どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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最近シリアスな展開が多すぎたのでギャグ多めでいきたいと思います。と言いつつ最初からシリアス全開ですが。


Scarlet Bullet 【困惑】

「何でテメェがここにいる……!」

 

 

目の前にいるカナを睨み付ける。リサを後ろに下がらせ俺はスーツの裏側に入れたコルト・ガバメントに手を掛ける。

 

 

「分からないのかしら?」

 

 

「……まさか国際指名手配犯だからとか言うんじゃねぇだろうな?」

 

 

「……自覚は無いようね」

 

 

俺の言葉にカナは悲しそうな表情をした。その表情に俺は苛立ち、声を荒げる。

 

 

「何が言いたいんだよッ!!」

 

 

「鏡を見なさい」

 

 

何故か俺の視線は自然と窓へと移った。そして、映った自分に恐怖した。

 

 

 

 

 

鬼のツノを生やした化け物がそこにいた。

 

 

 

 

 

分からなかった。自分がまた鬼の姿になっていることに。

 

だが、大樹は逆に冷静になっていた。

 

 

「……何だよ。そんなにおかしいのかよ、俺は」

 

 

「……………」

 

 

「これは大切な人を守る為に手に入れた力だッ! 例え醜い姿でも守れるなら俺は構わねぇんだよッ!」

 

 

ゾオオオオオォォォ……!!

 

 

大樹から黒い闇が溢れ出す。その禍々しい気配にカナは目を伏せる。

 

 

「このままだとあなたは、もう人間じゃなくなる」

 

 

「馬鹿が。もう人間じゃねぇよ。誰かも分からない血を飲むような人間だ。それは人間って言っていいのかよ?」

 

 

「ッ……!」

 

 

カナの表情が険しくなる。鎌を握った手の力が強くなっているのが遠目で分かる。

 

 

「……変わったわね。悪い方にだけれど」

 

 

「どこがだよ。俺はあの時よりずっと強くなった。守りたい人を守れるようになった。何を間違えている?」

 

 

「守っている人を自分で傷つけていることに気付かないの? 守るのは体だけじゃないわ。心も守らなければ———」

 

 

「心だぁ? 面白い事を言うなお前」

 

 

大樹はカナに向かって指を差す。

 

 

「キンジの心を傷つけたのは、お前だろ」

 

 

「ッ……!」

 

 

その言葉にカナの表情が酷く歪んだ。

 

 

「偉そうな口を叩く前に自分のことを見ろよ。それに俺はそんなことはしねぇよ」

 

 

「……言い切れるかしら?」

 

 

「言い切れる」

 

 

大樹は口端を吊り上げながら話す。

 

 

「俺はずっと『やられる側』の人間だった。俺は全部知っている。死にたくなるような痛みも悲しみもな」

 

 

「……………」

 

 

「だから俺はそんな痛みも悲しみも与えさせない。守り続けて見せる。この力でな」

 

 

「それが人を殺めてしまう力でも?」

 

 

「俺は姫羅を殺す」

 

 

「ッ……本気で言っているのね」

 

 

「ああ、俺は殺す。絶対にアイツは殺す。俺の全てを裏切ったアイツだけは許さない」

 

 

大樹の背中から黒い光の翼が広がる。廊下の窓はヒビが入り、床のタイルに亀裂が走った。

 

 

「そこをどけ。手加減はするつもりは一切ない。死ぬぞ」

 

 

「……………」

 

 

カナは目を伏せてしばらく黙った。そして、

 

 

「……今のあなた、できれば会わせたくないわ」

 

 

「やっぱりこの先にいるんだな」

 

 

カナは大きな鎌を下に下げて道を譲った。廊下の壁に背を預けて諦めた表情をしていた。

 

そして、カナの言葉で確信できた。この先に、『神崎 かなえ』がいる。

 

まさか牢屋じゃなくて書庫に人を隠すとは……イギリスも考えたな。

 

大樹はゆっくりとカナを警戒しながら進む。あとからリサもついて来るが、

 

 

「あなたはここで待ちなさい」

 

 

「ッ……!」

 

 

鎌をリサの前に出して道を妨害する。リサは鎌に驚き後ろに下がる。

 

 

「彼女には手を出さないわ。追手も含めて時間は10分も稼げない」

 

 

遠回しにリサを守ってくれるらしい。ホント、よく分からない人だ。

 

 

「……リサ。そこで待っていろ」

 

 

俺はそのまま厳重にロックが施されたドアに手をかけた。

 

 

________________________

 

 

 

全ての鍵を外し、ロックを解除して部屋の中に侵入する。

 

中は薄暗く、何百も越える棚に書類の山が目に付く。奥には一つの『KEEP OUT』の張り札が吊るされた扉が見える。

 

 

(このドアの先にいるのか……)

 

 

俺は呼吸を整える。深呼吸して暴れ出していた血流を抑える。

 

自分の頭に手を当てて鬼のツノが無いか確認する。よかった。どうやら消えたようだ。

 

 

ギギギギギッ……

 

 

錆びれた古いドアだった。開ける時に金属が削れる音が耳を不快にする。

 

中はテーブルと椅子があるだけ。そして、椅子には一人の女性が座っていた。

 

 

「……お久しぶりです。かなえさん」

 

 

 

 

 

オレンジ色の囚人服を着た神崎 かなえがいた。

 

 

 

 

 

「……来ましたね」

 

 

真剣な表情で俺の目を見る。かなえさんの雰囲気が初めて会った時とは全く違った。

 

 

「どこまで知っていますか」

 

 

「全部嘘と言うことは分かっています」

 

 

「感謝します。時間が無いから手短に話す。アリアが緋緋神に乗っ取られた」

 

 

「……そう」

 

 

「……その顔、いつかそうなるって知っていた表情ですよ」

 

 

「そう捉えても、構いません」

 

 

「……俺がここに来るまで、ずっと過去のことを推理し続けました」

 

 

「続けてください」

 

 

「まずかなえさんが懲役864年の罪をイ・ウーに着せられたとアリアは言いました。しかし、それは違う」

 

 

「理由は?」

 

 

「二つあります。まずイ・ウーにはメリットがほとんど無かったことです。あなたに罪を着せるにしても、864年も着せる必要はないはず。どうせなら邪魔になっている他の人に罪を分けて付けたほうがイ・ウーにもメリットがあります」

 

 

それにっと俺は付け足す。

 

 

「既に日本の政府が罪を着せていた証拠は少しだけ手に入れたからっというのも後付けですが理由です」

 

 

「……先に二つ目を聞いてもいいですか?」

 

 

「かなえさんが色金(イロカネ)と緋緋神を知っているからだ」

 

 

その核心をついた言葉は、かなえさんの表情を変えるには十分だった。

 

 

「……大樹さん。やはりあなたがそこまで踏み込むと思っていました。いつか、このことを話す日が来ると」

 

 

「……どういうことですか」

 

 

「確かに私は上から罪を着せられました。色金について話せと命令も受けています」

 

 

「俺の言っていることは合っているっと?」

 

 

「ええ」

 

 

「……どうして今まで言わなかったのですか。言えば解放くらいされて……」

 

 

「アリアのためよ。喋れば、アリアが殺されるから」

 

 

その言葉に俺は下唇を強く噛む。

 

結局、俺のやっていることは無駄だったのか……。

 

 

「無駄と思ってはいけません。大樹さんが助けてくれたおかげで布石を一つ置くことができました」

 

 

「布石?」

 

 

「全てメヌエットに任せています。もう緋緋神の正体を推理している。彼女に聞くのが賢明かと」

 

 

何故かかなえさんは自分の口で言わない。その時、俺の脳の奥がピリピリと焼けるような感覚に襲われる。

 

 

(見られている……?)

