どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

92 / 177
お待たせしました。

緋弾のアリアⅡです。

つづきをどうぞ。


緋弾のアリアⅡ 第三次世界大戦編
Scarlet Bullet 【逃走】


「ぬああああァァァ!!!」

 

 

ティナを抱きかかえたまま空から落下する俺とティナ。吸血鬼の力を封じられていなかったら空を飛べたが、今の俺にはできない。

 

顔を真っ青にしたティナが必死に抱き付く。泣き出しそうで怖いです。

 

 

「やっぱ落ちるのかよおおおおおォォォッ!!」

 

 

何ッ!?恒例なの!?絶対行事なの!?ふざけるなよッ!?

 

 

「だだだだだだ大樹さんッ……」

 

 

「おおおおおお落ち着けッ……」

 

 

俺もな。

 

 

「私、大樹さんのこと……好きでしたッ」

 

 

「死亡フラグ!?」

 

 

ドバシャアアアンッ!!!

 

 

空に浮かんだ満月が笑っているような気がした。

 

ついでに海に映った黒い影も。

 

 

________________________

 

 

 

「俺とティナじゃなきゃ死んでた……」

 

 

「大樹さん、帰りたいです」

 

 

「はえーよ」

 

 

もう心が折れかけている俺たちは、人工海岸からズルズルとトボトボとブルブル震えながら歩いている。というか寒過ぎ!凍え死んじゃう!

 

空は暗く、街灯の光が俺たちの歩く道を照らす。空は黒い曇が月を隠し、星の光もない。人の気配は全くしない。不気味な夜だ。

 

 

「防水リュックに買い替えて置いてよかったわ」

 

 

「原田さんに借りたライフルケースも防水でしたから大丈夫でした」

 

 

あの野郎……この水にダイブすること知っていたな?まぁ俺が教えたけど。『俺、毎回転生する時ずぶ濡れになるんだ』って相談したら『……ドンマイ』って言われたな。解決策出せや。

 

 

「ここは、どこですか?」

 

 

「東京だよ」

 

 

「……え?」

 

 

「順を追って説明するか」

 

 

俺はティナに世界はたくさんあり、そのうちの一つに転生したことを話した。

 

そして、ここは東京湾岸部に存在する東京武偵高校。通称、学園島だと話した。

 

 

「し、信じられない話ですね……」

 

 

「その割には反応が薄いな」

 

 

「大樹さんが人外的な力を持っていたことを思い出せたので納得できました」

 

 

だから俺の人外で納得するのやめない?

 

 

「それで『武偵』とは何ですか?」

 

 

「死ね死ねばっか言ってるうるせぇ奴らのこと」

 

 

「……それで『武偵』とは何ですか?」

 

 

無限ループ怖い。

 

 

「何て言えばいいかな……武装を許された警察みたいなモノか?」

 

 

「ッ!?……ぶ、物騒な世の中ですね」

 

 

あー、これは勘違いしているわ。めんどくせぇし放って置こう。武偵なんてこんなもんさ☆

 

 

「っとあれだな」

 

 

暗い夜道を歩いていると、目的地が見えた。

 

東京武偵高校第三男子寮。遠山キンジの住む寮だ。

 

 

「遠山はいるかな?」

 

 

エレベーターを使って昇り、廊下を歩く。

 

そして、異変に気が付いた。

 

 

「何だこれ……」

 

 

遠山の部屋の前まで来た。しかし、遠山の部屋には何重もの黄色いテープが張られていた。

 

 

「いつも立ち入り禁止なのですか……?」

 

 

「そんな所に住みくねぇよ……とにかく入るぞ」

 

 

『Keep Out!』と書かれたテープを引き千切り、ドアを開ける。

 

部屋の中は綺麗に整頓されており、今日も日常生活が送られているような部屋だった。

 

電気を点け部屋をよく観察する。やはり誰もいない。

 

 

「大樹さん」

 

 

「……なるほど。頭良いな」

 

 

ティナはゴミ箱に入った弁当箱の空を見つけ出し、俺に見せた。弁当箱の日付から推測するのか。

 

蓋のラベルには『賞味期限1月8日』と書かれている。って!?

 

 

「はぁ!?一月ぅ!?」

 

 

俺は急いでテレビのリモコンを操作し、テレビを点ける。ちょうど天気予報が映った。

 

 

『2月7日、明日の天気予報です』

 

 

「はあああああァァァ!?」

 

 

日にち経ちすぎだろ!?あれから6、7ヶ月経ってるじゃん!?

 

というか冬!そりゃ寒いわ!海なんかマイナス近い温度だぞ!

 

予想以上に日にちが進み、動揺していたが、意外とすぐに落ち着けた。

 

 

「ティナ。とりあえず風呂に入れ。このままだと風邪を引く」

 

 

引かないと思うけど、このままでもいけないだろ。

 

 

「風邪なんか引きませんよ?」

 

 

「いいから入って来い。びしょ濡れのままも嫌だろ?」

 

 

ティナを無理矢理納得させ、風呂に入れた。『一緒に入りますか?』と聞かれた時は危なかった。いつものノリで『入りゅ!』とかいいそうだった。だから噛むなよ。

 

 

 

________________________

 

 

 

「やっぱりないか……」

 

 

家中を探したが目的のバタフライナイフは無い。あるのはゴム銃弾とか女性の下着ばかり。もしかして、女の子増えた?アイツ……羨ましすぎる……!

 

 

「大樹さん、あがりましたよ」

 

 

バスタオル一枚で来ないでぇ!!

 

 

「お、おう。じゃあそこのクローゼットにある制服に着替えてくれ」

 

 

「せ、制服ですか?」

 

 

「ああ、多分アリアの服がちょうど……いや、何でもない。とにかく着てくれ」

 

 

き、聞いてないよね?アリア、ここにいないよね?

 

ティナはクローゼットにかけてある制服に手を取ると、何かに気付いたようだ。

 

 

「これって……」

 

 

「そうだ。普通じゃないぞ。防弾制服だ。普通の防弾服より性能がいいぞ」

 

 

俺もこの繊維にはお世話になりました。Tシャツに使いたいからね!

 

 

「俺も着替えるか」

 

 

俺も風呂場に行き、シャワーで軽く海の水を流し、遠山の制服を借りた。3分も経たなかった。早着替えは武偵の基本です。

 

リビングに戻ると、武偵制服に着替えたティナが待っていた。

 

 

「どうですか?」

 

 

「そうだなぁ……違和感がある」

 

 

正直あまり似合っていない。だが、

 

 

「まぁ可愛いのは変わらないよな」

 

 

「ッ……!」

 

 

ティナは頬を赤くして、顔を逸らした。恥ずかしがるティナ、マジ萌えきゅん。……なんか危ない人になりつつあるな俺。

 

 

「とにかく、何かあったのは確実だな。今から学校に行くぞ」

 

 

俺はリュックを背負い、ティナはライフルを持った。その時、

 

 

「……大樹さん」

 

 

「ああ、人数は玄関から四人。屋上に一人行った」

 

 

俺とティナは走って来る人の足音に気が付いた。しかし、この足音を最小限まで抑えた身のこなし……まさかッ!?

