どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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「またかよ!!」とツッコミを入れた方は負けです。



東京エリアの危機 再来

1年G組!大樹先生~!!

 

僕は死にませ~ん。過去に二回くらい死にましたが。

 

というわけで私は立派な教師(教員免許無し)なりました。教会も中々綺麗になり、祭壇の教卓も馴染んできた。

 

トイレもある。寝床もある。服もある。飯もある。教科書もある。テレビもある。

 

 

「なんかそこらの学校より充実してね……!?」

 

 

「やっと気付いたのね……」

 

 

隣に座った真由美が溜め息をつく。気付いてましたか真由美さん。

 

外では子どもたちが木更の指導で体育の授業中。優子と黒ウサギもお手伝いで外にいる。教会の部屋には俺と真由美だけだ。

 

 

「いや最初は生活に必要なモノを備えていただけなんだが……」

 

 

「でもここは学校でもあり、お家でしょ?いいじゃないかしら」

 

 

「……まぁそうだな」

 

 

待てよ。ここが家なら……。

 

 

「何か足りない気がする」

 

 

キッチンは祭壇でやってるし、火は【護り姫】から出しているし、電気は魔法使えば簡単だし……やっぱり何か足りない?

 

 

「少し寝るわ……」

 

 

電気配線の整備や水道を引くパイプ運び。疲れる仕事ばかりだった。

 

俺は大きな欠伸をして、教会の長椅子に寝転がる。

 

 

「ん」

 

 

「はん?」

 

 

真由美が自分の太ももをポンポン叩き、俺の顔を見る。何それ?何すればいいの?リズムでも乗ればいいの?HEY!ポンポコポコリンポンポコPON!!……………カオスなリズムだな。

 

 

「枕、欲しいでしょ?」

 

 

「い、いや……待て」

 

 

膝枕!?外には優子と黒ウサギがいるんだぞ!?

 

 

「嫌かしら?」

 

 

「お、お願いしゅましゅ」

 

 

まさか二回も噛むとは……!

 

俺はゆっくりと真由美の太ももに頭を乗せた。

 

 

「ヤバいな……」

 

 

「何がかしら?」

 

 

ここで柔らかいと言えばセクハラになるな。言葉は選ぶ。そう!

 

 

「エロい」

 

 

バチンッ!!

 

 

叩かれた。だよなー。

 

太ももは柔らかいし、真由美から良い匂いがするし、目の前には真由美の胸が当たりそうだし……。

 

 

(アカン……このままだとR-15じゃなくなる……!)

 

 

しかし、動きたくない!これが男の(さが)だろうか。

 

 

(寝れない……)

 

 

心臓がドッドッドと鼓動が早くなる。目を閉じて胸を見ないようにしたら柔らかい太ももと良い匂いが妙に気になってしまう。

 

詰んでるな。リラックスできない。だが一つだけ言えることがある。

 

 

「ちゃんと感想を言ってくれないかしら?」

 

 

「い、言っていいのか?」

 

 

「いいわよ?」

 

 

「……き」

 

 

「き?」

 

 

「気持ち良すぎてエロいです」

 

 

ゴッ!!

 

 

今度はグーだった。アウチッ。

 

 

「もう……馬鹿……!」

 

 

真由美は顔を真っ赤にして怒った。言っていいって言ったじゃん……。

 

 

「ねぇ大樹君」

 

 

「な、殴らないで……」

 

 

「もう叩かないわよ……」

 

 

真由美は溜め息をついた後、真剣な顔になった。

 

 

「ねぇ、あの仮面をどこで手に入れたの?」

 

 

「……仮面?泣いた仮面のことか?」

 

 

「そうよ」

 

 

俺は真由美の真剣な表情を見て、俺は驚いた。

 

 

「ど、どうしたんだよ」

 

 

「お願い。答えて」

 

 

「普通に買った……百円ショップで」

 

 

「そう……」

 

 

相当問題は深刻そうだな。なぜなら百円ショップについて何もツッコミを入れないから。

 

 

「大樹君、よく聞いて。今すぐその仮面を捨てた方がいいわ」

 

 

「え?もう捨てたけど?」

 

 

「……………そう」

 

 

悪い。嘘だ。その仮面に何かあるみたいだからしばらくは取っておくよ。

 

 

「不安そうだな」

 

 

「ええ」

 

 

真由美は暗い表情で俺の顔を見る。

 

 

「怖いわ。いつかあなたが私の目の前から消えそうで……」

 

 

「消えない」

 

 

「え?」

 

 

俺は真由美の頬に手を置く。

 

 

「俺は目の前で大切な人が消えてしまった。その辛さは俺が痛いほど知っている。だからお前にはそんな辛さを与えさせない」

 

 

「大樹君……」

 

 

 

 

 

「それで?いい雰囲気の所悪いけれど何をしているのかしら?」

 

 

 

 

 

あ、優子さん。それに後ろには黒ウサギさんまで。

 

天童は顔を真っ赤にして震えているし、子どもたちはキャーと言いながら口を抑えている。

 

……状況を整理しよう。俺は膝枕をしてもらい、手を真由美の頬に触れている。

 

 

「よし、授業を始めるぞ」

 

 

このあと、めっちゃ怒られた。

 

 

 

________________________

 

 

 

「風呂だッ!!!!!」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

俺の叫び声に子どもたちは驚く。そりゃ授業中に突然叫び出したら驚くわな。

 

 

「この家には風呂が無いんだ!シャワーもねぇじゃん!」

 

 

「え?大樹先生、今気付いたの?」

 

 

「お前らどこで体洗ってんだよ」

 

 

「先生!セクハラ!」

 

 

「うるせぇ!どこで洗ってるか言え!」

 

 

子どもたちに聞いたところ、水がまだ出ている廃墟の建物の水を浴びているらしい。その時に出る水は温かい水では無く、もちろん冷たい水だ。

 

しかし、ここ最近は街の銭湯に優子たちが連れて行ってくれるらしい。だからあんなに金が無くなるのか。

 

俺は頭を抑えて唸る。

 

 

「うぐぐぐ……風呂屋まで距離がありすぎる……」

 

 

往復の電車賃も考えると相当の出費だ。聖天子から貰った謝礼金じゃ足りない。影胤に借金するのは怖いし……うぐぐぐ。

 

 

「そうだ!」

 

 

俺は閃く。

 

俺は思った。俺の発想は素晴らしいと。

 

 

「温泉を掘り当てよう!」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

子どもたちは思った。この人の発想はおかしいっと。

 

 

________________________

 

 

 

「というわけで貴様ら呼んだ。文句あるか?」

 

 

「「「「「大アリだッ!!」」」」」

 

 

教会の外には俺を含めて民警のプロモーターたちが10人。その中に影胤と蓮太郎もいる。

 

俺の言葉に影胤以外の民警は大声を上げて反論。おこです。激おこです。激おこぷんぷん丸です。

 

 

「いいじゃん!温泉掘り当てようぜ!お前らのイニシエーターの授業料を無料にしてやってんだからいいだろ?」

 

 

「聖天子様に頼めば、すぐ済む話じゃねぇか!」

 

 

蓮太郎の反論に俺は冷静に答える。

 

 

「聖天子に頼んだ所で政府の人間が俺たちの為に簡単に働くと思ってんのか」

 

 

「……悪い」

 

 

ド正論だった。

 

 

「それにスケットもいる」

 

 

「スケット?」

 

 

俺は民警たちの後方を指差す。振り返ると大剣を背負った一人の男。

 

 

伊熊(いくま) 将監(しょうげん)だ!」

 

 

「ぶった斬れろやッ!!」

 

 

ガチンッ!!