 

 

隠しカメラどころか気配など微塵も感じない。だが、見られているような嫌な感覚だ。

 

 

「……話せないですか?」

 

 

()()で話すことはもうありません」

 

 

やっぱり。俺にも分からないような何かがここにある。

 

恐らくかなえさんはそれを知っている。だから喋らない。

 

しかも、俺にも分からないモノだと手の出しようがない。ここは大人しく引き下がるべきだ。

 

 

「……大樹さん。正直に言いますと、アリアのことは諦めた方がいいとしか言いようがありません」

 

 

「ッ……本気で言っているのか」

 

 

「あなたも限界が来ているのではないですか?」

 

 

「限界……何を言って———?」

 

 

「鬼に憑りつかれたのは、アリアだけじゃない。あなたもじゃないですか?」

 

 

かなえさんの視線が俺の目ではなく、頭部に移っているのが分かった。

 

手をゆっくり頭部に持ってくると、よく分かった。

 

また自分の頭から鬼のツノが生えていることが。

 

 

「……限界まで、まだ猶予はあります」

 

 

俺は目を伏せながら小さな声で話す。

 

 

「アリアを救うまでは……美琴を救うまでは……姫羅を殺すまでは……俺は絶対にこの体をアイツにはやりません」

 

 

「ッ……対価を支払って戦っているのですか」

 

 

「最初はそうでした。でも今は覆しています。逆に鬼の力を乗っ取っています」

 

 

ですがっと大樹は震える唇でゆっくりと話を続ける。

 

 

「もう……俺の思考は鬼と同じになりつつあります。時間の問題、かと」

 

 

「どうして……どうして自分を犠牲に」

 

 

「どうして、でしょうね……俺ってずっとそのことで悩んでいるんですよ」

 

 

無限に増え続ける悩みのタネ。一つ花がつけばまた悩みのタネが増える。そんな負の連鎖に俺は苦しんでいる

 

最初は姫羅のことだけだったのに、今はこんなに解決しなければいけないことがある。

 

 

「……一つだけ、ヒントをあげます。答えは自分で探さなければ意味をなさないので」

 

 

「ヒント……?」

 

 

 

 

 

「もし自分を犠牲にして、あなたが助けられた場合、どう思うか考えてみてください」

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

 

そんなの決まっている。悲しいと思うし、やって欲しいとは思わない。

 

もし美琴が、アリアが、優子が、黒ウサギが、真由美が、ティナが……そんな馬鹿なことをするくらいなら、俺は……!

 

……………どうして。どうして———!

 

 

「ぅ……ぐすッ……!」

 

 

———こんなに俺は無感情なんだろうか。

 

頭の中で分かっている。分かっているはずなのに何とも思えない。『悲しい』のに『悲しくない』。

 

この涙を流す意味を分かるのに、その真意を理解できない。

 

きっとみんなはこんなに悲しい感情を抱いているはずなのに、俺は何も思えない。その無感情が悲しむ代わりに俺の目から流れ出した。

 

 

「言いたいことはッ、分かりました……でも、俺はもう止まることができませんッ」

 

 

「大樹君……」

 

 

目から溢れ出す水をスーツで拭い、俺は後ろを向く。

 

 

「この身が滅びようとも、俺は立ち上がり続けて、守る」

 

 

「……………」

 

 

俺の言葉に、かなえさんは何も答えなかった。

 

 

「……今ならあなたを連れて逃げることぐらいはできます」

 

 

「いえ、私はここにいなければなりません。これ以上、迷惑をかけるわけにはいかない」

 

 

「……分かりました。俺はこの後、メヌエットに会いに行きます」

 

 

「……最後に一つだけ、よろしいですか?」

 

 

「……何でしょう」

 

 

しかし、返事をいくら待っても返ってこなかった。

 

振り返ようとするが……やめた。

 

 

 

 

 

「アリアをッ……助けてくださいッ……!」

 

 

 

 

 

「ッ……そんなこと、言われなくても分かっていますッ……!」

 

 

(すす)り泣く声が聞こえた。俺は手を痛くなるほど強く握り絞めた。

 

 

「必ず助けます……!」

 

 

俺はそう言ってドアを開けて、その場から立ち去った。

 

一人残されたかなえは呟く。

 

 

「でも大樹さんッ……あなたがそんな状態ではッ……!」

 

 

届かなかった言葉に、かなえは後悔し続けた。

 

 

________________________

 

 

 

現在時刻 3:00

 

 

 

ダークシー・グレー色をした航空機———X—19(サジタリウス)

 

ヘリのように滑走路が不要で。固定翼機のように高速で航続距離も長い機体。

 

『人類の飛び方を変える』とさえ言われた夢の乗り物にティナたちは乗っていた。

 

 

「改めて自己紹介する。俺は遠山 キンジ。Eランク武偵だ」

 

 

「サラッと嘘つくなよ兄貴」

 

 

「嘘じゃない。事実だ」

 

 

ティナたちに自己紹介をするキンジ。隣でジーサードがジト目で溜め息をついていた。

 

 

「思い出してみろよ、マッシュとの戦い。シャトルを拳だけで———」

 

 

「やめろ。思い出したくない」

 

 

……一体シャトルをどうしたのだろうか。しかも拳とはどういうことだろうか。ティナたちは想像することを放棄した。

 

 

「助けてくれて感謝している。私たちだけでは勝てなかった」

 

 

包帯でまたグルグル巻きになった刻諒(ときまさ)がお礼を告げる。ティナと(れい)も礼を言う。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「ありがとう。助かったわ。それに治療までして貰って」

 

 

幸い、拳は無事。日が経てば自然と治る。麗は包帯を巻いた手を見せながら礼の言葉を重ねる。

 

 

「それで? さっきから不愛想な顔をしているアンタは何だ?」

 

 

「俺は問題無く(オーガ)に勝てた。いらぬ手助けだ」

 

 

「あァ?」

 

 

凄い形相でジーサードがサイオンを睨む。

 

 

「サイオンはツンデレだから勘弁してちょうだい」

 

 

「いい加減にしてくれないかレイ」

 

 

「それなら仕方ない。俺の弟もツンデレだからな」

 

 

「よし兄貴。銃弾のキャッチボールだ。俺が撃つから兄貴はいつもみたいに素手で取ってくれ」

 

 

「おい。俺が人間じゃないみたいな言い方はやめろ」

 

 

「「「「「え?」」」」」

 

 

「よしお前ら殴る。今声に出したヤツは全員鉄拳制裁だ。マッハ1の【桜花(おうか)】を一人一発ずつやるから並べ」

 

 

ジーサードと同じことを言っているキンジ。しかし、普通の人間はマッハ1という速度を出すことは無理であるということを気付いてないことに周りは少し引いていた。

 

 

「それより鬼はどうするつもりなの?」

 

 

「俺のことは無視かよ……」

 

 

これでも気を遣った方だと麗は心の中で呟いた。

 

 

「兄貴。少し黙っとけ。アイツらは兄貴が決めてる。早く言え」

 

 

「どっちだよ。黙るのか喋るのかハッキリさせろ」

 

 

はぁ……っとキンジは溜め息をつきながら話す。

 

 

「覇美たちは俺たち師団(ディーン)の傘下に入って貰う」

 

 

「できるのかい?」

 

 

刻諒の言葉にキンジは頷いた。

 

 

「あの小さい鬼、兄貴に惚れたみたいだしな」

 

 

「へぇ~お兄ちゃん?」

 

 

「か、かなめ? 目が怖いぞ?」

 

 

「……話を進めていいかい?」

 

 

遠山三兄妹に刻諒はもう疲れ切ってしまっている。

 

 

「どうして君は生きているんだ?」

 

 

「と、刻諒さん。聞き方が酷いです……」

 

 

「す、すまない。私としたことが……コホン!」

 

 

ティナに指摘されて刻諒はすぐに言葉を訂正する。

 

 

「どうして死んでいないのかい?」

 

 

「喧嘩売ってんのか」

 

 

「ど、動揺しているんだ。まさか君がこんなタイミングで出会うとは思わなくて……大樹君からしっかりと話を聞いているよ」

 

 

「やっぱり大樹もいるのか!」

 

 

「……すまない。今は一緒じゃないんだ」

 

 

声のトーンを落とし、落ち込んだような反応を見せる刻諒にキンジは驚く。

 

 

「どういうことだ?」

 

 

「大樹君は私たちを置いて先にイギリスに行ったみたいなんだ」

 

 

「大樹が……?」

 

 

大樹のことをよく知っているキンジには信じられなかった。仲間を、大切な人を置いて行くような人じゃないとキンジは分かっている。

 

 

「詳しい話を聞かせてくれ」

 

 

真剣な表情で聞くキンジに刻諒は頷いた。

 

刻諒は日本の名古屋武偵を初めとして、ここまで起きたことを細かく説明した。

 

戦闘や大樹の言葉。鬼のことも包み隠さず、覚えていることは全て話した。そして、

 

 

「「「「「「……………」」」」」

 

 

全員がドン引きした。

 

 

「おかしいだろ……兄貴の友達……銃弾の足場にするとか人間やめすぎているだろ……」

 

 

人間どころかあの鬼ですらできる領域でない行動に、ジーサードさえドン引きである。

 

 

「……大樹は大丈夫なのか?」

 

 