 

 

「来るぞ」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

玄関のドアが蹴り破られ、外から四人の人物が侵入してくる。俺とティナは銃を出さず、構えた。

 

 

「武偵です!あなたたちを連行します!」

 

 

やっぱり武偵か!

 

武偵の女子制服を着た黒髪で左右対称におさげをしている少女が俺に銃口を向けて警告した。

 

後ろにはフリルだらけに改造した制服を着た小さな少女。頭に大きなリボンを付け、セミロングな髪型だ。

 

そして、もう一人は知っている人物だった。

 

 

「あれ?間宮(まみや)じゃねぇか?」

 

 

アリアより低い身長の少女。短いツインテールというかなんというか……あの髪型の名称が分からぬ。女性ファッション誌とか読んだほうがいいのかな?

 

間宮は俺にマイクロUZIの銃口を向けている。表情は『親の仇を討つ!』というくらい気迫があった。

 

 

「悪かったな。ここを勝手に使って」

 

 

「……何の話ですか?」

 

 

黒髪のおさげちゃんが『はぁ?何言ってんの?マジキモイんだけど?』みたいな顔で言ってくる。グサッ、傷つくわぁ……。

 

 

「はぁ?じゃあ何で俺に銃を向けて―――」

 

 

そこで俺は気付いた。玄関から足音は四人だったはず。なのに、今ここには三人しかいない。

 

 

バリンッ!!

 

 

その時、左手にある窓ガラスが勢いよく割れた。

 

金髪のポニーテールの少女が窓を蹴り破り、俺に向かってドロップキックしようとしている。

 

 

(よくテレビで見る屋上からロープを使って飛び込むアレか……名前は……ターザンキック?)

 

 

もっと武偵の勉強しておけばよかったと思う瞬間だった。

 

 

ドゴッ!!

 

 

「だが甘い」

 

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 

金髪ポニーテールの蹴りを左手だけで受け止めた。少女は驚愕するが、そんな暇はない。

 

 

「そいッ」

 

 

ドサッ!!

 

 

そのまま力を受け流し、左手だけで少女を床に寝かせる。同時に隠し持ったナイフを右手で奪い、少女に首に当たるか当たらないかの距離まで近づける。

 

 

「先輩舐めるなよ?」

 

 

「嘘……だろ……!?」

 

 

金髪ポニーテールが顔を真っ青にして俺の笑った顔を見ていた。

 

 

ダンッ!!

 

 

「「ッ!?」」

 

 

三人の少女の後ろから長い黒髪を振り乱しながら、俺の懐に一瞬で入り込んだ。その速さはティナでも驚く程だった。

 

 

ザンッ!!

 

 

握った刀を俺の首に向かって振り上げた。

 

 

「無駄無駄」

 

 

パシッ

 

 

「えッ!?そんなッ!?」

 

 

ナイフを金髪ポニーテールに返し、右手の人差し指と中指で真剣白刃取り。余裕である。

 

 

「っと」

 

 

バシッ

 

 

刀をクルッと回転すると、黒髪の女の子はバランスを崩した。刀を巧みに扱い、黒髪の女の子も床に寝かせる。

 

 

「ほい、二人目な」

 

 

「ッ!?」

 

 

黒髪の女の子も顔を真っ青にして俺を見ていた。

 

 

「お姉さまを殺さないで!!」

 

 

「うぇ!?」

 

 

その時、フリルの女の子が涙目で俺に懇願して来た。こ、殺す!?

 

 

「殺さねぇよ!」

 

 

「そんな!?痛み付けるつもりですのね!?」

 

 

「しねぇよ!」

 

 

「じゃあ何するおつもりなんですか!?」

 

 

「何もしねぇよ!」

 

 

「じゃあその手を放してください!」

 

 

「んだよもう……」

 

 

俺は二人のから手を放し、解放する。

 

 

「「「「「え?」」」」」

 

 

「ん?」

 

 

しかし、女の子たちの様子がおかしい。みんな驚いた顔をしていた。

 

 

「な、何だよ……」

 

 

「ど、どうして放されたのですか……?」

 

 

「待て。お前が放せって言ったよな?」

 

 

何故こんな不思議な反応をされるのだ。

 

 

「ちゃ、チャンスです先輩!今のうちに逃げてください!」

 

 

パンッ!!

 

 

おさげちゃんが銃を発砲。銃弾は俺の腹部に当たる―――

 

 

「ふッ」

 

 

―――わけがなかった。一歩横にずれるだけでかわせた。

 

おさげちゃんは避けられたことに驚いていたが、

 

 

「う、動かないでください!」

 

 

「えー」

 

 

「撃ちますよ!?」

 

 

「いや、避けれるから別にいいよ」

 

 

「ッ!」

 

 

パンッ!!パンッ!!パンッ!!

 

 

連続して発砲するおさげちゃん。俺は右に一歩進みながら体を逸らすだけで全てかわした。

 

 

「ほら、ね?」

 

 

「そ、そんな……!?」

 

 

おさげちゃんは俺に怯え、一歩後ろに下がる。やっぱ化け物に見えちゃう?

 

 

「というかどうして俺を撃つ?間宮、説明できないのか?」

 

 

「説明……それは先輩が一番知っていることじゃないですか!?」

 

 

「はぁ?何も知らねぇから聞いてるんだろ」

 

 

間宮とは話ができそうにないな。銃口が俺の頭を狙っている時点で危ないな。

 

 

「じゃあ金髪ポニーテールの美少女。事情を話してくれないか?」

 

 

「び、美少女……!?」

 

 

金髪ポニーテールの女の子は顔を真っ赤にしてフリーズした。何故固まった。

 

 

「お姉様を落とそうとは……男のクズですわね!」

 

 

「ひでぇ!?ってお姉さま?姉妹なのか?」

 

 

フリルの女の子と金髪ポニーテールの女の子を見比べるが、似ていない。

 

 

「違います。私とライカお姉様は愛を誓った仲ですの!」

 

 

「ダーッ!?何てことを言ってんだよ!?」

 

 

金髪ポニーテールの女の子。ライカはフリルの少女の口を急いで塞ぐが、全部聞こえてしまった。

 

 

「ひ、人の愛の形はそれぞれだもんな……うん」

 

 

「うわぁあ!指名手配犯に可哀想な目で見られた!」

 

 

ん?

 

 

「待て。指名手配犯って俺のことか?」

 

 

「「「「「え?」」」」」

 

 

「「え?」」

 

 

全員の時間が止まった。

 

考えろ楢原 大樹。指名手配犯って武偵の中だけのことじゃないか?ほら、俺って単位危なかったし、いろいろ問題児だったし、ねぇ?

