ブラック・ブレット 〜Nocturnal Hawk〜   作:神武音ミィタ

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やっとここまで来れた気がする。



第53話〜死と愛〜

明崎民間警備会社には、実緒たちに加え、天童民間警備会社のメンツと、長瀬民間警備会社の二人が来ていた。

 

俺は傷の手当を受けながら、これまでの経緯について話した。

 

「心音さんが……そんなことに……」

 

木更が唇を噛みしめる。飛鳥がタブレットを操作し、スクリーンに資料を写す。

 

「その心音さんを改造した、東條 蓮……彼女の身元が判明しました。彼女の裏には……今、最も危険なテロリストの存在があります」

 

「テロリスト……⁉︎」

 

蓮太郎に頷いた飛鳥は、とあるエンブレムを映し出した。天使の羽を持った悪魔が十字架を掲げている。

 

「『聖なる悪魔の会』……彼らは自らのことをそう呼んでいます。今の行いは悪魔のようなことでも、後々天使として崇められるだろう……とのことです」

 

ふざけた厨二団体だな……反吐が出そうだ。

 

「その本部は?」

 

飛鳥はスクリーンの資料を消し、タブレットを仕舞った。

 

「わかりません。ですが、一つだけわかっていることは……彼らの本部は関東エリアにはない、ということのみ」

 

なるほどな……。

 

「とにかく……先ずは心音殿の救出でござるな」

 

「……あぁ、その通りだ」

 

知也の言葉に応える。

 

「……紅音、次の東條の潜伏先は?」

 

「んーと、多分……どっちかなんだよね、南の廃工場か、東の廃工場か……」

 

紅音の地図を覗き込む。南の廃工場の近くには……何もない。

東の廃工場の近く……‼︎

 

「新東京大学……‼︎ 紅音、次はここだ‼︎」

 

東の廃工場を指差す。

 

「……決まりだな」

 

蓮太郎が立ち上がる。

 

「今回は俺たちも戦う。心音さんには色々と世話になったからな」

 

「そうだな‼︎ 妾も賛成だぞ‼︎ 真のふぃあんせだからな‼︎」

 

延珠が蓮太郎に続く。一言いらねぇよ。

 

「そうね……心音さんも仲間だもの。見捨てられないわ‼︎」

 

「それに……これ以上真さんに、プロモーターを失って欲しくありませんから」

 

木更とティナも立ち上がる。そうか、ティナには話したんだっけ、呪われた鷹の話。

 

「ま、あんたのしんみりした顔なんて見ててイライラしそうになるから……仕方ないけど協力したげる‼︎」

 

「こら火乃。……でも、真様の悲しいお顔は、見たくありませんね」

 

火乃と飛鳥。火乃め、尻尾が荒ぶってやがる。

 

そして……実緒、シグマ、リコ、知也が立ち上がる。

 

「……言うまでもないです。心音さんは、ずっと戦ってきた大切な仲間ですから‼︎」

 

「心音様からお料理を習うという約束もありますので、私も賛成ですよ」

 

「心音お姉ちゃんがいないなんて……絶対に嫌だよ‼︎」

 

「拙者たちは失ってならない……大切な仲間を‼︎」

 

「……皆、ありがとう」

 

そこへ……

 

「俺も忘れるなよ」

 

雫も現れた。

 

「雫……」

 

「……聖天子からの伝言だ。『徳崎 心音を奪還するまで、東 雫を小鳥遊 真のプロモーターとする。奪還後は、東 雫に単独序列を与える。』……だと」

 

聖天子が……

 

「……了解だ。頼むぜ、雫」

 

「任せておけ」

 

そして俺たちは、東の廃工場へと向かった。

 

 

 

廃工場。

その倉庫の中で、東條は心音を眺めていた。

 

「ホントはこんなことしたくなかったけど……まぁ、仕方ないよね」

 

心音は台の上に寝かされていた。

 

「……ん?」

 

そこへ現れた一人の男……桐生 荘司。

 

「お前……まさか‼︎」

 

「あ、生きてたんだ。あぁ、これ? うん、使っちゃった……超強力な催眠剤♫ キャハッ❤︎」

 

「……俺はお前の機械化兵士の技術のみを信頼していた……だが‼︎」

 

荘司は四肢のバラニウムを露わにした。

 

「……やはり貴様は歪んでいた……いくら貴様でも、俺は許せん……薬品などに頼るなど‼︎」

 

拳を振るう荘司。しかし、それを受け止める……心音。

その眼は……濁ったように暗い。

 

「全ては……蓮様のため……全ては……蓮様のため……全ては……」

 

