どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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九校戦 Second Stage

4日目 スピード・シューティング&バトル・ボード

 

 

この日から一度本戦は休戦。ここから一年生限定の新人戦が始まる。

 

最初は達也が3人も担当するスピード・シューティングがあるが、俺はやることがあるので見ることができない。雫が出場するので超見たかった。誰か録画しておいてくれ。

 

 

(フィールドには……小細工無し。監視装置は正常に起動中っと)

 

 

俺は試合会場の地下にあるシステム室の天井裏に備え付けられた機械装置をいじり、不正工作がされていないか確認していた。

 

やること。それは昨日のバトル・ボードの妨害工作のように細工がされていないか確認するためだ。結果は昨日と同様で、細工されていなかった。

 

 

(やっぱり精霊魔法が関係しているのか……)

 

 

達也曰く、あの水面は特定の条件に従って水面を陥没させる遅延発動魔法らしい。そして、その魔法は精霊魔法を使えば実現可能だそうだ。

 

精霊魔法は古式魔法の一種で、簡単に説明すると、自然現象から発生した精霊をサイオンでコントロールして発動する魔法だ。

 

妨害工作をした犯人は水面に精霊魔法を仕掛けることで、運営や装置に気付かれずに摩利の水面を揺らすことができたというわけだ。くッ、完全犯罪だと……!?……誰も死んでねぇけど。

 

 

「面倒なことになってきたな……」

 

 

俺は今日一番の大きなため息をついた。

 

敵をプチプチと弱いテロリストを俺と原田が処理してくれたが、運営の魔法師が気付かない程の強い魔法師のテロリストを派遣して来たか。全く、歯ごたえがあって不味そうだな。

 

 

(頼むから……)

 

 

最悪の結末だけは避けてくれよ。

 

 

________________________

 

 

新人戦でとんでもないことが起きた。

 

 

 

 

 

スピード・シューティングで我ら第一高校が一位、二位、三位を独占しやがった。

 

 

 

 

 

「もうアレだな。お前何者だよ、達也」

 

 

「俺は何もしていないぞ」

 

 

「そうかー、じゃあ選手が凄いのかー」

 

 

「ああ」

 

 

「……それで俺が納得すると思ったか?」

 

 

「しないのか……!?」

 

 

「何でそこで驚いた!?バカって言いたいのか!?俺がバカだから簡単に騙せるって言いたいのか!?お前がいろいろと手を回したんだろ!?このお世話好きめ!」

 

 

「冗談だ」

 

 

「お前の冗談って一番通じないんだけど……」

 

 

驚いた顔になったっと思ったら急に真顔になりやがって……おちょくってんのかコラ。

 

 

「次は大樹が独占する番だろ」

 

 

「独占は最低条件なんですか?ハードルを高跳びまで上げるのやめてくれない?」

 

 

あまりの高さに秋本〇吾選手びっくりだよ。独占できなかったらどうしてくれるんだ。責められるじゃないか。

 

 

「今日は予選。とりあえず全員準決勝まで通過するとしますか」

 

 

俺の最低条件。ノルマは予選通過だ。上位独占が最低条件なのは達也だけだから。俺は違うからな!

 

 

________________________

 

 

 

「じゃあ今から作戦会議を始めるけど……」

 

 

俺は第一高校の控え室にいた。

 

目の前には三人の美少女……バトル・ボードに出場する選手が座っている。

 

 

「……どうしよう。もしかしたら俺たち……上位独占できるかも」

 

 

「「「!?」」」

 

 

三人の女の子は驚く。だって、

 

 

 

 

 

期末テストで総合優秀者の二位と三位と四位がいるんだぜ?

 

 

 

 

 

優子。黒ウサギ。ほのか。負ける要素がねぇ……!

 

 

「そ、そんなに大会は甘くないと思うけど?」

 

 

俺の言葉を聞いた優子は苦笑いで言う。

 

 

「いや、余裕。特に予選は簡単だ。理由は達也」

 

 

「ど、どうして達也さんが理由なんですか……?」

 

 

「あと答えになっていないのですよ……」

 

 

ほのかが質問する。黒ウサギは俺のアホさに呆れていた。

 

 

「達也が言っていたんだ。水面に魔法を使うのは有りだって。だから……」

 

 

「「「だから……?」」」

 

 

「閃光魔法を発動してもOKだってさ」

 

 

「「「閃光魔法?」」」

 

 

息ピッタリだな。仲が良くて結構結構。

 

 

「レース開始直後に閃光魔法を使って目くらまし!これで他の選手と差をつける」

 

 

三人の美少女は驚き、凄いと思った。だが、

 

 

「でも最初のレースでそれをやったら次のレースは対策とられるわよ」

 

 

「確かに優子の言う通りだ。だからこの作戦はほのかだけだ」

 

 

「私だけ……ですか?」

 

 

「ほのかは予選最後のレースだからな。というか最後だから使えるんだ。まぁあまり気にするな」

 

 

「じゃあアタシたちはどうなるの?」

 

 

「別の作戦があるんですか?」

 

 

「ああ、優子専用と黒ウサギ専用の作戦はちゃんと考えてきてある」

 

 

「「「えッ!?もう!?」」」

 

 

「おう。それじゃあ……発表します」

 

 

俺は優子と黒ウサギの作戦を説明した。細かく、丁寧に。

 

それは俺の素晴らしい頭脳によって編み出された作戦だった。

 

 

「「やりたくない(です)」」

 

 

おかしい。どこで歯車が狂った?何故納得しない。何故褒め称えられない。何故俺に彼女ができない。……最後はよく分からんな。

 

 

「まさかの拒否かよ!?」

 

 

「アタシの作戦、卑怯すぎるわよ……」

 

 

「黒ウサギの作戦、他の高校から嫌がられます」

 

 

「大丈夫。俺は大好きだから」

 

 

「ここでそんなストレートな告白聞きたくなかったわ」

 

 

「黒ウサギたちのことが好きなら考え直してくださいよ」

 

 

「でもこれなら優勝狙えるだろ?」

 

 

「「否定できないのが悔しい」」

 

 

こうして、作戦会議が終わった。とういうか無理矢理終わらせた。俺が。

 

 

「じゃあ俺はCADの確認作業するから競技の準備をしてくれ」

 

 

「ええ、分かったわ」

 

 

俺は三機のCADの最終確認を行う。この後、運営にチェックされないといけない。

 

羅列する数字を一つ一つ丁寧に読み取り、確認する。

 

が、優子たちが困った顔をしているのに気付いた。

 

 

「どうした?」

 

 

「部屋から出て行ってくれないの……?」

 

 

「何で?」

 

 

「……今から着替えるんだけど?」

 

 

「優子。昨日聞いただろ?昨日のレースは妨害工作されていたって」

 

 

「え、えぇ……聞いたわ」

 

 

「もしかしたら競技前に犯人に誘拐されるかもしれないだろ?優子はバスでも狙われていたんだ」

 

 

「そ、そうだけど……」

 

 

「俺は優子を護衛しないといけない。俺に気にせずトイレに行ったり風呂に入ったり生着替えしてくれ」

 

 

「気にするわよ!というか試合会場ではお風呂に入らないわよ!」

 

 

「え?ホテルに帰ってからは入るだろ?」

 

 

「部屋までついて来る気なの!?」

 

 

「おう!」

 

 

「そんな得意げな表情で言わないでよ変態!」

 

 

ここでドMの方なら『ありがとうございます!』って確実に言うな。俺は言わないけど。

 

 

「大樹さん」

 

 

「何だ黒ウサギ?俺は部屋から出ないk

 

 

スチャッ(黒ウサギがギフトカードを構える音)

 

 

「廊下で待ってる」

 

 

一秒で部屋を出た。

 

 

________________________

 

 

バトル・ボード 新人戦予選

 

 

最初のレースは優子が出場する。その次は黒ウサギ。最後はほのかだ。

 

俺はドキドキしながらレースの開始を待っていた。アレだな。父親が娘を見守る気持ちだな、今。……ビデオカメラがあったら撮ってた。結局優子に壊されたカメラ、直らなかった……。

 

優子を含めた4人の選手がボードに乗ってレースの開始ラインで待機している。

 

 

「成功しろ成功しろ成功しろ成功しろ成功しろ成功しろ成功しろ成功しろ成功しろ成功しろ……!」

 

 

念仏のように唱え続ける俺。今回のレースで一番心配なのは優子だ。

 

 

「確か彼って……」

 

 

「見ないほうがいいですよ……」

 

 

周りの教師や運営にドン引かれるが気にしない。今なら隣で美少女が生着替えし始めても気にしない嘘ですごめんなさい思いっ切りガン見しますハイ。……落ち着け俺。

 

 

『用意……』

 

 

選手が一斉に方膝をつく。

 

 

『スタート!』

 

 

フォン!!

