ブラック・ブレット 〜Nocturnal Hawk〜   作:神武音ミィタ

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番外編です。長くなり過ぎた番外編です(笑)
本編1話より長いよ…(笑)

今回はシグマが主役です。
シグマの無機質な感じが段々穏やかになっていくのが上手く表現出来ていればいいな…と思います。


第37話EX①〜シグマの1日〜

時刻は午前5時30分。私は目覚めた。

私はミュータント・コード『シグマ』。現在はこの、明崎民間警備会社の社長である、川野 実緒様のプロモーター兼秘書兼事務所のメイドとして働いている。

アンドロイドだから寝ない?一応睡眠は私にも必要なのです。

さて、今日はこの私が、明崎民間警備会社の1日をレポートすることにいたしましょう。

先ずは朝。実緒様を始め、皆様を起こすことから始まります。

私は実緒様の寝室に入る。

 

「すぅ……んにゃ……」

 

寝息を立てていらっしゃる。こういう時はどう起こすべきなのか……。

そう言えば……確か、心音様のベッドの下にあった薄い漫画本には………。

 

「……ふぅー…。」

 

私は実緒様の耳に息を吹きかける。

 

「んん…ふぁ……」

 

甘い声。本でもこのような声が。

 

「実緒様、朝です。お目覚めください。」

 

耳元で囁く。

 

「ひぅっ……んん……っ。」

 

「実緒様……実緒様ー。」

 

「ふぁああ…んん……。」

 

「実緒さ……」

 

……バタンっ‼︎

 

「あ、朝から何やってんですかーっ‼︎」

 

部屋に入ってきたのは水瀬 リコ様。この事務所のイニシエーター。

 

「あらリコ様。おはようございます。」

 

「あ、おはようございます……じゃなくて‼︎」

 

……バタンっ‼︎

 

「うるさいわね‼︎ となりで変な声と大きな声出さないでよ‼︎ 私と真の神聖なる愛の儀式に集中出来ないじゃない‼︎」

 

「何お前もさらりととんでもねーこと言ってんだよ‼︎」

 

続けて入ったきたのは徳崎 心音様と、小鳥遊 真様。お二方はペアであり、恋人同士とのことです。

 

「おはようございます、お二方。昨夜は眠れましたか?」

 

「え⁉︎ あ、あぁ〜、それがねぇ〜……真が寝させてくれなかったの〜、きゃっ。」

 

「お、お前が布団に潜り込んで如何わしい本読んでぐふぐふ言ってるから起こしただけだろうが⁉︎」

 

「何よー‼︎ BL本でぐふぐふしたっていいじゃない‼︎こちとら純粋な乙女よっ⁉︎」

 

「純粋な乙女がBL本でぐふぐふするのかよっ⁉︎」

 

……とまぁ、こうやって騒いでいるといつの間にか…

 

「ふぁ……おはよ、シグマ。」

 

「あぁ、おはようございます、実緒様。」

 

実緒様は起きられます。

 

「……心音さん、真さん、朝から何を?」

 

「あ、おはよ、実緒!」

 

「おっす、実緒!」

 

同タイミング。流石は恋人同士。

 

「もう……シグマさん‼︎ 普通の起こし方しましょうよ‼︎ これじゃ色々…その……ま、マズイですから。」

 

リコ様がご指摘する。

 

「普通の起こし方ですか……分かりました、あとで心音様の私物で確認を…」

 

「ネットとかで調べてくださいっ。」

 

「……かしこまりました。」

 

真様が尋ねる。

 

「? 心音の私物?」

 

「あぁ。心音様のベッドの下にある薄い…」

 

「きぃーやぁ〜っ‼︎‼︎」

 

……明崎民間警備会社の朝は、騒がしいのです。

 

 

 

さて、皆さんが起きたら朝食です。私も一応、食事はします。この事務所の料理の担当は、主に心音様です。あらゆるジャンルの料理をこなす彼女。戦闘とは違った一面が見られますね。

 

「ふんふふ〜ん…ふふっふーん…」

 

鼻歌を歌いながら料理を作るその姿。中々良い姿です。

 

「ただいま戻った。」

 

プサイ様…改め、知哉様が帰ってきました。彼は明朝の4時からこの時間までトレーニングをしているとか。

 

「わぁ〜い、知哉〜っ。」

 

リコ様が駆け寄り抱きつく。

 

「おかえり、知哉‼︎」

 

「うむ、リコ殿。今日も修行してきたでござるよ‼︎」

 

このお二方も仲が良いです。まるで兄妹のようです。

 

「お待たせ〜。」

 

心音様が朝食を持ってきました。白米、味噌汁、卵焼き、お漬物……絵に描いたような和食です。

 

「飯〜。」

 

「いただきます。」

 