 

 

高速で飛んで来た将監の斬撃を俺は右手一本で受け止める。

 

 

「お前には借りがあるだろ?誰が治療した?」

 

 

※黒ウサギです。

 

 

「ぐぅッ!」

 

 

将監の顔が歪む。歯を食い縛っているのが、バンダナで隠していても分かる。

 

 

「夏世ちゃんのためだ。頑張れよ将監」

 

 

「チッ!!」

 

 

舌打ちをして苛立ちを見せる将監。しかし、素直について来ようとするあたり、律儀だな。

 

 

「私も手伝うのかね?」

 

 

影胤が俺に尋ねる。

 

 

「ガストレアの依頼が来るまででいいから頼むぜ」

 

 

「何故私がそのようなことを……」

 

 

「天童民間警備会社の社員だから。俺が小比奈ちゃんに剣の稽古を教えているから。お前は俺に勝てないから。さぁ反論はあるか?」

 

 

俺の言葉に影胤は大きな溜め息をつく。

 

 

「……苦労してるな」

 

 

「……今すぐ世界を滅ぼしたいよ」

 

 

蓮太郎が同情し、影胤は物騒な言葉を口にした。仲良いなお前ら。

 

 

「よし!掘るぞッ!!」

 

 

オーッ!!という声は俺だけでした。

 

 

 

________________________

 

 

 

穴を掘り続けて二時間が経過した。

 

穴を掘る係り。土を外へ運ぶ係り。役割を決めて作業をしていた。

 

 

「出ないな」

 

 

「そもそもここは元々町だっただろ。簡単どころか普通に出ないだろ」

 

 

蓮太郎の冷静なツッコミに俺は落ち込む。そりゃそうだ。

 

現在約100メートルは掘り起こすことに成功した。途中パイプやらあったが、機能停止しているためぶち壊した。

 

 

「早く掘り当てられたとしても600メートルは掘らないと無理だろうな。最悪、1000メートル以上は掘らないと」

 

 

「無理だろそれ!?」

 

 

俺の言葉を聞いていたのか、他の民警たちがスコップとツルハシを投げた。あ、仕事放棄だ。

 

 

「了解した。大樹君、仕事が入った。手っ取り早く終わらせよう」

 

 

携帯電話を切り、持っていたスコップを放り投げた影胤は右手に斥力フィールドを展開する。ま、まさか!?

 

 

「『エンドレススクリーム』!!」

 

 

「やりやがったよコイツ!お前ら逃げろッ!!」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!

 

 

俺は跳躍して脱出。他の者達は穴の壁に垂らしていたロープを使い、急いでよじ登った。ギリギリ穴から脱出し、斥力の槍から逃れる。

 

槍は地面を豪快に抉り取り、槍は突き進む。

 

そして穴はさらに200メートル以上の深さまで進化した。穴が崩れたらどうするつもりだったのだろうか。

 

 

「では私は行くよ大樹君」

 

 

「お、お疲れ様です……」

 

 

影胤は小比奈を呼び、ガストレア退治の仕事へと向かった。

 

 

「ど、どうする?」

 

 

蓮太郎の質問に俺はしばらく黙っていたが、

 

 

「もっと長いロープを垂らそうか」

 

 

「続行かよ……」

 

 

それでも俺たちの温泉掘りは終わらない。

 

 

 

________________________

 

 

 

穴の底は暗い。太陽が真上にくれば明るかったかもしれないが、底は夜のように暗くなっていた。

 

 

「【護り姫】」

 

 

俺はギフトカードから【護り姫】を取り出し、炎を出した状態で壁に突き刺した。赤い炎が暗い穴の底を照らす。

 

 

「しばらくこれでいいか」

 

 

「どういう仕組みだよ……」

 

 

蓮太郎がビビりながら刀を見る。仕組みなんか知るか。というか最近便利グッズと化して来たな【護り姫】。

 

 

「ビッグツリー!!大変だ!!」

 

 

「どうした?」

 

 

後ろから民警が俺を呼んだ。振り返るとそこには大きな横穴ができていた。

 

 

「何で横に掘るんだよ馬鹿か」

 

 

「違う!空洞だ馬鹿!」

 

 

馬鹿言うなよ!バカって言う奴がバカなんだよ!(華麗なるブーメラン)

 

横穴の中を覗くと道が右と左、二つあった。

 

 

「どうする?」

 

 

「塞ごう」

 

 

「……塞ぐのか?」

 

 

「もしガストレアとかいたらどうする気だよ。放置でいいだろ」

 

 

俺の指示を聞いた民警たち穴を埋めようと土を乗せ始める。

 

 

「でもガストレアがいたらそれで不味くないか?」

 

 

しかし、蓮太郎が止めた。

 

 

「ここがモノリスの外と街に通じる穴だったらどうする?」

 

 

「いや、そんな偶然あるわけ―――」

 

 

「キシャアアアアアアッ!!」

 

 

「―――ってあるのかよ!?」

 

 

ザンッ!!

 

 

「キシャッ!?」

 

 

突如横穴から飛び出してきたガストレアを大樹は一瞬で一刀両断。彼の手にはいつの間にか【護り姫】が握られていた。

 

ガストレアは燃え上がり、沈黙する。

 

 

「……今から捜索を開始する」

 

 

「「「「「い、イエッサー……」」」」」

 

 

大樹の足元で、ガストレアが燃え尽きた。

 

 

 

________________________

 

 

 

蟻型(モデル・アント)のガストレアが横穴から出て来たことをきっかけに、俺たちの横穴探索が始まった。温泉は一時中断だ。

 

俺と蓮太郎と将監。そして7人の民警は一度地上に戻り、イニシエーターを呼んだ。

 

そして装備を整えた後、また俺たちは穴の底に戻って来ている。

 

 

「チームは3ペアと7ペアに分ける。俺と将監と里見で三ペア。残りは7ペアの方に行け」

 

 

「どうしてその分け方ですか?」

 

 

民警の一人の男が俺に尋ねた。

 

 

「俺たちは近距離戦闘型だ。お前らは遠距離攻撃型が多いからこういう分け方にした」

 

 

遠距離攻撃が近距離戦闘型の俺たちに当たってしまっては意味がない。というわけこの分け方だ。

 

みんなも俺の考えを理解したようで頷いている。

 

 

「聖天子からバラニウムの弾丸をたくさん貰った。自由に使っていいそうだ」

 

 

俺は木箱に入った弾丸の山を見る。他にも普通の弾丸や手榴弾まである。

 

 

「単独行動は絶対に禁止。道が分かれていた場合は待機。もしくは帰還しろ。無理に危険な所にいかなくていい」

 

 

俺はバラニウムの弾丸を入れたコルト・パイソンを手に持ち、バラニウム製の刀を12本、腰に刺した。

 

 

「……もう勘の良い奴らは気付いているだろうが、この横穴は地下800メートルまで続く大型の(あり)の巣だと分かった」

 

 

これは政府の最新技術を駆使し、蓮太郎の分析から分かったことだ。この横穴は大規模なガストレアの巣の可能性がある。

 

モデル・アントのガストレアがいるなら、最深部には……!