 

 

「ど、どういうことか説明してくれないか?」

 

 

「え、えっとテレビでもあっていますよ」

 

 

黒髪の女の子がテレビを指差す。おいおい。テレビでもあるほど有名なの?

 

俺はゆっくりとリモコンを手に持ち、チャンネルを変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『速報が入りました!国際指名手配犯の楢原 大樹が先程目撃されたと情報がありました!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こ、国際指名手配犯!?

 

国際手配って国際刑事警察機構(ICPO)が加盟国190ヶ国の各政府を通じてるやつじゃん!?

 

 

『ではもう一度彼について振り返ってみましょう。彼は1人の男子学生と2人の女子学生を殺した殺人鬼だと周知されております』

 

 

されてないよ!?本人がされてないよ!?

 

 

『殺害された学生は二年生男子生徒の遠山(とおやま) │金次《キンジ》さん。同じく二年生女子生徒神崎(かんざき)(エイチ)・アリア。同じく二年生女子生徒御坂(みさか) 美琴(みこと)

 

 

はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァァァァァァァァ!?

 

そこからは酷かった。アリアを殺したことにブチギレたイギリスのことや、武偵が全力で殺意を持って捜索していることや、捕まったら終身刑か死刑になるとか話していた。

 

 

『彼は元々問題児でしたからね。女子学生をたぶらかしたり、授業をサボったり、カジノを爆破したり、事件を起こしてばかりの人間でした』

 

 

自業自得過ぎる俺!

 

そこから先は耳に入ってこなかった。もうライフが残っていなかった。だから、

 

 

「もう俺を逮捕してください」

 

 

「「「「「えぇ!?」」」」」

 

 

涙を流しながら俺は両手を差し出した。

 

 

「大樹さん……」

 

 

「そもそも殺していないのに……あんなの……あんまりだぁ……」

 

 

ティナの背中をポンポンと慰められる。

 

 

「え?殺していないってどういうことですか……?」

 

 

「俺は何もやっていないんだよ、おさげちゃん」

 

 

「お、おさげちゃん……私には(いぬい) (さくら)という名前があります!」

 

 

俺の呼び方が気に入らない乾は自分の正体を明かした。

 

 

「じゃあ乾。俺の国際指名手配犯(これ)が広まったのはいつだ?」

 

 

「10月の中旬です……」

 

 

「それまでに俺の目撃情報はあったのか?」

 

 

「い、いえ……」

 

 

「考えてみろ。今まで姿を一切見せなかった俺が突然ここに現れたのはおかしいと思わないのか?」

 

 

「そ、それは……」

 

 

俺の言葉に他の人も戸惑っている。だが、間宮は違った。

 

 

「ならどうしてアリア先輩はいなくなったのですか!?」

 

 

痛いところを突かれたと思った。

 

 

「何も言わず、先輩は消えてしまった……先輩がどこにいるのか知っているんじゃないですか?」

 

 

「……知っている。だけど、お前には話せない」

 

 

「どうしてッ!?」

 

 

「それは……」

 

 

ああ、そうか。俺はこうするしかないようだ。

 

 

 

 

 

「俺が国際指名手配犯だからだ」

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

ティナが驚いた顔で俺を見た。

 

 

「間宮、乾……あとは火野(ひの)ライカと佐々木(ささき)志乃(しの)か」

 

 

「「ッ!?」」

 

 

俺はライカと黒髪の女の子から奪った手帳を見て名前を告げる。火野と佐々木は驚いていた。

 

 

「あ、火野の嫁の名前は(しま)麒麟(きりん)か」

 

 

「うわぁ!?勝手に見るな!?」

 

 

「お姉様が私の写真を……!」

 

 

怖い。この火野と島が怖い。

 

俺は奪った手帳を二人に投げて返す。

 

 

「5人に先に謝っておく。俺はこんなところで捕まるわけにはいかない。殺していないけど、多分俺は有罪になっちまう」

 

 

それにっと俺は付け足す。

 

 

「アリアを救うために、俺はここに戻って来たからな」

 

 

「……嫌です」

 

 

間宮は銃を直し、構えた。格闘か?

 

 

「アリア先輩の場所、絶対に教えてもらいます」

 

 

「……アリアのこと、好きなんだな」

 

 

「当たり前です!」

 

 

「わ、私のあかりちゃんが……!」

 

 

佐々木が何か言ったがスルーしよう。あとアイツも危ない事を頭に入れて置こう。

 

 

「だけどなぁ……」

 

 

俺は腰に手を当てて、宣言する。

 

 

「俺の方が大好きだ!!」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

「愛しているって言ってもいい!」

 

 

「あ、あいッ!?」

 

 

女性陣が顔を真っ赤にしてフリーズしている隙に、俺はポケットに手を突っ込む。

 

 

ゴスッ

 

 

「痛ッ!?ティ、ティナ!?」

 

 

「大樹さんの馬鹿……」

 

 

何故かティナの機嫌は斜めっていた。

 

俺はポケットから手榴弾を取り出すと、女性陣は顔を真っ青にした。

 

 

「Good-Bye」

 

 

安全ピンを抜き、間宮の足元に向かって投げる。間宮たちはパニックに陥っていたが、急いで窓に向かって放り投げることに成功した。

 

だが、爆発音はいつまで経っても聞こえてこなかった。

 

 

「だ、騙されたぁ!?」

 

 

大樹たちに騙され逃げられた。そう気付くのに、少し遅かった間宮たちだった。

 

 

 

________________________

 

 

ウー!ウー!

 

フォン!フォン!

 

 

現在、何十台ものパトカーに追われています。

 

 

シャコシャコシャコシャコッ!!

 

 

そして、俺とティナは自転車で逃走中。

 

 

「ぐあああああァァァ!!足が攣る!消し飛ぶ!」

 

 

時速60キロを出せている。自転車ってこんな速度が出るのか。

 

カーブや路地を使いまくり、パトカーの追跡から逃れようとしているが、全く無意味。武偵には効かなかった。

 

 

「ティナ!まだか!?」

 

 

「準備できました」

 

 

ティナは俺の後ろに乗りながら遠山の部屋から拝借したライフルを構える。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

重い銃声が鳴り響き、パトカーの右前輪を壊す。

 

 

ギュルルルッ!!

 

 

バランスを崩したパトカーは回転し、

 

 

ドゴンッ!!

 

 

他のパトカーに激突した。

 

 

ドゴンッ!!バンッ!!バリンッ!!

 

 

次々と激突して巻き込んでいくパトカー。大事故だった。

 

 

「俺は悪くない。警察が悪い」

 

 

「大樹さん。それだと大樹さんが悪人に見えます」

 

 

ぐへへへッ。俺が悪の大犯罪者だぜ(白目)

 

自転車を巧妙に操り、スピードを落とさずカーブする。

 

 

「やっべ!?」

 

 

カーブを曲がるとすぐ前方にロケットランチャーを構えた武偵がいた。馬鹿なの!?

