どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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オンライン

達人たちに

ボッコボコ


最近の出来事を俳句にしてみると面白いですね。絶対に今度は敗けない……!



Scarlet Bullet 【対立】

「……………」

 

 

車の一番後ろの後部座席には一人の男が死んでいた。本当に死んではいないが。

 

【神格化・全知全能】からの【神の加護(ディバイン・プロテクション)】を使った大樹。二倍の痛みがさらに二倍。さすがの大樹も耐え切れず失神。最後の言葉は『少し寝る』と言った。白目を剥いて寝ているが。

 

この車は理子が近くの建物に隠していたモノだ。六人乗りの車だ。

 

あの大災害のような火事や落雷。警察や消防車、武偵がすぐに来るかもしれないのでヒルダを置いてすぐに逃げ出した。そして、移動中、車の中で大樹は死亡。死んでいないが。

 

運転しているのは理子。女子席には夾竹桃。その後ろではティナが死んだ大樹を膝枕していた。

 

 

「外傷はどこにもない。なのに痛みで失神ってどういうことよ」

 

 

「うーん、だいちゃんだから?」

 

 

「やっぱりそれで納得してしまうのね」

 

 

しかし、夾竹桃もそれで納得していた。

 

 

「あの……これからどこへ?」

 

 

少し不安になったティナは勇気を振り絞って尋ねる。

 

 

「あ!ティナちゃんだったね!初めまして!理子りんって呼んでね!」

 

 

(大樹さんの知り合いはどうしてこんなにキャラが濃いのでしょうか……)

 

 

理子の陽気な自己紹介はティナを不安にさせるだけだった。

 

 

「学校に向かっているんだよ」

 

 

「が、学校ですか?」

 

 

「そう。武偵高校の装備科(アムド)に行くんだよ」

 

 

「あむ……ど……?」

 

 

聞いたことのない単語にティナは首を傾げる。

 

 

「というかこの子、アンタより強いわよ」

 

 

「えぇ!?理子より強い幼女なんてアリアくらいだよ!」

 

 

(あれ?アリアさんって高校二年生でしたよね?)

 

 

大樹から聞いた話と違ったティナは混乱しそうになった。

 

 

________________________

 

 

 

【大樹視点】

 

 

「はッ!?」

 

 

目が覚めると知らない天井……じゃねぇ!?床だ!床じゃん!俺、アスファルトとキスしてる!

 

急いで起き上がると、近くに車が止まっており、街灯が少ない夜道だった。

 

ブラドの屋敷じゃねぇな……どこだここ……?

 

 

「大樹さん?起きましたか?」

 

 

懐中電灯を持ったティナが俺の顔を照らす。眩しくて目を細めてしまう。

 

 

「な、何で俺は外で寝させられているんだ……」

 

 

「車は放棄するらしいですよ。大樹さんは邪魔になったので降ろしました」

 

 

邪魔……っておい。

 

 

「……もういいや。いつものことだし」

 

 

「納得するんですか……」

 

 

慣れた。

 

 

「だいちゃん!」

 

 

「おう、理子。耳は大丈夫か?」

 

 

「問題ないよ!」

 

 

理子の耳は白い布が当ててあり、一応大丈夫みたいだな。だけど、

 

 

「何故抱き付いた」

 

 

「んー?いつもみたいに照れないね?」

 

 

「ハッハッハ、この程度で俺が動揺するわけがないだろ」

 

 

おいやべぇって!!柔らかいの当たってるって!どうしよう!?マジでどうしよう!?この体制はアカンよ!

 

 

「でも心臓がバクバクなってるよぉ?」

 

 

理子は俺の胸に耳を当てている。毎回バレるの早いな。

 

 

「はぁ……参った参った。はやくどいてくれ」

 

 

「やだ」

 

 

「いつまでこうしているつもりだよ。俺には時間が―――」

 

 

「放したら……またどこかに……行くんでしょ?」

 

 

理子の小さな声はしっかり聞こえた。

 

 

「アリアだよね……」

 

 

「……ああ」

 

 

「そっか」

 

 

理子は抱き付くのをやめて立ち上がった。

 

 

「じゃあ助けないとね」

 

 

「……悪い」

 

 

「いいんだよ。でも―――」

 

 

妖艶な笑み。見惚れてしまうような笑顔で理子は俺の唇を人差し指で触れた。

 

 

「―――いつかだいちゃんをアリアから盗むから覚悟してね」

 

 

……これはこれは、可愛い大怪盗さんに目をつけられたな。

 

 

________________________

 

 

 

「痛い。ティナ、痛いよ」

 

 

「どうして大樹さんはそこまで女たらしなんですか……」

 

 

俺の腕をつねるティナ。ご機嫌はやっぱり斜めです。

 

武偵高校の近くの道路。そのマンホールから下水道を俺たちは歩いていた。もちろん、正面から入ったら武偵にハチの巣にされてしまうからな。

 

 

(それより……何だこの状況……)

 

 

ティナが俺の右腕をつねる。理由は左手に抱き付いた理子が原因かと思うが……何故こうなった。

 

 

「あら?私はどこに抱き付けばいいのかしら?」

 

 

「これ以上事態をややこしくしないでもらえますかね、夾竹桃さん?」

 

 

ほらティナの握る力が強くなった。

 

右腕の痛みと左腕の柔らかい感触に耐えながら進むと、理子は足を止めた。

 

 

「ここだよ」

 

 

下水道の脇に扉を発見。開くと梯子(はしご)があった。天井にはマンホールのような蓋がまたあった。あの先に行くのか。

 

 

「何で装備科(アムド)に行くんだよ」

 

 

「だいちゃん、武器はある?」

 

 

「拳だッ!!」

 

 

シーン……

 

 

「……文句あるならかかって来い」

 

 

「どうして構えるのですか……」

 

 

ティナは呆れた目で俺を見ていた。

 

 

「そもそもだいちゃん、裸だしぃ~キャー!」

 

 

「これ寒いんだよ!?何か服くれよ!?」

 

 

上半身裸です。ズボンも所々焦げてしまい、パンツが見えてしまっている所もある。いや~ん!

 

 

「行きましょ」

 

 

夾竹桃は何事もなかったかのように梯子を上った。マジかよ。スルーかよ。

 

マンホールを開けて中に入ると、そこは倉庫のような場所だった。

 

棚にはアサルトライフルやスナイパーライフル。拳銃や銃弾が入った弾薬箱が並べてあった。

 

 

「あー!やっと来たのだ!」

 

 

「お、お前は平賀(ひらが) (あや)!装備科でランクはAだが、Sランクの実力があると言われる天才少女!」

 

 

「自己紹介お疲れ様です」

 

 

ティナに分かるように説明してやったぜ。

 

ショートカットの髪を左右の耳の脇でまとめた髪型。143センチという小柄な身長の平賀が腰に手を当てて頬を膨らませていた。

 

 

「遅いのだ!」

 

 

「わ、悪い……って俺は何も事情を知らないのに何で怒られているんだよ」

 

 

平賀に怒られる理由が分からないっす。

 

 

「というか平賀、俺は国際指名手配犯だぜ?怖くねぇのかよ」

 

 

「嘘なのだ」

 

 

「へ?」

 

 

「あれは嘘ですのだ。ならはらくんがそんなことするわけないのだ。とーやまくんと仲が良かったことは知っているのだ」

 

 

……そうか。

 

俺のことを信じてくれるのか。ホント、俺は幸せ者だよ。

 

 

「ありがとよ。それで、俺に装備をくれるのか」

 

 

「後払いなのだ」

 

 

「タダじゃないのかよ!?」

 

 

世の中は金なのか!?

 

 

________________________

 

 

 

倉庫は平賀専用の整備室に繋がっていた。部屋はめちゃくちゃに散らかっていたが、俺たちに渡すモノは既にバッグにまとめてあった。

 

 

「ならはらくんには銃を一丁、刀を二本なのだ。全部で295万円!」

 

 

「今度な」

 

 

高ぇなオイ。

 

 

「まずこっちの『コルト・ガバメント』。装弾数は改造して8発。フルオートが可能なのだ」

 

 

平賀の改造したコルト・ガバメントは綺麗な黒い拳銃だった。コルト・パイソンみたいに高速早撃ちはできないが、フルオートなら許してやろう。

 

 

「そしてこっちの二本の刀は一級品のモノなのだ」

 

 

「多分それが295万の8割9割占めているよな?」

 

 

刀を鞘から抜くと、鏡のような銀色の刃が姿を現す。確かにこれはすごいぞ……!

