どうやら俺はたくさんの世界に転生するらしい【完結】   作:夜紫希

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九校戦 First Stage

8月3日 九校戦開幕式

 

開会式は出れない。というか出られなかった。

 

開会式は外で行われ、きちんとした恰好。つまり制服を着て参加する。よってフードは着用禁止。

 

フード無しで炎天下の開会式に行くのは死を意味する。黒ウサギと一緒にフードを被って観客席から見学だ。

 

 

「優子に話したのか?」

 

 

「YES!秘密にしてくれるので心配ありません」

 

 

「そうか……」

 

 

隣に座った黒ウサギは笑顔で答える。

 

黒ウサギは夜に優子の部屋を訪ねて、自分のウサ耳のことを話したらしい。優子は「やっぱり本物だったんだ」と言い、分かっていたそうだ。そういえば店で見られたな。

 

 

「優子のこと、頼んだぞ」

 

 

「はい。黒ウサギに任せてください」

 

 

黒ウサギは返事をして、俺の手を握った。

 

 

「って何で俺の手を握るんだよ」

 

 

「元気が無いからですッ」

 

 

「……悪い。戦いで頭が一杯でな……迷惑かけた」

 

 

「無茶だけはしないでくださいね」

 

 

「ああ」

 

 

俺は握る手を少しだけ力を入れた。

 

 

(((((何でイチャイチャしてんだよ!)))))

 

 

……とりあえず周りの観客の視線が痛いなぁ。

 

 

_______________________

 

 

九校戦は10日間。20種目の魔法競技が行われる。

 

本戦・新人戦に男女10名ずつ。合計40人が出場する。(ただしエンジニア等の技術スタッフは除く)

 

魔法競技の種類は6種類。その内4つは男女共通。1つは男子限定。残りの一つは女子限定の競技だ。

 

各高校から一つの競技に出場できるは3人まで。そして1人が出場できるのは2つまでとなっている。よって、男女各5人は2種目出場しなければならない。

 

一日目に行われる競技は本戦の『スピード・シューティング』『バトル・ボード』だ。

 

スピード・シューティングは真由美。バトル・ボードは摩利が出場する。

 

最初はスピード・シューティングがあるので、俺はさっそく真由美が使うデバイスを調整していた。が、

 

 

「ねぇねぇ!手打ちで整備するの?」

 

 

「あ、ああ……こっちの方がやりやすいからな」

 

 

「凄い!キーボードを手打ちでやる人なんて初めて見たよ!」

 

 

「どうも……」

 

 

「本当に何でもできるんだね、楢原君」

 

 

「ま、まぁな。俺だからな」

 

 

最後はちょっとドヤ顔した。

 

 

キャーッ!!

 

 

女の子達の黄色い声が響き渡る。先輩と同級生に囲まれてモテモテなう。もしかしてかの有名なモテ期が来たのだろうか?でもあれは都市伝説って聞いたけど?

 

……というか集まり過ぎだろ。観客席に行って応援しろよ。

 

 

(はやくここから立ち去らなければ……!)

 

 

女の子達のボディタッチが多過ぎる!腕と背中に柔らかい感触がしてヤバい。真由美のCADをとっとと調整してしまおう。そして去ろう。

 

 

ピコーンッ

 

 

「ッ!」

 

 

調整終了の音が鳴った。よし、終わった!

 

 

「楢原君!次は私の!」

 

「待って!私が先よ!」

 

「ずるい!私もする!」

 

 

「待て待て!ちゃんと専用のエンジニアさんがいるだろ!?」

 

 

「楢原君がいいもん!」

 

「あたしも!」

 

「みんなもそうだよねー♪」

 

 

「「「「「ねー♪」」」」」

 

 

ねー♪っじゃねぇよ!可愛いなオイ!

 

 

「……この後は摩利の調整も残っている。専用のエンジニアにしてもらえ」

 

 

「「「「「えーッ!!」」」」」

 

 

「……チッ、じゃあ作戦くらいなら少し考えてやる。我慢しろ」

 

 

キャーッ!!

 

 

また黄色い声が部屋に響いた。何これ。リア充なの俺?爆発した方がいいかな?

 

俺は真由美のデバイスを持ってその場を後にした。

 

 

_______________________

 

 

控え室で待機している真由美の所に行った。しかし、

 

 

「あのー、真由美さん?どうしてそんなに不機嫌なのですか?」

 

 

「……………」

 

 

真由美は競技用のユニフォームに着替えており、俺と顔を合わせようとしなかった。

 

俺がデバイスを真由美に向かって差し出すと無言でかっさらっていった。……怒っているのか?

 

女の子の機嫌の取り方なんざ学校で習っていないので無理。アニメとゲームの知識を借りるとしよう。

 

 

(まず謝ることが大切だよな)

 

 

「真由美、俺が悪かった。すまん」

 

 

「……何が悪いか言ってみなさい」

 

 

「…………………………わかんなーいッ☆」

 

 

バシュンッ!!

 

 

その時、俺の頬に何かが掠った。

 

 

「次は当てるわ」

 

 

「すいませんでした」

 

 

ドライアイスだ。ドライアイスを作って亜音速で飛ばして来やがった。魔法怖い。

 

 

(ここは無難に恰好を褒めるか……)

 

 

真由美は耳を保護するヘッドセット。目を保養する透明のゴーグルをかけていた。

 

ウエストを絞った詰め襟ジャケット。(遠くから見るとスパッツとミニワンピースを着ているように見えるのは俺だけか?)

 

まるでSF映画にでも出てきそうなヒロインだ。

 

 

「……その恰好、可愛いと思うぞ?」

 

 

「ッ…………!」

 

 

真由美はさらに顔を横にそらした。頬が赤い。怒らせたみたいだ。やっぱりダメか。

 

 

(次は……いや、もうないな……)

 

 

というかネタ切れ。どうしよう。

 

……よし、まず何故真由美が怒っているのか考えよう。

 

デバイスの調整はちゃんとやった。

 

開会式に出ないことはちゃんと報告した。むしろ真由美に言った。

 

 

(おかしい。どこで怒らせたのか全く分からない)

 

 

『ウォー〇ーを探せ』でウォー〇ーが載っていない時くらいに難しい。それクリアできないから。

 

 

「真由美。ごめん、さっぱり分からん。俺、何か悪い事をしたか?したなら謝りたい」

 

 

「え、えぇ!?」

 

 

「今何で驚いた」

 

 

「だ、だって………ッ!」

 

 

真由美は理由を言おうとしたがやめた。

 

 

(観客席で黒ウサギさんと手を繋いだこととか、女の子に囲まれてイチャイチャして嫉妬したとか言えないわよ……)

 

 

「真由美?真由美さーん?」

 

 

「きゃッ!?」

 

 

その時、大樹が真由美の顔を覗いた。真由美は大樹の顔とのあまりの近さに驚いた。

 

 

「へ、変態!」

 

 

「何でだよ!?」

 

 

「大樹君が悪いのよ!黒ウサギさんと手を繋ぐから!」

 

 

(見てたのかよ!?)

 

 

「それにさっき女の子達とイチャイチャしていたじゃない!」

 

 

「してねぇよ!」

 

 

何でアレがイチャイチャになるんだよ。

 

 

(というか真由美……もしかして)

 

 

嫉妬?と頭に思い浮かんだ。……いや、待て待て。俺だぞ?あり得n……。

 

 

その時、【ギルティシャット】から脱出した後、真由美との出来事を思い出した。

 

 

頬にキスをされたことを。

 

 

ガンッ!!