 

俺とティナは同時に自転車から飛び降りて逃げる。

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

ミサイルが自転車に当たった瞬間、大きな爆発音と共に、俺とティナは爆風で飛ばされる。

 

国際指名手配犯だからってやり過ぎじゃないか?と思ったが武偵だから仕方ないよね。

 

 

バリンッ!!

 

 

俺とティナはコンビニの窓を突き破り、中へと転がった。

 

お互い受け身を取れていたのでノーダメージ。

 

そして、俺の目の前には肌色が!?

 

 

「うおおおおおッ!!俺の目の前におっぱいがッ!?」

 

 

「何をしているのですか」

 

 

バシンッとティナに叩かれて正気に戻る。何だよエロ本か。ややこしいな。

 

 

「リュックに詰めないでください」

 

 

「チッ」

 

 

俺は本を投げ捨てコンビニの奥の部屋に逃げ込み、裏口から逃走する。

 

 

「お!バイクがあるじゃん」

 

 

「でもキーがありませんよ?」

 

 

「さっき休憩室から盗んだ」

 

 

「本当に犯罪じゃないですか」

 

 

いいんだよ。どうせ遠山の自転車を盗んだし。あ、でもロケランで木端微塵になっちゃった。てへッ。

 

 

ブロロロッ

 

 

俺は原付バイクのキーを回してエンジンをかける。ティナは後ろに乗り、銃を構えた。

 

警察と武偵はやっとコンビニの中に入ったようだ。とっとと逃げますか。

 

バイクを発進させ、時速70キロのスピードで駆け抜ける。自転車とあまり変わらねぇなオイ。

 

 

「これからどうします?」

 

 

「そうだなぁ……遠山がどこにいるかどうか分からないといけないからな」

 

 

多分、遠山は日本にいない。死んだとかニュースでほざいていたが、あれは嘘に決まっている。

 

外国。となると飛行機が必要だ。そもそも仲間が少ないこの状況では不利すぎる。

 

 

(……ん?あれは?)

 

 

道路にキラッと光る閃光が見えた。懐中電灯でモールス信号か?

 

 

「だいいちじょしりょう……第一女子寮か!」

 

 

「大樹さん。これ以上犯罪は……」

 

 

「違う」

 

 

まぁ行く先は決まった。仲間だということを祈ろう。

 

 

 

________________________

 

 

 

1-707

 

 

これは女子寮のVIP(ビップ)ルームの一室であり、アリアの部屋である。

 

寝静まった寮の中に入るのは簡単だった。監視カメラもスルリと抜けることにもできた。

 

あのモールス信号は『1707』と最後に伝えて来た。まさかアリアの部屋の『1-707』か?っと勝手に解釈したが……。

 

 

ガチャッ

 

 

……部屋の鍵がかかっていないことから当たりだと分かった。

 

俺とティナは警戒したまま中に入る。

 

中はさすが貴族と言うべきか、立派な家具ばかり置かれていた。何故これほど充実した部屋なのによく俺の部屋に泊まりに来るのかな?やっぱ俺のことが好きなのか!?……自分で言ってて恥ずかしくなったわ。

 

 

「久しぶりね、旦那様」

 

 

「……おう」

 

 

ソファに座った少女。赤い女子武偵服を着た少女。

 

元イ・ウーのメンバー。猛毒使いの美少女。

 

夾竹桃(きょうちくとう)がいた。

 

 

「……いや、いつお前の旦那様になったんだよ」

 

 

「そうね……あなたが消えてから寂しくなってそうなったわ」

 

 

「なんかごめんなさい」

 

 

頬を膨らませて怒っている夾竹桃。もう見れない表情じゃないこれ?レアじゃない?

 

夾竹桃は煙管(きせる)をクルクルと回すと

 

 

シュッ

 

 

「うぐッ!?」

 

 

俺の首にTNK(ツイステッドナノケブラー)を一瞬で巻き付けた。やべぇ……かなり強くなってるぞ……!?

 

 

「う、腕を上げたな……夾竹桃」

 

 

「そうね……そうだわ。握手しましょ」

 

 

やだよ!お前の左手の爪は毒が仕込んであるもん!

 

 

「麻痺がいいかしら?でも効きそうにないからやっぱり毒を……」

 

 

(ヤンデレだ!ヤンデレがいる!!)

 

 

黒ウサギと同じくらい怖い!

 

 

「大樹さんを放してください」

 

 

シュンッ

 

 

ティナは持っていたナイフを夾竹桃の首に突き付けた。ティナを見た夾竹桃は俺とティナを交互に見る。

 

 

「……ロリコン」

 

 

「やめろよ!!」

 

 

もうその繰り返しは飽きたザマス!

 

 

「大丈夫よ。私は争うために呼んだわけじゃないわ」

 

 

「ならこのワイヤーを解いてくれ」

 

 

夾竹桃がまた煙管をクルクルと回すと、俺の首に絡まっていたワイヤーが取れた。ふぅ……。

 

 

「本題を話そうか」

 

 

「そうね。まず殺したかしら?」

 

 

「その答えはNO」

 

 

「そうでしょうね」

 

 

分かっているなら聞くなよ。

 

 

「実はあなたが探している人に心当たりがある人物を知っているわ」

 

 

「実は俺もその人物を知っているかもしれない」

 

 

「……当ててみなさい」

 

 

理子(りこ)だ」

 

 

俺の解答は正解。夾竹桃の口元が緩んだ。

 

 

「さすがね。景品はどうする?」

 

 

「いや、何もいら―――」

 

 

「私かしら?」

 

 

「―――マジで?」

 

 

ドゴッ!!

 

 

「ぐぶらへッ!?ティナさん!?」

 

 

「大樹さんは馬鹿です」

 

 

確定になった。どうやら俺は馬鹿だそうです。

 

お腹を抑えながら話を戻す。

 

 

「それで、理子はどこだ?」

 

 

「捕まったわ」

 

 

「ッ……誰にだ!?」

 

 

「ヒルダって人物は知っているかしら?」

 

 

「……ああ、なるほどな」

 

 

ブラドの娘さんじゃないか。

 

……あ、今ブラドって誰だっけって思っただろ?説明すると俺が火薬庫でボコボコにした狼男みたいな吸血鬼だよ!

