どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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今日は心がピョンピョンする話だと私は信じてる。




幸せな苦労生活

【午前7時】

 

 

「大樹さん。起きてください」

 

 

黒ウサギは床に敷いた布団に寝てる大樹を起こす。

 

大樹は幸せそうな顔をして寝ていたが、黒ウサギの揺さぶられて目を覚ます。

 

 

「……おやすみ」

 

 

「また寝ようとしないでください」

 

 

「今日は子どもたち(アイツら)がいない。ゆっくり寝れるのは今日だけだ」

 

 

いつも子どもたちに囲まれて寝ている人気者の大樹。しかし、昨日はソーラーパネルを取り付けるのに時間が掛かり、夜中まで作業をしていた。子どもたちは大樹と一緒に寝ることを諦め、別の部屋で眠っていた。

 

 

「だから寝させてくれ」

 

 

「ダメですよ。今日は民警の仕事が入ってるじゃないですか」

 

 

「アレ、モヤシを多く買うための口実だぞ」

 

 

「……本当ですか?」

 

 

「ああ」

 

 

黒ウサギはこのまま大樹を起こすかどうか考えたが、

 

 

「起きてください」

 

 

「何故だ」

 

 

「一緒にコーヒーを飲みましょう」

 

 

「なるほど……そう来たか……!」

 

 

普段の大樹なら速攻で行くだろう。二人っきりでコーヒーを優雅に飲む。『いいね!』と心の中で大樹は鼻血を流していた。

 

しかし、この時は違った。

 

絶対に寝たい。その信念が彼を新たな道を生み出す。

 

 

「このまま一緒に寝るのはどうだ?」

 

 

「ッ!?」

 

 

これぞ、大樹の策である。

 

黒ウサギの好意を知った大樹。それ利用した屑そのものである。

 

 

「……いいのですか?」

 

 

「おう、いいぜ」(だが手は絶対に出さない)

 

 

紳士なのか屑なのかよく分からない男である。

 

 

「で、では……」

 

 

「お、おう……」

 

 

黒ウサギが布団をめくり、入ろうとする。

 

 

「「ん?」」

 

 

その時、モゾモゾと布団が動いた。

 

大樹と黒ウサギの視線が合う。

 

ゆっくりと布団をめくると、

 

 

「ティナ……!?」

 

 

驚愕する大樹と黒ウサギ。

 

現れたのは大樹のお気に入りのブカブカのTシャツを着て、寝ているティナだった。

 

最悪なことにティナはTシャツだけだ。ズボンは穿いていない。

 

パンツは分からない。でも、穿いてないように見えてしまうのが不思議。だから、

 

 

「大樹さん……」

 

 

「待って。お願い。待ってよ。ねぇ話を聞いて。俺、何も知らない。無罪。冤罪。誤解。頼む。そのハリセンを……って何で反対の手に【インドラの槍】を持ってみたの?ちょっと!?それは―――!?」

 

 

こうして、騒がしい朝となった。

 

 

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【午前9時】

 

 

モヤシのバーゲンセール激闘を勝ち抜いて、戻って来た大樹と蓮太郎と木更。

 

三人は教会に戻り、大樹は朝ごはんの用意をする。

 

彼の作ったモヤシ料理は食材をランクアップさせる。

 

テーブルの上に大樹は料理を次々置いて行く。右からモヤシのステーキ、モヤシのスパゲッティ、モヤシのから揚げ、モヤシのグラタンなどなど。

 

普通の家庭料理より上の料理に進化してしまう。

 

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

 

みんなで手を合わせ、豪華な朝ごはんを頂く。

 

 

「その怪我どうしたの?」

 

 

「転んだ」

 

 

ボロボロになった大樹を見た優子が尋ねるが、大樹は嘘をつく。当然、それが嘘だとみんなは理解している。しかし、これ以上踏み込まないのは『またやらかしたか』とみんな思っているからだ。

 

その時、大樹の隣に座ったティナが口を開けて待っているのに気付いた。

 

 

「いや、自分で食おうぜ?」

 

 

「そんな……あの時の優しい大樹さんはどこに行ったのですか?」

 

 

「ここにいるけど」

 

 

「あんなこと初めてで……」

 

 

「たこ焼きだよ!みんな勘違いしないでね!?」

 

 

「……もうしてくれないんですか?」

 

 

「分かったから!もう喋るな!」

 

 

大樹はモヤシのステーキをフォークで刺し、ティナに食べさせる。

 

 

「だ、大樹さんの……大きいです……」

 

 

「待ってくれよ優子!ステーキだろ!?ちょっと大きく切ってしまっただけだろ!?何でナイフ持つんだよ!その持ち方はさすがに違うよ!?え?肉を切るから同じでしょって!?い、嫌だ!死にたくな―――!?」

 

 

こうして、騒がしい朝食となった。

 

 

 

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【午後2時】

 

 

「ねぇ大樹君」

 

 

「んあ?」

 

 

ソファに寝っ転がって寝ていた大樹。目を開けると真由美と目が合った。

 

 

「この服、どうかしら?」

 

 

真由美の来ている服はサマードレス。今回着ているドレスは白では無く、水色のドレスだった。

 

柄などはなし。だがそのシンプルさが良かった。

 

 

「に、似合ってる」

 

 

「ホントかしら?」

 

 

「本当だ。その……可愛い」

 

 

「あ、ありがとう……」

 

 

二人の間に気まずい空気が流れるが、

 

 

「大樹さん。写真、ありがとうございました」

 

 

ティナが写真を持って大樹と真由美に寄って来た。

 

 

「あら?この写真って……」

 

 

「ああ、今まで俺が取って来た記念写真だ。友達がわんさか写ってるぞ」

 

 

大樹の友達がたくさん写っており、みんな笑っていた。もちろん、そこに真由美の姿もある。

 

 

「大樹さんの写真、とっても面白かったです」

 

 

「そりゃよかった」

 

 

「大樹さんはメイド服が大好きなんですね」

 

 

「……………ん?」

 

 

「これです」

 

 

ティナが見せた一枚の写真。そこには美琴とアリア。そして優子と大樹が写った写真だった。

 

女の子はメイド服を着ており、大樹は執事服を着ている。問題なのは、『メイド服こそが最強』と俺の落書きした文字。

 

