どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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皆さん、チョコは何個貰いましたか?私は一個です。


……ありがとう、母さん。

でも、『アンタ、今日何個貰った?』って心を抉る質問するはやめてください。毎年同じ数ですから。




九校戦 Third Stage

CADを三機同時に使った雫。その光景に達也たちも驚いていた。

 

 

「嘘……三機!?魔法なんて使えるの……!?」

 

 

達也の隣に座ったエリカが呟いた。他のみんなも同じ感想を抱いていた。

 

 

「……達也君?」

 

 

「……………」

 

 

何も喋らない達也を心配した美月が声をかける。達也はじっと雫を見ていたが、

 

 

「なるほど。だから汎用型のCADを使ったのか」

 

 

「何か分かったのか?」

 

 

何かに気付いた達也にレオが尋ねる。

 

 

「汎用型CADは多様性を重視したCADだ。系統の組合せを問わず、一度に最大99種類の起動式をインストールできるほど容量が莫大に多い」

 

 

「逆に特化型はその多様性を犠牲にして、系統が同じ9種類の魔法の発動速度を上げたりできるんだよね」

 

 

幹比古が達也の説明に捕捉を付け加える。達也は頷いて説明を続ける。

 

 

「だが雫が腕につけている汎用型CADには一つしか魔法を発動できないようになっている」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

達也の言葉にみんなが驚いた。

 

 

「汎用型の莫大な容量を一つの魔法で埋め尽くしている。雫の魔法式を見て分かった」

 

 

「魔法式だけでそこまで分かるのか!?」

 

 

レオが声を上げて驚いていた。

 

 

「雫が魔法を発動するスピードが明らかに遅すぎた。発動が遅れるほど魔法式のデータ量が多いんだ」

 

 

「ど、どうして魔法式のデータ量をわざわざ多くしてあるのですか?」

 

 

ほのかが疑問に思ったことを聞く。

 

 

「わざわざ多くしてあるんじゃない。故意で多くしてあるんだ」

 

 

達也は言葉を訂正し、

 

 

「魔法同士が干渉し合わないようにしたせいでデータ量が多くなったんだ」

 

 

達也の簡潔な答えを出した。その言葉にエリカがハッなる。

 

 

「……もしかして三機同時に魔法を使えるように魔法式を組み立てたの!?」

 

 

「汎用型CADの莫大な量を全て使うほどだ。可能性はある。組み立てた大樹は相当の……」

 

 

そこで、達也は視線を逸らした。

 

 

「「「「「あ、うん……」」」」」

 

 

みんなは察して、変な空気が流れた。

 

沈黙が続く中、エリカが何かに気付いた。

 

 

「ちょっと待って……それを雫は読み取ることはできるの?」

 

 

「雫が読み取りやすいように、普通の魔法と変わらない簡単な魔法式が構築してあった。処理する情報は多いが、処理するのは難しくない」

 

 

「ぜ、全部の要領を使っているのに!?」

 

 

美月は驚きの声を上げる。他の人たちも目を見開いて驚いていた。

 

 

「でも、移動魔法をわざわざ特化型CADで使うってどういうこと?いくら莫大な量を詰め込んだ汎用型でも、移動魔法くらいの魔法式なら入れれると思うけど」

 

 

幹比古が新たな疑問を口にする。

 

 

「本当に汎用型CADに移動魔法を組み入れる容量が無かった、からじゃねぇのか?」

 

 

レオは達也の顔色を(うかが)いながら聞いた。

 

 

「いや、違うな」

 

 

達也は目を細め、雫の特化型CADを睨んだ。

 

 

「特化型CADにわざわざ移動魔法を組み入れた理由が他にあるはずだ」

 

 

________________________

 

 

 

雫が最初の二本の氷柱を破壊した瞬間、深雪の切り替えは速かった。

 

 

フォン!!

 

 

深雪はCADを操作し、振動減速系広域魔法、

 

 

 

 

 

【ニブルヘイム】を発動した。

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

 

雫はその光景に面を食らった。液体窒素の霧が雫の陣地に襲い掛かる。

 

深雪の作戦は膨張率を上げることだ。

 

雫の氷柱に、液体窒素の滴をびっしりと付着させ、その根元に『水溜り』を作る。そして、もう一度【氷炎地獄(インフェルノ)】を発動することで、気化熱による冷却効果を上回る急激な加熱によって、液体窒素を一気に気化させる。

 

すると膨張率は700倍まで跳ね上がり、氷柱は崩れる。

 

それだけではない。【ニブルヘイム】を発動すれば、硬化魔法を纏った氷柱を飛ばされる心配は無い。雫の氷柱は地面とガッチリとくっついて固まっており、移動魔法を発動しても、動かすことはできないからだ。さらに自分の氷柱も飛ばされない。完璧な作戦。

 

 

しかし、深雪の作戦は上手く行かない。

 

 

フォン!!

 

 

雫が拳銃型CADで移動魔法を深雪の氷柱に発動させた。しかし、深雪の氷柱は地面とびっしりと凍っているので、移動することはない。

 

だが、

 

 

ドゴンッ!!

 

 

深雪の氷柱は横から真っ二つになった。

 

 

「ッ!」

 

 

深雪は一瞬動揺したが、原理は分かっていた。

 

氷柱の上半分に移動魔法を発動させることで、無理矢理氷柱を真っ二つにしたのだ。氷柱が動かないことを利用して。

 

氷柱を飛ばせないようにした作戦。逆に利用されてしまった。

 

 

ドゴンッ!!ドゴンッ!!

 

 

一本。また一本と、次々と深雪の氷柱は破壊されていく。だが、深雪は冷静に【ニブルヘイム】を発動し続ける。

 

 

深雪の氷柱が半分。残り6本っとなったところで、頭で考えた予定通り、【ニブルヘイム】から【氷炎地獄(インフェルノ)】に切り替えた。

 

 

(これで終わり!)

 

 

フォン!!

 

 

深雪は勝利を確信した。

 

その瞬間、膨張率は700倍になり、

 

 

ドゴオオオオオォォォ!!!

 

 

大きな音を立て、雫の氷柱が一気に崩れ去った。

 

蒸気爆発の音も交じっており、観客たちも静まり返ってしまった。

 

蒸発した気体でフィールドが見えないが、誰もが深雪の勝ちだと思っていた。

 

氷炎地獄(インフェルノ)】【ニブルヘイム】。上級魔法を使いこなす深雪。結果は始まる前から分かっていた。

 

 

「ッ!?」

 

 

霧が晴れ、フィールドが見えるようになる。そして、深雪は目を疑った。

 

だが、まだ深雪の勝ちでは無い。

 

 

 

 

 

雫の陣地にはたった一本だけ。硬化魔法で守られた氷柱が残っていた。

 

 

 

 

 

その瞬間、観客たちの大歓声で会場は震え上がった。

 

雫は硬化魔法で氷柱を飛ばした後、【ニブルヘイム】の冷気に当たる前に、自分の氷柱を一本だけ硬化魔法をかけたのだ。そうすることで、【ニブルヘイム】の液体窒素の滴が付着して、【氷炎地獄(インフェルノ)】を発動されても、気化されることは無い。

 

蒸気爆発も硬化魔法の前では効かない。倒す方法はただ一つ。

 

 

硬化魔法より強い魔法力で、破壊すること。

 

 

「ッ!」

 

 

フォン!!

 

 

深雪は急いで【氷炎地獄(インフェルノ)】をキャンセルし、移動魔法を残り一本となった雫の氷柱に発動させる。

 

だが、

 

 

魔法は発動しなかった。

 

 

深雪は驚愕する。発動しなかった理由。

 

 

 

 

 

氷柱に3つの別々の魔法が重なり、キャストジャミングと同じような現象が引き起こってしまい、魔法が無効化されてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

深雪が油断したわけじゃない。雫が狙っていたのだ。

 

 

(お願い……!)

 

 

雫は心の中で強く願う。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

深雪の氷柱が残り4本目になる。

 

移動魔法をわざわざ特化型にした理由がこれだ。

 

二つのCADでキャストジャミングと同じ現象を起こしている間に、深雪の氷柱を破壊出来るように、移動魔法を特化型CADに入れたのだ。

 

特化型CADは移動魔法しか発動できない。これも干渉しないように魔法式を組んだせいだ。

 

 

フォン!!

 

 

すぐに雫は移動魔法で次の氷柱を狙う。

 

しかし、深雪は自分の狙われている氷柱に硬化魔法をかけ、回避しようとするが、

 

 

ドゴンッ!!

 

 

特化型CAD、大樹の組み上げた魔法式。わずかに深雪の反応が遅れたおかげで、深雪の氷柱が真っ二つになった。

 

深雪の氷柱は……残り2本。

 

 

(深雪が焦っている……チャンスは今しかない!)

 

 

初めて追い詰められた状況。深雪の表情は険しかった。

 

 

(お願い……!)

 

 

雫は移動魔法を展開させる。同時に硬化魔法と【情報強化】をいつでも発動できるように準備しておく。もう一度、キャストジャミングと同じ現象を狙っていた。

 

 

(あと少し……お願いだから!)

 

 

フォン!!

 

 

雫と深雪の魔法が同時に発動した。

 

雫は残り2本となった氷柱のうちの一つ。深雪は雫の最後の氷柱に発動した。

 

 

フォン!!

 

 

雫は二機の汎用型CADで深雪が狙った氷柱。自分の最後の氷柱にかけた。

 

さきほどと同じく、両者の魔法は不発で終わる。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

そして、深雪の氷柱が最後の一本となった。

 

 

 

 

 

これで、両者の氷柱は一本だけとなった。

 

 

 

 

 

(あと一本……!)

 

 

雫は急いで最後の氷柱に狙いを定める。

 

 

(お願い……届いて……!)

 

 

再度同じ工程で、汎用型CADと拳銃型CADで魔法を準備する。

 

 

(届いて……!)

 

 

その時、雫が魔法を用意する前に、深雪が動いた。

 

だが、深雪は雫の氷柱に魔法を干渉させることはできない。

 

 

フォン!!

 

 

深雪は地面に倒れた氷柱に硬化魔法を掛けて、

 

 

 

 

 

(届いてよ……)

 

 

 

 

 

 

深雪は移動魔法で硬化魔法を纏わせた半壊の氷柱を雫の氷柱にぶつけた。

 

 

 

 

 

ドゴンッ!!

