どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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Scarlet Bullet 【覚悟】

ドゴッ!!

 

 

ティナと(れい)の拳が交差する。ティナの表情が苦痛に歪み、麗も少しキツそうな顔になっていた。

 

拳の威力としては麗の方が格上。元々格闘戦に向いているガストレア因子ではないので、この戦いはティナにとって厳しい状況となっている。

 

 

「これで終わりね」

 

 

ゴッ!!

 

 

「ッ……!」

 

 

ティナの両腕が上に弾き飛ばされ、腹部がガラ空きになってしまった。

 

麗はその一瞬を見逃さない。すぐに蹴りを叩きこもうとする。

 

 

ゴォッ……!

 

 

しかし、ティナに蹴りを入れた瞬間、消えた。

 

 

「何ッ!?」

 

 

まるで幻覚を見ていたかのような。ティナが(きり)のように消え———!

 

 

「どこ見てんだよ」

 

 

ニヤリと笑うカツェに麗は歯を食い縛る。

 

 

(ドイツの魔女かッ……!)

 

 

厄水(やくすい)魔女(まじょ)】のカツェの仕業だった。ティナの姿を隠したのはカツェだ。

 

 

「そんな水で私を欺くことができると———!」

 

 

「ほーッほほほほッ! 愚かな女よ」

 

 

ヒルダが高笑いが聞こえた。振り返ると、ヒルダの手には青白い電撃を纏わせていた。

 

 

「攻撃の手段だと分からないのかしら?」

 

 

「ッ!?」

 

 

麗が作戦に気付いた時には遅かった。

 

霧のせいで床は水浸しになっている。もし、床に高圧電流が流されれば麗は無事ではすまない。

 

 

バチバチッ!!

 

 

電気が水を伝い、麗の体に電撃が走る。

 

 

「フッ!!」

 

 

しかし、麗は両腕を振り払うだけで一帯の水を風で吹き飛ばし、電撃ごと振り払った。

 

規格外過ぎる力に圧倒される。だが、ティナはそれに動じない。

 

 

ヒュンッ!!

 

 

銃に刺さったメスを何本も手に取り、麗に向かって投げる。

 

 

「小賢しい! いい加減諦めなさい!」

 

 

麗は怒鳴りながらティナの攻撃を避ける。メスは掠りもしない。

 

ティナはそれでもメスを拾いながら走り続け、投擲を繰り返す。

 

 

ピシッ!!

 

 

「ッ!?」

 

 

その時、投擲されたメスの軌道が曲がり、麗の頬を掠めた。ツーっと切り傷から血が流れ、麗は目を見開いて驚愕する。

 

 

(ありえない……どんなトリックを……!?)

 

 

メスの動きは普通じゃなかった。曲がるわけのない方向に曲がり、避けることができなかった。

 

麗は集中してメスを見る。

 

 

「……ワイヤーね」

 

 

「ッ……極細を使っているのに、気付くのが早過ぎないかしら?」

 

 

メスにワイヤーが付いていることに気付いた。ティナがメスを拾う前に夾竹桃が仕掛けておいたのだ。

 

しかし、気付かれるのが早い。そのことに夾竹桃は表情は見せないが、内心では焦ってしまう。

 

 

「でも、一足遅かったわね」

 

 

ピシッ!!

 

 

麗の足元に何本もの火花が床を走った。火花は麗の足元を中心に大きなひし形を描いた。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

そして、理子の仕掛けた火薬が爆発。足場が崩壊し、麗は体制を崩した。

 

 

「今だッ!!」

 

 

ドゴンッ!! ドゴンッ!! 

ガガガガガッ!! ガガガガガッ!!

ダンッ!! 

バチバチッ!!

 

 

理子の合図で全員が構えて集中攻撃をした。

 

理子は二丁のワルサーP99、夾竹桃とティナは拾ったAK—47で射撃。カツェはルガーP08と水の巨人で攻撃を仕掛け、ヒルダは電撃の塊を麗に向かって飛ばした。

 

 

「無駄なことをッ……ハァッ!!」

 

 

ゴオオオオオォォォ!!!

 

 

体制を崩した麗だが、両手の拳同士をぶつけると、拳から突風が吹き荒れ、銃弾やゴーレムの水の腕、電撃までも弾き飛ばした。

 

そして、麗は理子の空けたひし形の穴へと床の瓦礫と共に落ちる。

 

 

(思った以上にやるわね……少し甘く見過ぎたかしら?)

 

 

麗は三階のフロアへと落ちながら戦う女の子たちを見て、甘く見ていたことを後悔する。

 

怪我をしたロシア武偵に被害が出ないように戦うあたり、根はいい子たちだということは分かる。しかし、

 

 

(上からの命令を破るわけにはいかないわ)

 

 

麗は身を翻し、床に片膝を着いて着地する。そして四階のフロアに戻る為に、足に力を入れて飛躍する。

 

 

ドンッ!!