 

 

「どこにいる?」

 

 

「横浜郊外の紅鳴(こうめい)館って言ったら分かるかしら」

 

 

「ブラドの屋敷じゃねぇか」

 

 

だが、場所は分かった。今の俺はそれだけで十分だ。

 

 

「行くぞ」

 

 

 

________________________

 

 

 

既に12時を過ぎ、1時すら過ぎてしまった。

 

バイクに三人乗りという無茶な乗り方をした俺たち。ポリスに見つかることなく、目的地に到着した。

 

そして、夜中の屋敷の外見は恐ろしいモノになっていた。

 

 

「呪われてんのか?この屋敷」

 

 

「大樹さん。お化けはこの世に存在しませんよ」

 

 

「え?」

 

 

「しません」

 

 

「あ、ハイ」

 

 

これはいいこと聞いたぜぇ……(ゲス顔)

 

そんな俺たちのやり取りを無視して夾竹桃は進む。

 

 

「おい、真正面から入るのか?」

 

 

「あら?あなたならそうするでしょう?」

 

 

「ピンポーン。大正解だゴラァッ!!!」

 

 

ドゴンッ!!!

 

 

俺は音速で走り出し、扉を勢いよく蹴り破った。

 

屋敷の中は洋風で綺麗に……あ、俺の扉の残骸のせいで綺麗な床じゃなくなった!反省反省。

 

 

「チィース!ピザ届けに来ました!!」

 

 

「嘘つきなさい!!」

 

 

「チィース!パンの耳を届けに来ました!」

 

 

「嫌がらせ!?」

 

 

俺のツッコミを入れたのはゴシック&ロリータの金髪のツインテールの美少女。

 

この美少女がブラドの娘、ヒルダだ。

 

奥の部屋からカツカツっとピンヒールを鳴らしながら姿を現した。

 

 

「全く、下品な男……血の味はゴキブリかしら」

 

 

どんな味ですか。というかゴキブリか……。

 

 

「なぁ知ってるかヒルダ?ゴキブリってただ普通に叩き殺しちゃだめなんだぜ?」

 

 

「え?」

 

 

「どうしてか……知ってるか?」

 

 

「な、何よ……教えなさい!」

 

 

「……へっへっへ」

 

 

「ヒィッ!?」

 

 

さっそくヒルダを怖がらせることに成功。……なんか虚しい。

 

 

「だいちゃん……?」

 

 

懐かしい声。俺のことをそんなふうに呼ぶのはあの子しかいない。

 

ヒルダの後ろ、部屋の奥から出て来たのは長い金髪をツーサイドアップに結った、ゆるい天然パーマの少女。

 

いつもと同じフリルがたくさんついた改造制服。

 

(みね) 理子がそこにいた。

 

 

「よぉ理子。助けに来たぜ」

 

 

「ッ……!」

 

 

理子は下唇を噛み、スカートの裾を握った。あまり喜ばれていない?

 

 

「感動の再会は後だ。ヒルダ、理子を返してくれるなら許してやるぜ?返さないならお前の親父と同じようにぶっ飛ばす」

 

 

俺の言葉を聞いたヒルダは目を見開いて驚いていたが、

 

 

「ほーッほほほほッ!!まさかお前がナラハラだったのか!哀れな顔をしておる!」

 

 

うるせぇ!イケメンなんて所詮イケメンなんだよ!男は中身で勝負だ!

 

悪役の女王みたいに笑うヒルダ。あの性格がなければなぁ……。

 

綺麗な白い肌、妖艶な紅い唇、筋の通った鼻先。美人なのに……損してるわ。

 

 

「ふふッ、見惚れているのね」

 

 

「あ?」

 

 

ヒルダは人差し指を唇に当てながら目を細める。

 

 

「まぁ、無理のない事だけれど。私は、美しいから」

 

 

……………イラッ。

 

 

「ぺッ」

 

 

「なッ!?」

 

 

「大樹さん。唾を吐くのは敵でもさすがに失礼過ぎです」

 

 

後ろからティナにツッコミを入れられる。めっちゃ腹が立った。

 

 

「ヒルダ。俺はお前より美人で可愛い女の子を10人……いや、20人以上は知っている!残念だったな!」

 

 

「その美人で可愛い女の子は私も入っているのかしら?」

 

 

煙管をクルクル回しながら夾竹桃が俺の顔を見る。まぁ入ってますよ。でも言わない。恥ずかしいから。

 

 

(きょー)ちゃん……」

 

 

「久しぶりね。1ヶ月ぶりかしら?」

 

 

夾竹桃の姿を見たにも関わらず、理子の表情は暗いままだった。

 

 

「それじゃあ始めるか。姫様を返して貰うぜ、ヒルダ」

 

 

俺はコルト・パイソンを左手に持ち、ティナは両手にライフルを構え、夾竹桃は左手の手袋を外した。

 

 

グルルルルッ……!

 

 

「「「ッ!」」」

 

 

猛獣が唸る低い声。4、5匹のオオカミが物陰から姿を現した。こいつは確かブラドが飼っていたオオカミだったはずだ。

 

しかも普通のオオカミとは全く違う。絶滅危惧種のコーカサスハクギンオオカミだ。

 

 

「お父様が可愛がっていた子たちよ。お前をさぞ恨んでいるだろう」

 

 

「おお!カッコイイ!ちゃんと見とけよティナ!向うの世界に帰ったら絶対に見れない動物だからな!」

 

 

「聞きなさいよ!?」

 

 

「可愛いです……」

 

 

「ッ……ほーッほほほほッ!それなら触ってみたらどうかしら?」

 

 

扇子で口元を隠しながら笑うヒルダ。ティナは目を輝かせた。

 

 

「いいのですか?」

 

 

「ええ、特別に許してやるわ」

 

 

許可を貰ったティナは唸り続けるオオカミに近づく。

 

 

(そのまま噛まれるがいいわ!)

 

 

オオカミが懐くわけがない。ヒルダはニヤリと笑った。

 

 

「ガァッ!!」

 

 

ヒルダの予想通り、オオカミはティナに噛みつこうと飛び掛かる。

 

 

「おすわり」

 

 

「ッ!?」

 

 

しかし、オオカミは動きを止めた。

 

 

「おすわり、だ」

 

 

ドスの利いた低い声で大樹がオオカミに命令する。オオカミは尻尾をシュンッと縮ませながら後退する。

 

 

「もし次……ティナに手を出したら……」

 

 

ゆっくり言いながら大樹はオオカミを睨んだ。

 

 

「その尻尾、千切るぞ」

 

 

「「「「「ッ!?!?」」」」」

 

 

シュタッ!!

 

 

オオカミは一瞬にして『おすわり』をした。背筋をピンと伸ばし、いつでもお手ができるような体制に変わった。

 

 

「お前たち!?」

 

 

「よしティナ。まずはお手からやってみような」

 

 

「はい。お手」

 

 

シュタンッ

 

 

ティナが『お手』と言ってからオオカミがお手をするのに1秒もかからなかった。

 

 

「ふわふわですよ大樹さん」

 

 

「へー、ふわふわだってよ?ヒ・ル・ダ?」

 

 

「ッ……!」

 

 

俺が挑発した態度でヒルダに言うと、ヒルダは悔しそうな表情をした後、また笑った。まさか、まだ策があるの?