 

 

そして、雫の最後の氷柱が崩れた。

 

 

ビーッ!!

 

 

勝者と敗者が決まった。

 

 

_______________________

 

 

コンコンッ

 

 

「……誰?」

 

 

「大樹だ。入っても大丈夫か?」

 

 

「うん、いいよ」

 

 

ガチャッ

 

 

「……よう」

 

 

「どうしたの?」

 

 

ドアを開けて、入って来た大樹の表情は暗い。雫はベッドに座っており、窓の方を向いている。大樹からは雫の表情は見えない。

 

 

「……すまねぇ」

 

 

「……どうして謝るの?」

 

 

「俺がもっと強い魔法式を組み上げて入れば……作戦は成功したはずだった」

 

 

大樹たちが立てた作戦は予想通りの展開だった。だが、失敗に終わった。

 

深雪の【氷炎地獄(インフェルノ)】、【ニブルヘイム】。深雪が使うであろう魔法、作戦。

 

 

全て大樹の読み通りだった。

 

 

しかし、両者の氷柱が最後の一本になったあの時、逆転されてしまった。

 

雫の氷柱は魔法が干渉できないようにした。だが深雪はそれを利用した。

 

雫自身も、自分の氷柱に硬化魔法をかけて守ることを封じられていた。移動魔法で深雪の飛ばした氷柱の軌道をずらそうにも、時間は足りない。

 

まさか、雫が最初に氷柱の破壊に使った作戦を深雪に使われるなんて……。

 

 

「違う……違うよ!」

 

 

「ッ!」

 

 

雫は大きな声を上げながら立ち上がって、大樹の方を振り返った。

 

大樹は雫の顔を見て言葉を失った。

 

 

 

 

 

雫の目元は赤く、瞳から涙が流れていた。

 

 

 

 

 

「最初は勝てないって思ってた……でも、大樹のおかげで勝てると思えた!試合だって深雪をあそこまで追い詰めれた!」

 

 

普段は冷静で、感情的になって大声を上げるような女の子ではない。しかし、この時は違った。

 

 

「でも、責任は私にある!もっと魔法の発動スピードを上げていたら勝っていたかもしれないのに……それを壊したのは私!私が悪いから!」

 

 

「いや、発動スピードが上がらなかったのは俺の責任だ!雫は何も悪く……!」

 

 

「そんなことない!そんなことないけど……!」

 

 

「俺が悪い!雫は頑張ったんだ!それを無駄にしたのは……!」

 

 

「違う!」

 

 

雫の言葉が俺の声を遮った。

 

 

「違う!違うの!そういうことを言いたいんじゃないの!」

 

 

「だったら……!だったら何だよ……!」

 

 

大樹の声が弱々しくなった。雫の涙が落ちる速度が速くなったのを見て。

 

 

「私たちは……頑張ったから……!」

 

 

「俺は何もしていない」

 

 

「でも……でも!」

 

 

雫の言葉はハッキリと聞き取れた。

 

 

「こんなのおかしいよ……!」

 

 

「……あぁ、そうか」

 

 

前提がおかしかったんだ。

 

責任を自分が背負うことを考えすぎて、何も分かっていなかった。

 

大樹はゆっくりと雫に近づいて行き、下を向く雫の頭をそっと……優しく撫でた。

 

 

「俺たちは全力を尽くした。でも負けた。だったら」

 

 

雫が顔を上げる。

 

真っ赤になった瞳。頬に涙が伝っている。

 

大樹はそれを優しく指で拭き取った。

 

 

「どっちとも悪くて、どっちとも悪くねぇんだ」

 

 

「え?」

 

 

「お互いに全力を尽くしたんだ。どちらとも悪くねぇだろ?お互いに悪いところはあったんだ。どちらとも悪いだろ?」

 

 

だったらっと大樹は付け加え、

 

 

「俺たち二人、どっちでも構わねぇんだよ」

 

 

大樹は笑みを浮かべた。

 

 

「どっちが責任を負うことなんて無くていいんだよ。どちらかが背負うくらいなら捨てちまって楽になればいい。でも、その責任をどうしても背負いたいなら背負えばいい……でもな」

 

 

大樹は告げる。

 

 

 

 

 

「背負う時は、二人で背負えばそんな重みも……楽になるんじゃねぇの?」

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

 

物事の失敗には必ず責任がある。誰かが負わなければならない。負った者は絶対に損をする。

 

しかし、責任を捨てれば、その責任は猛犬のように誰かに噛みつき、苦しめる。

 

誰かが傷つかなければならない。逃げることのできない怪物。

 

でも、そんな怪物を二人なら……三人なら……みんなと一緒に飼うのなら、

 

 

それは優しい子犬のようになり、乗り越えられるのかもしれない。

 

 

だが、これは理想論であり、自分のためにはならないのかもしれない。

 

自分を強化するために、高めるために責任を拘束器具にして、利用する人もいるかもしれない。

 

だけど、その拘束器具が人を殺めるほどの負担が掛かった時、俺たちは助けなくていいのだろうか?

 

否。見て見ぬフリはやめろ。

 

そいつがきつそうなら、苦しそうなら、痛そうなら、もう耐えられなさそうなら、

 

『助けて』と声を出したのならば。

 

俺たちはそいつと一緒に責任を背負って、乗り越えてやればいい。

 

その時の責任は、俺たちを成長させるに違いない。だから、

 

 

「俺たち二人で背負わないか?」

 

 

どちらかが背負う、ではなく。

 

どっちとも、二人で背負うんだ。

 

 

本当の悪なんていないのだから。

 

 

「……じゃあ」

 

 

雫は答える。

 

 

 

 

 

「一緒に、背負う」

 

 

 

 

 

「おう。悪かったな雫。それと」

 

 

大樹は雫の頭をまた優しく撫でた。

 

 

「よく頑張ったな」

 

 

「ありがとう大樹。私も悪かった」

 

 

雫は涙を流しながら微笑んだ。大樹もその笑顔を見て、微笑んだ。

 

 

「やっぱり……悔しい」

 

 

「ああ、俺もだ」

 

 

夕日が沈むころには、雫は笑顔を見せれるようになっていた。

 

 

_______________________

 

 

【大樹視点】

 

 

「……何で俺の部屋にいるんだ、お前ら」

 

 

雫と仲直り?そもそも喧嘩したっけ?よく分からないが仲良くなった。うん、これがいい。雫とイチャイチャした後、部屋に戻って来た。……イチャイチャは盛りました。サーセン。

 

 

「く、黒ウサギはただ大樹さんの様子を見に来ただけです!」

 

 

「あ、アタシは楢原君が心配……じゃなくて!様子を見に来ただけよ!」

 

 

「私も様子を見ただけよ!」

 

 

俺のベッドには黒ウサギ、優子、真由美が座っていた。何故か原田のベッドには座っていない。というか様子見に来すぎだろ。どこの偵察部隊だテメェらは。

 

 

「まぁ別にいいけどよ」

 

 

俺は人気が無い原田のベッドに腰を下ろす。

 

テーブルの上には缶ジュースが置いてあった。黒ウサギはそのうちの一つを俺に差し出した。

 

 

「サンキュー」

 

 

お礼を言って缶を開ける。そして、一気に飲む。炭酸水が喉を刺激し、オレンジの甘い味が口に広がる。

 

 

「あー、真由美。さっきは何か悪かったな」

 

 

「気にしてないわ。どっちとも間違ったことは言ってないのだから」

 

 

「……そうだな。どっちとも悪くねぇ、か」

 

 

「あ、もし気にしているのなら一つ貸しにしていいかしら?」

 

 

「いいぜ」

 

 

「「ッ!?」」

 

 

俺の言葉を聞いた黒ウサギと優子の肩がビクッと震えた。

 

 

「大樹さん!ダメですよ!」

 

 

「そうよ!断りなさい!」

 

 

「いや、貸しの一つくらい別にいいだろ?」

 

 

どうしてそこまで必死になる?

 

黒ウサギは手をワタワタっと振りながら俺に言う。

 

 

「ではもし『太平洋の海水を飲み干しなさい』と言われたらどうするんですか!?」

 

 

「どんな要求だよ!?真由美はそんなこと言わねぇよ!」

 

 

あと物理的に無理だから!

 

今度は優子が必死に俺に言う。

 

 

「だったら『九校戦に出場する女の子にセクハラしなさい』って命令されたら!?」

 

 

「だからどんな要求だよ!?そして真由美はそんなことを言わねぇから!?」

 

 

「じゃあ『大樹君と温泉に入る』はどうかしら?」

 

 

「だーかーら!真由美はそんなこと……そんなこと……アレ?」

 

 

俺はゆっくりと首を動かす。最後、言った人は……。

 

 

ニコニコと笑顔をした真由美だった。

 

 

「「「えぇッ!?」」」

 

 

俺たちは驚き、黒ウサギはギフトカードを握り、優子はCADを持った。ってえぇッ!?何構えてんの!?

 

 

「こ、混浴はこのホテルに無い!」

 

 

「ホテルの部屋があるわ!」

 

 

「狭ッ!?狭いだろ!?ってそんな問題じゃない!」

 

 

俺は立ちあがって抗議する。

 

 

「どうせなら大きなお風呂で混浴をあああああ嘘ですごめんなさい!痛いから勘弁して!」

 

 

蹴らないでぇ!踏まないでぇ!捻らないでぇ!

 

 

「だ、だったら……だったら!」

 

 

黒ウサギは顔を真っ赤にしながら言った。

 

 

「黒ウサギも一緒に入ります!」

 

 

「はあああああァァァ!?」

 

 

どうした黒ウサギ!?どこで頭をぶつけた!?

 

 

「ダメよ!楢原君は男t……お、女の子と一緒に入るなんて危険だわ!」

 

 

「待って!前半部分が聞き逃せないよ!?どういうことを考えてるの!?ねぇ!?」

 

 

男が何だよ!?恐ろしいなおい!

 

 

「だから、アタシが見張ってあげるわ!」

 

 

「はあああああァァァ!!??」

 

 

先程より声量は大きかった。だ、誰か!お医者様はいませんか!?

 

 

「仕方ないわね……………許可するわ」

 

 

「しちゃったよ!本人に相談なしで勝手にしちゃったよ!」

 

 

「では、黒ウサギは着替えを持ってきますね」

 

 

「おいおいおいおいおいおいおい!?本気か!?正気の沙汰か!?」

 

 

ヤバいだろ!?そもそも駄目だろうが!