 

 

「くぅッ!?」

 

 

その時、麗の体は上に行くこと無く、下へと落とされてしまった。

 

身体に体当たりされたような感覚。襲撃者と一緒に落ちる前に、襲撃者を投げ飛ばして距離を取り、三階の床に着地した。

 

 

「……まだ諦めていなかったのね」

 

 

「母上……あなたの相手は、この私だッ!!」

 

 

頭から血を流し、ボロボロになった刻諒(ときまさ)がそこに立っていた。

 

息を荒げ、麗を睨む。仲間を思うその姿は勇ましい。麗もそう思えた。

 

だが、

 

 

「海外留学は無駄、犯罪者に手を貸す、母親を攻撃する。刻諒、愚かすぎるわ」

 

 

「……愚かですか」

 

 

母親に向けたレイピアを下げて、地面に向ける。

 

 

「ハッキリと言います。私が愚か者なら、彼……楢原 大樹君を敵と見なすこの世界の人間は大馬鹿者ですよ」

 

 

「……いい加減に———!」

 

 

「いい加減にするのはあなた方だッ!!」

 

 

刻諒の大声は麗を動揺させた。

 

 

「これ以上、理不尽に人を巻き込むのはやめてくださいッ!!」

 

 

「ッ……何度も言わせるな! お前が庇っているのは国際指名手配犯の奴だ!」

 

 

「家族のことを信じてくださいッ!!」

 

 

「ッ!?」

 

 

ドンッと自分の胸を叩きながら刻諒は叫ぶ。

 

 

「こんな駄目な息子に失望させて私は申し訳なく思っています。ですが、信じてください! 家族のことを! 息子を! そして何より父上のことを!」

 

 

刻諒の叫ぶ言葉は麗の表情を歪めさせるモノだった。

 

 

「……それに、オランダの海外留学は無駄ではありません」

 

 

地面に向けたレイピアを後ろに向け、姿勢を低くする。レイピアを持たない反対の左手は前に突き出す。

 

 

「【アブソリュート・シュトラール】」

 

 

刻諒の必殺———それは『速さ』だ。

 

物体は速ければ速いほど、威力を増大させる。それを利用したレイピアによる突きの攻撃は二つ名を貰う程の強さだと証明されている。

 

しかし、速さだけでは相手を倒せない。

 

相手が硬ければ貫けず。相手にかわされれば意味はなさず。相手が強ければこの技は通用しない。

 

だが、刻諒はその壁を越えて見せた。

 

 

ダンッ!!

 

 

足を踏み込んだ瞬間、亜音速の領域を飛び越え、音速の領域に足を踏み入れた。

 

身体が悲鳴を上げる暇も無く、レイピアを突き出した。

 

 

(それくらい読めるッ!!)

 

 

どんなに速い攻撃だとしても、攻撃の軌道が読まれれば終わりに等しい。麗は一歩下がり、体を傾けようとする。

 

 

ガシッ!!

 

 

「なッ!?」

 

 

だが刻諒が突き出した左手で麗の右手を掴むことで逃れることを防がれてしまった。

 

掴む力は尋常じゃない。振り切れることもできなかった。

 

 

ゴオォッ!!

 

 

そして、レイピアの剣先が麗の頬を掠めた。

 

ピリッとした痛みに麗は驚愕し、刻諒の目を見た。

 

 

「私は、武偵です。あなたの息子です。母上を傷つける理由はどこにもありません」

 

 

その目は見たことがあった。

 

自分が愛していた父、志を強く持った男に似ていた。

 

 

「お願いです。息子の我儘(わがまま)を聞いてください」

 

 

刻諒は告げる。

 

 

 

 

 

「理不尽な世界を変えさせてください」

 

 

 

 

 

麗はしばらく黙っていたが、口元に笑みを浮かべた。

 

 

「仕方のないバカ息子ね……」

 

 

________________________

 

 

 

現在時刻 5:00

 

 

ロシア軍が所持するハンヴィーと呼ばれる車に乗った刻諒たち。目的地に移動するまで時間があるので、麗は情報を教えることにした。

 

 

「トッキーの追っている男はポーランド上空を越えてドイツに向かっているわ」

 

 

「母上。本当にその名前で呼ぶのはやめてください」

 

 

「いいじゃない」

 

 

火を点けていない煙草を上下に揺らしながら笑う麗。刻諒は少し頬を赤く染めて恥ずかしがっていた。

 

麗の言葉を聞いたティナは理由を尋ねる。

 

 

「どうしてドイツに……?」

 

 

「その前に紹介する人物がいる。サイオン・ボンドだ」

 

 

「……レイ。何故私はこんな所にいるのだ」

 

 

「あら? 元先生に向かって失礼じゃないかしら?」

 