 

「今度、私のメイド服姿、見て頂けますか?」

 

 

「いや、あの、ちょっと、それは、あの、あの―――」

 

 

「……ご主人様?」

 

 

「―――よし、全部見てやる」

 

 

「だーいーきーくーん?」

 

 

「真由美!?違うんだ!これはコスプレの中で俺が一番好きなのはメイド服だけであって常に着てほしいというわけではないんだ!ってCAD!?その魔法式は【ドライ・ブリザード】じゃねぇ!?絶対痛いからやめ―――!?」

 

 

こうして、騒がしい午後となった。

 

 

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【午後4時】

 

 

 

「里見と木更。そして延珠ちゃんが学校から帰って来たので授業を始めたいと思います」

 

 

「先生!どうして頭が凍っているのですか?」

 

 

「趣味だ」

 

 

子どもたちがドン引きしたが大樹はスルー。もうどうでもいいやっと大樹は諦めていた。

 

大樹は蓮太郎と木更に先生を交代。大樹は教会の隅にある椅子に座った。

 

蓮太郎と木更は子どもたちにプリントを配る。しかし、

 

 

「俺も?」

 

 

大樹も渡された。

 

 

「いいから持っとけ」

 

 

蓮太郎に無理矢理渡されたプリントは作文用紙だった。

 

 

「今から将来の夢を書いてもらう」

 

 

「何で俺も書くんだよ!?」

 

 

「反省文でもいいらしいぞ」

 

 

大樹は全てを理解した。これを仕組んだのは彼らではないことを。

 

この部屋の後ろでニコニコしている三人の女の子だと。

 

 

「は、反省文書きます」

 

 

「苦労してるな」

 

 

大樹は同情された。

 

10分後、大樹たちは書き上げて発表となった。

 

 

「じゃあまずはお手本を見せましょうか」

 

 

「おい天童。それは俺から発表しろってことなのか」

 

 

「やったほうがいいわよ?」

 

 

『クソッ、覚えとけよッ』と大樹は愚痴る。

 

仕方なく大樹は立ち上がり、読み上げる。

 

 

「俺の将来の夢は―――」

 

 

「反省文じゃねぇのかよ」

 

 

「―――とりあえず幸せな生活を送れたらいいなと思います」

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

「何だよ……その目は……」

 

 

「い、意外にまともなことを言うのね」

 

 

「天童。お前とは一度話し合わないといけないみたいだな」

 

 

大樹がジト目で木更を見るが、木更は目を逸らして合わせようとしなかった。

 

 

「ほら、続きを読めよ」

 

 

蓮太郎にそう言われ、大樹は続ける。

 

 

「いや、特にない」

 

 

「それだけかよ!?」

 

 

「書く事ないもん」

 

 

大樹は紙を放り投げる。そこには本当にそれだけしか書かれていなかった。

 

 

「簡単でいいんだよ。いいかよく聞け。未来のことは誰にも分からないんだよ。中卒の人が将来大手企業会社の社長になったり、東大生がコンビニの店員になったりすることだってある。誰にも分からないんだよ将来は。学校でこんな作文を書くのは何故か?それは自分を見つめ直すためだ。今の自分が本当にそれでいいかってな。この作文がきっかけで夢を実現する人だっている。『俺は宇宙飛行士になりたい!』って一言書いて、そいつが死ぬほど努力し続けて、実現したらそいつの勝ちだ。ダラダラと何枚も文章書いて、ダラダラ過ごして、実現できなかった人は負け。そうやって自分を変えるために作文を書くんだよ。ほら、簡単だろ?」

 

 

「「「「「深いッ!!」」」」」

 

 

「そうかぁ?」

 

 

道徳の成績が高い大樹であった。

 

 

「まぁとりあえず出来た人から俺のところに持って来い」

 

 

「何で俺だけ公開処刑……」

 

 

「出来た!」

 

 

手を挙げたのは延珠。蓮太郎が嫌な顔をした。

 

延珠は蓮太郎の元に行き、紙を渡す。

 

 

『妾の将来の夢は、蓮太郎のお嫁さんになって毎日好きなだけチュッチュすることです』

 

 

「チッ、幸せ者が」

 

 

「おい!見るなよ!」

 

 

大樹が盗み見て舌打ちをした。

 

 

「出来ました」

 

 

今度はティナが立ち上がった。ティナは蓮太郎に紙を渡す。

 

蓮太郎は読み終わった後、ニヤニヤと笑みを浮かべた。その顔を見た大樹は、

 

 

「うわぁきめぇ」

 

 

「うるせぇよ。というか、ほら」

 

 

「は?」

 

 

蓮太郎はティナの作文を大樹に渡す。

 

 

 

 

 

『私の将来の夢は、大樹さんのお嫁さんになって毎日好きなだけチュッチュすることです』

 

 

 

 

 

ティナは恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。

 

大樹はティナの頭を優しく撫でた後、ゆっくりと立ち上がり、作文を持って教会の窓から出ようと―――

 

 

「「「はい、ストップ」」」

 

 

「\(^o^)/」

 

 

優子は大樹の右腕を掴み、黒ウサギは大樹の左腕を掴んでいた。

 

真由美は大樹の持った作文を取り上げる。しかし、大樹は告げる。

 

 

「責めるなら、俺を責め―――!」

 

 

こうして、騒がしい授業が終わった。

 

 

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【午後8時】

 

 

 

「ヤバいよ……今日は死ねる……」

 

 

楢原 大樹は正座していた。

 

目の前には腕を組んだ三人の可愛い女の子。優子、黒ウサギ、真由美だ。

 

今日の出来事に関して物申したいらしい。

 

 

「ねぇ大樹君」

 

 

優子の声に大樹は背筋をさらに伸ばす。

 

 

「ティナちゃんにくっつき過ぎじゃないかしら?」

 

 

「そ、そんなこと―――」

 

 

「かしら?」

 

 

「―――あります。超あります」

 

 

大樹の体が小刻みに震える。

 

次に黒ウサギが説教する。

 

 

「ずっとくっついていますよね。一日中くっついていますよね?」

 

 

「いや、そんな大袈裟な―――」

 

 

「くっついていますよね?」

 

 

「―――ずっとくっついていました」

 

 

大樹の体がさらに大きく震えだす。

 