 

 

「とりあえずこれだけは言っておく」

 

 

俺は告げる。

 

 

「また東京エリアがピンチだ」

 

 

(((((またかよ……)))))

 

 

みんなの視線が下を向いた。

 

 

「温泉から東京エリアのピンチってどういうことだよ……」

 

 

「里見。もう何も言うな」

 

 

士気が落ちる。もう落ちてるけど。

 

 

「でも今回は捜索だけでいい。討伐するのはまた後日になるはずだ。影胤と同じくらい大規模になるかもな」

 

 

「またとんでもないことになったな……」

 

 

蓮太郎の言葉に激しく同意。温泉からまた東京エリアの危機に結びつくなんておかしいだろ。呪われてんのかこの街は。

 

 

「この巣の名称は『モンスターラビリンス』と名が付いた。『ガストレアラビリンス』の方が絶対カッコイイよな?」

 

 

(((((どうでもいいよ……)))))

 

 

「俺のボケで笑った方が楽になるかと気を使ったのにその反応はねぇよ……」

 

 

(((((メンタル弱ッ)))))

 

 

俺の言葉に賛同してくれる人間はいなかった。ぐすんっ。

 

 

________________________

 

 

 

支給された懐中電灯を照らしながら前に進む。懐中電灯の光は5つ。大樹と蓮太郎と延珠。そして将監と夏世だ。

 

洞窟はかなり大きく、大型ガストレアが一匹は入れそうなくらい天井は高い。

 

 

「大樹はイニシエーターを雇わないのか?」

 

 

延珠ちゃんに質問された俺は歩きながら答える。

 

 

「雇うというより雇えないが正しい答えだな」

 

 

「どういうことだよ」

 

 

蓮太郎に嫌な顔をされながら尋ねられる。どうせ変な答えが返って来るとでも思っているのだろう。失敬な!まともに返すぞ!

 

 

「まず俺との実力の差がありすぎる。多分ついていけねぇよ。イニシエーターが」

 

 

「……そっちか」

 

 

何を予想していた。

 

 

「あと優子たちが許してくれそうにない」

 

 

「合ってたか」

 

 

合ってたのかよ。

 

 

「楢原さんは優柔不断そうですしね」

 

 

夏世ちゃんが厳しい。

 

 

「それよりウサギはいねぇのか?」

 

 

また質問か。人気者だな俺。今度は将監が俺に聞いた。

 

 

「妾のことか!?」

 

 

「違ぇよ!」

 

 

延珠が反応してしまった。というかウサギ?

 

 

「黒ウサギのことか?」

 

 

「ああ、あの女は来ねぇのかよ?」

 

 

「危険な仕事はさせねぇよ」

 

 

「チッ、少しは見どころがあると思ったが期待ハズレか」

 

 

「んだとゴラァ!?」

 

 

「落ち着げほッ!?」

 

 

蓮太郎に抑えられるが簡単に振りほどく。弱いよ蓮太郎ぉ!

 

俺は将監の前に立つ。

 

 

「どこが期待ハズレだ!あんなに可愛い美少女のどこが期待ハズレか言ってみろよもずく野郎!」

 

 

(((うわぁ……)))

 

 

大樹の惚気(のろけ)話にドン引きする蓮太郎と延珠と夏世。将監は大樹の悪口にキレる。

 

 

「あんなに実力がある奴が留守番なのは何でだ!?あぁ!?」

 

 

「うるせぇ!!お前は知らねぇだろうが、黒ウサギが無理して顔を真っ赤にしながら『お帰りなさい、アナタ』って言った時の威力は半端ないぞ!!だから今日も期待している!!」

 

 

(((本当知らない……)))

 

 

さすがの将監も引いた。これ以上何か言おうとはしなかった。

 

 

「大樹は本当に好きなのだな」

 

 

「当たり前だよ延珠ちゃん!」

 

 

「やっぱりおっぱいか!?蓮太郎と同じなのか!?」

 

 

「マジでやめろ延珠」

 

 

「確かにおっぱいも好きだがもっと好きなところはたくさんあるぞ」

 

 

「お前も答えるなよ!」

 

 

「実は黒ウサギは少し負けず嫌いなところがあってだな。トランプで俺が勝ち続けると涙目で『もう一回です!』って言い続けるのが可愛くて仕方なく負けてしまうんだよなぁ」

 

 

「どうにかしてください里見さん。もうお腹一杯です」

 

 

「俺もだよ……」

 

 

「あと俺と黒ウサギが料理をしている時とか―――」

 

 

「もういいって言ってんだろ!?」

 

 

「じゃあ俺と優子のラブラブの秘話を―――」

 

 

「人を変えろって意味じゃねぇよ!」

 

 

「この前、俺と天童が街で―――」

 

 

「ぶっ飛ばすぞテメェ」

 

 

「目がマジだぞ里見」

 

 

とりあえず銃を下ろせ。

 

そんなアホみたいな話をしながら約10分。洞窟に変化があった。

 

 

「下に向かっているな」

 

 

俺は穴の様子を見ながら呟く。洞窟は真っ直ぐに続かず、螺旋(らせん)階段状の縦穴になっていた。この下に行くかどうか話し合った所、行くことにした。

 

グルグルと壁沿いを歩き、どんどん下へと降りて行く。

 

 

「じゃあここで国語の授業の続きだ。先生が言った言葉の続きを考えてくれ」

 

 

「続き?」

 

 

延珠が首を傾げながら俺に聞く。

 

 

「例えば『吾輩(わがはい)は』って俺が言ったら『猫である』って答えればいいんだよ」

 

 

「なるほど!」

 

 

「全問正解でケーキをプレゼント。問題数は10個だ」

 

 

「私も参加します」

 

 

まさか夏世参戦。それではゲームスタート!