 

「……………」

 

 

五厘刈りにしたグレーの髪の男、サイオン・ボンドはただ麗を睨み続けた。

 

 

「そんなに怖い顔をしないで、まずあなたから聞いた情報が欲しいわ」

 

 

「……何だ?」

 

 

「あなた、楢原 大樹に負けたでしょ?」

 

 

大体察していることだったが、こうもストレートに告げた麗に一同は肝を冷やした。

 

目の前にいるのは世界最強の外事諜報組織、英国情報局秘密情報部のMI6。機嫌を損ねるだけで殺される可能性があるというのに、彼女は挑発した。

 

 

「ああ、確かに負けた」

 

 

「……随分素直に認めるのね」

 

 

「圧倒的だった。あれは人じゃない。化け物だ」

 

 

「ッ……!」

 

 

化け物という単語にティナが怒鳴りそうになるが、隣に座っていた理子が肩を掴んで止める。

 

二人のやり取りを横目で見ていた刻諒がフォローに入る。

 

 

「……確かに彼は普通じゃない。発砲した銃弾を足場にしたり、橋を斬り壊したり、空を飛んだりする」

 

 

「「……………ッ!?」」

 

 

麗は口から煙草が落ち、サイオンは口をぽかんと開けてしまった。

 

 

「だが、彼は人間です。間違いない」

 

 

「待ちなさい。それは人間じゃな———」

 

 

「息子が嘘を吐くというのですか?」

 

 

「———人間に決まっているじゃない」

 

 

親バカなところがある麗。サイオンは呆れていた。

 

 

「……話がずれたわね。サイオン。彼がドイツに……いえ、これからイギリスに向かう理由を大体察しているのじゃないかしら?」

 

 

「……………」

 

 

サイオンは黙っていたが、麗の無言のプレッシャーに溜め息をついた。そして、諦めたサイオンは告げる。

 

 

「『神崎 かなえ』が投獄された国だからだろう」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

その言葉に麗を除いた者たちが驚愕した。

 

 

「どういうことだ!? 何でまたアリアの———!」

 

 

「落ち着きなさい理子。こんな狭い場所で大声を出さないで」

 

 

理子の大声を夾竹桃が強く被せた。理子は下唇を噛み、黙った。

 

 

「神崎 かなえってアリアの母さんだろ? 冤罪だと証明されたはずじゃねぇのか?」

 

 

カツェの言葉は正しかった。シャーロックと大樹の戦闘後、すぐに無実がシャーロックのおかげで証明され、釈放された。

 

その後、イギリスに帰り、全てが平和に終わったと思われていた。

 

 

「イギリスは既に彼女を極秘重要犯罪人物にしていた。帰国後、すぐに彼女の身柄は拘束され、またありもしない罪を着せて投獄してある」

 

 

「……解せないわね」

 

 

足を組み直しながらヒルダは呟いた。

 

 

「私も彼女に罪を着せていたけれどアレは元々私たちが着せたくて着せたわけじゃないわ。どうしてまた着せるようなことをしたのかしら?」

 

 

理子と夾竹桃。そして、カツェも同じことを思い出した。

 

理子は意図的にやった。しかし、それはアリアとの因縁に決着をつけるためだった。だが二人にはそんな因縁も無ければ着せる必要も無い。

 

 

「……ッ! そうかそういうことかッ!!」

 

 

その時、理子は気付き、歯を食い縛った。

 

 

 

 

 

「警察……政府が黒だったていうことか……!」

 

 

 

 

 

理子の言葉にサイオンと麗を除いた全員が言葉を失った。

 

サイオンと麗はもう知っていたような……いや、もう分かっていたのだろう。

 

 

「彼女は私たちが喉から手が出る程知りたい情報を持っている。それが欲しいあまりに日本は『神崎 かなえ』を投獄してイギリスより早く情報を手に入れようとした」

 

 

「しかし結果は釈放されてしまい、イギリスに奪われてしまった」

 

 

サイオンに続き、麗が説明を付け加えた。

 

 

「その情報が彼も欲しいのではないか?」

 

 

「でもどこからその情報を手に入れたのかしら? サイオンが話したわけではないでしょ?」

 

 

「無論だ。イギリスを売るくらいなら自害する」

 

 

「本当にあなたはイギリスにラブよね。結婚すればいいじゃないかしら?」

 

 

「私とイギリスでは釣り合わない。イギリスに失礼だ」

 

 

(冗談で言ったのだけれど……)

 

 

「……ハッキングではないでしょうか」

 

 

ティナの呟いた声にサイオンは否定する。

 

 

「不可能だ。イギリスの重要機密部にハッキングできた者は誰一人いない。天才を越えた鬼才ですらな」

 

 

「ではサイオンさん。確かめてくれませんか?」

 

 

「確かめるだと?」

 

 