 

 

アナウンスが合図を出した瞬間、レースが開始した。選手は魔法を発動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と同時に優子以外の3人の選手が水中へと吸い込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

「成功来たあああああァァァ!!ッ!!」

 

 

俺だけのセルフ大歓声が巻き起こった。虚しい。

 

 

 

 

 

スタートラインには優子を中心にして水が渦巻いていた。

 

 

 

 

 

選手はバランスを崩し、簡単に吸い込まれていき、水の中へと引きずり込まれた。

 

誰の仕業か……まさか悪の組織が!?フッフッフ、違う。全然違う。俺は知っているぜ。

 

犯人は……………え?『もう分かってる』って?『ちょっと黙ってろって』って?そこは言わせてよ!

 

犯人は……優子です!おめでとう!正解者には10ポイント差し上げます。ちなみに100万ポイント溜まると日帰りハワイ旅行をプレゼントします!いや、日帰りは酷いだろ。

 

優子は右腕つけた腕輪型CADで水中に加重魔法と収束魔法をマルチキャストして、それから……あー、簡単に言うと魔法で水の流れを操作した。

 

『簡単に言うと』とか言っているが、水を渦巻き状に渦巻かせる操作魔法は難しく、魔法式は複雑な構造になっている。ただ水を揺らすことや波を作る程度なら魔法科高校に通う一般生徒は大体できるが、この現象を起こすにはかなりの実力者じゃないと不可能だ。

 

 

ゴッ!!

 

 

優子は選手が水の中に引きずり込まれたのを確認し、ボードに移動魔法をかけた。

 

移動魔法が発動した瞬間、渦潮の水の流れが少しだけ緩やかになった。だが、それでも少し流れが強い。これでかなり時間稼ぎができるはずだ。

 

優子を乗せたボードは一直線に突き進んだ。

 

摩利の様にスピードは速くないが、これで十分だ。他の選手が追い付かなければいいのだから。

 

 

(後は冷静にスピードを調整しつつ、失敗しなければ勝ちだ。っと言っても)

 

 

そんな単純なミス、優子が失敗するわけない。

 

 

ザパァッ!!

 

 

優子は最初のカーブをスピードをあまり落とさないように気を付けながら曲がる。本戦に出場していた選手と同等、綺麗に曲がっている。さすがだな。

 

あ、選手たちはやっとボードに乗れた。すぐに移動魔法をかけてる。だが、

 

 

もう結果は明らかだ。

 

 

ピピッー!!

 

 

優子は他の選手と圧倒的な差をつけてコースを三周し終えた。

 

当然だが一着でゴール。

 

 

わあああああァァァ!!

 

 

優子の勝利を祝福する大歓声が巻き起こった。

 

 

________________________

 

 

バトル・ボード 新人戦

 

 

次は黒ウサギが出場する番……なのだが、

 

 

「……遅いな」

 

 

競技用のウェットスーツに着替えに行った黒ウサギが一向に控室から出て来ない。遅すぎる。

 

 

「黒ウサギー、まだかー?」

 

 

「い、今着ました!」

 

 

ガチャッ

 

 

しばらく開かなかったドアがやっと開き、黒いウェットスーツを着た黒ウサギが出て来た。

 

 

「やっとか。どんだけ時間をかけている……んだ………よ……」

 

 

その瞬間、俺の時間が止まった。

 

 

「お、お待たせしました」

 

 

「お、おおおう!全然問題ないぜ!」

 

 

「サイズが少し小さくて……胸の辺りがきついですよ」

 

 

だったら着るなよ!

 

前から大きいと思っていたけど、ホントに大きいな!って何言ってんだ俺。

 

やべぇ……目線がそっちに行ってしまう。

 

 

「よし、はやく行こう」

 

 

「ど、どうして壁に頭をこすり付けているんですか……」

 

 

煩悩が叩いても死なないから()り殺しているのさ。

 

 

(果たして、スーツのサイズが問題なのだろうか?)

 

 

皆さんにお聞きしたい。本当にスーツが問題であるか。

 

 

「俺は黒ウサギに問題があると思っている」

 

 

「なッ!?」

 

 

スパンッ!!

 

 

「いたぁッ!?」

 

 

ハリセンが俺の頭に振り下ろされた。というかギフトカードからハリセン取り出すの速すぎだろ。

 

 

「黒ウサギは太っていません!」

 

 

「多分考えていること違うと思うぞ!?ウエストとかそういう問題じゃねぇよ!」

 

 

「どういう問題ですか!?」

 

 

「胸に決まっているだろうが!………あ」

 

 

「へ?」

 

 

「「……………」」

 

 

……OK。どんな鋭い攻撃、重い攻撃が来ても……俺は避けない。

 

失言の責任は取ろう。今のはセクハラだ。牢屋にぶち込まれても文句は言わねぇ。

 

だから……だから……だから!

 

 

(【インドラの槍】だけはやめてくれよ……!)

 

 

俺の足が震えて来た。

 

アレはマジヤバい。死ぬのは勘弁。骨折レベルは許容範囲。……俺、本気(マジ)で人間やめてるな。許容範囲デカ過ぎだろ。このままだと全世界の人間に蹴られても笑顔で許せてしまうわ。

 

 

「……だ、大樹さんは」

 

 

「な、何だ……」

 

 

ギフトカードから【インドラの槍】(ヤ ツ)が出る気配はない。行けるか!?

 

 

「やっぱり……(胸が)お、大きい方がいいんですか?」

 

 

「……………え?」

 

 

 

 

 

(お仕置きの()()が大きい方……?)

 

 

 

 

 

「ち、小さい方がいいです!」

 

 

「そ、そんな!?」

 

 

(えッ!?何でそんな人生が終わった見たいな顔するの!?そんなに威力が高い攻撃したかったの!?ドSなの!?)

 

 

「だから美琴さんやアリアさん……優子さんが好きだったんですね……!?」

 

 

(何でその3人が今出てくるのだろうか……まぁいい)

 

 

俺は深呼吸して、覚悟を決める。

 

 

「分かったよ……俺も男だ」

 

 

俺はドンッ!と自分の胸を叩いた。

 

 

「(攻撃力が)大きい方で構わない!我慢する!」

 

 

「まさかの妥協されましたあああああァァァ!!」

 

 

アレ!?何で泣くの!?

 

 

「な、何で泣くんだよ!?」

 

 

「大樹さんが(胸が)小さい方がいいからと言うからですよ!」

 

 

「え!?みんな(攻撃の威力が)小さい方がいいって言うだろ!?」

 

 

「全否定ですか!?(胸が)大きい方は全否定なんですか!?」

 

 

「当たり前だ!誰だって、(攻撃の威力が)小さい方が良いって言うぞ!?」

 

 

「わあああああァァァン!!もう聞きたくないですッ!!」

 

 

「えええええェェェ!?」

 

 

黒ウサギは顔に手を当てて、涙を流した。もう訳が分からないよ。

 

 

「大樹さんのロリコン!ムッツリスケベ!ド変態!根性無し!腰抜け!浮気野郎!おっぱい星人!変態!」

 

 

「待て待て待てッ!!何で俺こんなに罵倒されるんだよ!?あと二回も変態言うな!さらにロリコンとおっぱい星人はどういう意味だ!?」

 

 

浮気野郎とか酷すぎだろ!?あと根性無しと腰抜けって何だよ!?そして俺はムッツリじゃねぇ!

 

 

「大樹さんは胸が小さい女の子が好きなんですよね!ロリコンじゃないですか!?」

 

 

Why(ホワイ)!?何で俺が胸が小さい人が好きって話になってんだよ!?」

 

 

「言ったじゃないですか!?さきほどッ!!」

 

 

「はぁッ!?だからいつだって……………は?」

 

 

俺は一度落ち着き状況を整理する。

 

小さい方?もしかして俺は勘違いしていたのか?

