ブラック・ブレット 〜Nocturnal Hawk〜   作:神武音ミィタ

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第一部の最終話的なお話です。
皆様のお陰でここまで続けることが出来ました。
誠にありがとうございます。

第二部も引き続き閲覧いただけると非常に嬉しいです。
これからも神武音ミィタをよろしくお願いします。


第45話 〜父と息子〜

「………。」

 

コーヒーを啜る、白い髭が目立つ男……明烏 省吾。

カップを手元に置くと、窓から見える景色…朝焼けに照らされた野原の様子のスケッチを再開する。

 

……ピーンポーン…。

 

「ん? お客さんか……。」

 

ペンを置き、玄関に向かう。ドアを開く。

 

「はい、どちら……⁉︎」

 

「………。」

 

目の前にいたのは、一人の少年。

鋭い目線で明烏を見ているその顔に……明烏 省吾は見覚えがあった。

 

「……つ、司……⁉︎ 司、なのか……⁉︎」

 

歩み寄ろうと、抱き寄せようとしたその時だった。

 

「………。」

 

少年……小鳥遊 真は銃を突きつけた。

 

「⁉︎」

 

明烏は目を見開く。

少年はそのまま口を開いた。

 

「……あんたが、明烏 省吾か?」

 

「あ、あぁ………何の用、ですかな…そんな物騒なものを持っていると……」

 

真は自分の身分を示す、手帳を見せる。

 

「民警だ。明烏 司について聞きたい。だがその前に…聞かせろ。」

 

目つきが更に鋭くなる。

 

「……あんたは、今は何をしている……⁉︎」

 

 

 

『明崎民間警備会社の皆へ

俺は昨日の夜、全てを知った。

俺は自分自身に決着をつけに行く。

戻ってくるかどうかはわからない。

だから、とりあえず言っておく。

今までありがとう。 ー 小鳥遊 真 』

 

「何よこれ……⁉︎」

 

心音はパソコンを開く。するとそこには……とある住所が。

 

「‼︎ ここは………‼︎」

 

 

 

「……何をしている、というと?」

 

「具体的に言ってやる……お前はまだ、生物実験をしているのか?」

 

俺は銃を下ろさない。

 

「………していると言ったら?」

 

「……あんたを殺す。」

 

「…………私は既に教授の肩書きを捨てた。今はただの、趣味がスケッチのしがない老人さ。」

 

明烏の表情が曇る。俺は銃を下ろす。

 

「………あんたの実験の記録を見た。ツカサ・プロジェクトについての報告書…。」

 

「そうか………入りたまえ。コーヒーでいいかな?」

 

「茶の方が助かる。」

 

俺は家に入った。

玄関の下駄箱の上には……写真が飾られており、そこには明烏と、俺にそっくりな少年が。

おそらく、司だろう。

俺はダイニングに入る。リビングには遊具があった。恐らく、司はここで遊んでいたのだろう。

 

「適当にかけたまえ。紅茶でいいかな?」

 

「あぁ。」

 

俺はソファに腰掛ける。至る所に司の写真。それほど愛していたのか……。

明烏が紅茶を持ってきた。

俺の向かい側に腰掛ける明烏。

 

「……司について、か。だが、君は読んだのだろう?プロジェクトの報告書を。」

 

「あぁ。だから、大方のことはわかってる。俺が知りたいのは、あんたのことだ。」

 

「私の……?」

 

俺は紅茶に砂糖を落とす。

 

「あんたはどうして…ガストレアウイルスの遺伝子操作なんて危険なことをしてまで、司を……クローンを作ってまで、蘇らせたかったんだ?」

 

明烏は……カップを置いた。

 

「……約束、だったからだ。」

 

「約束?」

 

明烏は立ち上がり、アルバムを持ってきた。俺はアルバムを受け取り開く。そこには明烏と司、そして一人の女性が。

 

「恵美子(えみこ)……妻との約束なんだ。司の笑顔を守る。」

 

「…………」

 

明烏は淡々と語り始める。

 

「恵美子は司を産んですぐに、病気でこの世から旅立ってしまった。彼女の遺言は……司の笑顔を守って欲しい、だった。私は約束した。彼女の大切なものを守ると。」

 

「…………」

 

「だが、司は事故で死んでしまった。あの……ガストレア大戦だ。逃げ惑う人混みの中、私は司と逸れてしまった。繋いでいた手を離してしまった。」

 

その瞳には、涙。

 

「その人混みに、ビルが倒れこんだ。救出された時には……司はもう……。」

 

……さぞかし、辛かったのだろうな。

 