「イギリスに連絡して、ハッキングされた形跡があるかどうかを確かめてください」

 

 

「……いいだろう」

 

 

サイオンは携帯電話をポケットから取り出し、電話で通話し始める。

 

数分後、サイオンは携帯電話の通話を切り、

 

 

「……最深部に入られた痕跡が見つかった」

 

 

「……彼、本当にありえないわね」

 

 

「全くだ。300人掛かりで警備していたにも関わらず、入られている始末。組織も大慌てだ。見つけるのも足跡だけとなると……いや、やめておこう」

 

 

サイオンの声音は低く、少し残念そうだった。麗も額に手を当てて疲れていた。

 

 

「ドイツに高速移動旅客機を呼んでやる。急いでドイツに向かうぞ」

 

 

「そうね。急ぎましょ」

 

 

車のスピードはさらに上がり、目的地———ロシア軍の基地へと急いだ。

 

 

________________________

 

 

 

ロシア軍の武器庫で銃や弾薬の補充をしていた。何百を超える銃が壁に備え付けられ、山のように積まれた弾薬箱がある部屋は火薬の臭いが強かった。

 

ティナは一人で自分が使うスナイパーライフルを選んでいた。

 

しかし、集中できていなかった。

 

 

『すまないティナ。全てが終わったら必ず迎えに行く』

 

 

『どうして……ですか……』

 

 

『俺はもう、人を傷つける化け物だ』

 

 

「ッ……」

 

 

頭の中で繰り返される言葉にティナは目を伏せる。病院で言われた言葉が心を揺さぶり、苦しめられていた。

 

 

(大樹さん……あなたは化け物なんかじゃありません)

 

 

証明したい。でも自分は結局足手まといだった。

 

強過ぎる。大樹さんが。

 

敵も同じくらい強い過ぎる。

 

今まで戦って来た者達とは比べモノにはならないくらいに。

 

強くならならなければならない。強くならなければ彼を救えない。

 

ガストレア因子を宿した私たちを助けてくれたこの恩は———!

 

 

「ッ!?」

 

 

その時、ティナは大事なことを思い出してしまった。

 

すぐに外に出て、ある人物を探す。

 

 

「麗さん!」

 

 

「ん? ティナちゃんだったわね?」

 

 

煙草を咥えながら銃の整備をする麗。ティナは駆け寄り、すぐに尋ねる。

 

 

「回収した私たちの荷物はまだありますか!?」

 

 

「荷物に大事なモノでも? それならさっき61番倉庫に運ばれたわ。中は出しているからすぐに分かるはずよ」

 

 

麗が指を差す方向には『61』と大きく書かれた建物があった。ティナは急いでその倉庫へと走る。

 

扉を開き、壁についていた電気のスイッチをオンにして中を明るくする。

 

目的の物はすぐに分かった。中に入った瞬間、目の前に自分の汚れたライフルケースが置いてあった。

 

中を開けると、そこには自分が使っていたライフル、銃弾、小道具。そして、

 

 

「浸食抑制剤……!」

 

 

小さな銀色のケースに入った浸食抑制剤を発見した。中を開けて、無事かどうかを確認すると、しっかりと注射器と液体が入っていた。

 

これで一安心……と言いたいが、そうはいかない。スナイパーライフルはヒビが入って壊れており、使いモノにはならなくなっている。正直ショックだ。

 

 

「大事なモノは見つかった?」

 

 

背後から麗の声が聞こえた。ティナの様子を見に来たようだ。

 

 

「はい……一応」

 

 

「それは良かったわ。上に感謝しておきなさい。あと回収した兵士にね」

 

 

それにしてもっと麗は付け足す。

 

 

「変な指令だったけど……やって良かったわ」

 

 

「変な指令、ですか?」

 

 

「そ。上から伝達通知が届いたのよ。重要な物が入っているから荷物をいち早く回収しておけってね。何でこんな面倒なことをするのか疑問に思っていたのだけれど———」

 

 

「待ってください」

 

 

麗の説明をティナが途中で止めた。

 

 

「その伝達通知……本当に上から来たモノですか?」

 

 

「……どういうことかしら?」

 

 

「私の予想が合っていればその伝達は偽物だと思います」

 

 

「……まさかこれも彼の仕業ということかしら?」

 

 

「これは私にとって大事なモノです。命に関わることなので」

 

 

「……イギリスのシステムに簡単に侵入できるなら考えられるわね」

 

 

麗はふぅっと息を吐き、難しい表情をした。

 

 

「分からないわね。ここまでしているのに、どうして彼はあなたたちに姿を見せないのかしら?」

 

 

「……見せられないのですよ」

 

 

ティナは壊れたライフルに触り、目を瞑った。

 

 

「また一人で抱え込んで……苦しんでいます」

 

 

________________________

 

 

 

【大樹視点】

 