 

クッ、最後の抵抗だ!

 

 

「風呂に入る時は……!」

 

 

俺は男だ!決めるぞ!

 

 

 

 

 

「水着を着ろ!」

 

 

 

 

 

「「「……………」」」

 

 

うん、我ながら進歩しないな俺。

 

黒ウサギ、優子、真由美は俺の言葉を聞いて一言ずつ言った。

 

 

「チキンですね」

 

 

「チキンね」

 

 

「むしろ腰抜け?」

 

 

「コケコッコおおおおおォォォ!!」

 

 

うるせぇよ!お前らがおかしいんだよ!俺は常識人だ!

 

 

「というか裸で俺と一緒に風呂に入るとか馬鹿なのか?もっと自分の体を大切にしろよ!」

 

 

「鈍感ですね」

 

 

「鈍感ね」

 

 

「むしろ馬鹿ね」

 

 

言いたい放題だな。悪口のバーゲンセールかよ。

 

 

「はぁ……あのな」

 

 

俺は溜め息をつき、話し始める。

 

 

「三人が少なくとも俺に好感を持っていることくらいは分かるぞ?」

 

 

「「ッ!?」」

 

 

黒ウサギは頬を赤くし、視線を逸らした。一方、優子と真由美は驚きながら顔を真っ赤にした。

 

 

「だからこそ……その、何だ……線?まぁ線的なモノは引いておこうぜって話だ」

 

 

「か、かか勘違いしないでよ!アタシは別に違うんだからね!」

 

 

「わ、私もにょ!」

 

 

「もう答え言ってるのと同じだろそれ……」

 

 

「大樹さん」

 

 

落ち着いた声で俺の名前を呼んだのは黒ウサギ。黒ウサギは満面の笑みを浮かべながら言う。

 

 

「黒ウサギ()大好きですよ」

 

 

「……おう」

 

 

俺は手に握った缶ジュースを全部飲み干す。

 

『も』を強調する辺り、黒ウサギは意地悪というか。それとも純粋に言っているのか……。

 

 

(自分でも顔が熱いのが分かるぞ……)

 

 

俺は照れているのか?いや、部屋が暑いだけだ。そうに違いない。

 

 

「ふふっ、もしかして照れていますか?」

 

 

「さぁな」

 

 

黒ウサギは口に手を当てながら悪戯に笑う。顔が熱い。頭は少しくらくらするし……何だこれ?

 

 

「……楢原君ってときどき分からないわ」

 

 

「俺は優子のこと、結構分かっていると思うぜ?」

 

 

「……馬鹿」

 

 

「どうも」

 

 

優子は口を尖らせながら呟き、後ろを向いた。ホントに可愛いな全く。

 

はぁ……何か今なら何でも言ってしまいそうだ。

 

 

「大樹君に踊らされるなんて、複雑ね」

 

 

「いつものお返しだ」

 

 

「いらないわよ、そんなの」

 

 

「そりゃ残念。ついでにこの前のキスも返してやろうか思ったのに」

 

 

「「「ッ!?」」」

 

 

えーとっ……もう一缶、飲んでもいいのかな?

 

 

「だ、大樹さんが酔いましたよ……!」

 

 

「さすがにあれだけアルコール度数が高けりゃね……」

 

 

「どうするつもりなの……?」

 

 

「黒ウサギに任せてください……」

 

 

ふぅ……この缶ジュースうめぇな。もう二缶も飲んじまったぜ。

 

 

「大樹さん……って3缶目!?そんなに飲んだんですか!?」

 

 

「ぁあん?」

 

 

頭が回らないなぁ……黒ウサギは何を言ってんだ?

 

 

「あー、もう寝ていいかぁ?」

 

 

「えッ!?あ、いや……」

 

 

「おやすみー」

 

 

ガクッ

 

 

「お、おやすみなさい……え?」

 

 

大樹は三人が座っているベッドまで歩くが、途中で力尽き、

 

 

黒ウサギの胸に大樹の頭が乗った。

 

 

「だだだ大樹さん!?」

 

 

「楢原君!?」

 

 

「大樹君!?」

 

 

三人は驚愕の声を上げるが、大樹は全く起きる気配が無い。

 

優子と真由美が必死にどかそうとするが、

 

 

ドタッ

 

 

「ひゃッ!?」

 

 

「ちょっと!?」

 

 

「きゃあ!?」

 

 

重くなった大樹の体重は女の子が簡単に動かせるものではない。

 

バランスを崩し、そのまま黒ウサギと一緒に、優子と真由美も巻き込まれてベッドに倒れた。

 

 

「「「……………」」」

 

 

沈黙が続く。聞こえるのは大樹の寝息だけ。

 

その後、誰も喋らなかった。

 

 

_______________________

 

 

 

ピピピッ!!

 

 

「うんッ……?」

 

 

携帯端末に設定したアラームが鳴り響き、俺は目覚めた。

 

枕を目覚ましにぶつけて強制停止させ、大きなあくびをする。

 

黒ウサギが俺の制服を掴んで、小さな寝息を立てていた。黒ウサギの隣では優子が黒ウサギに抱き付いて寝ている。

 

反対側は真由美が俺の腕に抱き付いて寝ていた。柔らかい感触が腕に伝わる。

 

 

「……………まだ夢から覚めてないのか?」

 

 

どうも。みんなのアイドル、楢原大樹だ。

 

突然だが寝起き早々、馬鹿みたいな事言うぜ。

 

 

 

 

 

朝起きたら、美少女が3人もいた。

 

 

 

 

 

……昨日、何があったか思い出せねぇ。

 

 

「……頭痛ぇ」

 

 

グルグルと脳みそが回っているかのような感覚だった。

 

揺れる視界の中で、あるモノを捉えた。

 

それは、昨日飲んだ缶ジュースだった。

 

 

(……何だアレ?)

 

 

『ALCOHOL』っと書かれた文字。

 

 

「まさか……アルコール!?」

 

 

自分の置かれている状況がハッキリと分かった。

 

酒を飲まされた。前もそんなことあったな。あの時は優子が犠牲になったおかげで、俺は被害に遭わなかったが。いや、それでもあったような気がする。

 

 

「う、うん……?」

 

 

「うおッ!?」

 

 

真由美が俺の声を聞いて、唸った。

 

さらに俺の驚いた声のせいで、真由美は目を開けてしまった。

 

 

「……大樹君?」

 

 

「よ、よう……」

 

 

「……昨日は」

 

 

昨日は何だよ……?変な事でも言ったのか、俺は?

 

 

 

 

 

「凄かった、わね……」

 

※大樹は何もしていません。

 

 

 

 

 

「ちょっと待てやあああああァァァ!!!」

 

 

俺の大絶叫が響き渡った。

 

 

「うるさいわよ」

 

 

「俺は一体、何をやらかしたんだ!?クズになったのか俺は!?」

 

 

「うぅん……大樹さん……?」

 

 

「ハッ、黒ウサギ!助けてくれ!」

 

 

次は黒ウサギが起床した。

 

黒ウサギは目を擦りながら首を傾げた。

 

 

「俺は昨日、何をしたんだ!?」

 

 

「昨日ですか?」

 

 

黒ウサギは少し考えた後、頬を赤くして、

 

 

 

 

 

「押し倒され、ました」

 

※もう一度言いますが大樹は何もしていません。

 

 

 

 

 

「うおおおおおォォォァァァあああああええええええェェェ!!??」

 

 

ゴッゴッゴッゴッ!!

 

 

頭を壁にブチ当てまくった。

 

やってしまった……俺は馬鹿な男だ……。

 

欲望のまま、彼女たちを……クソッタレが!!

 

 

「んー……誰?」

 

 

「優子ォ……!!」

 

 

「きゃッ!?」

 

 

優子は額から血を流した大樹を見て、可愛い悲鳴を上げた。

 

 

「優子……昨日の俺ってさ……」

 

 

「き、昨日……?」

 

 

優子はハッとなり、思い出す。

 

 

(アタシたち、結局楢原君をどかせないで……そのまま寝たんだっけ!?)

 

 

優子は慌てて大樹に指を差した。

 

 

 

 

 

「な、楢原君のせいよ!責任、取りなさいよ!」

 

※優子はここで寝たことを言っており、大樹は何もしていません。

 

 

 

 

 

「最低だ俺ええええええェェェ!!!」

 

 

大樹はそのまま部屋の外へと逃げて行った。

 

 

10分後、食堂でロープを吊るして自殺を図ろうとした大樹。先輩方が必死に止めていた。

 

_______________________

 

 

7日目 ミラージュ・バット&モノリス・コード

 

 

「よくよく考えてみれば、服は制服のままだったし……勘違いって普通に気付くか」

 

 

颯爽(さっそう)と自殺しようとした奴の言葉じゃねぇな」

 

 

「そもそも九校戦中に何飲ませてんだよアイツら」

 

 

「今時の科学……じゃなかった。魔法は凄いからな。酔いなんて一回寝ればすぐ醒めただろ?」

 

 

「科学も十分凄いけどな」

 

 

俺の隣に座った原田と話をしていた。

 

現在、俺たちは車に乗っていた。助手席に(はじっちゃん)、運転手は司が雇ったサングラス男。後部座席には俺と原田が座っていた。

 

さきほど富士の樹海の中に敵のテントが発見されたため調査に行ったが、結果はハズレ。仕掛けられた爆弾を食らってしまった。え?『普通死ぬだろ』って?……無傷だったわ。

 

 

「大樹、窓開けろよ。焦げ臭いぞ」

 

 

「原田……テメェが情報に騙されなかったらこんな目に合わなかったからな?」

 

 

(あの爆発の中……生きてる楢原もおかしいが、坊主頭の反応もおかしいだろ……)

 

 

司は遠い目をして、富士を眺めていた。二人の会話に運転手の顔は真っ青である。大樹の服は所々焦げている程度。髪のオールバックが少し崩れただけの損害だった。

 

 

「……なぁ原田」

 

 

「何だ?」

 

 

「嫌な予感がする」

 

 

「……俺がやる」

 

 

「任せた」

 

 

ガチャッ

 

 

原田は短剣を口に咥え、後部座席のドアを開けて飛び出した。

 

 

ゴォッ!!

