁉︎」
俺は走り出す。しかし、出血のせいか頭がクラクラしてきた。
「ここ……ね……っ」
俺の意識はそこで途絶えた。
私は倉庫を後にし、走る。
「ごめんね……真……」
涙を拭うも拭えない。私の身体は……機械になってしまったからだ。
「ごめんね……ごめんね……っ‼︎」
ここまで来ればいいだろう。私は河川敷の架線下の壁に凭れかかる。
川の水面が私の姿を映す。腕と脚は黒い鋼の色。
そこに人間らしさはなかった。
「私はもう……ただの機械なんだ……」
私は逆手刀を腰に差し、歩き出した。
雷鳴とともに雨が降り出した。
「……っ」
目が覚めた時、俺は病室にいた。胸と肩に包帯が巻かれている。
少しは治まったものの、まだ痛む。
「気がつきましたか?」
ベッドの横のイスにシグマがいた。
そして、あの後のことを報告してくれた。
東條 蓮は逮捕され、今は留置所にいるらしい。テロリストと関わっているとのことなので、慎重な取り調べで素性を暴くつもりのようだ。
そして、心音のことを聞くと……シグマは何も答えなかった。
「……わかった、ありがとな」
俺は再び眠りについた。
「……」
BARクスィーにて。雫と幸雄はグラスを片手に語らっていた。
「あのイニシエーターの坊主、これからどうなるんだ?」
「わからん。今は俺と仮のペアだが……あいつ次第、としか言いようがない」
そこへ……徳崎 紅音がやってきた。
「こんな真昼間からお酒?」
「……あいにく、ノンアルコールだよ」
紅音が雫の隣に座る。
「……心音は?」
「どこにもいないわ……事務所にも、重工にも」
差し出されたグラスを飲み干す紅音。
「どこ行ったのよ、心音……マコちゃんがどんなにあんたを待っていることか……」
「……」
深夜。私……徳崎 心音は信也さんの墓にお供えをする。
「信也さん、ごめんなさい」
私はもう、プロモーターには戻れません。
「このケリは……私がつけます」
私はその場を後にし、駆け出した。
次回、新展開です(・ω・)