 

 

「次に防弾服なのだ!」

 

 

「おう。さっさと着せろ。こっちは寒いんだ」

 

 

カッターシャツを着て、防弾制服を着る。ネクタイはいらねぇや。

 

 

「あ……パンツは……ないよな?」

 

 

自分のパンツが大変になっていたことに気付く。さすがに女の子が男子のパンツなんか……。

 

 

「防弾パンツがあるのだ」

 

 

「何だそのパンツは!?」

 

 

ってあるのかよ!?

 

 

「鉄で作ったパンツなのだ。重さなんと10キロなのだ!」

 

 

「重ッ!?」

 

 

結局、防弾繊維が使われたボクサーパンツを貰った。何でも揃ってるな。

 

 

「着替えて来るから覗くなよ」

 

 

「だいちゃん……それは普通理子が言うセリフだよ?」

 

 

「ホント、何でヒロインになってんだ俺」

 

 

「くふふ……覗かないよぉ……」

 

 

「覗く気かよ!?」

 

 

俺は試着室に入った瞬間、一秒も掛からない速さでパンツを穿き直し、ズボンを穿いた。

 

 

「よし!着替えた!」

 

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 

あまりの速さに驚愕を隠し切れない四人だった。男だって見られたくないモノがある。

 

 

「あとは靴なのだ。ターボエンジン付きの靴とキック力増強シューズとあやや特製のスニーカーがあるのだ」

 

 

「だからなんてもんを作るんだお前は!?二番目に関してはコ〇ンじゃねぇか!」

 

 

「ならターボエンジンなのだ!?」

 

 

「普通に走った方が速ぇよ!三番目にしろ!」

 

 

「「ッ!?」」

 

 

俺の発言に平賀とティナがドン引き。理子と夾竹桃は『やっぱり』みたいな反応をしていた。

 

平賀の特製スニーカーは軍人が使う靴より優れているスニーカーだった。丈夫な素材が使われている。

 

平賀の商品が売れたら軍人がスニーカーを履くようになるだろうな。オシャレなスニーカーを履いた軍人。それはそれで怖いな。

 

 

「あとは便利グッズが勢ぞろいなのだ!」

 

 

「これ通販かなんかなのか?」

 

 

だが悔しいことに本当に便利なモノばかりだった。腕時計型麻酔銃とか欲しいわ。俺、コナ〇になる。

 

 

「400万なのだ」

 

 

「高くね!?」

 

 

やめた。

 

理子もいくつか購入。夾竹桃は何も買わなかった。

 

 

「これは……?」

 

 

ティナが何かを発見。銃弾だ。

 

普通の銃弾とは少し違う。これって……!?

 

 

「武偵弾なのだ。それは貰いモノだからタダでいいのだ」

 

 

「はぁ!?」

 

 

「わー、凄い!」

 

 

「まぁ」

 

 

「ぶていだん?」

 

 

俺、理子、夾竹桃の順で驚き。ティナは首を傾げた。

 

白と黒で染色され、刻印がある最強の銃弾。一発一発が特殊機能を秘めており、銃弾職人(バレティスタ)にしか作れないため、高価で希少な銃弾なのだ。

 

さらにこれは一流の武偵にしか流通しない必殺兵器(リーサルウエポン)。これをタダでやるってどんな神経しているんだよ。

 

 

「狙撃ライフル専用の武偵弾だから使わないのだ」

 

 

「よし、ティナ。貰っておけ。二度と手に入らないぞ」

 

 

「は、はい」

 

 

事情を知らないティナ。後でこの銃弾の凄さを教えてやろう。

 

 

 

 

 

そして、俺はこの『()()教える』ことを()()()、後悔した。

 

 

 

 

 

とりあえず俺はワイヤーフック付きベルト、ホルスター、アーミーナイフを貰った。

 

※『アーミーナイフ』は軍隊が制式採用している、戦闘以外の日用的な用途に使用するための多機能な折り畳みナイフのこと。しかし、あやや特製アーミーナイフなので普通のアーミーナイフより多種多様なナイフになっている。でも爪楊枝入れはいらなくね?

 

 

「あとは携帯電話なのだ」

 

 

「サンキュー」

 

 

残念ながらパカパカ開くタイプの携帯電話。パズ〇ラやはモン〇トはできない……。

 

完全武装だな俺。一流武偵より武装してね?

 

理子も夾竹桃も武装完了。ティナもこの世界に来る前よりさらに武装してるし。女の子が怖いよ。

 

俺のリュックは倍重くなったし、人数は()()……これからどうなるのやら。

 

 

「絶対に……」

 

 

その時、平賀が俺の腕を掴んだ。

 

 

「絶対に……みんなを連れて無事に帰ってくるのだ……」

 

 

「……おう」

 

 

俺は平賀の頭をくしゃくしゃ撫でて、倉庫を後にした。

 

 

________________________

 

 

 

状況を整理しよう。

 

俺は国際指名手配犯になった。ふざけんな。

 

理由は遠山とアリアと美琴を殺したからだ。殺していないけど。ふざけんな。(二回目)

 

警察は全力で俺を逮捕しようとするし、武偵は全力で俺を殺そうとしている。武偵落ち着け。ふざけんな。(三回目)

 

言うまでもないが、外国に逃げてもその外国の警察に捕まるだけだ。相変わらず詰んでるな俺。ふざけんな。(四回目)

 

俺の目的は遠山のナイフ。そのためには遠山を探さないといけない。メンドクサイ。(ホントふざけんな)

 

もう怒っていいよね?激怒していいよね?

 

 

「やっぱり仲間が欲しい。平賀以外に仲間になってくれる奴はいないのか?」

 

 

「雪ちゃんは神社に帰っているし、レキュはどこに行ったか分からないよ」

 

 

理子の報告に俺は膝をついた。仲間が一気に二人も減った。一人行方不明なのかよ。

 

 

「ジャンヌは?」

 

 

「『宣戦会議(バンディーレ)』が終わってから見なくなったよ」

 

 

「チッ、それが厄介なんだよな……」

 

 

今、裏で行われているのは極東戦役(FEW)……戦争だ。確か『Far East Warfare』だったはずだ。

 

数多くの組織が争いを起こさなかったのはイ・ウーがいたおかげなのだ。イ・ウーの力は強大で、誰も手を出すことがなかった。つまりイ・ウーがいた時、組織は『休戦』していたのだ。

 

しかし、俺がシャーロックをぶっ飛ばしたことにより『休戦』の平和が崩壊。戦争が再開されたのだ。一番の迷惑野郎は俺でした。

 

 

「それで、状況はどうなっているか分かるか?」

 

 

「キーくんとレキュは『師団(ディーン)』に入ったことしか……」

 

 

「そうか……」

 

 

秘密裏に行われている戦争だからよく知らないのは当然か。怖いったらありゃしない。

 

師団(ディーン)』ともう一つは『眷属(グレナダ)』という連盟があるが……正直『眷属(グレナダ)』の方が戦力が強い。

 

 

「俺の目的は遠山を探すことが一番。戦争なんてどうでもいいが……アイツが絡んでいる時点で絶対に巻き込まれるだろうな……」

 

 

はぁ……遠山、会ったら一発殴ろうかな?多分向うは俺は殴ろうとしていると思うけど……あ、カウンターで殴ろう。俺天才。

 

 

「理子。これからどこに行くんだ?」

 

 

「名古屋だよ」

 

 

「……は?」

 

 

「目的地は『名古屋武偵女子校』と『名古屋武偵男子校』」

 

 

「……すまん。そこまで言われても理解できないんだが?」

 

 

「最初にキーくんの情報を掴んだのは名古屋武偵だったんだよ」

 

 

なるほど。東京武偵より先に名古屋武偵が掴んだのか。やるな、名古屋。

 

 

「というわけで移動の車は車輌科(ロジ)から盗んじゃおう!」

 

 

それでいいのかなー?着々と罪を増やす国際指名手配犯になっちゃうよー?俺が。

 

 

「車なら俺に任せな!」

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

倉庫から出ようとしたその時、一人の男が現れた!

 

 

「変態の武藤(むとう) 剛気(ごうき)だティナ。自己紹介はしなくていい」

 

 

「誰が変態だ!」

 

 

すぐにツッコミを入れる武藤。おぉう!良いツッコミだ!

 

 

「初めまして変態の武藤さん。ティナ・スプラウトです」

 

 

「あ、初めまして。変態の……って違ぇ!!」

 

 

「お?認めたか?」

 

 

「認めてねぇよ!」

 

 

「それで、話は何だ変態?」

 

 

()いてやろうか!?」

 

 

ゴホンッと武藤は咳払いをして、話し始める。

 

 

「車が必要なんだろ?だったら俺が乗せて行ってやる!」

 

 

「俺、次はお前を殺そうと思っているんだが……」

 

 

「ハッハッハ!お前がやってねぇことくらい分かってんだよ!」

 

 

「……………」

 

 

「……だ、黙るなよ」

 

 

「……………ひひッ」

 

 

「ヒィ!?」

 

 

コイツ面白れえええええェェェ!!!