 

 

『やっぱり……お、大きい方がいいんですか?」』

 

 

……まさか。

 

 

(胸の話なのか……)

 

 

……なるほど。

 

 

「エロウサギめ……」

 

 

「なッ!?」

 

 

スパンッ!!スパンッ!!スパンッ!!スパンッ!!スパンッ!!スパンッ!!スパンッ!!スパンッ!!スパンッ!!スパンッ!!スパンッ!!スパンッ!!スパンッ!!スパンッ!!スパンッ!!スパンッ!!スパンッ!!スパンッ!!スパンッ!!スパンッ!!スパンッ!!スパンッ!!スパンッ!!スパンッ!!スパn

 

 

「死ぬ!?死んじゃう!?これ以上は俺死んじゃうから!!」

 

 

やめて!首から頭が落ちる!R-18に規制されるグロさだよ!この話だけR-18指定になっちゃうよ!

 

 

「大樹さんの変態ッ!!」

 

 

「ハッ、エロウサギにそんなこといわれあがッ!?」

 

 

「大樹さん!風穴開けますよ!?」

 

 

アリアの真似かよ。そもそも銃弾じゃ俺の体に風穴なんて……!?

 

 

「やめろ!【インドラの槍】(ソイツ)は洒落にならねぇ!!」

 

 

(スリー)(ツー)(ワン)!!」

 

 

「わあああああァァァ!!俺が悪いです!勘違いしてすいませんでしたッ!!」

 

 

「え……?勘違い、ですか?」

 

 

「俺は胸じゃなくてお仕置きされる威力の大きさを聞かれていると思っていたんだ!」

 

 

「そ、そうなんですか!?」

 

 

「そうなんです!」

 

 

思わず変な返し方をしてしまった。

 

 

「で、では聞きます……お、大きい方がいいんですか……?」

 

 

え、エロウサギめ……。次言ってしまったら怖いので言わない。ハイ、エロウサギ封印。

 

 

「俺は……」

 

 

「……………!」

 

 

黒ウサギが真剣な目で俺の答えを待つ。

 

俺は一度、深呼吸をして告げる。

 

 

 

 

 

「小さい方も……大きい方も……どっちとも大好きだッ!!」

 

 

 

 

 

「このお馬鹿様あああああァァァ!!」

 

 

バチコオオオオオオンッ!!!

 

 

「ぶふッ!?」

 

 

俺の解答に怒った黒ウサギは巨大ハリセンで俺を薙ぎ払った。マジでハリセンに薙ぎ払われた。ハリセン強ぇ。

 

そして、大樹はおっぱい星人であった。

 

 

「ち、違う……」

 

 

……大樹はムッツリスケベだった。

 

 

「違います!大樹さんは変態です!」

 

 

(さっき自分で言わなかったか…………がくッ)

 

 

……………大樹はいろいろと変態……大変だった。

 

 

________________________

 

 

エr……黒ウサギは他の選手たちと同じようにボードに乗り、準備を終えていた。黒ウサギは白いキャップを被り、ウサ耳を隠している。……ちょっと違和感があるが大丈夫だろう。

 

開始の合図はもうすぐ出される。

 

会場の観客の声が消える。聞こえるのは水の音だけ。

 

 

『用意……』

 

 

審判の声が聞こえたと同時に選手が一斉に構える。

 

 

『スタート!』

 

 

フォン!!

 

 

アナウンスが合図を出した瞬間、レースが開始した。選手は魔法を発動する。

 

 

ゴォッ!!

 

 

選手が一斉に移動魔法を発動させ、ボードを進める。

 

先頭に躍り出たのはやはり黒ウサギだった。一番最初に魔法が発動したのも黒ウサギ。ボードが進みだしたのも黒ウサギ。当然の結果だ。

 

()()につけた汎用型の腕輪型CADにサイオンを送り、移動魔法を速攻で発動させた。

 

 

フォン!!

 

 

次に黒ウサギは()()につけた汎用型の腕輪型CADにサイオンを送り、魔法をボードの真下に魔法を発動する。その瞬間、

 

 

ザパアアアァァァッ!!

 

 

大きな波が黒ウサギの乗っているボードの後方に出現した。

 

 

「うおッ!?」

 

 

「きゃあッ!」

 

 

黒ウサギの後ろについていた選手の悲鳴や驚きをあげた。黒ウサギの魔法に巻き込まれた選手が大波に揺られて転落する。この大波は運動神経が良い人が乗っていたとしても、転落するくらい荒れていた。

 

 

(でも、黒ウサギは違う)

 

 

箱庭の貴族と謳われた最強の兎さんだ。

 

 

嵐で荒れた波でも、ボードの上に余裕で乗っていられる。

 

 

ザパァン!!ザパァン!!

 

 

「「「「「ッ!」」」」」

 

 

会場にいる観客、審判、生徒。誰もがその光景に釘付けになった。

 

小さな波、大きな波、高い波、変則に動く波。あらゆる波にも黒ウサギは対応できていた。硬化魔法などを使って身体を固定させていない。発動しているのは移動魔法と波を作り出す魔法。この二つだけだ。

 

乗りこなすだけではない。波の推進力を利用してスピードを上げたり、カーブを曲がるときは、カーブに沿って波を作り出し、その波に乗って勢い良く曲がる。

 

黒ウサギがボードで一回転。波に乗って飛ぶ。行黒ウサギがアクロバティックなモノを見せれば見せるほど、観客たちの大歓声は会場に響く。

 

スタートラインで大きく揺らした波がようやく消え、選手たちが再スタートを切る。しかし黒ウサギは既に半分以上も差をつけている。

 

黒ウサギに追いつこうとしても、波に揺られて転落してしまう。絶対に追い越すことが不可能になっている。

 

 

(確かに、これは嫌われるな)

 

 

でも観客たちは違うみたいだな。

 

 

わあああああァァァ!!

 

 

むしろ好感度が上がっている。そりゃそうだ。普通、あんな芸当できる人なんていない。

 

ボードに乗って、水の上を舞う黒ウサギ。

 

その姿は誰もが見惚れていた。

 

 

「ほう……彼女は二つのCADを同時操作できるのか」

 

 

後ろから声をかけられる。振り返ると、そこには一人の老人。九島閣下がいた。

 

 

「こんなところに来てもいいのかよ」

 

 

「問題ない」

 

 

「……そうかよ」

 

 

だったら隠れて見ている奴らも下げて欲しいな。まぁそんなことは放っておこう。

 

 

「黒ウサギの魔法は完璧だ。余裕で一位を狙える」

 

 

「ふむ……あのCADは君が作ったのかね?」

 

 

「……凡用型のCAD(アレ)か?そんなわけないだろ」

 

 

「言い方が悪かったようだね」

 

 

九島は俺の隣まで歩き、小さな声で呟いた。

 

 

「どのようにして汎用型のCADの性能を引き上げたのかね」

 

 

「……あげてねぇよ」

 

 

「ではどうやって彼女は二つ同時にCADを使えた?」

 

 

「だから黒ウサギの実力……」

 

 

「とぼけても無駄だよ」

 

 

「……チッ、やっぱりアンタみたいな魔法師になるとバレるのか」

 

 

俺は溜め息を吐き、説明する。

 

 

「簡単な話だ。普通に使えばサイオン波の干渉で両方とも使えなくなる。知っているだろう」

 

 

「それは違う。制御することができれば誰でもできることだ」

 

 

確かに。上級の魔法師ならできるだろう。だが、それはほんの一部の者だけだ。

 

もちろんだが、黒ウサギにそんな技術は無い。

 

 

「そうだな。だからCADにそうさせた」

 

 

「……どういうことかね?」

 

 

「自分で言ったじゃないか」

 

 

俺は笑みを浮かべながら、九島に向かって言う。

 

 

 

 

 

「魔法同士が干渉させないようにする。CADにそのプログラムを組み込んだ」

 

 

 

 

 

「……本当かね」

 

 

「道理が分かれば簡単だぞ。黒ウサギは移動魔法と波を発生させる振動魔法。この二つを同時に発動させたいとき、二つの魔法にある工夫をするんだ」

 

 

「どんな工夫かね?」

 

 

「波だ。サイオンの波を絶対にぶつからないようにするんだ」

 

 

俺は右手と左手を前に突き出す。

 

 

「例えば、右の手から魔法を発動する時、奇数の数字『1、3、5、7……』を放つ魔法だとする」

 

 

右手を横にずらし、右の方向に一直線に伸ばす。

 

 

「そして、左の手から魔法を発動する時は偶数の数字『2、4、6、8……』を放つ魔法だとする」

 

 

左手を右手とは反対方向に一直線に伸ばす。

 

 

「そして、同時に発動するとどうなるか……」

 

 

俺は自分の手を合わせるように叩こうとする。だが、

 

 

スカッ

 

 

右手と左手は衝突しなかった。

 

 