「……すぐに助けに行ったほうがいいかもしれない。私から見ればかなり精神状態が危険だ」

 

 

「ッ……!」

 

 

刻諒の言葉にティナの表情が歪む。何もできないことが悔しく、悲しい表情だった。

 

 

「それより君は行方不明になっている間、何をしていたのかい?」

 

 

「こっちもいろいろあったんだ。御影(ゴースト)に襲撃されたり、奴隷にされそうになったり、死にそうだった」

 

 

やっぱり思い出したくないことだらけだなっとキンジは言いながら落ち込んでいた。

 

 

「アメリカ……ですか?」

 

 

「ああ、よく知っているな」

 

 

ティナの言葉にキンジは肯定した。カツェの言っていたことは本当だったと証明された。

 

同時に、敵の本拠地が明確になった。『可能性』から『絶対』に。

 

 

「兄貴が捕まっているところに、俺が助けてやったわけだ。マッシュと一戦交えたが、今は仲間だしな」

 

 

「マッシュ……もしかしてマッシュ=ルーズヴェルトのこと!?」

 

 

『マッシュ』という聞き覚えのある名前にずっと考えていた麗が驚愕の声を出した。

 

 

「母上。知っているのですか?」

 

 

米国家安全保障局(National Security Agency)———NSAのマッシュ=ルーズヴェルトのことよ」

 

 

刻諒の言葉に麗は頷いた。

 

 

「簡単に言えばミニ大統領みたいなヤツってことだ」

 

 

「……遠山君の例えが意外と合っていて否定しづらいわ」

 

 

マッシュはアメリカの特権階級(プリヴィレッジ)を持っている———つまり米国防総省(ペンタゴン)に行けば准将相当、ニューヨーク市警察(NYPD)に行けば部局長相当、CIAに行けば技術保障部長級の権限が附与(ふよ)されるとマッシュ本人が言っていたことをキンジは皆に教えた。

 

 

「そ、そんな人と一戦交えたのですか……」

 

 

「その時に兄貴が炭水車に積まれた石炭をボールにして、野球感覚で鉄骨バッドを使って石炭を打ち返してプレデターをぶっ壊したりしたんだ」

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

「あとは———」

 

 

「おい!? だからドン引きしているだろうがッ!! これ以上はやめろッ!!」

 

 

ここからが面白いんだろうがっとジーサードは文句を言いながらキンジを見る。キンジはこれ以上の話は駄目だと抗議している。

 

 

「そろそろ本題に戻すぞ。俺たちは御影(ゴースト)を倒すために行方不明になっていた大樹の力を借りるためにここまで来たんだ。お前らの目的は何だ?」

 

 

「遠山さん。それに関して私からお話があります」

 

 

遠山の質問にティナが返した。遠山は目を少し細めてティナに問う。

 

 

「……その前にお前は何者だ。大樹との関係は何だ?」

 

 

「私はティナ・スプラウト。大樹さんの……護衛のために一緒に行動していました」

 

 

「護衛?」

 

 

「はい」

 

 

ティナは少し間を置いて、告げる。

 

 

「神と戦うために」

 

 

「ッ! ……ティナと言ったな。少し二人だけで話さないか?」

 

 

遠山はティナの言葉に全てを察し、ティナはキンジの言葉に頷いた。

 

 

________________________

 

 

 

キンジとティナは部屋から出て廊下に出た。そしてキンジはティナの話を聞いていた。

 

 

「やっぱり緋緋神がアリアを選んだか……」

 

 

「知っていたのですか?」

 

 

「ああ。瑠瑠神(ルルガミ)が教えてくれたんだ」

 

 

「瑠瑠神……ですか?」

 

 

「緋緋神には姉妹の瑠瑠神と璃璃神(リリガミ)がいるんだ。俺はその瑠瑠神にアメリカで会って来た」

 

 

キンジは続ける。

 

 

「瑠瑠神の答えは『潰えさせる』———殺せということだった」

 

 

「ひ、緋緋神をですか……!」

 

 

「ああ、これでな」

 

 

制服の裏に隠し持っていたバタフライナイフ。キンジは刃が青みを帯びたナイフをティナに見せた。

 

そして気付いた。大樹の言っていたナイフではないかと。

 

 

「ッ……もしかして、前は赤くなかったですか?」

 

 

「ど、どうして知っているんだ?」

 

 

「そのナイフが、大樹さんが遠山さんを探している目的です」

 

 

「ッ!」

 

 

ティナの言葉にキンジが驚く。

 

 

「……大樹は色金止女(イロカネトドメ)だと知っていたのか?」

 

 

「……いえ、そのようなことは聞いていません」

 

 

「コイツは……あー、分かりやすく言うと緋緋色金に共振して力を打ち消す効果があるんだ。少しだけだが」

 

 

大樹の推理が当たっていたことにティナは驚いた。どうしてナイフのことを知っているかと聞いても『何となく』『男の勘』『日頃の読書』っと意味の分からないことばかりしか言わなかったから。

 

 

「今は瑠瑠色金の金属を電気メッキで同化してもらったから青くなっているし、瑠瑠神もいる」

 

 

「……金属に神がいるのですね」

 

 

「ああ、金属……というか色金な」

 

 

ポゥ……!

 

 

その時、キンジの持ったナイフが青く光り始めた。

 

 

「「ッ!?」」

 

 

光は何度も瞬き、輝く。キンジとティナも何が起こっているのか分からない。

 

 

『ティナ……スプラウト……』

 

 

突如、頭の中で声が響いた。

 

 

「ッ!? 誰ですか!?」

 

 

「お、落ち着け! これがさっき言っていた瑠瑠神だ!」

 

 

頭の中に響く声はキンジにも聞こえていた。スカートの中に隠していた拳銃を手に取り警戒するティナをキンジはなだめる。しかし、このタイミングで瑠瑠神が現れるとはキンジも全く予想がつかなかった。

 

 

『落ち着いてください。私はあなたの味方です』

 

 

ティナは相手に敵意は無いことが分かると、拳銃をスカートの中へと戻した。

 

 

『あなたは彼と一緒にいる者ですね』

 

 

「……大樹さんのことですか?」

 

 

『はい』

 

 

「待て瑠瑠神。どうして今出て来たんだ」

 

 

『あなたの友人が持つロザリオで彼をずっと見ていました』

 

 

キンジの友人が持つロザリオ———理子の持つ大切な青い十字架のペンダントのことだろう。瑠瑠神はずっとそこから大樹を見ていたとキンジはすぐに分かった。

 

 

『ですが、鬼の力を持った彼の姿は……』

 

 

瑠瑠神は続きの言葉を言わない。いや、言いたくないのが正しいかもしれない。

 

 

「大樹が鬼の力に飲まれているのは本当だったのか……」

 

 

『あの時の彼とは、全く違う。むしろ悪くなっているような錯覚でした』

 

 

瑠瑠神は告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()の姿の方が、ずっと立派でした』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瑠瑠神の言葉にキンジとティナは戸惑った。

 

 

「ご、五年前? 半年前とかの話じゃないのか?」

 

 

『いえ、確かに五年前です。あなたも覚えているはずです。英国が火の海に包まれた事件を』

 

 

『英国』と『火の海』というワードに、キンジはすぐに分かった。

 

 

「ロンドンの悲劇……『獄火(ごうか)(がい)混乱(こんらん)事件』……!」

 

 

「ッ!? 大火災ですか……?」

 

 

「五年前、原因不明の大火災がロンドンの中心街で起きたんだ。全部のチャンネルがそれについて変わったからよく覚えている」

 

 

原因不明は今も原因不明のまま。どうして火災が起きたのか全く分からないらしい。

 

その事件が起きた時期は五年前。つまりキンジが12歳くらいの時だ。

 

事件について思い出すと、あることに気付いた。

 

 

「まさか奇跡的に起こった死者が0というのは大樹が……!?」

 

 

『はい。彼が全て助け出したからです。ハッキリと今も覚えています』

 

 

「……小学生ぐらいの年齢だぞ。本当に大樹なのか?」

 

 

キンジの言葉はティナも同じことを考えていた。自分のようにガストレア因子を持っていない大樹がそこまで強いだろうかっと。

 

しかし、瑠瑠神は逆にキンジの言葉に驚いていた。

 

 

『……彼の年齢は……いくつなのですか?』

 

 

「確か17か18だ」

 

 

『……おかしいです』

 

 

「え?」

 

 

瑠瑠神は今になって自分の言葉がおかしいことに気付いた。

 

 

『あの時の彼の姿は、現在と同じ姿……でした……!』

 