 

 

「なぁ嘘だよな?殺してないよな?」

 

 

「不安になるなよ……さっきの自信はどこに行った」

 

 

こうして、新しいメンバーが増えました。

 

 

________________________

 

 

武藤が用意した車は8人乗りの黒のワンボックスカーだった。

 

確かに広くて快適だが、逃げる時に不便じゃね?まぁ俺が見つからなければ結果オーライだが。

 

高速道路を使い時間短縮。だが、それでも約4時間は掛かる。着くのは朝の7時くらいだ。

 

俺は一番後ろの後部座席で睡眠を取るために寝っころがっていた。武藤は運転、理子はティナに夢中だし、夾竹桃はそんな二人のイチャイチャをスケッチブックに書いていた。夾竹桃は何をやっているんだ。

 

 

「……いるんだろ、ヒルダ」

 

 

小声で話しかけると、椅子の下の影がビクッと動いた。分かりやすッ。

 

俺は起き上がり、リュックから女子の制服を取り出す。

 

 

「服ならここにあるぞ。予備を貰っておいたからな」

 

 

俺が女子の武偵服を影に向かって投げると、制服は影の中に引きずりこまれた。どうせ下着だけだろうな。

 

他の人達に聞こえないように俺はヒルダに話しかける。

 

 

「仕返しじゃないんだろ?仲直りしに来たんだろ?」

 

 

「そ、そんなことはない……」

 

 

ゆっくりと影から制服を着たヒルダが姿を現し、俺の隣に座った。案外似合ってる。

 

足を組まず、礼儀正しく座っている。反省しているのか?

 

 

「ただ、貴族の誇りというか……『師団(ディーン)』の捕虜になってあげてもよくてよ?」

 

 

上から目線かよ。

 

 

「素直じゃねぇな」

 

 

「ふんッ」

 

 

ヒルダは腕を組んだまま、そっぽを向いた。

 

 

「謝れよ。ちゃんと謝れば理子だって許してくれるはずだ」

 

 

「……どうしてそこまで分かるのかしら?」

 

 

「そりゃ理子が優しい子だからに決まっているだろ」

 

 

ちょっと悪戯が大好きな、優しい子。ヒルダも分かっているクセに。

 

 

「俺は寝る。国際指名手配犯とか最悪だよ全く」

 

 

俺は頬杖をつきながら眠った。

 

 

 

________________________

 

 

 

「……………」

 

 

2月7日

 

現在時刻 8:00

 

 

俺は汗をダラダラと流し、この状況に息を飲んだ。

 

 

 

 

 

名古屋武偵に囲まれた。

 

 

 

 

 

何故こうなったのか。時は一時間(さかのぼ)る。

 

無事に名古屋に着いた俺たち。しかし、遠山の情報を手に入れるためにはまず名古屋武偵女子校にハッキングしなければならない。

 

だが、理子一人では情報を盗み出せないし、対応できない。相手は千人以上はいる学校だ。

 

そこで、囮が必要になった。もう察した?

 

囮が名古屋の街で暴れることによって、武偵を街におびき寄せる。その隙に理子たちが侵入&情報を盗む。そう作戦が決まった。

 

そして、囮がこの俺。国際指名手配犯の俺なのだ。

 

 

(超帰りてぇ……!!)

 

 

俺が名古屋武偵女子校の正門を蹴り破って5分後。すごい数に囲まれた。

 

左、右を見ても武偵。後ろ、前を見ても武偵。上を見上げればヘリが飛んでいる。

 

全員に銃口を向けられたこの状況。一秒もあれば俺の体は風穴祭になるだろう。

 

 

α(アルファ)地点到達。順調です』

 

 

耳に付けたインカムからティナの声が聞こえた。α(アルファ)地点って学校の庭じゃね?まだ校舎に入ってすらいないのかよ。

 

 

「そこの犯罪者!!」

 

 

ハイ!犯罪者でしゅ!!

 

俺を呼んだのは黒髪のツインテールの女の子。というか、アリアに似ている。

 

でもよく見たら眉毛とか違う特徴はめっちゃあるけどな。

 

一番ツッコミを入れたいのは制服だ。何だアレ。みんなヘソが見えているわ、スカートの中見えそうだわ、遠山がこの場にいたら血の涙を流していたな。

 

肌が出ているほど(はく)がつくらしい。理由は『私に防弾布は必要ない。撃たれないからだ』って意味があるだからだそうだ。

 

 

「俺は軍紀委員長の(しゃち) 国子(こくこ)!」

 

 

名古屋武偵女子校(ナゴジョ)の二年筆頭だね~』

 

 

理子の解説が耳に聞こえる。筆頭って普通に強いじゃん。何?ツインテールには力が秘められているの?俺、『テイルオン!』したら強くなれるかな?

 

 

「お前は俺の大切な人を!配偶者を殺した!その罪は万死に値する!」

 

 

『そういえばあの子、アリアに告白していたわね』

 

 

何それ夾竹桃さん!?初耳なんだけど!?同性ですよね!?

 

 

『俺を嫁にしろって言っていたわ……はぁ……あの時のことを思い出すとまた……!』

 

 

(きょー)ちゃん、鼻血鼻血』

 

 

何やってんの。

 

 

「すぐに武器を捨てて撃たれろ!」

 

 

撃たれるのかよ!?撃つなよ!降参した人を撃つなよ!

 

さて、時間を稼ぐと言っても何をすればいいのか分からん。話をするのか?

 

 

『だいちゃん!こういう時はポケットに入れてい置いた紙を見てね!』

 

 

だから心読むのやめろ!

 

ポケット?あ、何か入ってる。

 

……………え?するの?マジで?

 

……………はぁ、他に思いつかないし、やるか。

 

 

「一人コント!コンビニ!」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

ここからは大樹が一人二役をやります。

 

 

「いらっしゃいマルセイユ!」

 

 

「何でフランスなんだよ!?ここ日本のコンビニでしょ!?」

 

 

「ご注文がお決まりしたらレジに持って来てください!」

 

 

「知ってるよ!ったく……えーっと、おにぎりとジュースとパンを買おうかな?」

 

 

「おにぎりかパン統一しろよw」

 

 

「うるせぇな!俺の勝手だろうが!笑うなよ!」

 

 

「おにぎり100円セールは昨日で終わりました」

 

 

「いちいち嫌になること報告するな!……んだよこの店員は」

 

 

「山田です」

 

 

「聞いてねぇよ!ほら!会計して」

 

 

「拝啓?」

 

 

「会計!何で手紙出すんだよ!」

 

 

「ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ―――」

 

 

「そんなに買ってねぇよ!何勝手に他の商品読み込んでんだよ!?」

 

 

「お客様。大変失礼ですが、途中から自分の声です」

 

 

「ホント失礼だよ!やめろ!」

 

 

「ジュースは温めますか?」

 

 

「温めるなよ!?」

 

 

「温めさせてください!」

 

 

「何でお前が頼んでんだよ!?」

 

 

「レンジでチンするの面倒なのでホットに変えておきますね!」

 

 

「余計なことするなよ!?あぁもういい!はやく会計しろ!」

 

 

「拝啓?」

 

 

「か・い・け・い!何回言わせるんだよ!?金だ!!」

 

 

「まさか……あなた強盗だったんですか!?」

 

 

「ちがああああああああう!!お客様だ!!」

 

 

「自分のことを様付けするのはちょっと……」

 

 

「ぶっ飛ばすぞテメェ!?」

 

 

「会計が400円になるのでとっととお金を置いて帰ってください!」

 

 

「二度と来るかこんなところ!!」

 

 

「ありがとうございました」

 

 

そして、クソつまらない一人コントが終わった。

 

誰も喋らない。誰も音を立てない。

 

皆口を開けて呆気に取られて茫然としている。銃を落としている子もいる。

 

学校の正門で一人コント。ヤバいな俺。頭がイカレている人だよ。でも一発ギャグやモノマネはもっとすべった気がするからOKだな。

 

インカムから大笑いした可愛い声が聞こえて来る。武藤の爆笑も聞こえるのはムカつく。

 

 

「……………ハッ!?」

 

 

ずっと固まっていた鯱が文字通りハッなる。

 

すぐに二丁の銃を両手に持ち、銃口を俺に向けた。

 

 

「この頭のイカレた変態を撃つぞ!構えろお前ら!」

 

 

ガチャッ!!