「干渉することは絶対に無い」

 

 

偶数と奇数。絶対に交わることのない数字だ。まぁあくまでも例えだが。本当はもっと複雑な数式構造で干渉しないようにしている。

 

俺の例え話を理解したのか、九島は満足していた。

 

 

「なるほど。私たちは無意識の内に魔法を干渉することの無いように魔法を発動していたのか」

 

 

「それをCADと同じようにやった。簡単だろ」

 

 

「果たして、君の簡単は本当に簡単なのだろうか?」

 

 

九島は告げる。

 

 

「魔法式を全て数字で羅列させ、さらに偶数と奇数が重なり合わないように設定する」

 

 

笑みを浮かべて。

 

 

 

 

 

「何千万という数字を術者が使いやすいように最小限に抑え込み、組み直すということ。本当に簡単なのかね?」

 

 

 

 

 

「ハッ」

 

 

俺は鼻で笑って返す。

 

 

 

 

 

「朝飯前だ」

 

 

 

 

 

「……君のさらなる工夫。私に見せてくれたまえ」

 

 

「いいぜ」

 

 

俺は口元だけ笑みを浮かべて言う。

 

 

「心臓に悪くなっても知らねぇからな?」

 

 

「老人をからかうでない」

 

 

九島は会場の控え室の中へと帰って行く。

 

その時、九島が口元に笑みを浮かべたのを見逃さなかった。

 

 

「……………怖いなぁ」

 

 

あの人、本気出したら多分、俺負けるんじゃねぇ?

 

________________________

 

 

「落ち着け。ほのかなら勝てるから」

 

 

「みんな勝ったのに……わ、私だけ……!」

 

 

「大丈夫だ!達也の作戦は俺もイケると思っている。安心しろ」

 

 

先程から俺はほのかを落ち着かせていた。優子と黒ウサギが一位で勝利。そのせいでほのかにプレッシャーを与えてしまった。

 

しかも作戦が前代未聞でヤバ過ぎるとまで言われ、作戦を考えた奴は頭がイカれていると噂されている。酷い。

 

期待が重すぎる。俺のミスだ。

 

 

「悪いな。変なプレッシャーを与えてしまって」

 

 

「ふぇ?」

 

 

俺は無意識でほのかの頭を撫でていた。

 

 

「あ、あの……」

 

 

「す、すまん……どうにか落ち着いてもらいたくて」

 

 

「いえ!そのままお願いします!」

 

 

「お、おう……」

 

 

ほのかに上目遣いで言われ、俺は恥ずかしくなり、目を逸らしながらほのかの頭を撫でた。

 

 

「……なぁほのか」

 

 

「は、はい!?」

 

 

「大丈夫だから安心しろ。勝てるからさ」

 

 

「……………かっこいい」

 

 

「へ?」

 

 

「な、何でもありません!」

 

 

「そうか。まぁ俺が『かっこいい』……か」

 

 

「ッ!?」

 

 

バッチリ聞いていました。

 

 

「大樹さん……意地悪いです」

 

 

「よく言われる」

 

 

「……変態です」

 

 

「マジでよく言われるわ」

 

 

言われ過ぎて泣きそうまでもある。

 

 

「変態に撫でられるほのかは何だ?ド変態か?」

 

 

「ち、違います!からかわないでください!」

 

 

「エロほのか」

 

 

「やめてください!」

 

 

「ハッハッハ、冗談だ。冗談に決まっt……痛い痛い」

 

 

顔の頬が伸びる。引っ張らならないで。

 

 

「それで……緊張は解けたな」

 

 

「あ………ハイ!」

 

 

満面の笑みを浮かべて、ほのかは頷いた。マジで可愛いな。

 

 

「……で、いつまで撫で続ければいいんだ?」

 

 

「あと少しだけ……」

 

 

結局、20分間。試合時間ギリギリまで撫でた。俺の方が緊張して疲れたわ。

 

 

________________________

 

 

本日最後のバトル・ボード。また明後日あるけどな。

 

ほのかはウェットスーツに着替えて、ボードの上に座っていた。

 

ほのかのCADには光学系の起動式を多く入れている。

 

理由は達也がくれた作戦をパクr……アドバイスしてくれた作戦を使うからだ。パクっていないからね。ここ重要。

 

先程から言っているが、水に魔法を干渉させることはOKだ。というわけで、

 

 

『用意……』

 

 

審判の声が聞こえたと同時にほのかを除いた選手が一斉に方膝をつく。ほのかはボードの上に立ち、黒いゴーグルをかけた。あと俺も。多分、観客席にいる達也たちもかけているだろう。

 

 

『スタート!』

 

 

フォン!!

 

 

アナウンスが合図を出した瞬間、レースが開始した。選手は魔法を発動する。

 

 

 

 

 

その瞬間、水が眩く発光した。

 

 

 

 

 

「サングラス越しでも強いなぁ……」

 

 

サングラスをしなかった人たちに敬礼!

 

ほのかは水面に向かって光学系の魔法を発動し、選手たちの目を潰……一時的に視界を悪くしたのだ。潰してないお。

 

選手が混乱している隙に、ほのかは移動魔法でトップに躍り出る。

 

 

ピピピッ

 

 

……今いいところなのに。電話が鳴った。

 

 

「どうした、原田」

 

 

『敵だ!』

 

 

「ッ!?」

 

 

たった一言。最悪な状況だと分かった。

 

俺は辺りを見回す。一人一人観客の顔を見ていく。

 

北……東……西……南……!

 

 

(どこだ!?)

 

 

『馬鹿野郎!お前の後ろだ!』

 

 

ドスッ!!

 

 

鈍い音が聞こえた。

 

 

 

 

 

「知ってる。今気付いた」

 

 

 

 

 

後ろから振り下ろされたナイフ。俺は右腕を後ろに回して、受け止めた。

 

 

「なッ!?」

 

 

「びっくりしたぜ。まさか自分の姿を消す魔法があるなんてな」

 

 

腕に刺さったナイフから赤い血が流れる。

 

 

「いや、実際には違うか。意識を操る精神魔法で自分を俺の視界から消したのか」

 

 

「!?」

 

 

見えない敵が息を飲んだ。見えなくても分かった。

 

 

「だけど」

 

 

俺はナイフを奪い取り、自分の腕から流れ出る血を前に向かって飛ばす。

 

 

ペチャッ

 

 

空中で血が浮いて、止まった。

 

 

「音、気配、殺気。そして、その血を隠せるようになってから出直して来い」

 

 

ドゴッ!!

 

 

「があッ!?」

 

 

割と本気の右ストレートを虚空に向かって放つ。拳の先には変な感触が。

 

それが男の身体と分かったのは声だった。

 

 

ドサッ

 

 

俺の特殊能力【強制無効(フォース・エラー)】が魔法を破壊し、今まで見えなかった姿が現れる。

 

黒い服装。黒い覆面。黒い防弾チョッキ。あの時の夜に見たテロリストと同じだった。

 

 

「【神の加護(ディバイン・プロテクション)】」

 

 

その瞬間、腕から流れる血が止まった。いや、傷口が綺麗に無くなっている。

 

今までの痛みに比べれば全く痛くない。だけど、治しておきたかった。

 

 

ピピッー!!

 

 

ほのかを迎えるのに、血が付いた状態は最悪だからな。

 

俺は血をテロリストの着ていた服で拭き取り、テロリストの処分は後から来た原田に任せた。

 

 

一時間後、『うおおおォォ!!腕があああァァ!!』っと叫び続け、周りから痛い人と見られたのは別の話。

 

 

_______________________

 

 

夕食。学校別によって食事を取るようになっている。この部屋は一時間しか使えないが。

 

 

「勝利おめでとう。かんぱーい」

 

 

「「「「「かんぱーいッ!」」」」」

 

 

俺のやる気の無い声に、女子は大きな声で答えてくれた。なんかすいません。明日は頑張ります。

 

女の子たちは乾杯した後、俺と達也の周りに集まって来た。

 

 

「司波君、雫のあれって【共振破壊】のバリエーションだよね?」

 

 

そう言えば達也はスピード・シューティングで新種魔法を雫に使わせたらしい。しかも開発者名に雫の名前が載るらしいぞ。凄いな。

 

本当なら達也が載るはずだが……どうやら載りたくないみたいなようだな。

 

達也は『自分の名前が開発者として登録された魔法を、実際に使えないなどと言う恥を(さら)したくない』っと言っている。

 

本当は別の理由がありそうだが、聞かないでおこう。

 

 

「正解」

 

 

達也は柔らかい声で答えた。女の子たちは興味を持ち、次々と達也に質問をしていた。

 

俺はとにかく飯を食っていた。美味い美味い怖い。あ、これも食べないと。

 

 

「大樹君は3人にセクハラしたって本当なの?」

 

 

「ちょっと待て。達也みたいに『あの作戦って、大樹君が考えたの?』って質問はどうした?」

 

 

俺は食事をとっとと終わらせてツッコム。内容が斜め過ぎる。

 

 

「じゃあこれは?」

 

 

「ん?」

 

 

女の子が見せたのは携帯端末の動画。そこには俺とほのかが写っていた。

 

 

もちろん、俺がほのかを撫でている場面だ。

 

 

情報が漏れてますよ運営委員会。マジかよ。

 

 

「サラダバー!」

 

 

「あッ!?逃げた!」

 

 

死にたくない!俺は途中でサラダを一皿(さら)って行き、ドアを開けて逃げる。ドアの開けた先には人が立っていた。

 

 

「あ、大樹。さっきの(テロリスト)なんだが……」

 

 

「どけえええええェェェ!!」

 

 

「何度も同じ手にかかるか!」

 

 

俺の拳が虚空を突く。避けられた!?

