ブラック・ブレット 〜Nocturnal Hawk〜 作:神武音ミィタ
第38話 〜我儘と妙〜
博多エリア……ここ数日、ここでは奇妙な事件が横行していた。
「連続殺害事件……死に方からしてガストレアによるもの。しかし、目撃証言にガストレアを見たという情報は無し……?」
俺…小鳥遊 真は新聞を読んでいた。
「これがどうかしたんですか?心音さん。」
ここ、明崎民間警備会社の社長である川野 実緒が、俺のパートナー…徳崎 心音に問う。
「うん。この被害……ガストレアヒューマンと全く同じだなって感じたんだけど……。」
「ガストレアヒューマンが……生きている?」
「馬鹿な。烏丸 凌馬は死んだ。そんなこと、ある訳……」
「ある可能性が強いの……これを見て。」
心音はパソコンの画面を見せる。そこに映っていたのは、烏丸 凌馬の経歴だった。
「新博多大学……烏丸はここの大学教授だった。そして、この事件が起きたのは博多エリア………。つまり、烏丸のかつての教え子達が烏丸の技術でガストレアヒューマンを作り出した……。」
なるほど。そういうことか……。
「……行くしかないみたいだな、博多エリアに。」
「しかし、真様。東京エリアも現在、モノリス崩壊、対アルデバランのため、そちらに行くべきなのでは?」
シグマが俺の方を向く。
「確かに……そうかもしれない。だが、ガストレアヒューマンとの交戦を多く経験しているのは俺たちくらいだ。博多の奴らも、今頃未知の敵の出現に対策を追われていることだろうし、手助けした方が事態も直ぐに収まるだろ。それに……」
俺は拳を固めた。
「烏丸の計画は……開けてはいけないパンドラの箱みたいなもんだ。絶対阻止しねぇと。」
シグマは……口角をほんの少し上げた。
「……なるほど、理解しました。」
「……お前も笑顔がサマになったな。」
「お褒めいただき光栄です。」
実緒が手を叩く。
「じゃあ、準備に取り掛かりましょう‼︎ 先ずは聖天子様にお伝えしないと……。」
「聖天子は俺と心音で行くよ。」
「えっ、私も⁉︎」
心音はびっくりし、俺の方を向く。
「この中で聖天子慣れしてるのは俺だろ?そんで、俺のパートナーはお前だろ?妥当だろ?」
「いや、聖天子様慣れって何よ⁉︎」
「じゃ、行ってくるわー。」
俺は事務所を出た。
「あ、ちょっとー⁉︎」
心音も俺に続いた。
「真お兄ちゃんたち……大丈夫なの?」
リコは実緒に聞く。
「まぁ、何とかなるよ。……多分。」
「ともかく我々は、博多に飛ぶ用意をしなくてはな。」
明崎民間警備会社は博多エリアへの移動の準備に取り掛かった。
「博多エリアにガストレアヒューマンと思われる被害……ですか………。」
聖天子の邸宅にやってきた、俺と心音。心音は相変わらず俺の隣で縮こまっている……だからいい加減慣れろや。
「あぁ。アルデバランの出現の方も大変だが、このまま博多の事態を放っておくわけにもいかない。それに…烏丸の遺産があるのならば、俺たちがそれをぶっ壊さなきゃいけない。ちょっと我儘かもしれないが……。」
聖天子は…頷いた。
「分かりました。あなた方明崎民間警備会社には別の要請を出しましょう。博多エリアの事件の調査、烏丸 凌馬が関わっていた場合は事態の解決。あちらの方には許可を出しておきます。明日の午前8時にヘリを手配しておきましょう。」
「悪いな、何から何まで。」
「いえ、構いません。それでは、よろしくお願い致します。」
「こちらこそだ。」
俺は頭を下げ、立ち上がる。
「それじゃ、明日の朝頼む。行くぞ心音。」
「あっ‼︎ し、失礼しました‼︎よろしくお願い致しましゅっ‼︎あぅ……」
だから落ち着けっての……。聖天子はそれを見て微笑む。
「それでは、今日はありがとうございました。」
「あぁ、失礼する。」
俺と心音は邸宅を後にした。
「はぁ……疲れたぁ……」
帰り道、心音は項垂れながら歩いていた。
「テンパりすぎなんだよ、お前は。」
「うぅ……むぅ〜っ‼︎」
心音はいきなり俺の首根っこを掴んできた。
「って、何してんだよお前⁉︎」
「べぇつぅにぃ〜?」
俺の髪をわしゃわしゃと掻き乱す。やーめーろー。
「真………。」
まるで子犬のように目を輝かせてこちらを見てくる……何だよもう……。
「ねぇ真………」
心音が俺を後ろから抱きしめる。
「な、何だよ………」
「………大好き。」
「んなっ⁉︎ な、な、何言っちゃってんだよお前⁉︎」
俺はそのまま顔を心音に向ける。
「あ、あっかーい。この照れ屋さんめぇ〜。にっししー。」
「ったく……ほら、早く帰るぞ。博多への準備しねぇと。」
俺は心音の腕をどけて、彼女の手を掴んで帰路についた。
その日の夜。会社の皆は全員用意を終えて、眠りについていた。
「…………ん。」
ふと目が覚めた。俺はベッドから出る。喉渇いたな…。
俺は寝室を出て、冷蔵庫に向かおうとした。
「あれ。」
「真様?まだ午前3時5分38秒ですが……」
シグマがパソコンに向かっていた。てか時間細けぇよ。
「ちょっと喉渇いてな………。お前は何やってんだ?」
「データの閲覧、及び私のサーバーの情報の更新です。主に烏丸 凌馬についての関連データをインプットしている最中です。現在84%のデータをインプット。推定残り時間は3分半ほどでしょう。」
「勉強熱心だな。」
シグマはパソコンの画面を見つめたまま言う。
「烏丸 凌馬……彼には私も興味があります。何故そこまで人間にガストレアの力を埋め込みたかったのか……その真意は博多にあるでしょう。」
「その答えはデータベースには?」
「ありません。ガストレアヒューマンタイタン……その撃破までのデータしかデータベースには存在しません。烏丸 凌馬の意思などはデータベースからは確認出来ません。」
「そう、なのか……」
俺は冷蔵庫のペットボトルの水を一気に飲み干した。
………ヤバイ、目が余計覚めちまった。寝れねぇ……。
「………なぁ、シグマ。」
俺はシグマに向かい合って座る。
「……何でしょうか?」
「シグマは、ガストレアやイニシエーターについてのデータは既に閲覧しているんだよな?」
「えぇ。そうですね。ただ……イニシエーターに関して一つ、妙な点が。」
妙……?
「妙………っていうと?」
「………小鳥遊 真様。あなたのデータが『無さ過ぎる』んです。」
「⁉︎」
俺のデータが……『無さ過ぎる』?
「普通のイニシエーターのデータには、出身、年齢、能力、経歴を見ることが可能です。ですが、真様のデータは、極端に少ないのです。それこそ、名前と所属しかデータに掲載されていないのです。」
……どういうことだ?
俺はちゃんと序列も持ってるし、正真正銘のイニシエーターだ。
何故俺のデータが無いのか……。
「このまま解析を続けていれば、おいおい何かわかるでしょう。その時はお教えします。」
「あぁ……頼むよ。」
俺は自室にこもり、夜が明けるまでパソコンを開いていた。
次回から博多エリアのお話です。真の真実も段々と明らかにしていきますよ。