ではいただきましょう。先ずは味噌汁。

……ふむ、ベースの出汁はカツオ。そこにほんのりと昆布も入っていますね。

具は…豆腐とワカメ。合わせ味噌。

卵焼き。

砂糖と醤油と塩の含有量のバランス。完璧です。正しく黄金比というものでしょう。

 

「シグマ、美味し?」

 

実緒様が覗き込んで来ました。

 

「そうですね、塩と醤油の含有量のバランスが完璧で…」

 

「もう、単純に美味しいって言いなよ。」

 

単純に……なるほど。インプットしました。

 

「はい、美味しいです。」

 

 

 

 

朝食が済むと、それぞれの仕事が始まります。真様と心音様はパトロール。知哉様とリコ様はトレーニング。

そして、実緒様と私は書類の整理です。民警の社長は色々と大変だと、実緒様はいつも仰ります。

 

「はぁ〜、凄いよなぁ。信也さん、こんな大変なことをテキパキとこなしてたんだよなぁ……。」

 

「実緒様、お電話です。」

 

私は受話器を手渡す。

 

「はい、明崎民間警備会社社長の川野です。はい……はい………あぁ、その件についてはこちらで処理しましたので……はい、そうです。……分かりました、よろしくお願いします。…はい、失礼します。」

 

実緒様は受話器を戻した。

 

「シグマ、お使い頼みたいんだけど……今から天童民間警備会社に行って、この資料渡しにいって欲しいんだけど…」

 

封筒に資料を詰めて、私に手渡す。

 

「かしこまりました。では行って参ります。」

 

私は封筒をバッグに入れ、事務所を出た。

 

 

 

 

こんな感じでお使いを頼まれます。このメイド服で外を歩くと、色々な方々から声をかけられます。例えば…

 

「すみません‼︎ちょっと一緒に写真撮ってもいいですか⁉︎」

 

若い女性の方からは写真を求められます。私の写真など何の意味があるのかわかりませんが……まぁ、公開されても問題は無いので構いませんが。

また、ある時は…

 

「か、かか、可愛いでござるなぁ……どのアニメキャラのコスプレでごさるかっ?」

 

リュックを背負い、頭にバンダナを巻いたチェックのシャツのメガネの男性からこのような質問をされます。

 

「いえ、これは仕事着ですが……」

 

「むほっ⁉︎ し、仕事着でござるかっ⁉︎ ど、どこの喫茶の店員様でござるかっ⁉︎」

 

「いえ、喫茶店の店員ではありません。」

 

「さっ、さようでござるか……はっ、こうしてはいられん‼︎ 佐藤氏と山中氏が待っているでござった‼︎ では御免っ‼︎」

 

男性は去って行きます。不思議なお方でした。

 

 

 

そうこうしている間に、天童民間警備会社に到着。私はベルを鳴らします。

 

「へーい……」

 

スーツの男性がドアを開いた。私は頭を下げる。

 

「お初にお目にかかります。私、明崎民間警備会社の新社員、シグマと申します。今日は社長にご用事があり、こちらに伺いました。」

 

「あぁ、木更さんな。まぁ、上がれ。」

 

「はい、失礼致します。」

 

私は事務所に入る。規模は明崎民間警備会社と同じ程度でしょうか。

 

「なっ⁉︎ お、お主、その格好は……っ⁉︎」

 

ツインテールの少女が瞳を輝かせている。

 

「あぁ、私の仕事着です。お初にお目にかかります、藍原 延珠様。」

 

「? 何故妾の名を?」

 

「東京エリアにいるイニシエーターの情報は、50%程把握しております。」

 

「あぁ、来てくれたわね。えーと、シグマさんだったかしら?」

 

黒い髪の女性が歩み寄る。

 

「えぇ。あなたが天童社長でございますか?」

 

「ここの社長の天童 木更よ。よろしくね。」

 

私は頭を下げる。

 

「よろしくお願いします。実緒様のプロモーターのシグマと申します。こちらが資料になります。」

 

私は資料を取り出し、天童様に手渡す。

 

「あぁ、ありがとう。」

 

「では、私はこれで…」

 

「もうちょっとゆっくりしていって。お茶も出すし、色々と聞きたいことがあるの。」

 

すると、テーブルにお茶を置く金髪の少女が。

 

「どうぞ。」

 

私に微笑みかける。

 

「では、失礼致します。」

 

私は椅子に座る。

その向かいに天童様が座り、私たちは話を始めた。内容は他愛もない雑談、明崎民間警備会社のこと。そして……ミュータントのこと。

 

「……そうですね。もうミュータントの生き残りは、私とプサイ…知哉様のみかと。」

 

「お前はなんで裏切ったんだ?」

 

黒いスーツの男性……里見 蓮太郎様が聞いてきた。

 

「ちょっ、里見くん‼︎」

 

「構いませんよ、天童様。私はオメガ様の考えに賛同出来ない、というファイ様の考えを真とした結果の行いをしたまでです。」

 