 

 

「オラッ!!」

 

 

ガッ

 

 

原田はしゃがみ、俺の両足を右足で払う。

 

バランスを崩して倒れそうになるが、

 

 

ダンッ

 

 

俺は右手だけで逆立ちし、回転する。

 

そのまま左回し蹴りを原田にぶちかます。サラダの皿は口に咥えた。

 

 

「ってあぶねぇ!?」

 

 

クソッ!また外した……だが!

 

 

「逃げ道確保!脱出!」

 

 

「脱出……ね……」

 

 

「大樹さん……甘いですよ?」

 

 

「そうね。ホント馬鹿だわ」

 

 

詰んだ。

 

真由美と黒ウサギ。そして優子が廊下に立っていた。また笑顔が怖いぜ。常人なら『マジすいませんでした!』って謝って自害するほど。おい、死ぬのかよ。

 

俺は廊下に正座をしt

 

 

「と見せかけてからのダッシュ!!」

 

 

「「「!?」」」

 

 

いつもの俺だと思うなよ!

 

俺は真由美たちの間をすり抜けた。三人は完全に隙を突かれ、俺を捕まえる行動に移せない。

 

 

「って俺も!?」

 

 

ついでに原田も捕まえて逃げた。

 

俺は走りながら手に持った原田に問いかける。

 

 

「テロリストの情報があるんだろ?聞かせろよ」

 

 

「あ、いや……………また何も、聞けなかった」

 

 

「……………」

 

 

「ゆ、許してね♪」

 

 

……………イラッ

 

 

ポイッ

 

 

ムカついたから窓から捨てた。

 

 

「ちょっとおおおおおォォォ……………!?」

 

 

シャキシャキッ

 

 

「キャベツ美味い」

 

 

部屋に直行して帰った。

 

 

_______________________

 

 

5日目 クラウド・ボール&アイスピラーズ・ブレイク

 

 

 

ガガガガガッ!!

 

 

俺に向かって来る銃弾を紙一重で次々とかわして行きながら敵に近づく。

 

 

「奴は化け物かッ!」

 

 

「おう!その通りだこの野郎ッ!!」

 

 

ダンッ!!

 

 

右足に力を入れて、黒い服を着たテロリストに一瞬で近づく。

 

左手と右手をガッチリと合わせて、そのまま敵の頭に振り下ろす。

 

 

ドゴッ!!

 

 

テロリストは声を上げる暇も無く、頭が地面の中に埋まってしまった。えぐい倒し方だけど死んでないから大丈夫。

 

 

「死ねッ!!」

 

 

ほら、そもそも向うは俺を殺そうとしてるし……多少強く殴っても問題無いじゃん?

 

俺の背後でもう一人のテロリストが魔法を発動する。足元に魔方陣が展開するが、

 

 

「断るッ!」

 

 

ドゴンッ!!

 

 

右足で思いっ切り踏み潰す。地面が揺れ、振動がテロリストまで伝わる。

 

 

バキンッ!!

 

 

強制無効(フォース・エラー)】で魔法を壊した。

 

 

「何だとッ!?」

 

 

「吹っ飛べやゴラァッ!!」

 

 

ドゴンッ!!!

 

 

最強の一撃を誇る右アッパーが敵の顎にクリーンヒットし、そのまま空高く飛んで行った。

 

100mくらい飛んだあと、身体は重力に従って落ちて来る。

 

 

「よっと」

 

 

ガシッ

 

 

落ちて来る寸前、俺はそいつの防弾チョッキの襟首を握って落ちるのを防ぐ。殺すのはさすがに駄目だ。

 

 

「今日だけで7人。ラッキーセブンか」

 

 

「いや、9人だ」

 

 

ドサッ

 

 

後ろから声をかけられた。かけたのは原田。

 

原田は右手と左手に持っていた二人のテロリスト(白目を剥いてる)を地面に寝かせる。

 

 

「何だよ9って。中途半端過ぎるだろ。もう一人捕まえて来なさい」

 

 

「無茶言うなよ」

 

 

「ならこれで10人だな」

 

 

声がした方向を見ると、司が歩いてきていた。隣には虚ろな目をしたテロリストが歩いている。

 

 

「倒れろ」

 

 

「はい……」

 

 

バタッ

 

 

司の命令を聞いたテロリストは自分から倒れる。恐ろしいな、【邪眼(イビル・アイ)】。

 

そういえばはじっちゃんの魔法を説明していなかった。

 

前に壬生の記憶の改竄。優子やテロリストを操った洗脳の正体。それが光波振動系魔法【邪眼(イビル・アイ)

 

催眠効果を持つ光信号を相手の網膜に投射する催眠術だ。怖い。

 

あ、達也は『つまらん手品だ』とか言って、全く効かなかったらしい。達也の方がもっと怖い。

 

 

「さすがはじっちゃん。ファインプレーだ」

 

 

「俺、二人なんだけど……」

 

 

「どうでもいい話だな。それとはじっちゃんはやめろ」

 

 

残念。断るわ。

 

 

「それにしても……こんなに倒しているのに、敵の情報が手に入らないってどういうことだよ」

 

 

原田の愚痴に俺と司は溜め息を吐いた。

 

実は俺たちが今まで捕まえたテロリストたちは全員、記憶を無くしているのだ。

 

魔法で記憶を消された状態で催眠術をかけて、無理矢理この場所に送り込まれているのだ。どうにかして自白させようとしても、記憶が無かったら意味が無い。

 

一番厄介なのは嘘の記憶を練りこまれている場合だ。

 

やっと情報が手に入ったと思ったら、違った。思わず敵をぶん殴ったぜ。……あのテロリストには謝りたい。

 

 

「次はどこを警備する?」

 

 

司は携帯端末で見取り図を開きながら聞く。

 

 

「昨日の夜。俺たちが夕食を食べていたのは知っているだろ?」

 

 

「ああ。昨日俺を落とした時だよな……?」

 

 

落ち着け。笑顔で来るな。短剣を持つな。

 

 

「あの時、夕食に毒が混ざっていた」

 

 

「「ッ!?」」

 

 

二人の顔の表情が変わる。

 

 

「不審な行動は避けたかったから、毒が入っている物は全部俺が食った」

 

 

「うわッ……」

 

 

「あ、だから昨日の夜はいなかったのか……」

 

 

司はドン引き。原田は何かを察した。

 

死んでしまうような毒では無い。だが、下剤でも酷いわ!夜はずっとトイレの便座に座っていたんだぞ(涙目)。

 

料理は美味くて天国。そして地獄のトイレへ落とされた。ぐすんッ。

 

 

「だから、今から復讐しに行く」

 

 

「ということは……」

 

 

司が見取り図の一部をズームアップさせる。

 

 

「調理場か」

 

 

台所が本当の戦場になるまで、時間はかからなかった。

 

 

_______________________

 

 

「全員動くなあああああァァァ!!」

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

ホテルの第三調理場に俺は突撃しに来た。現在縦長の白い帽子を被り、白いコックの服に着替えている。

 

コックに成り済まし、情報を探っていた所、ここが敵の本拠地だと分かった。

 

人数は5人。少し多いな。

 

 

「バレたかッ!」

 

 

「殺せッ!!」

 

 

偽コックは冷蔵庫やキッチンシンクの下から隠していた銃を一斉に取り出す。

 

前から思っていたんだが警備甘くないですか?こんなに銃を持ちこまれて侵入されているんですよ?まさか……警備もクロ!?