 

 

原田は地面が足についた瞬間、進行方向とは反対方向へと飛び出した。姿はすぐに見えなくなる。

 

 

「なッ!?」

 

 

司は突然の行動に驚く。運転手も手元が狂いそうになった。

 

 

「運転手、急いで戻るぞ」

 

 

「楢原!アイツはどうするんだ!?」

 

 

「追手を片付けてくるだけだ。心配するな」

 

 

「追手だと……!?」

 

 

「一人だけだし問題ない。例え強くても、原田は負けねぇよ」

 

 

(この二人の信頼関係は何だ……?)

 

 

お互いに信用し合っている。という言葉以上に信頼しているような二人。

 

司は大樹と同様、原田もただ者ではないことを少しずつ感じていた。

 

 

「あと、お前もだよ」

 

 

俺は【神影姫】を取り出し、銃口を運転手の後頭部に当てた。

 

 

「楢原ッ!?」

 

 

司が大樹の正気を疑ったが、すぐに状況が分かった。

 

運転手は片手で運転し、片手をポケットに突っ込んでいた。

 

 

(まさか……武器か!?)

 

 

司は青ざめた。運転手のポケットの外側から薄っすらと浮き出る形。それは小型の拳銃だと分かったからだ。

 

 

「ぐッ!?」

 

 

「俺が気付かねぇと思ったか?火薬(くさ)いぜ、お前」

 

 

「ふ、風呂には3回も入ったんだぞ!?」

 

 

「そういう問題なのか!?」

 

 

運転手の言葉に司はツッコム。

 

 

「ほら、ポケットに入った武器。それと連絡用の携帯端末をこっちに渡せ」

 

 

「……………」

 

 

運転手はゆっくりと手をポケットから出す。その時、

 

 

ギュルルルルルッ!!!

 

 

「うわッ!?」

 

 

車が大きく傾き、司が驚愕の声を上げる。

 

運転手は反対の片手でハンドルを大きく切ったのだ。

 

 

「ぶつかるだろう、がッ!!」

 

 

ドゴッ!!

 

 

俺は【神影姫】で運転手の後頭部を突き、衝撃を与えた。

 

運転手は気を失い、ハンドルに向かって頭突きをした。

 

 

ビイイイイイィィィ!!!

 

 

運転手の頭は見事にハンドルの上に乗り、耳が痛くなるようなクラクションを響き渡らせた。

 

 

「くッ!このッ!」

 

 

司は急いで運転手をハンドルから退かし、ハンドルを操作した。

 

 

ギャルルルルルッ!!

 

 

「おい!さっきより荒れてるぞ!?」

 

 

「仕方ないだろ!片腕しかないんだから!」

 

 

しかも助手席から左手で運転しているため、余計に揺れている。

 

大樹は揺れる車内の中、何とかバランスを取り、足をハンドルまで伸ばした。そのまま揺れを止めるように操作する。

 

 

「あーしーがーつーるーッ!!」

 

 

「我慢しろ!」

 

 

「はやく運転しろ!この体制、キツイんだぞ!?」

 

 

座席で手をつき、無理矢理足を伸ばした体制。キツイよー!バランスを取りながらこの体制はヤバいよ!?

 

 

「事故を起こしてもいいならしてやってやる!」

 

 

「二人で頑張ってやろうじゃないか!」

 

 

目的地に着くまで、大樹と司は一緒に危なっかしい運転をした。

 

最後はアクセルとブレーキを間違えて、木に激突したのは内緒だ。

 

 

_______________________

 

 

ドゴンッ!!

 

 

「着いたッ!!」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

第一高校の本部テントの天井から落ちて来たのは、黒いパーカーを着た少年。楢原大樹が落ちて来た。

 

背中には『一般人』の文字。泥だらけで、服は所々焦げている。髪はボサボサで、オールバックじゃなかった。

 

 

「どこから入ってるんですか……」

 

 

「出たな深雪……!ここで会ったが100年目!くたばr

 

 

「深雪に何するつもりだ?」

 

 

「アッ、タツヤサン!チィース!」

 

 

顔が無表情だから余計に怖いよ!

 

 

「それで、何があったんだ?」

 

 

「爆発に巻き込まれて、車で木に突っ込んで、ぶっ飛んで、ここに来た」

 

 

(((((コイツ、本当に人間か!?)))))

 

 

ここにいる全員がそう思った。

 

 

「まだマシな方だな」

 

 

「あぁ、着替えれば済むしな」

 

 

「一番酷いのはやっぱり、脱獄の時ですか?」

 

 

「そうだな。腹、(えぐ)れたしな」

 

 

(((((この三人、何を言っているんだ!?)))))

 

 

ここにいる全員がそう思った。二回目。

 

 

「でも前に心臓が出たことがありましたよね?」

 

 

「言うなよ」

 

 

「あの時、医師たちはほとんど諦めていたらしいぞ」

 

 

「達也の言葉、聞きたくなかった」

 

 

(((((楢原が一番怖ぇ……)))))

 

 

ここにいる全員がそう思った。三回目。

 

 

「さて、そろそろ本題に入るか。俺がいない間、何かあったか?」

 

 

俺は真剣な表情で聞いた。達也の隣にいた深雪が顔を歪めた。やはり何かあったか。

 

 

「モノリス・コードで事故がありました」

 

 

深雪の言葉に俺は驚いた。

 

 

「新人戦に出場するのは……森崎たちか!あいつらはどうした!?」

 

 

「重傷です。市街地フィールドの廃ビルの中で【破城槌(はじょうつい)】を受けて……」

 

 

「瓦礫の下敷きに……!」

 

 

俺は強く歯を食い縛った。

 

【破城槌】は『念爆』と呼ばれるPKの研究から開発された魔法で、対象物の一点に強い加重が掛かった状態に対象物全体のエイドスを書き換える魔法だ。

 

建物の天井に使用されれば……もう分かるだろう。

 

 

「クソッ!!」

 

 

やられた。

 

樹海の偽テントは俺たち見張りを遠ざけるためだったってことかよ!

 

 

「……新人戦。モノリス・コードはどうなる?」

 

 

「それについては、十文字君が大会委員会本部で折衝(せっしょう)中よ」

 

 

後ろから声が聞こえた。俺の質問に答えたのは真由美だった。

 

 

「真由美、その時の対戦相手は四高で合っているか?」

 

 

「ええ、合っているわ」

 

 

「じゃあ決まりだな」

 

 

俺は告げる。何度も言っているが、

 

 

「運営側にクロがいる」

 

 

「……でも、尻尾は全く捕まえていないんでしょ?」

 

 

「策はある。まだ使えないけどな」

 

 

きっとその策は成功できるだろう。だけど、今は使えない。

 

俺は目を瞑って思考を開始する。

 

もうすぐ8月11日になる。

 

アイツと約束した日。全てを話すと約束した日だ。

 

……アイツらが何か仕掛けているのか?いや、一人は違うかもしれない。

 

 

(いや、一人が……正しいのか)

 

 

目を静かに開ける。

 

 

「……もう、これ以上被害は出したくない」

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

俺の声は小さいが、テント全体に響き渡った。全員が黙って俺の言葉を聞いていたからだ。

 

 

「まず3つ。みんなに頼みがある」

 

 

みんなに見えるよう俺は前に指を三本立てた。

 

 

「一つ。一人で行動するのは禁止だ。最低でも二人、連絡をいつでも取れるようにしておいてくれ」

 

 

小さな事かもしれないが、危険を回避する一番のいい方法だ。

 

 

「二つ。不審な人物。些細なことでもいい。何かあったら俺に連絡してくれ」

 

 

宝くじと同じような作戦だな。見つけれる確率は極めて低いが……無いよりはマシだ。

 

 

「三つ。俺たちを邪魔したことを……喧嘩を売ったことを」

 

 

俺は拳を、穴の開いた天井に向かって突きあげた。

 

 

「後悔させてやるぞ!優勝するぞゴラァ!!!」

 

 

みんなは驚いていたが、

 

 

「「「「「おおォッ!!」」」」」

 

 

俺と同じように、拳を上に突き上げた。

 

穴の開いた天井から見える空は快晴。雲一つ無かった。

 

 

_______________________

 

 

テントでの一連の後、俺は試合会場の巡回警備。原田と司は他の場所を警備した。

 

しかし、敵の目立った行動。隠された細工。何一つ無かった。

 

原田は追手を見つけた所、自爆したらしいし、運転手は記憶ねぇし……もう踊らされる感が半端ない。

 

嬉しい事と言えば、ミラージュ・バットでほのかが一位。里見スバルが二位の成績を収めたことだ。後でケーキを持って行ってやろう。

 

現在の時刻は夕方。俺は既に風呂に入り、夕食を済ませている。夜の警備のために。

 

寝巻用のパーカー(もちろん、背中には『一般人』の文字)にダボダボのズボン。あくびをしながら目的地に向かっていた。

 

行く途中、廊下で制服を着た達也を見つけた。

 

 

「よう、達也も呼ばれたのか?」

 

 

「ああ。大樹もか?」

 

 

「まぁな」

 

 

上級生からの呼び出し。俺と達也は第一高校専用の会議室を目指した。年齢は俺と同じか年上なのに……。

 

 

「なぁ達也」

 

 

「何だ?」

 

 

「運営側にいるクロ。任せていいか?」

 

 

「……どうして俺に頼む?」

 

 

「知っているぞ。達也の上司的な人たちがここにいるの」

 

 

「……気付いていたか」

 

 

むしろ、本戦が始まってすぐに来ただろ。

 

達也の上司?はどんな人か分からないが、宿泊歴が偽装されてあったから怪しいとすぐに思った。様子を見た所、達也がいたので怪しくないっと判断した。

 

 

「あ、言いふらしたりしないから安心しろ。ちなみに拒否権はある」

 

 

「……会議が終わってからでいいか?」

 

 

「おう。考えろ考えろ」

 

 

そんな話をしていると、会議室が見えて来た。あ、会議室じゃなくてミーティングルームって言うんですね。ややこしいな。

 

俺がドアを開け、達也と一緒に中に入る。

 

部屋の椅子に真由美、摩利、十文字、鈴音、あーちゃん、服部、五十里。あ、桐原もいる。

 

 

「悪い。待たせたみたいだな」

 

 

「いや、それは構わないが……何だその服は……」

 

 

俺の言葉に摩利が答えるが、表情が微妙だった。

 

 

「お気に入りの寝巻の服だ。この後、仮眠をすぐに取りたいからな」

 

 

「一般人って……嘘じゃない……」

 

 

真由美のツッコミには触れない。俺は常識ある子だからね!