最後に真由美が説教する。

 

 

「仕方ないわね。じゃあ明日、私とデートしてくれたら許してあげるわ」

 

 

「よしキタ」

 

 

「「タイム!」」

 

 

しかし、真由美の提案を優子と黒ウサギは許さない。

 

 

「真由美さん!?どうして毎回いいところだけ獲ろうとしているのかしら!?」

 

 

「優子さん。私は大樹君の妻なのよ?」

 

 

「あの世界だけでしょ!?」

 

 

「あの世界でしたら黒ウサギは毎日大樹さんと一緒に寝ています」

 

 

「おーい!誤解を生む言い方はやめてくれー!」

 

 

二人の言い争いに入れない優子。優子は涙目で大樹を睨む。

 

 

「大樹君!!」

 

 

「ひゃいッ!!」

 

 

「アタシのこと……嫌いになったの?」

 

 

「愛してるから安心しろ」キリッ

 

 

そこで大樹は気付いた。また同じ失敗をしていると。

 

ゆっくりと黒ウサギと真由美の方を見ると、二人は笑顔。

 

っと言うのは建て前。目が笑ってない。

 

 

「大樹さん」

 

 

「……はい」

 

 

「黒ウサギのことは?」

 

 

「愛してます」

 

 

大樹は思った。『愛している』を言う時は恥ずかしいと思っていたが、まさか恐怖を感じる日が来るとは。

 

 

「大樹君?」

 

 

「…………はい」

 

 

「私のことは、どう思っているのかしら」

 

 

「愛してます」

 

 

大樹は思った。このままでは終わらないこと。

 

 

「大樹さん。黒ウサギはあの日のことをしっかりと聞きました」

 

 

(俺がみんなを幸せにするって言ったあの日か?)

 

 

「『黒ウサギを嫁にする』っと」

 

 

「ちょい待てや」

 

 

大樹が止めようとするが、真由美が続ける。

 

 

「私も言われたわ。『娘さん……真由美を俺にください』って」

 

 

(あぁ……それは言った……)

 

 

真由美の言葉は止めれなかった。それを見ていた優子は、

 

 

「あ、アタシだってあるわよ!」

 

 

「そ、そうか」

 

 

「えっと………!」

 

 

「……………?」

 

 

「……………」

 

 

「……………」

 

 

「…………………………」

 

 

「…………………………」

 

 

すっっっっっごく沈黙が長く続いた。

 

そして、優子は涙目で大樹に訴える。

 

 

「大樹君……!」

 

 

「言うよ!今から言うよ!何回でも言うから泣かないでくれ!!」

 

 

「じゃあ言ってよ!」

 

 

「愛してる!!」

 

 

「その上の言葉がいい!」

 

 

「うえ!?」

 

 

大樹は上の言葉を考える。そして、思いついた。

 

真剣な表情をした大樹は告げる。

 

 

「愛してる!愛してer(ラー)!愛してest(エスト)!」

 

 

まさかの比較級。

 

それを聞いた優子は腰に手を当てて、黒ウサギと真由美に向かって言う。

 

 

「羨ましいでしょ?」

 

 

「「えッ!?」」

 

 

(優子が壊れたあああァァ!!)

 

 

そんな優子の姿を見た大樹は手を顔で隠し、膝をついた。精神がガリガリと削られているのはある意味大樹である。

 

 

「だ、大樹君!他にないの!?」

 

 

「まだ言うの!?」

 

 

「だって全然悔しそうじゃないじゃない!?」

 

 

「悔しがらせたいのかよ!?」

 

 

大樹が必死に言葉を考える。その時、

 

 

ガチャッ

 

 

「ここにいたんですか」

 

 

「「「ッ!?」」」

 

 

ティナが入って来た。

 

 

(やべぇ、カオスの予感)

 

 

大樹はゆっくりと後ろに下がろうとする。

 

 

「大樹さん。この前の話ですが……」

 

 

(このタイミングでその話はらめえええェェ!!)

 

 

「へぇ……アタシも聞きたいわね……」

 

 

「はい……黒ウサギも興味があります……」

 

 

「そうね……私も気になるわ……」

 

 

(Oh……)

 

 

大樹はそのまま正座に移行。その場で綺麗に正座をした。

 

 

「あの、えっとですね……ティナと……」

 

 

「「「ティナと?」」」

 

 

「……服を買いに行く約束をですね」

 

 

しかし、ここでティナが爆弾を投下する。ティナは悲しげな表情で告げる。

 

 

「デートじゃなかったんですか……?」

 

 

「ははッ、結局こうなるって知って―――!」

 

 

こうして、騒がしい夜となった。

 

 

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【大樹視点】

 

 

ドーモ、楢原 大樹です。まぁニンジャ殺さないけど。

 

現在、街のショッピングモールに来てる。目的はもう分からなくなった。

 

俺の右隣りには黒ウサギ。その隣には優子。左隣にはティナ。その隣には真由美。

 

仲良く並んで買い物中だ。四人とも可愛い服装なので、俺も今日はキメて来た。

 

今日のTシャツはなんと無地なのだ!……本当はいつも通り『一般人』で行こうとしましたサーセン。嫁に止められたから仕方ない。

 

黒ズボンで長さは膝下まで。暑いから長ズボンはもう穿かないぜ。

 

 

(さて……ここからどうするか……)

 

 

仕方ない。あの人に頼るか。

 

 

(選択肢先輩!!出番です!!)

 

 

1.呼んだ?

 

 

(キタアアアアアァァァ!!!)

 

 

2.洋服屋に行く。

 

 

(そ、そうですね……ティナの服を買いに来るのが目的でしたし……)

 

 

3.ランジェリーショップに行く。

 

 

(先輩。セクハラを通り越して犯罪ですよ)

 

 

「よし、洋服見に行こう。欲しいモノがあったら言えよ。護衛任務で入った金がたんまりあるから」

 

 

やはり洋服店に行くのが妥当と判断した。最後はNOです。

 

俺の意見を聞いたティナは提案する。

 

 

「でしたら大樹さん。私、行きたいお店があります」

 

 

「あやや、実は黒ウサギも見に行きたい店があるのですよ」

 

 

「アタシもあるわね」

 

 

「私もあのお店に行きたいのよ」

 

 

ティナに続いて黒ウサギ、優子、真由美が続いた。何か見事に店がバラバラなんだが。

 

とりあえず、俺の意見としては……。

 

 

「じゃあ順番に近いところからみんなで回るってことで―――」

 

 

「では、大樹さんを30分ずつレンタルするということでいいですね」

 

 

「「「異議なし」」」

 

 

大アリな人がここにいまーす!