 

「……は?」

 

 

『全く変わっていないのです。どうしてこんな単純なことに気付かなかったのでしょうか……』

 

 

瑠瑠神の言っていることを整理する。彼女が言っているのは『五年前の大樹』は『現在と同じ姿』だということ。

 

 

「瑠瑠神。言っていることが無茶苦茶だぞ。そんなことはありえない。五年も経てば人間は絶対に変わる」

 

 

『……ですが、私はしっかりと見たのです。色金を通して』

 

 

瑠瑠神の声は自信を無くしていた。確信していた事実が捻じ曲げられ、断言できなくなっていしまったから。

 

この時、ティナは大樹について何も知らないことが仇となっていた。

 

 

 

 

 

五年前、彼がどこの世界にいたのか。

 

 

 

 

 

異世界は、ここだけではないことを。

 

 

「……見間違いだろ。それに瑠瑠神。他に用があるんじゃないのか?」

 

 

『……そうですね。この話はまたの機会に……ティナ・スプラウト』

 

 

「……何でしょうか」

 

 

『あなたに、力を貸したい』

 

 

「ッ!」

 

 

その言葉にはティナだけでなく、キンジも驚いていた。

 

 

「どうして……私に?」

 

 

『あなたが、私との波長が一番合っていました』

 

 

「まさか緋緋神がアリアを選ぶのと、璃璃神がレキを選ぶように瑠瑠神はティナを選んだのか?」

 

 

『はい。同じ了見だと思って構いません』

 

 

「でも、どうやって力を貰うのですか?」

 

 

『私の一部をあなたが持ってください。そうすれば力を貸してあげれます』

 

 

そして、ナイフの光は徐々に弱くなり、声が聞こえなくなった。

 

キンジはナイフを直し、奥の部屋を指差しながらティナに教える。

 

 

「金属ならまだあったはずだ。アンガスに頼めば作って貰えるぞ」

 

 

「アンガス?」

 

 

「弟の優秀な家来だ。俺のナイフも、アンガスが作ってくれた」

 

 

「そうですか……その、遠山さん」

 

 

「何だ?」

 

 

ティナは遠山の目を見ながら質問する。

 

 

「本当に五年前、大樹さんは……その……ロンドンの街を救ったのでしょうか」

 

 

「……分からん。だけど、」

 

 

キンジはティナの頭をポンと優しく乗せる。

 

 

「アイツなら、やってくれそうだ」

 

 

「……はい」

 

 

キンジの優しい言葉に、ティナの肩に乗った重みが軽くなったような気がした。

 

 

「Loo!」

 

 

「ッ!?」

 

 

突如背後から声をかけられたことにティナはビクッと驚く。そもそも声をかけられたのか分からない。

 

ティナと同じくらいの青髪の少女。白いスクール水着のようなモノを着ており、手には大量の資料の紙を持っていた。

 

 

Loo(ルウ)か。こんな所で何をしているんだ?」

 

 

「Loo!」

 

 

「……そうか」

 

 

(あ、今この人読み取ることを諦めた)

 

 

キンジの目はLooを見ていなかった。ただ、ただ頷くだけだった。

 

 

「キンジじゃないか。どうしたんだい? また女の子に手を出して追い出されたのかい?」

 

 

Looの後ろから背が低い中坊ぐらいの白人少年が歩いて来た。マッシュルームみたいな髪型に金緑メガネをかけている。

 

 

「マッシュか。というか女に手なんかださねぇよ」

 

 

「マッシュ……ミニ大統領さん?」

 

 

「誰だいそんな馬鹿みたいな例えをしたのは馬鹿は?」

 

 

すぐにキンジはまた目を逸らした。犯人はこの人です。

 

 

「そもそもキンジ。その冗談は笑えないね。その金髪の子に手を出そうしたのだろ? ホラ、その証拠にLooの体をジロジロと舐め回すように見た後、比較するように金髪の子の体を———」

 

 

「やってねぇよ!」

 

 

「だが君は女の子に手を出し過ぎだ。ホドホドにしたまえ」

 

 

「だからやってねぇよ!」

 

 

「ジーサードから聞いたよ。すれ違いざまに女の人のお尻を触ることが趣味で、最近は背が低いロリを狙っているとか」

 

 

「きんぞおおおおォォォ!!!!」

 

 

キンジはジーサードにキレるが、二人の少女? ティナとLooが怖がっていた。

 

 

「そのような大層なお方とは露知らず、今までとんだご無礼を……」

 

 

「Loo……」

 

 

三秒後、ジーサードはキンジに殴られた。

 

そして20秒後、キンジは帰って来た。

 

 

「それで? お前はどうしたんだ?」

 

 

「……君たちの兄弟喧嘩は洒落にならないからあまりやらないでくれ。飛行機が落ちる」

 

 

「堕ちねぇよ」

 

 

「それよりグッドニュースとバッドニュースの二つが入った。同時に言うから喜ばず落ち込まず聞いてくれ」

 

 

「……何だよ」

 

 

「楢原 大樹がロンドン警視庁で大暴れした。すぐに行けば彼を見つけれるはずだよ」

 

 

「「ッ!?」」

 

 

マッシュの言葉に二人は言葉を失った。

 

グッドなニュースなんて、どこにも無かったことに。

 

 

 

________________________

 

 

 

現在時刻 4:00

 

 

 

「どうしてお前までついて来た」

 

 

「いいじゃない。私とあなたは仲が———」

 

 

淡々と俺と仲が良い事を語り出すカナに俺は頭を抑えていた。この人、苦手な部類かもしれねぇ。

 

 

「むう」

 

 

しかも仲が良い事(嘘話)にリサは信じてしまうし。頬を膨らませて、少し怒りながら料理を作っているし。なんだよ。俺が何をしたっていうんだし!

 

 

「そもそもお前、パトラも一緒にいるのかよ」

 

 

「なんぢゃ? 不満か?」

 

 

スカーフを被った黒革装束の格好をしていた。あのエジプトの大胆な恰好———エジプタリアンな恰好はしていなかった。何だよエジプタリアンって。

 

ホントコイツら何なの? 盗んだ人の車に無断で入って来るわ、お家まで上がって来るわ。ちょっと勝手過ぎません? え? お前の方が勝手だろって? ……ちょ、ちょっと何言っているのか分からないですね。

 

 

「ああ、不満だ。早く出て行かねぇとそこにいるワトソンと同じ目に遭わせるぞ」

 

 

「いい加減この縄を解きたまえ!! 僕達は味方だ!!」

 

 

「うるせぇ!!」

 

 

「キレられた!?」

 

 

これ以上人が増えて厄介なんだよ!

 

 

「チッ、カイザーの金も全部使い切ってしまったし……テメェから金を取るぞ、カナ?」

 

 

「……………」

 

 

「嘘だ。そんな顔するんじゃねぇよカイザー。身分証明に使っただけだから」

 

 

その瞬間、カイザーの表情が明るくなった。

 

カナは全く変わらない調子でニコニコしながら返答する。

 

 

「駄目よ。泊まる場所が無くなるわ」

 

 

そういう問題なのか? 脅しているんだけど? そんな緊張感の無い顔しないで。

 

 

「もうワトソンとカイザーやるから帰ってくんね?」

 

 

「僕は取引道具じゃない!!」

 

 

「もう一声」

 

 

「取引しようとしてる!?」

 

 

「カイザーの財布」

 

 

「(´・ω・`)」

 

 

「……そろそろ真面目な話をしましょうか」

 

 

最初からして欲しかった件について。

 

 

「キンジは生きているわ。知っているでしょうけど」

 

 

「だろうな。死んでも生き返りそうな体質してそうだから分かっていた」

 

 

「そしてアリアを止めるために、キンジの持っている色金止女(イロカネトドメ)を欲しがっている」

 

 

「ッ! やっぱりあのナイフは特別だな」

 

 

色金止女。まさに緋緋神を止めてくれそうな名前だ。

 

 

「でも無駄よ。あれは抑えるだけであって消せないわ」

 

 

「な、何だと……!?」

 

 

唯一の希望だったモノが砕かれた。その衝撃的な一言に俺は口をパクパクさせて何も言えなくなった。

 

 

「じゃあ……じゃあアリアを救うには———」

 

 

「……やっぱりアリアが選ばれたのね」

 

 

「ッ」

 

 

失言。知られたくなかったことを知られてしまった。

 

 

「……諦めた方がいいと言われなかったかしら?」

 

 

「ッ……だったら何だ。俺はそれでも違う方法を探すだけだ」

 

 