 

 

「第一問。『犬も歩けば』?」

 

 

「「『棒に当たる』」」

 

 

ピンポーン。正解。

 

 

「第二問。『神のみ〇知る』?」

 

 

「「セ〇イ」」

 

 

((何言ってんだこいつら……))

 

 

ピンポーン。正解。

 

 

「第三問。『里見 蓮太郎は』?」

 

 

「『おっぱい星人』!!」

「『生物オタク』」

 

 

「ぶっ飛ばすぞッ!!」

 

 

「ピンポーン。正解」

 

 

「おい!?」

 

 

「第四問。『選ばれたのは』?」

 

 

「「『〇鷹でした』」」

 

 

「怒られるぞお前ら!?」

 

 

「第五問。『涼宮ハ〇ヒの』?」

 

 

「「『憂鬱』」」

 

 

「だから怒られるって言ってるだろうが!」

 

 

「第六問。『海賊王に』?」

 

 

「「『俺はなる!!』」」

 

 

「もうアニメクイズになってるじゃねぇか!」

 

 

ピンポーン。正解。ついでに里見も正解。

 

 

「第七問。『秋の田の 仮庵(かりほ)(いほ)(とま)をあらみ』?」

 

 

「「『わが衣手(ころもで)は 露にぬれつつ』」」

 

 

「お前ら本当に小学生か!?」

 

 

ピンポーン。正解。百人一首の最初の一句だぞ。ほとんどの人が知っている。

 

 

「第八問。『もうそろそろネタ切れ』?」

 

 

「「『作者が悪い』」」

 

 

「もう問題関係ねぇ!」

 

 

「第九問。『里見 蓮太郎は』?」

 

 

「『おっぱい星人』!!」

「『ロリコン』」

 

 

「しつけぇ!!」

 

 

「最後の問題。『この巨大な巣穴に潜む敵の数は』?」

 

 

俺の最後の質問に、みんなの歩いていた足が止まった。

 

 

 

 

 

「答えは『大量』だ」

 

 

 

 

 

目を疑う光景だった。最深部まであと20メートルの所まで到達した俺たちはゆっくりと下を覗くと、大量のガストレアが(うごめ)いていた。耐性の無い人だったらそこで吐いていたかもしれない。

 

数はざっと見て約200匹。全部蟻型(モデル・アント)だった。

 

 

「まず俺が一撃ぶっ飛ばす。散開したガストレアをお前らが叩け」

 

 

「戦うのか!?」

 

 

里見が俺の肩を掴み止める。

 

 

「里見。アイツらはステージⅠだぞ。十分倒せる相手だ。なぁ将監?」

 

 

「俺は構わねぇ」

 

 

「それに仲間も合流したみたいだしな」

 

 

「仲間?」

 

 

蓮太郎が首傾げたその時、背後から複数の足跡が聞こえた。

 

振り返るとそこには銃を持ち、黒い防弾チョッキなど着用した五人の男たちがいた。

 

 

「少ないな。残りはどうした?」

 

 

「残りの部隊は反対方向へ行かせた」

 

 

「お、お前!?」

 

 

大樹は振り返らず男たちに尋ねると、男の一人が答えた。蓮太郎は男たちを見て驚いた。

 

男は教会を襲った連中の一人。しかも一番大樹に対して怒鳴っていた男だった。

 

ステージⅤを倒した後、大樹がどうにかして救ったと言っていたが……。

 

 

「自己紹介がまだだったな。福山(ふくやま)だ」

 

 

「ど、どうしてここにいる!?」

 

 

「あまり大きな声出すな。天童民間警備会社の秘密諜報員だろ」

 

 

「ウチの会社の部下なのかよ!?」

 

 

蓮太郎は初耳だった。

 

 

「楢原が俺たちの組織を潰したから入らせてもらった。給料は少ないが」

 

 

「それは木更さんに言ってくれ」

 

 

「というか福山。ちゃんと苗字だけじゃなくて名前も言えよ」

 

 

「……必要ない」

 

 

「ある」

 

 

「理由は?」

 

 

「面白いから」

 

 

「撃つぞ貴様」

 

 

「効くと思ってんのか?」

 

 

「……………」

 

 

福山はしばらく黙っていたが、

 

 

「……火星だ」

 

 

「かせい?変わった名前だな」

 

 

特に気にする様子を見せない里見。しかし、俺はニヤニヤしていた。

 

 

「火星って漢字はアレだぞ。宇宙惑星のアレだ」

 

 

「楢原!もういいだろ!」

 

 

「ダメだろ。読み方は『かせい』じゃねぇもん」

 

 

「やめろ!言うな!」

 

 

大樹はニヤニヤとしながら告げる。

 

 

「本当の名前は……福山 火星(ジュピター)だもんな」

 

 

「「「「「え?」」」」」

 

 

他の男たちも知らなかったようだ。目が点になっている。

 

 

「楢原……覚えていろよ……!」

 

 

「フハハハ、お前が資料を残すのが悪い。みんな、今日から『ジュピターさん』と呼ぶように」

 

 

「お前は絶対に殺すからな……!」

 

 

もの凄い殺気が背後から溢れ出すが気にしない。ジュピターさんだから。

 

 

ゴォ!!

 

 

【護り姫】から溢れ出す紅い炎が大きく燃え上がった。

 

 

「さっきも言ったが、まず俺が攻撃を仕掛ける。その後、散開したガストレアをお前がやっつけろ」

 

 

俺は目を瞑り、両手で刀を握る。

 

 

「許せ」

 

 

そして、ガストレアの群れに向かって身を投げた。

 

落下する俺に気付いたガストレアが叫び出す。叫び声は他のガストレアにも伝わり、全ガストレアが俺を視界に捉えた。

 

 

「一刀流式、【風雷神の構え】」

 

 

炎が消えると同時に黒い刀を創り上げた。

 

ガストレアが一斉に俺に襲い掛かろうとする。

 

 

「【無限(むげん)蒼乱(そうらん)】」

 

 

ザンッ!!!

 

 

地面に着地する前に、音速を越えたスピードで敵を斬り裂き続けた。

 

その音を聞くことはできない。

 

その斬撃を捉えることはできない。

 

彼を目で追うことは、不可能。

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!!

 

 

次の瞬間、斬撃の衝撃でガストレアが一斉に宙を舞った。その光景に蓮太郎たちは目を見開いて驚いていたが、

 

 

ガガガガガッ!!

 

ザンッ!!

 

ドゴンッ!!

 

 

すぐに銃を乱射、剣を振り回し、蹴りを入れた。宙に浮いたガストレアが次々と絶命する。

 

 

「【無刀の構え】」

 

 

大樹は【護り姫】をギフトカードに直し、追撃を始める。

 

足に力を入れ、跳躍する。

 

 

「【地獄(じごく)(めぐ)り】!!」

 

 

ドゴッ!!

 

 

右回し蹴りがガストレアの腹部に炸裂し、胴体が吹っ飛ぶ。体液が体に付着するが気にせず次の攻撃に移す。

 

 

「【黄泉(よみ)(おく)り】!!」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

左手で次のガストレアの頭部に向かって正拳突き。今度は頭部を破裂させた。

 

 

「キシャアッ!!」

 

 

落ちて来たガストレアが最後の抵抗で俺に噛みつこうとする。俺は腕をクロスさせ、カウンター攻撃を狙う。

 

 

「【木葉(このは)(くず)し】!!」

 

 

ガストレアの牙がクロスした腕に当たった瞬間、大樹は姿を消した。

 

否。大樹は消えたのではない。目で追い切れない速さでガストレアの背後を取ったのだ。

 

 

ドゴッ!!