 

 

俺は壁に向かって頭突きした。

 

 

「大樹君!?」

 

 

「大丈夫だ!雑念を払っているだけだから!」

 

 

ガンッ!!

 

 

「払い方が命懸けなんだけど!?」

 

 

はぁ……はぁ……!このままだと死ぬ。物理的では無く精神的に死ぬ。こんなに強く頭を壁に打ち付けても血が一滴もでないってどういうことだよ。

 

 

「……………」

 

 

「だ、大樹君?」

 

 

「真由美」

 

 

俺は両手で真由美の両手を握った。

 

 

「ふぇッ!?」

 

 

「けど、その、この……アレだ。これでいいか?」

 

 

「え、えぇ……ゆ、許すわ」

 

 

真由美は下を向いて俯く。うッ、恥ずかしさがこっちまで伝わるぞ……。

 

沈黙が続く。真由美は放そうとしないし……俺から放すのもアレだし……。

 

 

「……そ、そろそろ時間だわ」

 

 

「そ、そうか」

 

 

「い、行ってくるわね」

 

 

「い、いってらっしゃい」

 

 

「「……………」」

 

 

何だこの会話。

 

 

_______________________

 

 

【スピード・シューティング】

 

通称「早撃ち」と呼ばれている。

 

30メートル先の空中に投射されるクレーを魔法で破壊する競技だ。クレーは5分間の制限時間にランダムに射出されるため、素早さと正確さが求められる。

 

予選は破壊したクレーの数を競うスコア型。上位8名による決勝トーナメントは自分の色のクレーを撃ち分ける対戦型になる。

 

 

(普通の拳銃でも参加OKなら出れたのに……)

 

 

出れないことに残念と思う。

 

 

わあああああァァァ!!

 

 

観客は真由美の姿を見た瞬間、大歓声が巻き起こった。真由美は『エルフィン・スナイパー』と呼ばれるほど知名度が高く、人気者だ。

 

真由美は競技用の高台にあがり、俺が調整した小銃形態デバイスを構える。と同時に会場が静かになる。まぁマナーは守るべきだよな。

 

 

ピーッ!!

 

 

そして、開始の合図が鳴った。

 

 

パシュッ!パシュッ!

 

 

合図と同時に3つクレーが射出された。

 

クレーを撃ち落す時は有効エリア内で撃ち落さなければならない。30メートル先にある有効エリアは15メートルの正立方体の中で撃ち落さなければならない。そうしないと得点が入らならない。

 

 

(日頃拳銃をぶっ放している武偵の生徒でも30メートル先を当てるのは難しい。しかも3つ同時出てくるととなると、早撃ちできないとパーフェクトは無理だ。Aランクの武偵でも80越えが限界だな)

 

 

俺はパーフェクトできると思うけど。

 

さて、真由美は一体いくつ落とすのか?

 

 

「ッ!」

 

 

真由美が構えた銃先に白い煙が収束し、3つのドライアイスの球体ができる。

 

 

シュッ!!

 

 

ドライアイスはクレーに向かって飛んで行き、

 

 

カカカッ!!

 

 

 

 

 

有効エリアに入った瞬間、3つのクレーを撃ち落とした。

 

 

 

 

 

凄い。入った瞬間を狙うなんて中々真似できないぞ。

 

 

カカカッ!!

 

 

またクレーが有効エリアに入った瞬間、撃ち落とした。

 

 

カカッ!!

 

 

また。

 

 

カカッ!!

 

 

……まただ。

 

 

カカカッ!!

 

 

……………。

 

 

カカカカッ!!

 

 

 

 

 

あ、これ勝負あったわ。

 

 

 

 

 

そして、5分間はあっという間に経ち、スコアが出された。

 

 

『100』

 

 

はいパーフェクト。命中率100%って武偵ならSランク相当だわ。強襲科(アサルト)に来ないかい?

 

真由美はヘッドセットとゴーグルを外し、帰って来た。俺は手を叩いて拍手する。

 

 

「断トツじゃねぇか。これトップだろ。決勝戦の結果が目に見えているんだが?」

 

 

「そうかしら?大樹君が出場したら分からないわよ?」

 

 

「そうだな。俺なら石ころ投げれば全部落とせるしな」

 

 

「……………」

 

 

「冗談だから引くな。おい!逃げるなよ!?」

 

 

まぁ冗談じゃないが。やろうと思えばできる……かな?

 

 

「次は摩利の番でしょ?行かなくていいの?」

 

 

「もう終わらせた」

 

 

「え?」

 

 

「もう調整したデータを送っておいたから大丈夫だ」

 

 

「い、いつの間に……」

 

 

「真由美が競技に出ている間に」

 

 

「5分しかないわよ!?」

 

 

「いや、5分で終わるだろ。俺なら」

 

 

「……………」

 

 

「だから逃げるなあああああァァァ!!」

 

 

歩くスピードはやッ!?早歩きはやいよ!?そもそも摩利が使用する魔法はそこまで複雑じゃなかったんだよ!

 

 

「じゃあ大樹君はこの後どうするの?」

 

 

「どうするって?」

 

 

「摩利の応援には行かないの?」

 

 

「行くぞ?真由美も行くだろ?」

 

 

「え?私は決勝戦の……」

 

 

「準備なら俺が観客席である程度やってやるよ。ほら、行くぞ」

 

 

「あ、ちょっと!?」

 

 

俺は真由美の手を引いて、バトル・ボードが行われる競技場へと向かった。

 

 

_______________________

 

 

【バトル・ボード】

 

通称「波乗り」と呼ばれる。

 

動力の無いボードに乗り、魔法を使って全長3キロの人口水路を3周して勝者を競う。

 

水面の魔法行使は認められているが、他の選手の身体やボードへの攻撃は禁止である。

 

 

「あのー、黒ウサギさん?ほのかさん?優子さん?何で俺は正座させられているのですかね?」

 

 

「「知りませんッ」」

「知らないわよッ」

 

 

「……そうですか」

 

 

客の視線が痛い。ちょっと悲しくなってきたんだけど?今度は黒ウサギとほのかと優子の機嫌が悪いみたいだ。解せぬ。

 

 

「大樹君が悪いわね」

 

 

「真由美。何か知っているなら教えt

 

 

「秘密よ」

 

 

「……そうですか」

 

 

涙拭けよ、俺。ほら、ハンカチだ。

 

 

「大樹。もう少し周りを見た方がいいんじゃないか?」

 

 

俺は達也に言われた通り、周りを見渡した。うーん、

 

 

「客が多いな」

 

 

「……大樹さんには無理ですね」

 

 

深雪の目が冷たい。凍え死んじゃう。誰かカイロをくれ。

 

 

「まぁMだしね」

 

 

「エリカ。レオをぶん殴るぞ?」

 

 

「何で俺だよ!?」

 

 

「あ、違う。ポニーをぶん殴るぞ?」

 

 

「合ってる!最初で合ってるからな!?」

 

 

知ってる。(ゲス顔)

 

 

「仕方ない。おい、幹比古。言わなきゃテロ起こすぞ」

 

 

「ぼ、僕!?って怖いよ!?」

 

 

「レオの家でテロ起こすぞ!?」

 

 

「だから何で俺だよ!?」

 

 

「なら美月。教えてくれ」

 

 

「えぇ!?わ、私ですか……!?」

 

 

「ああ、不甲斐ないレオの代わりに頼む」

 

 

「何で一回一回、俺が罵倒されなきゃならねぇんだよ!?」

 

 

「そうですね……やっぱり周りをよく見ることですね」

 

 

もう一度周りをよく見る。………ハッ!あれはッ!?