「……信也さんの命令ってか?」

 

「……ファイ様は私に、好きにしろ、と命令なさいました。よって、その行い自体は私の意思です。」

 

「……アンドロイドも考えを持つってか。」

 

「えぇ、そう思っていただけると助かります。」

 

里見様は……微笑んだ。

 

「あんた、いい人だな。」

 

「……それは、褒め言葉でしょうか?」

 

「それ以外だったら、何だ?」

 

私は少し頭の中で処理をする。

 

「……該当するケースが見つかりません。それは褒め言葉です。」

 

「シグマは面白いのう‼︎ おっぱいも大きいし、蓮太郎をにやつかせるとは中々じゃ‼︎」

 

延珠様が私の胸を触りながら、仰る。

 

「んなっ⁉︎ アホかっ‼︎」

 

「里見く〜ん…?」

 

「お兄さん……最低です。」

 

「ごっ、誤解だっ‼︎」

 

……賑やかです、ね。

 

「あ、シグマさん…笑ってます。」

 

「え?」

 

金髪の少女…天童様のイニシエーター、ティナ・スプラウト様が私の顔を見つめる。

 

「それがきっと、楽しいっていう感情ですよ。楽しそうな顔でしたから。」

 

「楽しい……。」

 

自分でも気づきませんでした。私はこの日、楽しいという感情を覚え、天童民間警備会社を後にしました。

 

 

 

 

時刻は16時を過ぎていた。私は市街地を歩く。この街は穏やかそうでそうでない……色々と矛盾を抱えている…。

 

「…………」

 

……ガシャァァアアン‼︎

 

「うわああああっ‼︎」

 

ビルの窓を突き破り、出て来たのは……ガストレア。

クワガタムシのような姿。

 

「……‼︎」

 

その右の角には……人の腕が突き刺さり、ぶら下がっている。

私は背中から鎌を取り出し、柄の部分を引き伸ばし、刃を展開。

ガストレアはこちらに突進してくる。私は飛び上がり、ガストレアの背中に乗る。

 

「お命……頂戴いたします。」

 

鎌を振り上げ、その背中に刃を突き刺そうとした……その時だった。

 

「っ⁉︎」

 

ガストレアの足の付け根から触手が飛び出し、私に向かって四方から向かってくる。

避けられない…そう思った時だった。

 

…ザシュッ‼︎

 

触手が切り落とされ、切断面から紫色の体液が吹き出す。

私はガストレアから飛び降り、着地。

触手を切り落としたのは……実緒様だった。

 

「実緒様……?」

 

「資料、届けてくれてありがとうね。」

 

「何故ここに……?」

 

「フィーリングだよ。」

 

「……申し訳ありません。」

 

「大丈夫。シグマは悪くないよ。それより……」

 

ガストレアが再びこちらに向かってくる。

 

「…あれを倒すのが先決…ですか。」

 

「流石シグマ。わかってるじゃない。」

 

私は再び鎌を構え、実緒様もランスを構える。

 

「あぁいうタイプは両脚を落としてから胴体を切り裂いた方がいいわ。いける?」

 

「なるほど。その方向ならほぼ確実に成功するでしょう。」

 

「じゃ……行くよ‼︎」

 

「はい。」

 

私と実緒様は駆け出す。ガストレアが角を振るう。私たちはかわし、両サイドに回りこみ…

 

「てやぁっ‼︎」

 

「‼︎」

 

ガストレアの両脚を切り落とした。ガストレアは悲鳴を上げ、地面に倒れこむ。

 

「‼︎」

 

私は振り返り、鎌を横に一振り。ガストレアは横に真っ二つになり、肉片となり飛散した。

 

「お疲れ様‼︎」

 

実緒様が駆け寄る。

 

「実緒様、お怪我はありませんか?」

 

「うん、大丈夫だよ。ありがとう。」

 

実緒様は笑顔を見せた。

 

「……実緒様、今は楽しいですか?」

 

「え?うーん……ちょっと違うかな。嬉しいんだと思う。」

 

「嬉しい……ですか。」

 

「うん。シグマが無事。だから、嬉しいの。」

 

嬉しい。

インプット。

 

「そうですか……分かりました。」

 

「帰ろ‼︎心音さんがリゾット作って待ってるよ‼︎」

 

「はい。」

 

私たちは帰路についた。

 

 

 

これが、私のある日の出来事です。

この世界に、この人たちに会えて、私は色々と知ることが出来ました。

嬉しい、腹立たしい、哀しい、楽しい。

人はこの感情で出来ているようです。

感情とは、興味深いです。

 

これからも、私はここにいます。

 




とまぁ、こんな感じです。
常にメイド服姿…(笑)たまらん‼︎(笑)

次回も番外編の予定です。
今度はリコと知哉を主役にしようかと。

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