ブラック・ブレット 〜Nocturnal Hawk〜 作:神武音ミィタ
とりあえず、翠ちゃんで癒されるとしましょうかなwww
「まさか、かつての相棒を檻に放り込むなんてねぇ?」
ミュータントのアジトのバーカウンターのような席に、イプシロンとファイが腰掛け、酒を嗜んでいた。
「………それが、オメガの意志だろう?」
「いいや。オメガだけじゃないさ……あなた自身の意志でもあるでしょう?」
ファイは……俯いて黙ったまま、席を離れた。
「やれやれ……やっぱ未練があるのかしらねぇ……。」
そこへ……白衣の男がイプシロンに近寄る。
「あら、オミクロン。頼んでおいたものは?」
「これだろ?」
オミクロンと呼ばれたその白衣の男は、アタッシュケースをイプシロンに手渡す。
「ありがと。どう?一緒に飲む?」
「……いただこうかな。」
オミクロンはイプシロンの隣に座る。
「テキーラ。」
「あんたはそればっかだねぇ。」
バーテンダーの男が笑うように言う。
「うるさいぞ……クスィー。」
クスィーと呼ばれたバーテンダーは、オミクロンの前にグラスを置く。
オミクロンはグラスを口に運ぶ。
「どうなの?イニシエーターの処分装置、それと新兵器の方は。」
「新兵器はもう仕上げた。後で取りに来い。処分装置はもう少しかかるが、明日までには何とかなる、とでも言ったところかな。パイとロー、タウが居ればその半分で済むけどな。」
「ま、死んだ奴のためにも頑張れよっ。」
クスィーがウインクをする。
「……無論だよ。」
ファイは檻に来ていた。捕らえられたイニシエーターは反抗することなく、大人しくしていた。
ファイは、そこに居たシグマに歩み寄る。
「ファイ様。」
「問題は?」
「特にありません。」
ファイはその一言を聞くと……実緒とリコ。二人がいる檻に歩み寄る。
「………実緒。」
「…………っ。」
実緒は鋭い視線を、ファイに向けた。
「………すまない。」
「え……?」
その瞳は丸くなった。
「実緒。俺は確かにミュータントだ。けど、イニシエーターを殺すことには、俺は賛同出来ない。俺は……身体はミュータントだが、心は民警として、ガストレアと戦いたい。」
「信也さん………。」
ファイはシグマを呼ぶ。
「シグマ………お前、ここを裏切らないか?」
「……裏切り、ですか。」
シグマはリコを見た。リコは強い視線でシグマを見ていた。
「…………恐らく、今の私にはこれまでにはなかった何かが芽生えようとしています。人間らしさ……もしそれが、その裏切りをすることでわかるのなら……リコ様が笑ってくれるなら、私は裏切りをしましょう。」
「あぁ……きっと分かる。」
ファイはポケットからケータイを取り出し、檻の中の実緒に渡した。
「いいか実緒。恐らく、イニシエーターの処刑は明日にでも始まる。その前に、何としてでも阻止する。まず、紅音にメールを送ってくれ。あいつらが来たところで、ここのイニシエーターを解放し、ここのミュータントを叩く。」
「信也さん……‼︎」
「頼む………シグマ、このことは……」
「わかっております。極秘ですね。オメガ様にも。」
「あぁ……頼む。」
ファイはその場を後にした。
「信也さん……事が済んだら、色々としてもらいますからね。」
実緒はメールを送った。
「場所が分かった⁉︎」
徳崎重工の地下の隠し部屋。そこで、俺たちは食事をしていたところだった。
「さっき、実緒ちゃんが信くんのケータイからメールして来たの。さっき電波を逆探知して、座標を特定したわ。」
モニターに地図が映る。赤い点が、その座標を指し示した。市街地の高層ビルの地下?