「その後、私にある話が飛び込んできた。ガストレアウイルスの研究だ。再生医療も兼ねて研究してきた私はそれを引き受けた。そして……」

 

「ツカサプロジェクト……か。」

 

頷く明烏。話を続ける。

 

「クローンを作るのには、わたしも悩んだ。だが、そこは学者としてのプライドが、NOとは言わせなかった。だが、成功したクローンも死んでしまい、私はもう諦めた。クローン達を逃がした。だが、烏丸くんにより、殆どが殺された。自分の力の無さに失望し、私は教授を辞め、大学を去った。」

 

俺はアルバムを閉じる。

 

「………イニシエーターってのは、男は存在し得ない。それは知っているよな?」

 

そして、問いかける。

 

「……うむ。」

 

「………俺は男だ。だが、イニシエーターだ。だから、結論としてこうなる。」

 

俺は明烏の瞳を見つめ、言った。

 

「俺は……ツカサの生き残り…あんたと烏丸が造ったクローン…その生き残りだ。」

 

「………」

 

「俺は……所謂、烏丸のプロジェクトのガストレア・ヒューマンのプロトタイプ。だから、本当はイニシエーターじゃない。ガストレア・ヒューマンと……怪物と何ら変わりない。」

 

俺は……正直、頭の中が混乱していた。

 

「……俺は、どうしたらいい? ……俺を造ったあんたに聞きたい。……一応の、『父親』に。」

 

その言葉に、明烏は目を見開く。

 

「…………司…。」

 

そして、優しく俺の頭を撫でる。

 

「……自分がやりたいと思った道を進みなさい。答えは私が出すものではない…君が出すものだ。」

 

「俺が………。」

 

「君が後悔しないために……君が今やりたいことは、何かな?」

 

俺は……拳を固めた。

 

「……ガストレアを倒す。平和という、希望を信じて。」

 

明烏は俺を抱き寄せた。

 

「それでいい。子供の決断を見守り、それを理解するのも親の努めだ。」

 

変な感じだった。でも、心地よかった。

その時実感した。あぁ、この老人はホントに俺の父親なんだと。

 

「………だから、さ。あんたに言いたいんだ。」

 

俺は顔を上げる。

 

「あんたの実験は失敗していなかった。あんたの息子は……クローンとかそんなこと関係なく、こうして生きてる。あんたは、子供の笑顔を、未来を守ることが出来た。あんたはもう、何も背負う必要はない。」

 

その言葉に、明烏は涙を流した。

 

「ありがとう………本当に、ありがとう………っ‼︎」

 

 

 

「じゃあ、行くよ。」

 

玄関で靴を履く。

 

「あぁ、達者でな。」

 

「あんたもな……『父さん』。」

 

「うむ……『司』。」

 

俺は明烏家を出て、山道を下る。一人の女性とすれ違った。俺はそのまま、道を進んでいった。

 

 

「おはようございます、省吾さん。」

 

「あぁ、おはよう。」

 

女性は明烏の助手だった。

 

「あら、今日は随分と元気そうですね。あら……このカップは?」

 

その問いに、明烏は答えた。

 

「……息子が、帰ってきたのさ。」

 

 

 

「………やっぱ来たのか。」

 

山を下りてきた。麓には心音が待っていた。

 

「あんな書き置きして、来ない方がおかしいわよ。」

 

そうか、こいつはこういうやつだったな。

 

「会えた?『お父さん』には。」

 

「あぁ。もう大丈夫だ。」

 

俺は山を見上げる。

 

「……あの人はもう、何も背負う必要はない。」

 

俺は明烏 省吾を助けたかったのだ。過去の呪縛から、彼を助けたかった。

過去の過ちを背負う事の辛さというのは、俺も分かる。痛いほど、嫌になるほど。

 

「……なぁ、心音。」

 

「ん?」

 

「これからも……俺の相棒でいてくれるか?」

 

心音を見つめる。

それに応えるかのように……微笑んだ。

 

「………勿論だよ。……クローンとか、そんなの関係ないもの。真は真。これからも私の相棒…私の素敵なダーリンだよ‼︎」

 

「ふっ……そうだな。」

 

 

 

 

俺は小鳥遊 真。

ガストレアと戦う、イニシエーター。

 

例え俺が本当のイニシエーターじゃないとしても、俺の心は、本物だ。

 

俺は戦う。

これからも、ずっと……。




この後は第二部までの箸休めとして、外伝を書きます。
予定として、真&心音、シグマ、火乃、そして……ガストレア・ヒューマン編にて登場したあの少年で、4話ほど書きます。増えるかもしれません。
この後もよろしくお願いします。

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