 

 

大樹のカウンターパンチ。右ストレートがガストレアの背中にヒット。ガストレアは勢いよく地面に叩きつけられる。

 

 

「来い!【神影姫(みかげひめ)】!」

 

 

ギフトカードから長銃の【神影姫】を取り出す。狙いを定めて引き金を引く。

 

 

ガガガガガガガガガガガガキュンッ!!

 

 

フルオートで連射された12発の黒い弾丸。銃弾は吸い込まれるように12匹のガストレアの頭部に命中した。

 

 

「ッと」

 

 

地面に膝をついて着地。再び蓮太郎たちの場所まで戻って来た。

 

 

「おいお前ら。もっと仕事しろ」

 

 

(((((無理だろ!)))))

 

 

既にガストレアは壊滅状態。蓮太郎たちが動く必要性が全くなかった。

 

 

________________________

 

 

 

ガストレアを全滅するのに時間は全くかからなかった。将監と夏世のコンビネーション。影胤との事件からさらに実力を上げた蓮太郎と延珠。そして暗殺の腕があるジュピターさん。

 

敵は見事に全滅。大樹たちはまた横穴を見つけ、さらに深層へと向かっていた。

 

進めば進むほど酸素は薄くなり、俺でも少し苦しい。他のみんなも辛そうだ。

 

 

「同じところを行ったり来たりしていないか?」

 

 

同じような壁ばかりの薄暗い洞窟。蓮太郎がそう思ってしまうのは無理もない。

 

 

「安心しろ。俺が全部覚えているから」

 

 

「本当かよ……」

 

 

「信じてくれよ」

 

 

「無理だろ」

 

 

「おい」

 

 

蓮太郎を見返すために、俺は一枚の紙にこの『モンスターラビリンス』の地図を簡単に書き留める。

 

 

「ほらよ。これが今まで俺たちが通った道だ。今はここな」

 

 

「……マジかよ」

 

 

蓮太郎が頭に手を当てて溜め息をついた。何でだよ。

 

 

「スタートから大体600メートルまで降りたからもうすぐ最下層の800メートルだ」

 

 

「……どうやらここが最下層みたいだな」

 

 

ジュピターさんの言葉に、俺たちも立ち止った。

 

洞窟の道が終わり、巨大な空洞に出る。その大きさは先程戦ったガストレアの空洞の倍はある。

 

そして巨大な黒い怪物が目に入った。

 

 

「俺と里見の予想は当たったか……」

 

 

巨大な黒い怪物。それは蟻型(モデル・アント)だった。

 

今まで戦った奴らと桁が違う大きさ。その大きさは30メートルを越えるであろう巨体。違う所と言えば胴体が異常に膨らんでいる。

 

鋭い牙はもはや巨大な角。高層ビルを一瞬で粉々にしてしまうであろう。

 

ステージⅣ。こんな場所に隠れているとは……!

 

 

女王蟻型(モデル・クイーンアント)……!」

 

 

俺はゆっくりと敵の名前を告げる。その言葉が合図になったのか、

 

 

「囲まれた……!」

 

 

蓮太郎が銃を構えながら汗を流す。周りには働き蟻であろうガストレアがわんさか集まっている。

 

 

「んなことはどうでもいい。俺が斬る」

 

 

「待て将監。援軍が来たみたいだぞ」

 

 

「あぁ?」

 

 

「『マキシマムペイン』」

 

 

ギュウイイイイィィン!!!

 

 

その時、俺たちの背後にいた働き蟻のガストレアが吹っ飛んだ。

 

 

ザンッ!!!

 

 

そして空中に投げ出されたガストレアは一瞬でバラバラに斬られ、地面に落ちる。

 

 

「遅かったな影胤。小比奈ちゃんも」

 

 

振り返るとそこには笑った仮面の影胤。そして黒いドレスを身に纏った小比奈がいた。

 

 

「こんなビックイベントがあるなら私もあのまま温泉を掘っていたよ」

 

 

「ねぇパパ。あのでっかいの斬っていい?」

 

 

「よしよし小比奈。パパが合図したらまず足を斬りなさい」

 

 

影胤が小比奈の頭を撫でながら言うと、小比奈は笑顔になった。うーん、やっぱり恐ろしいな。ジュピターさんとかドン引きだもん。

 

 

「それじゃあ作戦開始としますか」

 

 

俺は腰に刺さった12本のバラニウム製の黒い刀のうち、二本を引き抜く。

 

 

「絶対に帰るぞ」

 

 

ゴォッ!!

 

 

まず大樹は二本の刀を働き蟻のガストレアの頭部に向かって投擲。刀は頭部に刺さり、ガストレアは暴れ出す。

 

 

「延珠ッ!!」

 

 

「夏世ッ!!」

 

 

「分かっておる!!」

 

 

「分かっています」

 

 

ダンッ!!

 

 

蓮太郎と将監が名前を呼ぶと同時に、延珠と夏世は同時に走り出した。

 

 

ドシュッ!!

 

 

延珠と夏世は大樹が投擲した刀。頭部に刺さった刀を掴み、ガストレアの頭部を斬り裂くように引き抜いた。

 

刀を引き抜いた後、すぐに延珠と夏世は同時に次のガストレアに向かって投擲する。

 

 

ザクッ!!

 

 

二人が投擲した二本の刀は働き蟻の頭部に刺さり、暴れる暇も無く絶命する。

 

 

「弾は無駄にするなよ!あと刀も!」

 

 

「なら投げるなよ!」

 

 

蓮太郎が大樹にツッコミを入れながら走り出す。延珠と夏世が次々と出現する働き蟻の相手をしている間に、女王蟻型(モデル・クイーンアント)へと向かっていた。

 

夏世が刀を振り回している間に、将監も大剣を振り回しながら突き進む。

 

 

「危ない将監!!」

 

 

「ッ!?」

 

 

里見が叫んで危険を伝えるが、このままでは間に合わない。女王蟻型(モデル・クイーンアント)の巨大な牙が将監の真上から振り下ろされる。

 

 

「小比奈!!斬り落としなさい!!」

 

 

「はいパパ!!」

 

 

ザンッ!!

 

 

影胤が合図を送った直後、ガストレアの右脚の下に小比奈が潜り込んだ。二刀流の斬撃を繰り出し、二本の右脚を斬り落とした。

 

ガストレアはバランスを崩し、将監に振り下ろした牙の軌道も変わった。牙は将監に当たらず、地面に突き刺さる。

 

女王蟻型(モデル・クイーンアント)がピンチだと気付いた働き蟻。すぐに女王蟻のところへ行こうとするが、

 

 

「逃がすかッ!!」

 

 

ガガガガガッ!!