「……そう」

 

 

カナは目を細め、俺から目を逸らした。

 

 

「君たち……一体何の話をしているんだ……」

 

 

「ワトソン。実はかくかくしかじかなんだ」

 

 

「伝わらないよ!?」

 

 

「なるほど。理解した」

 

 

「カイザー!?」

 

 

「いい加減真面目な話をしたらどうぢゃ……」

 

 

俺たちの会話にパトラが呆れてしまった。カナはいつも通りニコニコしているが。

 

とりあえずワトソンと情報交換(一方的に聞き出した。こちらはあまり提供していない)をした。

 

 

御影(ゴースト)の組織を壊滅させる……!?」

 

 

「正確にはある奴を殺す。多分、それだけで壊滅できるはずだ」

 

 

「こ、殺すッ……!?」

 

 

普通じゃない物騒な言葉にワトソンの表情は引き攣った。周りもあまり反応は良くない。

 

 

「何驚いてんだ。ロンドンでは午後の紅茶ついでに人を殴る風習があるだろうが」

 

 

「ないよ!? ねじ曲がっているよキミの常識!?」

 

 

「赤い紅茶は殴った人間の血が混ざって———」

 

 

「だからないよ!?」

 

 

「誤魔化すのはそれくらいにしたまえ」

 

 

トーンの低いカイザーの言葉で俺とワトソンは会話を止めた。

 

 

「人を殺すとなると私たちはキミを本当に逮捕しなければならない。キミも武偵なら、復讐は逮捕で止めておくべきだ」

 

 

「意味の無いことを言ってんじゃねぇよ」

 

 

「意味や理由など我々に必要ない。必要なのは人としての心だ」

 

 

「ッ……遠回しに俺のことを人間否定するのは構わねぇよ。俺は人間をやめているからな。だが」

 

 

俺はカイザーを睨みながら告げる。

 

 

「一度死んで生き返った奴を、人間と呼ぶのか?」

 

 

「ッ!?」

 

 

「違うだろ? そいつらにはピッタリの名称がついているだろ?」

 

 

大樹は後ろを振り返る。みんなに顔が見えないように。

 

 

「『化け物』ってよ。俺と姫羅はその『化け物』なんだよ。分かるか?」

 

 

「……もうこの話はやめなさい」

 

 

カナに止められ、俺とカイザーも口を開こうとしなかった。ワトソンとパトラも気まずそうな表情をしていた。

 

沈黙が部屋を支配する。聞こえてくるのはグツグツと煮込む鍋の音だけ。

 

 

「ご主人様。食事の用意ができました」

 

 

沈黙を破ったのは意外な人物。リサだった。

 

少し驚いたが、俺は返事をする。

 

 

「あ、ああ……助か……ッる!?」

 

 

しかし、今度は大きく驚いた。

 

 

「ご主人様。このメイド衣装ですが……いかがでしょうか?」

 

 

リサが来ていたのはメイド服。メイド服なんだが……違う!

 

武偵高の女子制服とメイド服を融合したセーラーメイド服だったのだ!? 何だよ!?

 

襟の形やスカートの短さにセーラー服っぽさがプラスされている。臙脂(えんじ)色がもう武偵高の制服。オーマイゴッド。

 

 

「それ……アレだよな。アレを元にしたってことでいいよな?」

 

 

「はい。東京武偵高の女子制服デザインを加えてみました」

 

 

何でや。何でその要素を取り入れたんや。

 

 

「あー、うん。普通じゃないところがいいね!」

 

 

親指を立ててグッドサイン。何故か称賛の言葉を送ってしまった。

 

 

「「「「……………」」」」

 

 

そしてこのドン引きされた反応。おかしいね。リサは喜んでいるのに周りかられいとうビームを浴びてるよ。効果ばつぐんなんだけど。

 

 

「と、とりあえず飯を食べようか。リサ。全員の分はあるのか?」

 

 

「しっかりと用意してあります」

 

 

本当に有能すぎるメイド。完璧だな。

 

俺はワトソンとカイザーを縛っていた縄を解き、料理が用意されたテーブルに着く。

 

 

「……そんなに簡単に解いていいのかい?」

 

 

「俺から言わせればこうだ。やれるもんならやってみろ」

 

 

「……やめておくよ。カイザーもそれでいいね」

 

 

「ああ、構わない」

 

 

「あ、やっぱカイザーだけ縛っておこうかな」

 

 

What(ファツ)!?」

 

 

「冗談だ」

 

 

全員椅子に座りテーブルに乗った豪華な食事を見て驚く。オランダ料理か。中々やるなリサ。この料理人の俺を凄いと思わせている。

 

しかも超美味い。みんなバクバクと美味しそうに食べている。ケチをつける点など存在しなかった。

 

……このローストビーフの隠し味に使った調味料が気になるな。

 

 

「リサ。ローストビーフに普通とは違う調味料を入れていないか? 隠し味的なモノというか……」

 

 

俺の質問にリサは少し驚いた表情をしていた。

 

 

「は、はい。赤ワインを少量使っています。よく分かりましたね」

 

 

「まぁこれでも店を経営していたからな。繁盛させるにはまず自分の舌を鍛えることにしたのさ。ちゃんと美味しいかどうか、味の濃いさを調整するためにな」

 

 

絶対記憶能力で全部の味を覚えた反則技ですけどね。

 

 

「ご主人様は料理もできるのですか! ステキ(モーイ)です!」

 

 

「そんなに褒めても何もでてこないぞ。出せるとしたらカイザーの財布くらいか」

 

 

「!?」

 

 

「そういやカナとパトラはどうしてここにいる? 大方予想がつくが」

 

 

「私も手紙を貰ったのよ。あの人から」

 

 

はぁい。シャーロックでぇすねぇ。分かりますぅ。チッ、野郎め。

 

 

「妾とカナは眷属(グレナダ)の組織機能が停止した時に合流したのぢゃ」

 

 

「そういやパトラは眷属(グレナダ)だったな。っていうかリサも眷属(グレナダ)じゃん。眷属(グレナダ)多過ぎ」

 

 

「楢原は師団(ディーン)か?」

 

 

「いや、大樹(ビックツリー)

 

 

「新しい組織!?」

 

 

「そもそもどっちでもいいんだよな。今は御影(ゴースト)を倒すって目的が同じだし。昨日の敵は今日の友。だが裏切りはあるかもしれないってやつだな」

 

 

「最悪な関係ぢゃな……」

 

 

「大体師団(ディーン)眷属(グレナダ)が喧嘩しなければこんなことにならなかっただろうがゴラァ!!」

 

 

「またキレられた!?」

 

 

「でもこの戦争の引き金を引いたのはあなたよ?」

 

 

「……………」

 

 

カナに指摘された瞬間、俺は窓から遠くの空を眺めた。そうでした。イ・ウーを壊滅したからこんなことになったのでした。

 

 

「と、とにかく俺は御影(ゴースト)を壊滅させる。そしてお前らは俺に協力して助ける。Win-Winの関係だ」

 

 

「話を逸らしたわね」

 

 

「逸らしたね」

 

 

「逸らしたな」

 

 

「逸らしたのう」

 

 

カナ、ワトソン、カイザー、パトラにジト目で見られる。クッ、人数的に不利だな……!

 

 

「……飯、食わせてやらないぞ」

 

 

「「「「ごめんなさい」」」」

 

 

よっし! 形成逆転! リサのご飯、強し!