 

俺は急いで携帯端末を取り出し、電話を掛ける。

 

 

「こちら本部(HQ)!応答せよ!」

 

 

『こちらパトロール。どうした?』

 

 

電話の声は原田。

 

 

「バトル・ボードの競技場で南の方向に不穏な2人組を発見。至急殺せ」

 

 

「「「「「殺せ!?」」」」」

『殺すのかよ!?』

 

 

「間違えた。葬れ」

 

 

『それ殺せと同じだからな!?』

 

 

「とにかく頼んだぞ」

 

 

『はぁ……了解』

 

 

ピッ

 

 

「ありがとうな美月。これが周りを見ろってことだな!」

 

 

「「「「「絶対違う!」」」」」

 

 

_______________________

 

 

『第一高校三年、渡辺摩利さん』

 

 

キャーッ!!!

 

 

「きゃあーッ!!先輩カッコイイー!!」

「こっち向いてー!!」

「摩利様ー!がんばってー!」

 

 

摩利の紹介がされた瞬間、前列のうちの高校の応援に来た女の子達が黄色い声を響かせた。

 

 

「うるせぇよ……」

 

 

「先輩には熱狂的なファンが多いから」

 

 

隣の雫も少し呆れていた。耳が痛いなぁ。

 

 

「真由美の実力がアレだから、もしかして摩利もアレなのか?」

 

 

「失礼ねッ、私も摩利も一位を狙えるわ!」

 

 

「それをアレと濁して何が悪い……」

 

 

やっぱりか。摩利もアレなのか。

 

摩利は体にピッタリと張り付くウェットスーツを着て、ボードの上で真っ直ぐに立っていた。他の選手は身を低くしているのに。

 

4人がスタートラインに並ぶ。摩利は笑みを作るほどの余裕が顔に表れていた。他の選手は緊張で死にそうな顔になっているのに。

 

……こうして見ると摩利が圧勝しそうな気がしてきたのは俺だけか?

 

 

『用意……スタート!』

 

 

フォンッ!!

 

 

アナウンスが合図を出した瞬間、選手たちのボードに魔法が掛けられた。移動魔法だ。

 

 

ゴォッ!!

 

 

4人が前に進む。先頭は摩利だ。スピードが他の選手と全く違う。

 

 

「追いついてみせる!」

 

 

ザパァッ!!

 

 

その時、一番後ろにいた選手が水に魔法を掛けて、大波を引き起こした。なるほど、大波で相手を邪魔しつつ、自分は波に乗って加速させる気か。

 

 

「「キャッ!?」」

 

 

前にいた二人の女子選手が水に落ちた。

 

 

「おわッ!?しまった制御しきれッ!?」

 

 

あ、出した本人も落ちた。えぇ……ダサいなぁ……。

 

 

「よっ……と」

 

 

摩利は上手く波に乗り、水に落ちなかった。

 

 

「うわぁ……一番残っちゃいけない人が残っちゃったよ」

 

 

「ふふ、これで摩利の勝ちね」

 

 

真由美が微笑む。ご機嫌は良いようですね。

 

摩利が独走。これ決着ついただろ。3周するまでもないぞ?

 

 

「硬化魔法と移動魔法のマルチキャストか……」

 

 

「硬化魔法?どこに使っているんだ?」

 

 

摩利の魔法を見た達也が呟いた。レオが硬化魔法について尋ねる。

 

 

「自分とボードの相対位置を固定するために使っているんだ。さらに自分とボードを一つの『モノ』として移動魔法をかけている」

 

 

しかもっと達也は付け加えて説明する。

 

 

「コースの変化に合わせて持続時間を設定し、細かく段取りしているな」

 

 

「マジかよ……」

 

 

レオは驚く。いや、レオだけではない。他の人たちも驚いていた。

 

その時、俺はあることをひらめいた。

 

 

「なぁ達也。俺いいこと思いt

 

 

「却下だ」

 

 

「待って。頼む聞いて。聞いてくださいよ」

 

 

俺は携帯端末を思いついたことをデータに写し、達也に送った。

 

 

「どうだ?男のロマンが詰まっているだろ?」

 

 

「……これはさっき俺も違うタイプで思いついた。大樹のは効率が悪い」

 

 

「うるせぇ!男の憧れに効率や法律なんていらないだよ!!」

 

 

「法律は守ってくれ」

 

 

何故だ!?何故達也にこのロマンが伝わらない!?

 

 

「まぁいいだろう……考えておく」

 

 

「よし、じゃあ今日から俺の枕の近くに靴下を置いておくからな。できたら入れてくれよ」

 

 

「俺はサンタじゃないぞ……」

 

 

「ほら大樹君。レースを見てみなさい」

 

 

「どうした真由美?」

 

 

「摩利の圧勝よ!」

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

半周も差がついているな。

 

 

ピピッー!!

 

 

そして、レースが終わった。

 

 

言うまでもないが摩利が一位だった。

 

 

_______________________

 

 

【スピード・シューティング 準決勝】

 

 

準決勝からは対戦型の試合。空中に次々と撃ち出される紅白それぞれ100個の標的から、自分の色の標的を選び出し、破壊した数を競う。

 

俺は選手の控え席から見ている。ここからだと真由美との距離が一番近く、見やすい。

 

 

ピーッ!!

 

 

開始のシグナルが光った。

 

 

パシュパシュッ!!

パシュパシュッ!!

 

 

右から白のクレーが2つ。反対から赤のクレーが2つ飛んで来た。

 

 

カカッ!!

 

 

真由美はドライアイスを魔法で作り出し、クレーに直撃させ破壊する。

 

 

カァンッ!!

 

 

一方、相手選手は移動魔法を使ってクレー同士をぶつけて破壊していた。

 

 

カカッ!!

 

カァンッ!!

 

 

次々とクレーが破壊される音が続く。互いに得点は同列のまま。

 

 

パシュッ!!

 

 

その時、変化が起きた。

 

飛び出したクレーが重なったのだ。手前に相手が壊す白。奥に真由美が壊す赤のクレー。

 

真由美の射線を塞いでいるうちは絶対に撃てない。

 

 

パシュッ!!

 

 

赤のクレーが粉々になった。訂正、撃てたわ。

 

 

 

 

 

下からクレーに当てた。

 

 

 

 

 

え?どうやって?