 

 

時間、3分くらいしか稼げませんでした。あと罵倒が酷い。泣きそう。

 

銃口が俺に向けられる。わーい、絶体絶命だ。

 

 

「待てぇい!!!」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

その時、俺の背後。正門の方から大きな声が聞こえた。

 

振り返るとそこには大人数の銃を構えた男たちがいた。

 

 

『あ、名古屋武偵男子校(ナゴダン)だ』

 

 

なんですと!?何でここに!?

 

制服が通りで似ていると思ったわ……女子と違って男子は長袖長ズボンだな。男子まで女子と同じ格好だったら最悪だよもう。短パンとか笑ってしまうわ。

 

 

「私の獲物に手を出すな!この痴女どもめ!」

 

 

一番先頭にいた金髪の男が大声で罵倒。貴族のような豪華な装飾品がついている。

 

 

「横取りとはいい度胸だな腰抜け!」

 

 

鯱も負けずに言い返す。金髪の男と鯱が睨み合う。

 

 

『あー、男子と女子は仲が悪いんだよ』

 

 

「何故男子と女子が分けられているのか分かった気がするわ」

 

 

理子も呆れた声で言っている。仲良くしろよ。

 

 

『あの男……【(フラト)】じゃないかしら?』

 

 

「ふらと?名前……じゃないよな?」

 

 

夾竹桃の言葉に疑問を持つ。

 

 

『二つ名よ。彼の剣の閃光が一瞬でも見えたら最後と言われるほどの名古屋と日本が誇る最強の武偵よ』

 

 

『海外留学から帰って来たみたいだね。名前は安川(やすかわ) 刻諒(ときまさ)。三年生で強襲科(アサルト)で将来はRランクが取れる可能性がある人材の実力者だよ。アリア以上の実力だから絶対に強いよ』

 

 

理子の補足説明に俺は嫌な顔をした。ソイツはヤバそうだな。それより喋ってないで早く作業を終わらせろ。

 

 

「どうしましょ……【(フラト)】と鯱が……」

 

 

「勝負は目に見えてるよぉ……!」

 

 

女子たちの勢いが無くなったな。それほど安川が恐ろしい存在に見えるのだろう。

 

 

「はっはっは!鯱よ!ここは引け!さもなくば私がお前を倒すぞ!?」

 

 

「うるさい!俺たちの手柄をホイホイあげるわけないだろ!」

 

 

「……そうか」

 

 

安川は貴族のようなローブを脱ぐと、軍服のような姿になった。安川は腰に差していたレイピアに手を置いた。

 

 

「ならば無理矢理奪わせてもらおう」

 

 

鯱も銃を構え、安川に向かって走り出す。

 

 

「私の一撃を受けるがいい!」

 

 

キンッ

 

 

安川がレイピアを抜いた瞬間、レイピアから閃光が走った。

 

 

ジャキンッ!!

 

 

安川は10メートルの距離を一瞬で詰め、鯱に向かってレイピアで一突きした。

 

その速さはあと少しで音速の域まで辿り着いていた。

 

誰も見ることのできない一撃。皆息を飲んで戦慄した。

 

しかし、

 

 

カキンッ!!

 

 

「おいおい、国際指名手配犯さんをほったらかしにするなよ?」

 

 

既に音速に到達した大樹には見えた一撃だった。

 

大樹はレイピアを足の裏で受け止め、鯱の前に立っていた。

 

 

「「ッ!?」」

 

 

安川は急いで後ろに下がって距離を取る。鯱は俺の行動に目を見開いて驚いていた。

 

 

「下がってろ」

 

 

「ッ……名古屋武偵女子校訓8項ッ!他者の下に敷かれる事まかりならァず!」

 

 

うおッ!?いきなり叫ぶなよ。えっと……俺の言うことは聞かないってか。

 

 

『それには例外が……あるわ……!』

 

 

『また鼻血……』

 

 

『大丈夫よ……アリアと鯱は良かったわ……!』

 

 

もう何がしたいんだ夾竹桃。

 

 

『配偶者の下になら敷かれてもやむなし。これが例外であるわ』

 

 

なるほど。

 

 

「なら配偶者の夫の言うことくらい聞け」(アリアの夫である俺の言うことも聞いてくれるよな?アリアの嫁になりたい鯱さんよぉ?)

 

 

「ッ!?」(俺の夫になるつもりなのか……!?駄目だ!俺にはあの人がァ!!)

 

 

全く噛みあわない二人である。

 

 

「私の一撃を足で止めるとは……やるな犯罪者!」

 

 

「そんなキラキラした目で言われても困るんだが……」

 

 

駄目だ。もしかしたら一番扱いにくい性格の人かもしれない。

 

 

「だが!」

 

 

ガチャッ!!

 

 

安川が右手を挙げると、後ろに控えていた男子武偵が銃を一斉に構えた。

 

 

「この数では突破は不可能だ」

 

 

安川の後ろに控えた武偵の数は50を超えている。さらに遠くから俺を狙う狙撃者やヘリに乗った武偵を合わせるとさらに数が多くなる。

 

 

「ここにいる武偵はランクB以上の武偵……Sランク武偵は私の他に2人もいる」

 

 

へー。

 

 

「だがチャンスをやろう!」

 

 

「は?」

 

 

「せっかく【魔王(まおう)】に会えたのだ。力比べをしてみたいではないか」

 

 

「……………は?」

 

 

ちょっと待て。はい?まおう?誰が?

 

 

『それ、だいちゃんの二つ名だよ』

 

 

「冗談だろ?」

 

 

理子の言葉に俺は信じないぞ!

 

 

『呼んで字の如く、【魔王】のような強さを誇った男だからっていうのが理由らしいよ。宣戦会議(バンディーレ)では絶対に敵に回したくない男で有名ってヒルダが言ってたのを理子、聞いたよ?』

 

 

どうも、【魔王の大樹】です。イタタタタタッ。

 

もう中二病の少年じゃないんだから止めてよ……!

 

 

「それよりお前ら……仕事はどうした?」

 

 

『理子さんが情報をゲットしました。今から武藤さんの車に乗って脱出します』

 

 

「……α(アルファ)地点しか聞いてないよ」

 

 

『……敵に見つかりそうでしたので黙っていました』

 

 

嘘だよね?理子とか夾竹桃とかやりたい放題だったよ?何が起きているんだそっちで。

 

 

「さぁ!かかって来るがいい!」

 

 

前方では安川が生き生きしていた。輝いているなぁアイツ。

 

 

「……じゃあ一つだけ教えておく」

 

 

「何だ?」

 

 

「国際指名手配犯が目の前にいるのに、お前らは女子と協力せず、自分の手柄だけのモノにしようとした。それは駄目だな」

 

 

「……まさか協力しろと?無駄だ。私たちと彼女たちの間には谷より深い溝がある。取り払うことは不可能だ」

 

 

「あーあー、そんな考え方が駄目なんだよ王子様」

 

 

「……犯罪者にダメ出しされるとはな。【魔王】の答え、聞かせてもらおうか」

 

 

「まずその前にお前は、女の子を痴女と言ったな?」

 

 

「あんな肌の多く露出した服、痴女以外に何がある?」

 

 

背後で女の子たちが怒っているのが雰囲気だけで分かる。確かに、お前の言い分は間違ってはいない。

 

 

「あれはな……!」

 

 

俺は告げる。

 

 

 

 

 

「エロ可愛いって言うんだ」

 

 

 

 

 

「「「「「なッ!?」」」」」

 

 

大樹の言葉に女子たちは顔を真っ赤にした。

 

 

「「「「「エロ……!?」」」」」

 

 

ゴクリッと男子たちは生唾を飲んだ。

 

 

「そうだ!エロ可愛いんだ!俺はここに立っているだけで女の子のブラとパンツを何回見たことか……!まさにここは天国のような学校だぞ!お前らはそんな学校と敵対関係でいていいのか!?」

 

 

「「「「「ブラ!?」」」」」

 

 

「「「「「パンツ!?」」」」」

 

 

男子たちは一斉にしゃがんだ。俺も。

 

視線はもちろん女子たち。女子たちも男子の反応に顔を真っ赤にし、スカートと胸を隠した。チッ!!急に恥じらいを持ちやがって……!

