ブラック・ブレット 〜Nocturnal Hawk〜   作:神武音ミィタ

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心音の過去話です。
少し過激な表現がありますが……私は謝らない(笑)


第49話〜学友と不公平〜

店のドアのベルが、ドアの開閉とともに鳴る。

バー『クスィー』に客がやってきた。

 

「いらっしゃいませ、カウンターで宜しかったですか?」

 

一人の客を席に誘導する俺……小鳥遊 真は、本日のみのバイトをしていた。

客を席に誘導、オーダー、料理や酒を持って行き、会計のレジ……といった仕事を、雫と分担してこなす。

 

「小鳥遊、あちらの客にこれを」

 

雫がビール瓶とグラスを渡す。それを受け取り、俺は指差された奥のテーブルへ。

そのテーブルにいたのは、サングラスにハンチング帽という格好の女だった。

 

「失礼します」

 

俺は女の前にグラスを置き、ビールを注いだ。

 

「……あなたかしら? 機械化兵士の誘拐事件の行方を追っている少年というのは」

 

「⁉︎ まさか……あんたか? あいつの言っていた情報屋というのは……」

 

女はサングラスを外した。

 

「……なーんちゃって☆ お久、マコちゃん」

 

その正体は……紅音だった。

 

「あっ、紅音⁉︎ お前なんで⁉︎」

 

「あ、私ねー、裏の顔は情報屋なんだー、てへぺろ〜」

 

舌を出してピースをする紅音。

 

「ま、まぁいいや。それで? 情報っていうのは?」

 

俺が訊くと、紅音はUSBを手渡してきた。

 

「そこに奴らの詳細が書かれているわ。後で確認して。それから……今回の黒幕、それだけは先に言っておくわ……」

 

紅音はスマホの画面を見せる。そこには『研究員証』と書かれたカードが写っていた。

 

「こいつは……?」

 

「東條 蓮。医者よ。行方不明ってことになってるけど、今はどうやら、テロリストの医療班のような立場にいるらしいの」

 

「テロリスト……だと?」

 

まさか……機械化兵士でテロでも起こすつもりか?

 

「更にね……この子なんだけど……心音の、かつての学友なの」

 

「え……⁉︎」

 

 

 

 

 

「紅音さんから?」

 

「はい、先ほどメールが」

 

深夜の2時にシグマに起こされた私はメールの内容を見た。

確かに紅音さんだ。データが添付されている。

 

「……東條 蓮…?」

 

「どうやら、医師のようですね……」

 

この人は一体……。

 

「それから、真様は今バー『クスィー』にてお手伝いをしているとのことです」

 

「そっか……」

 

無事でよかった……。

 

「申し訳ありません実緒様。お疲れの時に……」

 

「いいのよ、気にしないで」

 

「明日の朝に、お店に来て欲しいともメールにはありました」

 

「じゃ、明日の朝支度して皆で行きましょう」

 

少しは安心して眠れそうだ。私は再び眠りについた。

 

 

 

 

「学友って……⁉︎」

 

紅音からその事実を聞かされ、俺は驚いた。

 

「あ、マコちゃん知らなかったんだ。心音はね、昔は医師を目指してたの……」

 

 

 

4年前。

徳崎 心音は医師を目指すべく、新東京大学の医学部に進学した。

彼女には高校時代からの親しい学友がいた。

東條 蓮。

2人は常に成績優秀。学年で毎回ツートップを飾るほどだった。

 

 

大学でのある日。

 

「うー……」

 

げんなりとした顔で教授の研究室を出た心音。

 

「心音ん、どうだった?」

 

「ダメだ……やっぱりダメなのかな……」

 

「仕方ないよ。やっぱり、呪われた子供に関したことって、取り扱ってくれる先生なんていないみたいだし……」

 

心音には夢があった。それは呪われた子供達からガストレアウイルスを取り除く手段を見つけ、彼らに向けた差別観念から解放したいというものだ。

 

