ブラック・ブレット 〜Nocturnal Hawk〜   作:神武音ミィタ

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はい、狙いました(笑)


第51話〜冷静と引っかかり〜

闇の中、俺は何かから逃げていた。

俺は何かに追われていた。

その何かが何者なのかは分からない。

ただ、捕まれば殺される。

それだけは分かっていた。

 

「真‼︎」

 

俺を呼ぶ心音の声。

俺はその方向へ駆け出す。

光が見える。そこに……心音がいた。

 

「心音……‼︎」

 

俺は彼女に手を伸ばす。

手が届いた……その時だ。

 

「っ⁉︎」

 

俺の腹部に激痛が走る。

心音の刀が……俺の腹に突き刺さっていた。

 

「……あなたなんて、知らない」

 

俺はそのまま真っ二つに斬り裂かれた……。

 

 

 

 

「ウワアアアアアアアアアアアアッ‼︎‼︎‼︎」

 

俺は目が覚め飛び起きた。

そこは……病院だった。

 

「ま、マコちゃん⁉︎ 大丈夫⁉︎」

 

ベッドの隣のイスに紅音が座っていた。

 

「はぁ……はぁ……っ‼︎」

 

あの時の心音の冷たい視線と言葉が蘇ってくる。俺の恐怖心を抉るように刺激してくる。

 

「っ……っ‼︎」

 

左眼の痛みを鋭く感じる。一番深手を負った傷だからだろう。

幸い利き目は右手のため、狙撃に支障はないが……モデル・ホークの能力を使うとすれば、片目にかなりの負担がかかる。

 

「左眼の回復にはもう少し時間がいるね。あと4、5日ほど……かな」

 

菫先生がこちらに来た。

 

「……じゃ、室戸先生。マコちゃんのこと、頼みます」

 

紅音が立ち上がり、頭を下げる。

 

「お、おい‼︎ どこ行くんだよ⁉︎」

 

「……心音を、助けに行くの」

 

「ムリだ……今のあいつは、ただの戦闘マシーンだ……。イニシエーターを……殺すための……っ‼︎」

 

紅音は……俺の両肩を掴む。

 

「何でマコちゃんが弱気になってるのよ……心音はマコちゃんのプロモーターでしょ‼︎ 相棒なんでしょ‼︎」

 

「け、けど‼︎ 今のあいつは……俺のことなんか……」

 

「きっと洗脳を解く方法があるはずよ‼︎ 私は諦めない‼︎」

 

紅音は病室を飛び出していった。

 

「あっ、紅音‼︎」

 

俺は肩を落とすしかなかった。

 

「詳しい話は、彼女とそちらの可愛らしい社長から聞いたよ。 東條 蓮……まさかその名前を再び聞くとは」

 

「⁉︎ 知ってるのか⁉︎」

 

「知ってるも何も……彼女に機械化兵士に関することを教えたのは……私だ」

 

何だと……⁉︎

 

「……彼女はいきなり私を訪ねたんだ。機械化兵士の手術の技術を教えて欲しいと。彼女の大学の成績は見事なものだった。私も彼女に全てを教えたのさ……しかし」

 

菫先生はタバコをふかし、頭を抱える。

 

「自分の教え子が……テロリストに加担するとは……っ」

 

「……」

 

俺には、何も気の利いた言葉をかけることすら出来なかった。

 

 

 

 

「うふふ……心音ん……」

 

東條 蓮は自身の研究室の手術台の上で、心音を抱き締め、彼女を愛する。

 

「蓮サマ……好きです……愛してます……っ」

 

「あん……嬉しいわ、心音ん……」

 

蓮が時計を見る。昼時だった。

 

「心音、ご飯にしましょうか❤︎」

 

蓮は立ち上がり、冷蔵庫の中を漁る。

 

「ご飯……?」

 

ー 真‼︎ ご飯だよ‼︎

 

「っ⁉︎」

 

心音は頭を押さえる。

 

「心音? どうかした?」

 

「……いえ、問題ありません」

 

心音は浮かない表情を浮かべ、冷凍食品を口に運んだ……。

 

 

 

 

 

明崎民間警備会社では、紅音を筆頭に心音の奪還作戦の会議が行われていた。

 

「潜伏先として考えられるのはこの9つ……」

 

「シラミつぶしには多過ぎますね」

 

シグマが冷静に答える。

 

「それでもやるしかない……私も今回は行動する‼︎」

 

「け、けど紅音さん‼︎ 真さんは……」

 