 

 

「毎日女の子とイチャイチャしていたいっていう気持ちはお前ら男にはあるだろ……!それとも、お前らはホモなのか?」

 

 

「「「「「違う!!」」」」」

 

 

「だったら答えは決まっただろ!」

 

 

俺は拳を空高く突き上げる。

 

 

「お前らは女の子と一緒に戦い、あわよくば仲良くなってイチャイチャする……それが今のお前らに足りないものだ!」

 

 

「そ、そうだったのか……!」

 

 

「どうりで俺がAランクから上がらないわけだ……」

 

 

「アイツ、いいこというじゃねぇか……!」

 

 

俺の高評価は波紋状に伝わって行く。置いて行かれているのは安川ただ一人。茫然としていた。

 

 

「「「「「大樹!大樹!大樹!」」」」」

 

 

そして始まる大樹コール。男子たちのテンションは最高潮に達した。

 

 

「いいかお前ら!女子と谷より深い溝があるだってぇ?甘えんじゃねぇッ!!」

 

 

俺は告げる。

 

 

 

 

 

「そこに出会いの橋を作るのが、男だろうがッ!!」

 

 

 

 

 

「「「「「うおおおおおッ!!」」」」」

 

 

拍手大喝采。口笛の音も俺を祝福した。大樹コールが未だに鳴りやまない。

 

インカムから理子と夾竹桃の爆笑の声やティナの『後で説教です』という声や武藤の『よく言った!』の声が聞こえる。

 

女子と安川は開いた口が塞がらない状態だ。

 

 

「さぁお前ら!今は銃を捨てろ!片膝をついて誘うんだ!」

 

 

俺たちは片膝をつき、女子生徒たちに向かって手を伸ばす。

 

 

 

 

 

「俺たちと、デートしようぜ!」

 

 

「「「「「デートしようぜ!」」」」」

 

 

 

 

 

そして、女の子たちからゴムの弾丸がプレゼントされた。

 

 

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

「良い学校だった」

 

 

「だな!」

 

 

助手席に座った俺と運転席に座った武藤。お互いに拳をぶつける。また来るぜ名古屋!

 

あの後、混乱に乗じて俺は逃げ出した。女子から一方的な攻撃をスマイルで受け続ける男子の姿はもう忘れないだろう。いろんな意味で。

 

ティナに女性の下着についてクドクドと説教されたが問題ない。次、行こうか。

 

 

「それで、何で安川がいるんだよ……」

 

 

一番後ろの後部座席には足を組んで優雅に座席に座った安川の姿があった。

 

 

「私のことは気にするな。ただの貴族だと思ってもらって結構」

 

 

「それは気にするというより気になるわ」

 

 

「私は君に興味を惹かれてね。私も同行させてもらおう」

 

 

「嫌だ。降りろ」

 

 

「君は遠山 金次を探しているのだろう?」

 

 

安川の一言に、俺は思わず振り向いた。

 

 

「私はその情報を持っている。と言っても名古屋武偵女子校(ナゴジョ)と似た情報だがな」

 

 

「何でお前まで知っているんだ」

 

 

「この情報を見つけたのは男子校と女子校の中立にいる教務科(マスターズ)が入手した情報なんだ。教務科(マスターズ)は俺たちにそれを教え、連携を取って一緒に捕まえようとさせたが……」

 

 

言いたいことは分かった。女子との関係が予想以上にギクシャクしていて、連携なんて取れなかったのだろう。むしろ悪化したんだろうな。

 

 

「私は真実を暴きたい。ついて行っていいかね、大樹君?」

 

 

「知るかよ。とっとと降りろ」

 

 

「なら遠山君の情報を提供しよう」

 

 

「理子が持っているから結構だ」

 

 

「そんな古い情報でいいのかい?」

 

 

「……何?」

 

 

俺は安川の方では無く、理子の方を振り向いた。

 

 

「ごめんねだいちゃん。名古屋武偵女子校(ナゴジョ)はキーくんがコッソリと1月9日に中国に行った記録しかなかった……」

 

 

一ヶ月前の情報か……これは厳しいな。もうどこかに行った可能性がある。

 

 

「私はそこからどこに向かったかの情報がある」

 

 

「……あぁクソッ!分かったよ!ついてくればいいじゃねぇか!」

 

 

折れた。情報がどうしても欲しい俺にとって最悪で最高な取引だった。

 

 

「かたじけない」

 

 

「お前貴族だよな?」

 

 

サムライなの?ござるの人と貴族を間違えていない?

 

 

「私は九州男児だぞ?」

 

 

「貴族じゃねぇのかよ!」

 

 

貴族みたいな装飾品ばっかつけやがって!

 

 

「おいどんはあまり金持ちじゃないでごわす」

 

 

「しかも鹿児島かよ!」

 

 

「違うばい。博多ばい」

 

 

うっぜ!

 

 

「冗談はさておき、遠山君はそのままロシアへ向かったそうだ」

 

 

コイツ、俺をからかったのか?

 

 

「大樹……顔が凄い事になってるぞ……」

 

 

隣で顔色を悪くした運転手の武藤がボソボソと呟く。覚えていろよ安川(やすかわ)

 

それにしてもロシアか………ロシアか………ロシア?

 

ロシアって何かあったか?

 

 

「中国の検問で防犯カメラにギリギリ映っていたよ。隠し防犯カメラにね」

 

 

安川は隠しの部分を強調して言う。はいはい、すごいねー。

 

 

「映ったのは1月15日だが」

 

 

「よぉし!ソイツを追い出せ!銃も金も全部ふんだくって車から追い出せ!」

 

 

理子の情報の日付と変わらねぇよ!何だこの駄目王子様は!?

 

 

「安川……覚悟はできているだろうなぁ……あぁ?」

 

 

「大樹君。そんな無理して苗字で呼ばなくていいから。私と君の仲だ。私のことは刻諒(ときまさ)と呼んでくれ」

 

 

「お前、頭の中にウジでも湧いてんのか?脳ミソ腐っているの?」

 

 

ヤバい。奴の手のひらの上で踊らされている。

 

 

「なぁ大樹。このまま関西国際空港に行くのか?」

 

 

「ああ……ロシアの便があればいいが……」

 

 

「大樹。それは無理だぜ」

 

 

「どういうことだ?」

 

 

「空港は厳重警備が敷かれている。お前が日本にいることが分かった昨日の夜の時点でな」

 

 

まーた俺のせいにする。俺のせいだけど。

 

 

「羽田も同じだろうな。船も使えないと見て間違いない」

 

 

「武藤君。それを打破するのが私なんだよ」

 

 

「え?あ、はい?」

 

 

武藤の目が点になる。さっきから唐突すぎないか?

 

 

「私の権限なら飛行機をどこかに飛ばすことくらい可能だ。無論、君たちの正体は明かされないように上手くやるよ」

 

 

「よくやった刻諒(ときまさ)

 

 

「手のひら返すの早くないか?」

 

 

武藤に呆れられるが問題ない。素晴らしい人材を手に入れた事に……感謝。

 

 

________________________

 

 

 

無事に関西国際空港に到着した。

 

武藤はここで離脱。どうやら国際指名手配犯の俺と行動していることが学校側にバレたらしい。

 

別にバレたことに関してはいい。だけど、武藤がいない間、迷惑をかけてしまう人がいる。

 

 

「すまねぇ……妹が(つづり)に捕まった……」

 

 

武藤の言葉に理子と夾竹桃が顔を真っ青にした。

 

尋問科(ダギュラ)の綴先生は恐ろしい。尋問された者はどんなに口が堅くても、絶対に白状してしまう程。経験者は顔を真っ青にしている。

 

トラウマを植え付けられたり、綴のことを女神や女王と呼んだりする者もいるとか。マジで恐ろしいな。

 

 

「妹さんの代わりに、お前が死んで来い」

 

 

「……………」

 

 

俺がそう言って肩を叩くと、武藤の目が死んだ。可哀想に。誰のせいだろうな。

 

妹も優秀な車輌科(ロジ)の武偵らしい。

 

武藤はワンボックスカーに乗って絶望の帰り旅が始まった。

 

 

「……キンジを救わなかったら轢いてやるからな」

 

 

「……おう。その時は存分に轢いてくれ」

 

 

最後に武藤はニカッと笑い、車を発進させた。

 

しかし、武藤に続いて俺にも災難が襲い掛かって来た。

 

 

ビー!!

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

ブザー音に俺は頬を引き攣らせる。

 

空港で通るタイプの金属探知機に絶対に引っかかる俺。理子、夾竹桃、ティナ、刻諒(ときまさ)は既に終わっていた。

 

しかし、俺は終わらない。これをクリアすれば余裕で飛行機に乗れるのに。

 

刻諒は何度も俺をフォローしてくれた。

 

一回目は『この人は武偵なんだ』とフォロー。

 

二回目は『ベルトだ。次は大丈夫だ』とフォロー。

 

三回目は『制服事態が駄目なんだ。次は絶対に通れる』とフォロー。

 

そして現在、四回目の失敗である。

 

 

「別室で金属探知機を使わせてもよろしいでしょうか?」

 

 

「あ、あぁ……」

 

 

刻諒(ときまさ)は苦笑いで答える。

 

二人の警備員に俺と安川は別室に連れて行かれる。俺はアイコンタクトで理子たちには先に行くよう伝えた。

 

別室はテーブルとイス。壁際には3つのロッカーだけしか置かれていないシンプルな部屋。テーブルには小さな輪がついた棒の金属探知機が置いてある。

 

警備員は金属探知機を持ち、俺の足元から上へと調べて行く。腰、手、胸、首、頭へと。

 

 

ビー!