 

カツン……カツン……っとピンヒールを鳴らしながら理子に近づく。

 

 

「理子はもう竜悴公(ドラキュラ)家の正式な一員よ……お前のところには行かないわ」

 

 

「ハッ、それこそ行くわけねぇだろ。テメェらのやったことは絶対に許されない」

 

 

何か企んでいる?警戒はするが、怖いな。

 

ヒルダは白い指で理子の頬を撫でた。

 

 

「理子自身が決めたことでも?」

 

 

「何……?」

 

 

「理子は『眷属(グレナダ)』についた。私につくことを選んだのよ」

 

 

……そう言えば裏ではそんなのがあったな。忘れていたわ『│宣戦会議《バンディーレ》』とか。

 

ヒルダの指は頬から耳へ。そこで俺は気付いた。理子の耳にコウモリ型のイヤリングをしていることに。

 

 

「そのイヤリング……お前!」

 

 

クソッ!忘れていた!

 

 

「そう、このイヤリングは竜悴公(ドラキュラ)家の正式な臣下の証。外そうとしたり、耳を削ぎ落とそうとしたり、私が一つ念じたりすれば、弾け飛ぶ。そうなれば、中に封じられた毒蛇の腺液から傷口から入り―――」

 

 

ヒルダは魔女のように笑いながら告げる。

 

 

「―――10分で死ぬわ」

 

 

「……………」

 

 

その時、大樹の雰囲気が変わった。

 

ヒルダを『見る』から『睨む』に変わったのだ。

 

 

「理子自身がお前についただと?それは自分の命を守るためだろ。勘違いも甚だしいぞ」

 

 

「本人に聞いてみるかしら?」

 

 

ヒルダが三歩ほど後ろに下がる。理子と話せってことか。

 

俺は前に進み、理子の前に立つ。理子は下を向き、俺と目を合わせようとしなかった。

 

 

「だいちゃん……」

 

 

「……本当にそれでいいのか?」

 

 

「……いいんだよ」

 

 

理子の声は諦めたような感じが含まれていた。

 

 

「ヒルダは仲間に貴族精神を持って接してくれる。丁寧な態度で私と話してくれた」

 

 

「ならそのイヤリングは何だよ……」

 

 

「……これは従うしかなかった。ヒルダと手を組むには仕方なかったことなの」

 

 

「……仕方なかった、か」

 

 

「理子は私を裏切った。その次はお前を裏切った。イ・ウー裏切り、お父様も裏切った。本当に無様で、見苦しい」

 

 

ヒルダの言葉に理子は目をきつく閉じ、下唇を噛んだ。体は震え、ぼろぼろと涙を流した。

 

 

「そうだよ、大樹……あたしは裏切り者だ……命惜しさに、お前を裏切ったんだ……!」

 

 

「……そうか」

 

 

俺はコルト・パイソンを制服の内側に装着したホルスターにしまう。

 

 

「じゃあ最後の裏切りをしようか」

 

 

俺は理子の顔に手を伸ばす。手が顔に触れた瞬間、理子は震えて何かを覚悟していた。

 

 

(これで決まりだな)

 

 

やることは決まった。あとは……。

 

 

「なぁヒルダ。お前が念じればこれは壊れるんだろ?」

 

 

「人間の分際で私に同じことを二度も言わすな」

 

 

「嘘っぽいんだよなぁ……どうせ嘘だろ?」

 

 

「ナラハラ、お前は相当の馬鹿なのかしら?」

 

 

「はぁ?お前よりは頭良いぞ、この醜い豚!」

 

 

「なッ!?」

 

 

「やーい!お前んち、おっばけやーしきッ!!」

 

 

「それは悪口のつもりですか……?」

 

 

ティナよ。小さいことは気にするな。

 

 

「この無礼者ッ!理子を殺すわよ!?」

 

 

「やってみろよ!この……えっと……ボシンタン!」

 

 

「ボシンタン!?」

 

 

※ボシンタンとは犬の肉を使用した朝鮮半島の料理のことである。

 

 

「いいわ……やってあげるわ……!」

 

 

挑発に乗ったか。これでいい。

 

これが最後になると思ったのか、理子は目を瞑り、覚悟を決めていた。

 

 

「大丈夫だ理子」

 

 

俺は左手で理子の頭を撫で、右手でイヤリングを握る。

 

 

「俺のことは何度でも裏切れ。裏切って裏切って、切り捨ててもいい」

 

 

そしてっと付けたし、告げる。

 

 

 

 

 

「いつか、俺を信じてくれ」

 

 

 

 

 

「ッ……!」

 

 

自分の命が惜しくて裏切った?当たり前だ。死にたいなんていう奴はそうそういない。裏切って当然だ。そんなので裏切らないのは忠誠を誓った騎士か馬鹿な俺くらいだ。

 

 

「俺は理子に裏切ってもらえてよかった。こうして生きていることが、俺は安心している」

 

 

多分俺は理子が裏切らなかったら怒っていただろう。それで死んだら悲しんだはずだ。

 

 

「だから、俺はこの安心を手放すわけにはいかない。もう理子には(つら)い思いはさせたくない」

 

 

俺は理子に聞く。

 

 

「このままで、いいのか?」

 

 

理子は涙を流しながら、俺に告げる。

 

 

「……い……いやだよ……もう、いやだよ……!」

 

 

そうだよな。分かるよ、お前の気持ち。

 

 

 

 

 

「……自由に、なりたいよ……!」

 

 

 

 

 

「ああ、俺に任せろ」

 

 

 

 

 

理子は俺に抱き付き、涙をボロボロと流した。

 

その様子を見ていたヒルダはさらに不機嫌になる。

 

 

「裏切ったわね……いいわ、死になさい理子!」

 

 

(来るッ!!)

 

 

俺は【神格化・全知全能】を右目と右手に発動させた。

 

右目が黄金色に輝き、時間が止まったような感覚で陥った。

 

理子のイヤリングを見てみると、小さな亀裂がゆっくりと時間をかけて広がっていく。

 

イヤリングが壊れる瞬間をスローモーションで見えている。

 

 

(問題なのは毒蛇の腺液……イヤリングの破片が問題じゃない)

 

 

つまり、導き出される答えは……!

 

 

バチッ!!