 

俺は携帯端末に電話する。相手は魔法に詳しい人。

 

 

『どうかしたか?』

 

 

「達也。真由美が今やった魔法の仕組みを教えてくれ」

 

 

『……さっきもみんなに同じことを話したばかりだぞ』

 

 

「俺にもご教授願う」

 

 

『……会長は【マルチスコープ】を使っているんだ』

 

 

「マジか!?」

 

 

遠隔視系の【マルチスコープ】

 

あらゆるアングルから実体物を捉える非常にレアなスキルだ。

 

 

「何となくわかったぞ……ようは()()()から撃てるんだな?」

 

 

『その通りだ。【魔弾(まだん)射手(しゃしゅ)】。ドライアイスの弾丸を形成し撃ち出す銃座を、遠隔ポイントに作り出す魔法だ』

 

 

うわッ、チート。

 

真由美はドライアイスを作るのは銃先だけでなく、他の場所でも作れるのだ。

 

そして、先程はクレーの真下にドライアイスを作り、当てたのだ。

 

【マルチスコープ】がある限り、外すことは無い。

 

 

『高校生レベルでは勝負すらならないな』

 

 

達也の声を聞き、スコアを見た。

 

 

赤 100

 

白  30

 

 

真由美はパーフェクト。圧倒的の強さだった。

 

大歓声が会場に響き渡った。

 

 

_______________________

 

 

 

時刻は10:00

 

空には星が輝き、月が綺麗だ。

 

 

「どうしたの大樹君?こんな場所に連れて来て?」

 

 

俺は真由美の手を引いてスピード・シューティングの競技場に来た。

 

 

「まぁとりあえず優勝おめでとう」

 

 

「あ、ありがとう?」

 

 

「じゃあやるか」

 

 

「……状況が分からないんだけど?」

 

 

真由美は困った顔になる。

 

俺は真由美にあるものを差し出す。

 

 

「え?」

 

 

真由美が驚く。

 

 

 

 

 

俺が渡したのは小銃形態デバイスだからだ。

 

 

 

 

 

「真由美」

 

 

俺は名前を呼ぶ。

 

 

「俺と勝負しねぇか?」

 

 

_______________________

 

 

【真由美視点】

 

 

大樹君に呼ばれ、私は競技場にいた。

 

高台にのぼり、ヘッドセットをつけてゴーグルをかける。そして、銃を構えた。

 

服は大樹君に言われた通り、控え室でユニフォームに着替えた。準備は万全。

 

 

「俺は魔法が使えないから何でも有りな」

 

 

大樹君はそう言って小型の銃を構える。名前は【コルト・パイソン】と言うらしい。

 

私は気になっていたこと聞く。

 

 

「ねぇ大樹君。どうしてこんなことを?」

 

 

「ん?俺が遊びたいから」

 

 

「え、えぇ……」

 

 

「それもあるけど……本当は真由美がつまらなそうだったからかな」

 

 

「え?」

 

 

私は大樹君の言葉に少し驚く。

 

 

「予選、準決勝、決勝戦。全部パーフェクトでつまらなそうだった。だから俺が楽しませてやろうと思ってな」

 

 

「……………」

 

 

「とりあえずパーフェクトはやらせねぇぞ。絶対に阻止してやるから」

 

 

「……………」

 

 

「……どうした?返事無くて困るんだが?」

 

 

「あッ!ご、ごめんなさい!大丈夫よ!」

 

 

どうしてこう無神経に言えるのよ!?

 

私のためにわざわざ会場を用意したってことでしょ?

 

 

(真由美の顔が赤いのはツッコムべきか……いや、やめておこう。嫌な予感がするし)

 

 

「は、はやく始めましょう!」

 

 

「お、おう」

 

 

そして、開始のシグナルが光った。

 

 

パシュ!パシュ!パシュ!パシュ!

 

 

クレーが発射される。私が狙う色は赤。大樹君は白。

 

私は魔法でドライアイスを2つ作り、赤のクレーに向かって飛ばす。

 

 

バキンッ!!

 

 

ドゴッ!ドゴッ!

 

 

 

 

 

赤のクレーはそのまま破壊されず、落ちて行った。ポイントは入らない。

 

 

 

 

 

「石はOKだよな?」

 

 

「嘘……」

 

 

私は大樹君の左手に持っている石を見て驚いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は小石を投げて亜音速で発射されるドライアイスを撃ち落した。しかも2つも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに拳銃で白のクレーを撃ち抜いている。大樹君に2点が入っている。

 

 

「パーフェクト終わりだぜ?」

 

 

「……………」

 

 

初めてだった。私が当てるのを逃すなんて。

 

 

「本気で来いよ」

 

 

「ッ!」

 

 

大樹君は笑っていた。

 

 

 

 

 

「本気でやれば楽しいぜ?」

 

 

 

 

 

パシュッ!!

 

 

クレーがまた発射された。

 

私はドライアイスを作り出す。

 

 

 

 

 

有効エリアを囲むように何十個も。

 

 

 

 

 

シュンッ!!

 

 

たった一つのクレーに。全方向からドライアイスを当てようとする。

 

 

バキンッバキンッ!!

 

 

そして、またドライアイスはクレーに当たる前に小石が当たり、砕けた。

 

今度は小石を5つ同時に投げた。それだけで何十個もあったドライアイスは一瞬で消えた。

 

また赤のクレーが地面に落ちる。

 

 

ドゴッ!!

 

 

白のクレーが破壊される。得点がまた入った。

 

 

「石はたっぷり持って来ているから安心しろ」

 

 

「……………ぷッ」

 

 

私は大声で笑った。

 

そんなドヤ顔で石を持ってきたことを自慢する人なんているだろうか?

 

面白かった。

 

 

「負けないわ……」

 

 

私はヘッドセットとゴーグルを外す。

 

 

「絶対に負けない!」

 

 

「ああ、俺もだ!」

 

 

クレーが再び飛んでくる。

 

 

フォンッ!!

 

 

私は銃先でドライアイスを2つ作る。

 

ただし、今度は違う。

 

 

大きさはさっきより10倍以上もあるドライアイスだ。

 

 

「マジかよ……!」

 

 

ドゴンッ!!ドゴンッ!!

 

 

ドライアイスがやっとクレーに直撃した。得点が2点入る。

 

途中、小石が飛んで来たが、見えない壁に当たり、弾き返されてしまった。倍の速度で。

 

 

「な、何だこの壁!?」

 

 

大樹君の撃った銃弾も跳ね返す。大樹君に点数が入らない。

 

 

私が使ったのは逆加速魔法【ダブル・バウンド】

 

 

大樹君の有効エリアの手前に発動した魔法だ。

 

運動ベクトルの倍速反転。対象の移動物体の加速を2倍にし、ベクトルの方向を逆転させる魔法。

 

 

「ちょッ!?石が跳ね返って来る!?ぎゃあああああァァァ!!」

 

 

大樹の投げた石と銃で射撃した銃弾はもの凄いスピードで大樹君に向かって跳ね返って行った。当たったら致命傷になりかねない。

 

 

バキンッ!!

 

 

私は大樹君が苦戦しているうちに、有効エリアの後方でドライアイスを作り、赤のクレーに当てて行く。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

その時、白のクレーも壊れた。

 

 

 

 

 

銃弾はなんと上から来た。

 

 

 

 

 

「なるほど、その変な壁は前だけにしかない。上からだと発動しないってか」

 

 

大樹君は一体何をしたのか分からなかった。

 

 

パシュッ!!

 

 

白のクレーが発射される。

 

私はすぐに目の前に【ダブル・バウンド】を発動する。

 

大樹君は笑みを浮かべて、石を空高く投げた。

 

そして、大樹君は石に向かって銃の引き金を引いた。

 

 

ガチンッ!!

 

 

銃弾は石に当たり、銃弾はスピードを付けて違う方向に飛ばされる。

 

 

ドゴンッ!!

 

 

 

 

 

銃弾は有効エリアの上から侵入し、クレーに当てた。

 

 

 

 

 

人間が成せる業じゃない。

 

 

「………嘘」

 

 

「嘘じゃねぇよ。ほら、得点を見てみろ」

 

 

私は得点が映し出されているディスプレイを見る。

 

 

赤  3

 

白  5

 

 

負けている。私が。

 

 

「……………」

 

 

初めて押されている。負けている。点が入っていない。

 

 

(そう……負けている)

 

 

だから私は焦る。緊張する。

 

 

そして、負けたくない。

 

 

「大樹君!」

 

 

「何だ?」

 

 

「ありがとう!私ッ!絶対に勝つから!」

 

 

「ハッ、勝ってから言え!」

 

 

そして、本気の勝負が始まった。

 

 

_______________________

 

 

 

ブーッ!!