 

 

金属探知機が頭で反応した。

 

知ってた。最近知ったから分かっていた。

 

とりあえずこの話は後だ。今はこの状況を打破しないと……!

 

 

「すいません……仮面取って貰えますか?」

 

 

俺が付けているのは泣いた仮面。持って来たモノだ。

 

 

「コホォー……息ができなくなるから却下コホォー」

 

 

「余計呼吸ができてないですよね?」

 

 

「おコホォーとわり」

 

 

「お断りって言いたいんですか?」

 

 

警備員が俺の仮面に触れる。

 

刻諒は目で俺にアイコンタクトを送って来た。

 

 

『き・ぜ・つ・ろ・っ・か・ー』

 

 

直訳すると『気絶ロッカー』。意味は『気絶させてロッカーに詰めろ』とのことだ。酷いことを考える。

 

警備員が俺の仮面を外した瞬間、表情が驚愕に変わった。

 

 

「き、貴様は国際指名手配犯の楢原!?」

 

 

「ドーモ警備員さん。楢原 大樹です。というわけで死ねええええええェェェ!!!」

 

 

「「うわあああああぐふッ!?」」

 

 

首の後ろをストンと叩き、意識を刈り取る。

 

警備員の警棒や通信機を奪い、部屋のロッカーに詰めた。すまん。これ少ないけど1万円な。

 

 

「どうして仮面に金属探知機が反応するんだ……」

 

 

「違う。俺の頭が反応したんだよ」

 

 

「ハッハッハ!君の頭は金属かい?」

 

 

「んなわけあるか。俺の頭ん中に金属が入ってんだよ」

 

 

「医療治療に使うプラチナとかかい?」

 

 

「銃弾だ」

 

 

「え?」

 

 

そう、俺の頭の中には銃弾が入っている。気付いたのは気付いたのは本当に最近だ。

 

ティナを救うために【神格化・全知全能】を使い、頭や腕をボロボロになったわけだが、その時に医者が俺の頭をレントゲンで撮った所、一発の銃弾があることが判明した。

 

銃弾は脳の中心に眠っており、取り出すのは至難の業らしい。無理に取ると危ないので放置してある。

 

そして、俺はこの銃弾を知っている。

 

 

(シャーロック……マジでぶっ飛ばす……!)

 

 

頭の銃弾はシャーロック・ホームズに撃たれたあの銃弾しか記憶に無い。むしろそれしかない。

 

あの野郎……最後の最後にとんでもない置き土産をしやがったな。

 

 

(……やっぱ生きてんのかな?)

 

 

アイツがあれで簡単に死ぬとは思えない。いきなり『体はこども、頭脳はシャーロック』とかチビシャーロックとか現れないよな?チート過ぎるだろ。〇ナンと犯人が泣くわ。

 

 

「別に体に害はないからいいけどな。ただ撃った奴が気に食わん」

 

 

「誰なんだい?」

 

 

俺はニヤリと笑いながら刻諒に教える。

 

 

「ムカつく天才探偵様だよ」

 

 

________________________

 

 

 

無事に飛行機に乗ることに成功?した俺たちはまず休息を取ることにした。

 

現在時刻は12時ジャスト。飛行機は離陸し、あとはロシアを目指すだけ。

 

この飛行機は俺たちが貸し切っているので自由に行動できるが、機長や操縦士、キャビンアテンダントに見つからないようにしないといけない。特に俺。

 

自分の部屋に引きこもり、俺はダブルベッドで横になり、睡眠を取ろうとしたが、

 

 

コンコンッ

 

 

「留守だぞー」

 

 

「留守にしたいなら喋らなきゃいいじゃないですか」

 

 

部屋に入って来たのはティナだ。手にはジュースの入ったグラスを二つ乗せたトレイ。

 

 

「飲みますか?」

 

 

「ん」

 

 

俺はティナにジュースを貰い、一気に飲み干す。高級ブドウの味が口の中に広がる。これ、一杯だけで何千円はするな。

 

空になったグラスをテーブルに置き、またベッドに横になる。ティナもベッドに座った。

 

 

「本当に異世界に来たんですね、私たち」

 

 

「ビックリしただろ」

 

 

「えぇ」

 

 

ティナは目を細め、ジュースの水面に映った自分の顔を見る。

 

 

「羨ましい世界です」

 

 

ティナの言うことは分かる。ティナの世界に『平和』なんて文字は絶対にないような世界だ。

 

彼らがこの世界を見たら、きっとこの世界は『平和』に見えるのだろう。

 

しかし、この世界の住人に『この世界は平和か?』と尋ねたらほとんどの者が『平和じゃない』と答える。世界のどこかで戦争や犯罪が起きている。だから平和じゃないっと理由を持って答える。

 

だがあの世界は違う。あの世界は毎日自分の命の危機に晒されている。今だって東京が壊滅するかもしれない危機に直面しているのだ。

 

この世界にそんな危機は直面しない。だからティナは……彼らはこの世界は平和だと言う。

 

 

「ティナ、お前が望むならこの元の世界に帰らなくてもいいんだぞ」

 

 

「……それこそ、私は望みません」

 

 

「何でだ」

 

 

「友達を見捨てたくありません」

 

 

ティナはグラスをテーブルに置き、俺の手を握った。

 

そうだ。この希望だ。まだあの世界は救える。ティナが言うように、美しいモノがまだあるはずなんだ。

 

 

(……………?)

 

 

じゃあこれは?心の中にポッカリと空いたような嫌な感覚は。

 

 

 

 

 

俺は……分かっていないのか?

 

 

 

 

 

「大樹さん?大丈夫ですか?」

 

 

ティナは何も答えない俺の顔を覗き、心配そうな表情で見ていた。俺はすぐに平然を装う。

 

 

「……少し眠くなって来ただけだ。心配するな」

 

 

「そうですか」

 

 

「そういや朝に寝るっていう生活リズムはやめたんだったな。まぁ無理して寝る必要はない」

 

 

ティナは俺たちと同じ時間を生きたいという涙が出てしまう程の感動的な理由で生活リズムを改良している。優子が泣いて喜んでいたのを思い出されてしまう。

 

 

「一緒に寝ます」

 

 

ティナは俺の隣に寝っころがり、俺の腕に抱き付いた。

 

 

「大樹さんと一番、一緒の時間を過ごしたいです」

 

 

それ、優子に言ったら泣くからな?というか告白に聞こえちゃうからやめてね?

 

 

 

________________________

 

 

 

バンッ!!

 

 

「大変だ大樹君」

 

 

ノックも無しで部屋を開けて入って来たのは血相を変えた刻諒(ときまさ)だった。声のトーンが普通と変わらないんだが。

 

ドアの音で俺は目を覚まし、起き上がる。

 

 

「って何だこの状況」

 

 

俺の隣にはティナが寝ている。これはいい。だが理子と夾竹桃も寝ていることが解せぬ。

 

 

「まぁいい。それで、どうした?」

 

 

ここで『まぁいい』とすぐに切り替えて言えた俺は常識が無いだろうか?

 

 

「ロシアに行けなくなった。私たちが警備員をロッカーに詰めたのがバレてしまった」

 

 

そりゃバレますわ。

 

 

「このままロシアに領空に入ったら撃ち落されてしまう。今から北京首都国際空港に緊急着陸する」

 

 

「ロシアが駄目なら中国もダメじゃないのか?」

 

 

「当たり前だ。既に空港は閉鎖され、中国の警察が大集結している」

 

 

「……それ本当に大丈夫なのか?」

 

 

「普通なら私はここで諦めろと言う。だが、この飛行機には任務で使う私の私物がたくさん積んである」

 

 

「……いや、それでも大丈夫な気がしねぇよ」

 

 

「今すぐ準備をしたまえ」

 

 

「無視かよ」

 

 

「一応脅してあるが、いつ機長が逃げ出すか分からん」

 

 

「そして脅したのかよ」

 

 

お前、俺より犯罪者に向いてるわ。国際指名手配犯の称号いります?