 

……もう次から次へとイヤだよ!?休ませろ!重労働反対!!

 

 

ガキュンッ!!

 

 

ハンドガンの弾が一発。俺の眉間に向かって飛んで行く。

 

 

「よっと」

 

 

カァンッ!!

 

 

甲高い音が響いた。

 

 

フライパンで銃弾を弾いた。

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

「滅茶苦茶だな」

 

 

俺の後ろからウエイター姿の原田が現れる。

 

手にはトレー。原田はそれを思いっきり振りかぶって投げた。

 

 

ガゴンッ!!

 

 

「がはッ!?」

 

 

見事に奥にいた偽コックの顔面に直撃した。偽コックはそのまま後ろに倒れ、気を失う。

 

 

「う、撃て!!」

 

 

ガガガガガッ!!

 

 

偽コックは一斉に俺たちに向かって射撃する。

 

だが、俺はそばにあった冷凍庫の扉を開けて、扉の後ろに隠れて、盾代わりにした。原田はしゃがんで回避。

 

冷凍庫のドアは銃弾を一発も貫通させない。原田に弾は当たらない。

 

 

「お、良いモノ発見」

 

 

俺は冷凍庫に入ってあった物を取り出し、

 

 

「ジェットストリームアタック!!」

 

 

ゴオッ!!

 

 

扉を閉めると同時に敵に向かって飛んで行った。

 

 

 

 

 

冷凍マグロが。

 

 

 

 

 

ドスッ!!

 

 

「ぐはあああああァァァ!!」

 

 

「「「!?」」」

 

 

「マグロ!?」

 

 

マグロの頭が偽コックの腹に突き刺さる。偽コックは口から血を吐き、気絶した。死んではいない。

 

偽コックたちはその光景に口を開けて驚愕、原田も驚いていた。

 

 

「よし!後で責任を持って俺たちが食べるからな!」

 

 

「なるほど!俺たちスタッフが美味しく食べないとな!」

 

 

大樹と原田は冷凍庫を開ける。大樹はイカとホタテ貝を取り出し、原田はアジと鯛を持った。

 

 

「「「ひッ!?」」」

 

 

「イカブラストッ!!ホタテブレイクッ!!」

 

 

「アジ斬りッ!!鯛天空ッ!!」

 

 

ドゴッ!!バキッ!!ドスッ!!ゴッ!!

 

 

大樹は冷凍されたイカで突き、ホタテ貝で殴った。原田は冷凍アジで斬り、鯛でアッパーを繰り出した。

 

偽コックたちは倒れ、動かなくなった。

 

 

「大樹!」

 

 

原田はアジと鯛を大樹に向かって投げる。大樹は両方をキャッチし、

 

 

「あとは任せた」

 

 

「フッ、任せろ」

 

 

大樹は調理を開始した。

 

原田はテロリストの後処理を開始した。

 

 

_______________________

 

 

「それで、楢原は海鮮丼を作ったと?」

 

 

「ああ、美味しいだろ?」

 

 

「死ぬほど美味しいから困っているんだ」

 

 

俺と司が会話しながら海鮮丼を食べる。美味い。

 

 

「本当に大樹は料理が上手いよな」

 

 

「原田。醤油取ってくれ」

 

 

「ほい」

 

 

「楢原。わさびは無いのか?」

 

 

「ここにあるぜ」

 

 

そして、俺たちは海鮮丼を食べ終えた。ごちそうさまでした。

 

 

「なぁ、さっき思ったんだが……警備ってどうなってんの?」

 

 

「僕も怪しいと思って調べたんだ。そしたら……」

 

 

司は懐から携帯端末を取り出し、画面を開いて俺たちに見せた。

 

 

「ビンゴだった」

 

 

画面には2人のテロリストが縄で縛られていた。

 

 

「かっけぇ!はじっちゃんかっけぇ!」

 

 

「司先輩!マジリスペクトっす!」

 

 

「うざいぞ、お前ら」

 

 

そんなこと言って、頬が少し緩んでいますよ?

 

 

ピピピッ!!

 

 

ちょうどタイミング良く、俺の携帯端末が鳴った。相手は……雫?

 

 

「よお、どうした?」

 

 

『大樹。お願いがあるの』

 

 

内容は九校戦のアイスピラーズ・ブレイクについてだった。

 

 

_______________________

 

 

6日目 バトル・ボード&アイスピラーズ・ブレイク

 

 

バトル・ボード準決勝は簡単に進んだ。

 

一昨日の試合と同様、優子は渦潮を生み出し、選手を水の中へと誘い、一位だった。

 

黒ウサギも一昨日と同じ作戦。水面を荒らしに荒らして、選手の妨害をしながら突き進み、一位だった。昨日より差をつけてゴールしていた。

 

 

「大丈夫だ。ほのかなら勝てる」

 

 

「は、はい……頑張ります……」

 

 

顔色が悪いのは言うべきなのか。それとも黙っておくべきなのか。どっちだ。

 

またほのかにプレッシャーを与えてしまっていた。俺はまたほのかを落ち着かせるように努力している。

 

一昨日。予選が終わった後、

 

 

『私、いつも本番に弱くて……運動会とか対抗戦とかこういう競技会で勝てたことってほとんど無いんです』

 

 

っと目に涙を溜めながら言われてしまった。達也の作戦なのに……申し訳ない気持ちで一杯です。

 

 

「今回の作戦は普通にすれば勝てる。ほら、CADだ」

 

 

「えッ!?」

 

 

俺はほのかに腕輪型CADを差し出す。ほのかはCADを見て驚いていた。

 

ほのかを担当するエンジニアは中条あずさ(あーちゃん)だが、今回は俺がするように取り合ってみたのだ。まぁ変わる条件として桐原に使わせたデバイスを見せることになったが。ちなみに桐原君、今日やっと復活したらしい。遅いよ。

 

 

「魔法の展開スピード。移動と加速魔法は速度が上がっているから気を付けて使ってくれ」

 

 

「わ、私の為に……?」

 

 

「まぁな」

 

 

ほのかはCADを両手で丁寧に持って、自分の胸に当てた。

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

ほのかの笑顔は眩しく、輝いていた。

 

 

_______________________

 

 

バトル・ボード準決勝。

 

 

選手全員がサングラスをしていた。優子や黒ウサギの対策は立てれていなかったが、ほのかは立てられているようだ。

 

全員サングラスをかけているため、少しだけ異様な光景になっている。

 

だが、ここでサングラスをかけるのは達y………俺の罠にかかっていることになる。達也じゃないよ?

 

俺は第一高校専用のベンチに座ってバトル・ボード様子を見守っていた。

 

 

『用意……』

 

 

審判の声が聞こえたと同時に選手が一斉に方膝をつく。

 

 

『スタート!』

 

 

フォン!!

 

 

アナウンスが合図を出した瞬間、レースが開始した。選手は魔法を発動する。

 

 

ゴォッ!!

 

 

スタート時、水面が発光することは無かった。

 

少しほのかが出遅れたが、問題ない。わざとだから。

 

ほのかはしっかりと相手選手の後ろについていっている。

 

 

「あ、楢原君。ここにいたんですか」

 

 

「ん?あーちゃんか」

 

 

「その呼び方はやめてください!」

 

 

あずさ(あーちゃん)はプンスカと可愛らしく怒りながら俺の隣に座る。全然怖くないな。

 

 

「最初のスタートは出遅れましたが、光井さんは勝てるのでしょうか?」

 

 

「余裕」

 

 

「す、すごい自信ですね」

 

 

「ほら見てみろ」

 

 

選手たちは最初のカーブに差し掛かる。

 

 

「え?」

 

 

その時、あずさは疑問に思った。

 

選手は大きく減速し、カーブを大きく曲がったのだ。

 

内側を取らずに、外側に大回りしたのだ。

 

九校戦に出場する選手なら減速を抑えながらアウトギリギリを回るのが普通だ。

 

だが、ほのかは他の選手と同じ真似はしない。

 

ほのかはコースの内側ギリギリをすり抜ける。同時に、一位だった選手を追い越した。

 

 

「い、今のは!?」

 

 

「あーちゃんなら考えたら分かると思うぜ?」

 

 

だからあーちゃんと呼ばないでください!っと怒った後、すぐに頭の中で試行錯誤する。

 

顔の表情は真剣で、ずっとレースを見ていた。また選手たちが第二のカーブに差し掛かる。

 