 

 

「それより、本題に入ったらどうだ?大体予想できているけど」

 

 

「今、大会の状況だけど……」

 

 

「私が説明しましょう」

 

 

真由美の代わりに行ったのは鈴音だった。

 

 

「新人戦のモノリス・コードを棄権しても、準優勝は確保できました。現在の二位は第三高校で、新人戦だけで見た点数差は50ポイント」

 

 

確か、モノリス・コードだけはポイントが高かったな。倍くらい違った。

 

 

「モノリス・コードで三高が二位以上なら新人戦は第三高校の優勝。三位以下なら当校が優勝です」

 

 

「いや、俺たちは準優勝だな」

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

周りのみんなの反応は意外と薄かった。なるほど、分かっていたか。

 

 

「第三高校には……『カーディナル・ジョージ』がいるからな」

 

 

「「「「「え、そっち?」」」」」

 

 

「え?逆にどっち?」

 

 

「……『クリムゾン・プリンス』ですね」

 

 

え?誰?

 

達也の言葉に俺は混乱する。記憶に無いぞ!?絶対記憶能力があるから忘れていないと思うけど!?

 

 

「達也君の言う通り、一条の御曹司に勝てる人はいないわ」

 

 

「一条……あ、アイツか」

 

 

(((((ホント緊張感が無いな、この人)))))

 

 

ここにいる全員がそう思った。まさかの4回目。

 

 

「『クリムゾン・プリンス』……俺もそういうあだ名が欲しいな」

 

 

「お前にはとっくの昔からあるだろ」

 

 

俺のつぶやきに答えたのは服部だった。

 

 

「『フードマン』」

 

 

「殺すぞテメェ?」

 

 

今なら音速の拳をプレゼントだ。

 

 

「ほら!話がずれてるわよ、はんぞーくん!」

 

 

「す、すいません……」

 

 

「大樹君も静かに聞いていなさい」

 

 

「努力する」

 

 

真由美は咳払いをした後、話を切り出す。

 

 

「ここまで来たら、新人戦も優勝を目指したいと思うの」

 

 

その時、達也は真由美の言葉を聞いた瞬間、目つきが変わったのを見逃さなかった。

 

 

「だから達也君……森崎君たちの代わりに出場してもらえませんか?」

 

 

「……二つほどお訊きしてもいいですか?」

 

 

真由美は頷いて許可を出す。達也はそれを確認して、話を始めた。

 

 

「予選の残り二試合は、明日に延期された形になっているんですよね?」

 

 

一応、森崎たちは初戦を勝ち抜いている。事故が起きたのは二回戦だ。

 

 

「ええ、その通りよ。事情を(かんが)みて、明日の試合スケジュールを変更してもらえるようになっています」

 

 

「怪我でプレーが続行不可能の場合であっても、選手の交代は認められていないはずですが?」

 

 

何だ今の言い方?まるで出たくないような……?

 

 

「それも、事情を勘案(かんあん)して特例で認めてもらえることになりました」

 

 

「……何故自分に白羽の矢がたったのでしょう?」

 

 

「実技の成績はともかく、実戦の腕なら君は多分、一年男子でナンバーワンだからな」

 

 

真由美の代わりに摩利が答えた。

 

確かに、達也の格闘術は凄い。あの寺で出会った人物。九 重(ここのえ) 八 雲(やくも)は実は言うと、物凄い有名人らしい。達也はその人に教えてもらっているそうだ。

 

 

「モノリス・コードは実戦ではありません。肉体的な攻撃を禁止した『魔法競技』です。こんなことは自分が指摘しなくとも、ご理解されているはずですが」

 

 

やっぱり……達也は恐らく出場したくないんだ。

 

さっきから感じていた違和感。達也はどうしても出たくない理由があるみたいだな。わざわざ上級生にそんな言葉を選ぶなんてな。

 

 

「魔法のみの戦闘力でも、君は十分ずば抜けていると思うんだがね?」

 

 

摩利は達也の言葉を聞いても、沈黙をしない。だが、達也を競技に出したいのなら、まだ足りない。むしろそのカードはアウトだ。

 

 

「しかし、自分は選手ではありません。代役を立てるなら、一競技にしか出場していない選手が何人も残っているはずですが」

 

 

全くその通りである。さすがの摩利も黙るしかなかった。

 

達也の追撃は続く。

 

 

「一科生のプライドはこの際、考慮に入れないとしても、代わりの『選手』がいるのに『スタッフ』から代役を選ぶのは、後々精神的なしこりを残すのではないかと思われますが」

 

 

達也が言った言葉は、真由美たちが一番悩み、言われたくない言葉だっただろう。

 

例え今年優勝できたとしても、来年や再来年に悪影響が出たら本末転倒。二科生として出場するっということは、それほどデメリットがあるということだ。

 

 

 

 

 

「甘えるな、司波」

 

 

 

 

 

十文字の重みがある言葉が部屋に響いた。

 

達也は十文字の言葉に驚愕の表情を隠せなかった。

 

 

「お前は既に、代表チームの一員だ。選手であるとかスタッフであるとかに関わりなく、お前は一年生200名の中から選ばれた21人の内の一人」

 

 

十文字は続ける。

 

 

「そして、今回の非常事態に際し、チームリーダーである七草は、お前を代役として選んだ。チームの一員である以上、その務めを受託した以上、メンバーの義務を果たせ」

 

 

達也は十文字を反論することはできない。

 

 

「しかし……」

 

 

だが、達也はどうしてもやりたくなさそうだった。

 

……助け舟を出しますか。

 

 

「なぁ、ちょっといいか」

 

 

十文字が何か言う前に、俺が話に割り込んだ。

 

 

「恐らく……いや、100%だと思うが、俺は技術スタッフを任命するために呼ばれたんだよな?」

 

 

俺の質問に答えたのは桐原だった。

 

 

「当たり前だろ。お前は魔法を使えないんだから」

 

 

「うるせぇよ」

 

 

もう一回、寝込んどけ。

 

 

 

 

 

「……俺が出場するのは駄目なのか?」

 

 

 

 

 

桐原「無理だろ」

 

 

服部「ダメだな」

 

 

五十里「無理があるんじゃないかな」

 

 

鈴音「無理ですね」

 

 

あずさ「む、無理ですよ」

 

 

十文字「やめておけ」

 

 

摩利「無理だな」

 

 

真由美「無理よ」

 

 

達也「やめておいたほうがいい」

 

 

大樹「全員で全否定かよおおおおおォォォッ!?」

 

 

達也からも否定されちゃったよ!助け船、沈没しちゃったよ!

 

 

「優勝すればいいんだろ?だったら俺が達也の代わりに出場する。異論はあるか?」

 

 

「「「「「ある」」」」」

 

 

「言ってみろ。全員、論破してやんよ」

 

 

今の俺は苗〇君のように『それは違うよ!』って言ってから論破できるぞ。

 

 

「「「「「魔法、使えないじゃん」」」」」

 

 

「それは違ッ……だからどうしたッ!?」

 

 

「「「「「開き直った!?」」」」」

 

 

全員が驚き、何人か呆れていた。

 

 

「達也ぁ……フォローしてくれ……」

 

 

「ッ!」

 

 

俺は達也にアイコンタクトを送った。達也はハッとなり、告げる。

 

 

「大樹の身体能力は化け物クラスです」

 

 

「ねぇフォローって意味分かってる?横文字の意味分かるよね?記述試験成績優秀者さん?」

 

 

「モノリス・コードでは俺が技術スタッフとして参加し、大樹に魔法を使えるようにします」

 

 

「それだよそれ」

 

 

ちゃんとフォローできるじゃないか。

 

 

「優勝は間違ッ……確実です」

 

 

達也(コイツ)、断言しやがったぞ……!」

 

 

あまり嬉しくないのが不思議だ。

 

 

「なるほど……確かに確実だ」

 

 

「十文字まで納得しちゃったよ……!」

 

 

十文字も頷いて納得していた。おい、何だこの流れ。周りを見回したら、他のみんなも頷いてるし……泣きてぇ。

 

 

「よし、楢原。司波の代わりに出場決定だ」

 

 

「決定しちゃったよ!……まぁいいけどよ」

 

 

俺は咳払いをして、話を始める。

 

 

「他のメンバーは誰なんだ?達也以外で頼むぞ」

 

 

一応、達也が選ばれないように退路を塞ぐ。十文字は俺の質問に答える。

 

 

「お前が決めろ」

 

 

「……は?」

 

 

「残り二人の人選はお前に任せる」

 

 

「そ、そうか……あ、じゃあチームメンバー以外からでもいいか?」

 

 

「構わん。どうせ例外に例外を積み重ねているのだ。問題ないだろう」

 

 

「じゃあ……吉田 幹比古と西城 レオンハルト。この二人を頼む」

 

 

「吉田……古式魔法の名門か」

 

 

十文字は何か知っているようだった。

 

 

「西城って人は?」

 

 

服部が聞いたことの無い名前に反応する。

 

 

「えっと……ポニーだ」

 

 

「「「「「あぁ、あの人か」」」」」

 

 

ポニーはみんな知っている名前でした。有名人だね!