 

 

________________________

 

 

 

【北京首都国際空港 監視塔】

 

 

現在時刻 15:56

 

 

「フライトナンバー103。まもなく到着します」

 

 

「急げ!敵は国際指名手配犯だ!やむおえない状況なら射殺が許されている!絶対に許すな!」

 

 

中国語で男が指示を出すと、深緑色の警察服を着た男たちが大慌てで準備をしたり、他の警察官と連絡を取り出す。

 

【魔王】と呼ばれるほどの実力を持つ大犯罪者。その男がこの国にやって来ると知った時は耳を疑った。信じられなかった。

 

警察だけじゃない。武偵や軍も呼んだ。あの強い武偵が多くいる香港武偵高校からも応援に駆け付けてくれた。まだ到着していないが、もうすぐ来るだろう。

 

 

「フライトナンバー103!!見えました!!」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

一人の男が大声で言うと、場の緊張感が一気に高まった。

 

ついに始まる。一体この戦いでどれだけの人が犠牲になってしまうのだろうか……!?

 

監視塔の窓から飛行機がこちらに向かって飛んで来ているのが目視できた。しかし、様子がおかしい。

 

 

「高度が高くないか?」

 

 

着陸には高度をさらに下げていないといけない。にも関わらず、飛行機の高度は高かった。一般の操縦士でもこんなミスはしないだろう。

 

 

「大変です!非常口から人が飛び降りました!」

 

 

「何だと!?」

 

 

しまった。やられてしまった。

 

高度を上げていたのはパラシュートで脱出するためだと分かった時には遅かった。

 

飛行機から5人が飛び降り、白色のパラシュートを広げた。5人は空港の外へと降下していく。

 

 

「急げ!奴らの着地場所に一刻もはやく向かえ!」

 

 

「しょ、少佐……それについてですが……!?」

 

 

一人の男が汗を流しながら言葉を躊躇うが、意を決意して告げる。

 

 

 

 

 

「我々の大部隊の中心地に着地しました……!」

 

 

 

 

 

自分の耳を疑った。その報告を聞いた男はポカンと口を開けている。

 

 

「現在国際指名手配犯を含めた男たちは子どもに銃を突きつけ、逃走用の車を要求しています……!」

 

 

「子どもだと!?」

 

 

人質がいることは聞いたことが無い。機長と副操縦士が無事なのに何故子どもが……?

 

 

「一緒に落ちてきました。恐らくこの国に来る前に捕らえられた人質かと……!?」

 

 

なら今回捕まえる犯人は四人というわけか!

 

 

「どうしますか!?」

 

 

「クッ……車は用意しろ。ただし、通信機やガソリンには工夫を施せ。捕まえるチャンスを作るのだ!」

 

 

「はッ!!」

 

 

________________________

 

 

 

【大樹視点】

 

 

 

(おい)不要把枪口在这里对准(銃口をこっちに向けるな)!」

 

 

中国語で俺は銃を向ける何百人の中国警察たちを警告する。

 

右腕をティナの肩に置き、左手に握ったコルト・ガバメントをティナの側頭部に突きつける。警察は銃を下げるが、俺を睨み付けていた。

 

もちろん、ティナを撃ったりはしない。これは相手を騙すためである。

 

飛行機の貨物室にはパラシュートがいくつもあった。さすが武偵貴族の飛行機にはいろいろなモノが積まれているなと感心した。

 

それより、何故こんなことをしているのか。それは普通に考えて強行突破は不可能と考えたからだ。

 

だからこんな非道な外道な最低なやり方で中国警察を脅しているのだ。

 

 

「だいちゃんって中国語話せるんだ」

 

 

理子に意外そうな顔で言われる。そういう理子も中国語を話せるだろ。

 

 

「俺だって勉強くらいする。他にもフランス、ドイツ、スペイン、アラビア、ポルトガル、ロシア……25ヶ国語話せるな」

 

 

最初は3ヶ国語ぐらいだったのに本を読んでいると自然と覚えてしまった。

 

25という数字に一同驚愕。目を張って驚いていた。

 

 

「……大樹さんって博学なのですか?」

 

 

「当ったり前だ。むしろ超天才科学者と呼ばれてもいいくらいだな」

 

 

ティナにドヤ顔で答える。

 

 

「マッドサイエンティスト」

 

 

「夾竹桃。泣かすぞ」

 

 

絶対に誰かが言うと思ったよ。

 

 

「それにしても逃走用の車なんて用意させてよかったのかね?私はあまり良い手段とは思わないのだが?」

 

 

「いらねぇよそんなモノ」

 

 

刻諒(ときまさ)の言葉に俺は首を振った。

 

 

「アレは別にどうでもいいんだよ。ただの時間稼ぎだ」

 

 

「ではどうするのだ?」

 

 

「本命は……アレだ」

 

 

その時、銃を構えた警察の後ろに何台ものパトカーが止まった。応援に駆け付けた警察が車から降りて来る。

 

 

パトカー(アレ)を盗む」

 

 

「全く……国際指名手配犯さんは考えることが大胆なことだ」

 

 

パラシュートを使って飛び降りるお前よりまだマシだろ。

 

 

「よし、まず俺が行こうか」

 

 

銃をホルスターに直し、構える。

 

悪いな。俺はどうしても行かなきゃならないんだよ。

 

 

「【無刀の構え】」

 

 

音速の速さで警察たちの前まで一瞬で距離を詰める。右手と左手。二つの手を合わせて一つの拳を作り、地面に向かって振り下ろした。

 

 

「【天落撃(てんらくげき)】!!」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!

 

 

コンクリートの地面が粉々に砕け、衝撃で生み出された暴風が警察たちを襲う。

 

警察は簡単に吹っ飛ばされ、パトカーまでの道が開かれる。

 

 

(撃て)(撃て)ッ!!」

 

 

大樹に吹き飛ばされなかった警察が下げていた銃を急いで構える。

 

 

「悪いがそうはさせない」

 

 

キンッ!!

 

 

レイピアを高速で抜刀。刻諒は警察の持っていた拳銃を連続で突き、次々と破壊した。

 

 

「んなッ!?速いッ!?」

 

 

その速さは一閃の光。警察の目では捉えられない速さだった。

 

刻諒だけでなく、夾竹桃も加勢した。

 

 

キュルルルルッ

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

夾竹桃の操ったワイヤーが警察たちの体に絡まると、一斉に動きを封じられた。警察は銃の引き金すら引けない。

 

警察が指すら動かせないのはワイヤーのせいではない。微量の毒によって体の動きを鈍らされたのだ。

 

 

「はいティナちゃん行くよー!」

 

 

理子はティナを抱っこし、パトカーに向かって走る。

 

ティナを後部座席に乗せ、理子はパトカーに取りつけられた安全装置や防犯装置などを解体する。

 

 

「はいおしまい。終わったよ!」

 

 

「さすが理子。仕事がはやいぜ!」

 

 

夾竹桃と刻諒が後部座席に乗り、俺は助手席に座った。運転手はかなり心配だが理子だ。

 

 

ギュルルルルッ!!

 

 

理子はアクセルを思いっ切り踏み、タイヤを勢いよく回転させた。反動で後頭部を背もたれにぶつけた。もう不安が最高潮です。

 

警察が通行規制をかけたおかげか、大通り出てみると、人が少なかった。信号を無視してカーブを勢いよく曲がる。

 

ふと後ろを見てみると、他のパトカーがサイレンを鳴らしながら追って来ていた。警察たちも簡単には逃してくれないようだ。

 

 

パンッ!!パンッ!!パンッ!!

 

 

中国の警察は発砲を許しているのか、俺たちの乗ったパトカーに銃弾を浴びせる。幸い、防弾ガラスのおかげで窓は割れていない。車体は傷がついたが。

 

 

「ティナ!タイヤを狙うぞ!」

 

 

「はい!」

 

 

俺はコルト・ガバメントを。ティナはライフルを取り出した。

 

俺たちは窓から身を出し、銃の引き金を引いた。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

「うおッ!?」

 

 

コルト・ガバメントの引き金を引いた瞬間、反動が強過ぎて驚いた。

 

 

バギンッ!!

 

 

俺の撃った銃弾はパトカーのタイヤを破壊し、スリップさせた。スリップしたパトカーは他のパトカーを巻き込み、連鎖的に事故を起こしていく。

 

 

「何だこの威力!?普通の銃の威力じゃねぇぞ!?」

 

 

「あ、違法改造だ!だいちゃん、悪い子だ!」

 

 

「平賀あああああァァァ!!」

 

 

だが許す。使えるなこれ。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

重い銃声が鳴り響くと同時に、ティナの銃弾がパトカーのタイヤに向かって突き進んだ。

 

その時、俺はあることに気が付いた。

 

 

 

 

 

 

そう言えば、武偵弾の説明したっけ?

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!