 

何だこれ。仕組まれていたかのような連携。見事すぎる。

 

 

(……どうします先輩?)

 

 

4.ランジェリーショップにGO。

 

 

(よし、洋服屋だな!)

 

 

 

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【大樹&優子】

 

 

 

「最初に言っておく。俺のセンスに期待するな」

 

 

「安心して。最初からしないわ」

 

 

そうですか。

 

俺と優子との30分デート。幕を斬りました。ズバシャン!

 

 

「私が2着服を持ってくるからどっちの色が似合ってるか言ってちょうだい」

 

 

「分かった」

 

 

というわけ正解率50%の問題です。アタックチャーンスッ。

 

 

「じゃあさっそくだけど……どっちがいいかしら」

 

 

優子は白と緑のワンピースを俺に見せる。さて、一応先輩の意見も聞きますか。

 

 

1.試着させてから判断する。

 

 

(お前ッ……………天才かッ!?)

 

 

「優子。あっちに試着室があるから着て見ようぜ」

 

 

「えッ!?」

 

 

しかし、ここで俺の表情はニヤニヤしない。真顔だ。『え?何かおかしいこと言った?』みたいな顔をする。(ゲス顔)

 

 

「……わ、分かったわ」

 

 

(よし!)

 

 

2.よし!

 

 

頬を赤くした優子は試着室の中に入り、カーテンを閉じる。

 

 

3.カーテンを開ける。

 

 

「犯罪ですよ先輩」

 

 

今日の選択肢先輩は犯罪になりそうな選択が多い。

 

1分くらい待った後、カーテンが開かれた。

 

 

「ど、どうかしら……」

 

 

恥ずかしがりながら出て来た優子。白いワンピースを着た姿は可愛く……。

 

 

4.抱きしめたい。

 

 

「そう、抱きしめたいくらい可愛い」

 

 

「ッ!?」

 

 

し、しまった!?つい声に出してしまった!

 

優子は顔を真っ赤にしてカーテンを閉める。

 

 

5.そして開ける。

 

 

「やめい」

 

 

「ねぇ……大樹君」

 

 

カーテンの向こうにいる優子が俺の名前を呼ぶ。

 

 

「もう1着も……見て貰っても、いいかしら?」

 

 

「お願いします」

 

 

気が付けば俺は腰を90°に折り、お願いしていた。

 

また1分くらい待つと、カーテンが開いた。

 

 

「……どう?」

 

 

さっきより顔を赤くした優子。緑のワンピースは白のワンピースとはまた違った味が出ていた。

 

上目遣いで俺に聞くその姿がとても可愛くて、俺も顔を真っ赤にした。

 

 

「あ、あの、その、似合って……可愛いッ」

 

 

6.まだ褒めろ!

 

 

「優子にピッタリな服だ!似合っているッ!」

 

 

7.まだまだ!!

 

 

「えっと、だからとても綺麗で美しいッ!」

 

 

8.とどめだ!

 

 

「嫁にしたいくらいだッ!!」

 

 

ってやりすぎじゃない!?

 

気付いた時には遅かった。店内にいた客が全員こちらを見ていた。女の店員さんなんか口を抑えて顔を真っ赤にして俺たちを見ていた。

 

しかし、一番恥ずかしいのは俺では無い。

 

 

「……ば」

 

 

「ば?」

 

 

「ばかアアアアアァァァ!!!」

 

 

バチンッ!!

 

 

「あふんッ!?」

 

 

顔を真っ赤にした優子に強烈なビンタをくらった。フッ、これは俺が悪いな。

 

 

9.グッドラック。

 

 

(おう、グッドラック)

 

 

後悔はなかった。不思議だね!

 

 

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【大樹&黒ウサギ】

 

 

 

「とりあえず俺にギフトカードを預けろ」

 

 

「ダメです☆」

 

 

ふえぇ……【インドラの槍】が怖いよぉ。

 

また新しい店に来た俺と黒ウサギ。しかし、そこは服屋ではなかった。

 

 

「服は見なくていいのか?」

 

 

「はい。黒ウサギは問題ないです。大樹さんは嫌でしたか?」

 

 

「いや、俺もちょうど喉が渇いていたから嬉しいけど」

 

 

来た店はオシャレなカフェ店だった。

 

店員にトマトジュースを注文しようとしたが『黒ウサギに任せてください』と言ったので注文を任せた。

 

 

「な、なぁ……何を頼んだんだ?」

 

 

「来てからのお楽しみです」

 

 

あははッ、ドキドキする。悪い意味で。

 

 

「そういえば最近、耳のこと子どもたちに教えたんだな」

 

 

「はい。その日はずっと人気者でした」

 

 

今まで帽子(シルクハット)を被っていたからな。今日は黒ウサギお気に入り、大きなツバがある真っ白な帽子だ。

 

 

「優子と真由美にもウサ耳があるんじゃないかって子どもたちがずっと疑っていたな」

 

 

「そう言えば大樹さんは疑われませんでしたね?」

 

 

「ああ、まぁな」

 

 

「どうしてでしょうか?」

 

 

「さぁ?心当たりがあるとすれば……トマトばっか食っているから?」

 

 

「……まさか吸血鬼のことを?」

 

 

「話してないけど、子どもたちは勘がいいからなぁ……」

 

 

「そうですね。黒ウサギのウサ耳も初日から疑われていましたから」

 

 

(いや、初日は多分シルクハットだと思う)

 

 

「お待たせしました!」

 

 

その時、店員がテーブルに大きなグラスを置いた。グラスの中にハート型のストローが二本入っている。え?二本?

 

 

「ドキドキ!カップルジュースです!」

 

 

「黒ウサギ!?」

 

 

ウチの嫁、ホントに攻めて来るな!?

 

 

1.俺の出番は……!?