 

 

ジュピターさんとその部下が銃を乱射して動きを止める。バラニウム製の弾丸を惜しまなく使っている。俺の言葉ガン無視ですか。そうですか。別にいいが。

 

 

「一気に叩くぞ!!」

 

 

大樹の掛け声に四人が応じる。四人が同時に女王蟻型(モデル・クイーンアント)の頭部に向かって跳躍する。

 

 

「二刀流式、【阿修羅(あしゅら)の構え】!!」

 

 

「天童式戦闘術二の型十四番―――」

 

 

「エンドレス―――」

 

 

「いい加減ぶった―――」

 

 

東京エリアの最強四人衆の一撃がまとまる。

 

 

「【六刀(ろっとう)暴刃(ぼうは)】!!」

 

 

「【隠禅・玄明窩(げんめいか)】!!」

 

 

「スクリームッ!!」

 

 

()れろやぁッ!!」

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!

 

 

大樹の斬撃のカマイタチ。蓮太郎の爆速の二発の蹴り。影胤の斥力の最強矛。将監の大剣の超斬撃。

 

同時に繰り出された威力は女王蟻型(モデル・クイーンアント)の頭部どころか巨大な胴体まで消し飛ばしてしまった。

 

威力は地面まで貫通し、コンクリートより硬い地面を簡単に粉々に粉砕。衝撃が他のガストレアまで巻き込み、吹っ飛ばされる。

 

 

「無茶苦茶だあああああァァァ!?」

 

 

「ジュピターさん!!早く逃げましょう!!」

 

 

「その名前で呼ぶなッ!!」

 

 

ジュピターさんたちは急いで逃げ出そうとするが、天井が崩れ、落下した岩が出口を塞ぐ。ジュピターさんたちの顔が真っ青になる。

 

 

ゴゴゴゴゴッ!!

 

 

地面が大きく揺れ出し天井から岩が落下する。延珠と夏世と小比奈も事態に気付き、急いで逃げ始める。

 

 

「撤収!!洒落にならなくなった!!」

 

 

「楢原!!貴様ァ!!」

 

 

「俺だけのせいじゃないよね!?」

 

 

「貴様が合図しただろうがぁ!!」

 

 

「あ、そうだった。許してヒヤシンス☆」

 

 

「殺すぞ!?」

 

 

大樹は出口を塞いだ岩を粉々に斬り裂く。出口が開いた瞬間、大樹たちは一斉に走り出す。

 

左手に長銃の【神影姫】を持ち、右手に【護り姫】を握る。

 

吸血鬼の力を込めた銃弾と紅い炎で創り上げられた黒い刀で邪魔になる岩を次々と砕いて行く。

 

上へ上へと向かって、ついに螺旋階段のところまで到着した時、

 

 

「大変だ!!ジュピターさん、疲れて足が遅くなってる!!」

 

 

「マジかよ!?」

 

 

俺は【護り姫】をギフトカードに直し、ジュピターさんを右肩に乗せ、右手で支えた。

 

銃を乱射しながらまた俺たちは走り出す。

 

 

「あぁ……こんなことなら遺書を書いておけばよかった」

 

 

「まだ死んでねぇだろ!?頑張れよジュピターさん」

 

 

「……実は嫌いじゃないんだよな、その名前」

 

 

「ジュピターさあああああん!?」

 

 

これはヤバい。死期を悟っていやがる。

 

螺旋階段を登り切り、出口の横穴に向かって走り出す。

 

 

「もうすぐだ!しっかりしろジュピターさん!!」

 

 

「……………」

 

 

「「「「「ジュピターさん!?」」」」」

 

 

意識が飛んだ!?はやく医者を呼んでくれ!!

 

 

ゴゴゴゴゴッ!!

 

 

その時、背後から嫌な音が聞こえた。

 

 

「……俺、信じないから」

 

 

「奇遇だな……俺もだ」

 

 

 

俺と蓮太郎の顔は真っ青。延珠も夏世も将監も影胤も真っ青だろう。小比奈……はニコニコしてる。ジュピターさんの部下も真っ青だ。

 

背後から聞こえるこの音。

 

俺たちは思った。

 

 

(((((あぁ神様……)))))

 

 

________________________

 

 

 

「あれ?ビックツリーは帰って来てないのか?」

 

 

7ペアの民警たちとジュピターさんの部下たちは帰って来ていた。道は一本道で奥にガストレアが3匹いただけ。行き止まりを確認したらすぐに戻って来ていた。

 

穴の底で火を焚き、大樹達の帰還を待っていたのだが、時刻が7時を過ぎた。

 

そして7時半頃、差し入れが来た。

 

大樹の彼女?……よく分からないが三人の女の子が作った料理。男と女の子たちはもぐもぐと食べていた。

 

 

「美味い!!最高だな!!」

 

 

「楢原の旦那、羨ましいぜ」

 

 

「ぐふッ……!」

 

 

「おい!?一人倒れたぞ!?」

 

 

賑わった食卓。食事を終えて、片付けに取りかかっていたその時、

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

横穴から巨大な音が響き、地面が大きく揺れた。プロモーターとイニシエーター。そしてジュピターさんの部下は焦りだし、急いで地上へと逃げようとしたが、

 

 

「ビックツリーに何かあたのかもしれない……!」

 

 

「どうする!?助けに行くならはやく……!」

 

 

「待てお前ら」

 

 

しかし、一人の男は冷静に告げる。

 

 

「あの男がいる限り、大丈夫だろ」

 

 

「……そうだな」

 

 

さっきまでの騒ぎが嘘のようだった。民警たちは落ち着き、その場に座る。

 

 

「……しりとりでもするか」

 

 

「お前、冷静過ぎるだろ」

 

 

「なぁ……何か聞こえないか?」

 

 

一人の男がみんなに言う。

 

 

「いや、何も聞こえないが?」

 

 

「ううん。私も聞こえる」

 

 

耳の良いイニシエーターが男の言葉を賛同する。

 

 

「大きくなってる……」

 

 

「ホントだ。俺も聞こえるぞ」

 

 

「僕もだ」

 

 

ゴゴゴゴゴッ……

 

 

「嫌な……予感がする……」

 

 

「わ、私もです……」

 

 

「同じく……」

 

 

ゴゴゴゴゴッ!!!

 

 

「来るぞ!!」

 

 

全員が立ち上がり、武器を構える。横穴から来たのは……!

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!

 

 

 

 

 

大量の水。

 

 

 

 

 

「「「「「はあああァァッ!?」」」」」

 

 

そして、人と子ども。

 

 

「「「「「ぎゃあああァァ!!」」」」」

 

 

大量の水と共に流されてきたのは反対方向を探索していた別の部隊。大樹たちだった。

 

水の勢いは激しく、一瞬で飲み込まれた。

 

しかも水の温度は熱く、軽いやけどを負ってしまうくらい熱湯だった。

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!