「うーん……やっぱダメなのかな…」

 

はぁ、と溜息を吐く心音。

 

「どうするの心音ん。このままじゃ卒業出来ないよ?」

 

「はぁーあ。なんだかなぁー……辞めよっかな、大学」

 

その言葉に、蓮は目を見開いた。

 

「えっ?」

 

「だってなぁ……私が学びたいのはガストレアウイルスに関することなのに、全然それに関する講義がないもん‼︎ このままここに居たってなぁ……」

 

「そ、そんなこと……」

 

「蓮はいいよね、将来は外科医志望なんでしょ? はぁ……私は呪われた子供達を助ける仕事したいのに……」

 

蓮は理解出来なかった。心音が何故そこまで、呪われた子供達に拘るのかが。

 

 

 

その後日。

 

「はぁー……」

 

「またダメだったの?」

 

2人はカフェテリアで昼食をとっていた。

 

「うぅ……媚売ったけど、ダメだった……しゅん」

 

心音はスマホを見て、一言。

 

「……プロモーター、かぁ…」

 

その言葉に蓮は反応した。

 

「こ、心音、今何て……?」

 

「ん? あぁいや、さっきの教授からさ、『呪われた子供なんぞの役に立ちたいなら民警にでもなったらどうだ⁉︎』って言われちゃってさー」

 

心音が見ていたのは民警……プロモーターに関するサイトだった。

 

「へぇー、意外と人員不足なんだ……」

 

目を輝かせる心音のことを、理解出来ないでいた蓮は口を開く。

 

「ねぇ心音ん。毎回気になってたんだけどさ……」

 

前から疑問に感じていたことを、彼女は問う。

 

「なんで……呪われた子供達を助けたいの? 世間からはバケモノだって言われているのに、なんでそこまでして……」

 

「だってさ、不公平じゃない? 呪われた子供達って、ただガストレアウイルスの因子を身体に宿しているってだけで偏見差別の嵐だよ? 」

 

心音は悲しげな表情をする。

 

「呪われた子供達の中にだって、私たちみたいに勉強したいだとか思っている子がいると思うの。 私はさ、そんな子達を助けたいんだ。なんかさ……嫌なのよ、やりたいことを出来ずに悲しんでいる何かを見るのは、さ」

 

「そう、なんだ……」

 

この会話の一週間後……心音は大学に辞表を提出し、プロモーターの道を進んだ。

 

 

 

 

「…………」

 

手術室にて、蓮は心音に見とれていた。

 

「あぁ、心音……私の大好きだった心音……」

 

手術台の上で裸体で四肢に布を被された状態で眠る心音の身体を、蓮は優しく撫でる。

 

「あぁ……心音ぇ…好きっ、好きぃ……」

 

耐えきれなくなったのか、蓮は心音を抱き締め、その唇の隙間に自分の舌をねじ込み掻き回す。

 

「ふふ……心音…あなたはもう私のもの……一生、私が一緒にいてあげるからねぇ……?」

 

蓮は心音の額にパッチのようなものを貼り付け、パソコンを打ち込み始めた。

 

 

 

 

「そういうことか……」

 

俺が紅音から心音の過去を聞き終わった時には、もう幸雄が店じまいをしていた。

 

「終わったかい、お二人さん」

 

幸雄はグラスを片手に歩み寄る。

 

「えぇ。んじゃマスター、今日は私ここで寝るわ。明日ここに皆集まって作戦会議するから」

 

「お、おい‼︎ 何勝手に…」

 

幸雄の言葉を遮るかのように、紅音はそのままソファに寝転んだ。

 

「勝手な奴め……」

 

「小鳥遊、お前ももう寝ろ。上の部屋を使え。あとは俺がやる」

 

「あぁ、悪いな」

 

俺は二階の部屋に行き、ベッドに飛び込みそのまま眠りについた。




私事ですが、大学の文芸部に入部しました。
己のスキルアップのためにです。

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