 

 

(多分ないですね……)

 

 

「大丈夫です。味はクリームメロンソーダですから」

 

 

「何が大丈夫か全然分からないよ黒ウサギ」

 

 

客の視線が痛い。男たちの口の動き、読唇術で読み取ると『爆発しろ』だもん。恐ろしい。

 

 

「く、黒ウサギから先に飲んで―――」

 

 

「一緒に飲みましょう」

 

 

「―――ですよね」

 

 

しかし、そう言われても俺たちはストローを咥えようとしない。

 

 

(恥ずかしい!これ恥ずかしいぞ!?)

 

 

よくリア充はこんなこと簡単にできるんだよ!?

 

 

2.ここで先に咥えられたら……お前もリア充じゃね?

 

 

(コイツ……………やっぱり天才だッ!!)

 

 

俺はすぐに実行。ストローを咥えた。

 

 

「「!?」」

 

 

しかし、黒ウサギとタイミングが同じになってしまった。

 

目と目が合う。互いの顔は真っ赤だ。

 

 

3、はよ飲め。

 

 

(無理だ。口が動かねぇ……)

 

 

「「……ッ!」」

 

 

バッと俺と黒ウサギは同じタイミングでストローを放した。

 

俺と黒ウサギは顔が真っ赤。黒ウサギは手で顔を抑えながら、

 

 

「やっぱり恥ずかしいです……!」

 

 

(それを先に言うのは反則じゃねぇ!?)

 

 

だったら頼むなよ!

 

俺の顔もさらに赤くなる。ちくしょう!可愛すぎる!

 

 

4.パフェを頼む。ニヤリッ。

 

 

(何だよその選択肢……………あッ!)

 

 

俺はその選択肢の意図に気付いた。クックック、分かっているぜぇ先輩。

 

 

「すいませーん」

 

 

俺は店員さんを呼び、パフェを頼んだ。黒ウサギが不思議そうな顔で俺を見ている。

 

5分後、パフェが到着した。テーブルにイチゴパフェが置かれる。

 

 

5.さぁ行け!

 

 

(任せろ!)

 

 

「はい、あーんッ☆」

 

 

「えッ!?」

 

 

6.お前がするのかよおおおおおォォォ!!

 

 

(しまったあああああァァァ!!)

 

 

手に持ったスプーンが震える。間違えた。黒ウサギにさせるつもりが自分でしてしまった。

 

 

「……あ、あーん」

 

 

黒ウサギはゆっくりと口を開けて、クリームを食べた。

 

 

「……………ど、どうでしょう?」

 

 

俺が感想を尋ねると、黒ウサギは帽子をさらに深く被る。

 

 

「……大樹さんの……バカ」

 

 

可愛いいいいいィィィ!!!

 

何この小動物!?お持ち帰りOKですか!?めちゃくちゃ可愛いんだけど!?

 

 

7.落ち着け。

 

 

ヤバい!写メ撮りたい!いや、脳内に永久保存を完了させて―――!

 

 

8.駄目だコイツ。はやく何とかしないと。

 

 

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【大樹&真由美】

 

 

「やっぱり服じゃないのか」

 

 

「私はこの前買ったばかりだから大丈夫なのよ」

 

 

そう言えば俺に見せましたね。というか今着ているけど。

 

次に訪れた場所はゲームセンター。真由美がキラキラとした眼差しで店内を見渡す。

 

 

「凄いわ!いろんなモノがあるのね!」

 

 

「まぁあの世界にはこんな場所、無かったからな」

 

 

「失礼ね。遊園地くらいはあるわよ!」

 

 

「こっちにもあるわ」

 

 

しかし、魔法で動くアトラクションは乗ってみたかった。今度は絶対に行こうと思う。

 

 

1.やっぱりここはUFOキャッチャーでいいところ見せよう。

 

 

(今日は凄く仕事しているな)

 

 

過労死しそう、選択肢。

 

 

「ねぇねぇ大樹君。あれにしましょ!」

 

 

真由美は俺の袖を引っ張りながら指を差す。

 

 

「ぷ、プリクラか……!」

 

 

「どうして身構えるのよ……」

 

 

何故だろう……あれは後々大変なことになりそうな気がする。

 

 

「ほら!行きましょ!」

 

 

「あ、ちょッ!?」

 

 

俺は真由美に腕を引っ張られ、プリクラ機の中へと連れ攫われてしまう。

 

お金を入れてニコニコしながら設定する真由美。隣では不安そうな顔をしている俺。なんだこのテンションの違いは。

 

 

2.荒ぶる鷹のポーズ

 

3.コマネチ

 

4.ドーモ、ニンジャ〇レイヤーです

 

 

まともな選択肢ねぇな!

 

 

「大樹君!もう写るわよ!」

 

 

「えぇ!?」

 

 

ポーズ決めてない!?

 

しかし、決める余裕は無くなってしまった。

 

 

「えい!」

 

 

真由美は俺の腕に抱き付いてきたからだ。

 

 

「おまッ!?」

 

 

パシャッ!!

 

 

俺が何かを言う前にカメラのシャッターが切られた。フラッシュが眩しい。

 

真由美の方を見てみるとニコニコしながら俺の顔を見ていた。

 

 

「ほら、まだ撮るわよ」

 

 

「待て待て!腕から放れろよ!?」

 

 

当たってるから!何が当たってるのか言わないけど、当たってるから!

 

 

「えい!」

 

 

「うおッ!?」

 

 

今度は俺の首に手を回して抱き付いて来た。真由美の頬と俺の頬がくっつく。あと真由美のあれがああああああァァァ!!

 

 

パシャッ!!

 

 

そして、またシャッターが切られた。

 

 

(だ、大丈夫だ……あと一回……耐えられれば……!)

 

 

5.これで終わっていいのか!?

 

 

(せ、選択肢先輩……!?)

 

 

6.ここで男を見せる時だろ!真由美に負けるな!

 

 

先輩が何と戦っているのか分からないけど確かに!やられっぱなしは嫌だ!

 

 

7.お姫様抱っこ

 

8.キス

 

 

「よし、七番だな」

 

 

俺は抱き付いていた真由美をお姫様抱っこする。

 

 

「えぇッ!?」

 

 

真由美は顔を真っ赤にするが、俺はカメラに向かってキリッとイケメンスマイル。

 

 

パシャッ!!