 

 

 

 

 

銃弾がタイヤに当たった瞬間、爆弾でも爆発させたかのような爆音が轟き、巨大な火柱を燃え上がらせた。

 

 

 

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

車内が静まり返った。やっべぇ……!

 

ティナは目を張って震えていた。隣に居た夾竹桃が優しくティナの頭を撫でて告げる。

 

 

「あなたは悪くないわ」

 

 

「そうだぞティナ!説明しなかった俺が悪いんだ!」

 

 

「止めなかった私たちにも責任がある」

 

 

「理子はティナちゃんの味方だからね!」

 

 

みんながティナを励ますが、

 

 

「大樹さん、今までありがとうございまし―――」

 

 

「ティナあああああァァァ!ごめんよおおおおおォォォ!」

 

 

この後、ラジオで死人と重傷者が出なかったことを知ることができた。

 

 

 

________________________

 

 

 

現在時刻 17:02

 

 

警察から未だに追われている俺たちだが、撒くことには成功した。

 

パトカーを捨て、今は変装して電車に乗って逃走中。変装と言っても、コート羽織っただけどな。

 

夾竹桃、俺、ティナ、理子、刻諒(ときまさ)の順で並んで座る。人は俺たち以外に乗っていない。

 

というかいつまで俺の影に隠れているつもりだヒルダ。いい加減出て来い。

 

ゴトゴトと電車は揺れながら目的地。北へと向かう。

 

外の風景を見てみると、まず山が目に入る。その次は山の手前にある川。そして、

 

 

バババババッ!!

 

 

窓から黒いヘリが見えた。うわぁ、もう見つかった。

 

ヘリのドアが開き、中から中国の民族衣装を着た二人の女の子たちが飛び出して来た。

 

 

バリンッ!!

 

 

二人の女の子たちは電車の窓を突き破り、俺たちの前と後ろに着地し、挟み撃ちにした。

 

 

你好(ニーハオ)、ここで立直(リーチ)ネ」

 

 

(なた)のような太刀。柄から垂らした布飾りがと刀身に龍の図が掘られている刀を持った少女が挨拶して来た。

 

あれは柳叶刀(リュウエイダオ)―――青竜(せいりゅう)刀だ。中国の刀か。

 

青竜刀を持った黒髪のツインテール少女がニタリと笑う。最近、黒髪ツインテールによく会うな。

 

 

省掉拍子(拍子抜け)ネ。もっと逃げると思っていたネ」

 

 

後ろにいた黒髪のツインテール少女が失望したような目で俺たちを見る。こっちの少女は手に短機関銃(サブマシンガン)・UZIを持っていた。

 

 

「双子……!?」

 

 

ティナの言いたいことは分かる。中国の民族衣装以外、全く同じ容姿の姿の女の子に挟み撃ちをされたのだから。しかし、俺はティナの肩をトントンっと叩き、窓の外で待機しているヘリを指差す。

 

 

「あそこにもいるぜ」

 

 

ヘリの中に目の前にいた少女とそっくりな黒髪ツインテール少女が二人もいることにティナは気付く。

 

一人はスナイパーライフルのM700のスコープを覗き、俺たちを見ていた。もう一人はヘリの操縦をしている。

 

 

「四つ子……!?」

 

 

ティナは驚いた。ここまでそっくりな四つ子は見たことがないのだろう。そもそも三つ子でも珍しいのにな。

 

 

「むッ、曹操(ココ)姉妹か」

 

 

刻諒は四つ子のことを知っていたようであまり驚いていない。

 

 

「ツァオ・ツァオ……理子たち同じ元イ・ウーメンバーだよ」

 

 

理子と夾竹桃は面識があるみたいだ。

 

 

「峰 理子!それは欧州人の間違った呼び名ネ。イ・ウーではシャーロック様がそう呼んだヨ、だからココはみんなにそう呼ばせてたネ。曹操(ココ)。これ、()の正しい発音アル!」

 

 

確かに。曹操(そうそう)って日本語読みだったな。

 

 

「まぁどうでもいいけど」

 

 

「良くないアル!ナラハラ。お前がヘンタイと呼ばれるのと同じでアル!」

 

 

「同じゃねぇよ!俺の方が酷すぎんだろ!」

 

 

「変態は牢狱(ろうや)ネ!!」

 

 

ダンッ!!

 

 

青竜刀を持った曹操(ココ)が俺の頭に向かって振り下ろす。俺は変態じゃねぇ!

 

 

「せいッ」

 

 

パシッ

 

 

定番の真剣白刃取りで青竜刀を両手で掴む。曹操(ココ)はその行為に驚くが、

 

 

炮娘(パオニャン)!!」

 

 

四つ子の誰かの名前だろう。青竜刀を持った曹操(ココ)が大声で呼ぶと、短機関銃(サブマシンガン)を持った曹操(ココ)が俺の背中に銃口を向けた。ややこしいな!?

 

 

(シイ)

 

 

ガガガガガッ!!!

 

 

短機関銃(サブマシンガン)を持った曹操(ココ)―――炮娘(パオニャン)は銃の引き金を引いた。

 

 

「危ねぇなっと!」

 

 

右手で青竜刀を掴んだまま、左手で右の腰に差した刀を抜く。

 

 

ガキンッ!!ガキンッ!!ガキンッ!!

 

 

左手を高速で動かして刀を巧みに操り、銃弾を刀で次々と斬る。刀の刃が良いのか、銃弾が豆腐のように綺麗に斬れてしまう。

 

 

「ッ!?ナラハラはキンチと同じ化け物ネ!」

 

 

「誰が化け物だゴラァ!」

 

 

「あうッ!?」

 

 

青竜刀を持った曹操(ココ)を右手で捕まえ、動けないようにする。

 

 

猛妹(メイメイ)!?」

 

 

「余所見なんて余裕ね」

 

 

短機関銃(サブマシンガン)を持った炮娘(パオニャン)が大樹たちに意識が移った瞬間、夾竹桃は仕掛けたワイヤーを引っ張った。

 

 

ギュルルルルッ

 

 

「むぎゅッ!?」

 

 

ワイヤーは炮娘(パオニャン)の足に絡まり、盛大に顔から転んだ。痛そう……。

 

 

バリンッ!!

 

 

ヘリの中からずっと様子を見ていたスナイパーライフルを持った曹操(ココ)がついに引き金を引いた。だからややこしい!誰だあの子は!?

 

銃弾は窓ガラスを貫通し、俺の眉間を狙う。

 

 

ガギンッ!!

 

 

「はい無駄ッ」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

銃弾を横目で見るだけで確認し、左手に持った刀で叩き落とした。普通じゃ考えられない芸当に誰もが驚いた。

 

 

「ティナ!」

 

 

「はい!」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

やっとスナイパーライフルの準備をすることができたティナ。すぐにヘリに向かって銃弾を放つ。

 

 

バギンッ!!

 

 

銃弾はヘリのプロペラに当たり、プロペラの一枚を破壊した。あんなに速く回ったプロペラの一枚に当てる技術……ティナの狙撃はやはり神業。

 

 

「「「「愚蠢(バカな)!?」」」」

 

 

中国語で驚く四つ子の息がピッタリ合った。まさか撃ち落されるとは思わなかったのだろう。

 

 

「やはり面白い……それでこそ楢原だ」

 

 

その時、ヘリの奥に隠れていた女の子がライフルを持った曹操(ココ)とヘリを操縦していた曹操(ココ)、二人の曹操(ココ)を掴み、こちらの電車の上に乗り移った。

 

ヘリはクルクルと回転し、

 

 

「正体見せろや!!」

 

 

ザンッ!!

 

 

俺は刀で天井を三角形に斬り、飛び移って来た三人を中へと落とした。

 

黒髪ツインテールの二人は着地に失敗し、倒れている。しかし、一人は違った。

 

 

ドゴッ!!

 

 

「ぐッ!?」

 

 

着地した瞬間、俺の腹部に正拳突きをしてきた。右手で掴んでいた曹操(ココ)―――猛妹(メイメイ)を座席に投げ飛ばし、すぐに右腕で受け止めた。

 

拳は重い。気を抜けばすぐに折れていただろう。

 

 

「何者だ……!」

 

 

敵の拳を腕で受け止めたまま相手を見る。

 

敵は小学5年生くらいの身長の女の子。名古屋武偵女子校(ナゴジョ)の制服を着ていた。

 

長い黒髪に裸足の少女……表情は笑っていた。

 

 

「前回はいらない奴が入って来たからな……今度は戦えるよな?」

 

 

直感的に、相手が誰なのか分かってしまった。

 

 

 

 

 

「緋緋神……!?」

 

 

 

 

 

俺の言葉を肯定するかのように、彼女は笑った。

 

 

 


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