 

 

「「ッ!?」」

 

 

5分間の短い試合は終わった。

 

大樹君は途中で石を切らし、勝てるかと思っていたが違った。

 

今度は地面に落ちている小石を狙って、小石をクレーにぶつけてきた。あの時は目を疑った。

 

私はドライアイスを必死に作っては射出し、クレーを壊していった。

 

おかげでサイオンは枯渇し、地面に座り込んでしまった。

 

頭がボーッとし、座り込んだ状態でスコアを見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤 41

 

白 39

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……!はぁ……!負けた!?」

 

 

「勝ったの……?」

 

 

大樹君は頭を抱えて唸る。

 

得点は半分も行っていない。だけど、勝っていた。

 

 

「やったわ!大樹君に勝ったわッ!!」

 

 

心の底から嬉しかった。勝利したことに。

 

子どものように純粋に飛び上がって喜んだ。隣では大樹君は笑っている。

 

 

「じゃあ次は罰ゲームね!」

 

 

「そうだな。……おい罰ゲームって何だよ。初めて聞いたぞ」

 

 

「だって私が勝ったのよ!?」

 

 

「分かってるよ!……はぁ……元気なり過ぎだろ……………っと」

 

 

「あれ?」

 

 

私の体は大樹君に支えられていた。大樹君の顔が目の前にある。

 

 

「サイオンの使い過ぎで疲れているんだよ。ゆっくりしとけ」

 

 

「あ……」

 

 

大樹君は私をおんぶした。

 

大樹君の体温が自分の身体に伝わる。

 

 

「うぅ……ズルいわ……」

 

 

「はぁ?何が?」

 

 

「罰ゲームもう1個追加よ」

 

 

「理不尽!」

 

 

両腕を大樹君の首に絡ませ、顔を肩に乗せる。

 

 

「楽しかったわ……」

 

 

「ん?」

 

 

「一番、楽しかったわ」

 

 

「そうか……よかったな」

 

 

「うん……」

 

 

その時、大樹君が止まった。

 

 

「やっべッ」

 

 

「え?」

 

 

「おいお前ら!何をやっている!?」

 

 

警備員がこちらに向かってライトを向けていた。

 

 

「顔はバレていない。逃げるぞ」

 

 

「えッ!?許可取っていないの!?」

 

 

「当たり前だ!!(`・ω・´)」ドヤッ

 

 

「大樹君のバカあああああァァァ!!」

 

 

大樹君におんぶされたまま、私たちは逃げた。

 

 

_______________________

 

 

 

「九島閣下に助けてもらわなかったら危なかったわ」

 

 

「反省しなさい」

 

 

「うっす」

 

 

二日目は【クラウド・ボール】と【アイス・ピラーズ・ブレイク】だ。

 

昨日はスピード・シューティングが男女ともに優勝。バトル・ボードは明日で優勝者が決まる。

 

真由美はテニスのユニフォームのような服に着替えており、ご機嫌だった。

 

 

「もう体は大丈夫なのか?」

 

 

「昨日は大樹君に無茶苦茶にされたけど問題ないわ」

 

 

「その言い方は誤解を生むからやめろ」

 

 

黒ウサギとか怖いから!やめてよ!

 

真由美は準備運動で体をほぐす。俺は特にすることがないので空を眺めている。あ、あの雲の形……イリオモテヤマネコに似てる。

 

 

「ねぇ、ちょっと手を貸してくれない?」

 

 

「え?俺の手は取り外し可能じゃないけど?」

 

 

「本当に手を貸すわけじゃないわよ……」

 

 

「冗談だ。ほら」

 

 

真由美は座り込んで、足を広げている。ストレッチの手伝いだろ。

 

俺が真由美の背中を押すと、簡単に胸が地面についた。柔らかいな。

 

一通りストレッチを手伝ってやると、

 

 

「ん」

 

 

「?」

 

 

「んー」

 

 

真由美は俺の方に手を差し出している。立たせろってか?

 

俺は真由美の手を握り、ゆっくりと立たせた。

 

 

「なーんか新鮮ね」

 

 

「何が?」

 

 

「もし私が大樹君の妹だったらどうする?」

 

 

「そんな美人で完璧な妹がいたら俺の存在が危ういんだが……」

 

 

「び、美人!?」

 

 

ただでさえ姉が多いのにこれ以上女の子が増えたら俺の休める場所が無くなる。出張が多い親父が羨ましい。社会の家畜の親父が。

 

 

「じゃ、じゃあ私がお姉ちゃんだったら?」

 

 

「もうやめてくれ。これ以上、姉は増やさないでくれ」

 

 

「え?大樹君ってお姉さんがいるの?」

 

 

「まぁな三匹くらい」

 

 

「人って言いなさいよ……」

 

 

「一つ言っておこう。綺麗な姉。頭の良い姉。温厚な姉。例えどんな姉を持ったとしても弟は苦労するんだ。覚えておけ」

 

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

そういえばどうしてるかな姉貴達。ちゃんと彼氏作っているかな?……作っているな。俺とは全然違う……もうこの話やめようぜ?

 

 

「とにかくだ。彼女になることは有りだが、姉と妹は絶対に俺は無理だ。なるくらいなら断然彼女がいいわ」

 

 

っと真由美の顔を見ると、真っ赤になっていた。

 

……あれ?俺今なにか凄い事言わなかった?勢いに任せて凄い事言わなかった?

 

 

「し、ししし試合が始みゃるわにぇ!」

 

 

「落ち着け。噛みまくりだぞ」

 

 

よし、スルーで行こう。

 

 

_______________________

 

 

【クラウド・ボール】

 

通称「テニス」……じゃなかった。「クラウド」だ。最初のは忘れてくれ。

 

圧縮空気を用いたシューターから射出された低反発のボールを相手コートに打ち込む競技。

 

相手コートに一回バウンドするごとに一点。転がっているボールや止まっているボールは0.5秒ごとに一点が加点されていく。

 

それと、コート内は透明な壁で覆われており、二十秒ごとにボールが追加射出され、合計9個のボールを1セット三分間、休みなく追い続ける。鬼畜。

 

 

「第一試合、開始!」

 

 

審判が開始の合図を出す。

 

 

パシュッ!!

 

 

一球のボールが相手のコートに向かって飛んで行く。

 

相手はボールをバウンドする前に、手に持ったCADで移動魔法を発動し、真由美のコートへと返す。

 

ちなみにラケットでボールを返さなくてもいい。テニスじゃないからね!ここは魔法の世界だ。魔法でOK。

 

真由美は両手に小型CADを両手で丁寧に持って動かない。

 

 

ギャンッ!!

 

 

その時、相手が返したボールは倍のスピードで跳ね返った。

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

「え……!?」

 

 

観客も相手選手が目を疑った。

 

ボールは相手選手のコートにバウンドする。

 

……これは昨日の夜、戦った時に真由美が使った魔法か。逆加速魔法【ダブル・バウンド】。

 

 

(倍のスピードで跳ね返るって……勝てねぇだろ……)

 

 

相手選手が3つ同時にボールを返す。そして、真由美は簡単に倍のスピードで跳ね返す。相手選手はそれを一つも跳ね返せない。

 

相手選手の顔が絶望に染まった。

 

 

(チート……キバ〇ウが怒っても反論できないレベルのチート)

 

 

相手選手が一人で壁打ちをしている状態になってしまっている。見ていられない。同情して泣きそう。ディアベルうううゥゥゥ!!