 

 

そして、最後のシャッターが切られた。

 

俺はニヤニヤしながら真由美の顔を見ると、真由美は小さな声で文句を言った。

 

 

「大樹君の……馬鹿……」

 

 

本日3回目の『馬鹿』頂きました。ごちそうさまっす。

 

 

9.やったな。パチンッ。

 

 

(おう。やったぜ)

 

 

選択肢先輩とハイタッチ………したような気がした。

 

 

________________________

 

 

【大樹&ティナ】

 

 

 

「やっと服屋だよ」

 

 

俺とティナが来た店は洋服屋。大人サイズから子どもサイズまで幅広く取り扱っている女性服専門店。

 

もちろん男は俺だけ。客の視線が痛いけど、もう慣れたぜ。今までどれだけの経験値を貯めていると思ってんだ。

 

 

「好きなの選んでいいからな」

 

 

「いいのですか?」

 

 

「ああ。護衛任務の件で金はたんまり貰ったし、貯金もかなり溜まって来たからな」

 

 

どうやら俺は金を稼ぐのが得意らしい(命懸け)。前の世界でも金持ちになっているしな。

 

 

「お客様」

 

 

「ん?」

 

 

ティナが服を選びに行ったのと同時に、女性店員に話しかけられた。

 

 

「あのお子様はあなたの……」

 

 

「知人の子どもです。外国の」

 

 

よし、あらかじめ用意しておいた嘘がここで役にたったぜ!

 

 

「そうだったのですか!すいません、てっきり……いえ、何でもありません!」

 

 

何を言おうとした何を。犯罪者か何かだと思ったの?

 

 

「どうですお客様?私が服を選びましょうか?選ばせてください!」

 

 

「選びたいのかよ」

 

 

「私の選んだお洋服をあんな可愛い子に着てもらえるなんて……もう死んでもいいです!」

 

 

「死ぬなよ!?」

 

 

「お願いします!今なら何もつきませんが!」

 

 

「割引しねぇのかよ!ったく分かった分かった!選ばせてやるからとびっきり可愛いのにしてくれよ。あと死ぬな」

 

 

俺が承諾すると店員は目を輝かせながらティナの所に行った。

 

 

1.……俺の出番は?

 

 

(多分もうないっすね)

 

 

2.また呼べよ。

 

 

(うっす。絶対に呼びます)

 

 

こうして選択肢先輩は帰って行った。どこにって?知らないよ。

 

店員がティナに服を渡し試着室に行かせる。店員の勢いに負けたティナが俺を見て助けを求める。無理だ。なんか勝てそうにないもん。

 

 

「お待たせしました!」

 

 

店員に試着室前まで引っ張られ、俺は試着室の前に立つ。

 

そして、店員がカーテンを開ける。

 

 

「似合っていますか?」

 

 

「うおッ……!」

 

 

ティナの綺麗な白色の花の髪飾り。赤いリボンのホルターネックに白色のキャミソールに白い三段フリルのスカート。

 

 

「凄いな……似合っているぞティナ」

 

 

俺が褒めるとティナはニッコリと笑ってくれた。

 

 

「お、お願いです……写真を……写真を撮らせてください!」

 

 

「怖ぇよ。あと怖い。そして怖い」

 

 

息を荒くした店員がカメラを持ってゆっくりとティナに近づいていた。やべぇ、犯罪臭がプンプンする。

 

 

「だ、大樹さん……!」

 

 

「悪いティナ。写真の一枚くらいは許してやれ」

 

 

店員さんが何か仕掛けようとした時は音速で助けるから。

 

写真を撮り終わった店員さん。表情が危なかったが無視した。

 

 

「えっと値段は……3万5千円か」

 

 

余裕で足りるな。

 

 

「買ってください!」

 

 

「ちょっと店員(アンタ)は黙ってろ」

 

 

ティナの意志を尊重させろ。

 

 

「これがいいです」

 

 

「そうか。じゃあこれください」

 

 

「本当にありがとうございます!」

 

 

最後までキャラの濃い店員だな。

 

 

________________________

 

 

 

【大樹視点】

 

 

 

ティナは新しく購入した服に着替え、優子たちと合流した。三人とも可愛くなったティナを見て頬を緩ませていた。

 

その後は夕食の食材を買いに行くため、俺たちはショッピングモールにある食品売り場に向かっていた。

 

 

「ん?歌?」

 

 

その途中、綺麗な歌声が聞こえた。『アメイジング・グレイス』だ。

 

優子たちもその歌に気付き、足を止める。

 

 

「あちらの方ですね」

 

 

歌が聞こえる方向を黒ウサギが教える。

 

気になった俺たちは黒ウサギが教えてくれた方向に歩く。

 

 

「……なるほどな」

 

 

歌っている少女を見つけた。俺は目を細めて手を強く握る。

 

少女は油汚れの混じったケープを羽織っており、ガストレア因子を持った【呪われた子供たち】だとすぐに分かった。

 

少女の横には『私は外周区の【呪われた子供たち】です。妹を食べさせるためにお金が必要です。どうかお恵み下さい』と書かれた板が置かれていた。さらにその横には空き缶がある。中は当然空だ。

 

しかし、一番気になることは両目が包帯で巻かれていることだった。

 

ガストレア因子を持った子どもたちは病気とは無縁。盲目や障害を持つことはないはずだ。

 

 

「綺麗な歌だな」

 

 

俺は少女に近づき、しゃがんで声をかける。

 

少女は俺の声に反応し、歌を止める。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

口元に笑みを浮かべる少女。俺は本題に入る。

 

 

「その目はどうした?病気じゃないよな?」

 

 

「はい」

 

 

少女は告げる。

 

 

 

 

 

「鉛を流し込んで潰しているんです」

 

 

 

 

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

その一言に、俺たちは戦慄した。

 

簡単に言ったその言葉。俺は手をさらに握り絞める。

 

 

「何でだッ」

 

 

いや、本当は理由を知っていた。同情を買ってもらうためだ。

 

 

「これ以外、妹を食べさせる方法がないので」

 

 

俺だけじゃない。優子たちも表情が暗い。

 

 

「……それに、私たちを捨てたお母さんは、私の赤い眼が嫌いだったんです」

 

 

「馬鹿野郎ッ」

 

 

だからってそんなことしなくても……!