 

 

「そろそろ具体的な話をしましょうか。単刀直入に聞くわ。これから何をするの?」

 

 

「メヌエットに会いに行く。ワトソンなら知ってるだろ? アリアの妹の居場所」

 

 

「た、確かに知っているが……会ってはくれないんじゃないのかい?」

 

 

「どういうことぢゃ?」

 

 

「……貴族だから会いにくいとかかしら?」

 

 

「その通り。品位を守る子であって、人と軽々しく会わない。まさに深窓の令嬢だよ」

 

 

カナの予想にワトソンは頷いた。

 

 

「随分と調べたんだな」

 

 

「許嫁が殺されたんだ。必死に犯人を捜すために全部のことを調べたよ」

 

 

「だから殺してねぇよ」

 

 

「知っているよ。でも、どうしてキミはアリアのことを隠している? 何か不都合があるからじゃないのか?」

 

 

「不都合があるのはお前だろ。俺は百合な展開は求めてねぇよ」

 

 

「……………え?」

 

 

「それとも何か? イギリスでは同性結婚でも認められているのか?」

 

 

「「「「……………え?」」」」

 

 

「な、なな、なななな何でキミがそのことを知っている!?」

 

 

「わ、ワトソン君!? どういうことだい!?」

 

 

「だーかーら、ワトソンは……………あ、これって言っちゃダメなパターンですか?」

 

 

「遅いよ!? 絶対わざと———!」

 

 

「リサ。おかわり」

 

 

「———人の話を聞きたまえッ!!」

 

 

「ぐえッ!?」

 

 

ワトソンに胸ぐらを掴まれ呼吸ができなくなる。ぐるじい……嘘だけど。

 

 

「落ち着け落ち着け。ほら、紅茶でも飲め。これには血は入っていないから」

 

 

「落ち着いていられるかあああああァァァ!!」

 

 

 

~ワトソンがキレたのでなだめます。少々お待ちください~

 

 

 

「で、俺の顔を何度も殴ったことは目を瞑ろう。代わりにメヌエットに会いに行く手伝いはしろよ」

 

 

「クッ、ボクとしたことが……冷静を欠いてしまった……!」

 

 

「ワトソン君が……女……ワトソン君が……!?」

 

 

ワトソンは悔しそうな顔をしており、カイザーは混乱していた。一気にスペシャリストの警察二人組が戦闘不能状態に。これが俺の力だ! え? 怪我? 大丈夫だ。嫁たちと比べたら全然マシだから! ……嫁に会いてぇ。

 

 

「リサは武器の補充等の買い出しに行ってくれ。カイザーを護衛に付けるから」

 

 

「分かりました」

 

 

「何気に私があごで使われていることに誰も反応してくれないのか……」

 

 

「安心しろ。お前の財布を返してやるから」

 

 

「それは私が常に所持していることが普通なのだが……」

 

 

「私たちはどうするのかしら?」

 

 

カナが俺に尋ねてきた時、俺は少し驚いた。

 

 

「……意外だな。手伝ってくれるのか?」

 

 

「元々そのつもりで会いに来たのよ。あの時は、それどころじゃなかったから」

 

 

「……恩に着る。じゃあ手紙に書かれた場所に行ってあのクソ探偵に会いに行け。何かヒントくらいはくれるだろう」

 

 

「酷い言いぐさぢゃ……」

 

 

「パトラ。俺はアイツに殺されたんだ。むしろ殺しに行かない俺は天使だと崇めろ」

 

 

「横暴ぢゃ!?」

 

 

どこがだよ。俺、むっちゃ優しいやん。何度も言うが俺は悪魔(天使)だ。っておい。

 

 

________________________

 

 

 

現在時刻 6:00

 

 

空は暗くなり、街が部屋の光、街灯などの光が目立つようになった。

 

ポルシェの助手席に座って俺は眠っていたが、

 

 

「着いたよ。起きたまえ」

 

 

運転席に座っていたワトソンに起こされ、俺は目を覚ます。

 

寝起きのせいか、それとも日々の疲れのせいか。俺は少しキツイ表情になってしまう。

 

 

「……無理しすぎじゃないのかい」

 

 

「大丈夫、問題ない……」

 

 

「……さっき栄養剤を買っておいた。これでも飲んでおいたほうがいいよ」

 

 

栄養剤のビンを無理矢理ワトソンに渡される。

 

 

「……変に優しいなお前。最初は俺に剣を刺したクセに」

 

 

「か、勘違いしてもらっては困る! これは御影(ゴースト)を倒すためにキミの力を利用———」

 

 

「はいはい。ツンデレ乙」

 

 

「なッ!?」

 

 

俺はポルシェから降りながら栄養剤を一気に飲み干す。甘くて美味しいなコレ。

 

ワトソンがいろいろと文句を言っているが右から左へと頭に入ってこない。

 

 

「はぁ……とにかく気をつけて行くんだ。失礼なことをするなんて論外だよ」

 

 

「とりあえず土産品としてこけしでもやればいいだろ」

 

 

「アウト!!」

 

 

「ジャパニーズジョーク」

 

 

「ロンドンでは通じないからやめてくれ!」

 

 

ワトソンは頭を手で抑えながら溜め息をつく。

 

 

「ボクとは多分会ってはくれないだろうから、ここから先は一人で行ってくれ」

 

 

「任せろ!」

 

 

ガチャッ!!

 

 

「どうして拳銃を持つんだい!?」

 

 

「アメリカンジョーク」

 

 

「本当にロンドンでは通じないからやめてくれ!!」

 

 

俺は笑いながら歩き出す。ワトソンは本当に疲れたような表情をしながら俺に文句を言っている。

 

 

「そうだ。最後に一つ言うことがあった」

 

 

俺は振り返り、ワトソンと目を合わせる。

 

 

「家のことに縛られ過ぎるなよ。せっかく可愛い女の子に生まれたんだ。それを家のために政略結婚とかバカバカしいぞ」

 

 

「ッ……君の優しさは痛いね」

 

 

「これからもっと痛い思いをしたくなかったらもうやめておけ。そして誰かに頼れ。なんなら俺に頼れ」

 

 

「何も分からないクセに分かったフリをするのはやめてくれ」

 

 

「分かるよ。辛いって顔に書いている」

 

 

俺は少し笑みを浮かべながら言う。

 

 

「できることは、何でもしてやるよ。あんまり背負い過ぎるなよ」

 

 

「……やっとキミのことを信じれるよ。キミは誰も殺してなんかいない」

 

 

ワトソンは優しい笑みを浮かべて答える。

 

 

「だったら早く終わらせよう。この戦いを」

 

 

「そうだな」

 

 

そうだ。ワトソンの言う通りだ。

 

終わらせよう。この悲劇しか生まない戦争を。

 

 

(時間は少ない……)

 

 

ポケットに入れた砂時計を取り出す。時間はあと

 

———残り三分の一しか残っていなかった。

 

向うの世界で戦争が始まるのは砂が全て落ちた時。モノリスが崩れ落ちた時だ。刻々とタイムリミットが迫ってきている。

 

 

(ティナ……)

 

 

しかし、一番心配だったのは置いて行ったティナだった。

 

 

________________________

 

 

 

「ええい! イギリスの警察は何をやっているッ!!」

 

 

薄汚れた白衣を着た白髪の男は苛立ちながらモニターに向かって叫んでいた。

 

サイオンとの戦いは大樹の圧勝。襲撃に向かわせたガルペスの作った人型機械兵器『エヴァル』の破壊。

 

負け。敗け。敗北。

 

そのことに腹を立てていた。

 

 

「そもそもこうなったのも貴様の鬼だ! この役立たず!」

 

 

横暴な暴言に姫羅は下唇を噛む。何も言い返さない。いや、言い返せない。

 

 

「次はないからな。もし失敗するようなことがあれば貴様の望みは潰す」

 

 

「ッ!? 話がちが———!?」

 

 

「何も違わない! 役に立たないやつにやる金や褒美は無いッ!!」

 

 

「ッ……!」

 

 

手を強く握り堪える姫羅。白衣の男はモニターを見ながら指示を出す。

 

 

「私だ。奴と神崎 かなえとの会話は録音しているな?」

 

 

『はい。衛生から回線を通してそちらに送ります』

 

 

「うむ」

 

 

白衣の男はヘッドホンを装着し、録音を聞く。

 

しばらくしたあと、男は口に手を当てて笑いだした。

 

 

「カッカッカッ。甘く見られたモノだな。貴族に手を出せないと思っているのか?」

 

 

男はもう一度通信機を手に取る。

 

 

「私だ。すぐに座標を送った位置に『エヴァル』を使って襲撃を仕掛けろ」

 

 

『待ってください! ここで手を出せばイギリスから———!』

 

 

「黙れ! イギリスなどもう使えん! いいか!? 皆殺しにして構わん! 何としても奴をこれ以上好きにさせるな!」

 

 

男は乱暴に通信機を投げ捨てた。

 

 

 

________________________

 

 

 

ベーカー街221番。『Minuet Holmes』の彫金の表札を見つけた。

 

スーツのネクタイをしっかりと整え、声の調子を確かめる。よし。

 

白地に黒いフチ取りをした木のドアの横にある呼び鈴を押す。

 

すぐにドアは開き、白黒のステレオタイプなメイド服を着た金髪碧眼(へきがん)の双子の白人少女が姿を見せた。

 

 

「「ッ!?」」

 

 

俺の姿を見た瞬間、二人の顔が驚愕に染まった。

 

 

「悪いな。知っていると思うが楢原 大樹だ。メヌエットに会わせてくれ。もちろん、武器は持っていない。全部置いて来た」

 

 