 

 

(後でケーキ持って行こう)

 

 

優勝者はもう決まったも同然だ。可哀想だから真由美と戦った選手にはケーキをプレゼントしよう。渾身の力作を。

 

 

_______________________

 

 

「全試合無失点ストレート勝ちで優勝って人間やめてると思うんだ」

 

 

「そ、そうね……」(楢原君も負けていないと思う……)

 

 

俺は隣に座っている優子と話している。

 

 

【アイス・ピラーズ・ブレイク】

 

通称は無い。というか知らない。俺が付けるとしたなら……「アイス棒倒し」かな。何かショボくなった気がする。

 

競技フィールドを半分に区切りそれぞれに氷の柱を12本設置。相手陣内の氷柱を先に全て倒した方が勝者となる。

 

俺が担当する人は今回はいない。というか今回は誰も俺を希望する人がいなかったからだ。休みゲット。

 

 

「優子!メンテナンスは新人戦から本気出すから任せろ!」

 

 

「それ絶対に先輩方に言わないでよ!?」

 

 

「大丈夫だ!調整に125時間かけるから!」

 

 

「間に合ってないわよ!?新人戦に間に合ってないわよ!?」

 

 

「じゃあ10秒で終わらせてやる!」

 

 

「今度は手抜きじゃないの!?」

 

 

「一度に魔法を98000個使えるようにするから!」

 

 

「努力の方向性が違うわよ!」

 

 

「じゃあどうすればいい!?」

 

 

「普通に調整して!」

 

 

「だが断る!」

 

 

「何でよ!?」

 

 

「超最強のCADを作るから」

 

 

「作らなくていいわよ!」

 

 

「内容は1つの魔法を展開するだけで同時に98000個種類の魔法を発動することができる」

 

 

「無駄にハイスペック!?」

 

 

「でも干渉して結局発動しないんだよね」

 

 

「無駄!」

 

 

「あ、98000個の魔法を別々に発動すればいんじゃねぇ……!?」

 

 

「大変!楢原君が凄いのを作りそう!」

 

 

「……超戦略級CADデバイス武装(アルティメット)仮想実現演算型BBB(トリプルビー)式魔法展開領域高性能機が作れる……!」

 

 

「長い!名前が長いよ!?」

 

 

「略して……………待って。今考える」

 

 

「略せないならそのままでいいよ!あとそれは絶対に作らないでよ!?」

 

 

何故だ。

 

 

「何やっているんだお前ら……」

 

 

その時、後ろから声をかけられた。

 

 

「お、原田。見張りをサボってるのか?ならその綺麗な顔面をぶっ飛ばすぞ?」

 

 

「拳銃をこっちに向けるな……。司さんがこっちに来てくれた。今は司さんたちと交代制で見張っている」

 

 

「はじっちゃん!?やったぜ!あとで遊ぼうっと!」

 

 

(どんだけ司さんと仲良いんだよこいつ……)

 

 

原田はため息をつく。ちなみに大樹の「遊ぶ」は「いじる」だ。

 

 

「見張りって……もしかして」

 

 

「ああ、最近下着泥棒がうろついているんだ」

 

 

「そう……………え?」

 

 

「大樹。その嘘はどうかと思うぞ」

 

 

「やっぱり嘘なんだ」

 

 

優子に睨まれ、俺は顔が引きつる。

 

 

「じ、実はこれを聞いてしまうと狙撃されるんだ。原田が」

 

 

「とんでもねぇ嘘つきやがったな。しかも何で俺だよ」

 

 

「本当は?」

 

 

「下着泥棒」

 

 

「これが最後よ。……本当は?」

 

 

王手だ。チェックメイトだ。やべぇ。怖いよ。

 

 

「はぁ……テロリストだ。選手を狙うテロリスト」

 

 

「そう……」

 

 

「別に危険じゃないぞ。何度も銃をぶっ放されたが無傷だ」

 

 

「……そうね。心配して損したわ」

 

 

「あーやっべ!心配してくれないと死んじゃう!」

 

 

「かまってちゃんかお前は」

 

 

「膝枕してほしいぜ!」

 

 

「では、黒ウサギがしましょうか?」

 

 

「…………………………」

 

 

「大樹さん?」

 

 

「あの、えっと、いつ……から居たのかな?」

 

 

「ずっとです☆」

 

 

「怖い!笑顔が怖い!怖いよ!あと怖いよ!もう怖い!」

 

 

「大丈夫よ黒ウサギ。アタシが膝枕をするから……」

 

 

「「「ッ!?」」」

 

 

頬を赤く染めた優子が小さな声で言った。何だって!?

 

 

「じゃあお願いしm」

 

 

「いえ!無理しないでください!黒ウサギがしますから!」

 

 

まだ俺が話している途中だぞ?

 

 

「やべぇ……大樹が修羅場を起こしやがった」

 

 

「原田、俺……どうすればいいかな?」

 

 

「知るかよ」

 

 

「本当はやりたくないけどアタシがするわ!」

 

 

「黒ウサギだって本当はやりたくないです!ですが優子さんに迷惑をかけたくないので黒ウサギがします!」

 

 

「何で俺罵倒されてるの?そんなに嫌なの?泣きそうなんだけど?」

 

 

「楢原君。アタシが膝枕してあげるわ」

 

 

「無理だよ!?今の状況でやってもらうのは気が引けるよ!」

 

 

「どうして!?」

 

 

「優子が嫌って言うからだろ!?」

 

 

「では黒ウサギが!」

 

 

「黒ウサギも同じこと言っただろうが!」

 

 

「「え……じゃあ……」」

 

 

「あ?」

 

 

優子と黒ウサギが原田を見た。

 

 

「「そっち?」」

 

 

「「嫌だよ!?」」

 

 

「「息ピッタリ……」」

 

 

「「二人もな!」」

 

 

「そう……楢原君ってそっちだったのね……」

 

 

「違う!ノーマルだよ!女の子大好きだよ!?」

 

 

「大樹さん……酷いです!」

 

 

「今の黒ウサギが俺に対する印象が一番酷いわ!?」

 

 

「大樹。今までありがとうな」

 

 

「お前まで距離を取るなあああああァァァ!!」

 

 

_______________________

 

 

『第一高校二年、千代田(ちよだ) 花音(かのん)さん』

 

 

さぁうちの選手の出番だ。

 

 

ピピピピピッ

 

 

……携帯端末が鳴った。

 

 

「はい、もしもし」

 

 

『楢原君!大変!』

 

 

技術スタッフの先輩から連絡が来た。確かクラウド・ボール

 

 

『桐原君が負けそうなんです!』

 

 

「へー」

 

 

『緊張感が無い!?』

 

 

「得点はどうなっている?」

 

 

『34対50で負けています』

 

 

「じゃあ桐原にこう言え」

 

 

俺は告げる。

 

 

「一点取られるごとにお前の彼女を俺がナンパするって」

 

 

『……マジですか?』

 

 

「マジ」

 

 

ピッ

 

 

俺は電話を切った。

 

 

「さて、黒ウサギと優子は俺の首から手を放そうか。冗談だから」

 

 

二人は俺の首から手を放す。あと少しで死んでた。

 

 

「ったく、女子の方が強いじゃねぇかうちの学校は。悪い、桐原がピンチだから行ってくる」

 

 

俺はダッシュで桐原のところへ向かった。

 

 

_______________________

 

 

「よぉ桐原。勝ってる?」

 

 