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 

息を荒げながらコンクリート製の壁に寄り掛かる。

 

誰もいない廃墟ビル。この建物に入るには複雑な道を通らなければ不可能。警察の目を欺くには最高の場所だった。しかし、外はパトカーのサイオンがガンガン聞こえて騒がしい。

 

 

「ホント、容赦無く撃ってくれるなアイツら……」

 

 

こっちは鬼の力に押し潰されそうになっているっていうのに……ドイツの警察は酷い人たちだ。

 

空を飛べばすぐに目的地に着くのだが、力を使うと体力の消耗が激しく、鬼に食われそうになってしまう。なので今は休息を取り、回復している。

 

汗が染み込んだ白衣を脱ぎ捨て、カッターシャツのボタンを開けて涼しくする。

 

バッグから病院から盗んだノートパソコンを乱暴に取り出し、電源を入れる。

 

 

(さすがロシア軍。すぐに回収してくれたか)

 

 

雪山で荷物を全部回収できないだろうと踏んでいたが予想外なことに全て回収していた。

 

偽の伝達通知を軍に送ったが特に疑われなかったな。

 

 

(これでティナの浸食抑制剤の問題はしばらくは無くなった……)

 

 

薬の数は確か残り6個のはずだ。時間は増えたが有限ではない。早く済ませることが大事だ。

 

 

(それにこうしている場合じゃねぇよな……)

 

 

遠山はアメリカにいるとカツェは言っていたが、アメリカの前に行く場所ができた。一刻も早くその場所に行かないといけないのに、行く手段が見つからない。

 

行く場所———それはイギリスだ。

 

イギリスには捕まってはいけない人間が捕まっている。

 

アリアの母である『神崎 かなえ』だ。

 

偶然サイオンの持っていたモノから情報アクセスキーを入手し、コピーしてイギリスのネットワークに侵入した。その時に知ることができたのだ。

 

 

(舐めた真似してくれるじゃねぇか……クソッタレ共が)

 

 

ドクンッ……!

 

 

「ッ……駄目だ……落ち着け俺……!」

 

 

胸に手を当てて呼吸を整える。

 

殺意や怒りは鬼が好む。恐怖や絶望は鬼が武器にする。

 

感情を持つな。無心で全てを終わらせろ。自分でありたいなら。

 

だが正義は鬼の心だ。狂った正義に憑りつかれないようにしないと……。

 

 

「誰だ!」

 

 

「ひゃうッ!?」

 

 

部屋のドアから聞き耳を立てている人物がいた。集中し過ぎて全く気付かなかった。

 

驚いた声からして女。俺は急いでドアを開けると同時にコルト・ガバメントを引き抜いた。

 

 

「こ、殺さないでください……!」

 

 

「は?」

 

 

今度は俺が驚く番だった。震えながら命乞いをする女性にではない。言葉だ。

 

ドイツ語でもなければ英語でもない。日本語だったからだ。

 

 

(全然違和感のない流暢(りゅうちょう)な日本語……日本人ではないよな?)

 

 

綺麗な白髪に近い長い金髪。エメラルドの瞳は日本人では絶対にありえない。

 

白いブラウスに紺色のスカート。胸の大きい綺麗な女性。それに……!?

 

 

「お前……武器は持っていないのか?」

 

 

「あ、ありません……リサは手紙を届けに来ただけです……!」

 

 

「手紙? というかお前は誰だ? どうして俺の居場所が分かった?」

 

 

我ながら質問が多いと自分でも思うが、それだけ俺には余裕が無かった。

 

 

「私はリサ。リサ・アヴェ・デュ・アンク」

 

 

(やっぱり日本人じゃないか)

 

 

ホント、日本人より使いこなした日本語だった。

 

 

「イ・ウー残党主戦派(ダイオ・イグナテイス)眷属(グレナダ)代表戦士(レフェレンテ)の一人です」

 

 

「何だと……?」

 

 

世界征服しようとした超武闘派のメンバーが目の前にいる。俺は警戒心をより一層高めた。

 

 

「手紙は、ここにあります」

 

 

リサの手には一通の封が施された手紙が握って合った。『親愛なる友 楢原 大樹へ』と気持ち悪い言葉が書かれている。

 

リサは俺に向かって差し出す。俺はリサを警戒しながら手紙を受け取った。

 

封を切って一枚の紙を広げて黙読する。

 

 

「……………なるほどな」

 

 

リサが俺の場所を分かった謎も解けた。そして、こんな場所でゆっくりしている場合じゃないことも分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シャーロック・ホームズ より』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の一文。その一文で全てを理解できた。

 

 

(やっぱり生きてやがるか……あのクソ探偵)

 

 

聞きたいことは山ほどある。それにアリアや緋緋神の手掛かりを絶対に持っているはずだ。

 

バッグにパソコンを詰め込み、バッグを背負った。もうここで休んでいる暇はない。

 

 

「あの……どこへ?」

 

 

「……お前が知る必要はないだろ」

 

 

「ですが……」

 

 

(……ヤバいな。どう振り切ろうか)

 

 

手紙にはリサを連れて目的地に行かなきゃならないって書いてあったが……正直、勘弁して欲しい。

 

 

「お前はこれから家に帰って次の任務に備えて待っていろ」

 

 

それっぽい嘘で誤魔化す。それしか思い浮かばなかった。

 

だが、リサは困った顔で俺に、

 

 

「て、手紙にはリサを連れて行くことが書いて……」

 

 

(先回りされてるじゃねぇかちくしょう!)