「信くんの作戦によれば、まず、マコちゃんと心音がアジトに突入。ミュータントが2人に押し寄せて来る。そうすれば、地下にいるイニシエーターの警備はガラ空きに。その間に信くんが檻を開け、イニシエーターを逃がして形勢逆転。一気にミュータント部隊を叩く…といったところね。」
「社長………よかった…‼︎」
心音が微笑む。
「じゃあ、早速…」
「罠の可能性は?」
俺が口を開く。
「あいつらの罠かもしれないぞ?信也が寝返ったふりをして、俺たちを誘導している……その可能性も十分あり得ないか?」
心音と紅音は黙り込んだ。
「どうなんだよ、紅音。」
紅音は……顔を上げて言い放った。
「………私は信じるよ、信くんを。」
「お姉ちゃん……。」
「確かに、信くんはミュータントなのかもしれない。けど、私は信じたいの。もし、信くんが私たちを騙していたら……責任は私が取る。」
力強い目つきだった。俺は口元を緩めた。
「……了解だ。お前の提案に乗るよ。」
「‼︎ 真……‼︎」
「それで?いつ突入すんだ?」
「どうやら、イニシエーターの処刑は明日にでも始めるみたい…時間があるとすれば……日付が丁度変わる時……。」
今から2時間後か……まぁ、不意を付いた突入には妥当な時間だな。
「よし、それまでにやることやるぜ……心音。」
「う、うん‼︎」
「今回のこの作戦は私も参加させてもらうよ。」
紅音が微笑みながら言う。
「お、お姉ちゃん⁉︎大丈夫なの⁉︎」
「一応、一通りの銃器の扱いなら朝飯前よ?それに、信くんの力になれれば…私はそれでいいから、さ。」
こういうところは、心音にそっくりだよな…流石は姉妹、か。
「おう、分かったよ。よし‼︎ とりあえず、身支度済ませるぞ!」
俺たちは突入の準備を始めた。
ミュータントのアジトの大会議室。全てのミュータントが席に座っていた。
「む…?ファイ。シグマはどうした?」
ミュータントのボス……オメガが口を開く。
「イニシエーターの見張りに回っている。一人、脱走を図ろうとした奴がいたようだ。」
ファイは冷静に答えた。
「そうか。では、会議を始める。諸君、イニシエーターの捕獲、ご苦労だった。だが、まだまだ東京エリアのイニシエーターはどこかに潜伏しているはずだ。引き続き、捜索を続けよ……。他に何か報告がある者は?」
「よろしいかしら?」
イプシロンが手を上げた。
「どうした、イプシロン。」
「……どうやら、私たちのこのアジトの情報が外部に漏れているようよ?」
その場がざわめく。ファイは冷静な表情を変えない。
「恐らく、この中に内通者がいるんじゃないかしら?私たちの中で、イニシエーターに情報を流しているものが。」
「ほう? それが誰か、察しは付いているのか?」
「いいえ……今のところは、わかってないけど?」
そこで、イプシロンはファイを一目みる。ファイの表情は……変わらない。
「ふぅむ……まぁ、よかろう。内通者がわかり次第、迅速に殺せ。」
それから少し話があり、会議は終わった。
ファイは会議の後、イプシロンと屋上に来ていた。
「ファイ。あなた……イニシエーターを消し去りたいなんて、考えてないでしょう?」
ファイは何も言わない。
「身体はミュータントでも、民警として戦いたいなんて、まだ思ってるんでしょ?無駄よ。私たちはこれまで、イニシエーターを…民警を潰すために作戦を起こしてきた。あなたをスパイとして民警に潜入させたのも、その作戦の一貫。今更、イニシエーターのあの娘に情が移ったとでも言うつもりかしら?」
「…………俺は、確かに一瞬、お前たちの考えを正しいとは思ったさ。けど、違った。多くの血を流してまで得た平和は……本当の平和じゃないだろう…?」
ファイは悲しげな表情で言う。
「俺たちは手を取り合うべきだ‼︎ イニシエーターとミュータント……その架け橋に俺はなりたい‼︎ ガストレアの因子を持っていようが、イニシエーターは怪物じゃない、人間だ‼︎ 生きている‼︎ 生きている命を奪うことなんて……間違っている‼︎」
「無駄よ……そんなのはねっ‼︎」
イプシロンは右手から電磁波を放った。
「ぐああああっ‼︎」
ファイはその場に倒れた。
「全く……本当は殺すところだけど……」
イプシロンはファイに歩み寄り、その頭に装置を取り付けた。
「少し、おもちゃにしてあげるわ。」
そろそろミュータント編もクライマックスですね。ちなみに、この後の戦闘には原作キャラはしばらく出てきません。出すなら多分後半かなぁ。