 

 

熱湯は一気に地上まで吹き出し、民警たちを空へと舞い上がらせた。

 

 

「「「嘘……」」」

 

 

その光景を見ていた優子と黒ウサギと真由美。目を疑った。

 

 

「「「「「熱いッッ!!!」」」」」

 

 

この日、当初の目的を果たすことに成功した。

 

 

 

________________________

 

 

 

「極楽極楽……」

 

 

俺はゆっくりとお湯を肩まで浸からせる。大樹、気持ち良すぎて死にそう!

 

温泉を引き当てることに成功した翌日。大急ぎで露天風呂を作った。

 

星が綺麗な夜空の下。一日の疲れが一瞬で吹っ飛んだ。

 

 

「まさかマジで温泉を掘りだすとは……」

 

 

携帯端末を使って真下に水脈があることは分かっていた。だがそれが温泉かどうか分からなかった。

 

しかし、最深部の真下がちょうど俺たちが求めていた温泉だった。結局あのまま下へ掘り続けていたら女王蟻型(モデル・クイーンアント)に出会っていたわけだ。横穴を見つけれたことは良かったというわけか。

 

だが俺たちが衝撃を与えたせいで、温泉の水蒸気が一気に爆発。間欠泉として温泉は地面から吹き上げた。

 

ガストレアが地中約800メートルで止まっていたのは温泉のせいかもしれないな。

 

東京エリアをまた救った。ということらしいので蓮太郎たちはIP序列がまた上がったらしい。俺?聞くなよ……。

 

 

「お金も風呂もゲットで一石二鳥」

 

 

この調子なら東京エリア以外の他のエリアに行って、美琴とアリアを探せるかもな。

 

 

ガララッ

 

 

「あ、先生!」

 

 

「ハイよかった。先生目隠してるから」

 

 

子どもたちが風呂に入って来た。風呂が一つしかないからって、それは無いよ?

 

 

「大樹先生だ!」

 

 

「あー!タオル巻いてる!」

 

 

「マナー悪い!」

 

 

「自分の尊厳を守って何が悪いんだよ」

 

 

あと人が風呂に入っているのに入って来るのはマナー違反じゃないのですかね?

 

 

「お前らなぁ……あとで怒られるの俺なんだぞ?」

 

 

「お姉ちゃんたちはお皿を洗っているから大丈夫だよ」

 

 

「大丈夫じゃねぇよ。脳ミソ腐ってんのか」

 

 

「先生!背中!」

 

 

「自分で洗え」

 

 

俺は頭を抑え、溜め息をつく。また疲れが溜まっちゃうよぉ!

 

 

「えいッ!!」

 

 

バシャンッ!!

 

 

「飛び込むなよ」

 

 

マナーがうんぬんとか言ってなかったか?

 

子どもたいはキャッキャと言いながら温泉に浸かる。その時、

 

 

「ほら!はやく入るわよ」

 

 

「「「「「ハーイ」」」」」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

脱衣所から聞こえる女の子の声。俺たちは驚愕する。

 

 

「お、おい……今の声って優子じゃなかったか?」

 

 

「……先生」

 

 

「な、何だよ」

 

 

「「「「「ドンマイ」」」」」

 

 

「泣くぞ。マジで泣くぞ」

 

 

子どもたちに見捨てられた俺。可哀想な俺。

 

 

ガララッ

 

 

「あ」

 

 

「……………何をしているのかしら大樹君?」

 

 

昨日も聞いたなこれ。ハハッ………やっぱり震えが止まらねぇ。

 

 

「あの、その、これは……目隠しだからセーフ!」

 

 

「チェンジよ」

 

 

まさかのスリーアウト。終わったな。

 

 

「……今回だけよ」

 

 

「え?」

 

 

「今回だけ許すわ」

 

 

カキーンッ!逆転満塁ホームラン!やったぜ!

 

 

「さ、サンキュー……じゃあ」

 

 

「何で出るのよ」

 

 

「へ?」

 

 

「で、出なくていいでしょ」

 

 

「い、いや!これは……」

 

 

「アタシと入るのは……嫌なの?」

 

 

だからそれ反則だって!

 

 

「全然!カモン!」

 

 

ほら!誰だよコイツ!?何がしたいんだよ!?

 

子どもたちがキャーキャー言っているが全部スルー。それどころじゃなくなった。

 

優子が体を洗っている間、心臓がバクバクと暴れる。最近、心臓に悪い出来事ばかりです。

 

 

「入る……わね」

 

 

「……うっす」

 

 

お湯の波が俺の体に伝わり、すぐ横に優子がいるのがすぐ分かる。

 

ここで目隠しを取りたいが、嫌われたくないのでやめる。……そんな度胸がないのが本音だが。

 

 

「「……………」」

 

 

か、会話が続かねぇ……!

 

 

「先生とお姉ちゃん、顔が真っ赤だよ!」

 

 

「お湯が熱いからだ!」

 

 

子どもたちよ!茶化さないでくれ!

 

 

「「……………」」

 

 

それでも続かねぇ……!

 

 

「だ、大樹君」

 

 

「な、なんでしょう」

 

 

「せ、背中……流してあげるわ」

 

 

「ど、どうも」

 

 

「「……………」」

 

 

「上がりなさいよ!」

 

 

「す、すまん」

 

 

俺は急いで風呂から上がり、風呂椅子に座る。もちろん下半身にタオルは巻いています。見せられません。

 

ドキドキしながら待っていると、背中に石鹸(せっけん)の泡とタオルが押し当てられた。

 

ゆっくりとタオルは上下に動き、俺の背中を洗う。

 

 

「ど、どうかしら」

 

 

「き、気持ち良いぞ」

 

 

なんかエロい会話だな。ホント今日の話、R-15で収まってんのか。

 

しばらくゴシゴシと洗ってもらい、動きが止まる。

 

 

「だ、大樹君」

 

 

「ど、どうした」

 

 

優子は小さな声だったが、聞こえた。

 

 

「前は……まだ無理かも……!」

 

 

「あああああッ!!自分で洗うよ!ありがとう!」

 

 

俺は急いで()()()()した石鹸を手に取り、身体を洗う。

 

 

「先生!?それ()()()!!」

 

 

ドグシュッ!!

 

 

「ぎゃあああああ!?」

 

 

「「「「「先生!?」」」」」

 

 

「大樹君!?」

 

 

この後、この事件のせいで黒ウサギと真由美にバレて怒られた。

 

 

 

________________________

 

 

 

教会の灯りが消え、子どもたちが寝静まった12時。日付が変わった。

 

一人一人用意された布団に入った子どもたちは仲良く寝ており、手を繋いでいる子どももいる。

 

 

「どうしよう……トマトジュースが美味すぎる」

 

 

「手を震える程なの?」

 

 

真由美が尋ねる。

 

 

「傷が癒えるくらい美味い」

 

 

「前以上に人間をやめているわね……」

 

 

優子は頭を抑えて溜め息をつく。隣に座った黒ウサギは苦笑いだ。

 

たわしで傷つけた体の傷は完治した。今日から所持しようかな?