「な、なんとか……!」

 

 

桐原は汗だくで疲れ切っていた。

 

二回戦は何とか勝てていた。だが、三回戦でまたピンチになった。

 

 

98対159

 

 

圧倒的に負けているじゃねぇか……。

 

 

「嘘吐くなよ……あと1セットでこれからどうやって勝つんだよ」

 

 

すでに5セット中4セットは終わっていた。

 

 

「とりあえず棄権する?」

 

 

「居酒屋で『とりあえず生でいい?』みたいな感覚で言うなよ!」

 

 

言ってねぇよ……。何だその例え……。だが面白い。70点。

 

 

「俺は負けねぇよ……負けられねぇんだよ!」

 

 

「壬生のことだろ?」

 

 

「ッ!」

 

 

「『男を懸けるには十分な理由だ』」

 

 

「ッ!?」

 

 

「ん?どうした?」

 

 

「い、いや。何でもないッ」

 

 

桐原は大樹がある人物に見えた。

 

 

(十文字会頭と同じことを言ってやがる)

 

 

テロリスト討伐に十文字会頭に連れて行ってもらう時に言われた言葉だった。

 

 

「桐原。これを使え」

 

 

俺は桐原にデバイスを渡す。

 

デバイスは白い竹刀のような形をしていた。

 

 

「剣術部ならその力を見せてみろ。あと壬生にも、な?」

 

 

_______________________

 

 

クラウド・ボール 男子3回戦

 

 

最後のセットが始まろうとしていた。

 

桐原は98点。敵は159点。

 

3分以内に逆転しなければ負けだ。

 

桐原がフィールドに出てきた途端、会場はざわついていた。恐らく桐原のデバイスを見て驚いているんだろう。

 

ラケットでもCADでもない。竹刀で出場したからだ。ちなみにあれは俺と達也の研究員が作った。勝つためなら天才を集結させてもいいよね。

 

相手選手は桐原の姿を見て笑っていた。馬鹿にしているな。

 

 

ブーッ!!

 

 

三回戦、最後試合が始まった。合図が鳴り響く。

 

ボールが相手のフィールドに飛んで行く。

 

 

バシュッ!!

 

 

相手選手はボールをラケットで返す。ラケットに当たった瞬間、加速魔法で跳ね返した。速い。

 

 

だが、桐原は負けない。

 

 

バシッ!!

 

 

桐原は竹刀を振りかざし、ボールに当てた。その瞬間、

 

 

シュッ!!

 

 

 

 

 

相手コートにボールが落ちた。

 

 

 

 

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 

「何だと!?」

 

 

観客と相手選手が驚いた。

 

桐原の持っている竹刀がボールに当たった瞬間、相手が反応しきれない速度で跳ね返ったのだ。

 

 

(加速魔法と移動魔法を少ないサイオンでオート発動可能にしたデバイスだ)

 

 

桐原も驚いているだろう。先程よりサイオンの消費が少ない事に。

 

 

「くそッ!!」

 

 

相手選手がボールを跳ね返す。今度は桐原が手を伸ばしても届かないところを狙っていた。

 

 

(まぁ甘い考えだがな)

 

 

その時、桐原の竹刀に変化が起きた。

 

 

ガキンッ!!

 

 

「は?」

 

 

声を上げたのは相手選手。

 

ボールがまた相手選手のコートに落ちた。

 

 

 

 

 

桐原の持っていた竹刀が倍の長さに伸びていた。

 

 

 

 

 

(伸縮自在の竹刀だからな)

 

 

「うわッ……思った以上に気持ち悪いな」

 

 

「桐原。殺すぞ?」

 

 

「すげぇ!カッコいいぜ!」

 

 

ムカつく。

 

これは魔法とかではない。そういう仕組みなのだ。一回一回魔法で伸縮させてもいいが、そんなことをしていたらサイオンが枯渇してしまうからな。

 

試合は完全に流れが変わっていた。

 

相手選手が返してきたボールを桐原はほぼ完璧にノーバウンドで返していた。

 

どんな変化球のボールも剣術で素早く対応する。足の運び方、最小限で身体を動かし、無駄な動きがない。さすがだ。

 

 

「はぁ……!はぁ……!ぐッ!!」

 

 

桐原の顔が苦しくなっている。限界が来ているようだ。ボールの数も多くなっている。

 

ふぅ……ここは一つ、俺が応援しよう。

 

 

「フレー、フレー。きーりはら」

 

 

(クソッ……『やる気のない応援するな!』ってツッコめない!)

 

 

主に疲れているせいで。

 

 

 

 

 

「負けたら壬生に甘い言葉をか・け・るッ☆」

 

 

 

 

 

「うおおおおおォォォ!!!」

 

 

凄い!桐原の動きが速くなったよ!!……壬生好き過ぎるだろ、桐原。

 

相手が桐原の返すボールに対処できなくなってきている。この調子なら行けるぞ!

 

 

ビーッ!!

 

 

「「ッ!?」」

 

 

そして最後の試合が終わった。

 

 

 

 

 

178対175

 

 

 

 

 

桐原の逆転勝ちだった。

 

 

うおおおおおォォォ!!!

 

 

大歓声が桐原の勝利を祝福した。

 

 

「よぉ、お疲れ」

 

 

「あ、あぁ……はぁ……」

 

 

「疲れているな」

 

 

「ヤバい……足が震える」

 

 

「まぁ俺には関係無いから。よしこのまま準決勝に行こうか!」

 

 

「これ以上はもう無理だッ!」

 

 

この後桐原は決勝戦まで突き進み、優勝した。俺がさっきみたいに脅して無理矢理勝たせたけど。

 

 

……言うまでもないが、桐原はしばらく寝込んだ。恐らく壬生が看病してくれているだろう爆発しろ。

 

 

________________________

 

 

 

その日の夜。ホテルの自室に帰る途中、

 

 

「わーい!はじっちゃんだ!」

 

 

「うわッ!?最悪な奴に会ったッ!」

 

 

「ひどい!俺とお前の仲・だ・ろ☆」

 

 

「やめろ!」

 

 

俺は廊下で(はじっちゃん)を見つけたので、俺は真っ先に駆け付けた。司は嫌 な 顔(嬉しそうな顔)をしている。

 

 

「とりあえず俺の部屋に来いよ。ケーキ余っているから」

 

 

「どうしてケーキが……?」

 

 

「いろいろあるんだよ……」

 

 

相手選手への贈り物とかさ。

 

 

「いや、僕はこの後仕事があるから部屋には行かないよ」

 

 

「えー!」

 

 

「そんなに残念がるならないでくれ……」

 

 

俺の今日一番の楽しみが……!

 

 

「僕は夜の見張りをやらせてもらうよ。坊主頭の人が待っている」

 

 

坊主頭って原田のことか。

 

 

「ありがとう。じゃあ遠慮なく俺は女の子とイチャイチャするよ」

 

 

「クズだな」

 

 

「嘘だ。あ、これ見取り図な」

 

 

俺は司の携帯端末に情報を送る。

 

 

「赤でマークしてあるところは何だ?」

 

 

「女子更衣室」

 

 

「本当にクズだな」

 

 

「これも嘘だ。そこはハッキングされた形跡が見つかった場所だ。後で専門家に頼んでおいてくれないか」

 

 

「初めからそう言え」

 

 

そうですね。だが断る。

 

 

「司」

 

 

「何だ?」

 

 

「……ありがとう」

 

 

「急に礼を言うな。反吐が出る。あとクズだな」

 

 

「それは酷くね?あとクズ言い過ぎ」

 

 

________________________

 

 

 

3日目

 

バトル・ボード

 

 

摩利は準決勝まで勝ち進んだ。この勝負に勝てば決勝戦だ。

 

予選では圧倒的強さを見せた摩利。「CADの調整を完璧にしてくれ」っと言ったので最高の仕上げにしてある。……もしかしたらこの勝負、最下位と一周差をつけてしまうかもしれない。

 

 

ピーッ!!