 

 

どうやら手紙はリサが既に読んでいたようだ。

 

 

「か、書いてねぇよ。それより人の手紙を読むのは良くないんじゃねぇのか?」

 

 

「ち、違います! リサ宛の手紙です!」

 

 

(そっちかぁ……!)

 

 

会ってもいないのにシャーロックに完全敗北した瞬間である。

 

 

「……だが俺はお前を連れてはいけない」

 

 

俺は首を横に振って拒否した。

 

鬼の力がいつ暴走するか分からないそんな状況で、行動を共にするのは無理だ。

 

 

「楢原様の邪魔は決していたしません! リサを連れて行ってください!」

 

 

「……どうしてそこまで、俺について来ようとする?」(とりあえず『様』はスルーでいいか)

 

 

「……リサは御影(ゴースト)から逃げて来ました」

 

 

リサは俯きながらゆっくりと話し出した。

 

 

眷属(グレナダ)と同じように御影(ゴースト)の組織は酷いです」

 

 

「酷いって何がだよ」

 

 

「あの方々は平気で人を乱暴に扱います。全身が傷だらけになっても、彼らはリサたち労働を強いります」

 

 

当然……というのは少し違うか。だが敵を奴隷にして働かせるのは普通だろう。御影(ゴースト)にとってそれは間違っているが、間違ってはいない。

 

 

「だったら一人で逃げろよ。俺を巻き込むな」

 

 

「ッ……!」

 

 

俺の拒絶した言葉にリサは下唇を噛み、泣きそうな表情になった。

 

やめろ。今の俺は無理だ。何一つ救うことはできない。

 

 

『目標を発見しました』

 

 

その時、俺の背後から無機質な機械声が聞こえた。

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

そして、壁がぶち破られた。

 

コンクリートの壁は粉々になり、壁の奥から砂煙と共に姿を現す。

 

 

「なッ……!?」

 

 

現れたのは銀色の金属スーツに身を包んだ人。赤いヘルメットのようなモノを装着し、こちらを見ていた。

 

『人』の気配や殺気は無い。これは機械———ロボットで間違いないだろう。

 

 

「敵……みたいだな」

 

 

俺はリサを庇うように前に立つ。ドイツの警察はこんなモノまで用意していたのか?

 

 

「そ、そんな……逃走ルートは守ったのに……!」

 

 

リサが怯えながら銀色の人型を見ていた。違う。これは御影(ゴースト)の差し金か。つまり、姫羅の———!

 

 

ドクンッ……!

 

 

(ッ……ヤバい、また鬼になりかけたな……!)

 

 

俺は胸を抑えながら息を整える。

 

銀色の人型はゆっくりと俺に近づき、

 

 

『対象の保護と対象の抹殺を開始します』

 

 

ダンッ!!

 

 

銀色の人型は一気に俺との距離をゼロにした。右手の拳が俺の目の前まで迫る。

 

 

「効くかよ」

 

 

バシュッ!!

 

 

銀色の人型の右手が宙を舞った。

 

大樹の背中から四つの黒い光の翼が広がり、一枚の翼が敵の肩から引き裂いた。

 

 

バシュッ!! バシュッ!!

 

 

敵に時間は一切与えない。翼を動かし、敵の右足、左腕を引き裂いた。

 

 

「終わりだ」

 

 

バシュンッ!!

 

 

黒い光の翼から何十本の黒い剣が出現し、銀色の人型に突き刺さった。

 

銀色の人型はコンクリートの壁に釘付けにされ、動かなくなる。

 

 

「……………」

 

 

これが今の自分の力。

 

圧倒的強さで敵を薙ぎ払う。もう俺が失うことは無い。

 

 

「おい」

 

 

「ッ!」

 

 

俺がリサに声をかけると、ビクッと体を震わせた。相当怖がられているな俺。

 

鬼の角が生えていれば怖がられる。当たり前か。

 

 

「見ろ。俺は正真正銘の化け物だ。それでも俺と一緒に来るのか?」

 

 

嫌な言い回しだと自分でも思う。だがここまでしないと彼女は諦めてくれないと思った。

 