実緒の言葉を遮るように紅音が叫ぶ。

 

「今動ける人が動かなきゃダメなのよ‼︎ 」

 

「ひっ……‼︎」

 

紅音の形相にリコが怯え、知也に寄りかかる。

紅音はハッとする。

 

「ご、ごめん……」

 

リコの肩を撫でながら、知也が口を開く。

 

「紅音殿。そなたの気持ちは痛いほどわかる。自分の妹をあのように改造されてしまったことに……怒りを抑えられない気持ちもよく分かる。だが……こういう時こそ冷静に考えようぞ」

 

紅音は……自分の頬を強く叩く。

 

「……ごめん。そうだね」

 

紅音は少し落ち着き、作戦会議を進めた……。

 

 

 

 

 

「…………」

 

俺は病室に一人だった。菫先生は地下の方に戻っていた。

 

「……心音……」

 

俺は上半身を起こし、夕焼けに染まる空を窓越しに見つめる。

そこへ、ドアを開け病室に入ってきた者が。

 

「具合はどうだ、小鳥遊」

 

雫だった。

歩み寄り、椅子に座る。

 

「あぁ、左眼以外身体はもう大丈夫だ……」

 

雫は……俺の手元に何やらレーダー探知機のような機械を置いた。

 

「古い仕様の探知機だ。お前が気絶した後、俺が何とか心音に発信機を取り付けた」

 

俺は探知機の電源を入れる。機械が反応。どうやら7キロ先に潜伏しているようだ。

 

「…………」

 

「……どうした。お前なら今すぐ飛び出していくと思ったんだが……」

 

「……すまない雫。俺には……ムリだ。いくら洗脳されているとはいえ……アイツを……今のアイツとは戦えない」

 

俺は両手で両肩を抱きしめる。怖さで身体が震えていた。

 

「……何を言っている。戦う必要は、ない」

 

「え?」

 

雫は……ベットの上に何かを置いた。それは……

 

「心音の……逆手刀……?」

 

俺は手に取る。小さいながらもズッシリとした重さを感じる。

 

「……その刃で全てを受け止めるんだ。そうすれば、心音は……お前の『嫁』は帰ってくる」

 

「おまっ⁉︎ きっ、きき、聞いてたのかよ⁉︎」

 

ため息混じりに雫が言う。

 

「……あんなバカでかい声が聞こえないとでも?」

 

う……確かに。

雫は微笑みながら俺の肩を叩く。

 

「……今度はお前が行く番だ」

 

……あぁ、烏丸のダムの時のこと、か。

 

「おう」

 

俺は布団から出る。

服を着て、荷物を纏める。

 

「……サンキューな、雫」

 

「……あぁ」

 

俺は病室を出た。

 

 

 

真が飛び出ていった病室に、入れ替わるかのように室戸 菫が入ってきた。

 

「いいのかい? 1人で行かせて」

 

その問いに雫が答えた。

 

「……きっと、立場が逆でもこうなっていたさ。あの2人はそういう奴らなんだ」

 

「やれやれ……お熱いねぇ」

 

 

 

 

 

「ん……心音……っ……‼︎」

 

蓮は心音の身体を優しく弄ぶ。

 

「蓮サマぁ……っ」

 

恍惚とした表情を浮かべながらも……心音は心に引っかかりを感じていた。

昼食の時に感じた、あの感覚は?

記憶の中に、細切れになって蘇ってくる、あの情景と顔……。

 

「どっ、ドクター‼︎ 大変だ、例のイニシエーターが単身で攻め込んできた‼︎」

 

研究員が飛び込んできた。

 

「たっ、単身で⁉︎」

 

「地上で警備隊にマシンガンを乱射している‼︎ このままじゃ攻め込まれる‼︎」

 

「蓮様、私が行きます‼︎」

 

心は刀を持って地上に向かった。

 

 

 

 

 

 

「オラオラオラァーッ‼︎」

 

俺はひたすらにマシンガンを乱射する。

研究員たちに威嚇射撃を放ちまくる。

 

「俺の嫁出せぇーッ‼︎」

 

すると……

 

「っ⁉︎ あなたは……」

 

心音が現れた。

刀を抜き、敵意の眼差しを向ける。

 

「よぉ、心音……」

 

俺はマシンガンを捨て、心音の逆手刀を引き抜き、かまえる。

 

「さぁ……来いよ」




はい、狙いました(笑)
大事なことなので2回言いました。

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