 

 

「どうして……どうしてあなたは笑っていられるのですか?」

 

 

ティナが悲しげな表情をしながら少女に尋ねる。

 

少女はティナの存在に気付き、両手でティナの顔を触った。

 

髪から鼻。首から鎖骨。一通り触った後、少女は笑みを浮かべて話す。

 

 

「あなたも【呪われた子供たち】なの?」

 

 

「どうして、分かったんですか……?」

 

 

「綺麗だね。男の子が放って置かないでしょ?」

 

 

「……………そんなことないです」

 

 

「おい。何で俺を見た。そして優子、黒ウサギ、真由美。何でそんな冷たい目で俺を見るの?」

 

 

少女は俺の顔もティナと同じように触りだす。

 

 

「お兄さんはカッコイイですね」

 

 

「馬鹿。極悪人みたいな顔してるぞ」

 

 

「嘘です。お兄さんは優しい人でカッコイイです」

 

 

少女はニコニコしながら話していたが、その笑顔は苦笑いに変わる。

 

 

「私はね、こうやって他人に(すが)らないと生きていけないから、自然に笑うことを覚えたの。もうこれ以外、どんな顔をすればいいのかわからないし」

 

 

「……お前はそれでいいのか」

 

 

少女はまた無理な笑顔を俺に見せるが、『ハイ』とは答えなかった。

 

 

カチンッ

 

 

その時、空き缶の中にお金が放り込まれた。いや、違う。

 

 

「へへッ……」

 

 

「くくッ……」

 

 

投げ込まれたのは空き缶のプルタブ。投げたのは悪そうな二人組の男たちだ。

 

 

「あッ!ありがとうございます!」

 

 

しかし、少女はそれがプルタブだと知らない。お金だと思っている。少女はその二人組にお礼を言った。

 

 

「おい」

 

 

俺はプルタブを掴み、二人組の男たちに近づく。

 

 

「あぁ?何だよ?」

 

 

しかし、どうやら俺の敵は多いようだ。

 

周りの人たちは俺が子どもの味方をしたせいで、男を注意しよう者はいなかった。

 

 

「ゴミ箱はあっちだ」

 

 

バチンッ!!

 

 

プルタブを右手の親指で弾き飛ばし、ゴミ箱に向かって放った。大きな音が耳に響く。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

音速で弾かれたプルタブはゴミ箱に当たった瞬間、粉々になった。ゴミが辺りに散乱する。

 

その光景を見ていた男たちは尻もちをつき、俺を見て怯えていた。

 

 

「あまり舐めた真似してるんじゃねぇぞ?」

 

 

俺はドスをきかせた低い声で男たちに告げる。

 

 

「失せろ」

 

 

男たちは一目散に逃げ出した。持っていた空き缶や落とした財布も拾わずに。

 

落としたサイフを蹴って、道の脇の水路に落とす。チッ、最悪な気分だ。

 

 

「大樹君、少しやり過ぎじゃない?」

 

 

「……すまん」

 

 

真由美に指摘され、俺は謝る。

 

俺はまた少女の所まで戻って来て、片膝をつく。

 

 

「今の音は?」

 

 

「大丈夫だ。それよりお前は妹にご飯を食べさせたいんだな?」

 

 

「はい。そのためにお金を稼いでいますから」

 

 

「そうか」

 

 

俺は少女の両目を巻き付けた包帯に触る。

 

 

「ちょっと後ろ向いてろ。多分見せれるモノじゃない」

 

 

俺は優子たちに後ろを向かせる。耐性が無い女の子たちには見せないほうがいい。

 

 

「包帯、取っていいか?」

 

 

「……はい」

 

 

俺はグルグルと巻かれた包帯を取る。そして、少女の目を見た。

 

 

「ッ……」

 

 

酷い。本当に鉛が流し込んであった。これを優子たちに見せなくてよかった。

 

俺は少女のこめかみを指で触れる。そして集中する。

 

 

(……………微かにだが、まだ動いている)

 

 

目は完全に死んでいるが、目に繋がった血管がまだ動いている。もしかしたらこれは治せるかもしれない。

 

最悪なことにここでガストレア因子の自然回復が役に立つとはな。鉛を出した後、菫先生に眼を貰って血管を繋ぎ合わせれば見えるようになるかもしれない。

 

 

「おい。妹に三食飯を食わせてやる」

 

 

「え?」

 

 

「その代わり、お前の目を俺に治させろ」

 

 

その言葉に全員が驚く。優子が俺の腕を揺すりながらもう一度聞く。

 

 

「な、治せるの!?」

 

 

「多分。自信は無いができる可能性はある」

 

 

少女はまた無理な笑顔で目を瞑ったまま、首を横に振っていた。

 

 

「私の目はもうこのままでいいです。その代わり妹を……」

 

 

「じゃあお前の妹には飯はやらん」

 

 

「え?」

 

 

「いいか。よく聞け」

 

 

俺は少女の両肩に手を置いた。

 

 

「これからお前は目を治す。治ったら妹と一緒にご飯を食べる。そして一緒に温かい布団で寝ろ」

 

 

「……どうして、そこまで?」

 

 

「この世界は腐っている。でも綺麗なモノだってあるんだよ。俺は、それを自分の目で見て欲しい」

 

 

だからっと大樹は続ける。

 

 

「まずはその目を、治してやる」

 

 

 

________________________

 

 

 

大樹が少女を連れて大学病院に向かった後、優子と黒ウサギ。そして真由美とティナは買い物をしていた。

 

 

「黒ウサギ、レタス持ってきたわよ」

 

 

「真由美さん。それはキャベツです」

 

 

子どもたちの分まで買わないといけない。よって量はたくさん。金は毎度2万越えは絶対だ。

 

さらに洗剤やシャンプーなどの生活用品。洋服にアクセサリー。金がいくらあっても無くなってしまう。

 

しかし、大樹は『金が無い?じゃあこれ使え』と新しい通帳を渡す。毎回7桁ある金額が書かれている。大樹曰く、『悪人の金は俺の懐に行く』と言う。

 

 

「優子さん」

 

 

「なにティナちゃん?お菓子は100円までよ?」

 

 

「子ども扱いしないでください……」

 

 

(やっぱり可愛いわ……)

 

 