リサは両手を胸の前で握り絞め、震えていた。ただ黙っているだけ。何も答えてはくれない。

 

見ていられなくなった。リサが怖がっている姿を見たくなくなり、俺は振り返って部屋を出ようとした。

 

 

「待ってくださいッ!」

 

 

しかし、リサが俺の腕を掴んで止めた。

 

 

「い、イギリスの本国にどうやって侵入するおつもりですか?」

 

 

「……普通に入る」

「正面突破では神崎 かなえ様は救えません」

 

 

「ッ……!」

 

 

俺の言葉にリサが重ねて来た。下唇を噛み、リサを睨む。

 

 

「お前の指図は受けねぇぞ」

 

 

「イギリスにハッキングしたことはもうバレております。すぐに厳重に監視されることでしょう」

 

 

「なッ!? 何でお前がそれを……!?」

 

 

おかしい。例えハッキングがバレたとしても、どうしてリサが知っている?

 

……おかしいことはまだあった。リサ宛の手紙ってまさか……!

 

 

「シャーロック……! また余計なことを……!」

 

 

全部推理されているのかよ……!

 

俺はしばらく考えた後、

 

 

「……分かったよ。お前を連れて行く」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、リサの表情が嬉しそうになった。そこまで嬉しいか普通?

 

 

「とにかくここから逃げるぞ。このロボが俺たちの場所を特定したはずだ。すぐに増援が来るぞ」

 

 

「ッ……!」

 

 

俺の言葉にリサの表情が暗くなる。表情がコロコロ変わって申し訳ない気持ちになるな。

 

 

「……下に集まって来ているな」

 

 

人の気配がある。耳を澄ませば音や会話も聞こえて来る。ドイツの警察……あの銀色の人型は来てないようだな。

 

 

(いや、どこかで待ち伏せしている可能性もある)

 

 

今までの戦闘から俺はかなり弄ばれている。また姑息な手段を使って来るに違いない。

 

俺は翼を広げてリサを例の如くお姫様抱っこした。おんぶでも良かったがバッグを背負っているせいで無理だ。

 

 

「あッ……」

 

 

頬を赤くして恥ずかしそうに顔を伏せた。

 

だが俺は気にせずリサを抱いたまま銀色の人型が開けた穴に向かって走り出した。

 

 

「飛ぶぞ」

 

 

「え?」

 

 

そして、翼を大きく広げて空を飛んだ。

 

ドイツの街に女の子の悲鳴が響き渡った。

 

 

________________________

 

 

 

現在時刻 18:00

 

 

 

「リサッ! 絶対に手を放すなよ!」

 

 

「は、はいッ!!」

 

 

ゴォッ!!

 

 

黒い翼を羽ばたかせて加速する。

 

 

ゴオオオオオォォォ!!

 

 

しかし、俺を追う銀色の人型も足に付いた小型ジェット機の吹き上がる炎の勢いが上がった。

 

空を飛んでオランダまで飛ぼうとしていたらやはり妨害があった。

 

俺の進行方向には既に銀色の人型が何十体も待ち構えていた。しかも今度は武器を持っている。

 

 

ガキュンッ!! ガキュンッ!!

 

 

後ろから熱光線のような赤いビームが飛んで来る。翼を巧みに操り熱光線を回避する。

 

 

(クソッ、これ以上速度は上げれねぇ!!)

 

 

このままだとリサが持たない。空気に押し潰されてしまう。

 

ならこれ以上逃げ回るのはやめよう。

 

 

「お前ら……全部……」

 

 

身体を反転させて銀色の人型を睨む。

 

そして、背中の黒い翼から何千もの剣が生まれる。

 

 

「スクラップにしてやる」

 

 

ゴオオオオオォォォ!!

 

 

何千もの黒い剣が一斉に射出された。

 

 

「【魔炎・獄滅(ごくめつ)燦爛(さんらん)】」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

銀色の人型を次々と粉々にする。持っていた武器すら灰に変えて塵を残さない。

 

空が黒炎に包まれ、悪夢を見ているかのような光景を生み出していた。

 

 

「……………ッ」

 

 

 

 

 

何笑っているんだ俺は?