 

 

「あの二人なら俺のボケ……行動について来れるからな」

 

 

「いまボケって言ったぞコイツ!」

 

 

桐原にツッコまれる。ぜ~んぜん、そんなこと言ってないよ。

 

 

「あ、説得なら大丈夫だぞ。俺が力でねじ伏せるから」

 

 

「最低だな……」

 

 

摩利の顔は苦笑いだった。周りのみんなはドン引き。

 

 

「さてと、歴史に残る試合にしてやるぜ。ちゃんと録画しておけよ」

 

 

俺は笑顔で告げた。同時に、周りのみんなも笑みを浮かべていた。

 

 

_______________________

 

 

8日目 モノリス・コード

 

 

 

「深雪!こっちこっち!」

 

 

観客席からエリカが深雪の名前を呼んだ。

 

深雪はエリカのいる席まで移動する。

 

エリカの席には美月、雫、ほのかの三人が座っている。

 

 

「それにしても、唐突だったわね」

 

 

「えぇ。でもお兄様は大樹さんに感謝していたわ」

 

 

エリカの言葉に深雪は微笑んで返した。

 

 

「でも、アレは酷いわよ……」

 

 

エリカの言葉にみんなが苦笑いになった。

 

 

 

『お前ら二人にはモノリス・コードに出場してもらう』

 

 

『『はあッ!?』』

 

 

『異論反論抗議質問などは受け付けておりませんので』

 

 

『『ちょッ!?』』

 

 

『優勝目指して頑張ろう!』

 

 

『『ええええええェェェ!?』』

 

 

 

「ご、強引でしたからね……」

 

 

「その後、お兄様が説得したから大丈夫でしたが……」

 

 

美月は引きつった笑顔で言い、深雪は溜め息をついた。

 

 

「あ、大樹さんですよ!」

 

 

ほのかがモニターに映った大樹を指差した。

 

大樹は真っ黒の防 護 服(プロテクション・スーツ)を着ており、ヘルメットを被っている。他の二人、レオと幹比古も同じ格好をしている。

 

違う点と言えば、レオが武装一体型CADである剣を腰に刺していること。

 

 

そして、大樹の右手に、黒い拳の形をしたモノを装備していることだ。

 

 

「……直接攻撃って禁止だったよね?」

 

 

「何か、策があるかも」

 

 

ほのかの言葉に雫が答える。

 

 

【モノリス・コード】

 

 

敵味方三名の選手によりモノリスを巡り、魔法で争う競技だ。

 

勝利条件は二つあるうち、一つの条件を満たせば勝利だ。

 

一つは相手チームを戦闘不能にすること。もう一つは敵陣にあるモノリスを二つに割り、隠されたコードを送信すること。

 

なお魔法攻撃以外の攻撃。直接攻撃や近接格闘は禁止されており、使用した場合は反則負けとなる。

 

 

「見ていれば分かるわよ」

 

 

「そうですね」

 

 

エリカと美月は笑みを浮かべながら言った。二人と深雪は、大樹達の持っている武装一体型CADについて知っている。

 

 

『じゃあ4つの作戦を確認するぞ。まず相手が……』

 

 

モニターから対戦相手である第八高校の選手の声が聞こえた。

 

 

「念入りに作戦を決めていますね」

 

 

「相手は優勝候補。本気で行かないと負けるから当然だと思う」

 

 

ほのかの言葉に雫が答えた。

 

一方、第一高校の選手たちは、

 

 

『各個撃破が妥当だと思う』

 

 

『いや、おびき寄せて一気に叩く方がいいんじゃねぇか?』

 

 

『待て待て。敵はどんな魔法を使うか様子をみるべきじゃないのか?俺には効かないけど』

 

 

幹比古、レオ、大樹が真面目に話し合っていた。(最後除く)

 

 

「め、珍しいわね」

 

 

「え、えぇ。大樹さんなら『全員、俺が倒す』とか言いそうですけどね……」

 

 

エリカと深雪は驚きながらモニターを見ていた。他の人も興味深そうに見ている。

 

会場は満員となっていた。理由は簡単。大樹がモノリス・コードに出場しているからだ。

 

 

「す、すごい数ですね」

 

 

「ファンレターとか来ているらしいですし、ラブレターも凄い数らしいですよ」

 

 

「えぇッ!?」

 

 

美月の発言にほのかは泣きそうな顔になった。

 

 

「大丈夫よ。丁重にお断りしたって言っていたわ」

 

 

「よ、よかったぁ……」

 

 

エリカの言葉を聞いて、ほのかは安堵の息をついた。

 

 

『よし!作戦会議終了!』

 

 

モニターから大樹の声が聞こえた。どうやら作戦が決定したようだ。

 

 

『ガンガン行こうぜ!』

 

 

「「「「「……………」」」」」

 

 

適当すぎる作戦に、会場は静まり返った。

 

 

_______________________

 

 

【大樹視点】

 

 

5種類あるステージのうち、今回は森林ステージに決まった。

 

俺は木の幹にもたれかかり、

 

 

「ドヤッ」

 

 

「「……………」」

 

 

決めポーズ。ドヤッ。

 

俺の決めポーズを無表情で見るレオと幹比古。手には自分の拳より一回り大きい拳の形をした武装一体型CADを見せびらかしていた。

 

 

「なぁ、作戦n

 

 

「ガンガン行こうぜ!」

 

 

レオに何も言わせない。

 

 

「く、詳しk

 

 

「ガンガン行こうぜ!」

 

 

幹比古にも何も言わせない。さっさとガンガン行こうぜ!

 

 

「……二人で決めるか」

 

 

「そうだね……」

 

 

「いや、作戦会議はもう無理だと思うぜ」

 

 

「「え?」」

 

 

ビーッ!!

 

 

試合開始の合図が森林ステージに響き渡った。

 

 

「「ええええええェェェ!?」」

 

 

「よし、行くぜ!」

 

 

「待って!」

 

 

幹比古は俺の肩を掴んで動きを止める。

 

 

「止めるな幹比古!」

 

 

「相手は八高だよ!?ここは彼らのホームグラウンドのようなものなんだよ!?」

 

 

確か八高は野外実習に力を入れている高校だったな。森林ステージでは相手が有利ってことか。

 

 

「どうでもいいだろ!斬ってやろうか貴様!?」

 

 

「仲間だよね!?チーム戦だよね!?」

 

 

「たった今、俺の中ではバトルロワイヤルに変更された」

 

 

「酷いッ!?」

 

 

「幹比古!遊んでいる場合じゃないぞ!」

 

 

「レオ!?遊んでないよ、僕!」

 

 

「敵はもうすぐ来るんじゃないのか?」

 

 

「「ッ!?」」

 

 

レオと幹比古は急いで木の後ろに隠れ、俺はモノリスの前で仁王立ちした。

 

 

「「って大樹!?」」

 

 

「俺が囮になる……不意打ちは任せたぜ」

 

 

俺の言葉にレオと幹比古は驚いた顔をしたが、頷いて木の後ろに隠れ続けることにした。

 

 

(さぁ……どこからでもかかって来い……!)

 

 

……1分は待っただろうか?敵の登場は早かった。

 

 

ガサッ

 

 

「そこにいるのは分かってんだよッ!!」

 

 

草を踏む音が俺には聞こえた。その方向に振り向く。

 

 

「ひっさぁぁあああつ!!」

 

 

音声認識でサイオンが拳に送られ、魔法が展開し、魔法が発動された。

 

相手は急いで立ち上がり、手に持った腕輪型CADで魔法を発動しようとする。だがそれよりも早く、俺は高速で相手の目の前まで近づき、

 

 

「ブース〇ノヴァナックルッ!!」

 

 

「なッ!?」

 

 

まさかの近接格闘。大樹の拳が相手の顔に、

 

 

ゴオオオオオォォォッ!!

 

 

「がはッ!?」

 

 

拳が当たる前に、敵は吹っ飛んだ。

 

敵の選手は後ろに吹っ飛び、木にぶつかった。敵はガクッと首が下を向き、動かなくなった。

 

 

「ふぅ……」

 

 

俺は左腕で汗を拭う。汗かいてないけどね。

 

この武装一体型CAD……名前は『ブー〇トノヴァナックル』って俺が名前を付けたかったが、達也が言うには【風拳(ふうけん)】らしい。達也が作ったから名前を付ける権限はある、というわけで必殺技は『ブーストノヴァナッ〇ル』にした。

 

収束魔法で拳の上に空気の壁を作る。それを俺が音速でパンチを繰り出すことによって、空気の壁は鋼鉄のように硬くなり、相手にダメージを与えることができたのだ。

 

普通の人がパンチを繰り出せば、空気は潰れ、相手の顔に拳が当たるだろう。これだと意味が無く、反則負けになる。

 

しかし、俺は音速で敵の顔の前で寸止めすることによって、空気の壁で攻撃することができるのだ!これならモノリス・コードで反則にならないな。だって空気で攻撃しているもん。

 

あ、ちなみ最大使用数は三回だけだから。少ねぇ……サイオン補給装置、もっと頑張れよ。

 

 

「……幹比古、囮って何だ?」

 

 

「……僕にもよく分からないよ」

 

 

木の後ろに隠れていた二人がトボトボと歩いて出て来る。彼らの目は死んでいた。

 

 

「よし、レオはここに待機。幹比古と俺は突撃するぞ」

 

 

「突撃するの!?」

 

 

「攻めあるのみ!守り何て飾りだ!」

 

 

「俺は飾りだったのか!?」

 

 

「飾りになりたくなかったら、俺と一緒に突撃しろ!」

 

 

「「言ってることが滅茶苦茶だあああああァァァ!!」」

 

 

こうして、俺とレオと幹比古は敵陣のモノリスに向かうのであった。

 

 

「はい、着いた!」

 

 

「早いよ!?ここは1カット挟もうよ!?」

 

 

「幹比古。メタ発言はやめるんだ」

 

 

幹比古とレオも中々酷いと俺は思う。一番酷いのは俺だが。……それくらい自覚はあるよ。

 

 

「うおッ!?そこにいるのかッ!?」

 

 

俺たちのボケとツッコミの声のせいで、モノリスを守っていた二人の敵に見つかった。草むらに隠れている意味が全くない。馬鹿だな、俺たち。

 

 

「チッ、やるしかねぇかッ!」

 

 

舌打ちをして、レオが草むらから飛び出した。手には剣の形をした武装一体型CAD【小通連(しょうつうれん)】が握られている。

 

この【小通連】は達也が作ったモノだ。

 

全長70センチ、刃渡り50センチ程度の片手剣【小通連】に刃はついていない。斬るのではなく、ぶつけるが正しい剣だ。

 

 

ガゴンッ

 

 

レオがサイオンを流し込むと、ブレードが半分だけ一直線に空へと離れていき、宙に浮いた状態になった。

 

 

「「なッ!?」」

 

 

レオの未知のCADを見た敵は驚愕する。

 

硬化魔法の定義、相対位置の固定を利用した武装一体型CADだ。分離した刀身と残った刀身の相対位置を硬化魔法で固定し、刀身を飛ばすことができたのだ。

 

まぁ『飛ばす』という言い方より、『伸ばす』の言い方のほうがいいかもしれない。刀身同士の間は中抜けになっているし、刀身の延長線上しか動かせないからな。

 

感覚は長い剣を振り回している感じだな。……俺も魔法が使えれば使っていたのに。

 

 

「ウォオオリャアアァァ!!」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

「がはッ!?」

 

 

レオはそのまま敵へと浮いた刀身を振り下ろした。鈍い音が『小通連』の威力を物語っている。

 

 

「クソッ!」

 

 

残り一人となった敵が魔法式を展開しようとする。

 

魔法陣はレオの足元に出現した。

 

 

「レオ!危ない!」

 

 

幹比古は携帯型CADを取り出し、サイオンを込めて魔法を放った。

 

幹比古の手元に閃光が生じ、それに呼応するように、敵の頭上に電子があつまっていく。

 

 

(駄目だ!間に合わない!)