 

教会の祭壇をテーブル代わりにして、夜のティータイムを楽しんでいた。

 

 

「黒ウサギはもう大樹さんの人外っぷりには慣れましたよ」

 

 

「おいちょっと待て。人外っぷりなら黒ウサギも負けていないだろ」

 

 

「え?」

 

 

「何で首を傾げた」

 

 

おかしい。俺だけ人外なのはおかしい。

 

 

「……大樹さん」

 

 

黒ウサギが真剣な声音で俺の名前を呼ぶ。あの件か……。

 

 

「黒ウサギは普通です」

 

 

「真顔で何言ってんだお前」

 

 

はよ。要件はよ。

 

 

「すいません大樹さん」

 

 

黒ウサギは悲しそうな表情で俺に謝った。

 

 

「謝らなくていい。進展はやっぱなしだったんだろ?」

 

 

俺の言葉に黒ウサギは微妙な表情になるが、頷いた。

 

やはり美琴とアリアの目撃情報はこの街に一つも無い。俺も聖天子に頼んでいるが、こちらも進展はなし。

 

 

「……他のエリアも探すかもしれないな」

 

 

「最悪、外国まで行く覚悟が必要です」

 

 

黒ウサギの言った言葉に俺は唇を噛む。

 

東京エリアに彼女たちはいない。そうなると他のエリアに行くことになる。

 

 

「ねぇ大樹君。その美琴さんとアリアさんのこと、聞いてもいいかしら?」

 

 

真由美の質問に、俺は首を傾げた。

 

 

「詳しく話して無かったか?」

 

 

「大樹君の惚気(のろけ)話はもういいわ」

 

 

やめて!優子と黒ウサギがジト目で見てるよぉ!

 

 

「でもアタシも聞いたわね。二人の出会いとか」

 

 

ありゃ?知らないのか?まぁいい機会だし教えるか。

 

優子の質問に俺は答える。まず美琴から。

 

 

「強盗がデパートを襲った時、美琴が能力を抑えられてしまって、人質として捕らわれていたんだ。そこを助けたのが、買い物に来ていた俺だ」

 

 

「ふ、普通の出会いじゃないわね……」

 

 

「まぁ待て真由美。まだ終わりじゃない」

 

 

「え?」

 

 

「人質を助けた後、核爆弾を見つけた」

 

 

「「「えぇ!?」」」

 

 

「ちゃんと処理したけどな」

 

 

「どうやってよ!?」

 

 

真由美の質問に俺は真顔で答える。

 

 

「水の中で爆発させた」

 

 

「助からないわよ!?」

 

 

「以上だ」

 

 

「終わらないでよ!?」

 

 

次にアリアとの出会いを話す。

 

 

「アリアはパラシュートで落ちて来て、俺の顔面に膝蹴りをしたところから始まった」

 

 

「もう訳が分からないわ……」

 

 

真由美が頭を抑えた。可哀想に。

 

 

「その後はいろいろあって雲より高いところから俺は美琴とアリアと一緒に落下した」

 

 

「何でよ!?」

 

 

「シャーロック・ホームズに言え!!」

 

 

「どうしてそんな偉人に当たるのよ!?」

 

 

「アリアがシャーロック・ホームズの子孫だからだよ!」

 

 

「えぇ!?」

 

 

あ、優子と黒ウサギは知っているみたいだな。

 

 

「で、でもシャーロック・ホームズが生きて―――」

 

 

「ところがどっこい。生きてました」

 

 

「……もう頭が痛いわ」

 

 

もうやめてあげよう。こうして思い返すと波乱万丈な人生を送ってるな俺。

 

俺の話を聞いた真由美は、震えながら優子を見る。

 

 

「も、もしかして優子さんも……!」

 

 

「優子の付けているペンダント。あれは神が創り上げたモノだ。俺と優子の出会いが多分、凄い……!」

 

 

「嘘言わないでよ!?アタシと大樹君は普通に教室で会ったでしょう!?」

 

 

「あー、そうだった……のか!?」

 

 

「思わせぶりな発言しない!」

 

 

痛い痛い!頬を引っ張らないでぇ!

 

 

「と、とにかく、二人とも俺の大事な人だ」

 

 

俺はトマトジュースを飲み干し、缶を潰す。

 

 

「アーユーオーケー?」

 

 

「英語のセンスが無いわね……でも、大樹君の頼みなら仕方ないわね」

 

 

俺に真由美は笑みを見せる。その可愛さに頬が赤くなってしまった。

 

 

「ふふッ、大樹さん照れていますね」

 

 

「こ、これはトマトジュースのせいだ!」

 

 

「もっとマシないいわけはなかったのでしょうか……」

 

 

黒ウサギに呆れられてしまった。

 

 

「アタシも大樹君に助けて貰ってよかったわ。美琴とアリアも、きっとそれを望んでいるわよ」

 

 

優子の言葉に俺はさらに顔を赤くする。わざとじゃないのが余計に照れる。

 

 

「あー!今日はもう寝るぞ!おやすみ!」

 

 

恥ずかしさのあまり、俺は逃げるようにその場から立ち上がり、敷いてあった布団に潜り込んだ。

 

女の子の笑い声が聞こえてるが、俺は無視して眠った。

 

しかし、こういう時間も悪くないっと思った。

 

________________________

 

 

 

「マスター。東京エリアの外周区まで侵入に成功しました」

 

 

『さすがだ。予定より早く着いたな。しかし、これからの任務は時間通りに行え』

 

 

「はい」

 

 

『よろしい。任務開始時間までに拠点の確保。アイテムの回収を定時報告までに済ませておけ』

 

 

「了解しました」

 

 

『ティナ・スプラウト。お前の任務は何だ?もう一度、私に聞かせておくれ』

 

 

「はい、マスター。私の任務は―――」

 

 

 

 

 

「―――聖天子を暗殺することです」

 

 

 

 

 





ここから先は作者の落書きです。興味の無い方はブラウザバックをして頂いて構いません。


Twitterでのたくさんの応援メッセージ、ありがとうございます。

今回は個人的に送られたメールの返信です。質問や提案メールが来たので紹介します。


「100話到達記念はありますか?」


A.その発想は無かった。

お気に入り1000越えにしか目が無かったので盲点でした。

こちらはお気に入り1000と同様、考えておきます。


「キャラ紹介は作らないんですか?特に主人公」


A.やるなら5000文字以上は覚悟してください。

現在の大樹。まとめると凄いですよ。要望が多かったら作ります。


「ランク500越えです。〇〇〇〇〇〇〇←ID」


A.パズ〇ラ……

強かったです。


「お気に入り1000になった時の番外編はもちろん1000話分ですよね!」


A.死んじゃう。

多くても10話で勘弁してください。


以上、素晴らしいメッセージありがとうございました。また面白いメッセージがあったら紹介します。

これからも、この物語をよろしくお願いします。

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