 

 

レースが始まった。

 

やはり摩利が先頭に躍り出る。あ、俺はフィールドの控え席から見てるからレースの様子が見やすいぜ。フード被っているせいで周りの審判さんから冷たい視線を受けているがな!

 

 

「ッ!」

 

 

だが、七高の選手が摩利にピッタリとついて来ていた。さすが予選を突破した選手。摩利に負けていないようだ。

 

しかし、バトル・ボードの最初の難関コースの鋭角カーブで差が出るだろう。摩利が上手くカーブし、相手と距離を空けるはずだ。

 

 

その時、最悪の事態が起きた。

 

 

 

 

 

七高の選手がオーバースピード。速度が落ちていないのだ。

 

 

 

 

 

この先はカーブなのに。

 

 

 

 

 

(おいおい!?このままだとぶつかるぞ!)

 

 

七高の選手はこのままだとフェンスに激突し、大怪我を負ってしまう。

 

七高の選手が必死にCADを操作するが一向にスピードが落ちる気配が無い。焦りの表情が段々と恐怖へと変わっていく。CADが全く反応してくれないせいで。

 

 

「ッ!」

 

 

事態に気付いた摩利が魔法と体さばきでボードを反転させる。そして、七高の選手のボードに移動魔法をかけて、選手とボードを離れさせる。

 

選手は摩利に向かって飛んでいく。受け止めるつもりのようだ。

 

 

だが、最悪の事態がまた起きる。

 

 

ガクンッ!!

 

 

摩利の体勢が大きく揺れた。バランスを崩し、選手を受け止めれる状態ができなくなった。

 

 

(水面が沈んだ……!?)

 

 

摩利の顔が一気に青ざめた。

 

七高の選手の身体はすぐ目の前。

 

ぶつかる。そう分かった瞬間、目を瞑ってしまった。

 

 

 

 

 

「させるかあああああァァァ!!!」

 

 

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

叫び声が聞こえた瞬間、再び目を開けた。

 

 

 

 

 

摩利の目の前に大樹が割り込んで来ていた。

 

 

 

 

 

大樹は七高の選手を受け止め、そのまま拐っていき、摩利との衝突を避けた。

 

大樹は七高の選手を抱えたまま、フェンスの上に乗った。

 

七高の選手は何が起こったのか分からず、困惑していたが、

 

 

「大丈夫か?お姫様?」

 

 

「ッ!?!?」

 

 

七高の選手の顔が真っ赤に染まった。あの有名な楢原大樹にお姫様抱っこされていると分かって。

 

 

「大樹君。女の子とイチャイチャしていて楽しいかね?」

 

 

「せっかく助けに来たのに、その言い方はないだろ……」

 

 

ボードに乗った摩利はニヤニヤしながら大樹に言った。

 

大樹は七高の選手がオーバースピードと判定された瞬間、走り出していた。そして、七高の選手を助け出すことができた。

 

 

「摩利。水面が不自然に沈んだような気がしたが……気のせいか?」

 

 

「……よく分かったな。確かに不自然に沈んだ」

 

 

「……原田たちに調べさせておくか」

 

 

俺は足が震えて立てない七高の選手をお姫様抱っこして、七高の本部まで連れて行った。

 

レースは中断となり、残念ながら七高の選手は危険走行で失格となった。

 

あと、俺を称える歓声はうるさかった。モニターが俺の顔をアップしやがって……あとで運営ぶっ飛ばす。

 

 

________________________

 

 

 

「本当にごめんなさい」

 

 

「だから気にしなくていいと言っているだろう」

 

 

俺は控え室で摩利に土下座していた。

 

 

理由は摩利がバトル・ボードで失格になったからだ。

 

 

主に俺のせいで。

 

 

「俺が乱入したせいで失格だなんて……もう俺は地面から顔を離せない……!」

 

 

「さすがに1時間ずっと土下座されるとこちらが罪悪感を感じるぞ……」

 

 

ここ最近、正座や土下座のオンパレードだな。

 

 

「……切腹する?」

 

 

「絶対にしないでくれ!」

 

 

俺はゆっくりと顔を上げる。

 

 

「……摩利は3年生。これが最後の大会じゃないか」

 

 

「まだミラージュ・バットがある。気にするな」

 

 

「クソッ!やっぱり切腹を……!」

 

 

「だから止めてくれ!」

 

 

うわーん!運営マジでぶっ飛ばす!

 

 

「はぁ……ならミラージュ・バットで使うCADの調整を最高の仕上げにして挽回してくれ」

 

 

「まかせろ!超戦略級CADデバイス武装(アルティメット)仮想実現演算型BBB(トリプルビー)式魔法展開領域高性能機を作ってみせるから!」

 

 

「何だその物騒な名前は!?あと長いぞ!?」

 

 

ふはははッ、俺ならできる。じっちゃんの名にかけて!

 

 

「さてと、まず競技中に何が起きたか話そうか」

 

 

俺の言葉を聞いた摩利は真剣な表情をした。

 

 

「さっき携帯端末から情報が送られた。達也の解析結果、第三者の妨害があった。摩利のいた水面も」

 

 

「……………」

 

 

「七高の選手のCADに細工が施され、水面にも妨害工作があった」

 

 

「運営は何と言っている?」

 

 

「残念だが認められなかった。CADの細工も。妨害工作も」

 

 

「!?」

 

 

摩利は驚愕した。てっきり運営に不正があったと認められるかと思っていたからだ。

 

 

運営(あっち)は俺たちより優れた魔法師が何人も審判や監視をしていたんだ。それに、監視装置も大量に設置してある。第三者の妨害はありえないって言われちまった」

 

 

やっぱり運営ぶっ飛ばすべきだな。ぶっ飛ばした後は埋める。

 

 

「俺は二高から九高までの奴らを仲間につけて議論しようとしたが無理だった」

 

 

「……私が大会に復帰するのが嫌だからか」

 

 

「ああ。優勝候補がせっかく落ちたんだ。誰も加勢なんかしないよな」

 

 

俺はため息をつく。あー、他の高校もぶっ飛ばしたくなった。

 

 

「まぁ七高は味方に付いてくれたけどな」

 

 

「それは大樹君が助けたからだろう?」

 

 

「七高の選手も助かるためじゃねぇの?CADに不正があったし」

 

 

「それも認められなかったのか?」

 

 

「納得いかないがCADの調整ミスってことで終わった。『自己責任だ』とか『ちゃんと管理しろ』とか怒られてた」

 

 

ちょっと手を出しそうになったが、我慢した。偉いわ俺。

 

 

「……大樹君はCADの不正をどう考えている?」

 

 

「決まっている」

 

 

俺は告げる。

 

 

 

 

 

「運営がクロだ」

 

 

 

 

 

「……やっぱりそう考えるか」

 

 

「全員ってわけじゃないけどな」

 

 

もうこれしか考えられなかった。

 

現在、原田と司には運営にも注意を向けるように言ってある。

 

 

「さて、俺の大切な人たちを傷つけたんだ。絶対にぶっ飛ばしてやる」

 

 





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