 

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 

理子のイヤリングが砕けた瞬間、俺はすぐに理子の顔から右手を離す。

 

ポタポタと右手から何かの液体が流れていた。

 

 

 

 

 

それは毒蛇の腺液。大樹は毒を握っていた。

 

 

 

 

 

イヤリングの破片で傷ついた理子の耳から血が流れるが、腺液は一切入っていない。

 

 

「どうだ?覆してみせたぞ?」

 

 

俺の言葉にヒルダだけではなく、理子も、ティナも、夾竹桃も驚愕していた。

 

ヒルダは扇子を落とし、首を横に振りながら後ずさる。

 

 

「ありえん……そんなこと……」

 

 

「俺にはできる」

 

 

持っていたハンカチで毒を拭き取り、ハンカチを捨てる。

 

 

「不可能なんざ、いくらでも可能にしてやるよ」

 

 

「……いいわ、戦ってあげる。お前ごとき負けるはずがないもの」

 

 

ヒルダの背中からコウモリのような翼を広げた。壁に立て掛けてあった三叉槍(トライデント)を手に持つ。

 

 

「人間が高貴たる竜悴公姫(ドラキュリア)の私に勝てるはずが―――」

 

 

バシュンッ!!

 

 

「がはッ!?やられた!?」

 

 

「―――って何もしていないわよ!?」

 

 

大樹の右目は潰れ、右腕から大量の血が流れた。赤い鮮血が目から流れ、腕の血は赤い水溜りを作った。

 

 

「ヒルダッ!!何をした!?」

 

 

「何もしていないわよ!?」

 

 

理子が鬼の形相でヒルダに聞くが、ヒルダは困った顔で首を横に振るしかない。

 

 

「卑怯ね」

 

 

「だから何もしていないわよ!?」

 

 

「卑怯です」

 

 

「……………」

 

 

夾竹桃とティナにも責められ、ヒルダはもう何も言えなくなった。

 

 

「【神の加護(ディバイン・プロテクション)】」

 

 

右目と右腕が元通りになる。血が右目に入るが、制服の腕で拭き取った。

 

 

「さて茶番はこのくらいにして」

 

 

「ッ……人間の分際で……茶番だと―――」

 

 

ダンッ!!

 

 

俺が一歩踏み出した瞬間、音速でヒルダの背後を取った。

 

コルト・パイソンの銃口をヒルダの後頭部に突きつける。

 

 

「茶番だ。お前に俺を倒すことはできない」

 

 

「なッ……!?」

 

 

銃口を突きつけられたヒルダは動けなかった。振り向くことさえも、喋ることさえも。

 

それだけ大樹から恐怖を感じ、恐ろしいと、怖いと思ったからだ。

 

 

「お前はブラドと同じ、傷を瞬時に治す魔臓が4つある。場所は両腿の2つ」

 

 

ブラドと同じように目玉の模様がヒルダにもある。

 

 

「そ、それだけしか分からないのでしょう?」

 

 

「右胸の下、(へそ)の下……じゃないのか?」

 

 

「ッ!?」

 

 

どうやら図星だったようだな。

 

 

「な、何故それを!?」

 

 

「さぁな……それより俺の早撃ちなら一瞬で撃ち抜けると思うが……降参するか?」

 

 

ヒルダは額に汗をかきながら笑う。撃ってみろってことか?

 

 

「……別に俺は目玉の模様は狙わないぞ」

 

 

「……どういうことかしら?」

 

 

「自分が一番分かっているだろ、お嬢様」

 

 

俺は告げる。

 

 

 

 

 

「魔臓の位置を変えていることだ」

 

 

 

 

 

「「ッ!?」」

 

 

俺の言葉にヒルダと理子が驚愕した。やっぱり理子は知らなかったか。

 

 

「ど、どうして……闇医者の口は封じたはず……!?」

 

 

震えるヒルダの肩に俺は手を置く。触った瞬間、体がビクッと震えるが、俺は気にせず話す。

 

 

「今の俺なら魔臓の位置くらい特定できる。これでチェックメイトだな」

 

 

「ッ!」

 

 

ヒルダは床の影に溶け込み、姿を消した。どうやら逃げたようだが、

 

 

「そこだ」

 

 

ダンッ!!

 

 

動く影の行先を足で踏みつけると、動く影は止まった。俺も同じ吸血鬼だ。そのくらいの能力なら分かる。

 

顔を真っ青にしたヒルダがゆっくりと姿を影の中から現す。

 

 

「逃がさねぇよ。お前の罪は理子に裁かれるべきだ」

 

 

「ッ……!」

 

 

ヒルダは俺たちからゆっくりと距離を取り、壁に背を当てた。

 

 

(壁……いや、窓か!?)

 

 

ヒルダは窓の外に向かって三叉槍(トライデント)を突き刺した。

 

 

バリンッ!!

 

 

窓は豪快な音を立てながら粉々に砕け散る。ヒルダは窓から逃げるかと思ったが、槍を外に突き出したまま笑うだけだった。

 

 

「大樹!嫌な予感がする!」

 

 

理子も俺と同じのようだ。嫌な予感がする。

 

 

バチバチッ!!

 

 

ヒルダの周囲に青い電撃が弾ける。次第に電撃は強くなる。

 

オオカミたちはキャンキャンと鳴きながら外へと逃げ出す。

 

 

「やべぇな……逃げるぞ!」

 

 

俺は理子と夾竹桃を抱きかかえ、口でティナの制服の襟首を噛んだ。

 

 

ダンッ!!

 

 

高速で外に出た瞬間、背後から真っ白な光の閃光が俺たちを包んだ。

 

 

ガガァドゴオオオオオンッ!!!

 

 

脳の奥まで揺るがす爆音。激しい落雷が屋敷に向かって落ちた。

 

 

「「「「ッ!」」」」

 

 

落雷の衝撃で飛ばされたが、俺が下敷きになることで三人は無事。しかし、俺の制服がめっちゃ汚れた。

 

俺の腹や腕に乗った女の子たちは、屋敷の方を見て驚愕していた。俺も屋敷の方を見てみるが……!

 

 

「おいおい……雷だけでここまでなるかね……!?」

 

 

屋敷は炎に包まれ、ボロボロと崩れていた。

 

炎の奥に、ユラユラと揺れる影。それが誰なのか、俺たちには分かってしまった。

 

 

「生まれて三度目だわ。第三態(テルツァ)になるのは」

 

 

バチンッ!!

 

 

激しい青白い電撃が弾け飛ぶと、真っ赤に燃えていた炎が消えた。あの電撃に触れるだけで黒焦げになってしまうだろ。

 

ヒルダのリボンは燃え尽き、長い巻き毛の金髪が荒々しくなびく。

 

 

「何だよ。下着だけになるのが第三形態なのか?」

 

 

蜘蛛の巣状のタイツと耐電性がある下着とハイヒールしか残っていない。雷が無かったら、そんな悪魔みたいな姿にならなかったのにな。

 

 

「それがお前の最後に見る美しい私の姿……目に焼き付けるがいいわ」

 

 

「バチバチ光って見にくいって冗談言ってる場合じゃねぇか……」

 

 

「おーッほほほほッ!!神に近い姿。いえ、神の私に怖れなさい!涙を流して!命乞いするのよ!」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

 

三叉槍(トライデント)を振り上げると、大砲でも撃ったかのような轟音が響き渡った。

 

三叉槍(トライデント)から放たれた電撃は辺り一帯に電撃が降り注ぎ、地面を抉り取り、炎の壁を作り上げた。

 

 

「もう駄目だよ……」

 

 

理子が俺の腕を掴んだ。表情は暗く、涙を流していた。

 

 

「勝てない……大樹でも勝てない」

 

 

「……今の俺は弱い。でもな―――」

 

 

吸血鬼の力があればヒルダとまともに戦えただろう。

 

刀が使えればヒルダを斬れただろう。

 

長銃があればヒルダを撃てただろう。

 

だが、今の俺には無い。

 

それでも、俺は……!