ほのかはまた内側ギリギリを回り、他の選手は外側を大回りした。

 

 

「……あッ!」

 

 

あずさはその光景を見て、何かに気付いた。

 

 

「光波振動系!まさか前回の試合が!?」

 

 

「正解。はいプレゼント」

 

 

「え、えぇ!?どうしておにぎりですか!?」

 

 

「具は海の新鮮な魚たちだ」

 

 

「は、はぁ……え?」

 

 

あずさは混乱しながらおにぎりを食べた。

 

 

「むぐッ!?何でこんなに美味しいんですか!?」

 

 

おにぎりですよね!?これおにぎりですよね!?っと騒ぎ出していた。落ち着け。

 

 

()()()()()()()()()ひょ()()()ひゅ()()

 

 

「食ってから喋ろ」

 

 

美味しいのは分かったから。

 

 

「………ごちそうさまでした。それで、さきほどの魔法ですが、光波振動系で水路に明暗を作ったことで、相手選手があのような大回りをしたんですね」

 

 

「さすがだな。よくぞ見破った」

 

 

まぁ俺が考えた作戦じゃないけど。

 

明るい面と暗い面の境目で水路が終わっていると錯覚して、相手選手は暗い面に入らないようにする。

 

単純な作戦だが、かなり効果が期待できる手だ。

 

 

「サングラスをかけることによってさらに騙されやすくする………すでに前の試合で布石を置いていたんですね」

 

 

そこであずさはあることを思い出す。

 

 

「ほ、他の選手もです!木下さんと楢原君の妹さんのレースの時もサングラスをかけている人がいました!」

 

 

「まぁそいつらは別にかけてもかけなくても負け決定だから」

 

 

「えぇ……」

 

 

優子と黒ウサギが閃光魔法を使うかもしれないっと警戒してサングラスをかける選手が何人かいた。おかげで選手は思った以上に力が出せていなかった。

 

 

「とりあえずここまで分かったあーちゃんにはもう一つおにぎりをプレゼント」

 

 

ありがとうございます!っとあずさはすぐに美味しそうに食べ始めた。リスみたいな小動物で可愛いな。

 

 

「ちなみにほのかがつけているあのゴーグル。俺が作った特注品なんだ」

 

 

俺はあずさにほのかが付けている同じゴーグルをつけさせる。

 

 

「ッ!?」

 

 

あずさは驚愕した。

 

 

()()()()()()()!?」

 

 

「だから食ってから喋ろ」

 

 

ご飯粒が飛んで来たぞ。

 

俺の作ったサングラスは外側から見ると暗くなるが、内側から見ると明るく見えるのだ。普通の眼鏡をかけているのと変わらない。

 

 

「ど、どうやって作ったんですか……?」

 

 

「企業秘密だ。まぁ秘密にすることほどでもないけど」

 

 

数分後、バトル・ボードの終了のホイッスルが吹かれた。

 

 

もちろん、ほのかの勝ちだ。

 

 

_______________________

 

 

俺は雫に会いに行こうとする途中、廊下で俺を待っている人がいた。

 

凛々しい顔立ちで若武者風の美男子と小柄だがひ弱に見えない少年が俺を見ていた。

 

……厄介ごとが起きないうちに逃げるか。

 

フードをさらに深く被り直して通り抜けようとするが、

 

 

「逃げなくてもいいんじゃないか?」

 

 

声をかけられてしまった。

 

 

「……誰だ?」

 

 

「第三高校一年、一条(いちじょう)(まさき)だ」

 

 

「一条?」

 

 

一条って確か……!

 

 

「俺の腹を(えぐ)った魔法か!」

 

 

「「!?」」

 

 

「あ、いや。こっちの話だ」

 

 

殺傷ランクA。発散系の系統魔法の【爆裂】。アレは痛かった。

 

 

「君には柴智錬の件について礼を言いたかったんだ」

 

 

「あー、そう。逃げたけどな」

 

 

「それでもだよ」

 

 

そう言って一条はふっと笑みを浮かべた。チッ、これがモテる男か。

 

 

「同じく第三高校一年の……」

 

 

吉 祥 寺(きちじょうじ) 真 紅 郎(しんくろう)だろ?知ってる知ってる」

 

 

「えっと……僕のことは知っているんだ……」

 

 

将は知らないのにか……っと吉祥寺は気不味くなった。一条はあまり気にしていない様子だ。

 

 

「逆に知らない奴は少ないだろ。お前の論文、全部見たぜ」

 

 

弱冠13歳で仮説上の存在だった『基本コード』の一つである『加重系統プラスコード』を発見した天才。『基本コード』と自身の名前を捩った『カーディナル・ジョージ』という異名で呼ばれている。

 

 

「将の方が有名なんだけど……」

 

 

「まぁそんなことは置いといて……何の用だ?」

 

 

「置かないでよ!」

 

 

「ジョージ。いろいろと言ってくれるのは嬉しいが本題に入らないと」

 

 

「そ、そうだね……」

 

 

「あ、俺もジョージって呼んでいい?ジョージ?」

 

 

「あ、どうぞ……ってそんなことより!」

 

 

吉祥寺……ジョージはコホンッと咳払いをして、話し始める。

 

 

「僕たちは明日のモノリス・コードに出場します」

 

 

「……………」

 

 

え?それだけ?

 

沈黙が場を支配する。俺は何を言えばいいんだ!?

 

 

「が、頑張れよ!」

 

 

「他校を応援!?」

 

 

「しまった!?」

 

 

何言ってんだ俺!?

 

 

「聞きたいことは何だよ……教えてくれねぇとまた応援しちまうだろうが」

 

 

「それでもしないでください。僕たちが聞きたいのは、君がモノリス・コードに出場するかどうかです」

 

 

「は?するわけないだろ。何でそういうことを聞く?」

 

 

二人は俺の言葉に驚いた顔を見せた。

 

 

「君ともう一人、司波達也は九校戦始まって以来、天才技術者です」

 

 

「そうか?俺はどれも捻くれた作戦だと思うけどな」

 

 

俺は頭を掻いて、照れるのを隠した。天才に褒められちったよ!

 

 

「そろそろいいか?俺、用事があるから」

 

 

「時間を取らせたな。次の機会を楽しみにしている」

 

 

「お、おう……」

 

 

一条はそう言って、俺の横を通り過ぎて行った。ジョージも一条を追って、一緒に通り過ぎた。

 

 

「一条にジョージ……か……」

 

 

ウチの一年男子生徒、大丈夫かな?【爆裂】は大会で使えないけど、死なないよな?一年男子、森崎たちの健闘を祈ろう。

 

 

_______________________

 

 

「悪い、待たせたな」

 

 

「ううん。大丈夫」

 

 

第一高校専用のCAD調整装置がある部屋に来た。部屋の椅子に座った雫が首を振る。

 

 

「第三高校の奴らに会ってしまってな。あの有名な『カーディナル・ジョージ』に会ったぜ」

 

 

「だ、大丈夫だったの?」

 

 

「慌てるな。話をしただけだ。いやー、貴重な体験だったなぁ」

 

 

「そ、そう……」

 

 

「あ、それと一条に一緒だったぞ」

 

 

「ッ!?」

 

 

雫は俺の肩を掴んで揺さぶった。

 

 

「一条の御曹司がオマケ扱いなのはおかしいよ!」

 

 

「はぁ!?何がおかしいうぇぷっ……揺らさないで……!」

 

 

動揺する雫はレアだけど……やめてくれ……。

 

 

「新人戦のモノリス・コードで一番優勝する確率が高いのは一条の御曹司がいる第三高校。モノリス・コードで私たちが負けたら、第三高校が新人戦の総合優勝を取るかもしれないんだよ!」

 

 

「そ、それは初耳だな……」

 

 

「会議の時、大樹はいなかった」

 

 

めっちゃ心当たりある。下剤事件の時だ。

 

 

「そ、そんなことより!」

 

 

俺は大きな声を出して無理矢理話を逸らす。

 

 

「アイスピラーズ・ブレイク。俺も協力する」

 

 

雫の瞳をじっと見つめながら言った。

 

 

「ッ!」

 

 

雫は嬉しそうな表情になったが、

 

 

「勝てるかどうか分からない……負けるかもしれない」

 

 

俺の言葉を聞いて真剣な表情になった。

 

 

「最高の魔法を作ってやる。調整してやる。だから全力で勝ちに行って来い」

 

 

「……うん」

 

 

二回目なんて無い。この戦いは一度しかない。

 

 

アイスピラーズ・ブレイク決勝戦。

 

 

対戦相手は自分の陣地にある氷の柱を一本も破壊させなかった最強。

 

 

本戦でも無敗だろうと呼ばれるほどの実力者。

 

 

天才技術者の妹。

 

 

 

 

 

司波 深雪が対戦相手だ。

 

 

 

 

 

「勝ちに行くぜ!」

 

 

「うん!」

 

 

雫と俺は笑みを浮かべながら言った。

 

 

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観客席満席。関係者用の席も満員。

 

大樹は関係者用の席にいた。二人の女の子に挟まれて。

 

 

「はぁ……人が多過ぎて人酔いしそうだ……」

 

 

「大丈夫、楢原君?」

 

 

「おう!優子の顔を見たら全然大丈夫になった!このままフルマラソンを全力で走れるぜ!」

 

 

「そ、そう……」

 

 

右隣りに座った優子は大樹の突然の手のひら返しに引いた。

 

 

「ねぇ大樹君。私もいるのだけれど?」

 

 

「真由美!?いたのか!?」

 

 

「存在すら認識してもらえなかったの!?」

 

 

「冗談だ」

 

 

「……もしかして達也君の真似かしら?」

 

 

あ、バレました?もしかしてされたことあるのか?