 

 

 

 

 

おかしい。何で今、俺は笑ったんだ。

 

気持ち悪い自分の行動に反吐が出る。

 

 

「な、楢原様……」

 

 

「ッ……悪い。無理をさせたな」

 

 

「い、いえ……それより目的地はあの灯台です」

 

 

……もうオランダに着いたのか。逃げているうちに、いつの間にか着いていたようだ。

 

俺は近くの路地裏にゆっくりと着地し、リサを下ろした。

 

 

「楢原様のあの力は……竜悴公(ドラキュラ)・ブラドさんと同じ力ですか?」

 

 

「……違う。俺の力はもっと強い吸血鬼から貰った力だ」

 

 

そう言えばリサは元イ・ウーだったな。

 

 

「というか様付けはやめろ。何で様なんか付けるんだよ」

 

 

「そ、それは……楢原様が私の勇者様かもしれないからです……」

 

 

「………………………………………………………………………………………………………………………は?」

 

 

凄い。頭って本当にフリーズするんだな。

 

 

「私の一族———アヴェ・デュ・アンク家の女は代々、それぞれ勇者様……武人に仕えて、戦乱の時にも傷付くことなく生き抜いて来ました」

 

 

「そ、そうか……」

 

 

「真心を込めて武人に尽くし、その御方にとって有用な女となり……そのご寵愛(ちょうあい)をいただいて、生きて来たのです」

 

 

……何だろう。複雑なご家庭ですね。

 

 

「日本語で分かりやすくまとめますと、『便利な女』を極めた一族です」

 

 

「リサ」

 

 

「はい?」

 

 

「その言葉は禁止な」

 

 

「は、はぁ……?」

 

 

この子、危ないわ。何てことを言っているのだろう。

 

 

「というか何で俺が勇者様だよ。初対面だろ?」

 

 

今更気付いたが俺がその勇者様だとリサに寵愛しないといけないのだが?

 

 

「楢原様のことはずっと前から知っていました。とても勇敢な方で、優しさが溢れた魅力的な殿方だと———」

 

 

(尾ひれどころか鱗や背びれ、さらには羽根までついた噂だなオイ)

 

 

真剣に俺のことを語られるとさすがに恥ずかしい。俺はリサの頭をポンと手で軽く叩いた。

 

 

「もういいから行くぞ。灯台に行くんだろ?」

 

 

俺はそう言って無理矢理話を終わらせて歩き出す。リサは少し不満そうな顔をしたが、すぐに俺の後をついて来た。

 

路地裏から大通りに出ようとしたが、やはり目立つのは良くない。別の路地裏の道を使うことにした。

 

 

「そもそも灯台に行く理由は何だ? イギリスに行くならドイツからでも良かっただろ?」

 

 

「今のイギリスは師団(ディーン)眷属(グレナダ)のどちらでもありません。御影(ゴースト)の方が影響が強いでしょう」

 

 

「……どうしてそこまで分かる?」

 

 

「先程楢原様が戦った敵の動きからしてイギリスの港や空港はすでに抑えられていると考えて良いでしょう。その監視を欺くには密漁を行っている人たちの力を借りるのが得策だと考えました」

 

 

「密漁船に隠れて侵入するのか……」

 

 

い、意外と頭がいいぞリサ……!? 少し予想外だ。

 

 

「しかし、まず密漁船がいるかが問題になるのですが……」

 

 

「それより力を貸してくれるかどうかの問題じゃねぇのか?」

 

 

「それは大丈夫ですよ、楢原様」

 

 

リサはそう言ってニコニコと笑っていた。

 

 

「……ただ者じゃなさそうだな」

 

 

シャーロックが寄越した人だから凄い人だと思っていたが……多分、凄いな。

 

 

 

________________________

 

 

 

灯台の近くにある船着き場にはリサの予測通り密漁船が停泊していた。

 

俺が話をつけようと(力と言う名の正義)したが、リサが一人で何とかすると言い出した。

 

リサにやらせるのは気が引けたので止めたが、リサも中々強情だった。全く譲ろうとしなかった。

 

結局リサ一人で密漁船に行き、密漁者と話を始めた。俺は物陰から見守り、いつでも飛び出せるようにしていたが、

 

 

「楢原様! 乗船の許可を貰いました!」

 

 

マジかよ。

 

リサは笑顔でこっちに駆け寄り———!?

 

 

「お、おい! 走るな!」

 

 

「ど、どうしてでしょうか!?」

 

 

揺れるからだよ!とか言えねぇ……!

 

 

「と、とりあえず走るな。いいか?」

 

 

「は、はい……?」

 

 

「そ、それよりどうやって話をつけてきた?」

 

 

リサは懇切丁寧に一から最後まで話してくれた。

 

 

「み、密漁の手伝いか」

 

 

「それで手を打ってもらいました」

 

 

「……凄いな。どんなことを言ったらそうなるんだ」

 

 

「簡単ですよ。密漁していることを警察に言わないことを約束すれば相手の警戒心が無くなって契約しやすいのですよ」

 

 

「……本当に頭良いな」

 

 

俺は密漁船に近づくと、密漁者のおっちゃんが元気よく『よろしくな!』とか言って来た。ホント、馬鹿なのかいい人なのか分かんねぇ。いや密漁しているから駄目な人か。

 

小型船に乗り込み、後方の手すりに背を預ける。

 

こうして俺たちの密漁旅行が始まった。

 

 

 

 

 

同時に、『先を行く者たち』と『先を追う者たち』の物語が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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