コルト・ガバメントだけな。武器持っていないよ。カードしか。

 

双子はドアを閉めるとバタバタと走り出した。メヌエットのところに行ったのだろう。というか客人を外に放置するなよ。

 

しばらくしたあと、ドアが再び開いた。

 

 

「……どうぞ。中へお入りください」

 

 

「アポ無しなのに許可が取れたのか」

 

 

「はい。ご案内します」

 

 

双子のメイドに案内され、1階の奥間に入る。そして、その光景に驚いた。

 

 

(イ・ウーの戦艦内……シャーロックのコレクションに似ている)

 

 

エントランスの内装があの雰囲気がそっくり。むしろほぼ同じだ。

 

置いてある化石、標本、植物。あの戦艦内にあったモノと一致する。

 

 

「ここはメヌエットの趣味か何かか?」

 

 

「お嬢様がコレクションなさった品を収蔵した博物室です」

 

 

シャーロックの曾孫だからか? ホント、似た趣味をしているんだな。

 

できれば性格は優しくあればいいんだがな。

 

博物室の先に行こうとした時、メイドたちは足を止めた。どうやら俺とメヌエット、1対1で会うことらしいので双子のメイドはここまでっということらしい。

 

一人で階段を上がり、2階に到着する。少し薄暗い廊下をコツコツと歩く。

 

メヌエットは金の取っ手、黒縁の白いドアの部屋らしいので、俺はそのドアの前に立ち、ノックをした。

 

 

「……………?」

 

 

返事が返ってこない。

 

このまま入るか? いやいや、ここは礼儀正しくするべきか?

 

 

『失礼なことをするなんて論外だよ』

 

 

……ワトソンの言いつけを守りますか。

 

俺はもう一度ノックをして、

 

 

I am Daiki Narahara.(私は楢原 大樹です) May I enter?(中に入ってもよろしいですか)

 

 

丁寧な英語で話しかけた。これならさすがに返事が返って来るでしょう。

 

 

「……………」

 

 

……………返ってこないんだが?

 

あれ? 留守なのかな~? 違うよねぇ~?

 

 

ガチャッ

 

 

もうなんかいいやっという気持ちで扉を開けた。

 

部屋は本が多いのが印象的だった。本棚だけでなく、テーブルの上にも置かれている。

 

木製のレターボックスや蓄音機(ちくおんき)。振り子時計にタイプライター。懐古趣味というやつだろうか。

 

カーテンを半分閉ざした窓際に小柄な少女の綺麗な金髪の後頭部が見えた。

 

少女は車椅子に乗っており、俺はこの部屋に来る途中の廊下や玄関を思い出す。

 

 

(スロープの玄関……階段の近くにあったのはエレベーターか。なるほど、歩行障害者か)

 

 

「ひどいにおい」

 

 

部屋に入って開口一番に言われた少女に言われた。ひでぇ。

 

 

「悪かったな。これでも風呂に入ったばかりなのだが」

 

 

「においは人の感情を最も強く刺激するモノです。以後気をつけたほうがいいかと」

 

 

「そんなに臭いのか……」

 

 

「火薬の匂い。あなたはお姉様と同じ、日常的に銃を撃つ人物。お姉様と武装探偵ですね」

 

 

「大体合っているな」

 

 

「まだ終わっていません。二刀流の剣を使うことも分かります」

 

 

「……どうして分かった?」

 

 

「足音です」

 

 

「足音……音の間隔で分かったのか?」

 

 

「私は廊下の長さを知っています。体型にもよりますが、人間の歩幅は身長との強い相関関係を持つ。あなたの足音の回数、つまりあの廊下を何歩で歩いたのか。歩幅から身長が分かるのです。音の響き方で体重もおおよそ分かるのです」

 

 

「身長と体重だけじゃ俺が剣士かどうか分からないだろう」

 

 

「あなたは足の踵をあまり体重を乗せないように歩きます」

 

 

「……剣道の足さばきがクセになっていたか。でも二刀流とは分からないだろ」

 

 

「あなたは不規則な動きをします。先程ノックをした時、左手でしましたね」

 

 

音だけでそこまで分かるのかよ。

 

 

「ですがドアを開ける時は右手。しかし廊下を歩き出すのは左足から、部屋を入る時は右足から。両利きかと思いましたが、実はやや右利き」

 

 

うわぁお……ここまで分かるのかよ。

 

 

「どちらの手を使っても大差ないことから両利きの剣士だと分かりました」

 

 

「確かに、左手でも右手と同じくらい使いこなせるようにしていたからな」

 

 

俺が左利きで戦うと相手がやりにくい場合があったからな。半年頑張れば両利きになったわ。でも箸やスプーンは右手に持つが。

 

 

「全部推理か。さすがだな。メヌエット」

 

 

確信できたな。この少女がメヌエットだと。

 

 

「だが一つ捕捉を加えると俺がやや右利きなのは『必殺』の左手を隠すためだからだ。実力を隠すために左手は日常でも使わないようにしているんだ。まぁたまに無意識で使ってしまうが」

 

 

「……まさか挑発しているのですか?」

 

 

「さぁ? でも一つ言っておこう。俺の体重は68kgだ」

 

 

「ッ!」

 

 

ピクッとメヌエットの頭が揺れた。

 

 

「少し予想と違ったか? 仕方ないぜそれは。わざと俺が足音を響きを調整したからな」

 

 

「わざと……ですか」

 

 

「本当にお前らは似ている。アリアよりずっとメヌエットの方が確かに似ている。だから俺が推理しやすかった」

 

 

性格がシャーロックと似ている。そうやって分析するところは。

 

だから俺は推理できた。必ず最初に推理力を見せつけることを。

 

 

「ノックをしたのに返事をしなかった仕返しだ」

 

 

俺はドアを閉めて背をドアに預けた。メヌエットがどういう反応で返すか待つ。

 

メヌエットはやっと椅子ごと俺の方を振り返った。

 

ツーサイドアップに結ったプラチナゴールドの髪。葡萄酒色(バーガンディー)のフリフリでヒラヒラのゴッシクロリータみたいな服を着ていた。頭にはボンネットを被っている。

 

……服に違和感があるのは気のせいだろうか。なんだろう……どこかで———

 

 

Nice to meet you.(初めまして)And good-bye.(そして、さようなら)

 

 

「ッ!」

 

 

メヌエットの手には銃が握られていた。もちろん、銃口は俺を向いている。

 

 

パウッ!!

 

 

メヌエットは引き金を引き、俺の額に命中した。

 

 

「……随分と荒い歓迎だな」

 

 

だが、俺は倒れるどころかフラつくこともなかった。

 

メヌエットが撃った銃弾は圧縮させた空気を撃つ空気銃(エアライフル)だ。俺はそれを一瞬で見抜き、わずかだが当たった瞬間、頭を一瞬だけ引くことで威力を大きく下げた。これ、普通に当たったら痛いからな?

 

 

「……ふむ。お姉様が見初めた相手ですのでこのくらいではやはり効きませんか」

 

 

「いや、普通に痛いから。今の威力は鳥なら死んでるぞ」

 

 

「750気圧まで変えれば対人殺傷力を持つ中になりますよ」

 

 

「分かったからこっちに向けるな」

 

 

「私は通常、自身の半径5メートル以内に男性を近づけません。全く口をきかない恐怖症というほどではありませんが、男性は臭くて汚い。大嫌いですから」

 

 

世界の男たちに今すぐ謝ってくれ。というか俺、ドアの前ですよ? これ以上下がれというなら廊下になるのですが?

 

 

「ところでこの付け襟は東京武偵高の女子制服に揃えてみたのですが」

 

 

違和感の正体が判明しました。どうしてお前らはそんなにうちの高校の制服を真似するの? 人気なの? 売れば流行るの?

 

 

「あなたから見て色形に違和感はありませんか?」

 

 

「いいんじゃねぇの。結構可愛く仕上がってる」

 

 

「80点。褒めている点は良い解答ですが、投槍な態度と『結構』が余計です」

 

 

何度も繰り返すが俺に服のセンスを求めるな!

 

 

「……そろそろ本題に入るぞ。色金、緋緋神、全部推理したのか?」

 

 

「はい。推理できていますよ」

 

 

「だったら話は早い。それを———」

 

 

「でも教えません」

 

 

「———何だと?」

 

 

俺は目を細めてメヌエットを見る。

 

 

「第一にまず私はあなたを信用していません。お姉様と遠山 キンジが生きていることは推理するまでもなく分かっています。ですが、あなたがここに来るまでに起こした騒動を流すわけにはいけません」

 

 

うわあああああァァァ!! ここに来て今までやって来たバカが全部仇となった!?