子ども扱いされて拗ねるティナ。頬を膨らませたティナを暖かい目で見守る優子。彼女は一番ティナを可愛がっていたりする。

 

 

「……大樹さんはどうしてあんなに人を救えるのでしょうか?」

 

 

「そうね……大樹君だから、かしら?」

 

 

「え?」

 

 

優子は微笑みながらティナに向かって話す。

 

 

「アタシたちを救ってくれるヒーロー。それが大樹君よ」

 

 

「い、意味が分からないのですが……」

 

 

「大丈夫よ。そのうち理解できるわ」

 

 

優子はティナの頭を優しく撫でた。

 

 

「嫌っていうほどね」

 

 

優子は笑顔で言った。

 

 

「ネギを持ってきたわよ黒ウサギ!」

 

 

「真由美さん。白ネギと青ネギがあることをご存知ですか?」

 

 

 

________________________

 

 

 

【大樹視点】

 

 

「あ、頭痛ぇ……」

 

 

3日間、一睡も寝らずに少女の目を治療していた。手術は合計3回。1ナノグラムの誤差を許されない薬の投与。1ミリリットルの出血も許されない手術。絶対に失敗されないことばかりが続いた。

 

というか菫先生。アンタ3日間余裕で起きすぎでしょ。死体の手入れするほど元気だったなあの人。

 

とりあえず結果だけ伝えると少女の目は治った。見えるのは1週間後になるだろう。

 

少女の妹さんも優子たちが無事保護することができたし、これで休息を取れる。

 

そして現在、俺は菫先生の手術台の上で横になっている。

 

 

「なぁ、解剖していいか?」

 

 

「帰っていいか?」

 

 

真顔で言うな。

 

 

「というか眠くないのかよ」

 

 

「私は慣れているからね」

 

 

「俺でも2日が限界だ……」

 

 

「だらしない。そう思わないか、エマシー?」

 

 

また新しい死体か。もう俺はツッコミを入れないぞ。

 

 

「それにしても君は面白いな。私の知らない医療学を持っているなんて」

 

 

「暗記しているだけだ。内容は全く理解出来ん。特に数学とかくたばれって思ってる」

 

 

「アッハッハッハ!!私も数学の死体を見てみたいな!」

 

 

「いや別にそこまで言ってないだろ……」

 

 

「ほら、君も死体の魅力に目覚めろ」

 

 

「目覚めたくない」

 

 

「エマシーを見てごらん。胸は少し小さいかもしれないが、ロリコンの君には大好物だろ」

 

 

「おいちょっと待てゴラァ」

 

 

「あ、そうだ。ロリコンの君には渡さなきゃいけないモノがあった」

 

 

待ってよ。ロリコンは里見だけでいいだろ。

 

菫は束になった書類を俺に渡す。一番上には『モンスターラビリンス』と書かれている。

 

 

「私にも分からなかった。この蟻型(モデル・アント)のガストレアがどうしてこんな巣を作ったのか」

 

 

「東京エリアに入ろうとしたんじゃねぇのか?」

 

 

温泉で掘り当てたあの事件。俺はずっと気になっていた。

 

何故あのような場所に巣を作っていたのか。

 

 

「私もそうと思った。というかそうとしか考えられなかった」

 

 

「じゃあ何で分からねぇんだよ」

 

 

「このガストレアは東京エリアの中心に向かっていないからだよ」

 

 

菫の言葉を俺はいまいち理解ができなかった。

 

巣から伸びていた一本の穴道。それは中心を目指さず、他の方向に向かっていた。

 

 

「別に中心じゃなくてもいいだろ。あんな数、どこから一気に出てこようが、俺たちがいなかったら一瞬で壊滅していたぞ」

 

 

「そうだ。問題はそこだ」

 

 

菫は告げる。

 

 

「戦力は十分だった。不意打ちも可能。では、何故攻撃しなかった」

 

 

「ッ!」

 

 

俺は書類を勢いよくめくり、一瞬で全て読む。そして思考して答えを返す。

 

 

「目的があった。確実に東京エリアを落とす策略が」

 

 

「そうだ。ガストレアが目指している方向に何かがあるはずだ」

 

 

「調べてくれるか?」

 

 

「いいだろう」

 

 

菫はパソコンに向かい、作業を始めた。

 

俺はもう一度書類をめくる。

 

 

(ガストレアが目指していた方角に住民は少ない。むしろこのまま行けばモノリス近くの外周区に到着する)

 

 

住民を襲って数を増やすわけでもない。外周区にも何もない。

 

本当に、何が目的だったんだ?

 

俺は書類を睨みながら考えていたが、ゆっくりと睡魔が襲い掛かってきたせいで眠ってしまった。

 

 

________________________

 

 

 

「危ねぇ……もう二度とあんな場所で寝ない」

 

 

菫に解剖されかけた俺は教会へと帰って行った。

 

空は少しずつ明るくなっている。もう午前4時か。帰っている途中に陽が昇るな。

 

だが、こんな時間に外を歩くのは悪くない。

 

しかし、もうすぐ夏だと言うのに朝は寒いな。Tシャツの上からフード付きパーカーを着ているが、身体がブルッと震えてしまう。

 

 

「大樹君ッ!!」

 

 

その時、俺の背後から声をかけられた。俺は名前を呼んだ人物に驚愕した。

 

 

「影胤ッ!?どうしたそんなに慌てて……!?」

 

 

影胤の様子は普通じゃなかった。一緒にいた小比奈ちゃんも顔が真っ青だ。

 

 

 

 

 

「君は()()()()という男を知っているかね?」

 

 

 

 

 

その名前を聞いた瞬間、俺は影胤の両肩を掴んだ。

 

 

「どこだ!?どこにいるのか知っているのか!?」

 

 

「任務の帰り、私の前に現れたよ」

 

 

「どこで会った!?」

 

 

「落ち着きたまえ!もう彼はそこにいない!」

 

 

「うるせぇ!いいから教え―――!」

 

 

「彼から伝言がある」

 

 

影胤の言葉に俺は言葉を詰まらせる。

 

そして、影胤は伝言を告げる。

 

 

 

 

 

『32号モノリスに来い』

 

 

 

 

 

 





最後の方、ピョンピョンできてへん。

次回、ついに物語が大きく動き出す。


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