 

 

 

 

 

「お前を守るために、俺は逃げない」

 

 

 

 

 

逃げ出さない。

 

理子が首を横に振りながら俺の腕を強く掴んだ。悪いな。

 

 

「待っていてくれ」

 

 

俺は理子の掴んだ制服を脱ぎ捨て、理子から逃れる。

 

上半身は制服の中に着ていたカッターシャツだけになる。これで動きやすいが、防弾はなくなった。でもヒルダは銃を使わないしいいか。

 

ネクタイを外し、ホルスターから銃を取り、邪魔になったホルスターを外した。

 

 

「ヒルダ。俺はこれでも武偵だからな。殺さないから安心しろよ」

 

 

「愚かな……この戦争は命を懸けるのは暗黙のルール……私はお前を殺すぞ」

 

 

「大丈夫。殺された経験は二回くらいある。もう死なねぇよ」

 

 

正直、これは危ない。

 

本当に死ぬかもしれない。だけど、

 

 

(俺にはやることがある……)

 

 

全てを終わらすまで、俺は死ねない。

 

 

「今の私は触れるモノを全てを、焦がしてしまう……」

 

 

バチバチバチバチッ!!!

 

 

ヒルダは三叉槍(トライデント)を空に向かって突き出すと、槍の先に青白の雷球が出現した。

 

高電圧ってレベルじゃない。超高電圧だ。

 

 

バチンッ!!

 

 

ポケットに入れていた携帯端末が壊れ、持っていたコルト・パイソンも粉々に壊れた。触れてもいないのに、金属類が壊れやがる。

 

 

竜悴公(ドラキュラ)家の奥伝【雷星(ステルラ)】。これで黒焦げにしてあげる」

 

 

「ハッ!笑わせるなよ!」

 

 

拳を握り絞め、構える。

 

 

「俺が痺れるのは……黒焦げになるのは……美琴の電撃だけで十分だ!」

 

 

「それがお前の最後の言葉よ!!」

 

 

ヒルダが槍を俺に向かって振るう。

 

 

「【雷星(ステルラ)】!!」

 

 

バチバチッ!!

 

 

ついに青白い雷球が代気に向かって放たれた。

 

雷球から溢れ出る電撃が地面を削りながら突き進む。

 

その破壊力は火を見るより明らか。触れれば黒焦げで済むわけがない。

 

 

「【無刀の構え】」

 

 

同時に【神格化・全知全能】を右手に発動する。

 

本日二回目の仕事だ。右手(お前)には頑張ってもらうぜ!

 

右手には黄金のオーラが纏い、力が何倍にも膨れ上がる。

 

 

「【神殺天衝(しんさつてんしょう)】!!」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!

 

 

雷球の真正面から右手だけで挑む。

 

耳の鼓膜を破ってしまうかのような轟音が響き渡る。

 

俺は一度、同じような経験をしたことがある。

 

一条(いちじょう)との戦いで高電離気体(プラズマ)を拳一つで戦ったあの時だ。

 

その時は余裕であったが、これは余裕ではない。この雷球は高電離気体(プラズマ)とは格が違う。

 

右手が焼けるように熱い。190度を超える鉄板を手で触ったような感覚。

 

痛い。でも、こんな慣れた痛みは俺には通じない。

 

理子の今までの(つら)い過去を考えれば、どうってことない。

 

 

「【神格化・全知全能】!!」

 

 

左手に黄金のオーラが纏った。俺は左手を力一杯握り締める。

 

 

 

 

 

「【双撃(そうげき)・神殺天衝】!!!」

 

 

 

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!

 

 

二回目の轟音が鳴り響いた。

 

雷球が形を歪ませ、激しく電撃を散らす。

 

 

「吹っ飛べえええええェェェ!!!」

 

 

バチバチバチンッ!!

 

 

雷球の電撃が暴れ出し、四方へと散らばり消滅した。

 

光源となっていたモノは無くなり、辺りは暗闇に包まれた。

 

目の前で起きたことが信じられなかったヒルダは顔を真っ青にして後ずさりしていた。

 

力を出したヒルダに、青白い光は残っていない。また力を出すには時間が必要だ。

 

 

「そんな……これは、これは悪夢……悪夢なんだわ……だっておかしいもの……!」

 

 

「何もおかしくねぇよ」

 

 

黒焦げになったカッターシャツを脱ぎ捨て、上半身裸になる。【神格化・全知全能】の代償で腕が吹き飛んだが、すぐに【神の加護(ディバイン・プロテクション)】で治した。最近、よく腕がなくなるな。

 

俺はヒルダに向かって歩き出す。

 

 

「俺がお前より強かった。ただそれだけだ」

 

 

「よ、寄るな!」

 

 

「お前の負けは確定した。さっきの借りは返してもらうぞ!」

 

 

拳を握り締め、大樹はヒルダとの距離を詰める。

 

 

「キャアッ!?」

 

 

ヒルダは腰を抜かし、尻餅をつく。両腕で顔を隠し怯える。

 

 

「オラァ!!」

 

 

「ッ!?」

 

 

「ゴラァ!!」

 

 

「ッ……!」

 

 

「ドスコイッ!!」

 

 

「ッ……?」

 

 

いつまで経っても殴られないヒルダはゆっくりと腕をどかし、大樹を見た。

 

大樹は拳を振るわず、そのまま回れ右。何事も無かったかのように歩きだした。

 

 

「こ、殺さないのか……?」

 

 

何もしない大樹の不可解な行動にヒルダは思わず聞いてしまった。

 

 

「言っただろ。命なんか取らねぇって」

 

 

「……お前は馬鹿なのか?このままわたしを野放しにするつもりなのか?」

 

 

「野放しになりたくねぇの?ペットにでもなりてぇのかよお前は」

 

 

「……『戦役(せんえき)』に参加して敗北した者は死ぬか配下になるのが普通なのよ」

 

 

「別に俺は『戦役』に参加してねぇし」

 

 

遠山は参加しているよな。ハハッ、ざまぁ。……国際指名手配犯の俺が一番ざまぁだよな。

 

 

「だが、やることがあるとすれば」

 

 

俺はヒルダの方を振り返る。

 

 

「もう理子をいじめるなよ」

 

 

たった一言だけヒルダに告げて、俺はみんなの元へと歩きだした。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。