 

 

「達也君と深雪さんは敵。あの兄妹に勝てる?」

 

 

天才と天才が組み合わさった敵。新人戦どころか本戦でも敵う者はいないだろう。

 

だが、俺は答える。

 

 

「簡単に負けるつもりもない。追い詰めて、勝ってやる……雫が!」

 

 

「「人任せ!?」」

 

 

「あの二人を泣かしてやる……雫が!」

 

 

「無責任すぎます!」

 

 

パンッ!!

 

 

「痛いッ」

 

 

後頭部に衝撃が与えられた。下手をするとテロリストが撃っている銃弾より痛い。

 

 

「雫さんが負けたら大樹さんのせいですからね!」

 

 

「……まぁそうだろうな」

 

 

俺はふざけずに告げた。

 

 

「負けたら俺のせいだ。俺は達也に勝てなかったことになる」

 

 

「楢原君だけのせいじゃ……」

 

 

「優子の言う通り、俺だけのせいじゃない。雫のせいかもしれない。でもな」

 

 

俺は綺麗な水色の振袖を着ている雫を見ながら言う。

 

 

「あいつが泣かないように、俺がその重みを背負ってやらないといけないんだ」

 

 

深雪と真正面から正々堂々と戦い、勝ってやりたい。雫は誰よりも新人戦を本気で戦って参加している人だ。

 

俺はその気持ちに答えてやらないといけない。

 

もし、裏切ってしまうことがあるなら……その時は俺が全部背負ってやる。

 

 

「それは駄目よ」

 

 

俺の言葉をバッサリと切り捨てたのは、

 

 

「間違っているわよ、大樹君」

 

 

真由美だった。

 

 

「……何がだ」

 

 

「責任は彼女一人で背負わないといけないわ」

 

 

理解ができなかった。

 

真由美の言っていることが分からない。どうして助けてやろうとしないっと思った。

 

 

「負けた時の失敗は来年の九校戦で活かされる。悔しさを原動力に変えなきゃならないの」

 

 

「それじゃあ遅すぎる」

 

 

「遅くないわ。むしろ速すぎるのよ」

 

 

真由美は俺の目をじっと見つめる。

 

 

「勝ちに急ぐより、遠回りをして勝つのよ。深雪さんと実力が違う。負けたらまた特訓して勝てば……」

 

 

「言いたいことは分かる。でも、雫はこの一回しかないかもしれないんだ」

 

 

俺は手を強く握る。

 

 

「負けると分かっていても勝たないといけない時がある。『その時のチャンス』は一度しかない。たとえ同じチャンスが来ても、『その時』のチャンスはもう来ることはないんだ」

 

 

今の深雪は強い。だけど、今度戦う時はさらに強くなっている。勝つことができるのは今しかない。

 

 

「相手が強くても……負けると分かっていても……勝たないと……いけないんだ」

 

 

俺はエレシスに負けたあの時を思い出していた。

 

不利な状況で戦ったせいで負けた。と言い訳していたが、例え俺が優位な場所でも、状況でも、負けていたかもしれないからだ。

 

俺はあいつにダメージになる一撃を与え切れていない。無傷で俺はやられた。

 

あれから力をつけてきたが、勝てるイメージが全く湧かない。教室でエレシスに倒す方法があると嘘を言った自分が醜い。

 

……もう分かっている。エレシスと再戦する日が近いことを。

 

俺は立ち止まってはいけない。走り続けなければいけない。

 

 

 

 

 

だから、負けてはいけない。

 

 

 

 

 

「雫も深雪に負けたくないんだ」

 

 

白の単衣に緋色の女袴。白いリボンで長い髪を首の後ろでまとめている最強(深雪)が姿を現す。

 

 

試合はもう始まる。

 

 

始まりを予告するライトが(とも)った。

 

灯火が色を変え、開戦を告げる。

 

その瞬間、二人は同時に魔法を放った。

 

 

フォン!!

 

 

強烈なサイオンの光が瞬いた。

 

 

その瞬間、フィールドが二つの季節に分けられた。

 

 

深雪の陣地には極寒の冷気。雫の陣地には灼熱の蒸気で覆われた。

 

 

氷炎地獄(インフェルノ)

 

 

対象エリアを二分し一方の振動、運動エネルギーを減速し、その余剰エネルギーをもう一方に逃がすAランク魔法だ。隣接するエリアに灼熱と極寒を同時に発生させることができる。

 

この魔法のおかげで今までの試合で、無敗を築くことができた。破ることは不可能かもしれない。だが、

 

 

フォン!!

 

 

雫は腕に付けた()()()CADで魔法を発動させる。

 

 

()()につけた二機の汎用型CADを。

 

 

「やっぱり二機使うのね……」

 

 

真由美は俺に聞こえるように言った。

 

二機を使うことは本来珍しいこと。だが黒ウサギでも使っていたのであまり驚きは無いみたいだな。

 

雫は両手を前に出して魔法を発動する。右手で【情報強化】、左手で硬化魔法を発動した。

 

 

【情報強化】

 

 

対象物の現在の状態を記録する情報体であるエイドスの一部、もしくは全部を魔法式としてコピーし投射することにより、対象物の持つエイドスの改変性を抑制する対抗魔法だ。

 

 

おかげで雫の陣地の氷柱は【氷炎地獄(インフェルノ)】から耐えていた。

 

左手で12本あるうちの一本を硬化魔法で氷柱を強化した。理由は簡単。

 

 

フォン!!

 

 

雫から見て左側の一番前の氷柱。硬化魔法で強化した氷柱が、目の前にある深雪の陣地にある氷柱に向かって飛んで行った。

 

 

ドゴッ!!

 

 

「ッ!?」

 

 

飛んで行った氷柱は、深雪から見て、右側に立ってある二本のも粉々にし、後ろに立っている氷柱にぶつかり、止まった。三本目は破壊されなかった。

 

 

※氷柱は縦3×横4で立っています。

 

図で表すと↓となります。

 

□ □ □ ■

□ □ □ ■

□ □ □ □

 

黒色の四角は破壊された深雪の氷柱です。

 

 

 

深雪の心に動揺が走る。

 

どんなに凍らせて強固にした氷柱でも、硬化魔法で分子の相対位置を固定させた氷柱の方が硬い。それをぶつけられたのならば、当然凍らした氷柱が砕ける。

 

その証拠に雫が飛ばした氷柱は原型を保ったまま横に倒れている。

 

 

(二つのCADの同時操作!?雫、貴方それを会得したの!?)

 

 

深雪は驚くが、疑問に思うことがあった。

 

 

(移動魔法はどうやって……?)

 

 

マルチキャスト?と深雪は考えていた。

 

その時、会場が騒がしくなったのが分かった。

 

観客の注目となる視線の先は雫。深雪は目で追ってみると、

 

 

「ッ……!」

 

 

言葉を失った。

 

 

「嘘……」

 

 

大樹の隣に座った真由美が驚いていた。隣にいた優子も、後ろにいる黒ウサギも驚愕していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雫は()()に付けたCADだけではなく、()()に拳銃型CADが握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三機目……!?」

 

 

黒ウサギが驚きながら言葉を漏らす。会場も騒ぎ出していた。

 

 

前代未聞、三機のCADを同時に操り、魔法を使ったのだから。

 

 

 


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