 

 

わずかに敵の魔法が早く発動する。幹比古は唇を噛み、間に合わないことを悔しく思った。

 

 

「させるかよッ!!」

 

 

バリンッ!!

 

 

「「「ッ!?」」」

 

 

その時、大樹がレオの足元に出現した魔法陣を消した。いや、踏み壊した。

 

その光景に敵。そしてレオと幹比古も驚いていた。

 

 

ビリビリッ!!

 

 

「があッ!?」

 

 

幹比古の精霊魔法が発動し、電撃が敵に向かって落ちた。

 

敵は後ろから倒れ、動かなくなった。

 

 

ビーッ!!

 

 

そして、試合終了のアラームが鳴り響いた。

 

 

_______________________

 

 

 

次の試合は30分後。試合まで体を休めることにした大樹達は控え室で休息をとることにした。

 

 

「ごめん、みんな」

 

 

「え?どうしたんだ、幹比古?」

 

 

その時、幹比古が突然謝りだした。大樹とレオはきょとんとなっている。

 

 

「レオが魔法でやられそうになった時、僕の術は間に合わなかった。大樹が助けてくれなかったら……」

 

 

「そんなことかよ。別に俺は食らっても、二人が倒してくれるから問題無いだろ」

 

 

「そうそう。むしろ食らわせておけばよかったんだよ」

 

 

「いや、助けろよ……」

 

 

「…………して」

 

 

「「?」」

 

 

幹比古は勢い良く立ち上がった。

 

 

「どうして僕を責めないんだ!?」

 

 

「ッ!?」

 

 

「……………」

 

 

幹比古の大きな声にレオは驚き、大樹は黙って幹比古を見ていた。

 

 

「僕の魔法が遅かったせいでレオが怪我をしそうになったんだよ!?僕の魔法が……!」

 

 

「別にいいんじゃねぇの?」

 

 

「……は?」

 

 

大樹の言葉に幹比古は面を食らった。

 

 

「遅くても、あの雷の威力はすごかったじゃねぇか。一発で仕留めるなんて、やるじゃねぇか」

 

 

「……大樹には分からないよ。魔法の発動スピードが遅いと、どれだけ最悪なのか」

 

 

「分かるわけねぇだろ。魔法使えないし、使えたとしても、人の力だし」

 

 

でもなっと大樹は付け加える。

 

 

「その魔法スピードが遅いのをカバーするのが俺たちなんだよ」

 

 

「え……?」

 

 

「幹比古が魔法を発動するまで、俺とレオが時間を稼けばいいって言ってんだよ。チームだぞ、俺たち」

 

 

「……………」

 

 

「幹比古に責任はねぇよ」

 

 

幹比古は下を向いて黙った。

 

 

(大樹に……何が分かると言うんだ)

 

 

大樹は魔法が使えない。それは期末テストで分かっていることだ。

 

理論の点数が満点でも、実技では全くの無能。

 

 

(そんな人に、当たってしまった……)

 

 

幹比古は自分の弱さを痛感。そして、大樹の強さに嫉妬した。

 

 

「……もし、責任を感じているなら」

 

 

大樹はコップに入っている水を持ち、

 

 

バシャッ

 

 

幹比古の顔にかけた。

 

 

「……!」

 

 

「俺にも責任がある」

 

 

バシャッ

 

 

幹比古の持っていたコップを大樹は奪い、自分の頭にかけた。

 

 

「俺もかかっとくか」

 

 

レオも大樹と同じように、コップの水を自分の頭の上から浴びた。

 

 

「どう、して……」

 

 

「そもそも俺が無茶苦茶な作戦で行ったからああなったわけだ。責任は俺にだってある」

 

 

「でもレオは……!」

 

 

「俺はもう少し周りを見てから剣を振るえばよかったと思っている。俺にも責任はあるな」

 

 

幹比古は二人の言葉を聞いて、茫然とするしかなかった。

 

 

「何だよ、みんな悪いのか。じゃあこの話は無しにするか」

 

 

「いや、大樹が一番悪いだろ」

 

 

「何だレオ?次の試合では人間ミサイルになりたいのか?」

 

 

「み、みんな悪いと俺は思うぜ!?」

 

 

「だよなー!レオも分かってくれて嬉しいぜ!」

 

 

「……僕は」

 

 

幹比古の声はかろうじて二人に聞こえた。

 

 

「僕は……どうすれば……」

 

 

「……とりあえず、助けを求めたら?」

 

 

「ッ!?」

 

 

「お前はもう十分、努力を重ねているだろ?」

 

 

大樹は笑みを浮かべながら言った。

 

 

「次は俺たちが頑張る番だ。友達を助けるのは、当たり前のことだろ?」

 

 

「……………」

 

 

幹比古は手を強く握った。

 

吉田家の神童と呼ばれ、期待されていた。あの事故が起こるまでは……。

 

それから勉学に励み、知識を詰め込んだ。

 

それでも、僕の喪失感は埋まらなかった。

 

 

(でも、今は違う)

 

 

この喪失感を埋めてくれそうな……いや、埋めてくれるはずだ。

 

僕が求めていたモノを、探してくれる。

 

 

「大樹、レオ」

 

 

幹比古は告げた。

 

 

「次の試合……いや、優勝しよう」

 

 

「当たり前だ。俺がいるんだからな」

 

 

「おう!頼むぜ、幹比古!」

 

 

大樹はタオルを幹比古に投げ、レオは幹比古と肩を組んだ。

 

 

_______________________

 

 

【大樹視点】

 

 

「それで、何か言うことはあるか?」

 

 

「「「……………」」」

 

 

達也の前で正座する三人の戦士。俺とレオと幹比古だ。

 

 

「何だあの作戦は?」

 

 

「仕方ないんだ。今日のラッキーカラーは『とにかく突撃しないとくたばってしまう病に侵されて寝込んでいる時にいつも迷惑をかけてしまっている母親に看病してもらった恩返しでプレゼントを渡す時のリボンの色』って出たから」

 

 

「死にたいのか?」

 

 

「すいません」

 

 

床に額を擦りつけて謝った。今ここで歯向かったら二秒で燃やされそうな気がした。

 

 

「俺たちって正座される必要あるのか?」

 

 

「……連帯責任とか?」

 

 

「レオと幹比古は大樹の問題行動を止めれなかったからだ」

 

 

「「なるほど」」

 

 

俺達仲間だよね?扱いがちょっと雑じゃない?

 

 

「でも、気配で分かったんだ。二人でモノリスを守っているなって」

 

 

「「「……………」」」

 

 

あ、何か言わなきゃよかった気がする。だって俺たちのモノリスに近づく気配も、隠れている気配も、援護しにくる気配も全くなかったんだ。……無かったんだ。

 

俺は冷ややかな視線から逃れるために、話題を変えてみる。

 

 

「あ、達也。幹比古の魔法……」

 

 

「話をずらすな」

 

 

達也に何も通じないんだけど。弱点のタイプないの?ミカ〇ゲなの?フェアリータイプが弱点ですか?俺は妖精にでもなれば勝てるのか?

 

 

「……まぁいいだろう。次から作戦は俺が考える。それで、幹比古の魔法だったな」

 

 

俺は指揮官クビだそうです。わーい、無職だー。

 

 

「魔法の発動スピードが気になっているんだろう?」

 

 

「わ、分かっていたのかい!?」

 

 

達也の言葉に幹比古は驚愕した。達也は頷いて話を続ける。

 

 

「幹比古の術式には無駄が多いんだ。幹比古自身に問題があるわけじゃない」

 

 

古式魔法全否定ですか。さすが達也さん。容赦ないですね。

 

 

「違うぞ大樹。無駄があるのは術式の正体を隠すために施された偽装なんだ」

 

 

「警察を呼べ!俺の心に不法侵入されたぞ!」

 

 

「何で『シェフを呼べ!』みたいに言ってんだよ……」

 

 

最近レオのツッコミがいい感じになってきた気がする。それにしてもマジで怖いわ。司波って名前が付く人はみんなそうなの?エスパーなの?エスパータイプだったのか!?なら虫タイプで攻撃だ!……そろそろ落ち着け俺。

 

 

「……確かにあるよ、弱点を突かれないために偽装されている。でも、達也はどうしてそれを?」

 

 

幹比古の質問に達也は答える。

 

 

「俺は『視る』だけで魔法の構造が分かる」

 

 

「なッ!?君は何者なんだ……!?」

 

 

「チートお兄様だぜ!」

 

 

「大樹。次の試合の作戦だが、敵の魔法をすべて顔で受け止めてくれ」

 

 

「全身全霊で、全力で、遠慮する」

 

 

アンパン〇ンみたいに顔を交換できるならやってやるけど、俺にはそんな特殊能力ないから無理だな。

 

 

「幹比古の魔法である無駄を削ぎ落とせば、少しは早くなると思う」

 

 

「……ありがとう達也」

 

 

「よーし、話は終わったな!じゃあな!」

 

 

「逃がすとでも思うか?」

 

 

「ですよねー」

 

 

「……と言いたいところだが、もう二試合目が始まる」

 

 

よっし!逃げれるぞ!

 

 

「試合が終わった後、説教だ」

 

 

今日のお兄様、厳しいですわ。

 

 

_______________________

 

 

 

第二試合目、岩場ステージとなった。

 

フィールド一帯が岩だらけ。足場も悪く、(つまず)きやすい。全速力で走れない。

 

対戦相手は第二高校。

 

その敵のモノリス付近では戦闘が繰り広げられていた。

 

 

「ほらほら!ちゃんと狙えよ?」

 

 

「クソッ!」

 

 

「ちゃんと狙いをつけろ!」

 

 

「何で当たらないんだ!?」

 

 

俺に向かって大量の石や岩が飛んでくるが、全く当たらない。小石一つ当たらなかった。

 

音速で移動しているわけではない。普通の速度(高校生が全力で走った時のスピード)で岩を紙一重で避け続けているだけだ。音速だと余裕ですから。まさに舐めプ。

 

敵のモノリスにいち早く近づくと、敵が三人で襲い掛かって来た。まぁそりゃそうなるわな。敵、全然動いてないんだから。

 

移動魔法【ランチャー】で転がっている石や岩を俺にぶつけていたが、俺の身体能力なら余裕でかわせる。今なら『金色の〇ッシュベル』を読みながら泣けるぜ。

 

 

「全員でかかるぞ!」

 

 

フォン!!