同じ言葉を繰り返し、バラニウムの腕で荘司の打撃を防いだ。そして……

 

「全ては……蓮様のため……」

 

……バキィッ‼︎

 

掴んだ拳を握りつぶす。荘司の右拳が粉砕した。

 

「ぐああああっ⁉︎」

 

「あははははっ‼︎ リミッターも常時解除‼︎ これで心音が最強の機械化兵士‼︎」

 

「く……っ‼︎」

 

荘司は倉庫から出た。

 

「さて、お邪魔虫もいなくなったところで……」

 

東條は心音を抱きしめた。

 

「もうこれで……あなたは私のものよ、心音」

 

 

 

「ここか……」

 

廃工場に到着した。

左目がまだ治っていないが……この際そんなことを言っている場合じゃない。

 

「行くぞ小鳥遊。今度こそ……」

 

「あぁ、取り戻してやるよ……俺の相棒をな」

 

俺たちは武器を構える。そして……雫がドアを蹴り飛ばした。

倉庫が一つ、ど真ん中にポツンと建っている。

恐らくあそこだな……‼︎

 

「よし……行くぜ……」

 

駆け出そうとしたときだった。

倉庫の扉が開く。そこから出てきたのは……

 

「⁉︎ あいつは……っ‼︎」

 

心音を拐った、あの機械化兵士。生きてたのか。ま、殺しては無いからな。

しかし、様子が変だ。よく見ると……右手首から先が無い。

 

「お前たち……」

 

俺はその男に近づく。

 

「……心音と東條はここか?」

 

「あぁ。奴は……東條はもう、歪みきってしまった。奴を……止めてくれ」

 

意外な言葉だった。

 

「……当然だ。そのために来たんだ」

 

「……だが、あの女……心音といったな」

 

その男の口から告げられた言葉は……俺を絶望に叩き落とした。

 

「……もう、間に合わない」

 

 

 

 

「ふん、今更来たって遅いっての……ねぇ、心音……」

 

虚空を見つめたような瞳をした心音を抱き寄せ、モニターから地上の様子を見る東條 蓮。

 

「……はい、そうですね」

 

「…………っ‼︎」

 

蓮はモニターを殴りつけた。

 

「違う……違うッ‼︎ こんなの……心音じゃない……ッ‼︎」

 

そして、モニターに映る一人の少年を睨みつける。

 

「小鳥遊 真……あんたのせいだ……ッ‼︎」

 

そして……ボタンを操作し、心音の手を握り、倉庫を出た。

 

 

「間に合わない……だと⁉︎」

 

「あぁ……ッ‼︎」

 

地面が揺れる。

この揺れは……まさか‼︎

地面から姿を現したのは……五体のメカガストレア。

 

「ハハハハハッ‼︎ 揃いも揃って来たわね、バカな民警ども‼︎」

 

東條 蓮が、心音の手を握りながら現れた。

 

「心音……っ⁉︎ お前、今度は何を‼︎」

 

「催眠剤を投与してやったわ‼︎ これで彼女は私のもの‼︎ もう、完璧にあんたらのことを忘れ、ただの人斬りマシーンに成り下がったわ‼︎」

 

東條は手に持ったリモコンを操作。メカガストレアが襲いかかってきた。

しかし、俺の後ろにいた民警の皆がそれを食い止める。

 

「真殿‼︎ こいつらは拙者たちに任せよ‼︎」

 

「心音さんを助けられるのは、真さんだけです‼︎ お願いします‼︎」

 

「皆……ッ‼︎ すまない‼︎」

 

俺は心音の逆手刀とマシンガンを構える。俺の横に雫も並び、両手を鎌に変えた。

 

「ふん、無駄よ。あのメカガストレアはいわば完成品……生半可な民警が立ち向かったところで、何の意味も無いわ‼︎ さぁ、心音‼︎ 」

 

心音は刀を持ち……鞘から引き抜く。

 

「はい……」

 

心音が猛スピードで斬りかかる。俺は逆手刀で受け止める。

 

「く……っ‼︎ よせ心音‼︎」

 

「全ては蓮様のため……全ては蓮様のため……」

 

くそ、完全に薬で頭が飛んでる‼︎

心音は刀を弾き、斬り払う。俺は後ろに飛んで躱し、マシンガンを放ち牽制。しかし、バラニウム製の身体は硬く、弾丸が弾かれる。

 

「このっ‼︎」

 

雫が鎌を振るう。心音は刀で受け止める。

 

「くっ‼︎ うおおおおっ‼︎」

 

なんとか押し込むも、やはりビクともしてない。

 

「……全ては蓮様のため……」

 