 

 

「それにお姉様がもう緋緋神になってしまった以上、対策は()()尽いました」

 

 

「ほぼ……か……」

 

 

まだあるということか。それを簡単には口を割らせてくれないだろうな。

 

 

「……実力行使っと言いたいところだが」

 

 

俺は背を預けていたドアから離れ、

 

 

「帰るわ」

 

 

「……………え?」

 

 

ドアノブに手をかけてドアを開く。ポカンッとした顔をしたメヌエットがこちらを見る。

 

 

「何だ? 俺が帰ることは推理できなかったのか?」

 

 

「……いいえ。ありえません。あなたは私の推理を絶対に聞きたいはずです」

 

 

「それが違うんだよな」

 

 

俺は溜め息をつきながら説明する。

 

 

「推理じゃダメなんだよ」

 

 

「……先程から侮辱しているのですか?」

 

 

「分からないか? メヌエット、推理は()()にその結論辿り着くとは限らないんだ」

 

 

何故ならっと俺は付けたしキリッとした顔で答える。

 

 

 

 

 

「マジで帰ろうとしているからだ」

 

 

 

 

 

「……一つ、分かったことがあります。あなたは頭が良いだけの馬鹿ということ」

 

 

「ごはぁッ!?」

 

 

今日一番の切れ味だった。心がズタボロにされた。

 

 

「きっとお姉様も大変苦労なさったのでしょう」

 

 

ゾグシュッ!!

 

 

「友達も少なそうですし」

 

 

グシャッ!!

 

 

「金を持った便利な男と思われているのかもしれない」

 

 

ザグブシャッ!!

 

 

「もうお姉様は、他の異性に目移りしているのでは?」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!

 

 

トドメの一撃は核ミサイル級の爆発だった。俺は壁に寄りかかり、何とかして倒れないようにするが、

 

 

バタッ

 

 

倒れた。

 

 

「死にてぇ……」

 

 

「予想以上にメンタルが弱いことも推理済みです」

 

 

「……だけど、それは無いな」

 

 

俺はゆっくりと立ち上がり、告げる。

 

 

「アリアは、そんな薄情じゃない!」

 

 

「……足が震えていますわよ」

 

 

「違う。笑っているんだ。アハハって」

 

 

「……なるほど。私の推理が間違っていました。あなたはただの馬鹿でした」

 

 

「もうやめて」

 

 

俺のライフは0よ!

 

 

________________________

 

 

 

一方、大樹がメヌエット家に入った時には既にキンジとティナもベーカー街に来ていた。

 

手分けして大樹の居そうな場所を探す。キンジとティナはジーサードが探してくれたメヌエット家に訪問するところだった。

 

 

「どうする? 普通に会いに行ったら大樹が逃げる可能性があるんだろ?」

 

 

「はい。戦いに巻き込みたくないみたいでしたので」

 

 

普通に玄関から入るより、メヌエット家の外の庭園から中の様子を伺うことに決める。幸い、登りやすい木もあるので2階の様子も見れる。

 

キンジとティナは一瞬で木によじ登り、中の様子を盗み見する。途中、キンジは木の枝を頭にぶつけた。

 

 

「……1階にはメイドしかいな」

 

 

「……広いですね。これでは探すのに時間がかかりそうです」

 

 

メヌエット家は大きく、探すのが大変だった。ティナが諦めかけたその時、

 

 

『おほほほッ。情けないお馬さんね。ほら、もっと速く』

 

 

楽しそうな英語で笑う女の子の声が聞こえて来た。大体予想はつく。

 

 

「大樹か!?」

 

 

「絶対に違います。恐らくメヌエットさんかと」

 

 

声が聞こえてくるのは家の奥の2階。この木からは見えない。

 

二人は家の屋根に飛び移り、奥へと慎重に進む。音を立てないようにバルコニーに降りて、中の様子を見た。

 

 

どうどう(ゼアゼア)♡」

 

 

「ヒヒーン」

 

 

 

 

 

そこには少女を背中に乗せ、赤子のようにハイハイする大樹の姿があった。

 

 

 

 

 

キンジ「 」

 

 

ティナ「 」

 

 

二人は文字通り言葉を失った。

 

大樹は中々のスピードを出して部屋を駆け回っていた。ネクタイは大樹の首に巻かれ、手綱のように少女が握っていた。

 

 

「ヒヒーン」

 

 

やる気の無い声なのにスピードが速い。少女は笑顔で楽しんでいた。

 

 

「ヒヒーン」

 

 

その時、ティナと大樹の目が合った。

 

 

「……ヒヒーン」

 

 

キンジとも目が合った。

 

 

「……ヒン」

 

 

理解した。

 

 

「……………これはヒンがうんだ」

 

 

これは違うんだっと言いたかったらしい。

 

顔を真っ青にした大樹がハイハイから土下座に移行しながら窓に向かって話す。メヌエットも窓にいる二人に気付いた。

 

 

「人の家に勝手に入り込むなんて無礼にも程があります。ですが今の私は機嫌が良い」

 

 

土下座する大樹のオールバックの髪をワサワサと触りながらメヌエットはクスリッと微笑む。

 

 

「ダイキ。私はあなたを気に入りました。推理を聞かせるチャンスを上げましょう」

 

 

メヌエットの言葉に大樹は思った。

 

とりあえず、あの二人の記憶を消してほしいっと。

 

 

________________________

 

 

 

現在時刻 6:55

 

 

「『(スター)システム』?」

 

 

メヌエットに出されたチャンスに俺は首を傾げた。とりあえずティナとキンジには何が起きてああなったのか簡単に説明しておいた。

 

メンタルをズタボロにされた俺はメヌエットの催眠術にかかり、ああなったわけだ。そして、二人を見て正気に戻った。

 

まぁこの後、ティナから説教を受けるのは確定している。覚悟は決めていますが、今は目の前にあるメヌエットの話に集中する。

 

メヌエットは俺にメルヘンチックな飾り模様で縁取られた白いカードを渡して来た。

 

 

「ダイキが私に良い事をすれば、そこに星を書いてあげます。その星が10個貯まったら、推理したことを教えてあげます」

 

 

「おい。これってお前のさじ加減じゃないか」

 

 

パウッ!!

 

 

「ぐはッ!?」

 

 

「あ、遠山がやられた」

 

 

俺の隣にいた遠山がメヌエットに撃たれた! ざまぁw

 

 

パウッ!!

 

 

「何で俺までッ!?」

 

 

俺も撃たれた!?

 

 

「本当はあなたは部屋などに入れたくないのです。立場をわきまえなさい。それとダイキ。連帯責任です。罰としてマイナス1です」

 

 

そう言って白いカードには黒星が書かれた。

 

 

「不法侵入の件で二人いたのでさらにマイナス2です」

 

 

黒星2追加。これで黒星が3つだ。

 

 

「……13回良い事をするということですね」

 

 

「あなたは察しが良くていいですね。そこの男と違うわ」

 

 

ティナには優しかったメヌエット。男の扱いが酷いよメソメソ。

 

 

「あー、何だ。とりあえず遠山。今日は帰ったほうがいい」

 

 

「……今日の夜、電話しろ」

 

 

「へいへい。ああ、それと」

 

 

俺は小さな声で、

 

 

 

 

 

「ティナのこと、ありがとうな。キンジ」

 

 

 

 

 

「ッ……気持ち悪いなお前」

 

 

「味方いないの俺?」

 

 

素直にお礼を言う俺はそんなにキモイの? 酷いの。

 

遠山は冗談だっと額を摩りながら部屋を出て行った。

 

メヌエットの方に振り向くと、ちょうどいいタイミングで、

 

 

ボーン、ボーン、ボーン……っと柱時計の音が響いた。

 

 

「ディナーの時間ですよ、ダイキ」

 

 

「ん? ……ああ、そういうことか」

 

 

俺はメヌエットの組ま椅子のハンドルを握り、動かした。

 

 

「残念でしたね。今ので星が貰えたのに」

 

 

「あ」

 

 

馬鹿だ俺。今ので『星をくれたら動かしてやるぜ? ヘッヘッヘッ』ぐらいはできたのに!

 

 

「大樹さん……」

 

 

ティナは俺の行動に呆れていた。そんな目で見ないでぇ!!

 

 





1 メヌエットを背中に乗せてお馬さんごっこ

2 ティナにジト目で見られる。


さぁあなたはどちらがいいですか? 悩みますよね?

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