 

 

敵は三人同時に移動魔法【ランチャー】を使い、俺に向かって石と岩のマシンガンを放った。

 

 

「いや、効かねぇから」

 

 

ドゴンッ!!ドゴンッ!!ドゴンッ!!

 

 

 

 

 

大樹は左手一本。左ストレートで飛んでくる岩を破壊していた。

 

 

 

 

武装一体型CADを装備していない素手の左手で。

 

 

「「「はあああああァァァ!?」」」

 

 

敵は目を見開いて驚愕していた。会場も同じような反応だ。

 

 

「ひっさぁぁあああつ!!」

 

 

音声認識で【風拳】にサイオンが送られ、魔法が発動される。

 

 

「ブーストノヴァナック〇!!」

 

 

ゴオオオオオォォォ!!

 

 

音速のスピードで相手に迫り、敵の腹に寸止めをする。それだけで強風を引き起こし、敵の身体は簡単に後方に飛んで行き、地面を転がった。

 

 

「「ッ!?」」

 

 

残った敵が驚く。大樹のあり得ない行動、魔法、現象に。

 

敵が再びCADを使って魔法を発動しようとするが、

 

 

「余所見してんじゃねぇぞッ!!」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

「うがッ!?」

 

 

大樹の後ろから半分になった刀身が飛んでくる。刀身はそのまま敵の腹にめり込んだ。

 

役目を終えた【小通連】は元の形に戻って、レオは笑みを浮かべながら残り一人を見る。敵はレオに向かってCADを構えるが、

 

 

「そこ、危ねぇぞ?」

 

 

「……まさか!?」

 

 

レオの忠告に敵は気付いたようだが、もう遅い。

 

 

ビリビリッ!!

 

 

「がああああァァァ!?」

 

 

一瞬で敵の頭上に魔法を展開させ、雷を落とした。敵はもう動かない。

 

 

「タラタラッタッタッタ~!大樹はレベルが上がった!」

 

 

「それ以上レベルが上がったら、誰も倒せねぇだろ……」

 

 

「もう既に魔王クラスだよね……」

 

 

何故かレオと幹比古が疲れ切っていた。MPの使い過ぎ?それとも経験値が少なかったのかな?

 

 

「どうだ幹比古?魔法のほうは」

 

 

「うん、速くなったよ」

 

 

「さすが達也だな」

 

 

俺の質問に幹比古が笑って答えてくれた。レオは達也の凄さに改めて感心していた。

 

 

「そう言えばよぉ、大樹と達也はバトル・ボードを見て、これを思いついたんだよな?」

 

 

レオがふと思い出したこと口にする。

 

 

「ああ、そうだぜ」

 

 

「大樹が考えたのは効率が悪いって言っていたけど、何を考えたんだ?」

 

 

「あー、レオが使っている【小通連】はブレードが一個しか飛び出さないだろ?」

 

 

「……大体予想がついたぞ」

 

 

「予想通りだと思うぜ。俺が考えたのは全長2メートルのブレードが刀身が八つに分かれるタイプだ。八つを一直線に並べて、超遠距離攻撃を可能とし、さらに八つのブレードを多彩な形にして、様々な攻撃ができる武装一体型CADを考えた。名前を付けるなら【小通連・八岐大蛇(ヤマタノオロチ)】ってとこか」

 

 

おお!今回のネーミングセンスは中々じゃないか!?

 

 

「うおッ、物凄いな……」

 

 

「効率が悪いのはすぐにサイオンの枯渇ってとこだよね」

 

 

「ああ、だから不採用だった」

 

 

一科生でもすぐにサイオンが枯渇する。確かに使える奴いねぇわ………あ、十文字とか使えそうじゃねぇ?今度作ってやらせてみるか?

 

 

ビーッ!!

 

 

試合終了のアラームがフィールドに響き渡った。いや、遅すぎるだろ。何でこんなに遅かったんだろ。

 

……まぁどうでもいいか。次は準決勝だ!

 

 

_______________________

 

 

 

準決勝の対戦相手は第九高校。

 

ステージは市街地。双方のモノリスが屋内の中層階。具体的には5階建ビルの3階に設置されている。

 

俺はこのステージが嫌いだ。いや、大っ嫌いだ。

 

 

バシュンッ!!

 

 

「うおッ!?」

 

 

空気を圧縮して撃ち出された空気の弾丸。空気砲ってツッコんだら負けだよ。【エア・ブリット】だから。

 

狭い部屋で【エア・ブリット】を連発する敵。俺が『ブーストノヴァナ〇クル』を撃てないこと良い事に……!

 

ここで『ブ〇ストノヴァナックル』を発動すると、建物が崩壊し、魔法が殺傷ランクAに格上げされてしまうため、使うことができない。使うと反則負けになってしまう。

 

 

(俺、これしか魔法無いんだけど……!?)

 

 

走り続けてとにかく逃げる。物理攻撃が可能なら『衝撃のファー〇トブリット』か『撃滅のセカンドブ〇ット』か『抹殺のラスト〇リット』を顔面に打ち込んでいたわ。最後はやり過ぎか?

 

達也が指示した作戦は俺が五階から攻め、レオが一階から攻めるという作戦だった。幹比古はモノリスの守備についている。

 

 

「そろそろか……」

 

 

レオがモノリスについた頃を見計らって、俺は走り出す。

 

 

「ぴょーん」

 

 

 

 

 

五階の壊れた窓から飛び出した。

 

 

 

 

 

「ちょッ!?」

 

 

敵が俺のあり得ない行動に敵は驚愕する。

 

下はコンクリート。当たったらただじゃ済まない。大怪我だ。

 

今の俺なら無傷で着地できるが、みんなの目の前でちょっとそれは見せれない。素手で岩を壊すのは見せるのはOKなのかよ。

 

あ、途中レオが見えた。『う、嘘だろ……!?』って顔をしていた。面白いな。

 

 

「ひっさぁぁあああつ!!」

 

 

音声認識で【風拳】にサイオンが送り込まれ、魔法が発動される。

 

 

「ブーストノヴァナックル!!」

 

 

ゴオッ!!

 

 

地面にぶつかる瞬間、地面に向かって拳を放つ。

 

強風が巻き起こり、落下スピードが落ち、俺の体が一瞬だけ宙に留まる。

 

 

「よッ」

 

 

タンッ

 

 

落下スピードを完全に殺し、綺麗に両足を真っ直ぐに伸ばして着地した。スコアは満点だろ、審判?

 

 

「さて、俺の役目はもう終わりか」

 

 

モノリスを守っていた敵選手はしっかりと5階まで誘導した。一人の敵は既にレオが倒しているだろう。残り一人は幹比古が要塞化させたビルの中でずっと彷徨い続けているはずだ。……やっぱ幹比古が二科生っておかしくね?十分実力があると思うんだが。強過ぎるだろ。

 

 

「あとはレオがモノリスのコードを打つだけだけど……」

 

 

ビーッ!!

 

 

「終わったか」

 

 

試合終了のアラームが響き渡った。

 

 

_______________________

 

 

決勝戦まで時間が余っている。俺は一度、部屋に帰ることにした。ヘルメットを脱いで、ベッドに座る。

 

 

「決勝戦か……」

 

 

「大樹さん」

 

 

「これで優勝しないと……」

 

 

「大樹さん」

 

 

「俺たちは新人戦に……」

 

 

「……次は無いですよ?」

 

 

「何だ!?愛しのマイハニー黒ウサギ!?」

 

 

「ご、誤魔化してもダメです」

 

 

黒ウサギにジト目で睨まれる。それも可愛い部類に入りますよ、黒ウサギさん?

 

 

「どうして黒ウサギに言わなかったのですか?」

 

 

黒ウサギは頬を膨らませて怒っている。だからそれも可愛いだけだから。何でみんな怒る時そんなに可愛いの?そういう生き物なの?絶対に絶滅させないわ。

 

 

「教えたじゃないか。メールで」

 

 

「『俺、ちょっと本気出すわ』で伝わりませんよ!?」

 

 

「あー、『俺、超本気出す』の方がよかったか」

 

 

「変わりませんよ!?」

 

 

「じゃあ何を送ればいいんだよ!?」

 

 

「恋文です!」

 

 

「今俺がボケてるよ!?ツッコんで!!」

 

 

まさか黒ウサギがボケに回るなんて……!?

 

 

「悪かったな。特に危険は無いから言う必要は無かったんだよ。原田と司の報告を聞いたら敵は一人もいなかったし、大丈夫だと思ったんだ」

 

 

「……………」

 

 

「……………」

 

 

「貸し一つです☆」

 

 

その貸し、俺は無傷で返せるのか?満身創痍な俺が想像できてしまうんだが?

 

 

「大樹さん」

 

 

「何だ?」

 

 

黒ウサギの表情は暗かった。

 

 

「嫌な予感がします……」

 

 

「……奇遇だな。俺も昨日からしている」

 

 

「ッ!」

 

 

黒ウサギが俺の言葉に驚いていた。

 

俺は自分の部屋の机の引き出しを開けて、あるモノを取り出す。

 

 

「預かっておいてくれ」

 

 

それを黒ウサギに渡した。

 

 

「ぎ、ギフトカード!?」

 

 

「試合には持ち込み禁止だ。置いていたんだ」

 

 

ボディチェックが無ければ持って行っていたんだが、結構厳しかったからな。

 

 

「……分かりました。大切に持っています」

 

 

「ああ、頼んだ」

 

 

俺はヘルメットを被り、部屋を出た。

 

この決勝戦、嫌な予感がする。

 

テロリストが一気に姿を見せなくなった。毎日嫌なくらい出て来ていたクセに、昨日から姿を見せていない。

 

唯一見たのは原田が逃がした敵、司を狙った偽運転手の二人だけだ。

 

機材の細工は無く、試合の妨害はモノリスコード、あの時だけ。

 

 

(九校戦は今日を含めてあと3日間)

 

 

決着の時は近い。九校戦が終わるころには()()()の戦いも終わっているだろう。

 

拳を強く握り絞めながら、俺は試合会場へと向かった。

 

 

 




活動報告を書きました。

内容は新しい世界の候補を集めるアンケートです。

気軽に書いてもらって構いません。よろしくお願いします。

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