心音は高速で距離を詰め……雫の腹部に膝蹴りを入れた。

 

「ぐほっ‼︎」

 

口から血が流れる。その場に蹲る雫。更に心音が足で踏みつける。

 

「っ⁉︎ ぐああああっ⁉︎ あああっ‼︎」

 

不味い‼︎ 俺は心音に体当たりをかまし、雫から離す。

 

「雫‼︎おい、雫‼︎」

 

「くっ……小鳥遊、ダメだっ……強すぎ、る……かはっ‼︎」

 

「……だから言ったのだ。間に合わないと」

 

後ろから声……あの男だった。

 

「あんた……」

 

「こうなった以上、彼女には……死んでもらうしか……ッ⁉︎」

 

俺は……男の足元に発砲した。

 

「……ざけんな、そこで黙って見てろ」

 

俺は……逆手刀を構えた。

 

「小鳥遊……ッ‼︎」

 

「うおおおおおおおおおおっ‼︎」

 

俺は心音に刃を振りかざす。心音はそれを受け止め、弾く。体勢を崩した俺の左肩に……

 

「ッ⁉︎」

 

心音の刀が突き刺さる。

深々と刺さってやがる……だがっ‼︎

俺は……刀を持った手を握った。

 

「心音……ッ‼︎」

 

俺は右の拳を握りしめた。そして……

 

「うおおおおおおおおおおらああっ‼︎」

 

思いっきり、その頬を殴りつけた。

心音は吹っ飛び、地面に倒れこんだ。俺は肩に刺さった刀を引き抜く。肩から血が流れ出るも、その刀を投げ捨てた。

そして再び心音に歩み寄り、心音の身体を跨ぎ、胸倉を掴み、殴り続ける。

 

「ちょ、あんた何してんの⁉︎」

 

「小鳥遊ッ⁉︎」

 

「うおおおっ‼︎ おらああっ‼︎ はあああっ‼︎」

 

心音を殴り続ける。しかし、心音は表情を変えない。

 

「よせ小鳥遊‼︎ 貴様、心音を殺す気か‼︎」

 

雫の言葉で、一旦拳を止めた。

 

「……どっちかだよ……」

 

「何……?」

 

「……心音が死ぬか、正気になるか……どっちかに決まってんだろッ‼︎」

 

再び殴り続ける。心音の口から血が流れ出るも、俺は止めない。左肩の刺し傷が痛むも、殴る手を止めない。

 

「ちょ、あんた何してんの‼︎ 止めなさい‼︎」

 

東條は声を上げるも、脚を震わせている。

俺はその姿を見て……笑った。

 

「その程度かテメェは……‼︎」

 

「何……よ……⁉︎」

 

「心音への……愛に決まってんだろうがっ‼︎」

 

心音の瞳はまだ虚空を見つめたまんまだ。

 

「俺がお前の立場だったら……何があっても、心音を守りに飛び出す。お前はどうだ……逃げてるだけだろうが‼︎」

 

「ひっ⁉︎」

 

俺の怒号が東條を怯ませる。

 

「テメェなんぞが……心音を所有物呼ばわりするんじゃねぇっ‼︎」

 

「っ‼︎ 黙れェエエエエエッ‼︎」

 

東條は……俺の左の二の腕に弾丸を放つ。

俺は傷を抑え、その場に倒れる。

 

「はぁ……はぁ……っ‼︎」

 

「……っ」

 

心音が立ち上がった。項垂れたまま……東條のもとに歩み寄る。

 

「え……っ⁉︎」

 

「そんな……っ‼︎」

 

雫が地面を叩く。俺は唇を噛みしめる。

 

「はははっ‼︎ 私の勝ちだ‼︎ これで心音は私のものだぁ‼︎アーッハハハハハッ‼︎ アハハ……」

 

……グシャッ‼︎

 

「‼︎」

 

「⁉︎」

 

東條の持っていたリモコンが粉砕した。

 

「……え?」

 

リモコンを破壊したのは……心音の右手だった。

 

「え……っ⁉︎」

 

「……蓮。あんたの昔からの悪い癖。ツメが甘いのよ」

 

リモコンを破壊した右手が下りる。そして、その脚はゆっくりと俺に向かってくる。

 

「……それにね、私はもう……心に決めた大切な人がいるの」

 

彼女は俺を抱き寄せ、立ち上がらせた。

 

「……蓮。覚悟しなさい……‼︎」

 

「っ⁉︎」

 

彼女が……徳崎 心音は、言い放った。

 

「……私の相棒の身も心も痛めつけておいて……タダで済むとは思わないで‼︎」




ようやくここまで来たなホント。
疲れるわ〜(笑)

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